◇
なんやかやいっても、すでに体育祭実行委員として相模さんに協力している奉仕部の連中に、ただ、一言添えるだけだ。現状、どんな依頼があってどの程度サポートしているのか詳細は知らんが、あの雪ノ下さんがいるのだから悪い結果にはならないだろう。それに比企谷もいる。認めるのは癪だが、やり方はどうであれ厄介事を捌く手腕で彼の右に出る人間は少ない。由比ヶ浜さんも持ち前の明るさで場を明るくするだろう。
十中八九、相模さんはやり遂げる。だから、私はほんの少し奉仕部の連中に発破をかけるだけでいい。難しいことではない。何も起こらない。私に都合の悪いことは何も起こらないはずだ。よもや、これ以上奉仕部と関わり合いになることなど……。
「条件があるわ」
相模さんに大見得を切った翌日の放課後、実行委員会が始まる前の寸暇に私は奉仕部を訪れていた。そこで雪ノ下さんと比企谷を前に、相模さんへのこれまで以上に手厚いサポートの必要性を訴えたのだが、二人はしばらく私に背を向けて、なにやら内緒話をしていた。やがて話がまとまったのか、雪ノ下さんが怜悧な双眸をきらめかせて、条件がある、そう言ったのだ。
「条件とは?」
雪ノ下さんが比企谷を一瞥する。妖怪ひねくれ小僧が禍々しく微笑んだ。途轍もなく嫌な予感がする。
「奉仕部の次の依頼をあなたが解決しなさい」
「は?」
「聞こえなかったのかしら」
「いや、聞こえたけど。どういうこと? 俺は奉仕部員じゃないんだぞ」
「まだ退部できていないわ。平塚先生にも確認したもの」
「そ、それは卑怯だ。俺はもうやめたつもりで――」
「話は最後まで聞きなさい。盛りのついた犬みたいにきゃんきゃん吠えないの」
「はい」
「退部を認めたわけではないけれど、今回は、奉仕部として依頼に臨めと言っているわけではないわ。べつに奉仕部でないと依頼を受けてはいけない、解決してはいけないという規則はないもの。だからあなたには一生徒として依頼を解決する、という条件を出しているのよ」
「……ほう」
なるほど。奉仕部とは関係のない立場で、奉仕部にもたらされた依頼を解決すればいいというわけか。
問答無用で奉仕部に復帰させるような、横暴極まりない条件ではなかったことに、私は安堵しかけた。いけない。まだ全部落着していると判断するには尚早である。
「依頼を解決できなかった場合はどうなる?」
雪ノ下さんは顎に手を当てて、しばし考え込んでいたが、上目遣いで私を見ると、ふっと笑みを浮かべた。
「なに笑ってんの」
「いいえ、べつに。そうね、解決するまでお願いしようかしら」
「それは駄目だ。俺の手に負えない依頼が続けば、永久に終わらなくなる。それは駄目だ」
「一理あるな。雪ノ下、それはちょっと可哀そうだぞ。こいつがそう簡単に依頼を解決できるとは思えない」
比企谷が援護するようにそう言った。信じられないくらいドス黒い思惑を腹の中に隠し持っていそうだったが、ここは否定以外ありえなかったので、丁重に乗っかっておく。
「そうだ。いくら何でも酷すぎる。それだと、結局、いつまで経っても奉仕部から離れられなくなるじゃないか」
「自分で言っていて情けなくないのかしら。そうやって文句ばかり言っているから、人並みにまともな学校生活も送れないのよ」
「また臆面もなく酷い言い草を、とほほ……じゃなくて論点をすり替えるな! とにかく俺は認めないぞ、そんな条件」
私の絶対に引き下がらない様子を感じ取ったのか、雪ノ下さんは小さくため息をついた。
「本当に聞き分けのない子ね。仕方ないわ、では解決したかどうか、あなたが決めなさい」
「俺が?」
「ええ。あなたが解決したと、胸を張って納得できるのであれば、それでいいわ。もちろん私たちも協力する。これでどうかしら?」
「……ふうん」
雲行きが変わった。
「お、おい。それは甘すぎないか? こいつ次第ってことになれば――」
比企谷が何かごちゃごちゃ言っているが、私は構わず口を挟む。
