不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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不死鳥とムゲン

「ちょっとぉー、離してよぉー……」

「いかがなさいます? 閣下?」

 

 ライザーとアシュタロスにお持ち帰りされた幻月を待っていたのは、簀巻きの上、天井からぶら下げられるという謎の待遇であった。

 紐に揺られ、ぶらんぶらんと吊られる彼女からはなんとも言えない哀愁が漂う。

 

「離す必要はないぞ」

「へるぷ みー」

「離そうとは思いませんよ、坊ちゃん……まあ、色々と気になりますが」

「そいつにはちょいとばかり聞きたいことがある」

「むむむ、わざわざ悪魔封じの法まで使って、何を聞こうっていうの?」

 

 幻月の簀巻きだが、ただの簀巻きではない。悪魔としての力を抑える術式が要所要所にたっぷりと仕込まれたスペシャルな一品である。

 ちなみに、器用万能なセバスチャンとアシュタロス謹製のものであった。

 

「どーせ私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

「貴様、どこからそーゆー知識を持ってきてるんだ……? 俺としては不思議でならんわけだが」

 

 器用に体を動かし、びたんびたんと跳ねる幻月に、ライザーは呆れた視線を向ける。

 少し前まで容赦のない弾幕戦を繰り広げていた相手とは思えないやりとりであった。お互いに。

 

「なんと下劣な」

 

 そんな幻月を見て、アシュタロスは白い目を見せる。

 

「簀巻きにされた女をこの手でどうのこうのする趣味なんて、俺にはない……まあ、簀巻きでなくても貴様をどうのこうのする気すら起きないがな」

「ぐぬぬ……それはそれで複雑だわ……」

「なにがぐぬぬだ、たわけ」

「ふぎゅ」

 

 デコピン一発。幻月は沈んだ。

 

「しかし、ここまでする必要があるのですか? 坊ちゃん。彼女は確かに強力な悪魔のようですが、ここまで厳重にする必要はないように感じられますよ」

「する必要があるからしているのだ……セバスチャン。うっかり目を離したら最後だ……その瞬間に次元の狭間に逃げられるぞ。こいつはそういう悪魔なのだからな」

「次元の狭間、ですか。これはまた大きく出ましたね」

「大きいのはこれだけじゃあない。なにせ、こいつは次元の狭間を作った存在だと、そう言ったのだよ……考えられるか……? 世界を一つ作るという、神にすら等しい所業をこの女はやってのけたのだ……」

「次元の狭間っていうけど、私たちの中では夢幻世界って呼んでるのよ。そっちの方がかわいいのにー」

「なるほど、人は見かけによりませんね……ああ、悪魔でしたか」

「今でこそそのザマだがな……」

 

 ライザーが簀巻きになっている幻月を顎で指す。今の状態ではますます威厳なんてへったもくれもない。どことなく残念臭の漂う稀代の大悪魔を見る。

 次元の狭間がどれくらい昔からあったか、正確な年代を知る法はない。とはいえ、相手は一個の世界である。途方もない年月が経過しているのは間違いないだろう。万か、億か、それ以上か。

 どう考えても、常軌を逸しているのは間違いない。

 

「それで、人材ハンターの血が疼きましたか。坊ちゃん」

「まあ、な。色々な意味でレア物だろう? 幻月(こいつ)は」

「確かに珍しいですね。色々な意味で」

「だろう? さてと、だ……どうだろう、幻月? 我が眷属とならないかね……? なあに、簀巻き以上の待遇は保証するさ……」

「簀巻き以上って言われても、安心出来ないわよ」

「それもそうだな……なに、最低限の待遇という奴だ」

「やっぱり乱暴するんだ! エロ同人みたいに! えーん」

「なぜその発想にたどり着く……」

 

 そして白々しいまでの嘘泣きである。

 子供だって騙せないだろう、程度の低い泣き真似であった。

 

「子供の俺に何を求めているんだ……」

 

 ライザー現在十歳。普通とは言い難いが、子供だ。

 ……一応。一応である。

 

「おねショタ……むむ」

「………………」

「いやーん、鬼畜ショタに犯されるーッ!」

 

 どういう思考回路をしているのだろうか。

 

「閣下。ただちに許可を。これを消し飛ばしていいという許可を。許可をください、閣下。どうか私に下さいませ」

「落ち着け……アシュタロス」

「しかし閣下……」

「俺は、落ち着けと言っているんだ……」

「は、閣下」

 

