「くらえ! ゴーストパワーの右ストレート!」
俺はゴースト手袋付きのパンチをペンギンモンスターに向かって振り下ろして倒した。
今日俺はトトリちゃんとミミちゃんの二人と一緒に海岸の方に冒険に出ている。
ミミちゃんとはトトリちゃんの仲介で仲直りしたのだが……
『あんたってトトリの役に立ってるの?』などど言われたので、今日俺はぷにを置いて冒険にきたのだ。
ついでに言うと、アーランドに戻ってから俺が仕事している描写がない気がする。実際にはバリバリ働いているんだぜ。
「どうよ、俺のパンチの威力は?」
一体残して俺は後ろに飛んで距離を取った。
「威力はあるみたいだけど無骨ね。私がお手本を見せてあげるわ」
そう言うとミミちゃんは残りの一体に向けて飛び出した。
「ハッ!」
流れるように横に薙がれた槍でペンギンは切り裂かれた。
「どうかしら?」
「ああ、なんつか、あれだな。技って感じだな」
よく分からなかったが、力任せではなく重心や遠心力を利用した俗に言う匠の技と表現できるものだった。
対して俺は力だな。熟練の技じゃなくてイカサマ手袋でドーピングしてるし。
「うん。ミミちゃんはやっぱりすごいね!」
「と、当然でしょ。私がこの程度の相手に苦戦するはずないでしょ」
「今回ばっかりは素直に褒めとくわ。うん、見直した」
「……あんたに褒められると素直に喜べないわね」
マジで複雑な表情をされた。俺の評価が相変わらず微妙すぎる。
「少しは見直してくれよ。俺は今日ぷにを連れてない素の状態だぞ」
主に手袋以外は、呪いのアイテムだけどかなり使えるんですよこの手袋。
なんつったて、装備して生命力的なものを奪われるたびに強くなっていくんですもん。
「弱くないのはわかったけど……あんた大丈夫なの?」
「わっ! アカネさん顔が青いですよ!?」
「大丈夫、大丈夫。一晩寝れば治るから」
奪われているのは主にHP的な何かだからセーフ。寿命だったらさすがに使えない。
大丈夫だろう、うん、そういうことにしておこう……。
「全然攻撃くらってないのに、なんでそんなに弱ってるのよ……」
「そういえばアカネさんって打たれ弱かったですもんね」
「前よりは改善されてるよ。こっち来てから戦いが多くてな」
まぁ、原因はそこだけじゃないけど。
「そういえば、アカネさんのいた所ってモンスターいないんですか?」
「いないいない。とっても平和」
こっちの方がいろいろと退屈しなくて楽しいけどね。
「何? あんたアーランドの出身じゃないの? というかモンスターのいない所なんてあるのかしら?」
「それがねミミちゃん。アカネさんはね、海を渡ってこっちに来たんだよ!」
「……は?」
ト トリちゃんの言葉でポカンとした顔になった。
「こ、こんなのが? う、嘘でしょ?」
「ホントだよ。そうですよねアカネさん」
「ホント、ホントダヨ」
海を渡った除けばね~。正直この展開はもう飽きたぜ。
「変な恰好してると思ったらそういうことだったのね」
「ういうい。まぁ、話はこれぐらいにしてそろそろ行こうや」
「あ、そうですね。モンスターがいない内に材料取っちゃわないと」
そう言い、材料が取れる場所にトトリちゃんは向かった。
「んじゃ俺は休むとするかね。砂浜だと周りの警戒しなくていいから楽だわ」
「気楽なものね。まぁ、休めるうちに休んでおきましょ」
俺とミミちゃんは砂浜に腰を下ろした。
「…………」
「…………」
「そいや、ミミちゃんは何で冒険者になったんだ?」
なんとなく寂しかったのでミミちゃんと会話をすることにした。
「は? 何よいきなり、それに何であんたまでその呼び方を……」
「まぁまぁ良いじゃないか。これはあれだ。世間話。で、なんでだ?」
「あんたに言う義理はないわよ」
取り付く島もないとはこの事だ。
ただ俺は無言で二人きりでいるのは耐えられないので、次の話題を振ろう。
「んじゃ、子供の頃の話とか」
「余計に要求が高くなってるじゃないの」
「将来の夢」
「却下」
「ぶ~、だったら何が良いんだよ」
「あんたと話すほど仲が良い覚えはないのだけれど」
どうやら、ミミちゃんと会話コマンドを実行するには好感度が必要らしい。
会話しないと好感度が上がらない、なのに会話できない無限地獄と言う訳だな。
だったらまあ逆に……。
