「やるぞ相棒、俺たちの本当の力を見せてやる」
「あ、アカネさん……?」
眼前にはドラゴン、城ほどもある一つの要塞にも見えるその全貌を見る事は叶わない。
だが恐れるにはあたわず。後ろで倒れているトトリちゃんを庇うように俺は構えた。
「待たせたな、トトリちゃん」
「ぷに」
「あ、危ない!」
俺に向かってくるは、ギロチンのように鋭く巨大な爪。
一見すると絶対絶命だろう――しかし。
「甘い!」
俺はそれを横に拳一振りすることでいなした――否、その断頭の刃を砕き散らした。
「再会に割って入るなんて、無粋だな……」
「……あ、アカネさん」
さて、さっさとこんな奴は片づけてしまうとしよう……。
「……みたいな感じで戻りたい訳だ。うん、かっこいい」
「ぷに~」
「そんな精神的に病んでる人を見る目で見るなよ」
超かっこいいじゃんか。ヒロインのピンチに駆けつけるヒーローみたいな感じでさ。
最強、無敵、そんな感じになりたいですよ。
「……ぷに」
「しかしどうすっかね?行くあてもないし」
勢いで出てきただけあって、俺は現在ふらふらと自転車で走行中。
今は東に向かって街道を走っている。
「地図を見る限りだと東には、砂漠があってその先には森があるっぽいけど」
「ぷに」
「ああ、もうめんどいし村に逃げようかな……」
「ぷにぷに!」
「そればっかはやっちゃいかんと?」
確かにあれだよな、キリストの復活レベルで冷めた空気になっちまうよな。
3日で復活はない、せめて2,3ヶ月くらい間を持たせんと。
「とりあえず、砂漠を抜ける……か?」
前方に怪しい男発見。
偉そうな口髭生やしている、いかにも紳士と言った感じの風貌をしている。
年齢は……40前半くらいか?
「あれだな、ナイスミドルって奴だ」
「ぷに」
そんなことを言いつつ、近づいていくとふいに声をかけられた。
「ああ、君。ちょっといいかね」
「んむ?」
俺は自転車を止めて、地面に降りた。
「なんでしょうか?」
「いやなんだ、随分と面白いものに乗っていると思ってね」
「ほほう、いい所に目を付けましたねえ。何を隠そう、これは俺の友人が作った現状最速の乗り物ですよ」
そう答えると、おっさんは何やら感慨深いという表情をしていた。
「ふむ、少し離れていたつもりだったが、技術の進歩と言うものはまったく早いものだな」
「まあ、なんていうか完全に離れ技なんですけどね」
俺の元の世界の知識に現チート代表のマークさんの力が合わさってこその物な訳で。
「しかしその乗り物もそうだが、君はまた変ったものを連れているな」
「ぷに」
いつの間にカゴから出ていたのか、俺の肩にはぷにが乗っていた。
「こいつは俺の相棒のシロ。ちなみに俺はアカネって言います」
「む、失礼した。本来ならば私から名乗らねばならぬところであったな。私の事はジオと呼んでくれたまえ」
その紳士は軽く一礼をしてそう仰った。
「どうもご丁寧に、すれ違っただけの仲なんですけどね」
「たしかに奇妙な縁ではあるが、これもまた一つの出会いというものだよ」
「そんなもんですかね?」
……かっけえ。
こんなセリフが合うのはこの人くらいなもんだろう、俺が言ったところを想像してみろよ?
なんだろうか、この人の言うことは説得力があると言うか、貫禄があると言うべきか。
ジオさんの外見と相まって、かなり様になっている。
「なんつーか、あれですね。ジオさんって王様って感じですよね」
「ん、んむう、そ、そうかね?」
ん? なんか急に焦り出した? いや、気のせいか。
「そうですよ、俺の聞いた元国王って人に見た目似てますし」
半年くらい前、アトリエに来たステルクさんにいつも何してるのかと聞いた時だったか。
なんでも放浪癖のある元王様を追ってあっちらこっちらに行ってるらしく。
とりあえず、手助けになればと思って容姿について聞いてみたのだ。
「たしか……口髭があって、前髪を片っ方降ろしてて、偽名で使ってる名前が……ジオ?」
あれ?
「すまんが、私はここで失礼させてもらう。
そう言って、ジオさんは彼が歩いてきた方向と逆に向かおうとしていた。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
「すまんが見逃してはもらえないだろうか」
「そんな逃げるくらいならなんで、こんな街の近くをうろついてんですか」
「いや、近くまで来たものでな、折角だから様子でも見てみようかと思ったのだよ」
ちょっと楽観的過ぎないか?
