不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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聖剣編開始。みんなで歌おうエクスキャリバーの歌


来週も更新できそうにない……すまない。本当にすまない


不死鳥と聖剣

 

「ライザー。君は『聖剣計画』というものを知っているかい?」

 

 魔法陣の向こう側から、サーゼクスはそう言った。

 ライザーは玉座に頬杖を突きながら、答える。

 

「『聖剣計画』……? 否、寡聞にして聞いたことなどないな……その名から鑑みるに、聖剣絡みの計画だろうとは容易に想像出来るが」

「その名の通り、教会が行った聖剣絡みの計画さ。聖剣の中の聖剣、エクスカリバーにまつわる計画のことだ」

「エクスカリバー、か……」

 

 聖剣エクスカリバー。数ある聖剣の中でも、最高峰の聖剣。最も有名な聖剣であると言っても、過言ではないだろう。そして、悪魔の天敵でもある。

 不死の能力を持つライザーを以てしても、切られたくない。そんな一品だ。

 

「しかし、あれは、確か折れていたはず……違うかね? サーゼクス……」

「ああ、そうだね。純正のエクスカリバーは、先の大戦で折れてしまった……けれど、だからといって、教会はみすみす聖剣を失う訳にもいかなかった。なにせ、悪魔に対しての切り札の一つだ。我々にとっての猛毒だからね。そう簡単に諦められるものでもなかったんだ」

「その話を聞く限り、どうやらエクスカリバーは現存しているようだな」

「そう……今でもエクスカリバーの残滓は残っている」

 

 人間と天使の手によって、である。

 

「聖剣エクスカリバーは砕けた。けれど、その破片を錬金術で打ち直して、七本の刃に変わったんだ。これが今のエクスカリバーの状態だね」

「七本の聖剣か。原典ほどの力は無いだろうが……それで、『聖剣計画』というのは、どんなものだ」

「聖剣、エクスカリバーを使うには、特殊な因子が必要なのだが……これを複数の対象から抽出。濃縮をすることで、資質のないものにもエクスカリバーを使わせようという計画なのさ。無論、聖剣の因子を抜かれた被験者には莫大な負荷がかかる。その時点で死亡するものも沢山いたらしい」

 

 その凄惨さは、想像するに容易い。人体実験の数々。どれほどのものがその命を散らしていったことだろうか。

 

「ほう、それはそれは。悪魔のような所業という奴だな」

「ああ、全くもってその通りだ」

「ふん、魔王直々にそう言われるとはな。やれやれだ……」

 

 時に人間は、悪魔を越える悪に成り下がることがある。

 同時に、天使を越える善性を持つこともあるが、人間は弱い。悪魔や天使と言った高次元の生命と較べて遥かに弱いがゆえに、悪の道に堕ちやすい。

 悪魔が耳元で囁かずとも、勝手に悪道を行ってしまうもののなんと多いことか。

 『聖剣計画』の実行者も、そんなものだろう。

 

「その『聖剣計画』に利用されていた元被験者が、リアスの眷属、木場祐斗君だったりするんだ」

「木場祐斗……リアスの『騎士』だな。サーゼクス、お前の『騎士』、沖田総司に師事しているという……」

 

 木場祐斗。魔剣を作り出せる『神器(セイクリッド・ギア)』、『魔剣創造(ソード・バース)』を所持している男。先の『レーティングゲーム』でライザーと刃を合わせることもあった。

 

「そう、彼だ。彼の因縁、引いてはリアスの因縁。それが今回少々不味い……かもしれない」

「かもしれない? 随分と曖昧じゃあないか……」

「まだ断定は出来ないんだ。断定はできないが、確率は非常に高いと、そう言ったところかな」

「確率、か……極論してしまえば、この世にあるのは起きるか、起きないか、だが……『因縁』があるというのならば、話は別だ……縁は縁を呼ぶ。悪縁は悪縁を連れてくる。そういうものだ。引力という奴だ……木場祐斗と聖剣にそれだけの縁があるかはわからんが……引かれてやってくるものがいるのだ……」

 

 来るものは来る。引力にも似た引き合いで。

 それをライザーは知っている。因縁は必ず因縁を呼ぶということを。

 

「来る、とそう仮定してだ。私には気になっていることがある」

「四大魔王殿の気になることとはな」

「そう茶化さないでくれ、ライザー」

「ふん……」

「リアスから聞いたかい? 先日の話を」

「堕天使がコソコソとやっていたという話だろう? 話にならない雑魚だったようだが……釣れたのは赤龍帝という笑い話だったな」

 

