アーランドの冒険者   作:クー.

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アーランド行きの冒険

「よし、アーランドに行くぞ」

「ぷに」

「はい」

 

 あれから三ヶ月が経ち十月になった。

 俺が来てから七ヶ月、トトリちゃんが冒険者になってから四ヶ月くらいか……。

 

 つい前までは、もうすぐ半年とか言ってたのに、時の流れは本当に早いな。

 冒険者の仕事してると一ヶ月がやたらと短く感じてしまうから困る。

 

 

 まあ、そんなこんなあって、ポイントが貯まった俺は、アーランドに行くことにしたのだ。

 もちろんトトリちゃんも一緒にだ。

 移動方法は馬車が直っていないので、俺の自転車を使用する……はずだった。

 

 

「先輩?どうしたんだ?」

「何、うなだれてんのよ、先に行くわよ」

 

 

 主にこの二人のせいで、俺は歩きで行くことになったのだよ。

 チッ! 無駄に時間かかってしまう。

 プラス、些細な事だが、青少年の夢、可愛い女の子と二人乗りが出来なくなってしまった。まあ、些細な事だよ、うん。

 

 今度マークさんに車の話でもしてみるか……いや、やめとこう、ガチで作りそうだ。

 

 

「はあ、俺を置いてくなよ~」

 

 俺はため息をつきつつも、先に行ったちびっ子三人組を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「黄金平野なう」

 

 一週間程度歩いて、俺たちは黄金平野と呼ばれる場所に着いた。

 

 名の通り、小麦が育てられており、他にも果物があったりヤギがいたりの農場だ。

 

 

「わあ、材料になりそうなのがたくさーん!」

「……良いのかな」

 

 トトリちゃんは小麦やら、何やらを採っている。

 私有の農場じゃないだろうし、良いよね?

 

 俺が三人を眺めていると、ヤギがいる方に向かっていた。

 

 

「ヤギさーん、ミルク絞らせて~。ミミちゃんもやってみる?」

「何で、貴族の私がそんなことしなくちゃいけないのよ」

「んじゃオレオレ、トトリ、俺がやるよ!」

 

 

 

 わいわいと楽しそうな三人、なんと言うか。

 

「……元気だなあ」

 

 一方俺は柵に腰掛けて休んでいた。

 こうしていると、あの三人の保護者にでもなった気分になってしまう。

 

「ばあさんや。子供たち元気だのお」

「ぷに~」

 

 まったり、まったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、ここは……どこかなう」

 

 あれからさらに一週間程度、俺たちはとある平野の遺跡チックな所に来ていた。

 ちなみにミミちゃんと後輩君は別行動だ。二人とも冒険者なので、それぞれ埋めるべき地図の道などがあるらしい。

 俺は前戻ってくるときにあらかた埋めたので、トトリちゃんのお伴をしている。

 

「地図には埋もれた遺跡って載ってますよ」

「遺跡、あんまりテンションが上がらんな」

 

 何というか、古いものが適当に放置されてるって感じでいまいち遺跡っぽさがない。

 遺跡と言ったらやっぱり古い洞窟の中とか、大神殿みたいところとかの方が好ましい。

 

「おや、君は……」

 

 周りを探索していると、遺跡の柱の様なものの影から、聞き覚えのある特徴的な声がした。

 

「マークさんじゃないか、久しぶりだな」

「違う! 異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインだ!」

 

 久しぶりにあった俺たちは、前とまったく同じやり取りをした。

 こういう所にいるのを見ると、一応冒険者なんだなって思うな。

 

「えっと、アカネさんのお知り合いですか?」

 

 トトリちゃんが不思議そうな顔をこちらに向けて尋ねてくる。

 

「ああ、俺の盟友だな」

「その通り、僕はマーク・マクブライン。人は僕を異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインと呼ぶのさ」

「ぷ、ぷろへっさー、まくぶらいん?」」

 

 トトリちゃん、君そんなに横文字弱くないだろうに……。

 

「違う! 異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインだ!」

「えっ! そこからですか!」

 

 トトリちゃんが完全に翻弄されていた。

 もはやテンプレだな、このやり取り。

 

「はい! もう一回!」

「は、はい! いのーのてんさいかがくしゃぷろふっさまくぶるる……うう、言えない」

 

 やっべえ、目の前にものすごくかわいい生き物がいる。

 

(マークさん!グッジョブ!)

 

 とりあえず、心の中で褒めておいた。

 俺がそんなことをしている間にも二人の会話は続いていた。

 

「ふふ、どうだい。名前だけでもすごそうだろう」

「はい、言えないくらいすごいです……あ、そうだ。私の名前は……」

「ああ、続きはまた今度にしよう、あまりゆっくりしてると……」

 

 マークさんが珍しく語尾を濁した、何かあるのか?

