――ジョセフ・ジョースター
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リアスとの逢瀬は破綻してしまったが、久しぶりの人間界ということでライザーはすぐに冥界へとは戻らなかった。夕暮れ時、日がゆっくりと落ちてゆくのをライザーは河川敷から眺める。
世界は赤に染まっていた。
「感傷かね? ライザー・フェニックスともあろうものが、珍しいじゃあないか。いや、らしくもないな」
西日で伸びた影に、いくつもの目が開く。ライザーの影に潜むアーカードが、気ままに話しかけてきたのだ。
「感傷? 感傷だと? もしもこの俺がそんなものに浸っていると思っているのなら、アーカード。それはお前の目が節穴であるということだ……」
「そうかい。とは言え、だ。今、グレモリーの姫様のご機嫌を損ねたのは、少々問題ではないのかね? オウサマの目的の障害に成りかねないと思うが?」
「まさか。あれはあれで、それなりに聡いお嬢さんだ……自分が手にしたものがなんなのか分かるだけの頭は持っているだろう。仮にどうこうしたのならば、所詮それまでだったというだけだ……」
夕日から目を逸らさず、ライザーは言う。じわじわと日が地平線へと沈む。
ライザーには確信がある。まだ、リアスは脅威となり得ないということを。
「この度、リアス・グレモリーが握ったのは、スイッチだ……それも飛びっきり危険なヤツよ……冥界を火の海にする火薬庫。そこに点火するスイッチだ……そいつをイタズラに押せば、どうなるのか――それが分からないほど愚かではあるまい」
「我々が火薬庫、か」
「不服か、アーカード」
「不服というものではないが、随分とマイルドに表現したな。我々は最早核兵器の位置にまで達しているのではないかね?」
火薬庫という喩えではまだ足りないのだ。ライザー一派の戦力を表現するには。そのことを、王たるライザーが把握していないはずもない。
「核、か」
「そうだとも、オウサマ。女王と僧侶が欠番とはいえ、現行戦力で冥界を焦土と化し、四大魔王の首魁を上げるのもそう難しいことではあるまい。否、出 来 る の だ。我々には出来る。我らが王よ。一言言えばいいのだ。滅せよと、滅ぼせと、塵芥と化せよと。そう言うだけで、我々は動く。そうして望み通りの戦火を広げ、望むだけの戦果を出すことができる。それが我々、汝が駒だ」
「ふん。くだらないな……お前たちが駒だというのならば、プレイヤーに意見を吐くんじゃあない。身の程を知ることだな」
「そうかね。貴様もまた、駒の1じゃあないか。我らがオウサマ」
「駒の一つだろーと、気にすることじゃあないな」
「大したことだ」
ライザーの影が、肩を竦める。そうしたのはアーカードであったが。
「それに、うわべだけの関係と、婚約者というものではちょいと重みが違うだろう……」
「フ、フフフ……珍しいくらいに純粋な言葉だな……私の知るオウサマなら魔王の妹の婚約者という立場を利用し、冥界を混乱の渦に叩き込むくらいのことはするかと、そう思ったのだが」
「そういうのも悪くはないなァ……だが。俺の趣味じゃあない。そういうのは、もっと下賤な、格下の連中がやることだ……」
「生涯伴侶を得なかったという貴様のことだ、恋愛にちょっとした幻影でも抱いてるんじゃあないかと思ってね」
「まさか……お前ほどではないとはいえ、俺もそれなりの齢を重ねて来ている。そういう幻想はとっくに捨てているさ」
ライザーの前世。そしてライザーの現世。その二つを合わせても、アーカードの年齢には及ばない。
そのアーカードすら、眷属の中では若い部類に入るのだが。
「え~~~! 王様純潔なのぉ~~~!? 意外ッ! それは貞操! 純潔が許されるのは小学生までよね!」
