食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 黒咲の妹である瑠璃に酷似している融合次元のデュエリストセレナ。
 単独行動をしていた彼女は『アカデミア』と協力関係にある『シャドルー』の戦闘員との多勢に無勢の戦いを余儀なくされていた。

 セレナの得意とする融合召喚対策を施したデッキに苦戦するセレナだが、そこに突如ハーモニカの音色と共に一人の男が現れる。

 同時期、『アカデミア』のデュエル戦士『オベリスクフォース』に襲撃されていた榊奴と黒咲の元にも援軍には程遠い過負荷(マイナス)が現れていた。

『女子は全員裸エプロンで』『僕に傅け。』

「俺達はそれで満足するしかねえ!」

 『裸エプロン同盟』と『満足同盟』。
 決して出会ってはいけなかった二つの同盟が交差するとき、物語は取り返しの付かない事態へと加速する。


 次回、食戟ファイターARC-V
 第五話「衝撃の真実ゥ!トューンはジャンプだった!?」
 「忘れちまったぜ…………満足なんて言葉」




操「そういえば後輩に年がら年中裸エプロンの奴がいたな………」

球磨川『え!?』『何その娘、紹介して!』

操「ああ、いいぜ。気のいい奴だからな。ん、その”娘”?……………ま、いっか」

 食戟次元で新生『裸エプロン同盟』が結成された瞬間だった。


 







 今回からは一旦本編を中断して、主人公の学生時代の話になります。

操「学生時代…………。そういえば、山篭りの時にクマを一頭伏せてターンエンドした話が」

タキ「いや、需要ねえだろ………」


極の世代編
出会いは必然に


「俺は笑顔を――――料理で笑顔を………」

 

 キッカケは幼い頃に母が買ってきてくれた家庭料理用のレシピブックだった。

 数量が小さじだとか大さじだとか今思えば曖昧な単位だったとは思うがそれでも当時は精一杯書いてある通りに調理した覚えがある。世の中に出ている料理は当たり前のことだが下手に自分流のアレンジさえ加えなければ美味しく出来るようになっている。

 

 そう、当たり前のことだった。

 でも、その当たり前のことで俺の料理を食べてくれた人が笑顔になってくれたのが嬉しくて――――だから、この道を選んだ。

 

『平凡極まりない味ですね』

 

 遠月に入り、中学の三年間をただ知識と技術を高めるために費やし、高等部に進学する頃には世界中で知られている料理の殆どを味は保証できないが作れるようになった頃、当時中学生にもなっていないとある少女に料理を酷評された。

 

 そして、その言葉は実に的を射ていた。

 日々の講義やその延長線である地獄の宿泊研修は問題無く突破出来たものの、料理人としての個々の実力を示す秋の選抜では予選落ちという体たらく。

 平均点以上は取れてもお前の料理では誰かの心を響かせる事など出来無い。そう、言われた気がした。

 

 諦めるにはいい機会だった。

 

 ”客に笑顔を届ける”。

 たったそれだけの理由でこの世界トップレベルの料理人を排出する遠月で生き残ることなど到底不可能だったのだ。

 

「だから。最期に食戟ってのをしてみたかったんですよ」

 

「そうですかー」

 

 遠月の敷地は広い。

 一体何に使うかわからない施設が無数にある中、諦める決意をした俺が迷い込んだのは魔女の庭園だった。

 

 何も知らない俺を迎え入れたこの庭園の主は俺の愚痴を文句一つ言わず聞いてくれた。

 

「うーん。でも、私はみーくんが辞めちゃうのは悲しいですね~」

 

「み、みーくん!?」

 

「そうですよ?榊奴操くんだからみーくん」

 

「ま、まあ、センパイがそう呼びたいなら構いませんけど……………」

 

 掴み所のない人だった。

 日がな一日花々が咲き誇れる庭園で紅茶を啜る事だけで絵になってしまうような、それでいて誰よりも強い光を持っている女性。腰まで伸びる鮮やかな黒髪と翡翠色の瞳は見るものを釘付けにし、足が不自由なのか車椅子に座りながらも決してか弱い等というイメージが湧かない。一目見ただけでどちらが上なのか理解してしまえるほど、その姿は輝いて見えた。

