不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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ライザー夢を語る



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不死鳥と逢瀬

「ほら、朝飯だ。食らうがいい……」

「キィアァアアア」

 ライザーが日課である己の戦車かつ飼い龍であるミラボレアスに餌(牛五頭)をやっていた時であった。

「立派なドラゴンね」

 この頃よくライザー邸に顔を出しているリアスがやってきた。真紅の瞳に映るミラボレアスは、普通の龍とは一線を画する雰囲気を醸し出していた。ライザー・フェニックスの名に恥じぬ、強力な龍、黒龍。一説には世界を滅ぼすとすら言われるドラゴンである。

 それが本当かどうかは別として、その存在感は、見るものを圧倒させる。ドラゴンとはかくあるべきかという威厳がそこにはあった。

 

「そうだろう? 俺が出会ってきた龍の中でも、一流のドラゴンだ」

「そんなに龍に出会ってきたの……?」

「それなりには、な……」

「素晴らしいドラゴンなのは見て分かるけど……」

 しかし、リアスの内心はまた別のところであった。

 早い話が、ビビっていた。

 ライザーがいるから大丈夫だと思っても、本能的に怖いものは怖い。番犬が怖いのと同じように。

 しかも、リアスの目の前にいるのはかわいいワンちゃんではなく、雄々しきドラゴンなのである。

 そんな一つの怯えが伝わったのか……

「フン」

 ミラボレアスは鼻で笑った。

「な――」

 絶句するリアス。

「別に、いつもの態度だ。あまり気にすることもないだろう。他の眷属にすらこんな風だからな……」

 

 邪龍に分類されるミラボレアスが、早々他者と打ち解けるはずもなかった。

 

「いえ、けど……うう……」

「軽んじて欲しくなければ、相応の実力を身に付けることだな、リアス嬢。なあ、ミラボレアス」

 巷では運命の闘争とまで呼ばれるその龍は、牛を丸呑みするのに忙しかった。目だけが、ライザーを見る。

「やはり俺以外にはイマイチ興味がないようだな……」

「興味があったらそれはそれで困るわね……」

 なにせ、伝説とまで言われるドラゴンである。目を付けられたらそれはそれで怖い。討伐により数を減らされたドラゴン達。そんな中で生き残ってきたことが、ミラボレアスの存在がどういったものかを如実に語る。もっとも、冥界の一角を悪魔から奪い、ねぐらにした後、そこからあまり動かなかったというのも大きな要素の一つなのだが。

 とは言え、ドラゴンの中でも凶悪レベルのミラボレアスに目を付けられたら、即、死まっしぐらである。

「と、ドラゴンとじゃれるために来たんじゃないわ」

「ふむ? では、俺になにか用かね? リアス嬢」

「え、ええ。そうよ。ライザー」

 リアスがライザー邸に足繁く通う理由は、百パーセント、ライザーにある。

 当たり前といえば、当たり前なことであった。

 しかし、今日はリアスの様子が少々おかしい。あー、や、うーといい、言葉を続けない。勝気な彼女らしくもなく、もじもじとしている。

「ラ、ライザー」

「何だ、リアス嬢」

 珍しく緊張しているらしいリアス。一方のライザーは静かに話の続きを待つ。

「デートをしましょう!」

「……うむ」

 久方ぶりに、間の抜けた顔をしたライザーであった。

 

 

     ――○●○――

 

 

「よろしいではありませんか、坊ちゃん。お楽しみになられてきては? ここ最近忙しかったことですし」

「デート、ですか。閣下」

 セバスチャン、アシュタロスの常識人二人に、ライザーは事の次第を語っていた。他のメンツはこういったことには全く向いていないことを、ライザーは知っているのである。

 ミラボレアスなんてドラゴンだし。

 

「うむ、デートだ……婚約者とするのは、まあ、普通のことか?」

「リアス・グレモリーは閣下を好きになろうと言う努力をしているのでしょう。閣下の父君が酔いの勢いで決めたとはいえ、政略結婚に違いはないのですから」

「なるほど」

「失礼ですが閣下、デートの経験は?」

「……ふむ。遠い昔に何度か」

「ああ、前世ですか」

 眷属の間では、ライザーが前世と言える記憶を持っているのは周知の事実である。

 さて、そんなライザーであるが、その前世というものがまた曲者であった。なにせ前世のライザーの享年は貫禄の百歳オーバー。デートをした時代ともなれば、四分の三世紀は遡らなければならないのである。

 そして、回数もそう大したものではない。正直なところ、参考にならないレベルである。

 

