月に吼える   作:maisen

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第二十八話。

メドーサは、忠夫に歩み寄る。その距離が一足飛びで届く範囲――己の間合いにまで縮む。

 

「さて、まずは逃げ道を塞がさせてもらうよ」

 

 そう言って、メドーサが軽く指を弾くと、その音に混じって彼女の魔力が屋敷の周辺を駆け巡った。同時に、屋敷の周りの雰囲気が一気に重くなる。そう、まるで蛇の口の中のように。忠夫の脳裏に、餌を食べに入って檻の出入り口がしまったタヌキが浮かんだ。

 

「・・・もしかして、まだ逃げられた?」

 

「さっきまでは、ね」

 

「性悪やなー」

 

「蛇に何を期待してるんだい?」

 

 

 月は、その戦いを只、見るのみ。煽らず、嘆かず、静かに、静かに。

 

 

「全く、本当に根性ねじ――」

 

 その言葉の途中、視線も向けずに全く同時に二人の姿が消えた。

 

 

「――げっ?!」

 

「――なっ?!」

 

 広い屋敷の窓ガラスを揺らしながら、甲高い金属音と衝撃が生まれる。

 

 ぶつかり合う拳と槍の柄。2人の姿は、一瞬にして掻き消えた後、ちょうど先程までの立ち位置の中間地点に現れていた。

 

何と言うことはない。忠夫は、台詞の途中で不意打ちを仕掛けようとし、メドーサは喋っている忠夫に不意打ちを掛けるつもりで突っ込んだら・・・それが2人共に全く同じタイミングであった為に、いきなりの激突寸前の打ち合いとなっただけ。それだけ、である。

 

「人の話は最後まで聞けってーの!」

 

「躾の悪い…! お前が言えた台詞かいっ!!」

 

 軽口を叩きあいながらも、2人ともその瞬間の接敵に動揺の色は隠せない。忠夫は忠夫で未だ霊力を片手に纏わせたのみであるし、メドーサはメドーサで槍と言う長得物を持ちながら接近戦から抜け出られない。

 

「「このっ!!」」

 

 

「うどわぁぁっ!」

 

 

「くっ!」

 

 互いの苛立ち紛れの一撃は、お互いを捉えたかに見えた、が。吹っ飛んだのは忠夫。メドーサは辛くも槍で防ぎきり少々体勢を崩したのみ。潜った修羅場の差か、僅かに早く冷静さを取り戻したメドーサの一撃と、それを察して慌てて多少のダメージも覚悟で距離を取る事を選んだ忠夫の差であっただろう。

 

「てててっ?! この馬鹿力っ!」

 

「その馬鹿力食らっといて、あっさり起き上がる奴の台詞じゃないねぇ」 

 

 ごろごろと転がりながら、その勢いのまま跳ね起きる忠夫。舌舐めずりをしながらも、メドーサは警戒したのか槍を数回軽く振ると、構えなおす。

 

「あーもうっ! せめて陰念の方だったらまだやり易かったのに!」

 

「だから、あたしがいるんじゃないかい」

 

 改めて霊波刀を展開した忠夫の前には、一挙一動も見逃すまいと彼を見続ける蛇眼がある。油断も無く慢心も無く、されど適度に緊張と脱力が見て取れるその構えは、忠夫も見た事のある確実に歴戦の兵が持つそれであった。

 

「どーして、俺が来るって思ったんだよ」

 

 傷一つ無いように見えても若干のダメージを受け、痛みに疼く背中が落ち着くその瞬間まで僅かでも時間を稼ぐ為に忠夫の口は動く。

 

「ふん。自分で考えな」

 

 が、そんな事はお見通しとばかりに、メドーサは槍を握る手に力を籠め踏み出す為に足に力を込める。宣言しているのだ、今から行くぞ、と。

 

「・・・・・・けち」

 

 それを見てとった忠夫も、甘さの無い動きに急速に意識を絞っていく。背中の痛みは若干残るものの、庇っていては命を落とす。意識を絞り、痛みを外に、ただ目の前の女魔族に集中していく。

