不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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 キョダイリュウ ノ ゼツメイニヨリ デンセツハ ヨミガエル

『――ザッザザッ――イザ――』

    数多の飛竜を駆遂せし時 伝説はよみがえらん

『ライザー! 聞こえているか、ライザー!』

 数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時 彼の者はあらわれん

「どうかしたかね。サーゼクス。君らしくもない」

    土を焼く者 鉄を溶かす者 水を煮立たす者

『特S級のドラゴンがフェニックス領に侵入した可能性がある!』

    風を起こす者 木を薙ぐ者 炎を生み出す者

「嗚呼、知っているよ、サーゼクス……」

            その者の名は

           「ミラボレアス」

         その者の名は 宿命の戦い

『なぜその名を……!』

         その者の名は 避けられぬ死

「なぜって? 簡単なことだ――」

     喉あらば叫べ 耳あらば聞け 心あらば祈れ

『まさか――!』

   ミラボレアス 天と地とを覆い尽くす 彼の者の名を

「そいつは今、俺の目の前にいる」

   天と地とを覆い尽くす 彼の者の名を 彼の者の名を



不死鳥と舞い降りる伝説

「さあ! 祭りの時間だぞ、サーゼクス! 転移魔法でも使ってここに来い!」

「もう来ているよ……やれやれ、君はどうしてこうも厄介ごとに巻き込まれるのが得意なんだ……いや、巻き込まれに行っているというべきか」

 

 フェニックス領に存在する、火山。その火口に、二つの人影がある。一人はサーゼクス、そしてもう一人はライザー。

 マグマの渦巻く活火山の中、それぞれ悪魔の翼と炎の翼を広げ、飛んでいる。

 

「山が静かだったからな……大山が鳴動するよりも、不気味なほどの静けさの方が、得てして危険というものだ」

「趣味は山登りだったね。君」

「何がどう転ぶか分かったものではないな――さて、問題は、こいつをどーするかということだ……」

 

 二人の眼前には、一体のドラゴンがいた。

 四本の角を頂き、紫黒の鱗に包まれた禍々しき黒き龍。長大な首と尾はどことなく蛇を思わせ、飛行能力の高さを思わせる、威厳に満ちた、巨大な翼が一対。

 その瞳は殺戮に飢え、その牙は肉を欲し、その舌は血を啜る。

 見るもの全てに恐怖を思い出させる。

 怒りによって、圧倒的邪気を振りまく、厄災。

 

 ――黒龍 運命の闘争 ミラボレアス

 

 悪魔たちをも震え上がらせる、伝説の黒龍が、火口のマグマに浸かっている。

 

「キィィァアア――」

 

 ミラボレアスが天に向かい、吠えた。その威圧は、ビリビリとライザーたちの身体を震わせる。

 彼のドラゴンは、人語を語らない。なぜならば、語る必要がないからだ。

 己以外の存在を拒絶し、厄災の力を振るい、世界を焦土に変える。それこそが黒龍。それこそがミラボレアス。

 

「なぜ、そんな化物がこんなところに来たのか……理由は勿論、あるんだろう? サーゼクス」

「ああ……全く情けない話だが、私が原因とも言えなくもない」

 

 冥界に潜む、太古よりその姿を確認される強大な龍、ミラボレアス。その存在は、冥界に縁のない堕天使や天使たちでも、知っているような、そんな化物じみたドラゴンであった。

 偶々冥界に居を構えているというだけで、いつどこに侵攻してもおかしくない、全勢力の敵と成りうる大敵の化身。二天龍に勝らぬとも劣らぬ、最凶にして最強クラスのドラゴン。

 その『脅威』に対し、上層部の悪魔たちが行ったのは、大掛かりな、しかし秘密裏の、ミラボレアス討伐戦であった。勿論、世界のため冥界のためという清らかな理由だけではない。様々な権謀術数が混ざり合った結果、起こった出来事である。

 魔王であるサーゼクスまで駆り出しての作戦だったのだが――

 