 ライザーは名前すら憶えていない堕天使が、リアスの領地内で不審な行動をとっていたということ。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を宿していた兵藤一誠が、殺され、リアスの手によって転生悪魔になったこと。そして、リアスが処理をしたということ……事のあらましをライザーはリアス本人から聞いていた。

 

「そう、それなんだ。全くもって奇妙なことに、また続くことになる。たまたまと言えばそれまでだが――」

「二回目までなら偶然かも知れんが……お前はそうは思わないわけだ」

「あの地には――『因縁』がある。リアスが駒王を治める前からの『因縁』が」

「なるほど……二回目ではないということか」

「三回目だ」

「三回目ね……ああ、思い出したぞ。あの地を治めていた悪魔は粛清されたのだったな」

「短期間でこの数だ。あの街には何かがある。そう考えざるを得ないところまで話は来ている」

「赤龍帝もいれれば、四度目か」

「そうだ」

 

 偶然であると、そう片付けることはサーゼクスには出来ないレベルまで達していた。

 

「……やれやれ。お前のシスコンはちょいとばかり、度を越えているな。それも、これも、どれも――妹の為じゃあないか……少々尚早が過ぎるんじゃあないかね」

「尚早か、そうでないかは君に確かめて欲しい。ライザー」

 

 ふむ、とライザーは頷いた。

 

「運命の『特異点』か、あるいは……無意識のドラゴンが呼んだか……一度目は粛清、二度目は堕天使、三度目は赤龍帝……四度目はなんだ」

「教会からエクスカリバーが盗まれた。その犯人である堕天使が、駒王町に向かった……かもしれない」

「かも。かも、でこの軍団長を動かせるのかね?」

「だから『特異点』の調査を頼むんだ。君の眷属、アシュタロスにね」

 

 つまり、主体はあくまでアシュタロスにしろということなのだろう。それに『偶々』ライザーが同行している形にしろと。ライザーは思わず嘆息していた。

 

「本当にシスコンだな。この戯け」

「いやあ、それほどでも……」

 

 褒めていない。

 

「冗談はさておき、魔王が直接出向くには、リスクが高すぎる。アタリでもハズレでもね。ヘタを打てば、堕天使との戦争真っ逆さまだ。それは避けなければならない。故に。『自然』に、『偶然』、駒王町に君がいなくてはならない」

「軍団長が偶々いても、戦争の引き金になりかねないと、そう思うが?」

「小競り合い以前に収めてしまえばいいんだ、ライザー。下手人は堕天使の幹部級だが、君が一切の容赦なく鎮圧すればいい。そうすれば、『偶々』駒王町を訪れていた君が、エクスカリバーを奪還したというシナリオになる」

 

 ライザーのその戦闘能力の高さを見込んでの、サーゼクスの提案であった。

 堕天使の幹部級。決して弱くはないだろう。それを圧倒する。

 出来る出来ないならば、出来る。ライザーは

 

「詭弁もいいところだな……対外的にはそうなるということか」

「対外的にそうするんだ、ライザー」

「いいだろう。その命令(オーダー)、認識した」

「頼むよ、ライザー」

「なに、軍団長としての仕事を全うするだけだ……」

「では、幸運を祈るよ」

「吉報を約束しよう。サーゼクス」

 

 魔法陣が切れる。

 

「話は聞いていたな、アシュタロス。駒王に向かう」

「楽しそうですね、閣下」

「ああ。なにせ、俺が生まれて初めての教会(天使)、堕天使、悪魔の三つ巴の状況だ。面白くもなるさ……」

 

 

 

     ――○●○――

 

 

 

 転移用魔法陣を使い、リアスの根城、駒王学園のオカルト研究部に移動したライザー。彼の目に映ったのは、剣を振りかざす、エクソシストの姿であった。

 

「ふむ……」

 

 考えるよりも先にライザーは『神秘(アルカナ)』を出現させ、その刃を掴み取らせる。

 すると、ジュッという音が、ライザーの手から発せられた。手を見れば、火傷のような痕が出来ている。スタンド越しだと言うのに、この現象。

 強力な聖剣の類か。瞬時に、ライザーはその正体を看破した。

 

「……反射的にスタンドを出してしまったが……お取り込み中だったか? リアス」

「取り込んではいたわ。けど、貴方のその行為はありがたい限りよ、ライザー」

 

 掌に紅き滅びの魔力を宿していたリアスがそう言った。

 手を払えば、魔力が霧散する。

 

