不死鳥になりまして   作:かまぼこ

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同時に設定集も上げました。暇なときにでも。



一方そのころ兵藤一誠はレイナーレに殺されていた。



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不死鳥と吸血鬼

 

「アーカード。例のもの、仕上がっていますよ」

 

 あくる日、セバスチャンがそうアーカードに言った。

 

「ほう。見せてくれ」

「対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』。全長39cm、重量16kg、装弾数六発。もはや人類では扱えない代物ですね」

 セバスチャンが取り出した物は、黒く巨大な拳銃であった。そのサイズ、その重さ。拳銃と言っていいものなのか、分からないほどの銃。それをアーカードは片手で軽々と持ち上げ、試しに構えてみせる。

「私が使うのだ。人類は関係あるまい」

「専用弾13mm炸裂徹鋼弾」

「弾殻は?」

「純銀製マケドニウム加工弾殻」

「装薬は?」

「マーベルス化学薬筒NNA9」

「弾頭は? 炸薬式か? 水銀か?」

「法儀式済み水銀弾頭」

「パーフェクトだセバスチャン」

「感謝の極み」

 恭しく頭を下げるセバスチャン。一方のアーカードは、照準を合わせていた。誰でもない、己の主たるライザーに。

「これならば、大半の化物(フリークス)共を一撃で撃滅出来るだろう」

 そして、撃った。火薬の爆発する音、銃弾が音速を突破した音が響き、一直線に弾丸がライザーの眉間を狙う。

「やれやれだ……」

 しかし、弾丸は届かない。

 ライザーのスタンド『神秘(アルカナ)』が眼前で銃弾を摘んでいたからである。

 『神秘(アルカナ)』が指を放し、ライザーの手のひらにポトリと銃弾が落ちる。親指と人差し指から煙が出ていた。『神秘(アルカナ)』の受けたダメージのフィードバックだ。

 

「ふむ、流石に無傷とはいかんか」

 

 やや治りも遅い。脳髄に撃ち込まれていたら、やや厄介か、とライザーは判ずる。

 

「アーカード! 貴様ァ! 閣下に銃を向けるなど!」

「おお、怖い怖い」

 

 アシュタロスが怒髪天を衝く勢いでアーカードに掴みかかる。

 

「よい。脅威でもなんでもない……じゃれあいという奴だ……気にするなアシュタロス」

「しかし、閣下……!」

「よい、と言ったのだ……」

「……わかりました」

 

 アーカードに修羅のような眼光を向けて、アシュタロスは離れる。

 

「それはそうと、坊ちゃん。坊ちゃんから頼まれたものも、できていますよ」

「ほう……見せてもらおうか、セバスチャン」

「ええ、こちらになります」

 

 セバスチャンが取り出したのは、一振りの大剣であった。

 処刑人の剣をモチーフにしたそれは、黒く無骨である。得体の知れない禍々しさを放っている。

 

「ふむ」

 

 刃渡りが一メートル超、平べったく、相応の重さのある両手剣を、ライザーは軽々と片手で持ち上げる。

 

「ミラボレアスの素材をふんだんに注ぎ込んだ、私とアシュタロスの技術の結晶、大剣型『人工神器(セイクリッド・ギア)』銘は『ブラックミラブレイド』」

「ふむ……」

「お納めください、閣下」

 

 ブンと振れば、手に馴染むのが分かった。

 

「実にいいな。流石だ、セバスチャン、アシュタロス」

「ライザー・フェニックスの執事たるものこの程度のことが出来なくてどうします?」

「恐悦ですわ、閣下」

「だが、この『人工神器(セイクリッド・ギア)』はまだ完成していない……」

「ええ。今の状態は抜け殻です。ミラボレアスと契約し、この中に封じることで、その真価を発揮します」

 

 アシュタロスの言う通りである。

 聖書の神が作り出した『神器(セイクリッド・ギア)』。本来ならば人が持つべきそれを、セバスチャンとアシュタロスはその出鱈目な技術力の高さで作り出したのだが、それだけではまだ弱い。

 いかにセバスチャンとアシュタロスが優秀とはいえ、全知全能の神が作った真正の『神器(セイクリッド・ギア)』にはその性能は及ばない。

 『神器(セイクリッド・ギア)』にはかつて猛威を振るったドラゴンを封じたものも多い。往々にして、ドラゴンを封じ込めた『神器(セイクリッド・ギア)』は強力である。故に、ミラボレアス本体を使うことによって、その力の底上げを図るのだ。

 

