活動報告の方でも書かせていただいた事ですが色々批評を頂いた11話を新しく書いたものと差し替えました。
追加シーンとしては最近秘書子性分が不足していたので彼女メインで半分と食戟の序盤を書き直しました。地味に魔女さんの本名やその立ち位置などがチラッと出ていますのでここまで読んでくれた方もお手数ですが読み直してもらえると助かります。
魔法使いはシンデレラにお城の舞踏会へ出られるように魔法をかけた。
しかし、十二時になれば魔法は解けシンデレラもかぼちゃの馬車も元の姿へ戻ってしまう。ここから怒涛のハッピーエンドへ進むのだが、このお話の凄いところは魔法使いが登場したのは最初の一回のみで後は動き出した歯車のようにトントン拍子で話が進むところだ。
ご都合主義だといえばそれでおしまい。
物語だからと思考停止すればきっとその人の元へは都合のいい魔法使いは現れない。
だが、こんな考え方も出来ないだろうか?
多くの御伽話にとって一定以上の強力な魔法を使う存在を魔法の鏡を持つ白雪姫のお妃然り、眠れる森の美女の魔法使い然り、強力な力を持つ魔法使いはこう呼ばれる。
魔女。
その言葉にもはや男女の概念はない。
あるのは彼らが登場したお話には必ず富を与える魔法とそれ以上の呪いがセットで登場することだけだ。
「完成だ」
フランス料理において盛りつけの美しさは時折芸術に例えられる。
『レギュムの魔術師』と言われる四宮のそれも一つ一つのパースが整うことで黄金率を表したような美しさを醸し出していた。
「美味しそうですねぇ。あれ?また私の分がない…………」
「だから、お前は審査員じゃないだろうが。水原の分わけてもらえ」
九つの野菜を掛け合わせつつも決して交わらないように作り出したそのテリーヌは見た目だけで食欲を刺激する。
「あれ?水原さん食べないんですか?」
「まだ、操の料理が出来てないわ」
「はっ、アレじゃそもそも勝負になるかもわからねえぞ?」
四宮の対戦相手の榊奴操の料理は途中まではこの料理のルセットを考案した四宮自身が危機を感じるほどのものだった。
しかし、彼は選択を誤った。
「魔女の後継者と名乗っていたが、自分の土俵であるコピーを捨ててくるとはな。傷んだカリフラワーに”ワインビネガー”を使用するってのはどこかで見たやり方だが、アレでは俺のルセットと決定的に違う。ルセットってのはミリ単位で計算された芸術だ。それをアドリブで変える愚かさはわかるだろう?」
「…………四宮はワインビネガーを使った後の操の動きが何か変わったことに気づかなかったの?」
「ああ?確かに一瞬だけ何かを考えるように停止したが、その後は普通だったぜ?大方土壇場でルセットの調整に入ったんだろうが――――――」
「あの子にそんな器用な真似は出来無いわ。レシピ通りのものを作ると言ったら本当に寸分狂いなく作る。手なんて抜きようのないほどその手はレシピをなぞる様に正確に動く。そもそも、レシピを使わない料理のレベルは辛うじて遠月を生き抜く事は出来ても卒業には到底及ばない」
「進化したとでも?」
「卒業生といってもまだ一年目よ?それに操はこの数ヶ月で三件は店を追い出されていると言っていた。とてもそんな暇はないわ。――――でももし、可能性があるとすれば」
四宮と僅かな誤差ながら榊奴の料理が皿に盛り付けようとされていた。
その目には焦燥などはなく、当たり前の日常を繰り返したような気楽さすら見える。
「榊奴操には在学時、師と仰いだ人間がいた。第八十七期生薙切えりなから数えて先々代の第十席。黄金のレシピを生み出す『魔女』と言われた人間が――――」
「堂島さん」
「水原。お前が榊奴の態度になにか思うことがあったのなら俺が許可する。お前の好きなようにしろ」
「ありがとうございます」
「『九種の野菜のテリーヌ』です。って言っても先に出された料理と全く同じじゃ説明する意味ないですよねぇ…………」
結局実食は後攻に回ってしまった。
今回は勝つことが目的ではないとはいえ、いっそ清々しいとすら思う絶望ぐあいだ。
俺の料理は全く持ってオカルトに片足突っ込んでるとしか思えないが先行か後攻かで全く相手の反応が違う。