 我を取り戻したアシュタロスが臣下の礼を取る。

 

「そんなにやってほしいなら吝かではないが……」

「ひえ!?」

「か、閣下!?」

「……冗談だ」

 

 どうやら迂闊に冗談の一つも言えないらしかった。

 常にシリアスな雰囲気を醸し出しているライザーである。どんな言葉も、凄味があるのだ。

 

「さて、どうする? 幻月。我が眷属とならないか? そう、俺は問うているのだ……その能力、手放すには惜しいのでな……」

「能力だけなのかしら? 私の価値って……」

「今はまだ、な。それ以外に評価出来る点を、俺は知らん」

「むむむ。あなたと一緒なら楽しいのかしら?」

「楽しいぞ。いずれ俺は全てを統べる者だからな」

「退屈しない?」

「退屈とは殺せるものだ。約束しようじゃあないか」

「うーん……」

「今なら好きな駒を選ばせよう。『女王』、『僧侶』『騎士』……どれがいい」

 

 テレビショッピングのようなダメ押しである。

 しかし、幻月にはちょっとした効果があったらしい。

 

「お馬さんがかわいいわね」

「『騎士』か。お前に合うかどうかは微妙だが」

 

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』にはそれぞれ役割に準じたブーストがかかる特性というものがある。その中で、『騎士』は速度が上がるというものだが、強力な魔力に物を言わせている幻月との相性はお世辞にもいいとは言えなかった。

 とはいえ、約束は守るというのが信条のライザーである。『悪魔の駒』による増強の恩恵は、高位の悪魔になるほどその効果が低くなるものだ。『騎士』も『戦車』もさして変わりはないかと考え直す。

 

「後悔はするなよ、幻月」

「別にいいわよ、楽しませてくれるんでしょう?」

「そうだ。遊びが待っている」

「さあ、どんと来なさい!」

 

 『騎士』の駒が幻月に吸い込まれる。

 悪魔史上最も騎士らしくない『騎士』誕生の瞬間であった。

 

「仲間になったんだから、これ解いて欲しいなーって」

「ああ、構わん。セバスチャン、解いてやれ」

「かしこまりました、坊ちゃん」

 

 セバスチャンが術式を解除する。

 

「ああ、言い忘れたが――」

「よし、これで晴れて自由の身! 楽しいことがあったら呼んでねー」

 

 幻月の姿が消えた。

 その様を初めて見たセバスチャンは、なるほど、と頷く。

 

「――呼び出せるんだなあ、これが」

「あれ?」

 

 魔法陣とともに、幻月の姿が現れた。『悪魔の駒』の機能の一つ。王のみができる、眷属の呼び出しである。

 

「聞いてないわよ!」

「言っただろう。言い忘れたと」

「言い忘れなら仕方がないですね、坊ちゃん」

「ああ、全くもって仕方がない。そうとは思わんかね、幻月」

「し、仕方ないわねー」

「仕方ない、仕方ない。さて、幻月」

「はひ」

「アシュタロスが何か言いたいことがあるらしい」

「こっちに来なさい。痛い目には合わせないから」

 

 にっこりとした顔がまた恐ろしい。やけに優しい言い方なのも尚更である。お約束のように、目は笑っていなかった。

 

「ひーん」

 

 ずるずると引きずられていく幻月。

 彼女がアシュタロスになにをされるか。それを考える者はいなかった。ただただ彼女の無事を祈るばかりである。

 

「しかし、坊ちゃん中々変わった――いえ、らしくない人選じゃあ、ありませんか?」

 

 そうかね、とライザーは呟く。

 

「反ライザー・フェニックスとまでは言わずとも、ある程度俺の思い通りにならないタイプが必要なのだ……お前たちは俺に対し、少々好意的過ぎる……」

「褒め言葉として受け取っておきましょう。しかし、アンチライザーと言えば、『戦車』がいるじゃありませんか。ドラゴンじゃない方の」

「奴は刑期(バカンス)の真っ最中だろう」

「規定の刑期はとっくに終わっていますよ。ただ、突発的に看守を殴り飛ばしているから延長戦にもつれ込んでいるだけで」

「やれやれ。どうにかして恩赦を引きずり出すしかないか……?」

 

