俺は今日依頼の品を受け取りにギルドまで来ているのだが……。
「…………」
怪しい、今俺はとても怪しいモノを見ている。
「ぷに、あの二人何してんだ?」
「ぷにー?」
ギルドのカウンターの内側には何故か隠れているフィリーちゃんにトトリちゃん。
その視線の先には二人で会話している師匠にクーデリアさん。
「とりあえず面白そうってことはわかった」
「ぷに」
というわけで、隠れている二人に近づいていった。
「よう、何してんだ?」
「あ、アカネさん、ちょうどいい所に来ましたね」
フィリーちゃんは俺に気づくとカウンターの下から顔を出してきた。
その目には妙な輝きがあった気がする。
「はい?」
「さあ、早くこっちに来てください」
「んにゃ!?」
そう言って、フィリーちゃんは俺の腕を引っ張りカウンターの内側へと引きずり込んだ。
この子ってこんな事する子だっけか?
「つか、トトリちゃんまで何してるんだ?」
「いや、それがわたしもよくわからなくて……」
「ふたりとも、あれを見て」
「アレって……師匠とクーデリアさんがどうかしたのか?」
別に何の変哲もない世間話をしているだけだ。
気になるところとしては、河に落ちたって言う単語がでたりとかクーデリアさんのツンデレが爆発していることくらいか。
「はあ、いいわ……トトリちゃんもそう思うでしょ?」
……この子頬を薄らとだけど赤く染めてるんだけど、口調もなんかいつもと違うし。
何か怪しい空気を感じる、こう背筋が寒くなると言うか……。
「そうですね。二人とも仲良しでちょっとうらやましいかも」
「いや、トトリちゃん、仲良しとかそんな生易しい表現じゃないと思うぞ」
うん、間違いなくフィリーちゃんが言ってるのはそういう意味ではないと断言できる。
一言で言うなら……百合?
「あ、アカネさん! わかってくれますか!」
途端に満面の笑みを浮かべてフィリーちゃんが俺に迫ってきた。
顔が異常に近い、男が苦手ちゃうんかと。
「わ、わかるって?」
「ですから、あの二人の関係ですよ」
「関係?」
横でトトリちゃんが疑問符を浮かべていた、君は一生分からない方がいいと思う。
「ほら、アカネさん説明してあげてくださいよ」
「え、俺!?」
何というキラーパス、これをどう繋げろというのだ。
正しい……いや、むしろかなりねじ曲がった解釈を話すとトトリちゃんの精神衛生によろしくない。
けど、ここでフィリーちゃんの意図しない答えをしたら、がっかりさせてしまう……のか?
(どうしよう、ぷに)
視線で肩に乗っている相棒にアイコンタクト。
(ぷにに)
(なるほど! 了解した!)
アイコンタクト終了。
……さて、どうしたもんか。
実は全然意思疎通できてなかったりする。
まあ、どうせ俺が話さなかったらフィリーちゃんが話すだろうし俺から言っちゃうか。
断っておくが、俺は知識として知ってるだけでそっちの気はないからな。
覚悟を決めて、トトリちゃんに向けて言葉を発した。
「あれだな、うん、二人が好き合ってるとしたらってことだ」
「好きあ……ええええ!?そ、そんな二人とも女の人なのに、そんなことあるんですか!?」
ちらりと目線を右に向けると、フィリーちゃんは満足げな笑みを浮かべていた。
「まあ、あくまであるかもしれないって話だけど」
なんか、若干自分の顔が赤くなっているのを感じる、恥ずい。
「でも、アカネさんそれはちょっとベタすぎると思うんですよ」
フィリーちゃんが横からツッコミを入れてきた、何? 討論会スタートしちゃうの?
第一次百合会議? 俺のいないところでやってくれ。
「実はクーデリア先輩の片思いでロロナさんはその思いに気づきつつも……っていう方が良いと思うんですよ」
……この子真性だ。今更ながら知ったかぶりをしたことに後悔を感じた。
俺はフィリーちゃんともっと仲良くなりたかったよ。でもさ、こういう方面でじゃないんだよ。
俺が仲良くなりたいのはフィリーちゃんであって、決して腐ィリーちゃんじゃないんだよ。
「トトリちゃんはどう思う?」
「わ、私に聞かれても困りますよ!」
ああ! トトリちゃんが腐の毒牙にかかっている!
なんとかこっちに惹きつけなければ……。
「相談しがいがないなあ、トトリちゃんはどっちが好きかって意見を聞きたいのよ」
「ごめんなさい、なんていうかもう全然ついていけないです」
トトリちゃんが困ったような目を俺に向けてきた。
すまんトトリちゃん、俺には彼女を止める手立てはない……。
「むう、アカネさんは他に何かないですか?」
そりゃ飯を食うのに家畜を育てるより、普通は手軽な既製品を買うよね。
でも残念ながらこの肉は脂肪ばかりで、中身がないんだよ、だから許してください。
心の中で許しを請うもフィリーちゃんの目の輝きは増していく一方だった。
クソッ!負の力を持っているのに綺麗な目をしやがって。
その目に耐えられず俺は最も泥沼になるであろう選択をしてしまった。
「あれだ、クーデリアさんは師匠の事を好きなんだけど、想いに気づかない師匠に若干冷たくしてしまうみたいな」
ぷにが小さく鳴いた声が耳元に響いた、俺だって自分で言ってて何言ってんだ俺って思ってるよ。
ただ俺のそんな思いを知らずにフィリーちゃんはえへへと笑った。
「流石です、やっぱりアカネさんはわかってますね」
「あはは……」
「アカネさん……」
トトリちゃんが俺の事まで悲しげな瞳で見つめてきた。
俺は悪くねえ!
