不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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すまない。来週は更新できそうにない……ので、いつもの二倍くらいアップすることにした。読みづらかったら申し訳ない






不死鳥と模擬戦Ⅲ

 午後十一時四十分、オカルト研究部室。

 リアスとライザーはそこで、修行の初日以来となる対面をしていた。

 模擬戦という非公式の試合ということだが、ライザーは正式な軍服に身を通している。存外気に入っているらしかった。

 

「それで? 十日間の修行の結果はどうかね? リアス……話になる程度には仕上がってきたのだろうな」

「上々と言ったところよ、ライザー。私たちは『成果』を手に入れたわ。貴方の首元に牙を立ててみせる!」

 

 飲み込まれそうなライザーの覇気にこめかみに冷や汗を流しながらも、リアスは毅然と応じる。その姿に、ライザーは口角を吊り上げた。

 

「ふ……そいつは重畳……楽しみにするとしようか。ルーキー」

 

 『王』同士の睨み合い。赤金と紅の視線がぶつかり合うが、先に目を離したのは、ライザーであった。ぐるりとリアスの眷属達を見回した後、深く頷く。

 

「一応、俺の駒を紹介しておこうか。我が『兵士』、アーカードだ」

 

 ライザーの影から、ライザーとは正反対の真っ白な服に身を包んだアーカードが現れる。その体躯は常の丈夫の姿ではなく、黒髪を長く伸ばした童女の姿だ。

 

「おお、美少女!」

「お前……話には聞いているぞ。今代の赤龍帝だそうだな。グレモリーの『兵士』は……興味深い」

「うわっ! 声低っ! 渋すぎんだろ!」

「本質が影であるのが吸血鬼だ。上っ面の造形など、我らが吸血鬼にとって、水面に写る月のようなもの……それは悪魔も変わるまい」

 

 吸血鬼も悪魔も、自由自在に姿を変えられる。その気になれば、誰にだって成れるのだ。

 

「そりゃ……そうだけど……釈然としねー! ギャスパーといい、吸血鬼はみんなそういうのばっかりなのか!?」

「ふぇ!? ぼぼぼぼ僕ですかぁ!?」

 

 聞いていたイメージと大分異なるアーカードに、イッセーは地団駄を踏む。

 そんなイッセーを見て、リアスは懐かしいものを見た気分になる。誰もが通る道……なのかもしれない。

 

「そいつらは普通にマイノリティだ……」

 

 ライザーが言う。アーカードのようにころころと姿を変えるものはあまりいない。往々にして、自分に最も適した姿というものがあるからだ。

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始十分前です」

「お、お義姉様!? なぜここに!?」

 

 銀髪のメイド、サーゼクスの『女王』、グレイフィアがいつの間にか、部室に現れていた。

 

「なぜもなにも、どうもこうも……リアス。いいか? こういうイベントごとが大好きな奴がいるだろう……」

「……ああ、そういうことね……はあ」

 理解したリアスはゆるゆると首を振り、溜息を吐く。

「模擬戦とは言え、今からやるのは『レーティングゲーム』だ……両家の耳に入るのも当然。お前への関心の高いアイツのことだ……嬉々として諸々の準備をやっていたんじゃあないか」

「おっしゃる通りですわ、ライザー様。サーゼクス様はそれはそれは楽しみになさっていました」

「なんでこう、イマイチ余計なことをするのかしら……もう……」

「妹好きをこじらせた結果だろう。俗に言う、シスコンという奴だ」

「うう……」

 

 身も蓋もないライザーであった。

 

「しかし、兵藤(兵士)塔城(戦車)木場(騎士)姫島(女王)とは……リアス、お前は言葉遊びが好きだったかね?」

「偶然よ、偶然。そんなこと言ったら、アーシアやギャスパーはどうなるの?」

「偶然、か」

 

 半眼でリアスを見るライザー。木場や小猫はリアスが付けた名だと、ライザーは知っている。

 

「ああ、それと、だ。お前達に渡さなければならないものがあった」

「あら、何かしら?」

「これだ」

 

 ライザーが取り出しのは、複数の小瓶であった。台座にしっかりと収められているそれは、透明な水のようであるが、ただの水ではない。

 

「これは……」

「フェニックスの涙。俺謹製のものだ……好きに使え」

「フェニックスの涙……ありがたくもらっておくけど……目、抉ったりしていないでしょうね?」

「安心しろ。普通の手順で作ったものだ」

「そ、そう。なら、いいわ」

 

 抉られた目。地味なリアスのトラウマである。

 

「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手なことをしても構いません……リアス様の陣営は、ですが」

 

 暗にライザーとアーカードは全力を出すなということである。実際、身の安全は保証出来ない――リアス達の、だが。

 

「今回の『レーティングゲーム』、両家の皆様も他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります」

「ほら、言った通りだろう?」

「ええ。言った通りだったわね」

「そろそろ時間です。皆様、魔法陣のほうへ」

 

 魔法陣が光り、ライザー達の姿が消える。

 光が収まった後、リアス達はオカルト研究部部室にいた。ライザーとアーカード、そしてグレイフィアがいなくなっただけの光景に、イッセーとアーシアは首を傾げる。

 すると、校内放送が入った。

 