「しかし、坊ちゃん。これ以上手札を増やしてどうするんです? 正直なところ、戦力過多のような気もしますが」

「切れる手札は増やしておいたほうがいいだろう。何がどう作用するかはわからんものだ」

 

 ライザーが狙うのは、魔王の席。更にはその先の大魔王の座。準備は念入りにしておくに越したことはない。

 

「まだだ……まだ足りんのだ。サーゼクスとの死闘……奴と戦った時に、奴は切り札を切らなかった。それが差というものだ……今ならば、奴とその眷属と戦えば勝てるだろう。だが、奴にはアジュカもいる。グレモリーの引きのよさは最早悪徳もいいところだ」

 

 アジュカ・ベルゼブブ。サーゼクス同様、悪魔を越えた、悪魔外の悪魔。超越者。

 その存在が、ライザーを未だ足を踏みとどまらせている原因であった。四大魔王を刈り取ることは出来る、出来ないならば、出来る。

 しかし。

 

「四大魔王を下せば魔王という称号を奪取出来るわけではない……我が目的の為には、魔王という肩書きは必須なのだ……加え、被害も相応のものになるだろう……それではまだ足りん……」

 

 庭に出たライザーは、黒龍 ミラボレアスを喚ぶ。空から降りてきた黒龍が黒き光となり、ブラックミラブレイドに吸い込まれる。空っぽだった器に力が宿ったのを、ライザーは感じた。

 ブラックミラブレイドが放つ禍々しさが数段増す。ライザーの手の中でどくん、と脈打った。

 

「ふむ、いい感じだ……馴染むな……」

「どうです? 坊ちゃん。試し切りなどしてみては」

「ああ、丁度考えていたところだ……」

 

 ライザーは力を込める。魔力を送り込み、神器に封じられたミラボレアスが呼応する。黒き魔力が充填され、バチバチと刃から魔力が漏れ出す。

 

「シッ」

 

 一振り。そう、一振りであった。

 半月の軌跡を黒き刃が描き、そして。

 冥界の空が裂けた。

 

「ほう……」

「これは……」

 

 思わず吐息が漏れるほど。圧巻の力量である。

 

「正直なところ、使いこなせるとは思っていなかったんですがねえ……」

「だから言ったのだ、閣下を疑うだけ無駄だと」

 

 黒龍ミラボレアス。邪龍とも呼ばれるその龍の素材を使うとは、どういうことか。それは、呪いを受けることと同意といってもいい。事実、製作過程において、セバスチャンとアシュタロスは不可解な現象の数々に見舞われていた。

 ましてや、その根源たるミラボレアスを封じた今のブラックミラブレイドは、魔剣の中でも凶悪な『呪い』を秘めていることだろう。

 だが、ライザーはそれを真正面から、力で押さえつけたのである。

 

「俺を誰だと思っている、セバスチャン。ライザー・フェニックスぞ。汝らが『(キング)』ぞ。言葉を返そう。貴様らの『(キング)』足るもの、この程度のことが出来ずになんとする?」

 

 剣を地面に突き立てる。みしりと音を立て、地が割れる。

 ライザーの身体から火の粉が漏れ出す。魔力が漲っている証だ。

 

「それでこそ、でしょう……坊ちゃん。貴方こそが私の『(キング)』です」

「そうだろうとも。我こそライザー・フェニックスよ……!」

 

 ライザーは、ブラックミラブレイドからミラボレアスを解放し、剣のみとなったそれを、亜空間にしまい込む。

 

「さて、それで……俺に何か用かね……ギャスパー・ヴラディ」

「は……はいぃ、ライザー様ぁ」

 

 ライザー邸仕様のメイド服を纏ったギャスパーは、頷いた。

 

 

 

    ――○●○――

 

 

 

「助けたい人がいるんです」

 

 場所を変え、ライザーは豪奢な椅子に座っていた。

 目の前の悪魔の覇気に気圧されないよう、ギャスパーは限界まで精神を奮い立たせながら、言葉を発した。

 

「助けたい人、か……彼女か何かか?」

「ヴァ、ヴァレリーは、か、彼女なんかじゃないですぅ……」

「ほう、ヴァレリーというのか。その助けたい女は……」

「は、はいぃ」

「聞こうか」

 

 暇つぶし程度にはなりそうじゃあないかと、ライザーは言う。

 

「ぼ、僕は、この眼この『神器(セイクリッド・ギア)』……『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』のせいで迫害されてきました……その時、助けてくれて……僕が吸血鬼の里から逃げ出した時にも助けてくれた、恩人なんです……」