 ライザーはサーゼクスに恩を擦り付ける算段を立て始める。借りは山ほどあるが、恩赦を出させるほどのものはない。

 いかに魔王といえども、流石にそうほいほいと出せるようなものではないのだ。

 特に、今の冥界の状況では難しい。サーゼクスの握っている権力はさほどのものでもないのである。

 加えて上層部がいい顔をしないだろう。上層部の中には、ライザーの存在を危険視するものもいる。何せ、十歳児らしからぬパワーと眷属を持っているのだ。戦力の一極化とも言える異常事態に対し危機感を持っているものが一定数いることも、恩赦の引き出しを難しくする要因の一つであった。

 

「彼はいない方が平和なんですがね……後片付けをするこちらの立場にもなってください、坊ちゃん。ユーベルーナの胃に穴が空きますよ」

「だが、あれも我が眷属よ……問題が多過ぎるがな」

 

 もっとも、問題が少なければ、それはそれで眷属に勧誘したかどうか微妙なラインであったが。

 

「閣下、戻りました」

「ふむ、お疲れ……とでも言えばいいかね……?」

「いえ、特に苦労は」

 

 むしろ肌ツヤが良くなっているアシュタロスである。

 対して幻月はといえば、少々やつれていた。何があったかは推して測るべし。

 

「うう……なんだか騙された気分だわ……鬼ぃ……悪魔ぁ……」

「お前も悪魔だろう」

 

 にべもない。

 

「俄かには信じられませんね。彼女がムゲンの力を持つとは」

「正確には夢幻を生み出す程度の能力よ。まあ、妹がいてやっと一人前なのだけれど」

「妹?」

 

 妹がいることよりも、二人で一人前というところが気になるライザーであった。なにせ、自身の反則じみた能力を使ってやっと有利に運べた相手が半人前だという。

 伊達に長い月日を過ごしてきたわけではないらしい。幻月への評価を上方修正するライザー。

 

「夢月っていうの。どうせならそっちの面倒も見てくれないかしらね」

「いいだろう。一人も二人も変わらん……」

「ありがとう王様」

「礼には及ばん……臣下には相応の待遇を施してこその王故にな……」

 

 じゃあ今度呼んでくるわねーと言う幻月を、ライザーは眺める。

 どうにも、読み辛い。幻月との戦いは、彼女の中では遊びでしかなかった。本気でもなければ、全力でもない。しかし、ライザーは隠し玉を出すことで有利に運んだ。逆に言えば、素の戦闘力だけで見れば、勝てたかどうかも微妙なラインなのである。

 弱いわけではない。夢幻を生み出す程度の能力。その気になれば世界を作り出せるほどの特殊能力を持ちながらたった『騎士』一駒ぽっちで済んだのも、奇妙な話である。ライザーの器を鑑みて妥当であると『悪魔の駒』が判断したのだと言われればそれまでではあるが。

 もしくは、開発者の言うところの隠し要素か。

 なんにしても、面白い。ライザーの顔面に喜悦の色が広がる。

 

「坊ちゃん、中々恐ろしい顔になっていますよ」

「ククク、未知とは面白いものだと、そうは思わないかね、セバスチャン……」

「そうですか?」

「そうとも。俺がまだ知らぬものよ……! まだ俺の至らぬものよ……! これが面白くないわけがないだろう……?」

「普通は、未知というものを恐れるものですよ、坊ちゃん。人間に限った話ではありません。知的生命体とは、己の認識外のものを、理解出来ないものを拒否し、拒絶するものです。未知とは何者にも照らせぬ暗闇。本能に刻まれた原初の恐怖の一つです」

「恐怖とは、克服できるものだ……! セバスチャン」

「はい」

「恐怖を克服することこそが、生きることなのだと俺は思う……世界の頂点に立つものとはッ! 恐怖を克服しようとするものッ! 恐怖に立ち向かう瞬間、我々は暗闇に一つの灯火を持つ。その崇高な輝きを持った時こそが、最も生きている時なのだッ!」

 

 ライザーの背に、人型の靄が現れる。何者かわからぬそれは、しかし、ライザーの放つ圧倒的な威圧感の中、実に良く馴染んでいた。

 

「俺のボディは生まれつき、老いることも、死ぬこともない。老いを遠ざけ、死を廃したくだらぬ身体よ……だが、それでも恐怖はどこかに存在するッ! それが喩えちっぽけなものであっても、俺は見逃さないッ! 超えなくてはならないのだッ! この手で、この足で、この身体で、我が魂でッ!」

