食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 今日の更新は短めです。
 完成版は明日以降順次加筆していきます。

 6/25加筆しました。
 6/26おまけ追加しました。


全ては手の上で

『食の殿堂に集いし料理人達が、食材と共に腕を振るい合う。此処、月天の間で今年何度目かの食戟が本日執り行われようとしています。実況は放送部の早津田みるるがお送りします!そして解説は現遠月第三席であるこの方!』

 

『というか昨日まで秋の選抜で働いてたのになんで私ここにいんの?実家に帰って掃除がしたいんだから…………』

 

『そう言わずお願いしますよ~。あ、実況席にあるいなり寿司は好きに頂いていいそうですよ?」

 

『それを先に言って欲しいから。三年の矢成音孤』

 

 巨大な会場に響き渡るのはなんとも個性的な二人の声。

 片方はこの場に身内がいたならば絶叫しそうなほどのキャラ作りをした桃色の髪の放送部のエースであり、もう片方と言えば赤い着物を羽織り頭から狐の耳を生やした十三歳くらいの少女である。

 

 先日まで執り行われていた学園の重鎮たちが列席する式典じみた大会とは打って変わっていろものな雰囲気で始まるのは第十席と第九席による十傑同士の食戟。

 

「ふ、まさか月天の間を貸し切るとは思い切ったことをしますね」

 

「十傑同士の対決は此処じゃないんですか~?私の思い違いですかね?」

 

「…………あくまでその一年生を遠月第十席としての代理人として進めるおつもりですか。いいでしょう、夢々後悔なされぬよう」

 

 イラついた様子の須郷が自らに与えられた調理場へと去っていく。

 昨日の今日で変更された食戟の開催地点が寄りにもよってこの場所だ。無理もないだろう。

 月天の間に集まった数百人のギャラリーを見てよくもまあこんなに集まったものだとも思う。

 それだけ十傑同士の食戟が貴重だとも取れるが、この学園での生き残りの数を計算してみると明らかに多いのは気のせいだろうか?………これ以上考えるとヤバそうな気がする。放送部とかどうやって課題を生き残っているのか不明だし、親族とかそういうのが集まっていると考えよう。

 

「緊張しているんですか?」

 

「まぁ、以前やったサーカス団での命綱無しでやる空中ブランコからの空中三回転に比べればマシですよ。負けた時のリスクは誰かさんのせいでこっちのほうが凄まじいですけどね!」

 

「ま、まだ言うんですか!?私は謝りませんからね?悪いのはあっちです。あの第九席の――――誰でしたっけ?」

 

「…………もういいですよ、勝ちますから」

 

「勝てますか?」

 

「勝つしかないし、勝ちますし、勝てると思います。何せこっちは親友たちを貶されて、先輩の全てが懸かっていて、男の意地がある。こんだけ条件が揃っているのに負けることを考えちゃそれこそ台無しでしょ?」

 

 今日この日のために修行をした。

 レシピは全て頭に入っている。

 食材も器具も全て二人で用意した。

 条件は揃った。だからこそ今、自らも戦場へと立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『両者準備に入ったようですね!』

 

『見ればわかるから』

 

 会場の熱気が高まる中、実況席の二人のテンションは対照的だった。

 遠月でも珍しい十傑同士の対決に胸を躍らすみるると食戟自体には興味がないと言わんばかりの音孤。

 

 一般生徒であるみるるから見て十傑というのは殆どが未知の存在だ。新聞部が作成する『遠スポ』や学外の情報誌で顔出ししている者を除けばその存在は謎そのもの。顔は疎か名前すら知れ渡っていないというのが殆どだ。

 

『うーん、第九席の須郷はこの遠月を牛耳っている薙切家程じゃないけど超が付く金持ちの一族で今年十傑に入ってから食戟で勢力を伸ばしてるからなー』

 

『食戟で?』 

 

『そ、この学園を卒業出来るのはひと握りだけど一応在籍していただけで外では相当有利だから。アイツはそういう連中に片っ端から食戟を仕掛けて配下にしているんだよ。在籍していた事実だけあればいいってことは遠月において絶対のルールである食戟の結果を蔑ろにして遠月に在籍してた事実そのものを抹消されることだけはみんな避けたいからな。だから、この学園にいるうちに配下を増やしておけば卒業後の栄光は約束されたも同然ってわけ』

 

『そ、そんな理由が』

 

 音孤の言う話ではこの遠月の悪しき習慣らしく毎年こういうゲームが有力な生徒の間で流行っているらしい。

 その情報が外部に漏れていない時点で十傑の情報操作能力の高さが伺い知れるし、この場で大人数に向けて説明しながらも飄々としている音孤の心臓の強さに驚かされる。

 