「なるほど……それは大恩という奴だな……」

 

 吸血鬼は、その血の純血性をなによりも重視する。ハーフヴァンパイアであるギャスパーは純血でない。それだけで白眼視されてきただろう。ましてや、時間を止めるという強力な『神器(セイクリッド・ギア)』持ち。

 迫害される理由は十分である。

 

「だが、なぜそれを今、言うのだ?」

 

 タイミング。それがおかしい。ギャスパーが『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』の制御の為にライザーに世話になって数年。今まで言わなかったことを、なぜ、今になってなのか。

 

「わ、笑われるかもしれません……」

「内容によればな」

「自分でもおかしいと思ってるんです……」

「それを判断するのは、この俺だ。貴様ではない」

「ゆ、夢を見たんです……」

「夢?」

 

 ライザーは聞き返した。

 

「ヴァレリーが、助けてって言ってくる夢でした……」

 

 しかし、それは夢というにはあまりにもリアリティがありすぎたのだと、ギャスパーは言う。

 

「お、おかしいですよね。ただの夢なのに……」

 

 ギャスパーはギュッと、スカートの裾を握る。

 

「否、そうでもないぞ……ギャスパーよ。世の中には縁というものがあるのだ……! 我々超常の存在が見る夢は時にそれだけで『啓示』となりうるのだ。それが縁深きものならば尚更よ」

「信じて、貰えるんですか?」

「疑ったところでどうしようもあるまい。そいつもハーフなのか?」

「は、はい」

「ならば尚更だな……その女ダンピールも貴様と同じように迫害を受けている可能性も高い……」

「や、やっぱり……ただの夢じゃ……」

「ないだろうなァ。しかし、夢に現れるというのは少しばかりまずいと、そう言わざるを得ないな」

 

 夢とは、一つの異界だ。あの世とこの世の境とも言える。

 そんな夢に出てくるということは、のっぴきならない状態にある可能性が高い。

 

「お願いします! ヴァレリーを助けてください! ヴァレリーに、お日様の下を歩いてもらいたいんです!」

「それだけか?」

「え?」

「それだけかと聞いている。ギャスパー。お前の前にいるのは、なんだ? 悪魔という奴だ。なれば、相応の供物を、対価を捧げるのが道理ではないのかね……?」

 

 これは、悪魔の契約である。

 ライザーは言った。

 

「ぼ、僕に差し出せるものなら、なんだって差し出します! 身体でも、魂でも!」

「NO。お前の肉体、魂の所有権は俺にあるが、元を辿れば、リアスのモノだ……お前に差し出せるモノではない」

「……っ」

「下級悪魔とは、そういうものだ。さて、どうする?」

 

 ギャスパーが取ったのは、土下座であった。

 

「お願いします……! お願いします……! お願い、します……!」

「何も渡すものがないのにか?」

「はい……!」

「吸血鬼と悪魔の戦争の引き金になったとしてもか?」

「はい……!」

「その結果、どうなってもか?」

「はい……!」

 

 ライザーが立つ音を、ギャスパーは聞いた。

 駄目だった。絶望感がギャスパーに纏わりつく。

 コツコツと足音が通り過ぎる。

 

「アーカード」

「なんだ?」

「使い魔を飛ばせ。吸血鬼の里の内部を調べ上げろ。期日は明日の夕暮れまでだ」

「認識した、我が主……ククク、素直じゃあないな」

「今回貴様、雑用。ドゥー ユー アンダスタンド?」

「やれやれだ……」

 

 アーカードの姿が無数の蝙蝠に変わり、羽ばたく。

 

「な、なんで……」

「男が土下座までしたのだ。応えぬわけにはいくまい。もっとも、対価は貰うし、俺がどのような行動を取ろうとも、お前には拒否権は発生しない。だが、必ずヴァレリーとやらは吸血鬼の里から連れ出す。そういう契約でいいな」

「は、はい! ありがとうございます!」

「礼には及ばん……契約だ」

 

 人はそれをツンデレと言うのですよ、坊ちゃん。ぼそりとセバスチャンが言った。

 

 

 

    ――○●○――

 

 

 

 翌日。ライザーはアーカードが調べ上げ、セバスチャンが纏めた資料とにらめっこをしていた。

 高度八五〇〇〇のところを、速度マッハ二.八で移動しながら。

 無論、生身ではない。立派な飛行機に乗っての不快適な空の旅の中である。

 