俺の口からはなおも乾いた笑いがこぼれ出していたのだが、ふいに気づいた。
「あはは……はっ?」
横を見ると金髪でいつも通りちっちゃいクーデリアさんが立っていた。
「さっきから大声で、何をたわけたことを喚き散らしてるのかしらねえ。このバカ受付嬢にバカ冒険者は」
「ひゃあああ! くく、クーデリア先輩!? い、いつからそこに……」
「二人が好き合ってるー、くらいからかしらね」
ちょうど俺のセリフのところかよ、俺が変態みたいじゃないか。
「そ、そんな前から……全然気づかなかった、クーデリア先輩、ちっちゃいから……」
「フィリーーー! このバカー!」
お前の前世絶対ボンバーマンだろ!
「ぶちっ」
何かが切れる音がした。
何がって? 決まってるだろ?
「……さぼってるだけならまだしも、くだらない妄想にうつつを抜かした挙句しまいにはいってはいけない一言まで……」
あれ? もしかして俺ターゲットから外れた?
「アカネ、あんたもよ」
「ですよねー」
「錬金術で作れる物を自分で作らないで、しかもこいつに付き合って同じ穴の狢になって、よくもまあ短期間でわたしをこんな何度も怒らせられるわねえ?」
「さ、最初のは今の俺じゃ作れないだけで……」
「黙りなさい!」
「ひうっ!」
口答えダメ、ゼッタイ。
こ、ここは師匠、師匠に助けを求めて……。
「…………」
カウンターを挟んだクーデリアさんの後ろには外に向かう師匠とトトリちゃんの姿があった。
よく見ると、トトリちゃんの肩にぷにが乗ってる。裏切り者め。
「さあ、二人とも覚悟はいいでしょうね?」
「「…………」」
俺たちは二人で並んで立ちつくした。
「いやあああああ!」
「すいませんでしたーー!」
その日、ギルドのカウンター付近で懺悔の声が響いた。
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「……フィリーちゃんのせいで酷い目にあった」
「あ、アカネさんも乗ってきたじゃないですか」
俺はカウンターの外側に腰掛けて、内側にいるフィリーちゃんと話していた。
クーデリアさん曰く、小休止らしい。
「自業自得よ」
フィリーちゃんの横にはクーデリアさんもとい恐怖の大王。
「爆弾に火を点けたのはフィリーちゃんだろうが」
「む、アカネさんだって気づかなかったじゃないですか」
「……説教をすぐに再開しましょうか?」
「「…………」」
しょんぼりと二人とも沈黙した。
「まあ、でも」
そう言い、クーデリアさんはフィリーちゃんを見つめた。
「なんですか? クーデリア先輩?」
「いえ、なんだかんだで男にも慣れてきたみたいじゃない」
「言われてみればそうだな、昔なんて事あるごとに悲鳴あげられてたしな」
思えば、この世界に来て初めて聞いた悲鳴はフィリーちゃんの悲鳴だったなあ……。
「アカネさんはその、話が合いそうだなって最初に思いましたから……」
そういや初対面の時に言われてた気がする、今更になってあの言葉の意味がわかった。
ていうかあの時既に俺はロックオンされてたのかよ。
「その合いそうな話はふかく追求しないであげるわ」
そりゃ自分が妄想の題材にされてるんだから聞きたくないよな。
「でもそれ抜きにしてもあんたたちっておかしいわよね」
「え?何がですか?」
俺は疑問の声を発した。
「だって、互いの呼び方どう考えてもおかしいじゃないの」
「「……?」」
全く話が分からず俺とフィリーちゃんは互いに顔を見合わせた。
「もしかしてわかってないの?」
「いや、だから何がって聞いてるんですけど」
何か見落としてる物あったけか?
特に不自然な点はないはずだが……。
「二人とも、自分の年齢を言ってみなさい」
「え? 19ですけど?」
「23ですよ?」
「「え?」」
今日は妙にフィリーちゃんと声が重なる。
いや、そんなことよりだよ。年上?年上だったのしかも四つも。
「あ、えーと、フィリーちゃ……いや、フィリーさん?」
「え? あ、アカネさ……アカネ君?」
しどろもどろ。
「やっぱりわかってなかったのね」
「年上だったんですね」
「そうみたいですね……」
てっきり俺はトトリちゃんよりも2つくらい上かなくらいに考えてた。
「ええと……はあ、今更めんどくさいし、いつも通りでいいか?」
「あ、はい。そうですね、それがいいですよ」
一年以上もこの関係だったんだし、今更年上なんて言われても口調を変える気にはなれない。
「かっかっか、これにて一件落着」
俺はギルドの外向けて歩き出そうとした。
「待ちなさい」
良い話っぽくまとめようとしたけど無理でした。
「逃げようとするなんて、そんなに私の怒りを蘇らせたいのね」
「オワタ」
「あ、アカネさん!」
「し、仕方ないだろ!早く帰りたかったんだよ!」
「さあ、再開するわよ二人とももう一回並びなさい」
この人本当、こう言う時は良い笑顔するわ。
…………
……
今日の戦果
依頼品のポリーウール
腐の心
心に刻まれた新たなトラウマ