 

「……ん?」

「おや、どうやら追いつかれてしまったようだね」

 

 パタパタ翼を羽ばたかせて遺跡の影から、角を持ち羽を持ついかにも悪魔らしい奴らが出てきた。

 

「何あれ……」

「実はこの遺跡を守っているモンスターに追われていてね。それでは、失礼するよ」

 

 そう言うと、走ってどこかに逃げ去ってしまった。

 ……盟友(笑)

 

 

「ええい、とにかく行け! ぷに!」

「ぷに!」

 

 とりあえず、倒しておこうとぷにに指示を出した。

 いつも通り軽く倒してくれるだろう。

 

「ぷに!?」

「オーマイガー」

 

 体当たりをしたところで、ぷには悪魔の一匹に叩き落されてしまった。

 

「あ、アカネさん! どうするんですか!?」

「任せろ、逃走経路を割り出すのは得意だ」

「うう、やっぱりー!」

 

 トトリちゃんは涙目になりつつ、走って俺の後を付いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ここまで逃げればいいだろう」

「うう、酷い目にあった……」

 

 互いに腰を落として肩で息をしている惨状。

 奴らは俺たちが逃げている間に諦めてくれたようだ。

 

「はあ、俺がもうちょい強ければなあ」

 

 主にトトリちゃんに情けないところを見せずに済んだ。少しの割合でぷにを連れて逃げれたという後悔の念がある。

 

「き、気にしないでください。冒険者は強さだけじゃないと思います!」

 

 トトリちゃんのまっすぐなまなざし。

 アカネにクリティカルヒット!

 

「ガハッ!」

「あ、アカネさん!? 大丈夫ですか!?」

「オーケーオーケー、持病みたいなもんだ」

「は、はあ?」

 

 トトリちゃんは本当に恐ろしく優しい子やで。

 でも今だけはその綺麗なまなざしを向けないでくれ……。

 

「とりあえず戻るか」

「は、はい。シロちゃん大丈夫かな……」

「大丈夫だって、危ないのは俺だから」

「アカネさんがさっきからよくわかりません……」

 

 そんなに困った顔をしないでくれよ。

 単純にこの後、俺がぷにの怒りタックルを食らうってだけだ。

 

 

 その後戻って、結果として俺はモロに食らった。

 最近、打たれ強くなってきた気がするお。

 

 

 

 

 

 

 

「長い道のりだった」

「ぷに」

 

 大抵のモンスターは、ぷにが倒してくれたから楽だったけどな。

 

「ジーノ君とミミちゃん、もう来てるかな?」

「あいつらの地図見た感じだと、着くのは最低でも明日辺りになると思うぞ」

 

 あ、なんか今の発言先輩冒険者っぽかった。

 

「そうですか……」

「まぁ、先にギルドに行って手続き使用しとこう」

「はい!」

 

 気を取り直して、俺たちはギルドに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「今日は場所の変更が多いな」

「? どういうことですか?」

「こっちの事情です」

「ぷに」

 

 どうやらぷにはわかってくれるらしい。

 

 若干怪しい発言をしつつも俺たちはカウンターに近づいた。

 

「マスター、いつもの」

 

 声を低く作り、俺は懐から免許を取り出して差し出した。

 

「誰がマスターよ、言っとくけど全然渋くないわよ」

「ハードボイルド的なアレはなかったですか?」

「ぜっんっぜん」

 

 正しくお笑いだぜといった視線と表情で嘲笑うクーデリアさん。

 

 俺は所詮ギャグキャラの様です。

 

「あら、トトリもいたの」

「あ、はい。お久しぶりです」

「わざわざ遠くからお疲れ様、大変だったでしょこんなバカと一緒で」

 

 一転して笑顔で労わって優しさ満載一割罵倒の発言に切り替わる。

 ……泣いた

 

「そんなことないですよ。アカネさんといると楽しいですから」

「…………」

 

 嬉しいけど! 嬉しいけどさ、そこは頼りになりますからの方が嬉しかった!

 

「そこは否定しないけどね。それよりも、ランクアップの手続きね」

「あ、はい。お願いします」

 

 トトリちゃんはカバンから免許を取り出して、クーデリアさんに渡した。

 

「それじゃ、ちょっと待ってなさい」

 

 クーデリアさんが奥の書類だなから、功績一覧(俺命名)を持ってきた。

 

 

「どきどき」

 

 

 トトリちゃんがクーデリアさんの書類を食い入るように見つめいている。

 

 最近この子は俺のことを萌え殺そうとしているんじゃないかと思える。

 どきどきとか、もはや狙ってるとしか思えん。

 

 

「はい! おめでとう、二人とも無事にランクアップよ」

「やったー!」

「ぷにに!」

「ふん、当然だな」

「そこのハードボイルドなお方、早く取って頂戴」

 

 クーデリアさんが腕を伸ばして、俺に免許を差し出していた。

 

「ういーっす」

 

 受け取った免許を見てみると今度は宝石の部分が銅になっていた。

 

「これは次が銀で金になると見た」

「よくわかったわね」

 

 クーデリアさんが驚いた顔をしている。

 まぁ、ゲーム脳的には当然の事だよね?

