砂漠の紅一点
「熱い……頭痛い……」
「ぷに~」
照りつける太陽に熱い空気おまけにほぼ一色の殺風景。
今は二月、俺がこっちに来てからほぼ一年、ついには砂漠にまで来ることになった。
「ああ、早く出てこい、砂漠の魔物さんよー」
普段の俺だったら、自分からこんな所には来ないんだが、とある事情があるのさ。
一言で言うなら、トトリちゃんブロンズ、俺ブロンズ。
ちょっと気を抜いたらこの有様だよ!
クーデリアさんにこの事実を聞いて、俺はランクアップするためにボスモンスターの討伐に来た訳だ。
「ぷにの新技と俺の新武装があればいけるはずだ」
「ぷにに?」
「大丈夫だ。二、三ヶ月なら、まだ新と言ってもいい……よな?」
うん、いけるいける。
「しかしなぁ、この寂しい風景はなんとかならんもんかね?」
見渡す限り茶色系統、偶に緑とかピンクがあるくらいだ。
「……ん? ピンク?」
「ぷに?」
遠くの方にポツンとピンク色の点があった。
「これを見に行かなかったら冒険者とは言えないな」
「ぷに!」
どうしよう……。
「きゅう~」
「ピンク色は行き倒れの人だったでござるの巻」
「ぷに! ぷに!」
ぷにがボケてる場合じゃないと言ってくるので仕方ない。
「大丈夫……じゃなさそうな」
うつぶせに倒れているので、ひっくり返してみる。
「うう、みず~」
「む、意外と可愛いな」
それは俺と同い年くらいで、赤みがかった茶髪を持つ少女だった。
この格好にデジャヴを感じるのは何故だろうか?
疑問を抱きつつも俺はポーチから水を取り出した。
「ほれ飲め飲め」
俺は口元に水を持っていき、水筒を傾けて飲ませてやった。
「…………」
「んー、さっきよりは良さそうか?」
たぶん熱中症だろうから、後は日陰にでも入れとけば……。
「日陰がない!」
砂漠にはそうそう日陰なんてないし、そもそも涼しくない。
「どうする? ぷに」
「ぷにに!」
ぷにが飛びあがって俺の背中にぶつかってきた。
「担げと?」
「ぷに」
ぷに先生はとてもフェミニストなようだ。
「まあ、見つけたからにはしょうがないな……よっと!」
俺はおもむらに少女を担ぎあげた。
持ち方は米俵を持つ感じのアレだ、肩に乗せて腕を回すアレ。
「細いし軽いしやわかいな……疾しい事は考えてないぞ」
ぷにが白い目で見てくるの訂正しといた。
まあ多少役得ではあるが。
「とりあえず、砂漠を抜けるか」
ここからなら、少し歩けば砂漠を抜けられるハズだ。
数時間歩いて、やっと草木がある場所まで来た。
「よっと」
俺は少女を木陰の下に降ろした。
うむ、顔の赤みも少し引いてるな。これなら後はここで休ませてればいいだろう。
「ふう、やっぱこっちは涼しいな」
砂漠はダメだ、あれは普通の人がそう長く居ていい場所じゃない。
「少し休むもう、見張り頼めるか?」
「ぷに」
ぷにも了承してくれたので、俺は木に腰掛けて少し仮眠を取ることにした。
「おやすみ~」
「ぷに」
………………
…………
……
「あの~」
ゆっさゆっさ。
「起きてくださ~い」
ゆさゆさ。
「ううん?」
どうやら俺は揺すられているようだ。
「誰?」
「あ、やっと起きた」
俺が目を開くそこには、あのピンクの少女が立っていて俺の事を見下ろしていた。
「む、起きても良いのか?」
「はい、おかげさまで」
「そうか、なら良かった」
俺の予想に反して彼女は随分と元気なようだ。
俺は立ちあがって自己紹介をした。
「俺はアカネ、見ての通り冒険者だ」
格好は未だにジャージで締まらないが。
「あ、私はロロナです。助けていただいて本当にあり「ロロナだと!」ひゃう!?」
目の前の少女は驚きの名前を口にしてきた。
「もしかして、あれか?稀代の錬金術師でクーデリアさんの親友で、トトリちゃんの師匠な、あの!ロロナ先生か!?」
「は、はい! そうですけと、トトリちゃんの事知ってるんですか?」
「……ジーザス」
少なくとも俺の考えていたロロナ先生は行き倒れたりしないし、ピンクでもないし、ひゃう!?なんて言ったりもしない。
「えっと、どうかしましたか?」
俺の視線に違和感を覚えたのか、ロロナ……さん?が声をかけてきた。
「いや、あの、ええと」
どっちだ……普通に話すのと敬語で話すのどっちが正しいんだ。
