奉仕部と私   作:ゼリー

25 / 35
第二十五話

       ◇

 

 クラス企画の進行具合は順調であった。

 劇に必要な小道具はすべて用意できていた。たゆまぬ緊張感の中、黙々と作業に打ち込んだ成果であろう。私は同じ小道具担当の男子生徒と熱い握手を交わした。これだけの小道具を作り上げたのだ。必ず観衆をあっと言わせる舞台になるだろう、私には確信があった。

 あとは文化祭当日に組み立てるだけとなり、我々小道具班は暇を出されることになった。私は教室を出て、適当な飲み物を購入すると文化祭実行委員会の開かれている会議室に向かった。

 ざわざわざわと話し声のする会議室へ入ると、その人の多さに私は面食らった。私の知る会議室は閑古鳥が躍如して鳴く物寂しい場所であったのに、いまや所狭しと生徒たちが押し合いへし合い仕事をしているのである。これはいったい何事か。

 狐につままれたような心持ちで、ふらふらと人の間を縫うように歩く。部外者である私を誰も意に介さないのは、忙しくてそれどころではないからだろう。

 

「手伝いに来たぞ」

 

 そう言って私は空席になっていた比企谷の隣に座った。

 

「……おう。その辺のやつ適当にやってくれ」

 

 比企谷は我々の間に置かれた書類の束を顎で指した。

 

「目の前のパソコンに打ち込めばいい。Excelは起動してあるだろ」

「なーる。記録雑務は楽でいいな」

「その分仕事量は負の相関になってるがな」

「ゆえに、俺が来たのだ。ほれ」

 

 私は缶コーヒーを比企谷の前に置いた。

 

「わりぃな」

「タダではない、貸しだ。ところで、なぜこんなに人がいるの?」

「ん? ああ、雪ノ下が文化祭まで全員参加にしたからだな」

「へえ。ようやくか」

「そう、ようやくだ」

 

 私は執行役員たちが座る前方の席を見遣った。

 副委員長である雪ノ下さんから指示を受ける生徒が列をなしている。皆一様に表情を引き締めてやる気に満ち満ちていた。一つの目標に向かって一致団結している姿が頼もしくもあり、やや暑苦しくもあった。並ぶ生徒たちを捌き切った雪ノ下さんが私の視線に気が付いてこくりと頷く。私はニヤニヤと頬を緩ませながら敬礼して応答した。しかしながら、すでに彼女は見ていなかった。私は気まずげに額の上に構えた手をゆっくりと下ろす。そこで、あれっと思った。

 

「雪ノ下さんの隣の人って委員長だよな」

「そうだが」

「なんか見るからに心ここにあらずって感じだぜ」

「……知らん。大役の荷が重過ぎたんじゃねえの」

 

 比企谷はどこか突き放すような口調で言った。

 

「ふうん。どこかで見たことあるような顔だな。同学年?」

「同じクラスだ」

「ほう! すると、あの方が相模さんか、おまえの相方の」

 

 比企谷はパソコンから目を離さずに鼻を鳴らした。不満げな様子が見て取れる。何か訳ありのようだ。

 

「おまえの相方を買って出るお方だから、さぞかし器の大きい人だと睨んでいたが、委員長まで務めるとはな。やはり俺の目に狂いはなかった」

「狂いまくってるぞ」

「なんだと」

「なんでもねえよ」

「ふん。あまりナメた口を利くな。それはそうと、これはいったいなんなの?」

 

 私は比企谷との間に積まれた書類の山を指した。先ほどから、一定の間隔をおいて増えている。それもそのはず、他の委員たちがなんの断りもなく無造作に積んでいくからであった。まさか、刻一刻と我々の仕事が増しているというわけではあるまいな。いくら何でも無言で仕事を押し付けるなどというパワハラが横行しているとは考えたくない。

 

「その通りだ。仕事を振られてるんだよ」

「はあ?」

 

