「ゲラルドさん、討伐完了しました~」
忌むべきあの日から一週間が過ぎた。
俺は、依頼の完了報告をしにお店にいる。
「なんだ、随分と疲れてるな」
「うい~」
大体、近海ペンギンのせいだ。
あいつら、ゴースト手袋しないと全然攻撃通らないんだぜ。
「しかしお前、少し働きすぎじゃないか?」
「まあ、多少……」
なんでもアーランド行きの馬車に乗るには10万コールも必要らしい。
後輩君とトトリちゃんと俺の3人で懸命に金を稼いでいるのだ。
……メルヴィアも手伝ってくれてはいる。
「確かここ1週間で5000コールは稼ぎましたよ」
「そんなに稼いで、何か入用なのか?」
「まぁ、いろいろあるんですよ」
「ふむ。俺から言えることとしては、無理だけはするなよ」
「もちろんですよ。それじゃ、今日はこの辺で」
そう言って、俺は店の外に向かった。
「報告終わったぞ~」
「それじゃ、行きましょうか」
外で待っていたトトリちゃんと合流して、俺たちは歩きだした。
「久しぶりにまともな飯を食えるな~」
「あはは……」
ここ1週間の間は採って食っての適当な食生活をしていたのだ。
それを話したらトトリちゃんが夕食に誘ってくれたのだ。
「しかし、本当に俺が行ってもいいのか?」
正直、恩があるのにご馳走になるのは気が引ける。
「いいんですよ、アカネさんいつも手伝ってくれてるじゃないですか」
「いや、俺にも事情があるからな」
手伝いをするって言い出したのは俺だし、アーランドに俺も行きたいし。
「しかし、10万コールって聞いた時は驚いたな」
「私もですよ……」
「まぁ、俺はアーランドに行きたいだけだから気にするなよ」
「わたしもそうですから、遠慮しないでください」
「二人は冒険者になるって目標があるって言いたいが……まあ、そうするよ」
ここ1週間で分かったが、本当にトトリちゃんはいい子だよ。
やばいくらいに優しい。この間なんてタダで薬くれたんだぜ。
「よーし! 飯を食ったらさらに頑張るとしますか!」
「わ、私もがんばります!」
決意を新たに、とりあえずはトトリちゃんの家に向かった。
「ぷに!」
「何故いるし」
扉を開けてリビングに入るとぷにがテーブルに乗っていた。
「私が呼んだんですよ。いつもぷにちゃんも手伝ってくれてるますから」
「ぷにに!」
そうね。俺よりも役に立ってるモノネ。
「まあいい、ツェツィさん。何か手伝おうか?」
俺はキッチンで支度をしているツェツィさんに向けてそう言った。
「いいわよ、アカネくんはお客さんなんだから、座ってて」
「食器運ぶくらいは手伝うから、できたら呼んでくれよ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
ツェツィさんには敬語じゃないんだが、若干口調が和らいでしまう。
これが、噂に聞く癒し効果とかいうものだろう。
ヘルモルト姉妹は本当に雰囲気が似ている。
「そういえば、アカネさんに報告があるんです!」
「おおっ何だいな?」
トトリちゃんが勢いよく声を出した。
「ふっふっふ、ぷにちゃんの名前を思いついたんですよ」
「ぷに!?」
「正直忘れてたと言いたいけど……気にはなるな」
トトリちゃんがこんなに時間をかけて考えたんだ。きっとぴったりな名前になるだろう。
「で、その名前は?」
「ぷに! ぷに!」
ぷには興奮して待ちきれないようだ。
「はい! 名付けて、『ぷにせいぎ』です!」
「えっ?」
「ぷ、ぷに?」
俺の耳がおかしくなったのか?何かとんでもないものが聞こえたような……。
「ぷにせいぎです。ぷにちゃんはモンスターだけど良い子ですから」
「…………」
正義、これは……予想の斜め上をぶっ飛んでったな、おい。
「…………」
どうですか、とでも言うようなトトリちゃんから目を逸らして。
俺は素早くぷにとアイコンタクトを行う。
「ぷに、昨日俺が考えたのとどっちがいいよ!」
「ぷに~」
考え込むような表情をするぷに、流石の演技力だ。
「え?アカネさんも考えてたんですか?」
「ん、まあネ。新しイのを一つ考えたんダヨ」
そして、俺の演技力はゴミレベルな気がしてならない。
「何て名前なんですか?」
「えっ!? ……まぁ、あれだよ!」
白……丸……ぷに……モンスター……あらゆる言葉が俺の頭を駆け巡っている。
「ぷに……ホワイト」
「ぷにホワイトですか?」
「ぷに~」
ぷにが俺の方をすごいジト目で見てくる。
俺は悪くねえ!