どこからか突如として湧いて出てきた幻月。そして、なぜか過分に煽る幻月である。
とはいえ、次元の狭間から出てきただけなのだが。
「やかましい。このたわけが」
「ふぎゅ!」
デコピン一発で沈む幻月であった。なぜか弱い。そんな悪魔である。空気を読んでいるとも言う。
「大体、貴様、また覗き見をしていたな……」
「だって楽しそうだったんだも……いふぁい いふぁいよぉ おうふぁまー」
次元の狭間を利用して、どこにでも居られる幻月。今回のデートも、どこから掴んだのか、最初から最後まで鑑賞していたのだ。
色々な意味を込めて、ライザーは幻月のほっぺたを伸ばす。
「全く……やれやれだ……」
「もー。でも婚約者を怒らせるなんて、ないと思うわ」
幻月的にも、ないらしい。
「ないか」
「ないわねー。そんな残念な王様に朗報! リアスちゃんの代わりに貞操いただいてもいいわよ?」
「残念なお前に吉報だ。当方にオラオラの用意あり」
「オラオラはなしの方向でお願いします」
ライザーの指がポキポキと鳴る。
空中で土下座を敢行する幻月であった。
オラオラ、怖い。
「しかし貴様、淫魔だったのかね? だとすれば、今までお前に対する認識は間違っていたと言わざるを得ないが」
「私は幻月、夢幻の悪魔。人の夢を叶えるのだー」
「そんな夢は抱いておらん……叶えなくて、よろしい。そも、夢とは叶えてもらうものじゃあないだろう……己で掴みとるものだ」
「相変わらず禁欲的ー。ライザーはその辺りつまらないわー。女好きそうな顔をしてるのに」
「お前は俺をどういう目で見ているんだ」
「へーんだ。メイドを全部女の子で囲ってるくせにー! 夢月ちゃんを入れていいものか悩んだわよ」
「メイドは普通女だろう……」
ライザー邸はユーベルーナを筆頭に据えた女給仕軍団が、屋敷の雑務を行っている。彼女たちだけで十分レーティングゲームを行えるとまで言われているが、あくまでメイドである。その中に、幻月の妹である夢月も混ざって雑務に追われている。
執事はセバスチャン一人のみだが。もっとも。執事が一人というのは珍しくもなんともなかったりする。問題なのは、使用人一同の中で男はセバスチャンだけといったところか。
とはいえ、ライザー的に、エロ目的はゼロである。
「身寄りのないモノ、はぐれになりかけのモノ。そういうのを集めていたら集まってしまったと言ったところだな」
「そうだ、アーカード」
「悪魔が慈善事業するんだ……」
「悪魔というのは身内にはそれなりに寛容だ」
「じゃあ私にもっと優し――いふぁいよー」
あくまでそれなりに、である。
「何にせよ、リアス・グレモリー……サーゼクス・ルシファーの妹……奴がどう動くかは私も気になるところではあるな」
「あ、話戻すんだ……」
「リアスがどう動くかで、彼女の器が知れるというものよ……」
「デートの失態をさも元からの計画のように語る王様の図」
「………………」
「痛い痛い痛い」
懲りない幻月であった。
「失態とはまた別の話だ」
「失態とは思っているのだな、我らがオウサマ」
「失敗だとは思っているさ……女の取り扱いは難しいものだ」
「世の男ならば大抵そう思っていることだな」
「お前もかね、伯爵」
「お前もだよ、伯爵」
くだらないことに時間を使った。ライザーはそう言い、河川敷を登る。日が沈み、時刻は完全に夜。悪魔の時間へと変貌してゆく。
「さて、帰るぞ。ノスタルジーに浸るわけにもいくまい……」
「全然そんな気ないじゃない」
「冗談だ」
「なんだー、冗談かー」
冥界への帰還の為の魔法陣を展開するライザー。
しかし、その動きが止まる。新たに展開した魔法陣があったからだ。それも、自らによるものではない。
展開されているのは、通信用の魔法陣であった。それも、よく知っている魔力の持ち主によるものである。
「サーゼクスか、なんだ」