 言っているそばから、また通りがかりの委員が書類をそっと我々の間に落とした。

 

「しゃあねえだろ。期限が迫ってるんだからよ」

「しかし、それは俺たちだって同じなんじゃ――」

 

 きわめつけに、私の言葉を制するようにして、男女対になった委員がなぜか眉間にしわを寄せながら数冊のファイルを置いた。

 私はいい加減に腹が立ち、ぐわんと相手を下から睨みつけて言った。

 

「失礼ですが、これはなんですか?」

「おい、よせよ」

 

 比企谷が小声で注意するが、私は耳を貸さない。

 

「もしかして、我々に仕事を振っているつもりですか」

 

 文句を言われるとは思ってもみなかったのか、男女は怯んだようで言葉に詰まっていた。私は内心憤怒にかられながらも、外面はいたって冷静に続けた。誰にでもできることではない。

 

「記録雑務の仕事でしたら喜んで承りますが、それにしたって何か一言あってしかるべきではないでしょうか。無言で仕事を頼むなんて、いささか礼儀に欠けているとは思いませんかね」

「で、でも、さっきから引き受けてましたよね? 何も言ってなかったし……」

 

 女生徒の方が、おずおずと言った。いつの間にか会議室の喧噪は止んで、衆目の視線が我々一点に集まっている。私はここぞとばかりに追撃に出た。

 

「まさか総武高校の生徒ともあろう者が、仕事を振る際に、一言も断りを入れないなんて考えられませんでしたからね。ですから、ここへ積まれた書類は我々の仕事だとは認識していません。積んだ委員の方々、もし万が一、我々に依頼しているのであれば、そう言ってください。さもなければ、我々はこれを無視します。ご自身らで処理してください」

 

 私は断言した。こういうのはつけ上がらせたら際限を知らない。早急かつ毅然とした対応が必要不可欠なのである。会議室中の注目を浴びていることに、居心地の悪さは感じたが、私は全くもって後悔していなかった。

 すると、もう一人の男子生徒の方がぽつりと言った。

 

「そもそも、あんたは誰なんだ」

 

 周囲で何人かが頷いている。視界の隅で、雪ノ下さんが額に手を当てて、やれやれとばかりにため息をついているのが見えた。

 

「ぼ、ぼくが何者かなんてこの際、関係ないでしょう。いまは何より――」

「おい、もういいから! ちょっとこっち来い」

 

 ふいに比企谷に腕を引っ張られ、私は立ち上がった。そのまま会議室の外まで連れていかれる。息を吹き返したようにざわめき立つ会議室を離れて、比企谷は普段昼食をとる校舎裏の階段まで私を導いた。

 

「なんだよ、いきなり」

「こっちの台詞だ。唐突にキレてんじゃねえよ」

「キレてねえよ。そういうのは精神の敗北だからな。生まれてこの方、キレたことなどない。あれは正義の名の下に一席ぶったまでだ」

「はいはい、ようござんしたね。くそっ、厄介なことしてくれたな……」

「厄介なことをしたのは彼らだ。あんな横暴を黙って見過ごせるか? 否、断じて否だ」

「正論が通じないのが群集心理ってやつなんだよ。風見鶏に何言ったって馬耳東風ってやつだ」

「ちょっと待て、群集心理ってなんだよ。なにか思惑があるみてえな言い方だな。俺たちに仕事を押し付ける理由があるのか?」

「それは……」

 

 比企谷は急にもごもごと口ごもった。私はぴんときて詰め寄る。

 

「おい、まさか。おまえ、なんかやらかしたのか」

 

 よく考えてみれば不条理極まりないことは自明である。あれではまるで、洗礼と称した新人いびりが横行していた前時代の刑務所のようではないか。いくら人をからかうことが三度の飯より好きなお年頃であっても、さすがに理不尽が過ぎる。私のことを知らないにもかかわらず、あのようなパワハラまがいのことをするとは考えにくい。とすると、原因の所在は私以外に求められるわけだが、一人しかいない。まさか、私はとばっちりを喰った、ということなのか。

