不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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えー、身体壊して入院する羽目になりました。まあ、お医者曰くそう大したものではないので、むしろ執筆時間は増えるものかと
ただネット禁止なので、しばらくの間、更新停止します。しばらくといっても何ヶ月ととかは開かない見立てですが

とりあえず最新話をどうぞ


不死鳥と聖剣Ⅲ

 

 放課後。イッセー達はリアスに気付かれないようにこっそりと駒王学園を後にしようとしていた。それはもう、やましいことがあると一目見れば分かるようなこそこそ振りであった。

 幸運であったのは、その様子はリアスの目に入っていなかったということか。

 

「ふう……行こうぜ、木場。ライザーさんを待たせるわけにはいけないし」

「ああ、そうだね」

「……待ち合わせ場所はどこですか、先輩」

「あー……そういや決めてなかったわ」

「それでいいのかよ、兵藤……こちとら会長の目ぇ盗むのにどれだけ苦労したと思ってんだ」

 

 匙が突っ込む。

 

「そんなこと言ったら、俺たちだって部長の目を掻い潜るのにどんだけ精神を削られたかと……」

「いや、俺協力者だからな、一応さ。お前らがどうしてもって言うから参戦してるんだぞ、こっちは」

「立ってるものは匙でも使うんだぜ」

「格言風に言ってんじゃねえよ! 感謝しろよ……! 感謝しろよ! せめて感謝しろよ! なあ!」

「……はあ」

 

 木場は思わず溜息を吐く。色々と馬鹿らしい。

 と、そんな木場の耳に、通りすがりの女子生徒たちの会話が入ってきた。

 

「かっこよかったよねー」

「うんうん、超かっこよかった! どこかのモデルさんかな……?」

「俳優さんかもよー」

「嘘ハリウッド!? サインもらっておけばよかったかもー」

 

 彼女たちにしてみれば、何気ない会話の応酬である。

 しかし、それを聞いたイッセーたちオカルト研究部にとっては聞き捨てならないことで。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………?」

 

 沈黙が降りる。とても長い長い沈黙が。

 

「……なあ」

 

 口火を切ったのはイッセーだった。

 

「今の女の子たちの話、聞いたか?」

「……ああ、えっと……聞いてない」

「……聞いてません」

「現実逃避は程々にしようぜ……」

 

 嫌な予感がする。それはもう、ひしひしと。

 第六感に語りかけてくるほどの、嫌な予感。

 

「イッセー君。時には見ない勇気というのもあると思う」

「一見前向きに見えて、とことん後ろ向きの回答だな!」

「……木場先輩に一票です」

「小猫ちゃんまで!? こいつぁダメかもしれねえ!」

「いやいや。何の話してんだよ。なんでコントやってるんだよ、お前ら」

 

 唯一『彼』をあまり知らない匙が疑問符を浮かべる。

 

「あの人なんだかんだ言って目立ちたがり屋だからなあ……」

「……というか、どんな風でも目立つ人です」

「ああ、小猫ちゃんが正しいかも。目立つ人かあ……確かにそうだよな。目立つ気がないのに、目立っちゃうもんなあ。存在感っていうのか。そこら辺が段違いだよな」

「おい無視か。無視したのか、おい。協力者の俺を無視してませんか、君たちぃ」

「腹くくって行こうぜ、木場」

「それもそうだね……前途多難だ……」

「無視かよ!」

 

 騒ぐ匙を引き連れ、イッセーたちは進む。校舎を出、校門に目を向けると、人だかりが出来ていた。

 ああ、やっぱりと言う表情を、オカルト研究部メンバーは浮かべる。

 人だかりをかき分けて進むと、大方の予想通り、『彼』がいた。

 

「……待ちくたびれたぞ、お前たち」

 

 ライザー・フェニックスが、立っていた。

 

「それはすんませんした、ライザーさん。ていうか、なんすか、その格好」

「特に意味はない。楽な姿勢を取っていただけだ」

「いや、滅茶苦茶大変そうなんすけど!? 関節バキバキ言いそうじゃないすか!」

 

 何故だかドドドドドドドという音が聞こえてきそうな、ポージング。

 身体をふんだんに捻った彫刻もかくやというダイナミック。

 それの写真を取るスチューデンツ。

 早い話がカオス。

 

「こちとら部長に気づかれないようこっそりこっそり帰ってたんすよ! それなのにこんな目立ってどうするんすか!」

「目立っているのかね、アシュタロス」

「はい。閣下ならばどこでも、どこまでも輝きましょうとも」

 

 どこかズレた感想を言うのは、日本に合った服を纏うアシュタロス。

 

「お前の感想というのは時に信頼出来ないからな……まあ、今回は正しいようだが。とはいえ、だ。イッセーよ。俺が目立つことに問題はない」

「いやいや問題ありますって。ライザーさんはともかく、俺たちはこっそり動いてるんですから!」

 

 声を潜めて、イッセーは言う。

 何せ事は教会絡みのことである。リアスに気付かれれば、どんな目に遭うことか。イッセーは想像だにしたくない。

 

「あら、ライザー?」

(来ちゃったーッ! ご本人様来ちゃったーッ!)