『ライザー! 今、君はどこにいる!』
「どこって? 見ての通り、人間界だが?」
『リアスは! リアスはいるか!』
「リアスか。いいや、別れたぞ」
『くっ……ならば、本物か……』
サーゼクスの表情が苦々しげなものに変わる。
何かが起きたらしい。そう察せられる程度に、サーゼクスには余裕というものがなかった。
「なにが起きた? サーゼクス」
『落ち着いて聞いて欲しい、ライザー』
「お前が落ち着くべきじゃあないかね、サーゼクス。随分と余裕がないように見受けられるぞ……」
『――ッ、そうだな。私としたことが……』
「それで? リアスになにがあったというんだ」
『リアスが誘拐された』
ライザーはこめかみに手を当て、やれやれと首を振った。
「ありきたりな展開だな……三流の少女漫画か、何かかね……」
『巫山戯ている場合じゃないぞ』
「巫山戯ちゃあいないさ……ホシは?」
『旧魔王派の者だろう』
「人数は?」
『少なくとも三人』
「場所は?」
『不明だ』
「要求は?」
『私の首だ』
「因果だな、サーゼクスよ……」
旧魔王派。かつてはライザーの眷属、アシュタロスが所属していた派閥だ。過去、世界中に戦火を広げた三大勢力の大戦後、排された一派。その後釜についたのが、サーゼクス達新魔王達である。
その遺恨は大戦からしばらく経った今でもなくなることはない。各地で旧魔王派と名乗る連中がテロを起こしたりと、その火種は決して消えていないのだ。冥界の抱える闇の部分であった。
「ふむ……さて、俺にもまあ、責任の一端はあるようだ……貸し借りはなしと行こう……そんなみみっちい話をしているわけにもいくまい。リアスの命最優先でいこうじゃあないか」
『頼む、ライザー』
「頭。頭を下げるな。お前は魔王という奴だろう……」
『ああ。そうだな……』
「次に連絡をする時は、リアスを取り戻した時だ」
その言葉を最後に、ライザーは通信を切り、召喚用の魔法陣を出す。
「さて、さてさて。面白くともなんともない展開だ……早く終わらせることにしようじゃあないか……セバスチャン!」
「はい、坊っちゃん」
呼び出されたセバスチャンは動じず、命令を待つ。
「幻月!」
「あいさー」
「アーカード!」
「オーダーはなんだ」
「使い魔を放ち、次元の狭間に潜り、リアスを探すのだッ! 五分だ……五分でカタをつけろ……! それ以上の時間をかけることは許さん」
「イエス マイ ロード」
「OK、王様」
「認識した。我が主」
鴉と蝙蝠の群れが、街中に放たれる。
夜が始まった。
―○●○―
リアスは、手足を拘束された上で、椅子に座らせられていた。
場所は分からない。何かしらの跡なのであろう廃墟の中であることだけは認識出来た。
(……迂闊、だった……)
ライザーが去った後、少し時間をおいて店を出た瞬間だった。リアスの意識が刈り取られたのは。
そして、目が覚めた時にはこのザマである。
女の力では全く歯が立たない。
(滅びの魔力で……だめ……)
バアルの滅びの力を練ろうとしても、まるで力が入らない。
「そいつは無理だ、グレモリーの妹」
「……ッ」
リアスを拐かした一味――三人の内の一人が、そう言う。
「教会製の悪魔封じの術式がたっぷり仕込まれている。たとえ魔王でもどうこうするのは無理という煽りつきだ」
「く……卑怯者ッ! 恥ずかしくはないの!」
「恥晒しなのは、貴様の兄だろう。図々しくも魔王を名乗っているのだ……ヤツのツラの皮の厚さと来たら……」
「全くだ……ちょっと名のある家柄というだけで、魔王の血筋でもないクセに、魔王だといいやがる! あの席には! 相応しい御方がいるにも限らず!」
「血筋で全てを決める時代は終わったのよ!」
「崇高な蒼き血の価値も分からぬ小娘が……」
