アーランドの冒険者   作:クー.

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メンタルブレイク

「よく考えてみるとトトリちゃんいるのかね?」

 

 昼ごろに宿屋を出て、俺たちはトトリちゃんの家に向かっていた。

 ただ、今やトトリちゃんも冒険者だ。

 いつもいつも家にいるとは限らない。

 

「よし。方針変更、ゲラルドさんの店に行くぞ」

「ぷに」

 

 そこから数分程度歩いて俺たちはゲラルドさんの店に着いた。

 

「ゲラルドさんの店も久しぶりだな」

「ぷにに」

 

 懐かしみつつも俺は店の扉を開けたのだが……。

 

 

「いらっしゃいませー」

「ん?」

 

 記憶と違い迎え入れたのは、いつものゲラルドさんの声ではなかった。

 

「あれ?ツェツィさん?」

 

何 故かレジの所にツェツィさんがいた。

 

「あら、アカネくんにシロちゃんじゃない。二ヶ月ぶりくらいかしら。いつの間に帰ってきてたの?」

「ああ、つい昨日だけど……何してるんだ?」

「? 何って何かしら?」

「いや、何でゲラルドさんの店のカウンターの中にいるのかってことだよ」

「ああ、そういこと。私一ヶ月くらい前からここで働くとになったの」

「なるほどね~。まぁ、いいんじゃないか」

 

 主にゲラルドさんの店の客寄せ的な意味で。

 俺が酒を飲める年齢なら毎日でも通う勢いだぜ。

 

「それはそうと、今トトリちゃん家にいるか?」

「ええ、いるわよ。ちょうど昨日帰ってきたところなの」

「良いタイミングだったってことか、んじゃ挨拶してくるわ」

「ええ、トトリちゃんも喜ぶと思うわ」

 

 だと良いんだけどな……。

 俺が悪いとはいえ、何も言わずにアーランドに残ったからな……さすがに怒ってそうだ。

 

 善は急げと言うので、俺はそそくさと店を後にしてトトリちゃんの家に向かった。

 

 

 

 

 

 さて、アトリエの前まで来たはいいが……。

 

「何と言って謝ろうか?」

「ぷに」

「寝坊しちゃってと正直に言うのがいいでしょうか、ぷに先生」

「ぷに!」

「アーランドで重大な仕事があったと嘘をついてもいいでしょうか?」

「ぷに~」

 

 ふるふると体を震わせた。

 正直が一番か、いやしかし……。

 

「う~ん」

 

「ちょっと、あんた。邪魔なんだけど」

 

 俺が扉の前で頭を悩ませていると、背後から聞いたことがあるような声が聞こえた。

 

「よう、シュバルツラングちゃん。ここはアランヤ村でムゥ大陸じゃないぜ」

 

 振り返りつつ、俺は現在地の修正をしてあげた。

 想像通りそこいいたのは赤いマントを着た貴族さまだった。

 

「なっ!? あんた!」

 

 俺の顔を見ると親の仇を見るかの様な眼で睨まれた。

 

「よくもあの時は適当なこと言ってくれたわね! 何がムゥよ! 余計な時間使わせて!」

「まぁ待て、一つ教えてやる」

「何よ!」

「俺の言ったことを信じたのが悪い」

「…………」

 

 そう言うと今度はジト目で俺のことを睨んできた。

 まぁでも、あの時点での俺の言うことを信じる方が悪いと思うんですよ。ええ。

 

「……もういいわ。よく考えてみれば、あんたみたいなのに構うほうがばからしいじゃない」

「だがお前は今から俺にいやでも構わなければいけなくなるぜ」

「は? 何で今更あんたなんかに……」

「クックック。位置関係をよく考えてみることだ」

 

 俺がアトリエの扉の前、シュヴァルツラングちゃんが俺の目の前。

 

「そう。俺がここを退かなければ、ここには入れないのさ!」

 

 今から何をするか考えると胸が躍るな。

 

「…………バカだとは思ってたけど、ここまでとはね」

「なんだと?」

「一生そこに突っ立ってればいいんじゃないの」

 

 そう言い捨てると、彼女は隣にある扉。リビングに入る方の扉を開けて家に入った。

 

「…………」

「ぷに」

 

 ぷにが慰めるように俺の頭で跳ねている。

 

「まだだ!」

 

 俺は閃光の様なひらめきと共にアトリエの扉を開けた。

 

「邪魔するぞ!」

「はい、ってアカネさん!?」

 

 驚くトトリちゃんを尻目に俺はアトリエに通じるもう一つの扉を抑えた。

 

「策は成った。俺の天才的な頭脳を甘く見るからこうなるのさ」

 

 すぐにでもこの扉の前に彼女が来て、「開けてください。アカネさん」と言うことになる。

 

「あの~。アカネさん?」

「クックック」

 

 さぁ、来い。すぐに来い。カムヒア!