「手傷は負わせたものの、逃げられてしまってね……こうして、ここに来てしまったということさ……」

「なるほど、雰囲気が穏やかじゃあないわけだ……見ろ、サーゼクス。奴の身体を」

「む、これは……」

 

 ミラボレアスの体色が変化してゆく。黒から紅へとその姿が変わる。火山の圧倒的な力を吸い込んでいるかのようであった。

 否、己のものにしているのである。大地の血脈を自身の支配下に置いているのだ。

 

「どうやら俺たちは互いにアカというものに縁があるようだな。サーゼクス」

「全く、驚きだ。黒龍――否、紅龍というべきかな……ここに来て更に力を増強するとは思ってもみなかったが」

「臆することもあるまい」

「援軍は期待出来ないよ」

「俺とお前が手を組んでいるんだ……勝利以外の結果があると思うかね?」

「違いないな」

「さあ、奴も準備万端のようじゃあないか」

 

 再度、紅龍ミラボレアスが吠える。天に向かい、その咆哮は発せられた。

 

「ォォオオォオオオォォオ――」

「威嚇か? ……いいや、違うな、違う……」

「ああ、これは――来るぞ! ライザー!」

「応」

 

 空から。空である。ぽっかりと空いた天から、何かが降ってくる、それは、炎の塊であった。人一人分ほどの火炎弾が、無慈悲な雨となって幾重にも降り注ぐ。

 

「滅殺の魔弾!」

 

 サーゼクスが直撃コースの火炎弾を消失させる。残った火炎弾はマグマの中へと沈み、そして爆発を起こした。

 

「なんとも熱いことだ……」

 

 属性としての炎を持つライザーはマグマなどどこ吹く風であるが、サーゼクスはそうはいかない。いかに悪魔といえども、多少不快にはなる。

 

「なんなら帰ってもいいぞ。サーゼクス」

「まさか。友一人を置いて尻尾を巻くわけにもいくまい……と、来るぞ!」

「見えているさ」

 

 ミラボレアスが一つ、羽ばたいた。途端である、その巨龍の羽ばたきは、熱の風を生んだ。触れるもの、通るもの全てを灰燼と化す焔の暴風。

 

「フン……」

 

 ライザーは空間に線を引くように手を滑らせる。すると、その線をなぞるように爆発が起きた。連鎖的に起こる爆発が、熱風を相殺する。

 

「やはり炎同士、相性がいいみたいだね」

「相性が悪いとも言うがな……俺に効き目が薄いように、やつにもまた、フェニックスの炎は有効打足りえん。つまり、素手だな」

「君は、たまに脳筋になるな……」

「単純さこそが最適解なときもあるのだよ、サーゼクス。そら来るぞ」

 

 ミラボレアスが首を振る。辺り一面をなぎ払う火焔の螺旋が二人を襲う。

 

「頑張って相殺したまえ」

「……やれやれだ」

 

 ライザーが半球型の炎の壁を作りだせば、螺旋の炎がそらされた。

 結果、行き場をなくした攻撃が岩壁をえぐることとなる。

 

「早く全開になればいいだろう……『あれ』を使えばいいじゃあないか」

「『あれ』はタメが必要なんだ。準備している間に頭からバクリといかれそうだね……変身シーンでは攻撃をしないなんてお約束、彼が守ってくれるように見えるかい?」

「なに、そのときはフェニックスの涙をくれてやる」

「それは私がばくりとされる前提じゃないか! 痛いのはいやだ!」

「貴様……注射が苦手なタイプだな……」

「シロップでお願いしよう」

「却下だ」

 

 注射は病気を治すものだが、ミラボレアスはそんな生易しいものではない。

 

「攻撃を受けないというのは正解かもしれんな。見ろ、サーゼクス」

「これは……!」

 

 ライザーの右腕が炭化していた。真っ黒になった腕から、ぶすぶすとどす黒い煙が上がっている。

 

「完全には逸らせなかった……それがこの結果だ」

「ライザー!」

「喚くな……これは我が未熟の体現よ……」

 

