アーランドの冒険者   作:クー.

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でこぼこ討伐隊-前編

 俺が錬金術を習ってから2ヶ月経った7月のある日のこと。

 俺は調合依頼の報告をするために、ギルドへとやって来ていた。

 

 

「フィリーちゃん、納品に来たぜ~」

「あ、はい。どうぞ」

 

 俺はカウンターの上にポーチから取り出したフラムとゼッテルを置いた。

 

「今回は自信がある、期待していいぞ」

「それじゃあ、失礼します」

 

 フィリーちゃんはフラムとゼッテル、それぞれ2個と3枚を手に持って出来栄えを見ている。

 

 今回調合依頼の報告に来たのは3回目、結果はいまいちよろしくない。

 しかし、ゼッテルを作れるようになったのは1ヶ月前、流石に良い評価をもらえるはずだ。

 

「ど、どうでしょうか?」

「え、えっと……」

 

 フィリーちゃんの目が明らかに泳いでいるんだけど。

 

「ふ、フラムの出来はいつも通りすごい良かったですよ!」

「ゼッテルの方は……?」

 

 そう聞くと、フィリーちゃんは困った顔をして言葉を詰まらせていた。

 必死に言葉を選んでるみたいだけど、結果は明らかだな、うん。

 

「あ、う……ちょ、ちょっとだけ報酬引いておきますね」

「ガッテム!」

「ま、前よりはよくなってますよ」

 

 俺の声に驚きつつも俺を慰めてくれるフィリーちゃんはできた子だよ。

 

 つか、上達遅いのは師匠のせいだろ、できたての弟子放っといてトトリちゃんと村に行くなんて……。

 きっとトトリちゃんも同じだったんだろうなあ。

 

「うう、また来る」

「が、がんばってくださいね」

 

 フィリーちゃんの励ましの声を背に浴びつつ、俺はギルドの扉に向かった。

 

 

 

「……うん?」

 

 俺がふと横を見ると、ギルドの柱に掛った掲示板の前に見慣れているが、見慣れないコンビの二人がいた。

 若干気になったので、俺は二人に近づいた

 

「よ、珍しい二人組だな」

「あ、先輩だ。久しぶりだな」

「誰かと思えば、またあなたなの」

 

 後輩君にミミちゃん、この二人の接点ってトトリちゃんぐらいしかないよな。

 

「で、何見てたんだ?」

 

 俺は二人の後ろに立って掲示板を見た。

 

「これだよ、これ」

「うん?」

 

『グリフォン及びウォルフの討伐隊募集』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、なんで俺まで……」

 

 俺はぷにを頭に乗せて、グチグチと街道を歩いていた。

 

「それもこれも、あの募集要項のせいだ……」

 

 なんだよ、ブロンズ以下はシルバー以上を最低一人メンバーに入れることって。

 あれか? 錬金術でポイント貯まっていつの間にかシルバーのなってた俺へのあてつけか?

 

「そもそも、なんでお前らまだブロンズなんだよ……」

 

 トトリちゃんなんて、もうあと数十ポイントでシルバーだってのに。

 

「さっきから、うっさいわね。今回の討伐で成果を上げればランクが上がるのよ」

「俺もあと少しでランクアップなんだよ、頑張ろうぜ先輩」

「はあ、仕方ない。先輩の務めってことだな」

 

 まあ、所詮はグリフォンにウォルフなんて狼風情。

 昔の俺ならいざ知らず、今の俺の装備なら余裕だろう。

 ゴースト手袋にメリケンサックおまけにフラム、最強の相棒ぷに、こんだけあれば楽勝さ。

 

 

 

「そもそも、何であの程度の奴らに討伐隊編成したんだ?」

 

 俺がそう言うと、ミミちゃんが俺の事を冷たい目で見てきた。

 

「な、何だよ?」

「別に、ただこんなのが自分より上のランクだと思うと悲しくなっただけよ」

「……それは喧嘩を売ってるのか?残念だけど買うほどの余裕はないぞ」

 