『皆様。この度グレモリー家、フェニックス家の『レーティングゲーム』の審判(アービター)役を担うこととなりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます』

 

 聞こえる声は間違いなく、グレイフィアのものである。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。早速ですが、今回のバトルフィールドはリアス様とライザー様のご意見を参考にし、リアス様が通う学び舎『駒王学園』のレプリカを異空間にご用意いたしました』

 

 大から小まで、何から何まで本物そのままに作られたそっくりな駒王学園。そこがバトルフィールドであった。

 

『両陣営、転移された先が『本陣』でございます』

リアス陣営(私たち)はこのオカルト部部室が本陣なようね……妥当なところでしょう。さて、ライザー達は……」

 ふと、窓の外を見やるリアス。そこからは空と校庭が見えた。空は異空間ということだけあって、真っ白だ。そして、その下。校庭の中央。そこには見慣れないものがあった。

 それは、玉座であった。豪奢な装飾のなされた、玉座。そして、それに座る人影が一つ。

 ライザー・フェニックス、その人である。

 リアスはへなへなと力が抜けていくのが分かった。

「予想外……ええ。予想外過ぎたわ……いいえ。けれど、らしいと言えば、らしいのかしらね……」

「あらあら。流石はライザー様ですわ」

 

 朱乃が頬に手を当て、そう溢す。

 

「ふん……この俺が逃げや隠れやするわけもあるまい」

 

 玉座の上で足を組みながら座るライザー。その横には童女姿のアーカードが立つ。

 

「さて、どうするかね、オウサマ。オーダーは?」

「適当に揉んでやればいいだろう……我々に敗北はありえん……万に一つもだ」

「ほう」

「拘束術式はかけたままで行け。使う必要もあるまい……そうだな、『兵士』の能力を使うのも禁止だ」

「随分と手を抜かせるのだな、オウサマ」

 

 『兵士』アーカードのみに加え、ライザーは更に縛りをかけるという。

 

「代わりに命令(オーダー)唯一つ(オンリーワン)見敵必殺(サーチ アンド デストロイ)見敵必殺(サーチ アンド デストロイ)だ」

「認識した我が主」

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』

 

 開幕の狼煙が上がる。

 

「どれ……手合わせ願おうか!」

 

 

 

 

 

    ――○●○――

 

 

 

 

 

「皆様は此度のこの『レーティングゲーム』……どのような結果になると思われます?」

 

 リゼヴィム関係の多忙の合間を縫って観覧をしに来たサーゼクスが言う。

 

「リアス嬢の親族がいる前で心苦しいが、ライザーの圧勝でしょうなあ。それ以外は考えられませぬ」

 

 フェニックス卿は、そう答えた。

 

「なに、事実ですからな。仕方のないことでしょう……何せフェニックス軍団長はプロの『レーティングゲーム』でも常勝無敗。いかに『兵士』のみとはいえ、『王』がフェニックス軍団長である時点で、勝ち目は皆無と言っていい。リアスがどう『負ける』のか。この一点でしょう」

 

 ライザーの『レーティングゲーム』。公式での試合数が少ないため、ランキングは中堅止まりだが、その圧倒的強さは誰もが認識しているところだ。そもそも、常に実戦を想定しているライザーとその眷属達では、求めている強さの次元が違う。

 ましてや最近はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーという明確な対象が現れたことで、更に研ぎ澄まされているのだ。

 

「勝つ手腕も重要ですが、戦いは時に、負ける手腕も求められる。圧倒的強者を前に、いかに立ち回るのか――」

「――とかなんとか、外野は思っているでしょうね」

 リアスは言う。

「けれど、そう思われるのも癪だわ。ええ、癪でしょうとも。負けてもいい、いかに負けるかなどと考えている時点で、私たちはどうしようもなく敗北を喫しているの」

「でも部長、修行中は負けるのが前提って言ってましたよね」

 イッセーが片手を挙げてそう言った。

「そうね。言ったわ、イッセー。貴方とアーシアは悪魔になって日が浅いから、ライザーという規格外の彼を知らない。だから、その戦力を理解させるためにそう言ったわ。けれど、それじゃあダメ。勝つ気で挑まなくては……!」

