乙女はアイドルになる   作:s.s.t

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ちょっと前からそうしてますけど、ぼちぼち感想書いてくださる方が増えてきたので感想返しは更新後に時間があるときやります。

あと今回は原作アイドル出ません。



私を○○に連れてって

「ひゃっはー! 休みだー!」

 

今日は1週間ぶりのお休みである。

しかもただの休日ではない。この土日は事務所に行く必要もなくずっと家でゴロゴロしていられるのだ。

普段なら休日の方が学生組が合流するから練習の効率が良いという理由で土日のどちらか、ひどいときは両方とも出勤を命じられるのだが今週はそれもない。

 

さすがに土日が両方潰されたときは平日にお休みがもらえるけどやっぱり土日に休める方がなんとなく嬉しいよね。

だから普通の土日でも俺にとっては3連休かGWくらいの嬉しさがある。

 

「さーて、なにしよっかなー」

 

丸2日自由な時間ができるなんて久しぶりだから何をしたらいいか迷うぜー。

ゲームでもアニメでもネットサーフィンでも好きにしていいなんて最高じゃないか。

あっはっはっはー。

 

あっでもでも。

もしかしたら誰かから遊びに行くお誘いが来ちゃうかも★

今日明日は他のアイドルもお休みの子が多いらしいしー。

たまにはお外に出てレジャーやショッピングを楽しむのもいいよねー。

あっはっはっはー。

 

 

ないか。

 

 

そもそも誰とも連絡先交換してないもん。

せいぜいPさんくらいだよ。

 

そう、休日の俺に連絡してくるなんてPさんの呼び出しくらいしかありえない。

 

だから今鳴り響いているスマホの着信音は名前を見なくてもあの人からのものに違いないだろう。

出たくないなー。絶対ろくな用件じゃないよ。でも出ないと後が怖いしなー。

 

電話にも家の外にも出たくないけど、しょうがないから通話ボタンを押す。

 

「もすもすひねもすー?」

「あ、有ちゃん? お休みのところ悪いんだけど今日も暇よね?」

「日本には社交辞令というすばらしい文化があるんですよPさん」

 

疑問形でもないし今日『も』って言ってるあたり決め付けとか以前に気遣いが足りないよ。

 

「何か予定があるの?」

「(特に予定は)ないです」

「じゃあ渋谷まで出て来られる?」

「あれ? 事務所じゃないんですか? てっきりお仕事かと」

「さすがに私も休日に働かせるほど鬼じゃないわよ」

「嘘乙」

「嘘じゃないわ。だって私が有ちゃんを呼び出した日は休日じゃなくて勤務日になるもの」

「日本語って便利」

「まあまあ。今は早くデビューできるようにレッスンが多くて忙しいけど、デビューしたらレッスンも減るわよ」

「わーい」

 

ユッピー知ってるよ。レッスンが減ってもアイドルのお仕事が増えるってこと。

まかり間違って売れたりしたら今以上に休めなくなるってこと。

このままじゃ社畜にされちゃうかもしれんね。

 

「でもお仕事じゃないなら何の用なんですか?」

「有ちゃんの服を買いに行こうと思ったの。今は私があげたお古か事務所で借りた服くらいしか着てないでしょ?」

「えー。別に困ってないですしわざわざ買わなくてもいいですよ」

「ダメよ。有ちゃんには自分で自分をコーディネートできるようにファッションセンスを磨いてほしいもの。何のためにお給料払ってると思うの?」

「え、あれって服買わせるためだったん?」

「女の子の服は高いから、所持金は多めにね。もちろん試着もするから女装してくるのよ」

 

うえー。めんどくさすぎる。

たしかに休日遊びに行くならショッピングのイメージはあるけどさー。欲しくもない服をPさんと買いに行くってもう遊びじゃなくて仕事やん?

 

『これは、仕事であっても遊びではない』ってただの仕事ですしおすし。

ゲームさせてー。

 

「行きたくないです」

「残念だけど今日はそのお願い聞いてあげられないわ」

「今日『も』ですよね?」

「日本には社交辞令という素晴らしい文化があるのよ」

「だかしかし休日に休むのは私が持つ権利。Pさんといえど邪魔はさせんぞー!」

「有ちゃんには自ら休日に働くことを選ぶ権利もあるのよ」

「なんと言われようと休むー!」

「そう……そこまで嫌なら仕方ないわ。きっと有ちゃんも疲れが溜まってるのね」

「え、マジ?」

 

ほぼ駄目元でダダこねてたんだけどもしかしてこれは見逃してもらえるのか?

