前編って便利な言葉だよね。また長くなったら中編も作れるし。
「今日も一日がんばるぞい!」
Pさんが営業で事務所不在なんで今日は一人っきりだぜ―。
そもそもPさんとは別行動の方が多いけどね。
ぼっち的には久々に独りっきりなのでホームに帰ってきた感がある。
ホームといえば346に所属してから1ヶ月は経つけど、ようやく俺にも居場所ができた気がする。
いや、周りに受け入れられたとかそういう心情的な話じゃなくてね?
単に暇な時間をつぶせる場所が確立してきたってだけなんだけど。
Pさんのオフィスにある応接スペースは利用が少ないから人が来ないし、仮眠室は用がなくてもゴロゴロしたりそのまま寝たりできるのでなかなか良い。
しかしなんといっても最近のお気に入りはPさんの机の下である。
一回Pさんに「アウェー感ぱないの!」って相談したらおすすめされた。
なにをバカなと最初は思ったけど、なんでも346には机の下に生息するアイドルが複数存在するとのことでやっぱりバカだと思いました。
まあ物は試しということで実際に机の下に入ってみるとあら不思議。
なんということでしょう、さっきまで何とも思っていなかったスペースが魅惑のプライベート空間に。
意外と人に見られないし何より狭い空間が落ち着くんだよね。これは流行る。
そしてこのベストプレイスに潜りこむためにPデスクの前までやってきたわけだが、机の下には俺宛に仕事の指示書が置かれていた。上ではなくわざわざ下に設置するあたり罠師の才能がある。
もしかしたら机の下をすすめてきたこと自体が罠だったのかもしれない。
『有ちゃんへ 今日のお仕事は4F防音室にてボイスレッスンです。一緒になる子たちと仲良くね。おやつは上から二番目の引き出しに入っています』
お、おかん!
俺もう22歳なんだけど。
子どもじゃないんだから、他の子と仲良くできるか心配する必要はないんやで?
初対面の子が相手でも挙動不審にならないし敬語で距離置いたりしないしネタで誤魔化したりしないしはいウソですごめんなさいウソつきましたー。
乙女モードかネタぶちかまさないとまともにコミュニケーションとれないですー。
やっぱりまだ子どもでいいよね。
そういえば実のおかんにも同じこと言われてた気がする。大学入って独り暮らし始めるまでだから、結構最近までだわ。
まるで成長してないね。
どうしようもないしこれからの成長に期待ってことで、今は遅れないように防音室へ向かいますか。
おかしは……ポッキーだね。レッツシェアしろと?
まだ誰も来てないじゃんー。
ちょっと緊張して損した。場所間違ってないよね?
よく考えたらPさんの置き手紙には開始時間とか書いてなかったし相変わらず情報不足だわ。
俺が毎日事務所にくる時間はだいたい同じだしそれに合わせてんのかな? そうだとしても余裕持たせるために遅めの開始時間にしそうだから意外と待つかも。
ということはしばらく暇なのかなー。
スマホいじっててもいいけどどうしよう。
せっかく防音室なんて便利な部屋に1人でいるんだから普段はできないことでもしてみようか。
「Pさんのアホーーーー! おに! ときどきてんし! いつもおせわしてくれてありがとーー!」
こんな風に大声出しても誰にも聞かれないんだからすごい。
鬼の居ぬ間に文句も言える。素直になれないこの気持ちも言える。
あとはアニソンメドレーでも歌ってよう。
実家にいた頃はよくやってたんだけど、アパートに住み始めてからは近所迷惑だからずっと小声で我慢してたんだよね。
どうせレッスンでも歌うんだし喉の調子を確かめとこう。
とりあえず今期のアニメ主題歌に始まり熱血ソングに電波ソング、カッコイイ曲もカワイイ曲も、一通り歌ってみた。やっぱり男性ボーカルより女性ボーカルの方が歌いやすい。
歌詞忘れかけてるのもあって実家暮らし時代に比べるとレパートリーが減っちゃったなー。
これじゃカラオケに誘われたとき困っちゃうぜ。
あ、ぼっちだから関係ないか!
むしろ誘われたとしてもアニソンしか歌えないから引かせちゃうね。
よく考えたら俺今アイドル事務所にいるわけだし、ジャ○ーズみたいに先輩の曲とか覚えないといけないんだろうか。
レッスンで歌えて当たり前みたいな扱いの曲もあるんじゃね? 学校行事で事前練習無しなのに『翼をください』歌わされる的な。
やっベー。始まるまでに一曲ぐらい覚えとこうかな。
スマホスマホ。
少女(?)学習中……Now Loading
考え中〜考え中〜〜おわり。
「ミミミンミミミンウーサミン」
これでレッスンもバッチリだぜ!
さすがは346の懐の深さ、所属アイドルが多いだけあって俺の琴線に触れる曲もちゃんとあるんだなー。
でもこの曲ただの電波ソングというには隠しきれない哀愁が漏れ出てるような……
振り付けまで完コピして満足感にひたっていたところで、とうとう防音室に人がやってくる気配がした。
さすがに外に音が漏れないとはいえ恥ずかしいから人が来ないかどうかはしっかり注意してましたよ。
さあこい! 準備万端だし誰だろうともう何も怖くない!