「負けると分かっていても、ですか?」

「負けると分かっていても、よ。端から負けると思っているようじゃ、大成はしないわ。なによりも、逃げの姿勢では何も掴めない――決して」

 それは、あまりにも難しい要求であった。勝ち目はゼロ。それでも、立ち向かわなくてならない。しかも、勝つ気で。

「あなたたちの精神を信じるわ。後は、全力を叩き込みなさい。山が吹き飛ぶ一撃を当てたところで、あの二人は生き残るでしょうし」

「考えれば考えるほど、強いんですね……」

 ぼそりと小猫が呟く。

「ギャスパー。『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』で、アーカードを抑えることは?」

「一瞬ですが、止められますう。本当に一瞬だけですけど……」

「それは朗報ね――祐斗、ギャスパー、小猫はアーカードを迎撃、私、朱乃、イッセー、アーシアでライザーを狙いましょう。数の利を最大限まで活かして、迎えるわ」

 リアスの眷属達が応、と声を揃える。ライザー達が共闘をするということはまずない。

 『王』も眷属も、一騎当千(ワンマンアーミー)であるが故、連携を取る必要がないのだ。

 というか、ライザーとアーカードが本気で連携を取ったとしたら。

「何回全滅出来るかしらね……」

「……? なんか言いましたか? 部長」

「いいえ。なんでもないわ」

 木場を先頭に、対アーカード部隊が校庭へと向かってゆく。彼らが出発して三十秒後、リアス達も校舎を出、ライザーの下へと向かおうとしていたその時。

「ひえええええええ!」

「……! ギャスパー!?」

 ギャスパーの悲鳴が聞こえた。

 悲鳴の聞こえた方角を見、身構える三人。すると、何者かが走ってくる。それは、ギャスパーを抱えた木場であった。

「ああ、部長! 一回建物の中へ!」

「おい、木場! どうしたんだ一体!」

「一体何があったの! まさかグールの召喚か何かを!?」

「いいえ、ある意味そっちの方が楽だったかもしれません……」

 冷や汗を流しながら、木場は言った。

「……? どういうこと?」

「それは――」

「……来ました」

「やはり、早い……!」

 ドカドカドカドカと、音がする。『それ』が、木場達を追ってきたのは明白で。

「棺が……」

「「「は?」」」

 それが来た。

「はいちょっとゴメンなさいネー」

 それは確かに棺であった。上質なただの棺だ。

 それが、四本脚を生やして走ってさえいなければ。

「なんだありゃ……」

 思わずそう溢すイッセー。それもそうである。それはあまりにも珍妙な見た目であったし――インパクトが大きいだけで、そう強くも見えなかったのだ。少なくとも、木場小猫ギャスパーの三人が撤退を強いられるようには思えない。

 そう言えば、ギャスパーがなんか言っていた気がする。そんなことをふと思い出したイッセーだったが、それを考える頃にはもう遅い。

「はいよ」

「でえ!」

 イッセーは棺に轢かれた。

「イッセー!」

「嫌だあ! こんなギャグみたいのにやられるなんて嫌だー!」

 宙を舞うイッセーの身体。べちゃっと音を立てて地面に落ちる。

「一応、無事みたいね……」

「精神的にキツいですけどね! なんだこのやられ方! 釈然としねえー!」

「それだけ吠えられれば大丈夫ね!」

「部長冷たくないですかー!」

「そんなことはないわ、イッセー」

 冷静にリアスは返した。

「揉んでやれと言われたからやってみたが……歯ごたえが無さすぎるな」

「アーカード様が強すぎるんですよぉ……うう、見敵必殺(サーチ アンド デストロイ)がやってくるぅ……」

 木場から降りたギャスパーがさめざめと涙を流す。

「ギャスパー」

 そんなギャスパーに声をかけるものが一人。イッセーである。

「『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』で一瞬止めてくれ」

「アーカード様には本当に一瞬、ゆっくりなる程度しか効きませんよぉ……」

「一瞬あれば十分だ! 修行中に思いついた必殺技をぶちかましてやるぜ!」

 イッセーの必殺技。今も小猫と木場を吹き飛ばしているアーカードに有効打を与えられるのであれば。

「い、行きます! 『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』!」

「む……」

 アーカードの動きが一瞬だけ鈍くなった。

 それは、本当に僅かな時間であった。だが、その明確な隙を、イッセーは見逃さない。

「いくぜ! これが俺の必殺技だ! 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』!」

 イッセーがそう言った瞬間、アーカードの纏っていた『服が』弾け飛んだ。

「む……?」

 白い裸体が顕になる。

 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』。対象の服を消す。ただそれだけの技である。確かに、人と場所によっては強力な技であろう。ただし、相手が悪かった。いかに少女の姿を取っていても、アーカードのベースは、男である。つまり、『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』による恥じらいなど微塵もなく。