「そうだ。だが、ね。そうか。前世以来になるのか……」

「閣下……」

 

 珍しくどこか遠くを見るライザーを見て、そっと涙を拭くアシュタロス。

 

「坊ちゃん、ここまで至るまでに随分と無茶しましたからねえ。女性と関係を持ったことは正直皆無ですし」

「考えてみれば、色恋沙汰なんてものはついぞなかったな……そんな暇があれば鍛錬をしていたぞ、俺は……」

 

 性欲よりも戦闘欲の方が高いライザーであった。

 

「言い寄る女性は尽くがハニートラップであったり、坊ちゃんの名誉狙いであったりですからね」

 方々には悪魔の麒麟児として、その名を轟かせているライザー。同世代の中でも飛び抜けた華である彼には、甘い蜜を求めてくる者も多い。所詮まだ子供という油断もあるのだろう。とはいえ、元の人格が人格であり、相手にもならなかったのだが。

 リアスがライザーのことを知らなかったのは、彼女がまだまだ子供だったからか。生粋のお嬢様だけあって、少々世間を知らないのだ。

「ハニートラップか。まあ、なんだ。それはそれで貴族の嗜みという奴だろう……有名税という奴だ……」

「閣下……」

 またまた涙を拭うアシュタロスであった。

「その点、リアス嬢はイイ線を行くんじゃあないか……この俺を見据えるために色々と探っているようだ……微笑ましさすら感じるぞ」

「ええ。実に勤勉なようです、閣下。閣下のことを知ろうと未熟ながら頑張りが見えます」

「実に好感が持てるよ、実に、な。つまるところ、今回のデートはそういう名目のもとの索敵でもあり、俺を知る最終手段と言ったところか。ククク、そんな誘いを蹴るわけにもいかんな」

「しかし坊ちゃん。デートの日は予定が目一杯ですが?」

「キャンセルか俺の影を模したアーカードにでも任せておけ」

「そのように」

 セバスチャンの確認ににべもなく答えるライザー。アーカードの雑用が決まった瞬間でもあった。兵士は辛いのである。

 ライザーの影から、おい、と聞こえたが、誰も気にしていない。

 

「天下のドラキュラも、閣下の前では形無しですね」

 いい気味だとアシュタロスは笑う。この二人、普段から反目してばかりなのだ。致命的に相性が悪いとも言える。

 お手手つないでとは言わないが、もう少し関係がよくならないものか。ライザーはそう考えるが――

「無理でしょう」

「無理だな」

「無理です」

 アンサーはこの通りであった。

「無理かね。そうかね……我ながら、自我の濃い者ばかり集めたからな……困ったものだ」

 ライザーの眷属の欠点はそこに尽きた。一癖も二癖もある眷属たち。皆一騎当千の実力を持っているが、それが故に独立の意思が強い。

 王たるライザーの命令には従うものの、眷属同士は仲が悪かったり、ミラボレアスのようにそもそも関係性を築けないものもいる。それでもレーティングゲームで常勝無敗を誇るのは、ライザーの指揮の辣腕と、連携不足をものともしない実力があるからだ。圧倒的な力でねじ伏せる。一部では『赤髪の覇魔王(ドレッドノート・レッド)』とまで呼ばれる所以である。

 ライザーが王命として協力しろといえば、眷属達は協力するであろう。しかし、それは真の協力とは程遠いものだ。数少ない悩みの種なのである。

 ライザーはその現状を放置して良いものとは考えてもいなかった。眷属を御しきれていない、すなわち。自分の手に余っている。それは己が実力不足であると戒めているのである。

「閣下。それで、どうするのです? デート」

「どうするもこうするもあるものかね。俺が、リアスをエスコートする。……それだけだろう」

「それだけが中々どうして難しいものなのですよ、坊ちゃん。乙女心とは複雑なものなのです」

「重々承知の上で言っているぞ……俺の人生経験上、ああいうタイプはちょいといなかったが、エスコートの仕方くらい分かっているさ。いくらなんでもその辺の山猿と一緒にしてもらっては困る」

「言いますねえ、坊ちゃん」

「当然だ。この俺はライザー・フェニックスだからして」

 

 自信たっぷりに椅子でふんぞり返るライザー。実際、やればなんでも出来るタイプなのである。

 

「閣下はなんでも卒なくこなしますからね、その方面は大丈夫でしょう」

「奥歯にモノが挟まったような言い方だなァ、アシュタロスよ」

「卒が無さ過ぎるのも、女はつまらないものなのですよ、閣下」

 