 

「山田さんに有ちゃんの住所を教えて出張マッサージでも頼みましょう」

「あーなんか急にお出かけしたくなったなー。元気がありあまってるなーそうだPさんとお買い物するなんてステキだなー」

「じゃあ13:00に渋谷のハチ公前に集合ね」

「アイアイマム」

 

やっぱりPさんには勝てなかったよ。

くそー山田さんは卑怯すぎるでしょ。Pさんにとんでもない切り札を与えてしまった気がするぜ。まさに鬼に金棒。

 

はあ。何が悲しくて休みの日にまで女装しなきゃいけないんだか。

メイクとかカツラのセットとか時間かかるんだよねー。

下手に自己流でやると変な仕上がりになるから言われた通りにしかできないし、今日出かけるついでにメイクの本でも買おっかなー。

 

あれ? なんか毒されてるような?

 

 

 

 

 

 

ハチ公って有名だけどなんだかんだ実際待ち合わせ場所に使うことはあんまりないよね。そもそも渋谷に用事がないし。

 

そこそこ人通りは多いけど思ってたよりは人が少ない。ちゃんと座れるスペースもあるし、別に律儀にハチ公の前で立ってなくてもよさそうだ。

 

ちょっと早く着いちゃったしハチ公の近くは人が多いから離れたところで待ってようかな。

 

 

「あのーすみません」

「はい? 私ですか?」

「あ、そうです。俺渋谷に来るの初めてなんですけど○○ってお店の場所がどうしてもわかんなくて。もし道を知ってたら教えてもらえませんか?」

 

なんか知らない男の人に話しかけられてしまった。

ぼっちって1人でいるから話しかけやすいせいか、道とか電車の乗り換えとかをよく聞かれる。俺も何度か経験があるが自分がわかるならなるべく教えるようにしてきた。

このお兄さんも道がわからなくて困ってるだろうしできれば答えてあげたいのだが、あいにく俺も渋谷に来るのは今日が初めてだ。

 

「すみません。私もこの辺りの地理には詳しくなくて。そのお店の名前もちょっと聞いたことがないです」

「あれーそうですか? 一応地図もあるんですけど俺苦手で全然読めないんですよ。これ見てわかりません?」

 

いや普通は女性の方が地図苦手だと思うけどね?

男にしては地図読めないのは珍しいけど、俺だって本当は男だしせっかく頼ってくれたんだから地図を見てみよう。

 

お兄さんが持ってる大きめのタブレットに表示された地図に目を向けたが、グーグル先生だったので目的地までのルートがちゃんと示されている。

えーとここが駅で、ハチ公があるから今いるのはこっち側でー。

つーかお兄さんも地図覗き込んでるんだけど顔近いな。集中してるのかもしれんけどどうせ読めないなら離れてほしい。

 

「今いるのが地図のここですからあっちに見える通りがルートにある道だと思います」

「あーそうなんですか、ありがとうございます。でもあっちの方も一回行って迷っちゃったんですよね。だから心配なんですけど……」

「現在地が常に表示されますから少し進むたびに止まりながら地図を確かめればきっと迷わないですよ」

「うーん。あ、そうだ。よかったら一緒に行ってくれませんか? ここまで親切にしてもらえたんでお礼もしたいですし」

「え? いやでも私待ち合わせの約束があって」

「それなら連絡先だけでも交換してもらえませんか? 今度食事でもおごりますよ!」

 

な、なんか雲行きが怪しくなってきたような。

さすがに見ず知らずの他人に個人情報は教えたくない。

助けてもらったら必ずお礼をしなさいって教育されてきた純朴青年なのかもしれないけど、それならプライバシーにも配慮してほしい。

 

なかなか譲ろうとしないお兄さんに四苦八苦しながらも連絡先を教えるのはなんとか拒否する。

ただでさえコミュニケーションスキルが不足してるんだからぼっちにこのやり取りはきついっすよー。

誰か助けてくんないかなー。

 

「はいそこまで。ウチの子にちょっかい出さないでくれる?」

「あ、Pさんだ」

「お友達、じゃなかったらお姉さんですか? 今道を教えてもらったところでお礼をしようとしてたんですよ」

「はいはいそういうのはいいから。道案内にかこつけたナンパなら他所でやりなさい」

「え。私ナンパされてたんですか」

「いやいやいや。綺麗な子だなーとは思ってましたけどナンパだなんてそんな。で、でもお邪魔みたいですし退散しますねー」

 

そう言ってお兄さんは迷いのない足取りで先ほど教えた道に向かって行った。

タブレットもカバンにしまってるし地図要らなかったの?

 

「まったく有ちゃんは。あんなわかりやすい手口のナンパに引っかからないでよね」

「えええー? 全然わかりやすくないですよ。普通に道聞かれただけって感じでしたもん」

「服装からして思いっきり渋谷系だし、高性能な地図があるのに今時わざわざ女の子に道を聞く男がいるわけないでしょ」

「そ、そんなもんですか」

「ましてや有ちゃんは黒髪でいかにも渋谷に馴染めてなさそうなファッションなんだからナンパには常に警戒しなきゃダメよ」

「いやでも事務所の外じゃ移動しかしてないですし」

 

今までナンパされる機会なんてあるわけなかったのに警戒しろって方が無茶でしょ。

 

しかし最近のナンパって怖い。「ヘーイ! お姉さんオラとお茶しない?」とかストレートな誘い文句は使わないみたいだ。

 

罠張って獲物がかかるのを待つ姿はまるで現代の狩人である。

その狩人をなんなく撃退するPさんは自然災害かなにかかな?