「そら」

 棺桶がイッセーを蹴り飛ばした。

「へぶぅ!」

 くるくると錐揉み回転しながら空高く打ち上げられるイッセー。

「イッセー……修業中にコソコソしていたと思ったら……」

 思わずリアスは額を押さえた。

 そも、吸血鬼の身ぐるみを剥いだところで、所詮は影。すぐに戻るわけなのだが。現に、アーカードは何の感慨もなく服を再構成していた。

「グレモリーの『兵士』は随分とユニークだな」

「……言わないで頂戴。眷属の頑張りがなぜこうも奇妙な方向へ向かってしまうのか、私も考えあぐねているところなんだから」

 リアスは頭を振る。ともかく、アーカードをどうにかしないことには、ライザーの顔すら拝めない。

「アーカード。ここを通らせてもらえないかしら?」

「それは無理な相談だ、グレモリーの。私は見敵必殺(サーチ アンド デストロイ)命令(オーダー)を受けている」

「やっぱり、そうよね……!」

 最強の吸血鬼を、倒さなければならない。それがリアスに突きつけられた命題である。

「なに、私も本気を出そうとは思わん……だが、それでもお前たちは追い詰められた鼠だ。さて、どうする? どうするんだ、リアス・グレモリー」

「……祐斗、小猫、ギャスパー」

「はい」

「……はい」

「はいぃ……」

「貴方たちを、捨て駒に――」

 捨て駒。それが最も効率的、かつ有効な手段であろう。戦術上は、それが正解だ。

 リアスのプレイヤーとしての知識はそう言っている。そして、この三人は頷くであろうことも分かっている。

 それは、あまりにも、残酷な一手。そして、最も効率的な一手。

 その手をリアスは――

「――いいえ。そんなことは出来ないわね……! 全員よ。こうなれば、全員でアーカードを討つわ……!」

「ククク、甘いことだな、お嬢様」

「甘いと言われても、私は私の道を征くわ! その道を外れた私は、リアス・グレモリーではなくなる……! その道から逸れるくらいならば、『敗北』の方がマシよ……! 愚かと言われようともッ! ここにいる全員で貴方を越えてゆくわッ!」

「なんとも可愛らしいことだ……それが、貴様の『覚悟』かね?」

「ええ。私の『覚悟』よ」

 リアスの瞳には『覚悟』が……決意があった。それを認めたアーカードは、ふっ、と笑う。

「成る程……いい覚悟だ……だが悲しいかな、お前たちが纏めてかかっても、私には及ばない」

「分かっているわ。けれど、貴方を越えて、ライザーに挑まなくてはならない……! 貴方を突破出来なくては、笑われるわ……!」

 紅の魔力が、リアスから放出される。紅き其は、サーゼクスのそれとそっくりであった。

「滅びの魔力か」

「『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』!」

 二度目の時止め。アーカードの動きが僅かに止まる。

「はあああああ!」

「……えい」

「おりゃあああ!」

 木場が『魔剣創造(ソード・バース)』で作り上げた光の剣で払い、小猫が強烈な拳を叩き込む。

 イッセーの溜めに溜めた一撃がアーカードの鳩尾に入った。

「皆さん! 行きます!」

「了解朱乃さん!」

 朱乃の合図と共に、イッセー達はアーカードから距離を取る。と同時に、雷がアーカードを襲った。黒焦げになるアーカード。

「最後は私よ! 消えなさい!」

 紅き滅びの魔力が、アーカードの上半身を文字通りに消し飛ばした。残った脚が、ばったりと倒れる。

 

「やべ、やり過ぎた……! ぶ、部長、死んじゃいましたよ! うわあああ人殺しなっちまったあああ!」

「NO、よ、イッセー。再起不能(リタイア)のアナウンスがまだだわ……」

 そう。再起不能(リタイア)が告げられていない。

 つまり。

 それは。

「『走狗(いぬ)』め」

「……ッ」

 蝙蝠の群れが、アーカードだったものを包み込む。

「なるほど大した威力だ。しかし『走狗(いぬ)』では私は倒せない」

 その姿は、白い少女から、赤いコートを纏った丈夫へと変わっていた。

「『走狗(いぬ)』では私を殺せない」

「冗談だろ……」

「終わりかね?」

 手に握るは、黒き銃と白き銃。

 そして、場の空気が変わった。濃密な殺気。アーカードは今までのお遊びを止めた。

 リアスは自分が再度冷や汗をかいていることに気付く。

 夜族(ミディアン)としての厚みが違うのだ。

「ならば再起不能(リタイア)だ」

 薬莢が排出される。狙いはリアス・グレモリーその人。

「フォ、『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』!」

 空中で止まる弾丸。ピタリと静止していた。微塵も動く気配がない。

「ギャスパー・ヴラディ……」

「あ、貴方を止めることは出来ません……け、けれど、銃弾を止めることは出来ます……! ひぃいいいい! ごめんなさいぃいい!」

 どこからともなく出てきた段ボールに避難するギャスパー。

「ギャスパー……逃げてどうするの」

「す、すみませんんん! でもでも、ライザー様のところでのトラウマが……トラウマがああ! 堪忍してくださいいいい!」

「叩き込まれてるわね……色々と」

「ひいいいいいん!」

 段ボールから泣き声が響き渡る。その珍妙な見かけに、アーカードはチッと舌打ちをしてみせる。すると、より激しく段ボールがガタガタと揺れた。

「……興が削がれた」

 アーカードは銃口を下げた。

「え?」

「行ってこい。そして、逝ってしまえ。私に倒されるか、あいつに倒されるかの違いだけだろう」

(見逃された……!)