「それでこそ、坊ちゃんです。ええ。間違いなく、我らが主君、我らが王でしょうとも」

 

 その貫禄たるや。彼が魔王でないことがおかしいほどのものであった。

 誰も彼もを平伏させるような、堂々たる気迫。幻月ですら、思わず臣下の礼を取ってしまうようなカリスマ。

 ライザー・フェニックスの在り方がそこにはあった。

 

「さしあたって、だ……貴様は何者だ」

 

 ライザーが部屋の一点を指差した。

 そこには少女が一人いた。ゴシック・ロリータ調の服を纏う、黒髪の少女だ。フェニックス家のメイド、ではない。全くの初対面の少女である。

 表情は無い。何を考えているのか、否、何も考えていないのかすらわからない、無表情だ。

 少女からは異質さが感じられた。その少女だけが、周囲から浮いているように見えるのだ。そう、まるで、この世のものではないかのように。

 

「我 オーフィス」

 

 抑揚のない声で、少女は名乗った。

 

「……オーフィス、だと? 『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』と同じ名だな」

「違うわよ王様。彼女がイコール『無限の龍神』なのよ。女の子の姿してるなんて、初めて知ったけど……」

「ほーう。それはそれは」

 

 幻月からの言葉を聞く前から、ライザーはもしかしてと、そう思っていた。

 それほどまでに。彼女の存在感は異質であったのだ。纏う雰囲気が、あまりにも違い過ぎる。

 それは、ムゲンであるが故であろう。この世界におけるムゲンと称されるものは、二つの種類がある。今はライザーの『騎士』に落ち着いた幻月と『真なる赤龍神帝』グレートレッドが属する夢幻か、『無限の龍神』オーフィスが象徴する無限か、である。

 『無限の龍神』オーフィス。およそ生命的とは思えない無限を冠する彼女は、どこか、生物らしさというものが欠如していた。

 欠落しているのである。

 

「それで? 彼の『無限の龍神』殿は、なぜ俺の下に来たのだ……?」

「『夢幻の悪魔』が次元の狭間から消えた。何故?」

「俺ではなく、お前に用があった様だな、幻月」

「悪い悪魔に騙されたのよ」

 

 よよよと嘘らしく泣き崩れる幻月。しかし、オーフィスはそう、と言うだけであった。無関心、無感動。

 本当に幻月のことが気になってやってきたのか疑問に思うほどの無関心ぶりである。

 

「我 疑問」

「何がかね」

「何者?」

 

 すっと、ライザーを指すオーフィス。

 

「我に近いモノ。何者?」

「近い、か……『無限の龍神』相手にそう言われるとはな……」

「オーフィスに近い? 全然そんな風には見えないけど」

 

 幻月は言う。

 

「否、オーフィスは正しいのかもしれん。我が性質は不老不死。我が本質は立ち消えぬ炎。無限の焔よ。そういう意味では近いのだ……『無限の龍神』とはな」

「坊っちゃんはフェニックス家の中でも頭ひとつ抜けた不死性を持っていますからね」

 

 その強烈なまでの不死振りは、バアル家の滅びの魔力に真っ向から歯向かうことの出来るほど。しかも、彼の超越者足るサーゼクス・ルシファーと拮抗することが出来るのだ。それがどれだけ出鱈目なことであろうか。

 滅びを受けて尚、再生を繰り返す戦い。滅びと再生の堂々巡りにより付かぬ戦い。

 再生という反則級の力は、なるほど確かに無限と通ずるものがあった。もっとも、同じではないのだが。

 

「我 要求」

「このライザーに、要求を突きつけるか……『無限の龍神』よ」

「グレートレッドを斃して欲しい」

「フハッ」

 

 ライザーの口が弧を描いた。

 獰猛な、獣のような笑み。凄絶であった。

 

「フハハハハ、ハハハハハハハ! 聞いたか貴様ら! 聞いたか我が眷属よ! 奴の言葉を聞いたか! 『無限の龍神』直々に『真なる赤龍神帝』を討ち倒せとそう言ったぞ! 幻月! お前のご同輩たちは随分と愉快な性格をしているじゃあないか」

 

 パンパンと手を打つライザー。手と手が触れ合う度に、フェニックスの炎が飛び散った。

 