もしステルクさんに見つかったらどうするつもりだったのか。
「まあ、見つけちゃったからには捕まえさせてもらいますよ」
「残念だか君では私を捕まえられんよ」
「いや、そんな元国王一人に逃げられたりしませんよ」
俺がそう言うと、ジオさんは仕方ないと言った様子でため息をついた。
「逃げたりなどせんよ。ただ知り合ったばかりの若者に手荒なまねはしたくない。もう一度聞こう、見逃してはもらえないだろうか?」
「それが警告何か知りませんけど、あいにくと逃がす気もやられる気もありませんよ」
俺はそういいつつも、ファイティングポーズをとった。
「一応、元国王様なんで手加減はしますけど――!?」
突然腹に衝撃が走った。
「む、なかなかに鍛えられているな。今の一撃で倒れないとは」
「ゴホッゴホッ!」
瞬間移動でもしたのかこのおっさんは!?
おれの眼前には鞘に入れたままの剣を持ったジオさんの姿があった。
「シッ!」
後ろにバックステップを2回。その隙をカバーするのは……。
「ぷに!」
「むっ」
俺の後方からぷにが突撃、しかし軽く身を捻っただけでかわされた。
「なるほど、ただのぷにではないということか」
「ぷにに!」
再度、突撃をするぷに。
「――ぷに!?」
「なっ!」
ジオさんが片手で杖を立てに振るった。
きれいに、それこそ寸分の乱れもないカウンター、必殺の一撃が決められた。
「元国王じゃなかったのかよ……」
俺は焦りを感じながらも、ゴースト手袋を嵌めた。
「国王が戦えないと誰が決めたのかね」
「まあ、確かに」
歴史を顧みれば、優秀な指導者であり優秀な戦士であったものはいるはずだ。
「フッ!」
とにかく俺の間合いに、その一心で俺はジオさん目掛けて駆けた。
距離は俺が一方的に縮めていった、ジオさんは一切動かない。
そしてジオさんの間合いに入った瞬間のことだ。
「――ッ!?」
不可視の一撃、まさにそう表現するべき太刀をどこに食らったのかもわからないまま、俺の意識は沈んでいった。
…………
……
「おい、君、大丈夫か!?」
「う……うむ……?」
俺が目を覚ますと、目の前にはステルクさんの顔があった。
「ひい!?」
あ、思わず悲鳴あげちゃった。
「…………」
「あ、その、いきなり男の顔を見せられたら悲鳴の一つくらい上げますって」
「……そういうことにしておこう、で?」
「はい?」
「君はなぜこんなところで倒れていたんだね?」
俺が起き上がって周りを見た。
目の前には街道、周りは草むら、隣には片膝着いたステルクさんといまだ寝込んでいるぷに。
「ああ、そうだ。すいませんステルクさん」
「……? なにがだね?」
「ええと、ジオさん――!?」
俺がその言葉を出した途端、俺の首元を締めん勢いで俺の肩を揺すぶってきた。
「やはりか! どこだ! どこに行った!」
「ちょ! ちょっと落ち着いてくださいって!」
「む、すまない」
そう言って、俺の肩から手を離して冷静な表情を作るが、どうも落ち着きがない様子である。
「えっと、ここで会ったんですけど……情けないですけど、戦ったらやられちゃって」
「情けなくなどない、彼は間違いなくこの国一番の剣の使い手だ」
「うわあ……」
そりゃ勝てん、ステルクさん以上の相手ってことかよ。
「それで、どこに向かったか分かるか?」
「分かったら気絶なんてしてませんよ」
「そうか、いや気を落とさないでくれ、君は何も悪くなどない」
「そう言ってくれるとありがたいですよ……?」
俺がそう言っていると、突如空から一羽の白い鳩が降りてきた。
「くるっぽー、くるっぽー」
「なに! それは本当か!」
「くるっぽ、くるぽっぽ」
「わかった、すぐに向かうとしよう」
「…………」
この人、鳩の言葉わかるん?
「彼の行方が分かった。急いで行かねばならないので失礼する!」
「あ、はい。お気をつけて」
ステルクさんは南の方向に向かって走り去って行った。
「……捕まえられんよなー」
俺はステルクさんの無事を祈りつつも、自転車を起し、カゴにぷにを入れて再び家出の続きを始めた。