 比企谷は傾き始めた日を仰いで、どこかすがすがしくもみえる表情で頷いた。

 

「ああ。ちょっとな」

「ちょっとな、じゃねえよこのオタンコナス! やり切った顔をするな。何があったんだよ」

「それはいいだろ。俺の傷をほじくり返したいのか? ほじくったところでおまえが得るものは何一つないぞ」

「納得の問題だ。言ったことを悔いるつもりはないが、墓穴を掘らされたのかどうか、気になるだろうが」

「昨日、スローガン決めで揉めたんだよ。それで最終的に俺が委員会でハブられることになった。おしまい」

 

 過程をすっ飛ばして結論を述べた比企谷は、寂しげながらも嘲るように笑った。私はふつふつと迸りかけていた怒りも忘れて、阿呆みたいにポカンとした。

 そういえば。

 周囲は存分に意思疎通を図りながら仕事をこなしていたのに、比企谷にだけは誰も声をかけていなかった。不自然なように彼の隣の席が空いており、いわば陸の孤島と化していたのも、つまりはそういうことだ。やはり、あの無造作に押し付けられた書類が意味するものは、あくまでも比企谷だけに対する当てつけであって、私に対するパワハラではなかったということである。

 私はつまらなそうに持参していた缶コーヒーを飲む比企谷を見遣った。

 こいつ、またハブられたのか。

 クラスでは、脳天からつま先までヘリウムを詰め込んだみたいに浮いているのは、もはや言及するのも馬鹿らしいほど当たり前になっていたが、強制労働の憂き目に遭いながらもなお、その場において不遇をかこつ羽目になっているのかこの男は。私は、そのあまりに哀れな男の生き様に、不可避な神の気まぐれを看破した。不憫も不憫、非業も非業と言うほかあるまい。こいつはハブられることにこだわりでも持っているのか。いやはや、それにしてもハブられ過ぎである。これが、笑わずにいられるだろうか。

 私は噴き出すと、そのまま笑い転げた。比企谷は驚いて目を丸くしていたが、そのうちに顔を歪め始めた。

 

「おい、俺がハブられるのがそんなに可笑しいのか」

 

 私は目じりに溜まった涙をぬぐって、咳き込んだ。

 

「どんだけ笑うんだよ。もういいっつーの」

「いや、すまんすまん」

 

 しばらく思うまま抱腹絶倒すると、私は息を整えて、込み上げてくる笑いをなんとか押しとどめた。

 

「ふう、まあ、なんだ。許せんな。おまえを侮辱したということは、俺を侮辱したということだ」

「絶対思ってないだろ」

「いかなる理由があろうとも、寄ってたかって雑魚をハブるとは、言語道断」

「雑魚ってなに。ねえ、雑魚って言ったよね、今」

「雑魚は雑魚なりに気張っているというのに、彼らにはそれがわからない。彼らには指導が必要だ。驕慢極まる心を正して良識ある人間へと目覚めさせねばならない」

「やっぱり雑魚って言ってるじゃん。もう、なんなのおまえ」

「よし、平塚先生に言いつけてやろうぜ。こんなときのための生活指導だろう」

「やめて! 余計惨めになるだけだからそれ」

 

 私は、ともかく比企谷が原因のとばっちりに関しては大目に見てやることにした。自己を棚に上げたままでは卑劣であるから言うが、私とてクラスの中心人物としてそのカリスマぶりを発揮しているわけではない。むしろ、ぷかぷかと洋上に漂う雲のように浮いている。しかしながらそれは、そうならざるを得なかったからではなく、あくまでもその学生形態が自らに資するものと考え、自由意志によって選び取ったということは、賢明たる読者諸氏にはお分かりのことと思う。クラスで浮いていても何ら困ることはないが、自由意志で孤高を貫くことと、意志の有無にかかわらず「ハブ」を強制されることの間には雲泥の差がある。この先、いつ果てるとも知らぬハブ街道を驀進中の比企谷に情けをかけてやるのは、狷介孤高たる賢者の使命だと私は考えた。