 完璧過ぎるというのも考えものなのだ。

 

「女心か……厄介なものだな。最近聞くようになった……あー……ああ、そうだ『禍の団(カオス・ブリゲード)』とやらを殲滅する方が楽そうだな」

「閣下……」

「おや、コピペ芸ですか」

 アシュタロスの目にも見えぬ殴打。しかし、セバスチャンはそれを盆で防御していた。

 一連の流れを見て、ライザーは溜め息を吐いたのであった。

「まあ、折角懐かしき麗しの人間界に行くのだ……精々楽しんでくるとしようか……」

       ―○●○―

 デート当日。天気は雲一つない晴れ、絶好のデート日和である。日の光を目を細めて見るライザー。

「待たせてしまったかしら?」

「なに、今来たところだ」

 恋人の定番のやり取りをしたライザーとリアス。

 リアスは淡い青色のワンピースを、ライザーはシックに黒で纏めた上下を着ている。お互いに流行をやや意識したファッションであった。実に人間界に馴染む服装であったが、しかし、問題点が無い、というわけではなかった。舞台は日本、しかし二人共、日本人離れした容姿なのである。双方細かいところは異なるものの、赤い髪。顔の作りも、日本人と言うよりは外国人と言った方がいい。

 ライザーとリアスが並べば、美少年美少女、海外のモデル雑誌から向け出してきたかのような華やかさがそこにはあった。

 自然、人の視線を集め、中には溜め息を漏らすものもいる始末。

 

「見たまえ、リアス。皆、君の魅力にやられているぞ」

「そういうあなたこそ、ライザー。女性の視線を独り占めじゃない」

「ヤキモチか?」

「ち、違うわ! そういうライザーこそどうなの?」

「そうだな……むしろ誇りに思うぞ」

「……っ! ~~っ」

 

 平然と言うライザーであった。

 その後、街を巡るライザーとリアスであったが、リアスは愕然とすることになる。レディ・ファーストを筆頭に、細かい気遣いのオンパレード。最早ナイトと言っていいほどの紳士っぷりであった。

 やれば何でも出来る子ライザーの面目躍如である。前世を含んだ人生経験が、こんなところで生きようとは、ライザー自身思ってもみなかったことである。

(か……完璧だわ。なんてことなの……! 穴の一つもない……! ライザーには欠点というものがないの……!?)

 

 リアスは愕然とした。オフのグレイフィアのように目を皿にして粗探しをしたにも限らず、ライザーはチェック項目を全てパスしてきたのである。

 

「このライザーに弱点や欠点は期待しないで欲しいところだな……リアス嬢……この俺は、克服するために生きているんだ……」

「ナチュラルに心を読まないで頂戴」

「それは失敬した。リアス嬢は中々読みやすくてなァ……」

 かちん。と来たリアスだったが、事実であることに違いはない。

「ぐぬぬ……(読心術すら修めているなんて……隙が無さ過ぎるわ!)」

 ライザーを嫌っているわけではない。その絶対的な力は同じ悪魔としても尊敬する。

 しかし、そこまでなのだ。リアスの好みではない。どちらかというと、リアスは自分がリードしたいタイプなのである。良くも悪くも可愛げのないライザーは恋愛対象として見られないリアスであった。

 気を取り直す。

 

「……ここの一帯は、近いうちに私が統べることになるらしいの」

 駒王町。それがこの町の名前である。

「視察がてら……といったところか」

「いいところでしょう?」

「何もない冥界よりは、な」

「む……イヤミなのね」

「そう不貞腐れるんじゃあない……この地に繁栄を齎すか、それとも衰退を呼び込むかは、リアス嬢。君の手にかかっているのだ。上に立つものの義務だな」

「分かっているわ。ライザー。私の腕次第で、どんな結果をも呼び込める……」

「そうだ。それこそが上に立つものの権利であり、義務でもある。頂点に立つ者はそれを知らねばならぬ……それを知らぬ者は暗君よ」

 他者の上に立つことに慣れているライザー。それがゆえの言葉である。リアスはまだ、自身の駒も殆どいない状況。先達の意見に耳を傾ける。

「……けどデートっぽくないわね。私のイメージするデートとはなにか違うわ」

「それはすまないな、何分、不慣れなものでね……リアス嬢」

「その呼び方もやめてちょうだい。なんだか面白くないわ。茶化されてるみたい」

「それはすまないな。リアス」

「……っ」

「これでいいかね」

「え、ええ。それでいいわ」

「顔が赤いな、リアス」

「なんでもないの! なんでもないわ!」

 可愛らしいことだ。ライザーはそう思う。こういった初々しさは無くして久しいライザー。親戚の子を見るような目で、リアスを見る。

「ライザー、変なことを考えてない?」

「さて、どうだろうな……」

「むぅ……」

「……俺自身、こういう形のデートという奴は初めてのことでな。中々どうして、緊張しているのだよ、リアス」

(ライザーにも不慣れなものがあるのね……これはチャンスだわ! このデートを私主体で進めてみせる!)

