続き読ませろと言う人は次の話に飛んでもらってまったく構いません。そんな話。
「くっ、あの店ちょっとコーヒー一杯で二時間いたからって追いだす事はないだろ」
初めて来たこの街の人々の心は随分と貧しいようだ。
そして、俺は仕方がなく街中をブラブラと歩いて、適当に階段とか登ってるわけだ。
「おろ、家がある」
なんとなくトトリちゃんの家を思い出すな。
きっとここにも心優しい少女が住んでいるに違いない。
「ここ一週間、草と果物で生きてきた俺に恵みをくれることもまた違いない」
家の前に立って、扉をノックしようとすると十代くらいと思われる女の子の声が聞こえてきた。
「錬金術とは、素材を加工し、まったく別のものを生み出す、無二の学問である」
ん? 錬金術?
なんの躊躇いもなく、耳を扉に張り付けた。
「そして錬金術士とは、森羅万象を知り、あらゆる物質に精通するものである」
な、なんか照れるじゃないか。
森羅万象なんて知らないけどな。
「しかし、その術を自在に操るには、ある資質と才が必要となる」
なるほど、師匠とかトトリちゃんとかの人種だな。
俺にも爆弾とかあったりするしな。
「ふうん、誰にでもできるものではないみたい。わたしにもできるかなあ……?」
「やればできる! 何モノも!」
「えっ!?」
バンと扉を開け放ち、椅子に座って本を読んでいる少女へと言い放った。
おやおや、緑を基調にした服、緑のカチューシャ。
ウェーブのかかった長髪、かわいらしい顔。
うん、錬金術士っぽいわ。特に肩出してるところとかね。
「えっと、どなたですか?」
「通りすがりの錬金術士です」
「え、錬金術士ってこの本の……あなたが?」
なんか大人っぽい喋り方する子だな。俺が子供っぽいとか思われそうだ。
そして、少女よそんな疑うような眼差しで見ないでくれよ。
「そう、俺こそがアーランド共和国四人目の錬金術士! アカネ!」
「アーランド? あの、本当に錬金術士の方なのですか?」
「うむ、いかにも。という訳で錬金術を教えてやろう。弟子一号の……えっと……」
「アーシェです。アーシェ・アルトゥール」
よし、名前を知ることは警戒心を解く第一歩。
次はさっそく実技に入ろう。師匠、あなたの教え方をかりるぜ。
「という訳で、そこに都合良く置いてある釜でさっそく錬金術だ……なんで置いてあるんだよ」
あまりに自然すぎて気づかなかったよ。
「わ、わたし薬師の仕事をしてるんです」
「なるほど、よしまずはこの杖を貸してやろう」
俺は腰のポーチから杖を取り出して、アーシェちゃんに差し出した。
「…………」
「ん? どうした、ほれ」
アーシェちゃんは驚いたように目をパチクリしていた。
「ん~、ああ」
なるほど、ポーチの中から杖が出てきたんで驚いてるのか。
「クックック、アーシェちゃん。この程度で驚いていたらこの先さらにビックリするぜ」
「ほ、本当に錬金術士さんだったんですね」
まだ疑ってたのか。まあ、非常に怪しい登場だったっとは思っているが。
俺はアーシェちゃんの持っている本を取って、中を見た。
「ほれ、そんじゃあまずはこの本に書いてるの……クラフトでいいか」
爆弾だから選んだわけじゃない。断じてだ。
教え方を考えつつ、アーシェちゃんに本を返した。
「材料はあるか?」
「どうでしょう? えーっと……とげとげの実?」
こっちだとニューズじゃなくてそんなの使うのか、安直なネーミングだな。センスを疑ってしまう。
スパイクシードとかもうちょっとカッコイイ感じにだな……。
「まあ、取りに行くのも面倒だろうからな。確か道中拾ってたはずだから……」
ついでに必要な火薬と紙として、燃える石とゼッテルを渡した。
「えっと、この後はどうしたらいいんでしょうか?」
「うん? レシピを見る」
「はい」
「実行する」
「そ、それだけですか?」
「あ、ああ。それで才能があるかどうかわかるのさ」
口から出まかせとはこの事だな。
置いてきた相棒がいたら、タックルをしてくる勢いだ。
「わ、わかりました」
「頑張れよ」
さて、この間にどうやって教えるか考えるとしよう。
…………
……
「いやー、どうすっかな」
未だに思いつかない。
つか、だいぶ時間がたっている気がする……。
「あのアカネさん」
くっ、やばい! できませんでしたどうしたらいいんですか?
そう言われるんだ。
ただの不審者の烙印を押されてしまいかねない。
「レシピどおりにやったらできちゃったんですけど、これでいいんですか?」
「へ?」
そう言うアーシェちゃんの手に持たれているのは、俺がいつも作っているのとは違う形だ。
赤いフラムにイガグリの上半分がくっ付いているみたいな形だが、紛れもなくクラフトだった。
「初めてだよな?」
「え、そうですけど?」
アーシェちゃんは何か悪いことしましたか? みたいな目で見てくる。
まったく悪くないんだが、正直こうなると教える事があんまりない。
この子はトトリちゃんとか師匠みたいな天才型の子だ。
「俺が教えることはもう何もない。免許皆伝だ」
「な、何も教えてもらえてませんよ」
「レシピ見ただけで作れたら天才なんだよ。俺なんて錬金術覚えるのに記憶を失ったんだぞ」
今も癒えないトラウマ一号だ。
「で、でもすぐれた錬金術士は何でも作りだせる、すっごい人だって本に書いてたあるんですけれど……なんか、すごい人になったって感じが全然ないんですよ」
「そんなことないって、数年も学べば大抵の物は作り出せるようになってっから」
「ほ、本当ですか?」
アーシェちゃんが疑うように言ってくるが、俺だって何年かやっただけで旅に出れるくらいにはいろいろ作れる錬金術士になったんだ。
この子になれないはずはないだろう。
「ところで、このクラフトって何に使うものなんですか?」
「ん? 投げると爆発する。簡単に言うと爆弾だな」
「ええ!? これ……ば、爆弾なんですか!? あわわ、ど、どうしようー!」
おお、すごい慌てようだ。
なんか、今まで態度がなんか硬かったけど、ようやく素を見れた感がある。
しかし、爆弾持った時の普通の感想ってあれだよな。うん。
「心配するな。俺なんていつもこの家くらい軽くふき飛ばせる爆弾を持ち歩いてるんだ」
「な、なんて物騒なもの持ってるんですか!捨ててください!」
「捨てていいのか?」
「あ、そうじゃなくて……ええっと……」
持っていると言ってもポーチの中だが、見てて面白いから黙っておこう。
「まあ、俺はここでお別れだから安心しろ」
「え? そうなんですか?」
「うむ、発売まであと数週間――――もとい、旅の途中だからな。それじゃあな」
俺は扉の方に向かって歩き出した。
「お気をつけて、またこの近くまで来たらぜひ立ち寄ってくださいね」
「ん、今度は役に立つ参考書でも持ってくるよ」
俺は扉を開けて、再び外に出て行った。
しばらく歩いたところで、俺は空を向いてこう言った。
「なんで第百話目でこんな所にいるんだろうな?」
記念っていうのは知ってる人たちでパーッと騒ぐもんだと思ってた。