 

「戯言は終わりかい?」

 

「勘弁してほしいなぁ・・・」

 

 本音が漏れたが聞き届けてもらえる訳も無し。

 

「ふふ・・・。行くよっ!」

 

 2度目の衝突は、メドーサの重い踏み込みが開始の合図。

 

 

――右右左右ってフェイントうわ速いってかわしてかわしてこっちもフェイントいれて蹴りと見せかけて本命は左の振りして右のアッパーってかわすなよこん畜生危な足を使ってくるって詐欺じゃねぇかしかもくそ痛そう喰らったら吹っ飛ぶくっついてかわしてってあのばかなんでそれより零距離ボディって体を捻っただけで避けるんじゃねぇぇぇっ!!

 

 

――四連は見せ技此処でフェイント本命はこっち二連このガキ避けるな違うこの蹴りは偽者本命は左かいや違う下から右跳ね上がって避けて下り際に突き下ろしと見せかけて蹴とばしてまた避けた距離をとってしつこい近い突き飛ばせまだくっついてこのそんなところで腹狙いか舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 

 その短い数瞬の間に交わされた攻防は、本人達も覚えていないであろう、体に染みついた動きと脳裏に描いた攻勢のぶつかりあいだった。

 

「反則だろその速さ!」

 

「中々やってくれる!」

 

 交差は一瞬、されど互いに感じた時間は無限にも等しい。読み合いとフェイントの雨あられ。拳と槍を挟んで互いの眼を覗き込む。

 

「ふっ!」

 

「はぁっ!」

 

忠夫は右拳開いて槍を掴み、足を跳ね上げる。メドーサは槍を掴まれた瞬間にその手を離し、足を振り上げる。

 

 互いの足は空中でぶつかり合い、重低音を響かせる。

 

「このっ!」

 

「槍ならあたしが上だっ!」

 

 足を振り下ろした反動で一回転し、その手に持った槍を振り回してメドーサにぶつけようとするも、しゃがんで避けながらメドーサは新たにその手から槍を生み出し、その二又の穂先で忠夫の服を掠めながら反撃する。

 

「なんだそりゃぁぁっ!」

 

「文句があるなら替えの武器ぐらい準備してきなっ!」

 

「そんな不条理なっ!」

 

「素手で得物と打ち合う方が不条理だよ…っ!!」

 

 服を掠めた事で忠夫の動きが一瞬鈍る。メドーサがその隙を見逃す訳もなく、槍を突き出す――と見せかけて足払い。辛くも跳ねてかわすが、体勢はさらに崩れ、着地の瞬間を狙って今度こその必殺の突き。

 

「妙技、マトリッ○ス! 古いがなっ!」

 

「このっ!」

 

 忠夫は、その突きを背中側に倒れるようにしてかわす。しかし、その足の裏は地面を捉えたまま。強靭な腹筋と背筋、異常なまでのバランス感覚と、人狼の霊力を使った、壁上りの応用の足裏からの地面への霊力でできた爪の形成。やってる事はすごいが言ってる事がアホである。

 

 そのまま槍が通り過ぎる――かと思いきや。

 

「潰れろ」

 

 メドーサはその必殺のはずの一撃を、一瞬で完全に忠夫の上で止め、振り下ろす。

 

「あ~らら。すっげー穴」

 

「この狸」

 

確かに捕らえたはずのその姿は、一瞬にして五mほど離れた場所にある。どうやら体をそのまま倒し、頭を支点に腹筋と足の力だけで其処まで跳ねたようである。

 

「あー。首、おかしくなったかと」

 

「普通はむち打ち程度じゃすまないと思うんだけどねぇ」

 

「はっはっは! 犬飼忠夫を舐めんなよっ!」

 

「これだから馬鹿って奴ぁ」

 

 何処か楽しげに嘲笑うメドーサだが、笑われた忠夫は必死に隠れて息を整えていた。疲労を見せないのも兵法の一つとは言え、長物という只でさえ腕に負担のかかる武器を扱いながらも、開始直後と比べても全く速度が落ちないどころかキレが増すばかりの攻勢に、流石に忠夫も不味さを感じていた。