「いいのかい? もう訂正はできないぜ」
「これくらいしないと、あなたみたいな甲斐性なしには荷が勝ちすぎるのだからしかたないわ」
「そうか。わかった。その条件、どうやら呑むしかないようだ」
私は殊更重々しく頷いた。
雪ノ下さんはどうやら私のあふれ出る誠実さを信じ、かような施しじみた提案を下したらしい。大した女性だ。素直に感服せざるを得ない。私への分相応なその期待、たしかに受け取った。
「くくっ」
だが雪ノ下さんはひとつ勘違いをしている。たしかに私は己に厳しく、常に高い目標を掲げること余人の追随を許さないと自負しているが、ここぞという場面においては敢えて甘めの評価を自身に下すのを躊躇しない人間なのである。いやっほう、馬鹿め! 弱さを露呈したな、調子に乗って強者らしく振舞いやがって! 私を誰だと思っている。校内随一の自堕落人間であるぞ。ああ、可笑しい! ごね得とはまさにこのことだ。
「おいおい、いいのか雪ノ下」
「ええ。だって、私、信じているもの」
雪ノ下さんがまっすぐ私を見つめる。その美貌と甘言で私の良心に訴えかけているつもりかもしれないが、残念でした、というほかあるまい。
「うむ。任せたまえ。全精力を以てして、依頼解決に邁進しよう」
「ふふ。お願いね」
比企谷はやれやれとばかりに肩をすくめている。
「ま、部長が言うなら仕方ねえな。じゃ、そろそろ委員会だ」
そう言うと、比企谷は机から鞄を取り上げて立ち上がる。私は、ドアへと向かう彼の背中に声をかけた。
「おい、相模さんのこと、よろしく頼むぞ。彼女は理不尽にさらされている」
「わかってるよ。どうせ依頼を受けてんだ。やるだけのことはやってやるさ」
「やるだけのことじゃない。体育祭を成功させるんだよ」
「成功するかどうかはしらん。非協力的な奴らがいる以上はな」
「そのために奉仕部がいるんじゃねえか。どんな手を使ってもいいから不穏分子を黙らせて、体育祭をつつがなく終えろ。相模さんがかわいそうだろう」
相模さんと面と向かって約束した以上、奉仕部には全力で事に当たってもらわなければ困る。彼らに限って、依頼を蔑ろにするなどあり得ないと思うが、一応釘を刺しておくに如くはない。
「その本人の問題もあるんだがな……ま、わかったわかった。じゃあいくからな」
比企谷はなおざりな返事をして部室のドアを開くと、振り返って言う。
「雪ノ下、遅れるぞ」
「ええ。すぐに行くから、先に向かっていてちょうだい」
比企谷が去っていく。
片が付いた、と私は思った。これだけ人事を尽くしたなら、まずたいがいの目論見は叶うものである。ようやく平穏が訪れる。まだすべては決着していないが、すでに私の心は太平の大海原を、風を掴んで羽ばたく大鷲のごとく自由であった。あとは依頼を待つだけだが、どんな難易度でも軍配は我が手中にある。案ずることはない。そもそも奉仕部に再三再四かかずらっている唾棄すべき状況については、この際目をつぶってやる。
「では俺も来たる依頼解決に向けて、自己鍛錬に励むとするかな」
久しぶりに着席した奉仕部の硬い椅子から立ち上がろうとしたところ、雪ノ下さんが無感動な声音で言った。
「どうして相模さんに協力を?」
◇
私は鞄を肩にかけながら、ちらと雪ノ下さんを一瞥した。なぜか雪ノ下さんは必要以上に眼光を漲らせている。いささか怖い。いつか、ともに宵闇を走る電車の中で、並んで話したときのことを思い出した。あの能面のような顔である。
「な、成り行きだよ」
「そう。また、何か企んでいるのかと思った」
「企むだなんて。それじゃ、まるで俺が何か悪いことをしようとしているみたいじゃないか」
「ちがうの?」
「断じてちがう」
「文化祭」
雪ノ下さんが囁くように言った。
「あんなことばかりしているのはどうかと思うわよ」
私は全身から血の気が引くのを感じた。
雪ノ下さんは目をすっと細めて、じっと私を見つめている。