 恋愛方面でリード出来るかもしれない。鬼の首を取った気分になるリアスであった。自分にも恋愛経験がないことはこの際忘れておくリアス。

 しかも今までの流れで全然リード出来ていないことも忘れておくリアスである。

 

「ああ、リアス。そろそろお昼どきなんだが……どうだね、ランチでも」

「いいわね……おすすめのレストランがあるのよ」

「そうか。それは楽しみだな」

 有名フレンチに予約をしていることを思い出すライザー。だが、諦めることにする。予約をしたのは眷属きっての世話焼きアシュタロスと愉快犯セバスチャンであったが。

 リアスに先導されてついたのは、いかにもな高級レストランであった。双方大人びて見えるが、しかし、子供二人にはいささか以上にミスマッチである。

 とは言え、二人共そんなことを気にするような柄ではない。窓際に案内され、外の景色を見ながら、二人はランチを食べる。

「ライザー……あなたは一体どこを目指しているのかしら?」

 ランチが一段落したところで、リアスはそう切り出した。

 夢か、願望か……それを訊けば、その人となりが分かるというもの。

「どこを、か」

「ええ」

 ライザーは口を拭った。

「そうだな、リアス。この俺には夢がある」

「夢? 聞かせて頂戴」

「まずは、だ。俺は冥界を……悪魔の世界を統一する」

「え?」

 思わず、聞き返してしまった。

 ライザーがなにを言ったのか。それを理解するまで、リアスはしばらく時間がかかった。

 そんなリアスを見て、ライザーは笑う。

「フフフ、惚けているな、リアス。素敵な淑女が台無しじゃあないか……」

「ま、待って、ライザー。あなたなんていったの。冥界を統一する? そんなことを言ったの!?」

「ああ、言ったとも。言って当然だ。それがこのライザーの夢の一歩なのだからな」

「その言葉の意味を、あなた理解していっているの!?」

「妄言じゃあないぞ。寝言でもない……俺は確かに俺の言葉として言っているのだ」

 それはつまり。

「冥界は今、お兄様たちの手によって統治されているわ! そんなことを言ったら、反逆罪に問われても文句を言えないわよ! それくらいのことをあなたは言ったの!」

「問われた時は問われた時だ……それに、サーゼクスなら笑うだろうな。あれの性格上」

 サーゼクスはサーゼクスで変わった男である。むしろ気概があるくらいのことは言うだろう。

「茶化さないで!」

「落ち着け……落ち着けよ。リアス……随分と怖い顔じゃあないか……」

 幼子に言い聞かせるように、ライザーは言う。

「今の冥界には四大の魔王がいるだろう? しかしだ、リアス。それはつまらないことだ。実につまらない。いいや、間違っているとすら言ってもいい……王が四人いるのではなく、四人いなければ王として機能しないのが、冥界の現状という奴だ。それは王と言うにはちょいと力が足りん。故に、俺が王となるのだ……! ただ一人の魔王(サタン)として俺は冥界に君臨するッ! 頂点に立つッ! 頂点に立つのはただ一人でいいのだッ! この俺だけでなッ!」

 圧倒的! 圧倒的迫力! リアスは知らぬうちに唾をのみ込んだ! 呑まれてしまったのである!

 目の前の男には、それを成し遂げられると、そうリアスに思わせるだけの凄味がある!

