アーランドの冒険者   作:クー.

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科学者と錬金術

「……マジでできるとは思わんかった」

「……ぷに」

 

 俺は釜の中から赤い筒に導火線がついた、いわゆるダイナマイトを取り出した。

 

「フラムって名前だけど、どう見てもダイナマイトだよな」

「ぷに?」

「まあ、ぷには知らんか」

「ぷにー」

「ふむ、仕上がりの方は……」

 

 俺は手首をひねり、フラムを隅々まで見てみる。

 

「わあ、それアカネさんが作ったんですか?」

 

 そうしていると、ソファで本を読んでいたトトリちゃんが驚いたような声を出して近寄ってきた。

 

「うん? まあそうだけど」

「そうなんですか……」

 

 トトリちゃんは若干顔を曇らせてそう言った。

 俺なんかしちゃったか?

 

「あー、どうしたんだ?」

 

 俺がそう言うとトトリちゃんは、あたふたとしながら質問に答えてきた。

 

「えっと、その、アカネさん錬金術うまくなるの早くて羨ましいなあって思って……」

「あー、なるほど」

 

 確かに、俺みたいなのが数年の努力に追い付きそうになったら悔しいよな。

 まあ、でもなあ……。

 

「安心しろ、俺が作れるのはこいつだけだ」

「え?」

「実際には、こないだぷにレベル判定3のゼッテルを作れるようになったくらいだな」

「ぷに」

 

 ちなみにぷにレベル判定とは、ぷにが鳴いてだいだいの難易度を教えてくれるという優れ物、俺の相棒は本当に万能ですな。

 

「ちなみにフラムだとレベル13だそうだ」

「ぷにに」

「え? それじゃあ、何で作れたんですか?」

「よくぞ聞いた、まずはこれを見るがいい」

 

 俺は机の上から前回作った錬金術レポートを取って、トトリちゃんに渡した。

 

「アカネさくせい、れんきんじゅつれぽーと?」

「その通り、とりあえず読んでみてくれ」

 

 俺がそう言うと、トトリちゃんはレポートを読み始めた。

 

 まあ、レポートと言ってもただの箇条書きのメモみたいなものなのですぐに読み終わったようだ。

 

「アカネさんとわたしが錬金術を使うと爆発物ってこないだのあれですか?」

「ああ、あの爆発中和剤だ。二度とやらん」

「あはは……。もしかして、アカネさんは爆弾を作るのが得意なんですか?」

「いや、別にそう言う訳じゃないんだけどな……」

 

 化学の点数なんていっつもボロボロだったし……。

 

「まあたぶん、爆弾が得意っつーのが俺の特性なんじゃないかね」

「そうなのかもしれませんね」

「師匠は元からパイ作りが上手かったらしいから分かるけど、俺のはどうしてなのかさっぱりだしな」

 

 もうこれはあれだ、将来特撮とかで爆発演出ができるようになるって考えればいいさ。

 ……正直考えるのが面倒なんですけどね。

 

「ところで、この最後の項目ってまだ埋まってないんですけど」

 

 トトリちゃんは俺にレポートを向けて最後の欄を指さした。

 最後の項目は『アカネ+ロロナ=?要検証』と書いてある。

 

「……実は一つの恐怖と言うか、危険があってな」

「? なんですか?」

 

 これが上書き系ならいいのだが、融合系だと大変なことになる。

 

「トトリちゃんというストッパーがなくなり、師匠のパイと俺の爆発物が合わさって……」

 

 俺はそこで一旦言葉を区切った。

 

「爆破パイ……とか」

「うわあ……」

 

 俺がそれを言うとトトリちゃんの顔が青ざめた。

 

「知らず知らずに食べて、内側から……」

「こ、怖い事いわないでください!」

 

 言ってて自分でも気分が悪くなってきた。

 

「……やめといた方いいよな?」

「そ、そうですね……」

「ぷに~」

 

 今の想像を忘れて、俺とトトリちゃんは自分のやることに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……こんだけあったら無双ゲーになるんじゃないか?」

「……ぷに」

 

 あれから材料がなくなるまでフラムを作りまくった結果10個のフラムができた。

 

「つか、錬金時間も心なしか短く感じる」

「ぷに」

 

 これはもう無双しなさいという神のお声に違いない!

 

「俺はフラムで天下を取る!」

「でもアカネさん、先生いつも攻撃する時フラム投げてますよ?」

「あっ……そう」

 

 冷めた。

 

 

 

 数秒天下から少しして。

 

 コンコン

 

「ん?どーぞー」

 

 俺とぷにが昼寝をしていると、扉がノックされたので、玄関の前に向かった。

 

「お邪魔するよ」

「あれ?どうしたんだこんな所に」

 

 そこには見慣れた白衣姿のマークさんが立っていた。

 

 トトリちゃんも気づいたのか作業を止めてマークさんに近づいた。

 

「あれ? マークさんじゃないですか」

「君は物覚えが悪いようだねえ、僕の呼び方を忘れてしまったのかな?」

「あ、そうでした。ええと……いのーのてんさいかがくしゃぷろへっさまくぶりゃりゃ……」

 

 この舌っ足らずさ何度聞いてもかわいい。

 マークさんを見るたびにこれを見れるならマークさんに忠誠を誓うレベルだ。

 

「ごめんなさい、マークさんって呼んじゃダメですか?」

「いいよ」

「あっさり!?」

「うん、実に的確で分かりやすい呼び方だ。これからは他の人にもそう呼んでもらうとしよう」

「…………」

 

 俺も何度かマークさんって呼んでたんだけどなー。何? 聞いてみればよかったってこと?