 傷の治りが異様に遅いことに、ライザーは気づいていた。腕が消し飛ばされても瞬時に修復する身体だというのにだ。

 無二の治癒力を持つフェニックス足るライザーであっても、この有様である。サーゼクスが言うように頭からガブリとやられれば、ひとたまりもなかっただろう。

 

「呪いか毒かはわからんが、奴はよほど誰かを殺したいらしい」

「全存在の敵、というのは伊達ではないということか」

「ふん。だが、それでこそではないかね、サーゼクス……俺は俄然、やる気というものが出てきたぞ」

「君も大した戦闘狂だな」

「これでもマシな方だと自負している……我が眷属と較べればな」

「君の眷属と同列に語れるのは問題だと思うよ」

 

 ライザーの眷属は物騒なものたちばかりである。彼らを配下に持っているライザーもまた、戦闘の魔力に魅入られた側なのだろう。

 

「キィィィ」

 

 ミラボレアスの翼が広がる。その羽ばたきは、爆風を呼び、マグマの沼に波紋を起こし、波となる。

 そして、ミラボレアスの巨躯が飛翔した。

 長い身体をうねらせながら、その龍は不死鳥を狙う。

 噛みちぎるための突進であった。鋭利な歯が何よりも雄弁に物を語っている。

 

「――っ」

 

 ミラボレアスの突貫を、ライザーは右腕を犠牲にすることによって、やり過ごした。

 ライザーは痛みではなく、全く違う感情で、顔をしかめる。

 

「ちい……飛行能力が不足している……克服しなくては……」

 

 ライザーは飛行というものが苦手であった。前世とは全く違う器官に、戸惑っていたと言ってもいい。いくらなんでも、前世で背中に翼の生えたことなどない。無論、なんでも出来るライザーのことだ。人並み以上には空を飛ぶことが出来る。

 しかし、空を自由に駆けるフェニックスとしては一歩劣り、熟練の悪魔であるサーゼクスには及ばない。その事実をミラボレアスは見抜いていた。

 即ち弱者であると、そう判断されたことにライザーの内心からふつふつと怒りが湧いてくる。

 まだミラボレアスの敵意はライザーに向いている。逆襲せねば。それがライザーの考えであった。

 

「来るがいい……今度はそう上手くはいかんぞ」

 

 ライザーの背負う炎の翼が一回り膨張する。

 

「逃げはせん……! 我が反撃よ!」

 

 そして、デッドヒートが始まった。赤の閃光と、紅の軌跡が追い、追われる。時には絡み合い、時にはぶつかり合い、時には炎弾が飛び交う。

 マグマに落ちるか否やのところでは、あまりの速度に、マグマに轍が出来た。

 

(全く、なんという爆発力だ……ちょっとした苦境から数段上に一気に駆け上っているじゃあないか)

 

 空を飛ぶドラゴンと互角に渡り合うというのが、どれだけのものか。先日までのライザーならばそんなことは出来なかっただろう。

 たった数手で格段に強くなるライザーに、サーゼクスは舌を巻く。まるで、人間のようではないか。それがサーゼクスの正直な思いであった。

 

(ライザーに気が向いている内に眷属たちを……)

 

 呼び出そうとした瞬間であった。赤い粉塵がサーゼクスの周りを漂っている。

 

「――ッ!」

 

 考えるよりも先に飛び退っていた。

 サーゼクスのいた空間が、爆破された。

 爆風によって靡く髪を押さえながら、サーゼクスは呟く。

 

「やはりそう簡単にはいかないか……!」

 

 ミラボレアスは知っている。数の利というものを。

 それによって、己は追い込まれかけたということを理解していた。

 二天龍もまた、数の差で敗れ去り、神器へとその身を墜とされた。

 なんとくだらぬことか。ミラボレアスは激昂する。

 その怒りはマグマを滾らせ、雷を呼び、空に黒球を現出させる。

 

「よそ見をするとは……随分と余裕じゃあないか」

 