「なな、なんのこと」
私はなるべく平静を装ってみたものの、明らかに挙動不審であったことは言うまでもない。
雪ノ下さんが、くすっと小さく笑った。
「もう終わったことだからべつにいいのだけれど。体育祭では、変なことしないでちょうだいね」
「だから何のことか俺にはさっぱり。それよりも、相模さんのこと、えっと、頑張ってくれたまえな」
私は露骨に話題を逸らした。
雪ノ下さんが大きな目をぱちぱちと瞬きする。長い睫毛がまるで踊っているかのように上下に揺れた。
「本当に成り行きなの? 相模さんのこと。何も変なことはしていない?」
「なぜ過去形なんだ。し、失敬だね、きみ。あくまでも親切心だ。他意はない」
「珍しいわね。あなたが誰かのために、そこまでするなんて」
「寄ってたかってひとりを糾弾するのは見ていられないからね」
「あなたは見ていないじゃない。本当にそれだけ、かしら」
「何が言いたい」
私は、私の内部にある自分でもよく分かっていない何かおかしげなものを引きずり出し、分析して粉砕されてはかなわないと思い、正々堂々と雪ノ下さんの怜悧な目と相対した。こめかみから首筋にかけて冷たい汗が流れる。
すると突然雪ノ下さんがぷいと顔を背けた。
「べつに、なんでもないわ。少し気になっただけ」
「あっそう。ならいい。余計な詮索はプライバシーの侵害だよ。俺にやましいことなんて――」
「……あなたのプライバシーなんて全然興味ないわ」
「それはよかった。俺も奉仕部のプライバシーとは、近いうちにおさらばだ」
ふいに雪ノ下さんが、首が引きちぎれるほどの勢いで私に向き直った。その表情からは不義理な阿呆は即刻斬り伏せんとする並々ならぬ気魄が見受けられた。「アッ」とばかりに私は硬直する。
「いやいや、もちろん、次の依頼はしっかり臨ませていただく所存でござい――」
「あなた……やっぱり奉仕部が、いいえ、私が……」
しかしながら、般若面のような形相とは裏腹に、雪ノ下さんの声音はいたく弱々しかった。なぜかは知らんが、そんな隙を見逃す私ではない。このまま彼女の視線に晒され続けていては、危うく身に覚えのない悪事まで暴露してしまいかねない。ここは早々に立ち去って、日課である猥褻図書の研究に勤しむ必要がある。大団円は近いのだ。ゴールテープ目前で躓いていては目も当てられない。
「ともかく、そういうことだから。俺は帰るよ。やることがたんまりあるんだ」
「……待ちなさい」
「待たない」
私は逃げるように部室をあとにする。
ドアを閉める間際、雪ノ下さんがひどく曖昧な面持ちで言った。
「ねえ、次の依頼……必ず解決してね」
私にはそれが、どこか諦めているような顔に映った。だからか、私は珍しく彼女を励ますように親指をぐっと立てて返した。なぜ彼女が私を鼓舞するかのような台詞を述べたのか、そしてその言葉の裏にどんな意味が隠されているかなど深く考えずに。
「安心してくれ。俺はやるといったらやる男だ」
何の保証もない無責任な返答だったが、雪ノ下さんは驚いたように口を開け、それから花が綻ぶように笑った。
「期待しているわ。……さようなら」
我ながらなかなかに卑怯だと認めざるを得ないが、気の毒さ半分、裏を掻いてやったという得意さ半分で部室を出た。手を振る雪ノ下さんを残して。
◇
体育祭は、大過なく終わったらしい。らしいというのは、私は体育祭の運営について、その経過を何ひとつ関知していなかったことと、鬱陶しい10台のハードルを跳び越えることに夢中、かつ男汁と熱気で茹で上がりそうな棒倒しに精一杯だったからだ。紅白いずれが勝利したかも知らないし、実際に体育祭の運営委員会がどんな結末を迎えたのかもわからない。ただ、相模さんは立派に自身の役目を全うし、奉仕部は今回の依頼を無事達成したとのことだった。
「はい、これ」
体育祭が終わり、近づく修学旅行に教室全体が妙に浮ついた秋も深まる昼休みだった。
