アーランドの冒険者   作:クー.

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俺の怒りが有頂天

「結局金集まんなかったな~」

「ぷに~」

 

 明日は馬車が出る日なのだが結局金が集まらなかったのだ。

 そのため、俺は宿屋の部屋で寝ころんで落ち込んでいた。

 

「二人とも大分落ち込んでたよな」

「ぷにに」

 

 俺はいつでもいいとしても、トトリちゃんたちはすぐにでも行きたいだろうに。

 

 

「うがー!」

 

 

 トントン

 

「? はーい、どうぞ~」

 

 扉がノックされた、俺は寝ころんだまま応答した。

 

「こんばんわー」

「トトリちゃん? どうしたんだ?」

「はい! 実はですね……」

「…………」

 

 翌朝

 

 

 

「死ねい!」

「ひゃあ!」

 

 ちっ! ペーターの野郎かわしやがった。

 

「い、いきなり何するんだよ!」

「自分の胸に聞いてみろ!」

 

 俺はもう一度、奴に向かって拳を放とうとする。

 

「あ、アカネさん!ダメですよ!」

「そうだよ先輩!」

 

 ちびっ子二人がそんな俺を抑えつけてくる。

 

「だって! あいつが!」

「だ、だから何なんだよ!」

 

 本当に分かってないのか、しらを切ってるのか知らんが、絶対に許さんぞ!

 

 

「むきー!」

 

 俺は二人の拘束を外して、再び殴りかかろうとした。

 

「ぷに!!」

「ぬおっ!?」

 

 ぷにがペーターの後ろから鳩尾に体当たりをしてきた。

 かなりうまいことカウンターを決められた。

 

「……ぐふっ」

 

 いままでの中で一番のクリティカルヒット。

 俺はその場に崩れ落ちた。

 

「これで勝ったと思うなよ」

「いや、俺は何もしてないんだけど……」

 

 俺はよろよろと立ちあがる。

 

「で、結局なんなんだよ」

「だから、兄ちゃんが言ってた馬車の代金の話だよ」

 

 後輩君がそう言うなりペーターは肩をふるわせ始めた。

 

「はっはっは! そうかそうか、お前ら本気で信じてたのか! あーはっはっは!」

 

 くそっ! 俺が何もできなくなった途端に調子のいい野郎め!

 

「笑い事じゃねーよ!」

「そうだよ! ひどいひどい!」

「ぷに! ぷに!」

「うぐぐっ!」

 

 こんな屈辱的な思いは始めてだ!

 

「悪い悪い、あんまりジーノがしつこいもんだからさ。それにツェツィさんもお前がアーランドに行くの反対してたみたいだし」

 

 えっ、そうなの?初耳なんだけど……

 

「だからって、あんな嘘つかなくてもいいのに」

「でも、俺の嘘のおかげで結果的にツェツィさんにちゃんと許してもらえたんだろう?むしろ感謝してほしいくらいだな」

 

 誰か、誰か俺に回復魔法をかけてくれ! そしたらグーでいけるから!

 

「そうだけど……なんか納得いかない」

「はあ、もういいや。それより早く出発しようぜ」

 

 二人ともそこで妥協しちゃダメだって!

 

「そう焦んなって、長旅になるんだからもうちょっとゆっくりしてから……」

 

 

「トトリちゃーん!ジーノくーん!アカネくーん!」

 

 ペーターがなめたことを言っていると坂の方から癒し要素がやってきた。

 

「げっ! ツェツィさん!? ……あああ、折角の見送りを邪魔しちゃ悪いな。俺、向こうに言ってるから」

 

 ヘタレた事を言って、ペーターはどこかに駈け出した。

 

「……やっぱりヘタレだな」

「だね」

「今回ばかりは同情の余地はない」

 

 つか後輩君、ちゃんと意味を理解したんだな。

 そんなことを言ってるとツェツィさんと他2名が近づいてきた。

 

「よかった。間に合って。これお弁当、4人で仲良く食べるのよ」

「うん、ありがとう。お姉ちゃん」

「なんか、ひとり分多いみたいだから、俺が2人前食べるとするか」

「アカネさん……そろそろ許してあげましょうよ」

「4人目など知らん!」

 

 溜まった金は別の使い道があるだろうけど、さすがに許せん!