 ライザーは一瞬の隙を見逃さない。ライザーの姿は、ミラボレアスの頭部にあった。

 角を掴み、ミラボレアスに跨る。

 

「オォォオォオオ!」

 

 長い首がしなり、ライザーを振り落とそうと、出鱈目に暴れるミラボレアス。だが、ライザーは落ちない。余波で岩壁が崩落しようとも。マグマの沼がめくれ上がろうとも。

 

「サーゼクス!」

「滅殺の魔弾!」

 

 『滅び』の力を圧縮した魔力弾、サーゼクスの十八番であるそれが、ミラボレアスを貫く。

 

「キィァァアア!」

「効き目が薄い……やはりレジストしたか」

 

 ミラボレアスがもがく。だが、ライザーとサーゼクスが思ったほどのダメージは与えられていないようであった。

 馬鹿げた抗魔力があるからか。サーゼクスは冷静に分析をする。

 

「なるほど。それでは――」

「腕も治った……俺の出番というわけだ」

 

 ライザーは角を掴む手に、思い切り力を込める。魔力は使っている。肉体強化という面でのみだが、これならば抗魔力のことなど考えなくてもよい。

 ぴしり、と罅が入った。

 

「オラァ!」

 

 砕け散る、ミラボレアスの角。

 

「ォォオオォオォオ――!」

 

 龍にとって角とはもっとも重要な器官の一つである。それが壊されたことで、ミラボレアスは限りない痛みと更なる怒りを現出させる。

 だが、その程度では終わらない。ライザーの攻勢は未だ始まったばかりなのだ。

 

「歯を食いしばれ……ドラゴンよ!」

 

 ミラボレアスの頭から飛び降りたライザーの拳が唸りを上げる。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 そのラッシュはあまりにも力を入れすぎた。

 肉が潰れ、骨が砕け、筋肉が裂ける。

 限界を越えた大攻勢。それでもライザーは続ける。殴り続ける。普段の狡猾さを捨て、ただ愚直に殴り続ける。

 

「これでお仕舞いよ……オラァ!」

 

 ミラボレアスの顔が歪む。

 

「やったか……?」

 

 ぽつりとサーゼクスが呟く。だが。

 

「チィ」

 

 ミラボレアスは、ライザーを『睨んでいた』。

 ライザーの身体が吹き飛ぶ。鞭のようにしなる尾が強かにライザーを打ったのだ。ただの打撃と思うなかれ、岩壁にライザーをめり込ませるほどの威力を持つ強烈な一撃であった。

 

「無事か! ライザー!」

「俺の心配よりも、自分の心配をすることだな、サーゼクス!」

 

 岩壁に着地したミラボレアスの口から、炎が迸る。牛を丸々一頭呑み込めるほど開かれた口から覗くもの。それは巨大な火炎弾であった。

 

(滅殺の魔弾……いや、あれの方が速い!)

 

 一瞬の逡巡が生んだのは、決定的な隙であった。

 サーゼクスの視界がスローモーションになる。

 眼前に広がるのは劫炎の塊。

 圧倒的な死。

 そして――

 

「馬鹿者!」

 

 ドン、とサーゼクスは押された。

 誰に? ライザーにだ。

 ゆっくりと流れる時間の中、サーゼクスは、ライザーが爆発に巻き込まれるのを見た。見てしまった。

 

「ライザァァアアア!」

 

 火山全体を揺らすような大爆発が起きた。その後には、何も残っていない。塵一つ舞っていなかった。

 

「キィアァアア」

 

 歓喜なのか、ミラボレアスが吠える。だが。

 

「どこに向かって言っている。誰に向かって言っている。俺はここだ、サーゼクス」

 

 その声には聞き覚えがある。

 サーゼクスの背後から聞こえるその声は。

 意を決し、サーゼクスは振り返る。そこには、ライザーが飛んでいた。傷は一つもない。

 

「なに!? だが、今……」

「俺はここにいる。それだけが真実よ」

「いや、君には驚かされる」

 