『あ、私は卒業したら実家の神社で祀られるだけだからそんな事してないよ?というか、今の十傑でこんなくだらない事してるのは須郷だけだから。金の力、権力、数の暴力で【3K】なんて私らの中で呼ばれているくらいだし。アイツを嫌ってない奴なんて第一席サマとそこにいる第十席くらいじゃないのかなー?』

 

『第十席というと…………』

 

 みるるの視線が第九席と対峙している少年へと移される。

 

『あ、違う違う。そっちじゃなくて車椅子の方だから。あれは代理人でしょ』

 

『代理人?これ十傑同士の食戟ですよね?』

 

『ま、普通はそう考えるよねー。でも、本当の十席はあの車椅子でほくそ笑んでる性格の悪いチビの方で、あっちの代理人は一年生じゃないかな。確か、私が担当していた秋の選抜のAブロックで見たような気がするし』

 

『す、すいません。私の資料にはあの生徒の情報が何もないんですが…………』

 

 みるるが本日の台本をひっくりがえすような勢いで捲る中、音孤が既に4個目のいなり寿司に手を出す。

 

『ま、予選で落ちたしね。普通の子だと思うよ?…………気とかオーラは別にして』

 

 音孤は手で社を作るようにして覗き込みながらそう呟く。

 こういった事は第六席の豪雪山の専門だが、生憎彼は「季節の変わり目なので山で遭難するものが多い」という今年既に三回くらい聞いた覚えのある理由で一週間前から遠月の裏山に篭もりっきりだ。

 

『ま、別に関係ないでしょ。あの魔女に関しては』

 

『魔女…………たしか、第十席の二つ名ですよね』

 

『そ、私も大概だけどアイツも相当だからねー。だって、私同期なのにあいつが自分で料理しているところ見たことないもん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 第九席の設定を書いたついでで今回第三席を解説役で出したけど、遠月十傑のイロモノ化が止まらない………




おまけ 彼女が選ばれた訳


音孤『というか、なんで今日私が呼ばれたの?十傑なら角崎呼べばいいじゃん』

みるる『ああ、その角崎タキさんからの推薦ですよ』

音孤『え、アイツから!?ふっふーん、ついに私を先輩として認める気になったか』

みるる『なんでも、「今日は後輩と買い出しがあるから行けないけど、代理人は暇そうで餌で釣られそうだから、矢成でいい」との事です』

音孤『アイツ後輩としてなってないから!やっぱり気に入らないからー!』









 矢成音孤
 遠月第87期生にして第3席。二つ名は【稲荷神】
 霊能力者の家系で卒業後は実家である矢成神社で生き神として奉納されることが決定している。遠月に来たのは好物であり供物である”いなり寿司”を美味しく作れる人間を探す為だったが、いつの間にかそれで頂点を取っていた。
 神通力があるとの噂があるが、本人曰く「本当にヤバいモノだけ感じ取れる程度」の能力らしく、常に着物を羽織っていたりケモミミをつけているのはそれっぽく見せるファッション。
 最強の第一席と色々とおかしい第二席を例外にすると意外にも特化型の料理人の頂点に立つ存在だったりする等、普通にコミュニケーションがとれる十傑の中では一番の実力者。
 唯一の得意料理であり必殺料理である”いなり寿司”は必殺の名に恥じぬ威力で食べたものを強制的に自らの信者に変えてしまう。ファンクラブの総会員数は現遠月一位で今回の食戟の観客の半分が第九席の配下と身内だとすると八割くらいが彼女の信者になる。
 同じ十傑の角崎タキとは昨年の『紅葉狩り』の際に初対面でいきなり(ロリ)キャラが被っているとイチャモンを付けてから彼女から”敬わなくていい奴”と認定されており、ぞんざいな扱いをされている。

 豪雪山武蔵
 遠月第87期生にして第6席。
 遠月学園が保有する遠月山の管理者にして【山の主】。
 十傑の一人だが、秋の選抜などの行事にはあまり参加せず基本的に自身のホームグラウンドである山の中で生活している。
 遠月山は天然の食材が多く自生し、麓付近はハイキングや食材採取の為学生達で賑わっているが山奥に迷い込んでしまうと捕獲レベル600オーバーの怪物たちが徘徊しているので非常に危険なのにも関わらず、豊富な食材に釣られて迷い込む人間が多いので山を離れられないという理由がある。
 現遠月リアルフェイト部門納得の一位。
 遠月山ツアー(護衛付き)プランはお一人様6000円から承っております。

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