 

「アカネくん、ペーターくんも悪気があったわけじゃないから、許してあげてくれないかしら」

「ツェツィさんがそう言うのなら……」

 

 何故かツィツィさんには強く出れない……。

 

「ま、それはともかくとしてトトリたちのことよろしく頼んだわよ」

「任せろ!」

 

 メルヴィアから言われると別の意味で断れない。主に恐怖的な意味で。

 

「あんたじゃなくて、シロちゃんよ。シロちゃん」

「ぷに!」

「…………」

 

 確かにぷにの方が頼りになるけど、そりゃないだろ。

 こうなったら……。

 

「……ぷに~♪」

「アカネ……正直気持ち悪いわよ」

 

 ツェツィさん達も苦笑いをしている。

 ……そんなに駄目だったか?ぷにのものまね。

 

「それじゃ、ペーターにもくぎを刺しに行ってくるわ」

 

 そう言うとメルヴィアはペーターの方に歩いて行った。

 

「あの二人って仲いいのか?」

「ええ、私とペーター君とメルヴィは幼馴染なのよ」

「な~るほど」

 

 なんとなく3人の関係が分かった気がする。

 

「ツェツィさん、ペーターに避けられてないか?」

「え、ええ。そうなのよ。よくわかったわね」

 

 驚くようなことじゃないさ。あの性格と行動を考えれば自明の理!

 これをネタにいつかからかってやるとしよう。

 

「アカネさん。悪い顔になってますよ……」

「おっと、いかんいかん」

 

 顔を引き締めようとしても、ついついニヤけてしまう。

 

「……俺の馬車に何か、なんて起きるはずないからな」

「不安だわ……不安すぎる。やっぱり私も一緒にいこうかしら」

 

 

なんか、あいつらがフラグっぽい事を言ってるんだが……。

 

 

「気をつけて行ってくるんだよ。ジーノ君。アカネ君もトトリのことを頼んだよ」

「おおっ! 任せてくれよ!」

「!? え、ええ。もちろんです」

 

 トトリちゃんのお父さん、存在を忘れてたとか口が裂けても言えないな……。

 

「ちょっと! ちゃんと聞きなさいよ! だいだいあんたは昔から……」

「あー! しつこいな!おい、もう出すぞ! 早く乗れ!」

「あ、うん。それじゃ、行ってくるね」

「ええ、行ってらっしゃい。変なもの食べちゃだめよ。あと、知らない人について行ったりしたら……」

「もうっ子供扱いしないでよ。それじゃ、行ってきまーす」

 

そして、俺たちは馬車に乗って村を旅立った。

 

 

 

 

「おおっ!意外と早いな!」

「うん。それにすごい揺れる……。ねぇ、アーランドまでどれくらいかかるんだっけ?」

 

 

 …………

 

 

「二人とも元気だなぁ」

「ぷに」

 

 何というか、特にすることもなく座ってるこの感覚、電車に乗っていた時のことを思い出す。

 

「ふぁ……」

 

 眠い……。電車では眠るタイプだったから、異常に眠い。

 

「…………」

 

 そして、俺の意識は暗闇に沈んでいった。

 

 

 

 

……1週間後

 

 

 

 

「あー、そろそろ馬車にも飽きてきたな。退屈だな」

「うう……気持ち悪い……」

「いつまで酔ってるんだよ。いい加減慣れろよな」

「うう……アカネさんよりはマシだよ」

「気持ち悪いから寝たい……なのに寝すぎて寝れない」

 

 電車の倍は揺れてる気がするだけど、正直馬車の揺れを舐めてた。

 車の数倍、電車の倍、例えるならばジェットコースター。

 

「ぷに」

「お前は元気だなー……」

 

 ぷにが平常運転すぎて妬ましい。

 

「はー。こんなんだったら歩いていけばよかったな」

「でも、歩いて行くと危険だって。……私も帰りは歩きたいかも」

「俺……アーランドに残ろうかな……」

 

 それが一番じゃないかなー。もう乗りたくないなー。

 

 

 

……1週間後

 

 

「ペーター、もうそろそろ着かないと俺の精神がストレスでマッハだぜ?」

「あと、丸1日ってところだ。我慢しろ~」

「あと、1日かー、あー! やっとだな!」

「見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはないな」

「アカネさん……」

「トトリちゃんが俺を痛い目で見ているのは確定的に明らか」

 

 自分でも今のテンションがおかしいことぐらいは自覚している。

 

 

「うわわっ!」

 

 ペーターの叫び声が聞こえると馬車が大きく揺れた。

 

「あいた! ううっおでこぶつけた……」

「おい! 何で急に止まるんだよ!?」

「コルァ! 仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ!」

 

 三者三様の物言いをしてるとペーターが扉を開けて出てきた。

 

「や、やや、やばい!やばいのが出た!」

「わっ! な、なんなの!?」

「モンスターだよ! こんなでっかい奴! やばい! 俺たちやばい!」

 