「煩わしい太陽ね! (おはようございます!)」
「あ、はよーっす」
「ふぇっ!? あれ? 誰?」
思わぬ先制攻撃がきたからこっちもカウンターパンチ食らわせちゃったぜ。
先輩に対するあいさつじゃなかったけど大丈夫かな。
とりあえず相手が混乱してる間に戦力分析しとこ。
神崎蘭子。【ローゼンブルクエンゲル】というユニット(という名のソロ)でデビューした元CPメンバー。
「CPのぼっち」という異名でも(俺の中でだけ)知られている。もしくはらんらん。
なんといってもその特徴は彼女の言葉遣いである。
蘭子語とか熊本弁とか呼ばれてるけどぶっちゃけただの中二病だよね。
俺は行動力のあるぼっちじゃなかったから発症してないけど、中二系のラノベやアニメにはまった時期はある。
むしろ今でもたまに見るから潜伏してるだけという説もある。
しかしそんな俺でも熊本弁の翻訳には時間がかかるだろう。
ネタじゃなくてガチの中二病患者はみんな大なり小なり自分の世界観があるからね。慣れるまでは仕方ないね。
幸いにも昔ネットで蘭子語@Wikiを暇つぶしに読んだことがあるから基本語彙は大丈夫。
どうやららんらんも立ち直ったみたいだが俺なら立ち向かえるはず。
やってやるです!
「ん、んん。我誰何せん! 其は新たに人界に降り立つ者なるか? (あなたは誰ですか? 新人さんでしょうか?)」
「イカにもタコにも! 我が名は小鳥遊有、争いなき平穏の中にのみこの身を置く者(小鳥遊有でーす、特技は働かないこと)」
「ええー! 働いてください!」
クリティカルヒット!
熊本弁には熊本弁をぶつけるのが弱点のようだ。
ゴーストタイプにはゴーストタイプが相性ばつぐん的な?
言霊使いだと考えれば一応霊の字入ってるし。
らんらんのファッションもゴス系だから字面は似てると言えなくもない。
「そ、其方は瞳を持つ者か?」
「否! 我は有給を待つ者! 先史時代より悠久の時を平和への祈りに捧げてきた(それは違うよ! 私は生まれてこの方いかに働かないかばかり考えてきた人間。今は有給の時がほしいです)」
「ええー??」
瞳を持つ者って熊本弁話者のことだっけ。
会話の流れぶった切ってる気がするけどもともと相手に通じてるかわかんないしいいよね?
とりあえず言葉の銃弾をぶっ放しとこう。言弾(コトダマ)でランランロンパだぜ!
「汝の名はなんと申す? (らんらんって名前パンダみたいだよね)」
「え? えっと、落ち着かなきゃ。ふー」
ゆっくりでええんやで。
でもさすがに今のは伝わらないか。らんらんならわかると思ったのに。
俺の言の葉も魂で感じてくれよ(迫真)
「我は神崎蘭子、天より堕ちた漆黒の堕天使よ。新たなる同志の誕生を祝いましょう。(わたしは神崎蘭子です。よろしくお願いします)」
「†漆黒の堕天使†」
「あなたの言の葉から悪意を感じるわ(その言い方はなにかおかしいです!)」
「すまそ。もう疲れたから普通にしゃべっていい? さっきも言ったけど私は小鳥遊有です。よろしく漆黒の堕天使さん」
「わ、我を蘭子と呼ぶことを許可するわ(漆黒の堕天使って呼ばれるのはちょっとイヤです)」
「じゃあらんらんよろしくー」
「らんらんっ! とはっ!?」
熊本弁を話す大熊猫の名前じゃない? (すっとぼけ)
猫といえばみくにゃんは元気にしてるだろうか。今度俺もネコミミ買いに行こう。
あ、らんらんポッキー食べる?
どうやら一回で書く文量は3000~4000文字くらいが限界っぽいです。
あと今回で冒頭にPさんとのしょうもないやりとりを入れると長くなることに気付いたので次から自重します。
人物紹介のコーナー。
●神崎蘭子(かんざきらんこ)
中二病系アイドル、でいいのだろうか?
アニメで武内Pが誤解していたように単純なレッテルを貼るのは間違いかもしれない。
大別すれば中二病なんだろうけど、堕天使的なイメージとかゴス系ファッションとか好きなものに全力なだけなのかもしれない。いやそれって中二病じゃね?
堕天使と言いつつ天使扱いもされる。どっちが蘭子? どっちも蘭子。
光と闇が両方そなわり最強に見える系アイドル。
クールと言いつつ好きなものへのパッションと素に戻ったときのキュートな姿も合わせ持つ一人三属性でもある。
主人公の熊本弁は蘭子に合わせて使えば通じるが、ふざけてしゃべると理解できない模様。