 

 そんな彼女が何故、俺なんかの話を聞いてくれる気になったのはわからない。

 それでも、初対面の筈なのに全てを話してしまえる自分がいた。全部聞いてくれる彼女がいた。本当に不思議な時間はあっという間に過ぎ、日は暮れ季節的にも肌寒くなってくる時間が訪れる頃には俺だけが話すのではなく、談笑のように互いの話をするようになっていた。

 

「…………ねえ、みーくん。もし―――――、もしですよ?もしも、魔法が使えるとしたらどうしますか?」

 

 別れ際に彼女は少し悩んだ素振りを見せた末、そんな突拍子のない事を言った。

 夕日で顔は見えなかったけど、今思えばきっと泣いていたんだろう。少なくても彼女は会ったばかりの人間のために泣ける。そんな人だった。

 

 だから、茶化す事もなく俺も真剣な願いを言えるのだ。

 

「やっぱり、料理でみんなを幸せに―――――笑顔にしたいですね」

 

「でも、この学園を退学しちゃったらみーくんは笑顔じゃないですよね?」

 

「そりゃあ、学校を夢やぶれて中退した奴が早々笑顔になれるほどこの世界は上手く出来てませんよ。でも、」

 

「”でも”、は私が言いました。だから、その後に決めたからなんて言わないでくださいね?」

 

「……………」

 

 何も言い返すことはできなかった。

 最初から覚悟が決まっていたら誰かに食戟を挑もうだとかこんな所まで迷い込んだりなどしない。きっと誰かに止めて欲しかった。それを彼女は心を読んだかのように当ててみせた。

 

「貴方の時間を私にください。きっと私が――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんなことに…………」

 

 後日、改めて俺は魔女の招待状を手にあの庭園へと足を運んでいた。

 

「あ、来ましたね。それでは紹介します。これがこの庭園のメンバーでーす!!」

 

 迎え入れてくれた彼女はこの前と同じように明るい調子で手を広げるように両隣のメンバーを紹介しようとする。

 だが、そんなことは無用だ。

 何故なら…………。

 

「な、なんで榊奴くんがぁぁぁぁ………」

 

「よう、人の顔を見るなり随分な反応だなぁ木久知」

 

 この場にいる人間は俺以外遠月の人間で知らないものはいないという有名人達だ。

 同学年の木久知園果は気弱なところはあるが、洋食という広い分野を得意としておりその実力は一年ながら既に十傑入りを噂されている。

 もう一人だってそうだ。

 

「ッケ、」

 

 顔を合わせるなりそっぽを向いた黒髪の少女は二年生にして遠月十傑の一人に数えられるスペイン料理のプロ角崎タキ先輩。

 そして、その中心で一人車椅子に座りながらもこの場の主だということを誰にも疑わせない不思議な雰囲気を持つ女性こそ、遠月を統べる食の魔王の眷属――――薙切せりか。この庭園に迷い込んだものを惑わせるという遠月学園で最も出会ってはいけない魔女だ。

彼女の創りだすレシピは『黄金のレシピ』と呼ばれ、学生のモノでありながら多くの高級料理店で採用され、噂では数億円単位で取引されているとも聞く。

 

 

(…………本当に場違いだよなぁ)

 

 十傑級が三人。

 何が悲しくて秋の選抜で予選すら突破できなかった凡人がこのメンバーに混ざらなければいけないのか。

 

「園果ちゃんにタキちゃん。彼が今日からここのメンバーになるみーくんですよ」

 

「み、みーくんって榊奴くんの事だったんですか!?もっと大人しい人かと思ってたのに!」

 

「先輩。悪いけど私はこんな得体の知れない奴認める気は無いですよ」

 

 生憎と俺の印象は二人には最悪らしい。木久地に関しては宿泊研修の時に散々連れ回したりした覚えがあったから警戒されるのはわかるが、角崎先輩とは完全に初対面で恐らくは俺の実力に疑問を持っての発言だろう。そして、その予想は当たっている。ここまで辛うじてこの学園を生き抜いて来れたとはいえ、学園内でも実力はトップクラスでここにいるのが当たり前という人々が相手では自慢にもならない。