「そうか。悪魔の拠点で物騒なものを振り回すものじゃあない、エクソシスト。君は今、ぶち殺されても文句は言えない立場にある……言わずもがな、だがな」

「私は『魔女』を神の名の下、断罪しようと思っただけさ。我らが神ならば、お許し下さるだろう」

「それは貴様か、それとも、こいつのことか……それにしても、『魔女』……? ああ、そうか。アーシア・アルジェントのことかね」

「は、はい……」

 

 アーシア・アルジェント。リアスの『僧侶』の一人。外傷ならばどんな怪我でも治してみせる『神器(セイクリッド・ギア)』、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の持ち主。

 その奇跡的な治癒能力からかつて教会では『聖女』として扱われていたが、悪魔に治癒を施していまい、『聖女』から一転、『魔女』の烙印を捺された経験を持つ少女である。

 

「『魔女』だの『聖女』だの、大変ご苦労なことだ……今時、魔女裁判なんて流行りはしない、ぞ」

「そちらこそ、現状を理解しているのか? 私に手を出すことは、教会に喧嘩を売ることにもなりかねないわけだが」

 

 その言葉に反応したのはライザーではなく、共に転移してきたアシュタロスであった。

 

「黙れ教会の狗。貴様の眼前に御座すのは、いやしくも、ライザー・フェニックス軍団長閣下だ。貴様程度の存在が見ることも烏滸がましい存在ッ!」

「ライザー・フェニックス……冥界の軍団長……! そんな大物がなぜ、こんなところに……!?」

 

 剣を振り上げていなかった少女が、驚愕の声を上げる。

 

「ほう、俺も有名になったことだ」

「閣下の実力から当然の評価ですわ」

「お前の俺に対する評価はあてにならん……」

 

 とはいえ。悪魔の中でも若い……否、幼いとも言っていいほどの年齢のライザーが軍団長として抜擢されたのは結構なニュースになったりもしていたのだ。

 

「なぜ、もなにも、貴様ら(教会)の尻拭いの一端よ……」

「聖剣について知っているだと……!?」

「知っているさ。人の口に戸は立てられん。貴様らが俺のことを知っているように、俺もまた、貴様らを知っている……ただそれだけのこと。それで、貴様ら、名は何という?」

「……ゼノヴィア。ゼノヴィア・クァルタ」

「紫藤イリナ」

 

 アーシアに切りかかった少女、ゼノヴィアは剣を戻しながら、答えた。

 

「しかし……意外と言えば意外と言ったところか……聖剣を追ってくるからには、相応のものが派遣されると思ったのだが……」

「我々では力不足だと?」

「まあ、そんなところだ。その手に持っている剣……見る限りそれが聖剣エクスカリバーの破片の一端のようだが……さて、堕天使に勝てるものかね」

「我々の信仰を舐めるな、軍団長」

「ふっ……信仰の恐怖、狂信の脅威というものは身に染みているのでな……特に神父とか神父とかは酷かった」

 

 くくく、とどこか馬鹿にしたようにライザーは笑う。

 

「そう怖い顔をするなよ……それとも、挑むつもりか? この俺に。ライザー・フェニックスに」

「応」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! ゼノヴィア! 悪魔との対立は上も望んでいないわ! ただでさえ成功率の低い任務なのに、冥界の軍団長なんてものを敵に回したら不可能のレベルまで落ちてしまう!」

 

 あくまで任務は聖剣の奪還であると、イリナは言う。しかし、ゼノヴィアは聞く耳を持たない。戦闘狂的な要素が顔を出しているのを見て、イリナは冷や汗をかく。

 そこに助け舟を出したのは、意外なことに、ライザーその人であった。

 

「なに、その点は配慮しようじゃあないか……お前は羽虫が挑んできたことで一々腹を立てるのか? そんなことはないだろう。プチっと潰して、それまでではないかね……?」

「羽虫扱いとは、言ってくれるわね……!」

 

 流石のイリナもカチンと来た。剣呑な光が、目に宿る。

 そんな二人に対して、ライザーは余裕の構えだ。

 

「良くしても、狗と言ったところか。教会の狗……そんなところだろう」

 

 ライザーはリアスに目を向ける。

 

「リアス。少しばかり暴れても問題ない場所はあるか?」

「ええ。あるわ。こっちよ――ライザー。あなたに限ってもしものことなんてないでしょうけど……気をつけて。あれは原典でないとはいえ、最強の聖剣の一欠片。悪魔にとっての天敵よ」

「案ずるなリアス。俺は死なん」

「分かっているわ。ライザー……」

 

