3ヶ月ぶりにアーランドに戻ってきた俺たちはアトリエの前まで来ていた。
「どうすれば怒られないで済むかを考えとかねばな」
「ぷに」
ただでさえこの後にラスボスが待ってるんだ。師匠相手に精神をすり減らしたくはない。
「作戦名はETDだ」
「ぷに?」
「正式名は『えっ? ちょっと出かけてた、だけだぜ?』当然のように入って行けば意外と流れでいける……といいな」
「……ぷに~」
師匠ならいけないかなと思いつつも、俺はアトリエの扉を開けた。
「師匠ー、帰ったぞー」
「ぷにー」
「うん。おかえりー」
「え゙?」
ビックリしすぎて変な声が出た。
作戦通りの反応なんだが、なんかアッサリ成功したな。
「……なんて言うと思ったの?」
声が1オクターブ下がっていた。
「だよなー」
「ぷに」
いくら師匠でもこんな数秒も考えてない作戦に乗ってこないよな。逆に安心した。
「二人して扉の前でコソコソ喋って、全部聞いてたんだから!」
「べ、別にちょっと旅に出るくらい冒険者なんだからいいじゃないか」
「うう、そ、そうかもだけど……」
いや、そんなことないから!師匠、がんばって反撃してくれ。
「でも、あんな置手紙だけだと心配しちゃうよ」
途端にしょんぼりとしてしまう師匠。
この人はクーデリアさんとは別の種類で俺にダメージを与えてくるな。
「まあ、悪かったよ。なんていうか勢いでそうなったというか……」
「ぷにに」
「……わかってくれればいいけど、今度からはちゃんと言ってね?」
「ああ。ところでトトリちゃんはいないのか?」
ついでに俺の旅の主原因でもある、ちむちゃんもいない。
「トトリちゃんは年越し辺りに村に帰っちゃったよ。ほら、トトリちゃんもうすぐ誕生日だし」
「ああ、確か来月あたりだっけか」
「うん。わたしはこっちでお仕事あったから行けなかったけど……」
「いや、そんながっかりしなくても」
この人、トトリちゃんが好きすぎるだろう。
「そういえば、アカネ君の誕生日っていつなの?」
「俺? 俺は一応、九月二十日だけど」
一応ってのは、まあ完全に日付が対応してるか自信がなかったりする訳だ。
「それじゃあ、ちゃんとお祝いしなきゃね」
「お、お祝いって……今年で二十歳になるのにそれはちょっと」
一言で言うと恥ずかしい。
「わあ! アカネ君二十歳なるんだ。それならすごいお祝いしなきゃね」
どうやら余計に火が点いてしまったようだ……師匠、単純にトトリちゃんのお祝いできなくて鬱憤溜まってるだけじゃないのか?