 つか、つまりあのトトリちゃんはもう二度と見れないということか……。

 

「……まあいい、で? 今日はどういうご用なんだ?」

 

 まったくどうでもよくはないが。

 

 俺がそう言うとマークさんは途端に顔を引き締めて俺たちに言い放った。

 

「今日はお二人にライバル宣言をさせてもらうよ!」

「ライバル?」

「宣言? ってなんだそりゃ?」

 

 なんでいきなり友人からライバルにクラスチェンジするんだよ、バトル漫画かよ。

 

「お嬢さんはともかく……問題は君だよアカネ君!」

「俺?」

「そうさ、君は共に科学を極めようとする同士だと僕は考えていたというのに、錬金術なんて魔法に魅入られてしまうなんて」

「いや、魔法って……」

 

 俺がツッコミを入れる前にマークさんは二の句を継いできた。

 

「古今東西、魔法使いと科学者は敵対する定めにあるのだよ」

「いや、だから魔法使いじゃなくて……」

「だからこそ、君たちと僕は敵同士となる運命なのさ」

「違うっつーの!」

 

 マークさんの穴だらけの説明を止めるために俺は声を張り上げた。

 そんなマッチ棒みたいな体型じゃなかったらパンチの一つでも入れてたぞ。

 

「なにが、違うのかな?」

「いや、だからな、とりあえず……トトリちゃんお願い」

「え? あ、はい」

 

 今度投げっぱなしジャーマンでも覚えようかな。

 

「そ、それじゃあ説明しますね」

 

 そう言ってトトリちゃんは錬金術は魔法ではないことを説明した

 

 

…………

……

 

 

「なるほど、つまり錬金術は学問で学べば誰でも扱える代物だと」

「そういうことだな、わかったか?」

「君は何も説明してなかったと思うのだけどね」

 

 マークさんの一言がなければ、途中で説明を交代したように見えるかもしれなかった。

 

「しかし、なら何故この国に錬金術師というのは3人……いや、アカネ君も入れて4人しかいないんだい?」

「それはですね……」

「ここばっかりは俺が説明しよう」

 

 つい数週間前にあの辛い時間を過ごした俺にとってこの役だけは譲れない。

 

「ロロナ・フリクセル師匠は! 教えるのが! 下手! なんだー!」

「な、なるほどね」

 

 俺の魂の叫びにあのマークさんでさえ若干引いていた。

 本当なら小一時間話したいところだが、今回は我慢しておこう。

 

「指導者不足か……それはどの分野にも共通して言えることだね」

「ですよねー」

「わ、わたしにはわかりやすかったんですよ」

「……やっぱり」

 

 前々からこの子は素で師匠の教え方を褒めてると思ったが、ここにきて確信した。

 トトリちゃんは天才肌です。

 

「しかし、そうか……てっきり魔法使いの類かと思っていたけど、実際はこの国の自称科学者たちとそう変わらないのか」

「あれ? でも、錬金術と違って機械は結構いろんな所で見ますけど」

「それは、あれだ。使えるってだけで構造をしろうとしていない……だっけか?」

「手短に言うとそうなるね、いや、しかしすまなかったね」

 

 そう言うとマークさんは姿勢を正してこちらを真っ直ぐと見つめてきた。

 

「とにかく、全ては僕の誤解だった。すまない、この通りだ」

 

 マークさんが頭を下げて謝ってきた。

 

「そんな、別に謝らなくても、わたし全然気にしてませんから」

「俺もだ、頭をあげてくれ友人が頭下げててもいい気しないからな」

 

 一応年上の方だから流石に戸惑ってしまう。

 

「それは助かる、これから同志となるのに最初からぎくしゃくした関係ではやりづらいからね」

「ん? 同志? なぜに!?」

「何でも何も、さっきそこのお嬢さんが科学と錬金術、分野は違えど目指す方向は同じと言ったじゃないか」

「え!?い、言いましたっけ?」

 

 流石は異能の天才科学者、解釈の仕方が常人とは違うぜ!

 

「こほん、お嬢さんは困ったことがあったらいつでも声をかけてくれてかまわないよ。その時は全力で手伝いをしよう」

「え、そ、それは助かりますけど、いいんですか?」

「もちろんさ、それじゃあいつでも呼んでくれたまえよ」

 

 そう言ってマークさんは笑いながらアトリエの外に出ていった。

 

「マークさんっていつも突然ですよね」

「天才ってのはみんなあんなもんなんじゃないか?」

 

 あんな性分じゃなかったら俺の自転車なんて完成させようがないだろうし。

 

「ま、なんだかんだで平和に終わったからいいじゃないか」

「そうですね」

「平和が一番だなー」

 

 本当に最近は爆発以外平和だ。

 冒険者の仕事も楽しいけど錬金術師もいいかもな……。

 

 


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