 ライザーはリアスの頬に手を当てる。

 

「心配の必要はない。ちょっとした手合わせだ……なにも問題はない」

 

 そうね、とリアスは言う。

 ライザー・フェニックスは不老不死の体現、不滅の焔の具現者。故に、聖剣で斬られようとも、生き返るだろう。

 けれども、それが分かっていても、リアスの内側から湧き上がる想いは、また別のものだ。

 

「あの、軍団長様、ありがとう、ございました……」

 

 部室から出ようとするライザーに、アーシアが声をかける。

 

「礼はいらん。俺がやりたくてやったことだ……」

 

 それから、とライザーは言う。

 

「『ライザー』」

「え?」

「ライザーでいい。様付けもいらん。お前以外も同様だ」

「は、はい! ライザーさん!」

 

 

     ――○●○――

 

 

「アシュタロス。結界を張れ。それなりのでいいだろう」

 

 了解しました、と言って、アシュタロスが校庭の一隅に結界を張る。

 それにより、限定的に外界から隔絶された。場は出来上がった。

 距離を置いて、ライザーとエクソシスト二人は向かい合う。

 

「音に聞こえた冥界の軍団長殿と手合わせ願えるとは……光栄だな。これも主の導きか」

「勢いできてしまったけれど、一歩間違えれば貴方を消滅しかねない……やめにしない?」

「ふはっ! 随分とまあ、お優しいことだ……だが、心配はしなくていい。お前たちに俺は殺せない」

 

 腕を組んだまま、ライザーは応えた。

 聖剣を持つエクソシストと対峙してもこの余裕。よほどの実力者か、よほどの馬鹿か。ゼノヴィアは思う。

 前者であると。

 

「時間が惜しい。二人まとめてかかってくるがいい」

「それでは、お言葉に甘えよう。合わせろ、イリナ」

「ええ! ゼノヴィア」

 

 聖剣を構えるゼノヴィアとイリナ。だが、二人は足を踏み出せなかった。

 踏み出せない。ただの一歩もである。

 

「どうした。かかってこないのか?」

「……っ!」

 

 ライザーは隙だらけだ。腕を組んだまま、動かない。全く。

 だが、打ち込んで勝てるビジョンが浮かばない。

 つっ、と汗が垂れ、地面に落ちた。そのことにゼノヴィアは気付かない。

 

「俺は、刀を抜いていないぞ。さあ、早く打って出るがいい」

 

 パンパンとライザーは気軽に手を叩く。

 なんという余裕か。仮にも最高峰の聖剣を目の前に、あまりにも気軽過ぎる。

 

(これが、冥界の軍団長! これが……冥界の最高戦力が一人! 私から吹っかけた勝負だ。だが、ここまでとは予想だにしていなかった! なんというプレッシャーだ……目の前の人型が、全く別のモノに見える……! まるで修羅……! まるで化物そのものではないか!)

「どうしたの、ゼノヴィア。酷い汗よ」

「イリナ……分からないのか、今! 私たちの目の前にいるのは、ただの悪魔じゃあない……! 化物だということに!」

「化物とは、結構なお言葉じゃあないか……教会の狗。まあ、いいだろう。それで? どうするんだ、やるのか、やらないのか。さっさと決めろ。狗は狗らしく尻尾を巻くことをおすすめするがね」

 

 露骨な挑発をするライザー。

 早くすませようという気が満々である。

 

「いいだろう……! 見せよう……! 貴様の言う、教会の狗の力を見誤らないことだッ」

「OK、ゼノヴィア! 分かりやすくていいわ! 『擬態の聖剣』(エクスカリバー・ミミック)!」

「いくぞ! 『破壊の聖剣』(エクスカリバー・デストラクション)!」

「やああああああ!」

「はああああああ!」

 

 向かってくる二人のエクソシスト、二振りの聖剣。

 悪魔にとって脅威以外の何物でもないそれらを見て、ライザーはやれやれと頭を振るう。

 

「如何に剣の形を変えられようとも……剣筋自体が変えられていない」

「なっ」

 

 『擬態の聖剣』(エクスカリバー・ミミック)の刃を、人差し指と中指の間に挟む。

 

「破壊の効果を分散させることで、むしろ威力が下がっている……」

「このっ」

 

 『破壊の聖剣』(エクスカリバー・デストラクション)を軽々と避け、足で刃を地面に固定する。すると、半球状に地面が割れた。つまるところ、それだけ無駄な破壊が多いのである。

 