「EXP-14LIE高高度実験機……機体名などどうでもいいが、もう少し広くは出来なかったものか」

「高度と速度を出すためだけに作られた機体だ。ファーストクラスの対応を求める方がお門違いというものだろう、オウサマ」

「狭くていいと思います……」

「やかましい。万年引きこもりめ」

 

 ドカッと膝の上に乗った段ボールに蹴りを入れるライザーであった。ヒィイと悲鳴が上がるが、気にも止めず。

 狭い操縦席の中、ライザーたちは詰め込まれる形で搭乗していた。ライザーが操縦席に座り、ギャスパー入りの段ボールを膝に乗せ、ライザーの影に潜むアーカードが影を伸ばし、操縦をするという構図である。

 そも、どうしてこうなったといえば、ライザーが駒王町に顔を出したのが切っ掛けであった。リアスに事の次第をオブラートに包み(誤魔化して、とも言う)、説明、それから吸血鬼の本場、ルーマニアに向かおうとしたためである。

 日本とルーマニアには実に離れている。その距離を埋める為には転移が一番なのだが、いくらなんでも、強襲先に直接跳ぶのは相応のリスクが伴う。アーカードという余所者が侵入したのは勘のいいものならば気付いて然りと言ったところであった。

 故に、途中まで人間の移動手段である飛行機をあえて使い、潜入するという手法をとったのだが――その乗り心地までは計算に入れていなかったということである。

 

「しかし、しかしだ……」

 

 居心地の悪い飛行機の中で、ライザーは資料に眼を通す。

 アーカードがもたらした情報をセバスチャンが紙に直すや否や飛び出してきたため、全てを目に通したわけではない。

 

「ヴァレリー嬢のフルネームがヴァレリー・ツェペシュだとはな」

「は、はい……ヴァレリーはハーフヴァンパイアだけど、王族なんですぅ……」

「いや、王族だが、ハーフだといったところだろう……」

 

 吸血鬼が餌に手を出すのはそう珍しいことではない。

 そして、王族。なんでも、吸血鬼には男尊女卑のツェペシュ派と女尊男卑のカーミラ派があり、争っているらしい。

 

「ツェペシュとはな。因果なことだ。そうは思わないかね、アーカード」

「私自身の末裔ではない。そう名乗っているだけに過ぎん」

「ふぇ?」

「単純な話だ。ギャスパー。ここにいるアーカードこそが、ヴラド三世そのもの、吸血鬼ドラキュラというだけよ」

「えええええええええええええええ! 嘘ですよね! だってだって……」

「こちらにも込み入った事情というものがあるのだ」

 

 そうですか、とギャスパーは呟く。触れられぬものには敏いギャスパーであった。

 

「もっとも、俺はそんなことはどうでもいいのだ。どうでもな。王族であろうと、庶民であろうと変わりはない。奪い取る。それだけよ」

「は、はあ……そうですか。ライザー様」

「ああ。むしろ問題なのは、『聖杯』だ」

「せ、『聖杯』?」

「吸血鬼の手にあるのだ……『聖杯』……『神滅具(ロンギヌス)』……『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』……! 厄介というレベルではない代物だな」

「ろ、『神滅具(ロンギヌス)』……その、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』というのはどのような……」

 

 段ボールの隙間から目だけを覗かせながら、ギャスパーが問う。

 

「生命を弄る『神器(セイクリッド・ギア)』だ……いや、弄ぶと言ったほうが正しいか。なんにせよ、ロクな代物じゃあない。いっそのこと、俺の手でぶち壊してやりたいくらいだ……」

「ふん、気が合うな。オウサマ。私も同意見だ」

「そ、そんな物なんですか?」

「――神が何を思って作ったのかわからないようなものだな」

「連中、その『聖杯』を使って、より死なない吸血鬼と化そうとしているらしい」

 

 アーカードが吐き捨てるように言う。

 ギャスパーは場の空気がピリピリとし始めたことに気がついた。しかし、それをどうこう出来る力をギャスパーは持っていない。

 ガタガタと震えそうな身体を抱えて静かにするくらいのことしか出来ないのだ。

 

「全く、知性というものを持つと、どうしてそっち方面に行きたがるのか……」

「因果というものだ。あれを得れば、これが欲しいと、そういうものだろう」

「あ、あの……それで、それが、ヴァレリーと何の関係が……?」

「なに、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』……それの宿主が、ヴァレリー・ツェペシュだというだけだ」

「え……そ、そんなことないです! ヴァ、ヴァレリーは『神器(セイクリッド・ギア)』なんて持ってませんでした! ましてやそれが『神滅具(ロンギヌス)』だなんて……!」