 その事実に、リアスは口を真一文字に結ぶ。

 だが、勝ち目はないのが事実である。今でこそ、ギャスパーの『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』で優位に事が運んで見えるが、時止めで解決するような強さならば、苦労はしていない。

 リアスは知っている。アーカードの真髄を。それはライザーと肩を並べる、異常なまでのタフネス。殺しきるまで殺さなければ、再起不能(リタイア)にはならない。

 そして、今のリアスの戦力では、それを可能とする術がない。

 苦々しさを味わいながら、リアスはアーカードの傍を抜ける。

「覚えておきなさい、皆。この屈辱を」

 

 

       ――○●○――

 

 

 

 

 

「アーカードめ……わざと通したか」

 玉座で肘を付きながら、ライザーは目の前に立つリアスたちを見、そう言った。

「ええ。興が削がれた、ですって」

「まあ、いいだろう。あれの判断したことだ。所詮は模擬戦……命令(オーダー)も遊びのようなもの。そこまで重要じゃあない」

「……遊びのような、もの、ね」

 ライザーもアーカードも、本気だ。本気だった。だが、全力は出していない。

「リアス。お前は俺の『伴侶』となり、そして『敵』になる者だ。だが、お前はまだ、弱すぎる。『敵』と認定するには貧弱よ……それをお前に実感させようと、俺は思う」

「あまり、油断しないことね、ライザー。足元を掬われるわよ」

「油断も慢心もない……さあて、行くぞ」

 ライザーの周囲に魔力が充満する。空間の緊張が高まり、ラップ音が響く。

「……ッ! 皆! 私の後ろへ!」

「は、はい!」

 それは勘であった。ただの勘。しかし、その咄嗟の勘と判断が、グレモリー一行の明暗を分けることとなる。

 爆発。圧縮された炎の魔力が、解き放たれた結果、校庭全体を覆うような大爆発を引き起こした。

 轟音、そして静寂。

 リアスは、全力で滅びの魔力を放っていた。典型的なパワータイプであるリアス。その彼女が一切の余裕を脱ぎ捨てた結果、眷属たちは無事であった。

「ほう……耐えたか……いいぞ、リアス。滅びの魔力……それなりに使いこなしているようだな」

「く……」

 手に火傷が出来ている。それだけで済んだ。そう言ったところか。

「ぶ、部長!」

「すぐに手当を!」

「ダメ! アーシア!」

「……え?」

 斬。

 アーシアは袈裟懸けに斬られていた。

 ライザーが振るう軍刀によって。

 一瞬。一瞬である。一瞬にして、アーシアは狩られていた。

「この……!」

 『魔剣創造(ソード・バース)』で生み出した剣で、木場はライザーに挑むが、剣ごと己を切られた。

「……っ!」

 接近戦を挑んだ小猫は、踵落としで意識を刈り取られる。

「ひ……」

 ギャスパーもまた、容易く切断される。

「これはどうです!」

 雷を放つ朱乃であったが、一刃のもとに雷が斬り捨てられ、胸を一突きで沈黙させられた。

 

「先日の焼き増しだったなァ……弱いということは罪なものだ。死に方すら選べないのだからな」

 振り下ろされる断頭の刃。それを、イッセーは篭手で受け止めた。

「そう、何度も……やられてたまるかあああ!」

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 赤龍帝が吼える。

「ほう……『騎士』ですら見切れなかった刃を受け止めるか……」

 十秒ずつの倍加の力かと、ライザーは冷静に分析する。

「だが、ぬるい」

「『プロモーション』! 『戦車』!」

「ぬるいと言ったはずだ! 赤龍帝!」

「ぐああっ!」

 刹那、ライザーは回し蹴りをイッセーに叩き込む。

 吹き飛ぶイッセー。

 校庭をバウンドし、校舎に叩きつけられた。

「イッセー!」

「まだ……まだです……部長……! 俺は、まだ、終わってません……! 部長のご褒美があるんです……!」

 それでもイッセーは立ち上がった。

 足元がふらつき、意識が朦朧とする中、それでも。

「それなりに殺す気でやったのだがな……」

「俺は……まだ……っ……」

「イッセー……」

「綺麗なお姉さんのいっぱいいる店にいくんですから!」

 

 リアスはずっこけた。それは綺麗にずっこけた。

 

「ふーむ。発破をかけたのは俺自身だが……ここまで来ると、いっそのこと尊敬しそうだ、兵藤一誠……愉快な男だ。なあ、リアス?」

「そこで私に振らないで頂戴。あの子は本当に予想外過ぎるわ……」

 

 リアスはこめかみを揉んだ。

 再び立ったことは褒められるが、理由があまりにもあんまりな理由だけに、手放しで褒められない。

 

「やれやれ。どうにも調子が狂う……お前は俺の近くにいなかったタイプだ。それだけの話だが……さて」

 

 ライザーはイッセーを見る。

 

「ボロボロの身でどうする? 兵藤一誠……なんなら、『神器(セイクリッド・ギア)』を溜める時間をくれてやってもいいのだぞ?」

「十分に、溜まってるぜ……!」

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

「今度はさっきの倍だ!」

 

 イッセーの体から、赤きオーラが噴き出す。赤龍帝。その存在の片鱗が、現れたのだ。

 不完全ながらも、龍の姿を象るオーラを纏い、イッセーはライザーに向かって突貫する。

 一歩進むたびに、地を砕きながら進むその姿は正しく暴虐の化身。

 その速度は尋常ではない。

 だが、ライザーは、涼しげな顔であった。

 