話が噛み合わない。リアスはここで初めて相まみえることになった。自らのルールでのみ動く人種。狂信者というものに。
彼らには他人の理屈は通用しない。彼らにとって、自らの理屈こそが全てであり、それ以外のものには耳を貸さないのだ。
「……私とお兄様の首のトレードなんて、成立しないわ……」
「どうだろうな。なにせ相手は情愛の悪魔、グレモリーだ。女王辺りが首を持ってきてもおかしくはない」
「そんなことはありえないわ! 決して! サーゼクスお兄様は――」
「その名を口にするな!」
リアスを拳が襲う。口の中が切れた。
「穢らわしい! ああ、穢らわしい! 我々を追いやった罪人の名など、口にするんじゃあない!」
「もういいぜ。さっさと殺してしまおう。どうせ生かす必要もないんだ。殺そう。早いか遅いかだけだ」
「それでいいんじゃないか。首二つ並べればいいんじゃないか。なあ、そうだろう?」
一つの命のやり取りが交わされているとは思えない内容であった。当然である。彼らにとって、必要なのは『グレモリーの妹』でしかなく、リアス・グレモリーという少女には何の価値も置いていないのだ。
「そうだな……殺しておこう。安心しろ。すぐに貴様の兄も後を追うことになる」
男の取り出した刀が振り上げられた。刃がリアスの首を狙う。
(毅然としなさい、リアス! あなたが死ねば、お兄様はきっと死なない! 泣きたいのはわかる、けど、それはダメよ!)
刃が、迫る。
(泣くものですか……! 弱みを見せるものですか……! 私は、リアス! リアス・グレモリーなのよ……!)
――けれど。
――それでも。
「……助けて」
その小さな声は果たして、届いた。
廃屋の扉が乱暴に開けられた。そこに立っていたのは、一人の男であった。炎の揺らぎのような髪を持つ男が月を背に立っている。
「うん……?」
刀がどこかに行ってしまっていることに男は気付いた。振り抜いたはずの刀が手に収まっていない。見れば、床に落ちていた。すっぽ抜けたか、と思い。拾い上げる。
「グレモリーの使者というわけではなさそうだな……何者だ? 何か、用があるのかね……?」
「ライ……ザー……? なんで……だって、私は、あなたを……!」
「………………」
男は何も言わない。ただ、一歩足を踏み出した。
「おおっと、動かないでもらおうか! どうやらグレモリーの妹の知り合いらしいな……彼女の身が惜しければ――」
男、ライザーの姿が消えた。
「な……」
「嗚呼――」
それは実に奇妙な現象であった。瞬きをする時間よりも早く、ライザーは移動していたからだ。しかも、リアスの目の前にいる。
入口からリアスの位置まで、十メートル以上あるというのにだ!
無論、それは時を止めたことによるものである。だが、それを知るのはライザーのみ。その他の者たちには、目の前で何が起きたのか。理解することはできない。
「随分と、痛めつけられたようだな……」
ライザーはリアスの頬に指を這わせた。赤く染まった頬が、冷たい指の先で冷やされる。
「なんだ、なにが起きた! 貴様! なにをした!」
「口を開けるんだ……リアス」
囁くような甘いその言葉に、リアスは何も考えず、反射的にに口を開けた。その口に、一滴の水滴が落ちる。それはライザーの左目から溢れたフェニックスの涙であった。
たちまちの内に、リアスの傷が跡形もなく癒える。
「リアス、お前の覚悟……見せてもらったぞ」
「この変態野郎があ!」
激昂した男の手によって、ライザーの首が、刎ねられた。
「ハァ……ハァ……なんだってんだ、畜生め……」
「ライザー……?」
どさりと、音を立てて、地面に落ちる。
だが。
「お前たちにはバッドなニュースが三つほどある……」
落ちた首が、燃え出す。
「バッド ニュース一つ……俺の身体はとてもいい具合に
首が、灰となる。