 

「馬鹿って言うな!」

 

 微妙に首が傾いているが。視界が斜めになっていた事に気づいてか、グリグリ首を回して一息。何とか息は整った。その様子を見てメドーサも内心舌打ちをしているのだが、完全に余裕の笑みで隠している為忠夫はその事に気づけない。。

 

 

「ふぅ・・・やっぱやばいわ。陰念がいなくて助かったかも」

 

「おや、良く分かったね」

 

「いや、知らんかった。そーなのか?」

 

「この状況でカマを掛けるのかい。狸め」

 

「狼だって何度言わせれば・・・」

 

「ま、いい。冥土の土産だ。どうせ、偵察なんだろう?」

 

「さてさて、囮かもよ?」

 

「それなら本隊が風水盤にたどり着くことは…チィ。あたしとした事が、少々高ぶり過ぎた」

 

「む、もう御終い?」

 

 忠夫は、冷静になろうとするメドーサから飛び離れて距離を取る。

 

「そんなに離れちゃって大丈夫かい?」

 

「ああっ! 陰念がいないことも分かったし! おそらく原始風水盤までの道程に罠があることも分かった! あと屋敷の周りに罠があること! 兵隊の正体はゾンビって事も! んで匂いからして今はあんまりいないっ!」

 

「そんな大声を出して何を――まさかっ?!」

 

「ちゃんと伝えろよ! 雪之丞!」

 

「ちっ! もう一人――違うっ?!」

 

「やーい、ばーかばーか!」

 

「こ、このくそ犬ぅぅぅぅっ!!」

 

「狼だぁぁっ!!」

 

 突如大声を張り上げた忠夫に、もしやと思い一瞬気を逸らしたその隙を狙い、先程頭だけで跳ね上がった時に、土煙にまぎれてこっそり拾っておいた石を繁みに向かって投げる。メドーサがそちらに気を取られた瞬間に、屋敷に向かってダッシュ。完全に気を取られたメドーサは忠夫を追いかけて屋敷の中へ。

 

 後には誰も残らない。

 

 

―――いや。

 

「・・・成る程な、ありゃペテン師だ」

 

 先程忠夫が石を投げ込んだ繁みとは、反対側の繁みからそう呟き顔を出したのは――雪之丞。

 

「・・・全く。勘九郎の奴が変な事言うから、たまには頭使って不意打ちしてやろうとすりゃ、こんな結果かよ・・・あいつにはとっくにバレてたみたいだし、慣れない事はするもんじゃねぇな」

 

 辺りからは先程のような嫌な気配はもうしない。きょろきょろと周囲を見回し、屋敷の中へと歩みを進めようと一歩踏み出し、だが大きく舌打ちをすると踵を返した。

 

「・・・ちっ! 借り一個だあの野郎!」

 

 雪之丞は、そう呟くとその身を翻し、一路、宿へとその進路を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、逃げた忠夫はと言えば。

 

「えーと、これはなんでしょか?」

 

「土角結界っていってね。捕縛用の強力な奴さ」

 

「・・・玄関踏み込んで一歩目ってずるくないですか? せこいと思います」

 

 屋敷の内部に一歩踏み入り、狭い室内での泥沼のゲリラ戦に縺れ込みつつ離脱の機会をうかがうつもりであった忠夫だが、その目論見はまさかの一歩目で罠に捉えられた事から失敗していた。

 

 メドーサの背後からしか脱出できないと言う言葉、それ自体がブラフであり、それに気づかなかった忠夫の迂闊さ故、でもある。

 

「そんな事を言うのはこの口かい?」

 

「ひたたたたっ!」

 

「おや、意外に良く伸びる」

 

「やふぇひょーーー!」

 

「あーっはっはっは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・。また厄介な事に・・・」

 

「あの馬鹿・・・さっさと逃げるって言ったじゃない」

 

「ま、俺が見たのは其処までだな」

 