「一つ、面白いことに気付いたぞ、兵藤一誠」

「――ッ! 避けて……! 避けるのよイッセー!」

「俺はどうやら、独占欲が強いらしい」

 

 ライザーが指を鳴らす。すると、足元から紅蓮の炎が高々と空に立ち上がった。

 轟々と燃える炎はただの炎ではない。徐々にその形が顕になる。

 それは、炎で出来た巨大な鳥であった。

 

「受けろ、その身で。味わえ、天上の焔を。灰塵と化し、失せるがいい」

 

 龍と不死鳥がぶつかる。

 拮抗したのは一瞬であった。劫火が龍を飲み込む。

 

「燃えろ」

 

 ライザーのその言と共に、焔の不死鳥が爆ぜる。爆炎と爆風が、空間を揺らした。

 リアスが目も開けられないほどの爆発。髪が揺れ、土が吹き飛び、リアスの頬を叩く。

 

「イッセー!」

 

 グラウンドは原型を留めていなかった。ぽっかりと穴が空いている。そこが爆心地だというのは明白で。その中心に、倒れこむ一人の少年。イッセーだ。

 

「これで、お前だけになったな、リアス。手足はもがれた。さあ、どうするんだ、リア――」

 

 ライザーが片手を上げた。

 

「ふ。不意打ちか。だが、殺気が隠しきれていないぞ。もっと上手くやることだ、『騎士』よ……」

 

 ライザーの指に挟まれたそれは、一本の剣。

 木場祐斗の創り出した、刃。

 

「クッ……」

「……トドメを刺しきれていなかったか……だが、無駄だ」

 

 フェニックスの炎を推進力にし、ライザーは木場を裏拳で殴りつける。

 吹き飛ぶ木場。ボロボロの姿の彼は、抵抗もなく、地面に落下した。

 

「いや……僕の犠牲は……無駄なんかじゃ、ない……」

『リアス・グレモリー様の『騎士』、一人再起不能(リタイア)

「……?」

 

 ボロボロの木場。そのことに、ライザーが違和感を覚える。そして、ライザーの頭脳は即座に答えを導き出した。

 

「なるほど……フェニックスの涙を使ったか……自分ではなく、奴に!」

 

 ライザーの視線の先。そこには金髪のシスターがいる。『神器(セイクリッド・ギア)』、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の持ち主、アーシア・アルジェントが!

 

「ミスだな……調子に乗っていたようだ、俺は。アナウンスの確認をすら忘れるとは……やれやれだ」

 

 ライザーが右腕を立てる。そこに、小猫の回し蹴りが叩きつけられた。

 

「……えい」

「む」

 

 ゴキリと、骨が折れた音が響く。ライザーの身体が、僅かながら後退した。

 それを確認した小猫は、ライザーの腕を踏み台に、一気に飛びずさる。

 そこは、ポイントであった。

 雷が、龍の一撃が、滅びの魔力が、そこに集約される。

 不可避の状態。三者が放った最強の一撃が、ライザーを飲み込んだ。

 

「流石に、意識の一つや二つ、失った、よな……?」

「いいえ。イッセー。プレッシャーが消えていないわ。ライザーは健在よ」

 

 朦々と立ち上る煙。

 

「WRYYYYYYYY……」

 

 その中に立つ人影が一つ。

 

「認めよう……」

 

 その声が、響く。

 

「侮っていた……奢っていた……慢心していたぞ、俺は……」

 

 煙が晴れ。ライザーが現れる。その右腕は、肩から綺麗さっぱりと消えていた。

 

「あれだけやって、腕一本……! 化物かよ……!」

「この傷は甘んじて受けよう……この『レーティングゲーム』の間には……」

 

 ライザーは邪魔になった上着を脱ぎ捨てた。

 ライザーの放つプレッシャーが、増大する。

 

「アーカード! 『命令(オーダー)』だ! 決して手を出すな!」

「認識した、我が主」

 

 遠目から戦局を見ていたアーカードが応じた。

 

「……ッ」

「どうした 、来ないのか?」

 

 ドドドドドドド……その音は、心臓の音であった。リアスたちの心臓が、早鐘を打っているのだ。圧倒的プレッシャー。圧力そのもの。

 

「誇るがいい。俺の能力の一端を引き出させたことを」

 

 ライザーの背に、黒金の人型が現れる。

 リアスはそれを知っている。それの名を知っている。その人型は。

 

「っ……! 『神秘(アルカナ)』……! 気を付けて、皆! 時が止まるわ!」

「どう気を付けるんすか部長!」

「き、気合よ!」

「無理っすー!」

 

 現実は非情である。

 否。

 現実は非情以上に――非情である。

 

「悪いが……時止めは行わん……」

「え?」

 

 『それ』に気付いたのは、ギャスパーであった。

 『その』現実を視てしまったのだ。

 

「ラ、ライザー様……」

「なんだ、ギャスパー……」

「な、何を、したん、ですか……?」

 

 怯えている。ギャスパーが怯えている。

 それは割と見慣れた風景であった。あったのだが、その具合はいつにも増して怯えているのは明らかで。

 