 

 不幸とは、すぐ側からやってくるもの。人にとって都合の悪いこととは、都合の悪い時にこそ訪れるのである。

 

「どうしたの、こんなところで」

「なに、暫らくここに滞在する予定なのだ……婚約者の顔を見るために来ても、バチは当たるまい」

「婚約者!?」

 

 遠目に見ていた生徒たちがざわめく。

 

「……あまり堂々と言わないで頂戴、ライザー……」

「事実だ。このライザーの婚約者はお前を置いて他にはいない」

「もう……」

 

 リアスは口でそうは言うものの、満更でもないらしい。

 

「あら、イッセーたちと会ってたのね」

「ああ、偶然だな」

(しれっと息を吐くように嘘吐いたぞこの人―!?)

 

 前世も含め、海千山千のライザーである。嘘ハッタリ騙しの技術もまた、習得しているのだ。

 

「婚約者の眷属に会うのも、吝かではあるまい……そうだろう?」

「そ、そうっすね……」

「一理あるわね」

「お前もやった手法だ……」

「あー……」

 

 リアスの目がどこか遠くを見つめる。濃いライザー眷属たち。特に謎の寄声を上げる筋肉達磨なんて、濃いとかそんな枠を超えていた。

 何あの『戦車』。それがリアスの正直な感想だった。

 

「そういうわけで、イッセーたち、借りてゆくぞ。リアス」

「構わないけど……朱乃たちはいいの?」

「男同士の付き合いというものがあるさ」

「ライザー。小猫は女子よ」

「む……そうだったな……しかしまあ、大丈夫だ。大した問題ではない」

「……大丈夫でも小さな問題でもありません」

 

 小猫がシュッシュッとシャドーを始める。

 猫の尾を踏んでしまったライザーであった。

 

「ライザー。貴方私になにか隠し事をしてるのではなくて?」

 

 すっ、とリアスの目が細くなる。

 明らかに旗向きが悪くなっていることを、イッセーたちは感じていた。

 しかし、ライザーは動じない。

 

「ふむ、いつぞやの約束を果たそうと思ってな……」

「約束?」

「綺麗なお姉さんがいっぱいいる――」

「………………」

 

 

 

       ――○●○――

 

 

 

「さて、エクスカリバーを探しに行くぞ、者ども」

「すんません、ライザーさん……締まらねえっス……」

 

 ライザーの頬に赤々とした紅葉が出来上がっていた。

 リアスの逆鱗に触れてしまったライザーの末路である。いとかなし。

 

「中々に響いたな……滅びの魔力付きなのは」

「よく紅葉だけで済みましたね……」

 

 木場がそう言う。

 

「ていうか、避けられたんじゃないっスか。ライザーさんなら」

「バカを言え。女の平手打ちを受けられずに何を男か」

「流石は閣下ですわ」

「褒めるな、阿呆……」

「いや、男らしいっスよ。わざわざ痕まで残して」

「やかましい」

 

 ライザーの不死鳥の火が、イッセーの尻に着いた。

 

「あちぃ! あちぃ!」

「ああ、イッセーくんがよく燃えて……」

「いや、助けろ! 助けて! 助けてください!」

 

 七転八倒しながら火を消すイッセー。ライザーはドSである。仕方ないのだ。

 

「何もなかった。いいな」

「はい」

 

 頷くしか選択肢はなかった。

 

「全く、全くもって下らん……そんなことよりも、物を探すぞ」

「了解ですわ」

「それにしても、ただぶらついているだけで捕まるんですかね、エクスカリバー」

「ここは縁のあるものがあれば、自然と引き寄せられる……そんな土地だ。俺自身もトラブルを呼び込む体質だからな……まあ、そうしないうちに遭遇するんじゃあないかな……」

「トラブル、呼ぶんスか」

「ああ。呼ぶぞ。魔王の胃に穴が空いたら俺のせいかもしれんな」

 