「・・・良くあんたが突っ込まずに帰って来れたわね」

 

 美神が心底不思議そうに雪ノ丞を見る。だが、勘九郎は何処か嬉しそうに雪ノ丞を見ていた。

 

「・・・あいつが俺を信じて囮になった事くらいは分かる。それなら、答えてやるもんだ。そう、ママには教わった」

 

 鼻を鳴らしてそう答える雪ノ丞に、美神は思わず感心したように吐息を吐く。

 

「・・・ふふふ。及第点かしら、ね」

 

 そして、笑みを浮かべる勘九郎もそう満足げに評価した。

 

「何をっ!」

 

「そんなことより、今は横島さんを助ける事を考えないと・・・」

 

「美神さん!横島さん大丈夫ですよね?!」

 

 ピートとおキヌの心配そうな言葉に、美神は頭を掻きながら悩ましげに窓の外を睨む

 

「ま、あの子の事だから、逃げ切れるとは思うけど・・・それならもう帰ってきてもいい筈だし」

 

「ふぇーん!よこしまさぁぁぁぁん!」

 

「ほらほら、おキヌちゃんも泣かないの。救出なら今から行くわよ」

 

「ま、とりあえず―――地上からは無理みたいね」

 

「それでも相手の戦力がわかった事は大きいわ」

 

「少なくともメドーサ一人、陰念はいない。そして、ゾンビの兵隊さんは極僅か・・・ですか」

 

 受け取った情報を呟くピート。その言葉を反芻する美神の横顔に、勘九郎の何か言いたげな視線が刺さり、視線を向ける。

 

「やっぱり良いわね、あの獣人の子」

 

「・・・ほしけりゃ自分で見つければ?」

 

「今はいいわー。まだまだ育て甲斐のある弟分がいるし」

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、陰念。とある場所にて。

 

「貴様ぁ・・・GS試験会場にいた爺じゃねぇか」

 

「ふん。護衛報酬の鉱石のために出張ってみれば、いつかの小僧ではないか。古い付き合いとは言え、あ奴も妙な目を付けられたな」

 

「たしか、ドクター・カオス、とか言ったな?」

 

 奪われた針の代わりを作る為に、再び風水師を狩り出していたところで、目的の風水師が護衛に雇っていたカオスと出会ってしまっていた。

 

「後ろの奴らはゾンビー、いや、キョンシーか。中々出来も良いようじゃの」

 

「正確にはその中間、ってところだがな」

 

「ちょうど良い。テストの相手としては十分か」

 

「何の話だ?」

 

「小僧。一つ賭けをしよう。わしの作品と、お主の兵隊。勝ったほうが我を通す」

 

「けっ!いいだろう。失敗しても、最初の針さえ取りもどしゃあ問題なし。なにより」

 

「ふむ?」

 

「手前の鼻っ柱、ブチ折ってやりたくなった」

 

「かっかっか!若造が!良かろう――行け」

 

「「「いえす。どくたかおす」」」

 

 カオスの後ろから現れたのは、身長130cm程の3体の――マリア。それぞれ髪形が異なっている。長い髪を持った機体の額には、αの刻印が。髪を後頭部で括った、いわゆるポニーテールの機体の額には、βの刻印が。髪を白いバレッタで止めた機体の額には、δの刻印が。

 

「おら、手前ら。とっととブチ倒してこい!」

 

「「「「「「「「「「ごおぉぉぉぉっ!!」」」」」」」」」」

 

 ゾンビか吼える。カオスと陰念は最初の命令以外動くつもりは無いようだ。

 

 

「「ごぁぁっ!!」」

 

 ゾンビの兵隊達の内、もっとも最前列にいた二体が迫る。

 

「武装・構築―――選択・浄化銀式・パイルバンカー・固着」

 

 進み出たαの機体。その手を一振りすると光の粒子が溢れ、次の瞬間にはごっつい杭打ち機がその手に絡み付いていた。

 

 その鋼の塊で兵隊の拳を受け止める。

 

「がっ?!」

 

「想定内の・インパクト。反撃――ファイア」

 