食戟に勝つならば先行を選びたいところだったが、四宮さんの動きがまさかここまで正確だと思わなかった。プロでも、いや調理に慣れたプロだからこそある程度の省略やレシピに対する自分なりの手入れがあって然るべき筈なのだが、四宮小次郎という料理人にはそれがない。
神懸かり的といっていいほどの自分の腕に対する自信。
それこそが四宮さんを若くして「プルスポール勲章」へ導いた最大の秘密であり、誰もそれを越えることはできない。
「操。本当にいいの?」
「すいません。本当は水原さんにこんな事は頼みたくないんですが、どうしても気になることがあって」
「そう、ならいいわ」
ただ一人、先に出来上がった四宮さんの作品に手を付けず待っていてくれた水原さんと言葉を交わす。
きっと、沢山迷惑を掛けた。恨まれているとも思った。でも、再会したとき彼女は何事もなかった様に接してくれた。それだけでもこの合宿に参加した意義はあったというものだ。
「実食お願いします」
『俺はシンデレラの話で実は一番割を食ってたのは王子様だと思います。退屈な舞踏会もそれなりに楽しかったでしょう。彼女に会うまでは』
榊奴操がレシピを完全再現するという才能を持ちながら料理人として大成できず、多くの料理人を挫折に追いやったのは何も他人を上回るからではない。
『王子様はシンデレラに会って恋をした。ガラスの靴というどうしようもない手掛かりに縋ろうとするほどにね。でも、それこそが魔女の策略だとしたら?普通靴持って持ち主探すために自分の権力使って街を駆け回らないでしょう?しかも、虚偽の証言をした者の足を切り落とすという狂行までした。そんな彼の目は血走っていたことでしょう』
基本を忠実に。
ただそれだけを極めた榊奴は確かに魔法と言えるものを手に入れただろう。だが、同時に魔女から呪いも受け継いでしまった。
『彼の中ではその時点で既にシンデレラという女性が当たり前になっていたんですよ。俺の料理はレシピ通りに作りその味を食べたものの基準にする。何せ、あくまでそこにあるレシピ通りに作るだけですからね。何の工夫も創作もしない。ただ、レシピ本来の味を引き出すだけ。その味自体に何の不思議もない』
一から生み出すのではなく、その通りにやれば必ず出来るものに人間は感動しない。
それでも、その生き方を教え彼を救ってくれた魔女だけは彼を決して否定しなかった。
『でも、みーくんの料理はいつも美味しいですよ?』
どれだけ強力な呪いでも魔法を教えた魔女だけは対象外。
都合のいい話もあったものだ。
『貴女がそう言ってくれるなら俺はこの道を進みますよ』
その先に栄光など存在しないことなど分かっていた。
でも、どうせ見つけてもらえなければ埋もれていた才能。このまま突き進むのも悪くはない。
目の前の皿に乗せられたコインは一枚。
対面上に置かれた皿には当然のように残りの二枚が乗せられていた。
「ま、こうなりますよね」
妥当な結果に思わず笑い転げてしまいそうになる。
同じ料理で挑めば必ず優劣は付く。決め手としてはどちらがその料理を深く理解しているかだが、これは比べるまでもないだろう。
「榊奴くんのモノも確かに美味しかったが、流石四宮さんのものと比べるとね。ごめん」
「うむ、確かに美味いが、味の差が殆どない以上審査に間違いは出ないな」
ドナートさんと関守さんの酷評が耳に痛い。
「なぜ水原の票が入ったかはわからないが、どうやら勝敗は決まったようだな」
「くやしいけど、おいしいです。でも、四宮先輩。もしかして手加減したんですか?」
「は?」
四宮さんの表情が崩れる。
勝負には負けた。
理想の姿になれる魔女の魔法は終わり、ここからは永遠に解けない魔女の呪いがやって来る。
水原さんの件の真の黒幕
魔女「あ、この水原さんって前にみーくんが可愛いって言っていた人ですね!」
タキ「せ、せりか先輩なにやってんすか!今のアイツにあんなこと言ったら――――」
魔女「うふふ、どんな結果になっても私はみーくんの味方ですよ?…………だから、みーくんも私だけの味方でいいんですよ~。」
タキ(や、ヤバイ!やっぱり、この人絶対逆らっちゃいけない人だ!…………アレ、もしかしてスタジエールが終わるまで私がこの人の世話すんの?)
魔女「さ、タキちゃん。今日もいっぱいおしゃべりしましょうか?」
タキ「榊奴でも園果でもいいから早く帰ってきてくれー!!」
ヤンデレって怖い!