「オーフィスはグレートレッドを敵視してるのよ……なんでかは知らないけど」

「そう、なぜだ。出来んとは言わん……次元の狭間などという高次元を住処にする化物を殺し、お前は何を得る? 『無限の龍神』よ」

「真の静寂を」

「真の静寂だと……?」

「我 求める。真の静寂を。その為にはグレートレッドは邪魔」

「静寂か……くだらんな」

「なぜ?」

 

 ガラスを埋め込んだような瞳が訊く。気分を害したとか、そういうものではない。ただ、純粋に訊いたようであった。

 どこまでも澄んだ無であるオーフィスを、ライザーは見る。

 

「真の静寂を得て、貴様は何を得るつもりだ? 『無限の龍神』よ」

「何も」

「ほう?」

「真の静寂さえあれば、我は何もいらない。真の静寂が 我の望み」

「そぉ~~~か。俺とは相いれんようだな」

 

 ばっさりと、ライザーは断ずる。

 

「限りなき有と同じように、限りなき無など俺にとって価値はない。お前の提案は、俺には旨味が皆無だ……『無限の龍神』よ。無為なのだ……」

「我 求める真なる静寂」

「邪魔はせん……目指すがいい。それが貴様の目的であるのならば。だが、俺は協力もせん」

 

 拒絶である。二天龍をすら上回り、格で言うのであれば、ミラボレアスの更に上位存在であるオーフィスの誘いを、蹴り飛ばした。

 

「『無限の龍神』オーフィスよ……貴様は無だ。何も無い、空っぽだ。無で構成された虚数の存在よ……純粋な子供のようでもあり、しかし枯れ果てた老人のようでもある。純粋な無は確かに美しい……! だが、それ以上に、無しか有せぬお前は憐れなものよ……有の儚さを知らず、永劫の無を欲する貴様は無常の存在よ……」

「……? 我 わからない」

「だろうな……貴様の価値は俺の価値と全く異なる」

「そう」

 

 オーフィスの姿が消えてゆく。どうやら、この場から離れるらしかった。最初から最後まで、無表情のまま、去ってゆく。

 やがて、その姿が完全に消えた時、口を開いたのはセバスチャンであった。

 

「よかったのですか、坊ちゃん」

「何がだ」

「いえ、いつもの坊ちゃんならば、勧誘の一つでもしていたじゃあありませんか。ましてや相手は彼の『無限の龍神』オーフィス。人材コレクターの坊ちゃんなら喉から手が出るほど欲しいのでは? 特に夢幻の月を手に入れた今ならますます」

「ああ。欲しいな……だが、あれはしばらく放っておいた方がいいとは思わんかね」

「そうですか? 『真なる赤龍神帝』を斃すだなんて、それこそ夢幻のような話のような気がしますが」

「ええ。セバスチャンの言うとおりです、閣下。夢幻と無限……異なるムゲン同士の衝突など……」

「あれは俺に『真なる赤龍神帝』を討って欲しいと言ってきた。だが、見ただろう? あれは無垢な子供そのものだ……考えが浅い。自分の力ではダメ。俺に頼んでダメだったらどうすると思う?」

「そうですわね……諦めるか……他の者に頼むか……っ、閣下、まさか!」

 

 アシュタロスは、ある考えにたどり着く。

 

「俺以外に同じ要求を突き付けるだろうな。強いモノに手当たり次第かもしれん……時代が動くかもしれんぞ」

「うわあ、あくどい……」

 

 幻月は思う。とんでもないものの下についてしまったかもしれないと。

 

「まあ、確率はそう高くはないだろうがな……出来れば出来るだけ世界を引っ掻き回してくれればいいものよ」

「魔王になるための一手、ですか」

「一手などという高尚なものではないさ……今度逢う時が楽しみだ……」

「会えるのですか?」

「奴は俺を同じムゲンだと言った……ならば! 運命がそうさせるだろう……」

 

 楽しみだと、ライザーは言った。

 

 




Q 幻月の扱いが……
A コメディリリーフ。シリアスなライザー眷属の清涼(?)剤

Q もうひとりの『戦車』は?
A また今度。反応はお前かよwwwになりそうな予感。コメディリリーフ2nd。しばらくお待ちあれ

Q オーフィス味方にしようぜ
A 現在のオーフィスは親ライザーにも反ライザーにもならない無であるため、食指が動かなかった様子

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