 

「俺、やっぱり帰ります」

 

「えー、どうしてですか?」

 

「どうしてって、どう考えても場違いでしょう?凡人には凡人に見合った場所があります」

 

「でもー、その居場所でもやっていく自信が無くなったからここに来たんですよね?」

 

「う…………」

 

 まるでこちらの心を読むかのように言葉を繰り出してくる魔女に疑心感よりも興味が湧いたのは事実だ。別にここにいれば天才になれると思ってくるほど希望に満ち溢れた人生を送ってはいないし、約束したからといって態々こんな場所に来るほど律儀な性格でもない。

 ただ、心を本当に読まれたなら俺自身が本心ではどう思っているかを教えてもらいたかっただけである。

 

 俺は生まれつき、自分自身で考えていることが本当に心の底から思っているもののかわからない。

 他人を偽る嘘がいつしか自分さえも偽っているような感覚。この口から出た言葉が、頭で考えている事柄が、真に自分のモノなのかがハッキリしない。

 そんな自分が初めて感情が思考と合致したのが俺の作った料理を食べてくれた人たちの笑顔であり、初めて考えもしなかった本心を言い当てられたのがつい先日彼女と出会った時である。

 

 もしかしたら、この人と居れば本当の自分というものが見つかるような気がした。

 

「それに、みーくんには我がサークルに入ってもらわないと困るんですよ。今週末にある第九席さんとの領土を賭けた食戟にウチからは新人さんを出すって言っちゃたんですから~」

 

「…………せりか先輩。私、一言も聞いてないんすけど」

 

 俺も聞いていない。

 この流れは非常にマズい。このままいけば俺がその九席との食戟に駆り出されるのは明白だ。ここは角崎先輩に頑張ってもらわないと。

 

「そうでしたっけ?でもでも~、折角の食戟に私やタキちゃんが出ちゃうと大事になっちゃいますし、園果ちゃんも新人というには目立ちすぎますね。うーん、困りましたね~。断ってもいいですけど、遠月十傑の名前に傷が入っちゃうかもですし」

 

 まだよく関わっていない俺ですらわかるような壮絶なとぼけ方を見たような気がする。

 角崎先輩はプルプルと震えながら数秒停止すると、何故か物凄い形相でこちらを睨み付けてきた。

 

「ッチ、オイ新入り。お前得意料理は?」

 

「………無い、ですけど」

 

「は?なんでここまで生き残って得意料理が無いんだよ?」

 

 そんな事言われても困る。

 俺自身それで悩んでいたわけでその答えもまだ見えないからここにいるのだ。

 

「みーくん、食戟は初めてでしたよね?じゃ、試しにタキちゃんとやってみましょう!」

 

「いや、勝てるわけないでしょ。相手は十傑ですよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。タキちゃんこう見えて優しいですから。…………手加減とかしたとこ見た事ないですけど」

 

「いや、それ全然大丈夫じゃないですよね!?き、木久地お前なら分かってくれるよな!」

 

 完全に俺の求める笑顔でない”笑み”で固定されている魔女と見るからに不機嫌な小さい先輩。

 この場で頼れるのは真の遊びと書いて親友である彼女しかいない。

 

「………………きょ、今日はお花が綺麗ですね!」

 

「おい、ネクラ巨乳。慣れない事はしない方が身のためだぞ…………クソ、日頃の恨みのつもりか!」

 

 おかしいな。

 高校時代の思い出作りの一環として世界の秘境探検回に連れて行ってあげたのに好感度が足りないようだ。やはり、梁山泊二泊三日体験ツアー(帰れるとは言ってない)の方がよかったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。いくらなんでも無茶じゃないですか?タキ先輩相手にいきなり料理勝負なんて……………」

 

「さっき、あっさりとみーくんを見捨てたくせに言いますね~」

 