例のごとく校舎裏で比企谷と弁当をつついていた私が教室に戻ってくると、ひとりの女生徒がコーラを抱えて待っていた。
「委員長。どうしたんです、そんなコーラなんて持って」
訝しんでそう尋ねると、相模さんは悪戯っぽい表情をして私の胸を指さした。
「きみに、だよ。ほら、この前ぶつかって飲めなくなっちゃったじゃん」
「ああ、べつに、気にしていませんよ」
「ううん、ちゃんと弁償するよ。それに応援もしてもらったしね。お礼代わりにしては、かなり安いかもしれないけど」
「はあ、まあ、そういうことなら」
私はコーラを受け取った。だが、ずしりと来る重さに、1.5リットルはさすがに多いなと思った。
「ほんと、感謝してるから。ありがとね」
そう言うと相模さんは自席へと戻っていった。すぐに彼女の周りには友人たちの輪ができる。何人かが私の方へちらちらと視線を送っていたが、その中心で、相模さんが私に向かって小さく舌を出した。
「ほえー」
思わず気色の悪い呼気が漏れてしまい、私は慌てて口を結んだ。そして、相模さんていいな、と思った。
「よかったじゃん」
私が呆然と突っ立っていると、後ろの川崎さんが愉快な見世物でも眺めているかのような顔で言った。
「いきなり、なんだよ」
「ふうん。あんたもやるときはやるってこと?」
「どうかな。あのさ、そのにやにやするの止めてもらえる。じつに不愉快だ」
「だって、なんだか嬉しくってさ」
「なぜ川崎さんが嬉しがる」
「うーん。どうしてだろーね?」
「俺が知るかいな。ったく、馬鹿にしやがって」
川崎さんがなおも阿呆面で気味の悪い笑みを浮かべていたものだから、私は視界から消すことにした。
5限目が始まるまでしばらくのあいだぼおっと落書きされた黒板を眺めていると、もしかして相模さんは私に好意を寄せているのではないかしら、という勘違いだった場合、万死に値する危険思想が首をもたげ始めた。あり得ない、と断定することは容易い。だが、そういう可能性も少なからずあると考えられはしないだろうか。一見すると教室では目立たないタイプだが、話してみるとじつは頼りがいがあって意気軒高、絶え間ない思索に耽りながらも片時もユーモアを忘れたことのない私のような快男児に、相模さんのようなクラスの人気者がはたと恋してしまうというのは、古今東西様々な創作で繰り返し手垢がつくほど用いられてきた展開である。しかも二人の間には、ともに体育祭の運営委員会という難しい局面を乗り切った過去がある。これは吊り橋効果がいかんなく発揮されていると仮定してもなんら不都合がない。やや過大に己を評価している点は見受けられるが、この際、それも些細な問題であろう。肝心なのは、互いが互いを意識しているという一点のみに収斂されるべきだ。事実、相模さんは1.5リットルの大きなコーラを私に贈っている。
とすると、まさに今日この日が、二人の記念日になるかもしれない。
紛糾した委員会に一度は背を向けかけた彼女を、すかさず力強くも柔和に支えた陰の立役者。私はコーラのお礼とばかりに、小洒落た喫茶店に誘うのだ。そうして間近に迫った修学旅行について、香り高い紅茶を囲みながら神社仏閣について語り合ううちに、二人の間にはいつしか互いへの信頼が生まれているだろう。その後は、天が私に与えた才覚をもってすれば、事はきわめて容易だ。万事はおのずから私の思い描いた通りの経過をたどらざるを得ない。その先にあるのは、ふはふはして、繊細微妙で、夢のような美しいもので頭がいっぱいなやさしい黒髪の乙女とともに歩む薔薇色のハイスクールライフである。
我ながら一点の曇りもない計画で、じつに行雲流水のごとく、その展開は見事なまでに自然だ。事が成就したあかつきには、必ずや我々は語り合うにちがいない――「そういえば、あの踊り場のラリアットが私たちの運命だったね」と。