 口元に笑みを浮かべながら、ライザーは言う。

 アシュタロスこそクスクスと笑っているが、それ以外にこの冗談を笑えるほどの猛者はここにはいなかった。

 

「安心するがいいさ……ちょいと路地裏にでも入れば――」

「悪魔たんはっけぇーん!」

「ほら来たぞ」

 

 上。上から降ってきたものがいる。白髪の神父であった。その手には、長剣が握られている。

 ぶんっと唸るそれは、悪魔の本能が悲鳴を上げる代物。つまりは聖剣。つまりはエクスカリバー。

 

「さっさとおっちねこのクソ悪魔!」

「これはまた、品のない奴が現れたものだ……」

 

 ライザー愛用の軍刀と、エクスカリバーの一本が交差する。火花が散り、一瞬の後に、離れる。

 

「フリード・セルゼン!」

「悪魔がひい、ふう、みぃ、沢山っ! 見慣れぬ新顔がいらっしゃいますが、纏めて切り捨てちゃえば皆同じだよね! だから死ね!」

「お下がりください、閣下。閣下の手を煩わせるほどのものではありません」

「いや、いい。一合、当たったのだ。三流と言えども、俺がやるべきだろう」

「ぐだぐだ言ってんじゃあないっスよ! 悪魔どもぉ!」

 

 フリードが聖剣を振るう。二回目の交差。三、四と数が増えてゆく。フリードの狂気が宿った剣は優雅さをすら感じさせるライザーの剣閃によって捌かれる。

 

「動くな。グレモリーの『騎士』」

「っ……!」

 

 今にも飛び出しそうな木場を、アシュタロスは一言で止める。

 

「今は閣下の時間だ。それを邪魔されるわけにはいかない――私は閣下の眷属であるからな。どうしても、と言うのならば、私が相手になるが?」

「く……!」

 

 実力差は、言うまでもなかった。

 

「にしても、なんなんだ、あの軍刀……『神器(セイクリッド・ギア)』かなにかなのか……?」

「あれは何の変哲もないただの軍刀だ。閣下が上手く使いこなしている。それだけだ」

「ええー……」

 

 イッセーは思わずそう口から零した。

 七分の一とはいえ、相手が使っているのはエクスカリバーそのもの。使い手の問題なのだろう。

 

「俺さまのエクスカリバーは『天閃(エクスカリバー)()聖剣(ラピッドリィ)』! 悪魔なんぞに遅れを取るはずが――」

「遅れを取るはずが、なにかね?」

 

 フリードの腕が、飛んだ。

 それを一番遅く理解したのは、当事者であるフリードであった。

 

「う、お? おお、おおお!」

「ほう、咄嗟にエクスカリバーを持ち替えたか……」

 

 ライザーの軍刀には、血の一滴も着いていない。それだけの速さで、切られたのだ。腕が血を流すのを忘れるほどに。

 

「天閃がどうだのこうだの言うのならば、『戦車(チャリオッツ)』ほどは、持ってくるべきだったな……」

「なにを訳の分からないことを言ってやがる!」

「失敬。お前には関係のないことであった。ならば、去ね。迅速にな」

「勘弁してちょ!」

 

 フリードが大きく後ろに跳び、路地裏の暗がりに入る。

 一瞬の間の後、フリードが今まで居た場所に剣閃が走った。もしも動いてなければ、フリードの胴体と首は離別していたことだろう。

 

「ふむ、避ける程度の能はあったか……少しばかり評価を上方修正してやろうか、三下」

「あー、もう、なんて危ないお兄さんと一緒にいるんですかねえ! イッセー君達ぃ! このまんまじゃ俺さま死んじまいますっての、世界の大損失だねこりゃ!」

「全く、頭でも打ったのかね、あの白髪神父は」

「いやあ、初めて見た時からあんなんスよ、あいつ……」

 

 腕を切り飛ばされても、その巫山戯た態度を改めることのないフリードに、ライザーは呆れた目線を投げる。

 どうやら頭のイってしまっている人種らしいと、カテゴライズする。

 そんなフリードに、声をかけるものがいた。

 

「どうした、フリード。聖剣を使えば負けることなどないはずだぞ」

「……バルバーのじいさんか」

「バルバー・ガリレイッ!」

「いかにも」

 

 神父服を着た、初老の男が、そこにはいた。

 木場が仇を見るような目で――否、実際に仇なのだ。木場にとって、バルバー・ガリレイとは仇そのものである。非人道の極み。罪なき子を『処分』した男。

 