 

「有ちゃんお昼は食べてきた?」

「バッチリです」

「それならさっそく行きましょうか。とりあえずあそこのビルなら色々なタイプのお店があるから有ちゃんが気に入る服も見つかると思うわ」

「強いて言うならあんまり女の子っぽくない服装がいいですね」

「とりあえずは一通り回ってみましょ」

「あ、私の意見とかどーでもいいパターンですねわかります」

 

自然災害は通り過ぎるのを待つしかないって聞いたことあるからもうPさんに身を任せよう。

ま、どうせ服を買うだけだしそうそう大きな被害は起こらないでしょ。

 

「今日は有ちゃんのブラジャーも買いましょうね」

「用事を思い出したので家に帰ります」

「用事があるから家を出てきたんでしょう?」

「離せ! むりやりブラジャーを強要するやつと一緒にいられるか! 私は家に帰らせてもらう!」

「ちょっとサイズを測って鏡の前で試着するだけよ。女装に変わりはないんだからいつも通りいつも通り」

 

特大の非常事態じゃないですかやだー。

男としてのプライドががががが。

 

てゆーかどうしてそんな話になった。

 

「山田さんから男物の下着つけてるって聞いたわよー。気付かなかった私も悪いんだけど有ちゃんも言ってくれればいいのに。やっぱり女装するなら見えないところまできっちりしなきゃよね」

 

 

 

『下着はまだ男物なのね。ブラもしてないし。増田さんに頼んどくから早めに買ってもらいなさい』

『ブラとかマジ勘弁。私の尊厳と寿命がストレスでマッハになっちゃう』

 

 

 

あれかーー! あの時の会話かー!!

まさか本気でPさんに話していたとは。

Pさんも対応早すぎんよー。

ほんと山田さんもPさんもろくなことしないよね。混ぜるな危険だよこの2人。

 

まさに後悔先に立たず。

先に立つのはフラグだったってか。アホ!

 

くっそーもっと注意してれば回避できたかもしれないのにー。

せめて今日ここに来てなければ……いやでも山田さんの出張マッサージは嫌だし。

なら山田さんに口止めしておけば……いやあの人は止められる気がしないけど。

そうだエステの時に女物の下着をつけていれば……ってそれ本末転倒やーん。

 

つまり自然災害を避けようとすること自体がナンセンスな行為ということか。

 

知らなかったのか? 大魔王からは、逃げられない。Pさん鬼から大魔王になっちゃう。

 

RPG的には「はい」を選ばないと永遠に進まない選択肢無限ループとも似てるよね。

R(隷属だけが)P(Pさんの用意する)G(ゴール)現象と名付けよう。

 

 

「さっさと行くわよー」

「たかなしゆうが いえにかえりたそうに Pさんをみている!」

「テレレレテーレレーレテーテン♪ たかなしゆうは ゆうしゃPの なかまになった」

 

大魔王どころか勇者になりおった。自分に敵う者はいないってか。

 

 

 

結局は勇者の仲間キャラよろしくPさんの後についてファッションビルみたいなところに入った。

 

今さらだけど女装して休日のお出かけって初めてなんだよね。事務所の中とは勝手が違うし、どうなっちゃうの俺?

 

 




前後編で分けてないけど次回に続きます。もうちっとだけ続くんじゃ。
あと一応伏線回収したわけですけどさすがにバレバレでしたね。


人物紹介のコーナー。今回は誰得な人。

●お兄さん(渋谷のナンパ男)
こいつのせいで長くなってアイドルを出せなくなったので責任とってもらう形で紹介。

東京の大学生。週末はだいたい渋谷でナンパしている。
ナンパ歴はけっこう長く、様々な手口をナンパ仲間と考案しているのでその辺のナンパ師よりは成功率が高い。
主人公という外見は極上の獲物を前にしながらもPさんが現れてすぐに退散したあたり彼のナンパ経験が伊達ではないことをうかがわせる。

彼が道を尋ねていたお店「○○(ダブルサークル)」は昼間はカフェ、夜はバーを経営するナンパ仲間のたまり場。
ここに女の子を連れこんだらほぼ勝利確定で、逃げられない空気にした上でその日一日女の子をお姫様待遇で散々もてなしたあと夜9時には家に帰す。

ナンパレパートリーの中には主人公が考えていた「ヘーイ!」という古典的な声のかけ方もあるが、昔渋谷でLIVEバトルをやっていたとあるアイドルが同じセリフを言っててなんか面白いセリフにしか聞こえなくなったので封印した。


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