「バッド ニュース二つ……俺はとっくに怒りの臨界点を迎えている」
ライザーの首の跡から炎が出る。
「バッド ニュース三つ……俺がライザー・フェニックスであるということだ」
炎の後には、完全な健康体のライザーがあった。首が飛んだことなど、なかったかのような自然体である。
「フェニックス家の悪魔か……純血の悪魔が、なぜ我々に歯向かう!」
「人の婚約者に手を出しておいて、それはないなァ……」
「な……にぃ……? 婚約者だとぉ?」
「頭は回っているかね、三下。
威風堂々。思わず地に膝をつけたくなるほどの覇気がそこにはあった。
「くっ、何が婚約者だ……! お前なんぞに我々の計画を潰されてたまるかァーッ!」
三人の悪魔がそれぞれの得物を構える。ライザーに害をなそうと武器を振るおうとしたところで。
「
間髪を入れず、吹き飛んだ。三人がまとめて、何かに殴り飛ばされたかのように。
「無駄だ。今からお前たちはこのライザーに一つの傷も付けられん!」
「くそ、くそが、出ろ! 出ろー!」
リーダー格の男の言葉で、無数の魔法陣が出現し、そこから新手の悪魔たちが続々と湧き出る。
「殺せ! 人質ごと焼き払ってしまえええ!」
ライザーが指をパチンと鳴らす。リアスを縛っていた縄に火が灯り、術式が焼け落ちた。
茫然とするリアスを抱き寄せ、ライザーは悪魔たちを見る。幾多幾重もの魔法陣達。その標的は当然、ライザーとリアスに向けられている。
「Stand by me……Stand up to……get set、Arcana」
そうライザーが呟いた時であった。ライザーの前に一体のヒトガタが現れた。六本の腕を持つ、奇妙なヒトガタ。白い蒸気のようなものを発しながら、ライザーとリアスを守るように佇んでいる。
大きさは身長の高いライザーよりもなお高い。メタリックな黒い外殻を成しているそれは異形。それには漏れ出るほどの膨大な力が込められているのがわかる。
「こ、これは……?」
「これが力よ……名は『
「これが、あなたの力……」
「ああ、そうだ……俺の力だ。斃す為の力、覆す為の力、克服の為の我が力。その集大成こそがこいつよ……!」
やれ! という声とともに、悪魔たちは魔法を発射する。避けることも、逃げることも出来ない魔法の津波。
だが、彼は。ライザーは違う。そもそも、避けよう、逃げようという選択肢はそこにはない。
やることは単純であった。することはシンプルなのだ。
アルカナの六本の拳が唸りを上げる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオォォラァア!」
魔法を片っ端から叩き落とす。
それが、ライザーの選んだ手段であった。目にも止まらぬラッシュが、ありとあらゆる魔法をその拳だけで打ち砕いてゆく。
「ば、馬鹿な……」
「恐怖したな……だが、無意味! 貴様らを逃がしはしない!」
ライザーの目が見開かれる。
「『
――何もかもが止まった。
そこは完全なる無。
それは完全なる世界。
其は全ての時が凍る世界。
「スタンドパワーを全開だ! 『
『
薙ぎ、打ち、殴る。悪魔たちの誰をも見逃さず、止まった時の中で粉砕してゆく。
そうして。七秒が、経過した。
「そして時は動き出す」
止まっていた時が正常に流れ始める。
地獄が広がった。足をへし折られたもの、叩き潰されたもの、身体に穴を開けたもの。死屍累々の光景が、現実世界では真に瞬間で広がったのである。
「今回はサーゼクス絡みの逆恨みのようだが……リアス。これが俺との関係の縮図だ。お前に覚悟はあるか? 俺が征くのはどう転んでも修羅の道よ。その隣を歩く、覚悟はあるか? リアス。リアス・グレモリー」
「……あ」
今、ライザーはリアスを試している。
問うているのだ。自らの夢を語り、その上で、リアスに問うのだ。
――覚悟を!