「ふん。聖剣の使い方がなっとらん……お前に渡した『因子』。それをもっと有効に使うのだ。そのために私は研究していたのだからね。その身体を流れる聖剣の因子を、エクスカリバーの刀身に込めるのだ。さすれば、自ずと切れ味が増すだろう」

「たく、腕一本吹っ飛んでのに無茶言ってくれちゃいますねえ! あーいいよ! 今日のところは見逃してやるっちゃ!」

「逃がすわけがなかろう……貴様はここでジ・エンド。さよなら現世だ」

 

 くるりと軍刀を回すライザー。その目は、獲物を狩る猛禽類の目であった。

 

「逃がさん!」

 

 と、この場に新たに躍り込んできたものがいる。

 青髪のエクソシスト、ゼノヴィアだ。

 

「やっほ」

「イリナ!」

 

 更に紫藤イリナも加わる。

 千客万来の状況。フリードの判断は速かった。

 

「フリード・セルゼン……バルバー・ガリレイ! 反逆の徒め。神の名のもと、断罪してくれる!」

「こちとら大怪我だっつーの! 撤退だ撤退! 邪魔しないでくだせえよぉ!」

「致し方あるまい」

「あばよ教会と悪魔の連合ども! 覚えとけ! 特にそこの赤髪! てめえの顔は絶対忘れねえ!」

 

 瞬間、視界が真っ白に染まった。フリードが閃光弾を使ったのだ。

 

「追うぞ、イリナ!」

「うん!」

「僕も追わせてもらおう! 逃がすか!」

「あ、おい木場!」

 

 エクソシスト二人と、木場がフリードたちの後を追う。

 

「閣下。どう致しましょう?」

「捨て置け。所詮、奴らは雑兵だ……わざわざ追って狩るほどのものでもあるまい……それに、わざわざ俺から出向くのも癪だ。カラスが自分から来るまで、放置といこう。その内痺れを切らして奴から来るだろうさ……」

「御意に」

 

 アシュタロスが礼をする。

 フリードのことなど既にどうでもいいかのようなライザーであった。

 というか、本当に眼中にないのであろう。軍刀を腰にぶら下げた鞘に納めたライザーからは、殺気が消えていた。

 

「そんなんでいいんですか?」

「閣下がそう仰ったのだ。問題はない……」

「ウッス……」

 

 何を言っても無駄なのだろうと、イッセーは判断した。その判断は正しい。

 アシュタロスにとって重要なのは、ライザーの意思。それ以外のことに価値を置いていない。

 

「でも、あいつら大丈夫かよ……」

「さあ、どうだろうな。下手人は紛いなりにも堕天使の幹部なのだ。それなりにやるんじゃあないか……? 俺よりも強いとは思えないが」

 

 聞くだけならば、慢心とも聞こえるその言葉。しかし、それには確信がある。確かな実力に裏打ちされた、自身が。

 

「さて、帰るとしようか。エクスカリバーを取れなかったのは悔やまれるが……教会に恩を得るためだけのアイテムなんぞ必要もないか」

 

 そういい、ライザーが帰途に着こうとした時であった。

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら……」

「む」

「これは困りましたね」

 

 近づいてくる、二つの影。

 

「リアスにソーナ・シトリーか。どうしたのだ、こんなところで」

「それはこちらの台詞よ、ライザー。きっちりと説明、してくれるんでしょうね?」

「やれやれだ……場所を移すぞ」

 

 

 

     ――○●○――

 

 

 

「エクスカリバーの破壊ですって?」

「ああ、そうだ。こいつらの目的はな」

 

 公園の自販機で買った不味いコーヒーを投げ渡しながら、ライザーは答える。

 

「あなたたちね……」

 

 リアスはこめかみを揉んだ。

 勝手な眷属に自由な婚約者。双方の手綱を取りきれず、頭痛が起きてきた。

 

「俺は敵の首級以外には興味がないぞ」

「あなたが誑かしたのではなくて?」

「さあて、どうだか……」

 

 ライザーは悪びれもなくすっとぼける。

 

「サジ。貴方はこんなにも勝手なことをしていたのですね? 全く……困った子です」

「あぅぅ……す、すみません、会長……」

「祐斗はそのバルバーを追っていったと……」

「そうだ。リアス。不倶戴天の仇と出会ったのだ。あれが暴走するのはしかるべきことであろうよ」

「それを放置したの、ライザー」

 

 リアスはの語気が上がる。

 