 あくまでも、事務的に。その鍛針は、身長差から突き上げるように、ゾンビの胸板を完全に貫き、滅ぼした。

 

「がっ!」

 

 しかし、彼らはその光景を恐れない。最早死んだその身に宿るのは、僅かな知性と、主人に対する絶対の忠誠のみ。故に彼らは止まらない。

 

「――連鎖防壁・展開」

 

 その拳は、αへ到達する一瞬前に、何十もの障壁に阻まれ、ついには止まる。βの伸ばした手の先から生まれでた斥力場によって勢いを止め、まるで表面を滑るように逸らされ、地面と何も無い空間を抉るのみ。

 

「ふふふ・・・我が秘密基地の周りでさわいどった馬鹿者ども・・・そいつらの中に、面白い結界の使い方をする奴らがいてな?」

 

「結界の多重展開? その程度、やってやれねぇ事は無い」

 

「違う。多重ではなく、連鎖じゃ。一枚目が破られると同時に2枚目が発生する仕組みでな? 相互干渉させないように、なかなか苦労したわい」

 

「・・・どこの結界馬鹿だ、そりゃ」

 

 会話はすれど、互いに眼は合わせない。正対していながら、その間は果てしなく広かった。

 

「斥力場・反転。捕縛」

 

 結界を張るβの掌が、下を向く。

 

「パイルバンカー・還元。ハンドガン・再構築」

 

 βの掌が返されると同時、その手から生み出されていた跳ね返す力はひきつける力となり、残り9体の内5体までをその領域に閉じ込める。次の瞬間にはαの手に、2丁のやたらごっつい拳銃が出現しており、その射撃は正確にゾンビの頭を吹っ飛ばす。

 

「がっ?!」

 

「おらおら、びびってんじゃねーぞ。とっとと回り込んでバラバラに飛び掛れ。どうやら多方向の防御は難しそうだ」

 

「分かるか?」

 

「動きがいつもそうだからな。必ず相手を正面に捕らえようとする」

 

「ふん。まだまだ成長途中じゃからな。マリアはメタソウルをほんの少しとはいえ分散させたせいで、しばらくはお互いに厳重な調整がいるし、の」

 

「あの機械人形か・・・あっちのほうが強いな」

 

 その言葉に、カオスは初めて陰念の目を見た。

 

「こちらにも色々と、な。――全く、無茶ばかり言うようになりおった」

 

 

「ターゲット・行動予測・終了。汎用兵器・「ヴリトラ」・起動」

 

 重々しい音を立ててδの背後に出現したのは、巨大な鉄塊。いや、それは幾つもの砲身を持つ――巨大な、武器だった。

 

「ロック・完了。精密射撃・ファイア」

 

 その咆哮は、火線を伴い、まるで鉄塊自体が爆発したかのような様相であった。圧倒的な暴力を伴いながら、しかし、

 

「・・・あの火力で、目標以外には傷一つ無し、か」

 

「火器管制にはマリアのデータが役に立ったからの」

 

敵至近にいた筈の、α・β両機にかすり傷一つつけずに、その前にあった存在をことごとく塵へと変えていた。

 

「さて。殲滅、じゃな」

 

「中々面白い見世物だった。ま、あいつ等位じゃ見物料にもなりゃしないがな」

 

「帰るのかの?」

 

「ふん。めんどくさいことは嫌いでね」

 

「魔族相手のデータも欲しかったがの。まぁ、スクラップにするにはちと気が引けるわい」

 

「けっ、よく言うぜ。じゃーな。おちびちゃんたち。爺、今回は見逃してやらぁ」

 

 そう言って、陰念は踵を返すと、振り返る事無く歩いて出て行った。

 

「まだまだ、あれクラスには勝てんな。マリアがおれば――いや、これも、マリアの意思か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーれ、ほーれ」

「玉葱はいやぁぁぁぁっ!!」

 

 そうこうしている間も某所では愉悦混じりの女魔族の声と、半人狼の悲鳴が響いてる。早く助けに行った方が良さそうだ。

 


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