はっとして気が付くと、いつのまにやら帰りのホームルームの時間になっていた。狐につままれた心地でいると、後ろから肩を叩かれ、辺りを見回せば私だけ起立していない間抜けた状態であった。
慌てて立ち上がり、礼をして、着席、ほっと息をついた。
我ながら、なんとも生々しい正気を疑うような妄想であった。しかも途中から相模さんではなく、黒髪の乙女が登場しているものだから始末が悪い。なんたる助平男なのだ、貴様は。相模さん、ごめんなさい、どうやらきみは私の意中の女性ではないらしい。
「ぼーっとしてるね。具合でも悪いの?」
川崎さんが後ろから身を乗り出して私の顔を覗き込む。
「顔が赤いじゃん。風邪?」
「ちがう」
「でも赤いよ」
「うるさいな。ほっといてくれ」
「はあ? 人がせっかく心配してるのに」
「あ、いやなに、少し考え事してただけさ」
私が言い繕うと、川崎さんはニンマリした。
「へえ、やっぱりさっきのあれ? 相模がお礼だか、なんだか言ってたけど、もしかして……」
「お、おい! 何の根拠があってそんな馬鹿なことを! 憶測でものを語るのは愚者にありがちな――」
「うわぁ……図星なんだ……」
「あ、あのね、川崎さん。きみはね、勘違いをしているよ。俺はね、もっとこう、ふんわりしたメレンゲみたいな女子が好みであってだね、エネルギッシュは埒外というか、たしかに委員長は魅力的な女性ではあるけど、ともかく――」
「わかったわかった。わかったから、ちょっと落ち着きなって。そういうことにしておいてあげるから」
川崎さんは可笑しくて堪らないといった様子で、私をなだめるような仕草をした。
「からかうのはよせ。くそっ、ずいぶん疲れたじゃないか」
「あははっ、あんたホントわかりやすいよね」
「だから、ちがうと言っている。しつこいね、きみも」
「まあ、まあ」
ざわざわと騒がしい教室から、ひとり、またひとりとクラスメイトたちが出ていく。私にもこれから重大な用事があった。今後の学校生活の趨勢を占う非常に重要な面倒事である。
「あ、そういえば、修学旅行の班決まったよ」
「え、いつ?」
帰りの支度をしながら訊ねる。
「あんた……やっぱり聞いてなかったか。さっきの6時限目」
「ふうん。まあ、べつにどうでもいいが」
どうせ、職場体験の班決めのように、合理的かつ理不尽に余ったところへ押し込まれているのだからどうだっていい。大切なのは、誰と過ごすかではない。いかに過ごすか、である。
「あんた、戸塚と同じだよ」
訂正。誰と過ごすか、である。
「よっしゃあ!」
「あと……ひ、比企谷と葉山だってさ」
「……」
「なんつう顔してんの」
「……はぁ」
いたし方あるまい。この際、戸塚君と同じ班というだけで僥倖と捉えるべきだろう。たとえ、そこに妖怪ひねくれ小僧とパーフェクトヒューマンが混じっていようとも、これ以上多くは望むまい。
「よし、では、行くとするか」
「帰るの?」
私は首を振った。
「乾坤一擲」
「あ?」
「さらばだ」
私は小粋にブレザーの裾を翻して川崎さんに背を向けた。
「ね、ちょっと、聞きたいことが――」
「悪いが、時間がないんだ。また今度にしてくれ」
「あ……うん。じゃ、また明日ね」
目指すは、安寧と薔薇色の高校生活。
いざゆかん、バケモノ巣食う伏魔殿、奉仕部へ。
あけましておめでとうございます。
読者諸賢の皆さまにおかれましては、ますますのご健勝、ご活躍のこととお慶び申し上げます。
さて、本年も拙作をご覧いただき誠にありがとうございます。毎度、皆様の感想を楽しみにありがたく拝読していますが、返信につきましては、後ほど、まとめて少しずつできればと考えております。無精の為体ではありますが、何卒ご理解ご了承のほどよろしくお願いいたします。
今後とも読者諸賢に楽しんでいただけるよう張り切っていく所存ですので、生暖かい目で読んでいただければと思います。それでは、ご機嫌よう、失敬。
令和二年、一月吉日。