「師匠の本が持ってくる本がギリギリすぎる」
「ぷに」
入院生活で暇なので、師匠にアトリエから錬金術の参考書を持ってきてもらったのだが……。
「ネクロノミコンにナコト写本、どこで拾って来たんだよ」
「ぷに~」
俺の世界にある架空の書籍のはずなのにな。
しかも、書いてある内容がこれまた酷い。
「シェルペルホルンってアイテムの作り方、確か、あの産業廃棄物な本にも載ってたよな」
「ぷにに」
最高レベルの魔導書=季刊錬金術・二号
「あの本って実はかなり実用的だったり?」
「ぷに」
魔法の鎖とか前のぷにとの戦いでの決め手にもなったしな。
ネクロノミコン(笑)
「しかし、他の奴はな」
ベッドの横に積まれている本を横目で見る。
そこにあるのは、師匠のパイノート。あの人は俺をどんな錬金術士にしようとしているのだろう……。
「もういい、やめやめ。ぷに、カバンからノート取ってくれ」
「ぷにー、ぷに!」
「ん、サンキュ」
ぷにが持ってきたのは、いわゆる大学ノート。俺はペラペラとページを捲った。
「んと、最近作った爆弾は……煙幕フラムだけか」
「ぷに」
「ああ、あんま使えなかったんだよな。お前がすぐに吹き飛ばしたもんな」
「ぷに!」
ぷには威張ったように一鳴きした。
そういえば、今のぷにってどんな状態なんだ?前に一通り吐きだしたけど。
「ぷにさ、まだ前使ってた技使えるのか?」
「ぷに? ぷにぷに」
目の前で、無理無理と言う感じでぷには体を横に振った。
「なら結局強くなったのは俺だけってことか」
「ぷに~」
「不服ならお前も努力するこったな。ま、俺の新必殺技に適う訳ないけどな」
まったく後輩君はすばらしい技を考えてくれたもんだ。
問題としては自分への反動ダメージだよな。
「あ、そう言えば後輩君に必殺技教えてなかった」
俺の技と引き換えにって約束だったのに、すっかり忘れてた。
「いやしかし、どうしよう?」
「ぷに?」
「いやさ、適当に居合切りでも教えようと思ったんだが……。なあ、ダメだろ? ここは俺も本気で考えないとさ」
「ぷに!」
ただそうなると、剣なんてあんま詳しくない俺が考えても妙案が出てくとは思えん。
となると、ここは……。俺は外へと耳を傾けた。
「師匠の持ってきた本を代償に召喚! 騎士ステルク!」
そう言いながら、俺は上半身を起こして分厚い本を対面の扉に投げつけた。
そして、タイミング良く扉が開いた。
「――なっ!?」
「ステルクさん。怪我人のところに来てその態度はどうかと思いますよ」
ステルクさんは額を押さえてたたらを踏んでいた。
「……ふむ。ステルクさんは不意打ちに弱いっと」
左手を使ってノートにメモメモ。
「俺のノートにミミズが現れたようです」
「ぷに~」
利き手使えないとか致命的過ぎる笑えない。
「…………」
立ち直ったステルクさんが無言で睨んできた。
やっぱりこの人イケメンだけど怖いわ。
「よし。後輩君の必殺技は暗殺剣に決まりだな」
「ぷに!?」
「これでどんな奴でもスパンと一刀両断……」
そこまで言ってやっとステルクさんが話に入ってきた。
「私の弟子にあまり怪しげな技を教えないでもらいたいのだが」
「だって、ステルクさん倒すにはこんくらいしか思いつかないんですもん」
「私を倒す?」
「む……」
ここは隠し通した方がいいよな。
師匠の知らぬ間に弟子が自分を打倒する技を開発っていう展開の方が燃えるし。
「君が何を考えてるかは知らんが、まあ、だいたいの事情は分かった」
「何だって!?」
「……ぷに」
「大方、あいつが私を倒すための技を君に頼んだのだろう」
「何故ばれたし」
「……ぷに~」
さっきからぷにが呆れたような溜息を吐いてる。なんぞ?
「まあ、バレたからには仕方がないですね。それで?」
「それで、とは?」
「ここはあれでしょう?こう、弟子の欠点を呟いてクールに去る! みたいな展開が王道というか……」
「それを聞いて、私に一体どうしろと言うのだ……」
「ですから、ここは一つ。ね?」
ステルクさんはため息を一つ吐いて、俺にこう言ってきた。
「そもそも。君に頼むと言うこと自体が間違いなのだ」
「え?」
「あいつの使っている回転切りとかいう技も、どうせ君が教えたものだろう?」
「ま、まあそうですけど……」
何? 俺の教えた技になんか文句でもあると?
確かに適当教えたけど、技としては使えると思うんだけどな。
「君の戦い方は一撃に全力をかけるスタイルだ。あいつには合うはずがない」
「…………ふむ」
「君に教えを請うなんて、あいつの持って生まれた敏捷性を殺すようなものだ」
なるほどなるほど。つまり小さな連打で数を狙えってことか。
「……ステルクさん。そこまで話してもらってあれなんですけど」
「む? どうしなのかね?」
「いや、その。俺が知ってる剣の必殺技って大抵大技なんですよ」
ゲームとかの知識だと必然的にそうなってしまう。
小技連打とかだと物理的に無理だろって技ばっかだし。
「どうしましょう?」
「言っただろう。君に教えを請うのが間違いだと」
「ああ、つまり……」
…………
……
5月15日 ギルド医務室
「せんぱーい。トトリに呼ばれたから来たんだけど……」
「くらえっ!」
つきつける『ステルクさんの証言』
「後輩君。これを見てくれ」
俺は後輩君にノートを手渡した。
「……先輩。これ字汚くて読めねえんだけど」
「それを読んでくれれば分かる通り、いままでの君には決定的な間違いがあった」
「ああ、なんだいつものか」
いつもの奇行?
「君は! 自分の敏捷性を生かすことができていなかったんだ!」
「へ?」
意味が分からないと後輩君がポカンとしている。
「俺は気づいてしまったんだよ。俺の思いつく技では君の真の力が発揮できないと……」
「し、真の力!?」
「そうだ。速く小さく鋭く、流れるような連撃。これこそが最速を極める者。それが君だ!」
バーン! という安っぽい効果音と共に言い放った。
「最速を極めるもの……。か、かっけえ!」
「ふっ、そうだろう。さあ、行くのだ! 師匠を倒すために!」
「ああ、わかった! ありがとな先輩!」
そう言い後輩君は医務室から飛び出して行った。
「…………」
「……ぷに」
「うん。なんか罪悪感がいまさらになってひしひしと……」
「ぷに~」
「結局さあ、全部受け売りだったもんな」
「ぷに」
しかも具体的な内容を一切言ってない。
「今度ハゲルさんに頼んで後輩君に合う剣でも作ってもらうか」
「ぷに!」
「よし! そうと決まれば、さっそく金属の作り方を研究……」
しようと思ったけど、横に積んでるのはパイの作り方の本ばかり。
「ぷに。アトリエから金属系の本片っ端から持ってきてくれ」
「ぷに!」
とりあえず入院中は金属の研究とサウスポーのマスターに全力を注ぐか。