「うっ―――――あ、アレくらいは問題ありません。どれだけ私が酷い目に遭ってきたか知らないからそう言う事が言えるんです!」

 

 庭園に備え付けられた厨房で二人が食材の準備をする中、審査役である木久地園果はスケッチブックに何かを書き留めているせりかの車椅子を押しながら彼女の出した無理難題について苦言を呈す。

 この学園では十傑と一般生徒の間には計り知れないほどの差が存在する。どれだけ才能の有る料理人が居ようと学園内でたった十人しか座る事の許されないその席に挑む等、そうそう出来る事では無い。

 

「うーん、でもそうですねぇ。このままだと勝負にならないですか。よし!」

 

 小首を傾げる動作と共にスケッチブックを書き終わったせりかは意を決したように園果が抑える車椅子を”立つ”。

 

「せ、先輩!?」

 

「大丈夫ですよ。私は体力が無いだけで歩けない訳では無いですよ?十メートル位なら走れます。じゃ、これ渡してくるので園果ちゃんはそのままで待っててくださいね?」

 

 突然の行動に驚くが、一番園果が驚いたのはせりかが立ち上がった事では無く、このタイミングで行動したという事実だった。

 薙切せりかという女性は誰かの為に動くような人間ではない。こう言えば聞こえが悪いかもしれないが、数か月一緒にいる園果ですら彼女が歩けるという事実を初めて知ったし、どんなにお金を積まれても気分が乗らない時は一切行動しない気分屋な一面もある。

 そんな彼女が今、思い立ったように書き留めていたものをつい先日知り合ったばかりという榊奴操に自ら渡しに行こうとしている。その事実が園果にとっては何かの前触れだと思えてならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みーくん。どうですか?」

 

「どうって、見ればわかるでしょう?作る料理すら決まってませんよ。…………と、いうか歩けたんですか」

 

「ふむふむ、ならこれ作ってみてください。ここにある食材で出来る筈ですよ」

 

 渡されたのはレシピというよりも巨大な図面のようなメモ。

 どの食材から調理するかは勿論、調理法や動きなどが細分まで記されていてタイムスケジュールのようだった。最も、このレベルで日々動いていたらその人間は間違いなく過労死するだろう。

 

「出来ますか?」

 

「多分。調理中の行動を出来るだけ正確に制御して、製造業などで使われる工数のように自分の行動を客観的に観測すれば……………そうなると、この食材の適正温度とそこまでにいく時間が―――――全ての食材と調理器具を管理すればいけるかな?」

 

「フフ、私の思ったとおりですね。大丈夫ですよ。みーくんは私を信じるだけでいい。そうすればきっと、望みは叶いますから」

 

 その時、俺の両肩に置かれた手の重みはきっと一生忘れることはないだろう。

 




      日記

 ―――――拾い物―――――

 面白い子を見つけた。

 一目見ただけでわかる歪な才能。他ならぬ本人がそれを理解していないのが皮肉としか言えない。ただ当たり前の事をしてきただけ等と言っていたがこの遠月でそれがどれだけ難しいことなのかまるで理解していない。
 この学園では平凡な人間が淘汰されていくのではない。覚えた知識と技術をフル活用して変化しなければ生き残れないのだ。それをあの少年は一切していない。知識を、技術を、溜め込むだけ溜め込んで膨らみきった愚才。それはまるで進化を拒み続けていた繭のようで―――――。

 神に感謝しよう。
 彼が私に出会うまで変化しなかったことを、進化も覚醒もしていなかったことを。

 彼にしよう。
 決め手の無かった手札が決まるような感覚。あの愚才を育てるために私の全てを注ぎ込む。
 ストックしていた角崎タキや木久知園果もこの為に使おう。彼女達の才能ならばそう簡単に潰れることはない。

 心は傷まない。
 これはずっと決めていたことだ。 
 この為に私は今日までこの屈辱に耐えてきた。あの少年は私に対するご褒美だと思えばやる気も出る。

 そう、後悔などあるはずがない。


 私の眼に狂いがなければ彼はこの遠月にとって最大の皮肉になる。
 週末の第九席との食戟で私の考えは証明されることだろう。

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