「お前と別れた後に発現したのだろう……『神器(セイクリッド・ギア)』の保有者(ホルダー)が後天的に『神器(セイクリッド・ギア)』に目覚めることなど、よくある話だ……逆に一生の内に目覚めないこともある」

 

 むしろ、目覚めない方が幸せだったのかもしれないな、と資料を読みながら、ライザーは言った。

 

「そんな……」

 

 ギャスパーは考える。時を止める己が迫害されたのだ。命を操るヴァレリーはどうなるだろうか。

 

「お前の心配しているようなことは起きていないと思うぞ。むしろ丁重に持て成されていることだろう」

「え……?」

「ああ、人徳があるとか、王族だからとかじゃあないぞ……至って単純、利用価値があるからだ。吸血鬼を弱点なきものに出来うる力! 生命の限界を突破出来る力! とっぱらえるのだ……ギャスパー。それがどんな欲を引き寄せることか! ククク……迫害されている方がマシだと、そう思える扱いかもしれんぞ」

 

 命そのものを操る――それは神にも等しき所業。

 それが、いとも容易く出来てしまうのだ。

 

「そ、そんな……」

「故の助けて、だろうさ……」

「た、助けなきゃ……絶対に、助けなきゃ……!」

「お姫様を助けるのは、王子様の仕事だが……お前、確か」

「メ、メイド服ですぅ……」

「だったな」

 

 ライザー邸メイド印の給仕服を着て段ボールにインしているギャスパーであった。

 ヴァレリー救出にそれなりの装いというものがあるはずだが、そんなことは関係ない。そも、助け出すのはライザーである。

 

「まあ、メイドが助けに行くというのも斬新でいいんじゃあないかな……」

「斬新さなんていらないですぅ……」

「安心しろ。俺もいらん」

 

 と、そこで。アーカードが会話に入ってきた。

 

「機体に異常アリだ、オウサマ」

「む。そうか」

「冷静ですけど……それって大丈夫なんですか?」

「……車で喩えるならば、エンジンに異常がある状態だ……放っておくと……」

「放っておくと?」

 

 ごくり、とギャスパーは唾を飲む。

 対してアーカードはどことなく面白げに続けた。

 

「落ちるな」

「ええええええええ!? 待ってください! それって大問題ですよぉ!」

「ああ、言い忘れていたが……」

「な、なんですかぁ? ライザー様ぁ……」

 

 もしかしたら希望があるのかもしれない。そう思ったギャスパーであったが。

 

「俺の乗った飛行機がきちんと目的地に着いたことはない」

「はえ?」

「分かりづらかったかね、ギャスパー? ならばもっと簡単に言おうじゃあないか……」

 

 手を組みながら、ライザーは言う。

 

「俺の乗った飛行機は、落ちる」

 

 希望なんてなかった。

 

「ひぃいいぃいん! ごめんなさいヴァレリー! 君に会う前に僕は死んじゃうぅよぉぉおお」

「俺は死なないな」

「私も死なないな」

「おふたりは特別製じゃないですかー! やだああああ!」

 

 不死という意味ではライザーとアーカードはぶっちぎりである。

 そして、ギャスパーは並である。飛行機事故になど巻き込まれたらひとたまりもない。

 

「ここでお知らせだ。オウサマ」

「なんだ」

「まもなく吸血鬼の里だ。コースは一直線直撃。さて、どうするかね」

「丁度いいではないか……行け」

「え、え? でも、そんなことしたら大惨事ですよおおおお!」

「関係ない。行け」

「ひ、ひいいいいい!」

「それでこそだ。我が主」

 

 飛行機を最大まで加速させながら、アーカードはそう言った。

 加速しながらも、飛行機は落ちてゆく。その先には、ギャスパーに見覚えのある大きな城が一つ。

 

「いやあああああああああああああ!」

 

 フェニックス ルーマニアツアー御一行様。

 日没とともに、吸血鬼の里に到着。

 

 

 

 ……墜落。

 

 

 

 

 




ブラックミラブレイド(モンスターハンターシリーズ)
MH4Gでは最強のひと振り。ほぼ全てのモンスターに最適解となる化物大剣である。
原作ではただの(?)大剣だが、こちらでは諸々の魔改造を施されている。

Q あれ、これって……
A 十六巻。一巻 二巻から始まるといつから錯覚していた?
諸々のバタフライ・エフェクトでこちらから。勿論、十六巻以前もやります

Q セバスとアシュタロスすげえな
A 二人の技術力は世界一ィィイイイイ!

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