「エクスカリバーも落ちぶれたものだ……まあ、なんだ……かのアーサー王ほど上手く扱えとは言わんが……未熟だな。や~れやれだ、精進したまえよ若人ども」

 

 指を開き、足をどける。それとともに、ゼノヴィアに向けていたプレッシャーも消す。

 時間にして十秒。たったそれだけで『手合わせ』は終了した。

 

戦車(チャリオッツ)の方が速かったし、アヌビスの方が強力だった……」

「……?」

「教会の連中はなぜ、これ以上の戦力を出さなかったのか……疑問が残るな。やれやれだ。裏があるのではないかと勘ぐってしまうぞ……」

 

 聖剣に対して聖剣をぶつけるということか。しかし、使い手はまだまだ半人前と言ったところ。磨けば光るだろうが、その前に砕けかねない。教会の出方を測りかねるライザーであった。

 

「相変わらずなんつー出鱈目な強さ……」

 

 ゼノヴィアとイリナをそれこそ赤子のように捌いてみせたライザーに、半ば諦めの口調でイッセーがそう溢す。

 

「閣下ならば当然だ」

 

 そう言うアシュタロスに、イッセーは

 

「すみません、おっぱい揉ませてください」

 

 土下座を試みた。

 それは綺麗な土下座であった。

 

「私は閣下に全てを捧げた身だ……いや、そもそもそう言われて揉ませると思うてか」

「ですよねー」

 

 兵藤一誠。女性の胸に対し並々ならぬ性欲を抱く男である。

 つまりただのスケベである。

 

「それで、どうする? まだ、続けるかね……?」

「いや、実力差は分かった……切り結ぶ前から、な」

 

 舐めていた。ライザー・フェニックス。冥界の軍団長のことを、ゼノヴィアは舐めていた。聖剣があることもそうだったし、何よりも己は慢心していた。

 そのことを、ゼノヴィアは恥じる。

 

「無礼を謝罪したい。ライザー・フェニックス軍団長」

「よい。特に赦す……気にすることはない」

 

 気にするような存在でもないということか。ゼノヴィアとイリナは言葉の裏を読んだ。

 

「ここまで差があると、悔しさすら沸かないものだな」

「精進あるのみね。ゼノヴィア……」

 

 聖剣を収める二人。

 

「貴様らは道具に振るわれているだけに過ぎん……いまはまだ、な。それなりに鍛錬を積めば、そこそこイイ線はいくんじゃあないか」

「冥界の軍団長のお墨付きとは、喜ぶべきか、悲しむべきか……」

 

 額を揉むゼノヴィアであった。

 

「結界を張られていると思ったら――これは何事ですか」

 

 と、割って入る声が一つある。

 

「あら、ソーナ」

「あら、ではないでしょう。何をしているの、リアス……」

 

 眼鏡越しに、リアスをじろりと睨む少女。

 支取蒼那。駒王学園の生徒会長。リアスの幼馴染にして、あのレヴィアタン(魔法少女)の妹である。

 ライザーからしてみれば、なぜあの姉の妹がこんな真面目キャラなのか理解出来ないといったところ。遺伝子の神秘である。

 

「そうリアスを責めてくれるな、ソーナ。元は俺の言い出したことだ」

「……! 軍団長閣下」

「ぐ、軍団長!? 軍団長って、あの……?」

 

 ソーナに追従していた男子が声を上げる。匙元士郎、ソーナの『兵士』である。

 

「ええ。この方こそが、冥界の最高戦力が一、ライザー・フェニックス様です」

「そう硬くならないでいい。ライザーで充分だ。今日の俺は軍団長として訪れたわけでもない……この流れ二回目だな……」

「いやいや、無理ですって。そんなこと無理ですって。軍団長と言えば、俺みたいな下級悪魔から見れば雲の上の存在ですよ」

 

 ぶんぶんと首を振る匙を見て、イッセーはそんなお偉いさんだったのかと、今更ながらに思う。

 

「我々の訪問の目的を話した方がいいかね? 支取蒼那」

「いえ、お話は聞いております、『駒王町の調査』だと」

「よろしい」

 

 優秀なことだ、とライザーはソーナを見やる。

 

「さて、我々はその仕事に向かわねばならない……道中エクスカリバーを拾うかもしれんが……その時にはくれてやるとしようか……」

 

 どこまでも傲慢が過ぎるような言葉を残し、ライザーはアシュタロスとともに駒王学園を後にした。

 




Q また慢心してない?
A 聖剣のことをそれなりに警戒しているが使い手を見てまだ余裕だと判断。また慢心してるじゃないですかーやだー!

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