 深く考えることはしないサーゼクスだった。

 

「この程度で俺が死ぬものかよ……」

「そうかね。まあ、君が死ぬところなど、想像も出来ないな」

 

 不死鳥であるという前に、こいつは死なない。そんな雰囲気がライザーにはあった。現実に、今ここで起こったことは最たるものである。

 

「さて、少し思いついたことがある。半ば賭けだが、乗るか? サーゼクス」

「乗るに決まっているだろう、ライザー……と」

 

 二人の間を、火球が飛び越えていった。

 

「サーゼクス! 滅びの力を俺に向かって全開で打て!」

「了解した」

「俺から提案しておいて難だが……それでいいのかね? 躊躇をしなくて」

「なに、我が友の言うことだ。全力で応えるまでさ。信頼しているぞ、ライザー!」

「全く、甘い奴だ……! 俺がアクションの後、だ。タイミングはお前ならわかるだろう……」

 

 グツグツと滾るマグマを、ライザーは見る。

 

(話に聞いたときは、冗談かと思ったものだが……こうして自分でやることになるとはな……あの時は、増幅器があったのだったか……)

 

 ミラボレアスが動く。

 

(イメージしろ……! 『不可能』とはッ! 弱者の世迷いごとッ!)

 

 龍のアギトが、眼前まで迫る。

 

(イメージしろ……! 『可能』とはッ! 出来て当然のことッ!)

 

 サーゼクスは動かない。ライザーを信頼しているからだ。

 

(イメージしろッ! この俺に出来ぬ事などないのだッ!)

 

 ライザーの右腕に緋色の炎が宿る。

 

(フェニックスの炎……ではない! むしろ神聖さすら感じる炎! それを、ライザーは纏っている!)

 

 サーゼクスは驚愕した。自分の知っているフェニックスの炎とは全く異なる炎を、ライザーが扱っていることに!

 

「さあ、いくぞ!」

 

 ライザーの拳が、ミラボレアスに突き刺さる。そしてそのまま、火山へと振り抜いた。刹那、緋色の光線が溶岩に向かい、天地を繋ぐ柱となる。

 

「緋色の波紋疾走!」

 

 ミラボレアスの巨体が、溶岩の中に叩き込まれる。水柱ならぬ溶岩の柱が立った。

 シンッ、となる火口。

 しかしそれは束の間の静寂であった。

 まだ終わっていない。圧倒的なプレッシャーはそのままだ。

 

「……来たか」

 

 マグマの中からミラボレアスが飛び立つ。ドロドロとした溶岩が紅く染まった外殻を滑る。翼を広げ、叫び声のような咆哮を上げる様は、世界の終わりを彷彿とさせた。

 しかし、ライザーが待っているのはこれではない。

 それは、すぐに動き出した。

 腹の底に響くような、重低音が響き渡る。

 揺れていた。火山全体が揺れている。

 

「いくぞ……」

 

 ライザーが不死鳥の炎を纏う。

 ここだ。サーゼクスは何の戸惑いもなく、そう思い、実行した。

 

「ゆけ、滅びの力よ!」

 

 瞬間である。溶岩が膨れ上がった。そして、爆発した。

 否、それは爆発ではない。噴火である。

 緋色の波紋疾走によって刺激された火山が、噴火を起こしたのだ。その莫大なエネルギーを、ライザーは取り込み、己の力へと変換する。

 

(フェニックスの焔と火山の噴火、そして魔王の滅びの力を! この身に!)

