アーランドの冒険者   作:クー.

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キャッツショット 前編 漢のロマン

 ランクアップしてから一週間程度、俺は今日も今日とて錬金術に勤しんでいた。

 

 現在錬金しているのは俺がレシピを改変したフラムの試作品。

 錬金も終盤に入った頃に、俺は前もって考えていた歌を口ずさんだ。

 

「そーらを自由に飛びたいな♪」

 

「はい! 飛翔フラムー!」

 

 釜に腕を入れて取り出すのは、いつもより一回りほど小さいサイズのフラム。

 

「ひしょうフラム? なんですかそれ?」

 

 は!? 隣にいたトトリちゃんがの○太君ポジションに入った!

 

「いいかいトトリ君。これはね空を飛ぶことができるフラムなんだよ」

「空を飛ぶですか?」

「そうだよ。これは爆発を小さくして指向性を持たせることで、安全に跳躍できるフラムなんだ」

「えっと……アカネさんの考える事って独特ですよね!」

 

 すごいや! 毒舌トトリちゃんがこんな気を遣った発言ができるなんて!

 

「…………」

「…………」

 

 どうしよう、微妙な空気が流れている。

 飛翔フラムそんなにダメなのかな? 確かに着地手段はまだ用意してないけど……。

 

「…………」

「…………」

 

 そ、それよりもこの空気を打破しなければ。

 

「ど、独特って言ったらマークさんだよな!」

「そ、そうですね! この前なんてネコ型ロボットなんて作ってましたし」

 

 え?

 

「なん……だと……。トトリちゃん何て言った?」

「え? ね、ネコ型ロボットですけど……」

「な、なんてことだ」

 

 前々から天才だとは思っていたが、まさかアレを作っただと。

 これはもう、こんなゴミみたいなフラムよりもタケコ○ターを貰いに行かなくては!

 

「待ってろ! ドラえ○ん!」

「ど、ドラえも○?」

 

 

…………

……

 

 

 

「…………」

 

 にゃー、にゃー。

 

「どうだい? すばらしい出来だろう?」

「うん、そうだね。かわいいね」

 

 しゃがみ込む俺の目の前にいるのは一匹の黒猫。

 

 にゃー、にゃー。

 

「ははっ、癒されるな~」

「それにしては、目が死んでるようだけどね」

「……はあ」

 

 いや、待てよ?

 マークさんなら頼めば秘密道具の一つや二つ作ってくれそうだよな……。

 

「マークさん、ちょっとご相談が……」

「相談?」

「ああ、四次元なポケットを作ってほしくてな」

「四次元ポケット?」

 

 ――――っ。

 

「マークさん……消されるぞ」

「ふふん、僕の天才的な頭脳はいつも狙われているからね」

 

 さすがは天才、世界の修正力も恐れぬとは感服したぜ。

 

「それで? それは一体どういう物なんだい?」

「何て言ったらいいか……。こう、いくらでも物が入って取り出せる道具でだな」

「? それなら君ら錬金術士で作れるんじゃないかい?」

「へ?」

 

 まさかの錬金術士万能説?

 

「以前お嬢さんと冒険に行ったときだったか、採取した素材を次々と入れていく姿にはさすがの僕でも驚いたね」

「そ、その道具って、どんなのだった?」

「見た目はバッグと言うのが的確だね」

「ど、どんな?」

「ネコ型だね」

「くそっ! 謀られた!」

 

 まさか、ドラえ○んはトトリちゃんだったとは!