「いいわ……ライザー」
リアスは逡巡すらしなかった。眼前の男は、それだけの迫力がある。ライザーの途方もない夢を聞き、隣を歩けるかどうか。
否、歩けるのは、自分だけなのかもしれない。例えそれが不幸なことであっても。ライザーとならば、歩いてゆける。
思えば、あの邂逅から全ては決まっていたのかもしれない。
あの、夜の邂逅から、全て。
「あなたの夢を――私は止めてみせる」
「フ……上等だ。フィアンセ」
「貴様、貴様、貴様、貴様ぁあ! 邪魔だてするか! 邪魔をするなあ!」
リーダー格の男が、血まみれになりながら、ライザーに突貫してくる。
「よし。そうだ。一つ、私の隠し名を教えよう、リアス。俺の名は――もう一つの名はジョシュア・ジョースター。人は俺を、ジョジョと呼ぶ」
『
それで終わるはずもない。別の拳も、同じように突き立てられる。
一方的なラッシュが叩き込まれた。黒金から繰り出される拳の雨は、音速をも越える怒涛の攻撃。一撃一撃が必殺の重みを持ちながら連続で入る。
止めは大きく振りかぶられた、巨星の一撃。
「オラァ!」
「ゴペラ!」
見る影もないほど殴られた悪魔は、廃屋の壁にスタンプされ、再起不能となった。
「さて、無事か、リアス」
「ええ。大丈夫よ、ライザー」
「そうか。それはよかった。フェニックスの涙があるとしても、君が傷付くのは、大変よろしくない……我が怠慢とも言える」
「お陰様で、傷一つないわ、ライザー……その、ありがとう」
「礼はいらない……俺は俺のすべきことをした、それだけだ」
ひねくれているわね。リアスは思った。
「出るぞ、リアス。やれやれだ、折角のデートがこうとはな」
「あら、私は結構楽しかったわよ、ライザー」
「そうか」
強がっているな。ライザーは思った。
「……ねえ、ライザー」
「なんだ、リアス」
「……その、私があなたの横に立てる日が来たら、私をお嫁さんにしてもらえるかしら?」
「そう言った時点で、お前は資格を得ていると思うがな」
「私が納得できないの」
「お前が一歩歩くごとに俺は二歩歩んでいるかもしれん」
「待ってくれないの? いじわるね」
「なに、やることは簡単だ。追いついてくればいい」
「ええ。あなたが一歩歩いたら、二歩歩いてみせるわ」
「気長に待つことにしよう、その日まで女王の席は空けておこうじゃあないか」
ライザーは懐から女王の駒を取り出す。
それを、リアスの手に握らせた。
「これは……」
「とっておけ、リアス。その日まで」
「……大切にするわ」
こうして、一回目のデートは幕を閉じる。それは、長らく付き合うことになる二人の関係の幕が上がった日でもあった。
「ところでライザー」
「なんだねリアス」
「そろそろ、下ろしてくれてもいいかなって思うの」
「このままサーゼクスのところにでも帰るか」
「ま、待ってライザー! そういうのはダメよ!」
「冗談だ」
「あなたの冗談は冗談に聞こえないのよ!」
――○●○――
後日。ライザーはサーゼクスに呼び出されていた。
すわまたろくでもないことを思い付いたのかと思うライザーだったが、サーゼクスが魔王としての顔をしていることで、気を引き締める。
「まずは礼からだ。先日のリアス・グレモリー誘拐事件の解決、見事であった。礼を言おう。ライザー」
「礼を言われるようなことはしていない……あれは俺のミスが発端とも言える。互いに不毛ではないかね、サーゼクス」
「それもそうだな……」
「そんなことよりも、本題に入ろうじゃあないか。まさか、当日に終わった話を蒸し返すだけのために俺を呼んだわけでもあるまい……」
ライザーはサーゼクスを見やる。普段は軽く緩い男だが、魔王としての責務は最低限こなせるほどの腕は持っている。
「――君に任せたい役職がある」
「ほう。役職、だと?」