 

 取り込む、取り込む。ライザーの姿は最早、一つの焔と化していた。それは、サーゼクスの『あれ』、滅びそのものとなる法と類似しているが、その実はまるで違う。サーゼクスは内側に求めるのに対し、ライザーは外側に求めている。どこまでも貪欲な姿であった。

 

「征くぞ、ドラゴン! 滅日の紅焔を受けるがいい!」

 

 ライザーが、翔ぶ。紅焔となったライザーは、弾丸よりも尚速い。

 ミラボレアスは理解していた。その一撃が、自らの心臓に届くということを、本能でもって悟っていた。

 明らかな回避行動を取ろうとするミラボレアス。その動きを、ライザーは見逃さなかった。

 

「アーカード!」

「拘束制御術式 第三号 第二号 第一号 開放……状況A『クロムウェル』発動による承認認識 目前敵完全沈黙までの間 能力使用限定解除開始」

 

 僅かに残るライザーの影に、無数の目が現れる。形となった影が、ミラボレアスを絡みとる。

 

「キィイィイイアアアア!」

「あああああッ!」

 

 その衝突は、地を揺らし、山を崩した。

 

 

 ――○●○――

 

 

「やれやれ、どんだ無茶をするな、君は」

「それほどでもないさ」

 

 山だった場所で、ライザーは仰向けになって転がっていた。

 そんなライザーに向かい、やれやれとサーゼクスは首を振る。

 

「それにしても、ちゃっかり眷属がいたんじゃあないか」

 

 赤コートを身に纏ったアーカードが、ライザーの傍らに立っていた。

 

「切り札はベストなタイミングで切るからこその切り札だ」

「私が切り札かね、オウサマ。随分と大掛かりなことをしたじゃあないか」

 

 フェニックスの炎、火山の噴火、滅びの魔力の三種を利用した特攻。とてつもない破壊力を叩き出したが――

 

「さすがは滅びの魔力……ここまで再生に時間がかかるとはな」

 

 ライザーは上半身のみとなってしまっていた。下半身は消失している。肉体が耐え切れなかったのだ。

 

「アーカード、黒龍はどうなった」

「大したものだ……恐ろしいことに、まだ息がある。トドメを刺すか?」

「そうか……まだ生きているか……」

 

 ずりずりと動き、倒れ伏すミラボレアスと目を合わせる。

 

「どうだ、我が配下にならないかね……ミラボレアス」

「………………」

「そうか」

「なんて言ったんだ?」

「好きにしろ、だと」

 

 それが本当なのかは分からない。分からないが、ライザーは本気でミラボレアスを配下に収めようとしているようだった。

 

「それがどんなに無茶なことか……黒龍を手懐けようというのかい?」

「構うまい構うまい。今の時代、これだけの龍は他にはいないぞ」

 

 引く気は全くないらしい。サーゼクスはやれやれと頭を振った。

 

「君の駒だ……君の好きにするといい。ただし、眷属に収められなかったら、分かっているね」

「ふん、貴様、俺を誰だと思っている」

「うーん、下半身があればもう少し決まっていただろうね」

「形無しだな、オウサマ」

「まあ、いい。然らば、だ。ミラボレアス。貴様を我が眷属に向かい入れるとしよう」

 

 ライザーが取り出したのは、戦車の駒であった。

 

「その暴虐なまでの強さ、気に入った。我が手となり足となるがいい、黒龍よ」

 

 悪魔の駒が吸い込まれ、そして。

 龍の雄叫びが世界に響いた。

 

 

 

「とまあ、これがライザー伝説の一つ、黒龍下しだよ、リーアたん」

「そ、そう……」

 

 頭痛いわ。とリアスは零した。

 なんという無茶苦茶。なんという理不尽。実は全てサーゼクスの冗談で、創作であると言われればどれだけ楽であろうか。

 しかし、そんなことはないだろう。

 

「ちなみにライザーが八歳のころだね」

「はあ……」

 

 最早驚かないリアスであった。

 

 

 




ミラボレアス(MONSTER HUNTER)
伝説の黒龍と呼ばれる超ド級のドラゴン。原作では国一つを滅びに追いやったりと、スケールの違う龍として描かれる。
ライザーの手持ちに迎え入れるに辺り、混沌帝龍(遊戯王)と悩んだが、より純粋なドラゴンとしてこちらを採用


Q、結局ライザーの前世って?
A、ジョースターの血族。勿論、原作の人ではない。他にも細々とした設定があるが、それは後ほど

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