 

 

 ガチャ

 

 

「トトリ。来たわよ」

「あ、ミミちゃん」

「……え?」

 

 何故か彼女は外から通じる扉から入ってきた。

 彼女は俺のことを目で笑っていやがった。

 

「なんというか、ここまでバカだと可哀相になってくるわね」

「……なんだ。双子か」

 

 俺はもう一人が来るのを扉の前で待った。

 

「え、ミミちゃん双子だったの?」

「違うわよ。そんなバカのことなんて放っておきなさい」

「……うう」

 

 俺はよろよろとソファに座りこもうとした。

 

「邪魔よ」

「んにゃ!?」

 

 座ろうとするところを阻まれて、彼女がそこに座って本を読み始めた。

 

「……トトリちゃん」

 

 俺はよろよろとトトリちゃんの方に歩く。

 

「あ、アカネさん。大丈夫ですか?」

「大分精神的ダメージがやばい」

 

 こんな年下にいいようにされるなんて……。

 

「あとトトリちゃんごめん。あの日はただの寝坊だから」

「えっ! そ、そうだったんですか!」

 

 プライドを打ち壊された俺にこの程度のこと打ち明けるのは造作もないわ。

 

「それはそうと、アカネさんってミミちゃんと知り合いなんですか?」

「微妙なラインだな。トトリちゃんこそ、どういう関係なんだ?」

 

 確か免許を取りに来た時に大分険悪になってたような。

 

「ミミちゃんは、冒険のお手伝いをしてもらってるお友達なんです」

「ぶっ! !な、何言ってんのよ! べ、別にあんたなんか友達じゃないわよ!」

 

 ミミちゃんが本から顔をあげて、大声で何気にひどい事を言ってきた。

 

「え、私友達じゃないの……?」

「うっ、そ、そうよ。あんたが錬金術士だから、仕方なく付き合ってるだけで……」

 

 これはツンデレなのか本当なのか、いまいち判断がつかない。

 

「じゃなかったら、貴族である私が下賤な田舎者であるあんたなんかと……」

「ても、私別に錬金術士としてミミちゃんの役に立ってないよ?」

「う、それは……立ってるわよ! そういうことにしておきなさい!」

 

 ツンデレ判定……成功。

 

「ツンデレ一丁入りました~!」

「あ、あんた! 何言ってんのよ!」

 

 立ちあがって俺に食ってかかるミミちゃん。

 

 しまった! あまりにも分かりやすかったものだから、つい口に出ちゃった。故意じゃないよ。

 せっかくなので、先ほどの復讐としてミミちゃんの耳元で囁いた。

 

「本当は仲良くなりたいけど、貴族のプライドがそれを許さないの~」

「だ、黙りなさい! な、何を言って、――っ! もう帰るわ!」

 

 そう言うとドンと扉を閉めてミミちゃんは出て行った。

 

「俺の勝ちだ! ふん。最後に笑うのはこの俺よ」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべ俺は鼻で笑ってやった。

 

「アカネさん! ミミちゃん怒っちゃったじゃないですか!」

「まぁ、そういこともある」

「もう! 折角ミミちゃんと仲良くなれると思ったのに……。アカネさんも、もう帰ってください!」

「…………え?」

「そんなんだから、ミミちゃんにバカなんて言われるんですよ」

「…………」

 

 

 バタン

 

 

 

 追い出された。

 

「…………」

「ぷに~」

 

 先ほどと同じようにぷにが俺のことを慰めてくれるが、さっきとは比じゃないダメージを負ってしまった。

 

「…………」

「ぷ~に、ぷ~に」

 

 俺、今日ここに何しに来たんだっけか?

 そもそも何でアランヤ村に帰ってきたの?

 

「ハハッ、ワロス」

「ぷに~」

 

 女の子に優しくしなかった結果がこれだよ。

 


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