 否、目の当たりにしたのだ! その実力を! 覇者の圧倒的存在感を! なんというプレッシャーであろうか。リアスは自然と流れる冷や汗を止める術を知らなかった。

「待って……待って、ライザー。あなた……言ったわよね。夢への第一歩だって、冥界を統一することが第一歩? あなた、何を考えているというの……!」

「冥界の次は、人間界だ……侵略するのだ……! 今、人間界は誰の手にも収まっていない。なれば、空白の玉座を得ることもできよう。俺が頂点に立つのだ。たった一人の大魔王としてな」

 赤い、ワイングラスをライザーは傾けた。血のように真っ赤なそれを、ぐびりと喉を鳴らして飲む。

「そんなことをしたら、周囲は敵ばかりになるわ! 分かっているはずでしょう!? あなたなら、それがどんな結果を呼ぶかなんて!」

「むしろ、それでこそだ、リアス」

 ワイングラスが置かれる。

「え?」

「今の俺には、だ、リアス……敵が少なすぎるのだよ……! 人生というものにはッ! 敵がいなくてはならない……大敵という壁が必要不可欠という奴なのだ……この身体、この立場、この環境……俺はあまりにも恵まれすぎている」

「恵まれているのなら、それでいいじゃない……」

「恵まれすぎだからこそ問題なのだ、リアス。水を多く吸いすぎた植物が腐るように、恵まれすぎた人生は、腐敗を呼び、怠惰を起こす。そうして待っているのは何の張り合いもない人生だ……悪魔の幹部連中を見てみろ。贅肉だらけだ」

 どんなところにも、腐ったものとは存在する。悪魔の上層部もまたしかり。運良く三大勢力の大戦から生き延びたモノたちが、幅をきかせているのだ。

 しかし、ライザーから言わせてみれば、老害と言う者である。無能が居座ることに我慢がならない。それも、自分よりも上の位置に蔓延っているのだ。この現状に、我慢ができようか。少なくともライザーはそうは思わなかった。

「ベリーベリーイージーモードなど、この俺を殺しかねん。故に敵対者が必要なのだよ、リアス。この俺に叛逆の牙を突き立てるものが必要なのだ……」

「凄まじいわね……なんて恐ろしいの。けど、傲慢にもほどがあるわ。お兄様たちはあなたに負けない」

「今はまだ、な……眷属を初め、俺はまだ準備不足だ。だが百年しないうちに刈り取るさ」

 明日の天気の話でもするように、ライザーは言った。

(孤高……いいえ、ライザーから感じるのは孤独だわ……)

 仮にも魔王の妹であるリアス。他人の心の機微には少しばかり聡かった。

 強すぎる力を持っているライザー。

 まるで、大空を夢見るカゴの中の鳥のようだ。リアスはそう思う。けれども、ライザーにとって天蓋こそがカゴなのである。

 それは、あまりにも憐れであった。

「ねえ、ライザー……」

「なんだ。リアス」

 

 リアスは、ライザーの手を掴む。そして、自らの首元へと誘った。

 

「私を殺せる? ライザー……」

「ああ。殺せるな……今すぐにでもだ……」

「そう」

「窒息させて殺せるぞ」

「ええ」

「頚動脈を切るのもいい」

「分かっているわ」

「骨をポキッと折れば、それでしまいだ」

「でしょうね」

 

 けれど。

 

「あなたはそれをしないわ……私の首を持っていけば、すぐにでも戦争を起こせる……お兄様の本気を引き出せる。冥界にうねりを生み出せる。リアス・グレモリーの首にはそれだけの価値がある……」

「ああ、あるだろう」

「けど、けれど、あなたはそれをしないわ」

「買いかぶり過ぎだ、リアスよ……今はその機ではないと、俺は言っただろう? 今はまだ、時ではない……」

 

 首から手を離し、頬を滑らせる。シミ一つない、綺麗な、若々しい肌だ。それを、ライザーの指が何度も撫でる。

 

「その時が来たら、私をどうするつもり?」

「別にどうともしないさ……わざわざ婚約者をどうこうするほど腐っちゃあいない……それに、革命は平和的に解決するかもしれないしな」

「……そう。そうなのね。ライザー」

「ククク、殺すと……そう思ったのかね。リアス……」

「そんなことはないわ。あなたはそういう愚は犯さない人だもの……」

「愚、か」

 

 ライザーは言う。

 

「俺は賢くは生きられぬ……そういう星の下に俺は生まれている。黄金の精神と漆黒の意思を合わせ持つ俺は、愚かしい人生を進むしかないのだ」

「……帰って。帰ってちょうだい、ライザー……」

「そうすることにしよう、リアス。さようならだ」

「ええ。さようなら」

 

 

 

 




Q『赤髪の覇魔王』www
A 原作っぽい二つ名を考えた結果がこれだよ!グレートレッドとは関係ない

Q 旦那忙しいな
A 汎用性の高すぎるアーカードの旦那が悪いんや

Q ライザーの夢って……
A ベースになったDIOとは真逆の発想。安心を捨て、危険な道をあえて進むマゾヒスト的思考


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