 しばらく校舎裏の階段でぼんやりしていた我々だったが、頃合を見計らって会議室に戻ることにした。

 会議室前で私は比企谷に鞄を取って来てもらった。彼が入室すると同時に、それまでの喧噪がぴたりと止んだことは言うまでもないだろう。

 

「ほらよ。鞄持ってどうすんだ?」

「え? どうするんだって、そんなの――」

「おまえまさか、帰る気か」

「そのまさかだよ。もう会議室には戻らない。というか戻れるわけがなかろう。厚顔無恥も甚だしいぞ」

「おい、てめえ。さっき許せんとかなんとか言ってただろうが」

「許せないが、それと俺の羞恥心には関係がない。いま中へ入るなんて阿呆の所業だ」

「それを俺に言うのかよ」

「凄い。本当に君は凄いよ。その姿勢、一切見習うべきところがない」

「うるせえ。仕事はどうすんだ」

「心配するな。おまえなら出来る」

 

 私の無責任な発言に、比企谷は目を吊り上げたが、そのとき会議室のドアが開いてなにやら華やいだ空気をまとった女性が廊下に姿を現した。

 

「あれれ、お二人さん。もしかしてサボりかな?」

 

 声を聞いたとたん、比企谷は背後にいる人物が誰だか悟ったらしく、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。陰気な顔面がよりいっそう暗く汚らしくなっている。一方、私はというと会議室から出てきた人物が、注目に値する女性リストの筆頭であったことから、瞬時にその名を思い出していた。無意識に卑猥なため息をこぼれおちる。

 

「ねえねえ、ちょっと付き合ってよ」

 

 雪ノ下さんのお姉さん――つまり、雪ノ下陽乃さんはそう言って、正視しがたいほど眩しく微笑んだ。

 

       ◇

 

 我々は食堂の一画で向かい合った。

 隣に比企谷、その前に雪ノ下陽乃さんが座っている。

 

「やあ、すごかったねさっきの啖呵。お姉さん感心しちゃったよ」

 

 すでに初対面ではなく、会話は交わされていなくともショッピングモールで面識はあったはずなのだが、なぜか私はもう一度自己紹介をしていた。どうやら、陽乃さんは私という稀有な存在をうっかり失念していたらしい。これは非常に珍しいことといわざるを得ない。こんな奇怪な出来事が起こったのも、きっと私があのとき陽乃さんのおっぱいに全神経を集中していたせいであろう。助平根性に罰が当たったのだ。

 それはともかく、陽乃さんは先ほどの私の慷慨(こうがい)的主張を評してくれているようだった。

 

「あれは私も心苦しいと思ってたんだよねえ」

「嘘つけ」

 

 陽乃さんが言うと、比企谷がすかさず吐き捨てた。

 

「あれ~、比企谷くん拗ねてるの? そんなわけないよね、だってああなること分かってやったんだもんね。悲劇の主人公気どりだもんねえ」

「……べつに、そういうんじゃないですよ」

「ふーん、まあ、お姉さんにとってはなんだっていいんだけどさ」

 

 楽しげに笑うと、陽乃さんは右手の人差し指をぴんと立てて「二人にクイズ」といった。

 

「集団をもっとも団結させる存在はなんでしょう?」

 

 数秒後、比企谷が面倒そうな口ぶりで答える。

 

「冷酷な指導者ですか」

「はい、ぶっぶー。本当は、知ってるくせに」

 

 頬を膨らませて指でばってんを作る陽乃さんを、すごくかわいいと私は思った。

 

「じゃあ、きみは?」

 

 陽乃さんに促され、やや考えてから私は晴れやかに言った。

 

「愛、ですかね」

 