 

「ドラ~えも~○!」

「ドラえもん?」

 

 マークさん、あんた漢やで。

 

…………

……

 

 

「…………」

「あの? アカネさん?目が……」

「…………」

 

 青い猫のバッグの腹から物を取り出す、なんでもこれはトトリちゃんのコンテナと繋がってるらしい。

 すごいな、うん。すごいけどさ……

 

 これじゃ、取り寄せなバッグじゃないか。

 

「…………」

「え、えっと。レシピなら本棚に入ってますよ」

「うん。今度作ってみる」

「は、はい。あの、よく分かりませんけど元気出してくださいね」

「うん。がんばる」

 

 そう言うと、トトリちゃんは釜の前に歩いて行った。

 はあ、所詮俺にはすぎた代物だったってことか。

 

「にゃー、にゃー。うん、かわいい」

 

 このバッグ見た目結構かわいい。

 やたらと細部までよくできている。

 

「…………ん?」

 

 目が猫の耳に止まった瞬間、俺の脳裏に何かが浮かんだ。

 何か忘れてはいけないことを忘れているような……。

 

「…………」

 

 なんとなく、釜の前に立つトトリちゃんをちらりと見る。

 そしてまた耳に視線を戻す。

 

「――――はっ!?」

 

 猫の耳、ネコミミ! 猫耳トトリちゃん!

 病室での神のひらめき!

 

「待ってろヴァルハラ!」

 

 今日の俺、出たり帰ったり忙しいな。

 

 

…………

……

 

 

「ドラえも○、もとい親っさん!」

「あん?どうしたんだ兄ちゃん、んな急いで」

 

 俺が製作を頼みに来たのは、アーランド二大技術者の一人ハゲルさん。

 この人なら俺の望む物を作ってくれるはずだ。

 

「親っさんの裁縫能力の高さと愛を見込んでお願いが!」

「な!? べ、別に裁縫は仕事で使うからで、趣味とかそんなんじゃねえぞ!」

「本当は?」

 

 その慌てようから、自然な流れでそんな言葉が出た。特に深い意味はない。

 

「夜な夜な少女服のデザインをしちまうくらいに大好きだな」

「…………」

「……あ」

 

 ノリで言ってみただけのに、こんな真実が明らかになるとは……。

 それにしてもこんな古典的な手段に引っ掛かるとは、ハゲルさん侮りがたし。

 

「た、頼む! 今言ったことは忘れてくれ!」

「いや、別にいいと思いますよ? 趣味は人それぞれですし」

 

 女の子が可愛い格好をするのが嫌いな男なんていないだろう。

 

「ほ、本当か? こんなゴツイおっさんが気持ち悪いとか思わないか?」

「むしろ少女服のデザインをしているというのなら、俺の頼みには好都合です」

 

 この人なら、きっと俺の望む至高の猫耳を作れるはず!

 この筋肉隆々のおっさんから生み出される猫耳なら……大丈夫?

 

「とにかく、親っさん。俺の話を聞いてください」

「話?」

「そうですそうです。とりあえず、モデルとなる女の子を想像してください」

「…………」

 

 親っさんは腕を組んで目を閉じた。なんか手慣れてる感じがして怖い。

 ちなみに俺の脳内イメージはトトリちゃん。

 

「頭の上に猫の耳、犬の耳、なんでもいいから獣耳が生えたとします」

「おお!」

 

 親っさん的にアリだったようで、目を見開いて感動していた。

 

「さらにその子が両手を上げてにゃーって鳴く訳ですよ!」

 

 瞬間、親っさんの目がカッと見開かれた。

 

「兄ちゃん!」

「親っさん!」

 

 親っさんは立ち上がり、俺たちは自然と手を握り合っていた。

 言葉なんて無くても伝えあえる、これが漢のロマンの力って奴だ。

 

「何日かしたらまた来な、兄ちゃんの納得いくもん作っとくからよ!」

「はい! 頑張ってください!」

 

 楽園へと一歩前進したのを感じながら、俺は店を出て行った。

 

 

…………

……

 

 

「あと一歩、何か足りない。俺に足りないもの……」

 

 何かが不足している、そんな思いと共に街をぶらついている。

 

 申し分のないモデルたち、最高のデザイナー兼クリエイター。

 これだけあれば十分のはずなのに、俺は未だ満足感を得ていない。

 

「……うん?」

 

 ふと、視界の隅に目に入った。

 何屋かわからないが、ガラスの向こうに見えた。

 

「クックック。そうだよな、モデルがいるなら撮影しなきゃ失礼だよな」

 

 俺は最後の神器を求め店の中に入った。


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