「止める気はなかったからな……しかし、それで俺にどうのこうの言うのは筋違いという奴だ」

「眷属の不始末は主の不始末……分かっているわ。あの子のブレーキは私でなければならないことなんて……けど、それとこれは話は別よ、ライザー」

 

 元凶がライザーであることを、リアスは見抜いている。少なくとも、彼らの活動をスムーズに進行させたのはライザーだろうと。

 基本、問題を大きくするのが得意な男だ。

 

「まあ、そうだろうそうだろう。そうだろうとも。半人前とはいえ、エクソシスト二人が追っているんだ……死にはしないだろうさ。打つ手を間違えなければ、だがな」

「今の祐斗に冷静な判断が出来ると思って? 今のあの子は復讐の鬼よ。鬼。そんな余裕はないでしょう……」

「復讐の鬼、か。情熱的じゃあないか……」

「茶化さないで頂戴、ライザー」

 

 リアスはふう、と溜息を吐く。そして、眷属たちに眼を向けた。

 

「小猫」

「……はい」

「貴方らしくもないわ。ライザーに唆されたのかもしれないけれど……どうして、こんなことを?」

「……祐斗先輩がいなくなるのは嫌です……」

「過ぎたことをあれこれ言う気はないわ。けど、理解して頂戴。貴方たちのしたことは、一歩間違えれば、悪魔の世界に多大な影響を及ぼしたかもしれないの。どうか、私に心配をかけさせないで」

「はい」

「……はい」

 

 素直に頷く二人に、リアスは怒る気分が失せていくのを感じた。

 身内に甘いグレモリーの癖である。

 

「ライザー。貴方も軍団長であると言うのなら、節度を持った行動をしてくれないかしら? 下級悪魔を引き連れて、聖剣探しだなんて……何を考えているの?」

「使えると判断したまでだ、リアス。お前は少々、過保護が過ぎる。眷属のことをもっと信じてやれ……喩え未熟であろうとも、お前の眷属なのだからな」

「だったら、一言私に言ってくれてもいいじゃない……」

「それはすまなかったな」

 

 肩を竦めつつ、ライザーは謝罪の言葉を口にした。

 

「部長、言わないで欲しいって言ったのは、俺たちなんです」

「そうなの?」

「閣下にも考えあってのこと。何も考えなしに眷属を引っ張り出したわけではありませんわ」

「……フン」

 

 ライザーの鼻が鳴る。

 

「あなたには反省が必要ですね」

「わぁぁぁぁん! ゴメンなさいゴメンなさい! 会長、許してくださぁぁぁい!」

「ダメです。お尻を千叩きです」

「……はあ」

「やれやれだな」

 

 シリアスな空気を遠慮なくぶち壊す、悲鳴と、天高く高らかと尻を叩く音が響き渡る。

 

「使い魔を飛ばしたわ。直に祐斗は見つかるでしょう。そうしたら、部員全員で迎えに行きましょう。それからのことは、その時に。それでいいわね? ライザーも」

「わざわざ俺に確認する必要はあるまい。お前の眷属なのだからな」

「もう……バカな子たちね。ほんと……心配ばかりかけて……」

「うわぁぁぁぁん! 会長ぉおお! あっちはいい感じに終わってますけどぉぉぉ!」

「よそはよそ。うちはうちです」

 

 一発叩く度に、パァン、パァンとよい音が聞こえてくる。

 ああならなくてよかった。ほっと胸をなで下ろしたイッセーだったが……

 

「さて、イッセー。お尻を出しなさい」

「へ?」

「下僕の躾は主の仕事。あなたもお尻叩き千回よ♪」

「へぇぇええええ!?」

 

 そうは問屋が卸さなかった。

 

「ククク、心して受け入れることだな、赤龍帝」

「あら、あなたもよ、ライザー」

「は?」

 

 ライザーの片眉がつり上がる。

 

「亭主の横暴を止めるのは伴侶の務め。さあ、お尻を出しなさい。ハリー! ハリー! ハリー!」

「何を戯けたことを言っているヴァカめ! そんな間抜けな展開を認められるか!」

「強制よ、ライザー! 矯正してあげるわ!」

 

 リアスが掴みかかろうとした瞬間であった。

 ライザーの姿が消える。見れば、数メートル先にライザーの姿があった。

 どうやら時を止めて移動したらしい。

 ばっちり本気である。

 

「く……普通ならここでオチがつくのに……!」

「そんなオチは、残念ながら却下だ。阿呆」

 

 

 


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