ライザーの関心が明確に向いた。
「しかしなァ~~~この身はすでに爵位を貰っている身だ……そこに更に足そうというのだから、さて? なにを俺に要求するのかね」
「要求ではないさ。すでに下知となっている」
「そうか」
「ライザー・フェニックス。君には冥界の軍団長となってもらう」
軍団長。その単語を聞き、ライザーの口角がゆっくりと吊りあがる。
「悪魔の軍団は、解体済みだと認識しているが?」
「確かにそうだ」
先の大戦で、悪魔の陣営は大打撃を受けた。ソロモン七十二柱はその数を半分以下に減らし、グリモワールに載るような軍団は壊滅状態だと言ってもいい。
「故に再編しなければならないんだ。軍縮の時代とはいえ、我々にも一定の抑止力が必要な時代が来ている。今までなあなあで済ませていたが、『
本当は軍拡染みたことはしたくないというのが見え見えだが、ライザーは何も言わない。
「軍団長と言ったな……長というからには、軍団が必要なわけだが、そこのところはどうなっている?」
「君とその眷属たちだけで十分だろう。なにせ、名立たるメンバーだからね。下手な師団を用意するよりも、その戦力は高いだろう?」
「ふん」
「『吸血鬼』アーカード 『黒龍』ミラボレアス 『黒執事』セバスチャン・ミカエリス 『夢幻の悪魔』幻月 『悪魔の源流』アシュタロス。そして、君、ライザー・フェニックス……戦力過多と方々で言われるチーム。それを腐らせず冥界の益とするための方策だ」
「旧魔王派だったアシュタロスがいるにも関わらず、か。なりふり構っていないんじゃあないかな……」
魔王相手に喧嘩を売ったアシュタロスを含むパーティを、軍に属そうとしている。これがどれだけ問題なことか。
「ふっふっふ。その辺りは問題ないぞ、ライザー。彼女の立ち位置は、旧魔王派からライザーの説得により改心した女悪魔だ」
「間違っていないが、大きく間違っているな」
合っているが合っていないとも言う。
「婚約者を助けに単身で五十の悪魔が潜む魔窟へ挑んだ話は、今や冥界ではちょっとしたブームになっているし、ライザーの人気はうなぎ登り! これはもうプロパガンダにするしかない!」
「そう言って上層部を黙らせたわけだな」
「なんのことかな」
不自然に話が広がっている理由が判明した瞬間であった。
「まあ、いいだろう。どうやら拒否権もないようだ……軍団長、受け入れようじゃあないか……」
「それから、君の伝説を元にした特撮、仮面ライザーという計画があってだね」
「……魔王の仕事をしろ」
「これも魔王の仕事の一つさ」
どこが、仕事なのだろうか。ライザーは内心首を振る。
「そんなことよりも、だ。軍団長就任に辺り、一つ、要求をしたい」
「なんだい? 大抵のことは聞けると思うが……」
「我が眷属の内、一人が今、監獄行きになっている……俺の戦力だ。そいつの解放を求める」
「確か、戦車……」
「『英雄殺し』バルバトス・ゲーティア……やつの解放だ」
『
スタンドマスター:ライザー・フェニックス
【破壊力:A スピード:A 射程距離:C 持続力:A 精密動作性:C 成長性:B】
ライザーの前世、ジョシュアの時代より持ち越されて来た魂の力。ライザーが最も使い慣れている力である。近距離パワー型。六本の腕を持つため、ラッシュという面ではスタープラチナやザ・ワールドを上回る破壊力を持つ
バルバトス・ゲーティア(テイルズ オブ デスティニー2)
説明に頼る軟弱者どもがぁ!
Q リアスが……
A スイッチ姫(原作通り)
Q あるある展開
A たまにはこういうテンプレも。というか、リアスって狙われてもおかしくない立ち位置だと思うのです
Q 眷属三人は?
A 扉のすぐそばで待機。にやにや笑いで見ていた模様。
Q 戦車ェ・・・
A アナゴェ・・・