 別に負けるかもとか思ってない、この後の事を考えて力を温存しているだけだ。

 

「あれだよ、先輩。確かウォルフがグリフォンの縄張りに入って街道が使えなくなってるから……だっけか?」

「簡単に言えばそうね。あなたよりも、この田舎者の方が物覚えは良いみたいね」

「へへ、まあな」

 

 後輩君それ褒められてないから、微妙に貶されてるから……俺含めて。

 

「で、確か俺たちの担当区域はウォルフだっけか?」

「そうね、あくまで多いだけでグリフォンも多少はいるでしょうけど」

「グリフォン……昔は強敵だった」

 

 今となってはぷにダイブを使えばニ撃の下に葬られる存在となってしまっている。

 そしてダイナマイトもといフラムを手に入れた俺の敵ではないだろう。

 

「敵区域に近づいたら、作戦決めるために少し休まないか?」

「そうね、偶にはまともなこと言うじゃない」

 

 もはや遠回しにバカにすることすらなくなってきたよ。

 

 

 

 

 しばらく歩いて敵のエリアに近づき始めたあたりの街道のわきで俺たちは座り込んでいた。

 

「んじゃ作戦を決めるとするか、俺リーダーな! とか絶対に言うなよ」

「わ、わかってるって」

 

 この子は油断も隙もないからな。まったく……

 

「リーダーは俺に決まってるだろうが」

「……リーダーがあなたで成功するとは思えないのだけど」

「ぷに!」

「先輩って作戦とか立てられるのか?」

「お前ら……」

 

 何で総じて俺の事をバカにしてきてるの?

 言っとくけど知識的な頭の良さでは俺の方が圧倒的に高いんだからな! 義務教育なめんなよ!

 

 俺は場の空気を変えるために咳払いを一つして自分の作戦を話し始めた。

 

「オホン! いいか、まず第一にだ。モンスターに当たる際は基本的に俺かぷにを入れた二人組になること」

「? あなたとシロの方が連携ができるんじゃないのかしら?」

「ぷに」

「まあ、確かにそうだけど……お前ら二人だとなあ」

 

 俺は二人の顔を交互に見た。

 

「確かにあんまり一緒に戦った覚えないんだよなあ」

「貴族の私が田舎者と連携できるほど行動する訳ないじゃない」

 

 ですよねー。

 明らかにそりが合っていない二人組だ。

 

「だから、とりあえず間接攻撃持ちかつ超近距離派の俺とぷにを分けておくんだよ。そうすれば多少は上手く行動できる」

「悔しいけど理に適ってるわね……」

 

 顔を伏せて複雑な表情をするミミちゃん、俺のどの部分が気に入らないと言うのか。

 

「後は敵全員をなるべく視界に入れつつパートナーを狙ってる間に攻撃してればそこそこ戦えるはずだ」

「まあ、当然ね」

「ぷには最初は温存して危ない場面でダイブを使ってくれ」

「ぷに!」

 

 見事なチーム分け、見事な命令、感じる尊敬の視線を……。

 

「……どうだ? 俺のリーダーとしての素質は?」

「心の奥では納得できないけど、一応認めるわ」

「ぷに」

「でも、先輩って意外とちゃんと考えてるんだな」

 

 最近俺への後輩君の評価が低くなってる気がする。

 

 ちなみに俺はほとんど考えていない、某狩りゲーの時の定石の戦い方を言っただけだ。

 ただ、こっちに来てからこの戦い方で失敗した覚えはないので大丈夫ですよ。

 

 

「それじゃあ、行きますか」

「ぷに」

 

 俺はそう言い、ぷにを頭に乗せて立ち上がった。

 

「ここからだと、こっちの方向ね」

 

 続いてミミちゃんと後輩君も立ち上がり、俺たちは街道を外れた林の方に向かった。

 

 この時は知らなかった、まさかあんなことになるなんて。

 

 

「今フラグ立てといた」

「ぷに?」

 

 


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