「それで、ぷにちゃん。アカネさんとどっちがいい?」
「ぷに……」
ぷにがさっきまでの演技ではなくガチで悩んでいる。
「シロっていうのはどうかな」
「ホワッ!」
隣を見てみると、やさしげなおじさんが座っていた。
全然気付かなかったんだが、いつからいたんだ?
「えっと……誰? いつからそこに?」
「私はトトリたちの父親でグイードって言うんだ。ここには最初からいたんだけどね……」
オワタ。失礼なんてもんじゃないわコレ。もう恥ずかしくて死にたい。
「す、すいません。とんだ失礼を」
「いいさ、もう娘たちで慣れたからね」
「わ!? お父さんいたの!?」
「ほらね」
「は、はぁ」
悲しい、悲しいぞ! 悲しすぎるだろ!
とりあえず、このことについてはもう考えないようにしよう。
「それで、シロっていうのは?」
「そこのぷに君が随分悩んでいたんでね。第三の案としてどうかと思ってね」
そう言って、グイードさんは朗らかに笑った。
「ぷに!」
「なんだ、ぷに。気に言ったのか?」
「ぷに!!」
「そうかい、それはよかった」
「むう、お父さんずるい!」
今回ばかりはトトリちゃんを庇えない。
とりあえず、次からはトトリちゃんには頼まないようにした方がいいだろう。
「ま、シンプルなのが一番ってことか」
そういいながら、俺はイスに深くもたれかかった。
白玉とかぷにとかよりは呼びやすいしな。
まあなんだかんだで、俺はぷにって呼びつつけそうな気がする。
「アカネ君、できたわよ。運んでくれるかしら?」
「おう、待ってたぜ」
そう言って、バッと体を起してイスから降りる。
「俺のちょっとカッコいいとこ見せてやんぜ」
「はい。よろしくね」
…………
……
「今日は、ありがとな。久しぶりに満足な食事を食えた」
「いえ、いつでも来てくれていいですからね」
あの後は普通に食事を取って、今はトトリちゃんがお見送りしてくれてる。
「ん、体冷やすといけなないから、俺は帰るかね」
「あ、はい。それじゃあまた明日」
「んー、また、明日なー」
「ぷにぷ~」
手を振って、トトリちゃんと俺たちは別れた。
「ぷに……いやシロよ。俺はこないだ人生の絶頂を迎えたかと思った」
「ぷに?」
「しかし……違った。今日、俺は真の最頂期を迎えた!」
帰ってる間に頭が冷えてきた俺は、気づいてしまったのだ。
……ある、重要な事実に。
「俺は……ツェツィさんの! 手料理を食べたのだ!」
勝ち組みなんて安い言葉じゃ言い表せないほどの優越感。
「これは、もう嫉妬で殺されてもおかしくないレベルだろ」
高校で彼女出来たとか言ってた奴が途端に薄っぺらく……いや哀れにすら思えてきた。
「クックック」
いつもならこの笑い方が負けフラグになるところだが、今は夜中の村、そうそう人なんていない。
「シロ、お前にもこの気持ちが分かるだろう?」
「ぷにー」
なんか白い目で見られてる気がした……。
「一通り幸福感を味わったし帰るか」
「ぷに」
俺たちは今度こそ宿屋へと向かった。
…………宿屋へ戻ると今日は宿屋の旦那が漁で大漁だったらしく、豪勢な魚料理が振る舞われたと聞いた。
「……俺もう絶対あの笑い方しないぞ」
「ぷに~」
ツェツィさんの手料理に及ばないとしても悔しいものは悔しいんです。