 やばいやばいとうるさいくらいに騒ぐペーター、そして頭上に圧迫感と威圧感が混ざったような気配が……。

 

 メキメキ

 

「うわー!なんかメキメキ言ってるー!」

「慌てるな! 地球出身は慌てない」

「何言ってるかわからないよー!」

「どうすんだよ! このままじゃ俺たち潰されちまうぞ!」

「知らねぇよー。あんなモンスターが出たの初めてだし」

「あーもー! やっぱり頼りにならねぇなー!」

 

 涙目のトトリちゃん、今にも飛び出しそうな後輩君、へたれのペーター。

 一言で言って、てんやわんやだ。

 

「きゃー! どうしよどうしよ! シロちゃん! 起きて起きて!」

「いや、そこは俺に頼ろうよ!」

 

 ぷにはこんな騒ぎでも相変わらず寝ていた。

 ここはいっちょ、俺が頼りになるところを見せてやるか!

 

「俺に任せるがいい! とぅ!」

 

 俺は扉を開けて馬車から飛び降りた。

 

「無事か、間に合ったようだな」

 

 するとそこにはモンスターが倒れていて、黒いコートを着た目つきの悪い男が立っていた。

 

「先輩!大丈夫か!」

「アカネさん!」

 

 ちびっ子二人が出てこようとするが俺はそれを止める。

 

「待て! モンスターはいないが、殺し屋みたいな顔つきの男がいる!」

「殺しっ……!」

 

 目の前の男は明らかに一人くらいやっちゃってる顔をしている。

 子供が泣き出すレベルだ。

 

 

「い、いくらだ!?」

「な、何がだ?」

 

 しらを切りやがって、明らかに無償じゃ動かない見泣いた面をしてるじゃないか。

 

「ただ、俺たちを助けた訳じゃないんだろう……さぁ、いくら払えばいい!?」

「誤解するな。騎士として当然のことをしたまでだ。謝礼などいらない」

「…………」

 

 俺の中の警戒アラームが鳴り響いてるんだが、信用していいのか?

 

「うわっ、すげー。モンスターが倒れてる」

「わっ、怖そうな人」

 

 気づいたら二人とも外に出てきていた。

 

「……怖そう?」

「あっ、やだ! き、聞こえちゃった。ち、違うんです! 怖いっていうのは、その……」

「すげー! こいつ、おっさん一人で倒したのか?」

「……おっさん?」

「こ、後輩君! 何言ってんだ!」

「そ、そうだよジーノ君! 何言ってるの!」

 

 こいつにはあの男の顔が見えてないのか!?

 

「いやー助かりましたよー。本当なんてお礼を申し上げていいのやら」

 

 いつの間にかペーターも馬車を降りてきて、自称騎士の人にお礼を言っていた。

 ……あの二人が並んでいると、肉食獣とその獲物にしか見えない。

 

「先ほども言ったが、騎士として当然のことをしたまでだ。しかし、アーランドの間近にこんなモンスターが出現するとは……」

「ええ、びっくりですよ。長いことこの仕事してますけど、こんなことは初めてです」

 

 ペーターのやつ世渡りの方法を心得てやがる。

 ああいうのを長生きするタイプとかいうんだろうな。

 

「そうか、報告は私の方からする。君たちは早く街に入ったほうがいい」

 

 あれ……?もしかして、ガチで騎士なのかな?

 

「おい! おっさんてば! 無視すんなよ!」

「…………!」

「ジーノ君! 睨まれてる! めちゃくちゃ睨まれてるからー!」

 

 騎士……なのか?どうみても狩人の目つきなんだが……。

 

 

 

「では……」

 

 疑惑の騎士の人は踵を返して立ち去った。

 

「あ、行っちまった。でもカッコよかったな! あれこそ冒険者って感じ!」

「後輩君! 俺は! 俺は!」

「先輩は……なんかちがうんだよなぁ」

 

 

 泣いた。

 

 

「怖かったぁ。モンスターよりも怖かったかも……」

 

 トトリちゃんが涙目になっていた。

 こっちが正常な反応だろう。

 

「よーし!決めた! 俺、あのおっさんみたいな冒険者になる! 兄ちゃん早くアーランド行こうぜ!」

「待て! 後輩君! 俺はどうしたんだ!」

「あのおっさんは遠くの目標で、先輩は近場の目標みたいな感じだな」

 

 

 さらに泣いた。

 

 

「なんとか馬車も動きそうだし、早くこんな物騒なとこ通り過ぎちまおう」

 

 そういって、俺たちは馬車に乗り込んだ。

 ……ぷにはまだ寝ていた。気楽過ぎるだろう。

 


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