「なに、って、なんだ……? ギャスパー」

「じ、時間の流れが不規則なんですよう……! ライザー様の能力は時を止めること……それなのに、今、時が加速したり減速したりしてるんですう……」

 

 『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』という時間に関わる『神器(セイクリッド・ギア)』の所有者であるからこそ、分かる、その感覚。

 時間とは不変のものでなければならない。その不文律をあっさりと破るその能力。

 いかにライザーが規格外の存在であるとは言え、ここまでではなかったはず。

 なのに。『神秘(アルカナ)』が現れた途端、世界の時が狂い始めたのだ。

 いつにも増してプレッシャーを放つライザーとその半身が、目を離せない。

 

「フ……我がスタンド『神秘(アルカナ)』の能力が、時を止めるのみであると、何時言った……」

「え……」

「ふむ、では教授してやろう……我がスタンド 『神秘(アルカナ)』の真の能力というものを!」

 

 ライザーから目を離せない。それだけの存在感が、彼にはあった。

 

「そも、時間とは何か……それは第四の次元よ……これを止めるということは、即ちッ! 四次元を繰るということッ! 『神秘(アルカナ)』とは、正しく神秘の体現ッ! 次元を掌握する力ッ! お前たちは一切の認識をすることなくッ! ただ敗北をするのだッ!」

「な、何を言ってるかさっぱり分かんねえ……」

「イッセー……」

「理解する必要はない……お前たちは、ただ、負ける。自分が何にやられたのかお前たちには分からぬ……」

 

 右腕を失っている『神秘(アルカナ)』が、蠢く。身構えるイッセー達であったが、それは、無駄な行為に等しい。

 なぜならば、『神秘(アルカナ)』が行う攻撃は、彼らの認識外からやって来るのだから。

 

「誇れ。この能力を使うのは、初めてなのだからなあ!」

 

 瞬間、『何か』が、爆ぜた。

 彼らが認識出来たのは、その時のみ。そして、その時には、もう遅い。

 

『リアス・グレモリー様の『僧侶』、一人再起不能(リタイア)

『リアス・グレモリー様の『戦車』、一人再起不能(リタイア)

『リアス・グレモリー様の『僧侶』、一人再起不能(リタイア)

『リアス・グレモリー様の『女王』、一人再起不能(リタイア)

 

 無情のアナウンスが響く。

 

「……む?」

 

 二人、足りない。

 ライザーはその疑問を晴らすべく、リアスのいた方を見た。

 そこにあったのは。

 

「イ……イッセー……?」

 

 イッセーがリアスに覆い被さっていた。

 それは、反射的な行動であった。

 ただ、想い人を守ろうというだけの単純な行動。

 

「へへへ……身体が勝手に動いちゃいました……」

「……ッ! ばか! 貴方は本当に……ばかなんだから……」

 

 『王』を守ったのではない。『リアス・グレモリー』を守ったのだ。

 

「ライ――」

 

 ライザーと声を上げようとして、リアスはその言葉を続けられなかった。

 

「………………」

 

 そこにあったのは、悪意であった。敵意であった。害意であった。

 憎悪と憤怒の入り混じった形相。

 リアスは、そんな顔をするライザーを知らなかった。

 いつも悠然と構えるライザーしか知らない。

 これは――なんだ。

 

「庇う? 庇っただと……? 貴様が、貴様か、兵藤一誠……!」

「ラ、ライザー……」

 

 たった一言。ただ名前を呼ぶだけで、どれだけの負担か。

 ライザーが一歩、進む。ただそれだけで、莫大な圧が、リアス達に降りかかる。

 

「兵藤、一誠……!」

 

 ライザーが拳を振り上げる。

 そして。

 

「そこまでにしておけ、オウサマ」

「……ッ」

 

 観客に徹していたアーカードが、そう言った。

 

「ククク、珍しいこともあるものだ……そこまで余裕のないお前というのも新鮮だな。だが、我が王よ――そこまで、だ。取り返しのつかないことをするのか?」

「アー……カードォ……!」

 

 拳が、下ろされる。

 

「否、否――この俺らしくもない……そうとも、落ち着くのだ、俺よ……激昂しやすいのは俺の悪い癖だ……掌握せねば……」

 

 左手で顔を撫でるライザー。その下から現れた顔は、いつもの余裕を持った表情であった。

 

『リアス・グレモリー様の『兵士』、一人再起不能(リタイア)

 

 イッセーの姿が消えてゆく。

 

「ありがとう、イッセー……」

 

 リアスは立つ。堂々と立つ。裸の王となった今でも、リアスの心は折れていない

 リアスの口から、真っ赤な血が一筋流れる。それは、己の不甲斐なさか、己への怒りか。

 

「ライザー……! まだ私はここにいるわ! 私がここにいる限り! 終わってはいない!」

 

 リアスの手に紅い魔力が集う。

 

「はあああああ!」

「否、終わりだ、リアス」

 

 突貫してきたリアスの全力を、ライザーは受け止めた。至極、あっさりと。

 