 むろん、愛などという定義のあやふやなもので人々が団結するとは毫も思っていない。こちらで放任主義が愛と呼ばれることもあれば、あちらでは執着じみた干渉がラブという名を装って大手を振るっている。やさしさが愛であれば、厳しさも愛だし、本能的な愛もあれば、理性的な愛もあるという。世界には種々様々な愛があって、アマゾン奥地の愛は千葉の愛ではないかもしれないのだ。誰もがとっておきのきわめて個人的な愛を持て余しているというのに、そんなものを共有できるわけなどあるまい。愛で集団は団結しないのだ。

 ところが、愛を語る人間のなんと美しいものか。そして、捻くれた皮肉屋のなんと醜いことか。おそらく、英明果敢な読者諸君のことだから早い段階でお気付きであろうが、私は愛に溢れた人間である。愛の無力を知りながら、愛の可能性を人一倍信奉している巡礼者である。そんな人間が語る愛は、人々を感化し、瞠目させ、そして尊敬を享受させしめる。常日頃から、私はこのような機会が訪れることを、虎の眼で耽々と待っていたわけであるが、ついにそのときが訪れた。二人には、愛と答えた私はひどく輝いて見えたことであろう。心なしか陽乃さんが、頬を染めて私を見ている気がした。ちなみに、皮肉屋の比企谷は口の端を歪めてほくそ笑んでいる。

 

「……あ、愛と来たか。お姉さん、これはちょっと想定外だったなあ」

「おお、すげえなおまえ。雪ノ下姉が珍しく困っているようだぞ」

「古来よりアガペーやフィリア、エロス、ストルゲーなどといって愛にはいろんな形がありましたが、やはり人々を団結させる愛といえば、それはもちろん隣人愛的な――」

 

 私がつい先日、本で読んだ浅薄な知識について語ろうとしたところで、なぜか陽乃さんが苦笑いともとれる表情を浮かべて言った。

 

「たしかに愛も大事だけれど、もっと分かりやすいものがあるの」

 

 そして、これまたなぜか申し訳なさそうに眉をひそめて、「ええと、敵の存在かな」と解答して、「だよね比企谷くん?」と投げた。

 

「そんな困った顔で俺に振らないでくださいよ。甘く見ましたね、こういう奴なんですよ、こいつは」

「あ、あはは、そうなんだ」

「え、どうしました? 敵の存在? ああ、たしかに! それ、たしかに!」

 

 会話の流れがそこはかとなく不穏だったので、私はすみやかに陽乃さんの主張に唯々諾々と従った。盲目的な阿諛追従であったが、少し冷静になって考えてみれば、それはもっともらしい要素を多分に含んでいるように思われた。比企谷という未曽有の憎まれ役が、権化として彼女の思想に正当性を与えているのだ。私は陽乃さんの慧眼に脱帽した。

 

「う、うん、でしょ? ほら、比企谷くんみたいな悪者がちゃんとやってると対抗心が湧くみたいだね。いいよー、比企谷くんのその姿勢! 敵がしっかりしてないと成長しないからねえ」

 

 おそろしく苦々しげに顔をしかめた比企谷は、ふと携帯電話を取り出して画面を検めた。ちらっと私を流し見てから、スカし気味に立ち上がる。

 

「あの、俺ちょっと雪ノ下に呼ばれてるんで、もう行きますよ。全体共有があるらしいんで」

「えー、せっかくこれからいろいろ話聞こうと思ってたんだけどなあ」

「話ならそいつから聞いてください」

 

 そう言って比企谷は私を指す。

 

「俺は行かなくていいのか?」

「ああ、そもそもお前は文実じゃねえからな」

 

 そう言うと比企谷は、いかにも腹立たしくなるような姑息な笑みを浮かべて食堂を出ていった。

 陽乃さんは手を振って見送ると、どこかいたずらっぽい顔をして言う。

 

「二人っきりになっちゃったね」

 

 私はむふっと笑ってから表情を引き締めた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。