「け、敬語の方がいいですか?」
「え? 好きに話してくれてかまいませんよ?」
「そ、そうか、それじゃこっちで……」
とりあえず今までの魔王の様なロロナ先生は俺の脳内から抹消しておこう。
「さっきの質問だけど、トトリちゃんは俺の後輩なんだよ」
「後輩? 何のですか?」
「冒険者での後輩だ。なかなか頑張ってるぞ」
俺を追い越しかけるくらいには。
「わあ、トトリちゃん冒険者になったんだ……あれ、それじゃあ錬金術やめちゃったんですか!?」
分かりやすいくらいに慌てて、一歩詰め寄ってきたロロナさんにたじろぎながらも俺は口を開いた。
「い、いや普通にいっつも錬金術は使ってるけど」
「そ、そうなんですか、よかった……。でもなんで、冒険者になったんだろう?」
「……そういや、聞いたこと無かったな」
俺が目的なしのせいで忘れてたが、トトリちゃんには目標があるのかもしれない。
「でも冒険者かー、アカネさんみたいな先輩さんがいれば安心ですね」
「う、うむ、当然だ」
やばいかわいい。レベルで言うと、トトリちゃんレベル。
「と、ところで、何であんな所で倒れてたんですか?」
「あ、それは、その、水を落っことしちゃって……」
「それじゃあ、すぐに砂漠を出ればよかったんじゃないか?」
「その、道に迷っちゃいまして……」
とりあえずドジッ娘属性を追加しておこう。
ただ俺が通りがからなかったらと思うとぞっとしないが。
「まあ、だいたい分かりました。それにしても……」
俺はロロナさんを下から上までジロジロと観察した。
身長は平均的、容姿はかわいい、胸はそこそこ、口調も穏やか、行き倒れ。
とてもじゃないが、稀代の錬金術師様には見えなかった。
「あの~、どうかしましたか?」
ロロナさんが困ったように俺を見上げていた。
……もしかしなくても変態っぽかったか?
「いや、失礼かもしれないがイメージと違ってな」
「あはは、よく言われます」
やっぱりか。
「まあ、でも、トトリちゃんの師匠っていうのは納得できるかも」
「ほ、ホントですか!? 私、先生っぽいですか!?」
「まあ、トトリちゃんの先生としてはかなり合ってるんじゃないか」
主に癒し空間的な意味でだけど。
「ちなみに、錬金術って誰でも教えられるのか?」
「もちろんですよ。ちゃんと教えられたのはトトリちゃんだけですけど……」
苦笑いでそう返してくるロロナさん、教えるのが苦手なのかね?
「ちなみに俺に教えてくれたりは?」
「もちろんいいですよ。助けてもらったお礼もしたいですし」
「うしっ!」
思わずガッツポーズしてしまった。
だがこれでやっと、不思議パワーを手に入れれる。
「それじゃあ、今度アトリエで待ってますから」
「えっと、それって私のアトリエですか?」
「はい。今はトトリちゃんが使ってるんですよ」
「あ、そうなんだ。それじゃあ、トトリちゃんにも会えるかな?」
偶に口調が素に戻るのに若干のシンパシーを感じた。
「あ、でも、今トトリちゃん村にいるんだっけかな?」
「え、そうなんですか」
途端にロロナさんはしょんぼりしてしまった。
子離れもとい弟子離れができていないのだろうか。
「ま、まあ、でもクーデリアさんに会えるじゃないですか、帰ってこないって怒ってましたよ」
「あ、やっぱり……そろそろ一度帰らないとなあ」
「それじゃあ帰ってきたらクーデリアさんにでも伝えといてください、会いに行きますから」
「はい! また今度お会いしましょうね」
「そん時は今どっか行ってる俺の相棒も紹介しますよ」
「それじゃあ、今日は助けてもらって本当にありがとうございました!」
そう言って、ロロナさんはアーランドの方向に歩きだした。
「ぷにに」
「ん?ぷにじゃないか、どこ行ってたんだ?」
「ぷにぺっ!」
ぷには口から水筒を吐き出した。
「ああ、水汲みか、あんがとな」
「ぷに!」
「さっきのあの人な、ロロナ先生だったんだぜ」
「ぷに!?」
ポーカーフェイスなぷにが珍しく驚いた顔をした。
「んでな、錬金術を教えてもらえることになったんだ」
「ぷに~」
「と言う訳で、とっとと砂漠の魔物を倒しに行くぞ!」
「ぷに!」
ちなみにこの後、砂漠の魔物はぷにダイブ5発くらいで沈んだ。
ベヒーモスっぽいのを倒すぷに……最強じゃね?