「お前はまだ弱い。弱いが……それだけじゃあない。滅びの魔力だけがお前の武器ではない……愛しき婚約者よ。もう一度、考え直すことだ。お前の強さというものを」

『『王』リアス・グレモリー様、再起不能(リタイア)。よって勝者はライザー・フェニックス様となります。皆様、お疲れ様でした――』

 アナウンスが、鳴った。

 

 

 

 

 

     ――○●○――

 

 

 

 

 

 リアスが目覚めたのは、医務室であった。眷属達は全員寝ている。

 

(ああ……眷属達を信用していなかったのは、私の方なのね……)

 

 ぐっすりと眠る眷属達を見て、リアスはふと、気が付いた。

 

(眷属は私の剣であり、盾……なによりも仲間……)

 

 信頼していただろうか、彼らを。

 どこか自分とは違うとは思っていなかっただろうか。

 それは、裏切りだ。自分を好き、付いてきてくれていた、彼らへの、どうしようもない裏切りだ。

 

「必ず、貴方の下へ……ライザー……」

 

 唇を触りながら、リアスはそう、決心した。

 

 

 

 

        ――○●○――

 

 

 

 

「――気付いたかね?」

 

 アーカードがライザーへ問う。

 

「気付くさ。絶対に気付く」

「随分な高評価だな、オウサマ」

「我が婚約者よ。我が敵よ。さすれば、この程度で止まるはずもあるまい」

「ほう……」

「あれはどこかで『俺』になろうとしていた節がある。だが、それは違う。あれの強さと俺の強さはまるで別種だ。然らば、強者となるにも別のアプローチが必要になるだろう……弱者でいるようなタマでもあるまい」

「ふ、そうかね」

 

 異空間から出たライザーが、歩く。その先に人影が二つ。サーゼクスと、グレイフィアだ。

「中々、面白いものを見せてもらったよ、ライザー」

「ふん、嫌味か? サーゼクス。もうあんな無様は晒さん。この感情は制御しなければな……俺らしくもなかった。それだけよ」

「いや、嫌味じゃないさ……君の予想外の行動に、我々はむしろ好感を持っているよ」

「好感、だと……?」

 

 ライザーの片眉が吊り上がる。

 先のイッセーで見せた感情。それは、ライザーの内では恥ずべきものとして処理されていた。今までに一切無かった感情だ。

 それが何であるか、ライザー自身ですら測り兼ねているものなのだが、サーゼクスはそれを、好感が持てると、そう言う。

 

「君が持て余しているその感情を、我々は知っているよ」

「待て。持て余しているだと? この俺が? そんなことはありえん……既にこの感情は我が制御下にある」

「いいや、それは封をしただけだよ、ライザー」

「………………」

「ライザー様。それは『恋』というものですわ。表出したのは、どす黒い部分でしたが、あなたは確かに、リアス様に恋をしているのです」

 

 グレイフィアの言葉に、ライザーの雰囲気に剣呑なものが混じり始める。

 

「……ふん。つまりなんだ、俺は、あのガキに嫉妬していたと?」

「そうだね。言葉にすれば、それが一番近いかもしれない」

「戯言だな……下らん」

 

 ライザーは、サーゼクスの隣をすり抜けた。

 口を真一文字に結んで。

 

「ククク、その正体には気付いているのではないかね? オウサマ。お前は理知的だ。単純な恋心が分からんほど間抜けではあるまい」

「………………」

 

 ここでやかましいというのは簡単だ。だが、それを言えば負けなことも重々承知だ。ライザーは無言を貫く。

 

「……リアスに伝えておけ。お前とその眷属はよくやったとな」

「おや、自分では言わないのかい?」

「ふん。勝者が敗者に向ける言葉など、そんなもので充分だろう……」

 

 ライザーの雰囲気は常のものに戻っていた。アーカードはその後ろをついて行く。

 

「なんというか……彼のとても人らしいものを見たよ、グレイフィア」

「ええ、そうですね、ところで――」

「なんだい?」

「頬を腫らせた姿では格好が付かないかと」

「……君がやったんだろう」

「私にそうやらせるようなことをしたのが悪いのです」

 

 

 

 

 

 




Q 結局『神秘』の能力って?
A 三次元では認識できない高次元から干渉するというもの。こう書くとチート臭いが、実際の威力は低め。というのも、近接パワー型の『神秘』が次元を経由して攻撃する超遠距離攻撃のため、ものすごく苦手な作業だからである
ハイスクールD×Dの世界では『停止世界の邪眼』を無効化出来るくらいの格になると、不意打ちくらいの威力しか発揮しない。早い話、時を止めてオラオララッシュを決めた方が威力が出る
この能力の真髄は次元干渉、つまるところ時間旅行、ビッグバンなどが可能になることだが、ライザーの趣味ではないので封印されている

Q ライザーの恋w
A 戦闘狂のライザーであるが故に、前世ではついぞ恋というものをしなかった。その皺寄せが現世に現れた形。ライザーにとっては正体不明の感情なのである
リアスとライザー。本当はどちらがベタ惚れだったかの話

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