「うん。楽しみにしててね」
「ああ、そうするよ」
そのためには、俺は魔王を倒しに行かねばいけない。
…………
……
所変わってギルド前。
「バレテいる可能性も考慮して、作戦を立てておこう」
「ぷに」
話に聞く、ステルクさんの鳩とやらが伝えている可能性がない訳ではない。
「作戦名はOWPWだ」
「ぷに……」
ぷにがそのネタ飽きたみたいな目で見てくるが気にしない。
「正式名は『俺は、悪くない、ぷにが、悪い』人これを転嫁と呼ぶ」
「ぷに! ぷに!?」
「そうかそうか賛成か。というわけでレッツゴー」
「ぷに!?」
ぷにが攻撃に移る前に俺はとっととギルドの中に入った。
「クーデリアさん……お、いたいた」
「ぷにに!」
クーデリアさんはいつもの定位置にいた。
ぷにが何か言ってるが聞こえない
「クックック。クーデリアさんを恐れるお前はここで暴れられない、そうだろう?」
「ぷにに~」
ぷにがぐぬぬっといった表情をしている。まあ、これも俺の頭が良すぎるせいだ。君は悪くない。
「というわけで、クーッデッリアさーん」
俺はなるべくご機嫌な感じでクーデリアさんに声をかけた。
「あら、アカネじゃない。久しぶりね」
なんかさっきの師匠の反応とデジャヴって妙な恐れを感じてしまう。
「そんじゃ、とっとと免許出しなさいよ」
「? はあ?」
事情がよく分からないが、言われるままに免許を差し出した。
「ま、まさか……」
俺はクーデリアさんの手に渡す寸前で手を止めた。
以下俺の妄想。
「はい。どうぞ」
「ええ、確かに……」
その瞬間、クーデリアさんは拳を堅く握りしめ、免許を粉々にした。
「な、何を!」
「自分の胸に聞いてみなさい!」
「ひ、ひどい!」
「とっとと出てくがいいわ!」
「クーデリアさんの鬼! 悪魔!」
「……何いきなり喧嘩売ってるのかしら」
「あ……」
妄想が現実世界を侵食した。
簡単に言うと口に出ちゃった。
「これは、その、えっと……本音です!」
「へえ……」
これはもう混乱したじゃ済まされないレベル。
おいコラ、ぷにてめえ、笑ってんじゃねえよ。
「何のつもりか知らないけど、そんなにわたしを怒らせたいのね」
「ふ、ふん!どうせ、怒られる予定だったから関係ないですもんねー!」
……俺って今年で二十歳になるんだよな?
自分で自分の精神年齢が不安になってきた。
「怒られる予定……?」
「あれ?」
もしかして藪蛇?
「え、あの、あれですよ。ステルクさんから聞いてませんか?」
「ん?ああ、あの鳩の手紙ね」
伝わってるなら、何で最初に普通の対応?
「あんた。何か勘違いしてるみたいだけど、別に特別違反行為ってわけでもないのよ」
「……え?」
「冒険者免許を持ってれば基本どこ行ってもいいのよ。こっちはただ、その冒険者に見合った場所の地図を埋めるように指定してるだけ」
「でも、ステルクさんは……」
確かに、違反行為云々って言ってたはずだ。
「あいつはそういうお堅いとこがあるってだけよ。自分の実力を把握すべきとか、そういうことね」
「…………」
つまり、遠回しに相手を気遣っての事ってことか、ステルクさんらしいというかなんというか。
「そうだったんですね。それじゃあ――!?」
失礼します。そう言いたかったけどぷにが俺の脚に噛みついてきた。
こいつ、最初の俺の発言まだ根に持ってやがるな。
「そうね。それじゃあ……わかってるわよね?」
「オワタ」
あの大砲を使ってもこのラスボスに勝てる気がしない。
「ぷにににににに」
…………
……
「はい。ランクアップよ」
「……どーも」
この人、すごいスッキリした顔してる。
いっつもいっつも怒られてるとこ『……』済まされるのには正直納得がいかない。
「しかし、よくあんたの実力でテラフラムリスを倒せたわよね」
「あいつは俺をコケにしやがりましたからね」
「まあ、苦労したのは今のあんたからよくわかるけどね」
「……?」
別段俺はいつも通りのジャージ姿なんだが、変なとこあるだろうか?
「気づいてないみたいだから言っとくけど」
「はい?」
「あんた、いまものすごい火薬臭いわよ」
「…………」
鼻に二の腕を当てて、臭いを嗅いでみる。
「……二ヶ月も爆弾漬けだと嗅覚がマヒするんですね」
「そうみたいね」
「…………」
「…………」
微妙な沈黙が流れた。
「それじゃあ、俺トトリちゃんの所行くんで失礼します。
「ちゃんと洗濯しなさいよ」
「はい……」
火薬と硝煙の臭いがカッコいいなんて思ってた時期が僕にもありました。
ジ ャージからそんな臭いしても、なんか臭いの一言で終わっちまう訳で……。
「こんなオチは嫌だ……」