「んじゃ、ミミちゃんから俺に聞きたいこととか」
「別にないんだけど」
「何かあるだろ。海の向こうはどうなってるの? とか」
聞かれたら聞かれたで、表現を濁しながら会話することになって疲れるけど。
「……そうね。それじゃ、一つ聞いてもいいかしら」
「なんなりとどうぞ」
「あんた海の向こうから来たらしいけど、何か目的があったの?」
おお、やっとこの質問をしてくる人が……。
みんな何故かこれについては聞いてこなかったんだもんな。
「一言で言うなら、事故だ」
「事故?」
「そう、俺の意思でこっちに来たわけじゃない」
「……どうやったら、事故で海を渡ってこれるのよ」
「うむ。そこは気にするな。とりあえず一つ言えることとしては目的はないってことだ」
現状は冒険者やって皆と楽しく暮らすくらいだろうか。
「あんたから話したいって言ったのに訳分からない事言わないで頂戴」
「だってねぇ」
いまだにこっちに来た理由が解明されてないんだもんな~。
時空転移の古代装置みたいな物もなかったし、ありそうにないし。
「俺がここにいる。それだけで十分だろ?」
「何でも聞いてこいって言ったのに、何よそれ」
さっきからミミちゃんはうなだれてばかりだ。
微妙に答えづらい質問だったからな、仕方ない。
「オーケー、次は真面目に答えてやんよ」
何でもこいと、俺は親指で自分を指す。
「仕方ないわね」
そう言い、ミミちゃんは少し考え込んでから言った。
「……家族は、どうしてるのかしら」
「家族? まぁ、元気でやってるんじゃないか? 俺が居なくたって弟と妹がいるし」
良い親と良い兄弟だったが、こっちに来てからあまり考えることがなかったな。
「寂しかったりしなかったのかしら」
「う~ん。寂しがる余裕がなかったと言うべきだな。初めは働かなければ金がない状態だったし」
「そうなの。それじゃあ家族の方はどうかしら?」
「あ~。うん元気でやってるんじゃないか?」
原因不明の行方不明とかになってたりするのかね。
もしかして帰ったらオレって一躍有名人じゃね!?
『行方不明の高校生数年ぶりに発見』
こんな感じのタイトルでワイドショーに出ちゃったりとか!?
「ありだな」
「なにがよ」
流れるようなツッコミに若干感動した。
しかし、今の俺の思考って……。
「俺は意外と薄情な人間なのかもしれない」
「家族置いて出てくなんて薄情以外の何物でもないと思うのだけれど?」
「おっしゃる通りで、いつか帰りたいもんだね」
「そういえば、船とかはどうしたのかしら?」
「ブロークン。壊された」
もともと無い物を壊すのは骨が折れそうだけどな。
「そうなの」
そう言うとミミちゃんは少し暗い顔になった。
「まぁまぁ! おかげで俺はかわいい女の子たちと知り合えたわけだけどね!」
主にツェツィさんとかパメラさんとか。
「……少しでも同情した私がバカだったわ」
「少しでも同情されたことに驚愕した」
これは俺に対する好感度が少しは上がったと思っていいのだろうか。
「……はぁ、結局あんたはあんたってことね」
「どういう意味だよ?」
「第一印象通りってこと」
「その第一印象を聞きたい……と言いたいところだが聞かない方が良さそうだな」
主に俺の精神的な意味で。
絶対ダメ人間とかその類のものだろ。流石にわかっちゃうわ。
「お待たせしました」
その後もそこそこ会話してるとトトリちゃんが採取を終わって戻ってきた。
「うむ。お疲れ様。良い材料は手に入ったか?」
「はい! たくさんありましたから」
何を採っていたかはわからないが、良いものが入ったなら良かった。
「…………」
「なによ?」
「なんだいな?」
トトリちゃんが俺とミミちゃんの顔を交互に見ていた。
「二人とも、仲良くなったんですか?」
トトリちゃんが嬉しそうな笑顔で良い事を言ってきた。
「もちろんさ。二人は仲良しだよな!」
「何言ってんのよ」
俺のハイテンションも凍りつくほどの冷たい反応だった。
「まあ、裏表のない奴ってことはわかったわね」
「遠回しにバカって言ってないか?それ」
「気のせいよ」
そんな俺とミミちゃんのやり取りをトトリちゃんは笑顔で見ていた。
そのトトリちゃんの笑顔を見て思った。
「うん。ありだな」
「ありね。……これでいいのかしら?」
「よろしい」
ミミちゃんと少しだけ仲良くなれた。