アーランドの冒険者   作:クー.

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小悪党な俺

「…………」

「…………」

 

 アトリエには、パラパラと本をめくる音と釜をかき混ぜる音が響いている。

 

 今日の俺は珍しく読書をしていた。

 本は格闘の指南書みたいな感じのものだ、読んでみると結構タメになる。

 

「…………ふぁ」

 

 かと言って暇なのが変わる訳じゃない。

 折角合流したミミちゃんと後輩君が出かけてしまったので退屈しているのだ。

 

 

「できたー!」

 

 欠伸をしていると、トトリちゃんの元気な声が響いた。

 

「お、やっとできたのか?」

 

 最近はトトリちゃんの錬金術の生成物がランクアップしてきている。

 前にダイナマイトっぽいのを作ったにはビビった。

 

「はい!お待たせしました」

 

 トトリちゃんが釜から鉄の塊の様なものを取り出した。

 

「これが噂に聞くインゴットか」

「はい、これでアカネさんも武器を作れますね」

 

 事の発端としては、数日前に『第一回明音強化会議』をやった事だ。

 単純にそろそろ、もう少し強くならなくちゃヤバイと思いやったのだが……。

 

 『手に付けれる武器なんてどうですか』

 

 このトトリちゃんの発言で会議は数秒で終わってしまった。

 

 まぁ、それでインゴットを作って親っさんの所に持っていくことにしたのだ。

 

 ちなみに親っさんというのはとある武器屋のおっさんのことだ。

 本名はハゲル。俺の数倍の筋肉を持っているという説明で十分だろう。

 

 

「んじゃ早速行くか」

「はい!」

 

 俺はトトリちゃんと一緒にアトリエを出て行った。

 

 

 

 

 

 

「へい、らっしゃい!」

「こんにちわ~」

「どうもー」

 

 武器屋の扉を開くと、野太い声で出迎えられた。

 そこには正しく筋肉の塊の様なおっさんが座っていた。

 

「お、嬢ちゃんに兄ちゃんじゃねえか、今日は何の用でい」

「あ、はい。インゴットを作ってきたから、ハゲルさんに武器を作ってもらおうと思って……」

「おお! ついに嬢ちゃんも新しい武器を使う時が来たのか !いつまでも師匠の杖じゃ格好がつかないからな!」

「い、いえ、私じゃなくてアカネさんですよ」

 

 トトリちゃんがそう言うと親っさんは不思議そうな顔をした。

 

「そこの兄ちゃんは確か素手じゃなかったか?こないだも冷やかしで帰りやがったし」

「あはは……」

 

 俺は笑いながら、頬をかいた。

 前に興味本位でここに来たのだが、そのときは武器なんていらんと思って早々に帰ったのだ。

 

「いやあ、そろそろ素手じゃ辛くなってきたんですよ」

「それは分かるけどよ、何の武器を作ればいいんだ?」

「メリケンサック一択ですよ」

 

 拳系の武器で熟練度を上げなくても使える武器なんて、俺はこれ以外に知らない。

 問題としては親っさんが知ってるかどうかなんだが……。

 

「? メリケン、何だって?」

「ですよねー」

 

 大体予想通りだったので、俺は腰のポーチから自作の絵が描かれた紙を取り出した。

 トトリちゃんがインゴットを作っている間に俺はこいつを頑張って書いていたのさ。

 

 俺は親っさんに紙を手渡した。

 

「む、こいつあ……」

「無理ですかね?」

 

 現代世界ではこんな物とは無縁の存在だったので、製造方法なんて知るはずもない。

 正直な話、あまり期待はしていなかったりする。

 

「やっぱ、無理ですよね……」

「あん!? 俺が何年武器を作ってっと思ってんだ! ちょっと待ってろ!」

 

 俺の無理発言に火がついたのか、トトリちゃんからインゴットを受け取ると早速作業に取り掛かっていた。

 

 

「以外にできたりする?」

「でもこの武器ってどうやって使うんですか?」

 

 トトリちゃんが俺の絵が描かれた紙を見て尋ねてきた。

 

「ああ、そこの4本の穴に指をはめて、その下の所を握って……殴る!」

「それだけですか?」

「シンプルイズベスト、単純明快」

「アカネさんらしいですね」

 

 完全に被害妄想なんだが、バカって言われた気がした。

 

 

 

 

 待つこと数時間。

 

 

 

「できたぞ!なかなかの自信作だ!」

「早っ!」

 

 あれ? 武器って作るのこんなに早いのか?

 

「まぁ、とりあえず」

 

 俺はハゲルさんからメリケンサックを受け取って両手にはめ込んでみる。

 

「…………」

 

 マークさんもそうだが、この世界の職人はレベルが高すぎる。

 

 出来栄えは昔見た物と同じ。完全に現代の物レベルだった。

 ただ一つ、違いがあるとしたら……

 

 

「このトゲなんですか?」

「そっちの方が強そうで良いかと思ってな」

 

 はめ込む穴の所に小さなトゲが付いていた。

 確かに威力は上がるだろうけど、何といか……。

 

「アカネさん、何か悪そうです……」

「俺もそう思ってたところだ」

 

 完全に漫画に出てくる小悪党状態だった。

 

「まぁ、うん、流石ですね」

「当り前よ! 今度はさらにすげえモン作ってやんよ」

 

 これ以上凶悪にしたら、いろいろとマズイ気がするのだが。

 

「あはは、それじゃあ、またよろしくお願いしますよ」

「おう! また来いよ!」

 

 俺は武器を持って上機嫌に店を出た。

 

 

 

 

 

 

【オマケ】

 

後輩君の場合

 

「おお! 先輩、それ強そうだな!」

 

純粋に褒めてくれる。

 

 

ミミちゃんの場合

 

「それつけたまま、私に近寄らないでくれるかしら」

 

ですよねー。

 

 

クーデリアさんの場合

 

「武器なんて銃があれば他にいらないじゃない」

 

遠距離派だった。

 

 

フィリーちゃんの場合

 

「きゅう……」

「ちょ! 気絶!? ドクター!」

 

お互いの心臓に悪い。

 


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