 

「そういえば二人はこの後どうするのかしら」

「えっと、ジーノ君たちを待ってから、その後村に帰ります」

「そう、考えてみれば免許の更新のために、わざわざここまで来るのは大変よね」

「これはもうアーランドに住むしかないな、うん、それがいい」

 

 俺の灰色の脳細胞が圧倒的にすばらしい案を出してみる。

 

「住むなんて、そんなお金ないですしそれに私、錬金術がないと冒険者らしいこと何もできないですし」

「まあそうよね、ロロナだって錬金術がないとひ弱で役立たずで、ちょっとおバカな女の子ってだけだし」

「そんなところが、かわいいと?」

「まあ、そうなんだけど……って! 何言わせんのよ!」

 

 前半今までに見たことないくらい良い笑顔だったな。

 ……やっぱり、ミミちゃんとクーデリアさんって似てるわ。

 

 クーデリアさんは咳払いをして話を続けた。

 

「おほん! そうね、ロロナのアトリエに住んだら良いんじゃないかしら」

「え? 先生のアトリエを?」

「ええ。あそこならお金もかからないし、錬金術もできるでしょ。一石二鳥じゃない!」

 

 そうしなさいそうしなさいと全力でプッシュし出すクーデリアさん。

 これは裏があるような気が……いやまあ、んなことないよな。

 

「え、で、でも、勝手に使ったら怒られるんじゃ……」

「あたしが良いって言ってんだからいいのよ。大体、あの子が怒るはずないでしょ」

「はあ、でもクーデリアさん、どうして私のためにそこまでしてくれるんですか?」

「そ、それはあんたがあの子の弟子だからよ」

 

 まぁ、確かに錬金術師は希少らしいし、親友の弟子だもんな。

 やっぱりクーデリアさんは単純に面倒見のいい人ってことだな。

 

「べ、別に、あんたがここで働いていれば、ロロナが偶に戻ってくるんじゃないかなとか、そんなこと全然期待してないし……」

「ガッカリだよ!」

「な、何がよ!」

「自分の胸に聞いてみろ!」

 

 数秒目の自分を殴ってやりたい、この人は真性のツンデレだと!

 

「はあ、俺は宿取りに行ってきます。トトリちゃん、アトリエには明日遊びに行くわ」

「え、アカネさんもアトリエに泊ればいいんじゃないですか?」

「…………」

 

 脳内で火花が散った。

 

(脳内)

A「これって誘われてんじゃね?」

B「バカヤロー!トトリちゃんの信頼心の現われに決まってんだろうが!」

A「でも、いろいろとチャンスじゃね?」

B「……一応聞いてやろうじゃないか」

A「公然と」

B「公然と?」

A「寝顔を」

B「寝顔を……」

AB「見られる!」

 

 

「ぷに!」

「ぐはっ!」

 

 ぷにが俺の邪な心を感じ取ったのか、ボディにタックルしてきた。

 

「……俺はいったい、何を考えていたんだ」

「ぷに」

「すまない、苦労をかけるな」

「ぷにに」

 

 あやうく悪魔の誘いに乗ってしまいそうだった。

 トトリちゃん、なんと言う策士なのだろうか。

 

「あの、アカネさん?」

「ああ、やっぱり俺は宿に泊まるわ」

 

 トトリちゃんと一つ屋根の下って、震えるぞハートってレベルじゃないからな。

 

「そうですか、わかりました」

「うむ。ああ、そうだクーデリアさん。ジーノ君とミミ……あのシュヴァルツラングの子が来たらアトリエに行くように言ってください」

「? あの子も?」

「はい。ミミちゃん、今は私のお手伝いしてくれてるんですよ」

「……ミミちゃん」

 

 なにやらクーデリアさんが肩を震わせて俯いている、ツボった?

 

「っくく、ま、まかせときなさい。ちゃんと伝えといてあげるわ」

「よろしくお願いします。んじゃ、俺は一足先に戻ってますね。トトリちゃんまた明日」

「はい。それじゃあ明日待ってますね」

 

 そう言って、俺はギルドから出て行った。

 明日アトリエを見るのが楽しみだな。


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