リアス・グレモリーは、少しの困惑を持って、その家に足を踏み入れた。
父、グレモリー卿から、婚約者の存在を知らされたのである。それも、酒の席から帰ってきた時に。
いわゆる酒の勢いで婚約を結んだわけである。勿論、早々に亜麻色髪の絶滅淑女がご降臨なされたわけであるが、しかし。いかに酔っぱらいの言ったこととはいえ、グレモリー家は貴族。はいそうですかと発言を翻すわけにもいかない。
相手方も貴族であれば、尚更である。――相手も酔っていたようだが。何にせよ、何にせよである。これは由々しき事態と、こうしてリアスは、殴り込――カチ込――訪問あそばされているわけである。
相手は、リアスよりも年上。とは言え、基本長寿の悪魔から見て、さして年が離れているというわけでもなかった。三男坊の彼は、最近親元から独立したばかりで、良いことは続いた方がいいということらしかった。
婚約者だからといって、すぐ結婚するわけではないのだが、酔っぱらいの妄言であるから仕方がない。
重要なのは、独立を済ませ、かつ爵位持ちであるということ。
かといって、リアスに怯むつもりはない。歴史あるグレモリー家の長女。魔王の妹。なによりこの身はリアス・グレモリーだからして。一級の貴族としてのプライドがそこにはあった。とはいえ。人はそれを無鉄砲、もしくはじゃじゃ馬とよぶわけだが。
家柄自体は、大概の婚姻がそうであるように、嫁(グレモリー)側の方が格が高い。
だから、一歩も譲ってやらない。生来の気の強さもあって、リアスは戦争を仕掛けるような心構えで、その邸を訪れたのである。
「ようこそおいでになりました。リアス・グレモリー様」
「ええ。お邪魔させていただいているわ」
リアスを迎えたのは、執事と列に並ぶメイドたちだった。
柔和な笑みを浮かべる、長身の美丈夫。黒い髪と赤い瞳は、執事服の黒とよく合っている。見た目には人畜無害なようにも見えるが、中々に位の高い悪魔であるらしいことが窺える。
「でも、私、そちらに連絡を入れたつもりはないのだけど」
抜き打ちである。本来ならば、褒められたことではないが、リアス・グレモリーというまだまだ幼さを残す少女は、鉄砲玉のような少女であった。
「急なお客様でも、問題なくお迎えをするのが、従者である執事でございますから」
「……むう」
抜き打ちの意味がいきなり薄まったか。
一先ず、リアスは気を取り直す。
「あなた、彼の従者なのかしら?」
「はい、レディ。僭越ながら、主より騎士(ナイト)の駒を頂戴いたしております」
「残念ね。フリーなら放っておかなかったのだけれど」
「恐縮でございます」
リアスから流れるように上着を受け取りながら、執事はにこやかに言う。
リアスの評価はその時点で食えないタイプであるということに決定付けられた。一筋縄でいかないタイプだとも。
「そこのメイド達も、彼の配下なのかしら?」
「彼女達は駒を頂いておりません。あくまで、ごく一般なメイドでございます」
「……兵士(ポーン)ですらないの?」
礼をするメイド達。彼女達も只のメイドではない。場所が場所ならば、女王(クイーン)に成りうるものもいるのではないか。
上に立つものとして、人物を見抜く力を鍛えられてきた彼女。ある程度ならば実力を量ることは出来る。
そういう面では、この彼も、王たる器と言ってもいいのではないか。
やや面食らったが、自分の婚約者になった男ならば、それくらい当然だと、気合いを入れる。
「あなた、名前は?」
「セバスチャン・ミカエリスと申します。リアス・グレモリー様」
さあ、こちらへ、と言われ、リアスはセバスチャンと名乗った執事に付いていく。
邸内は、建てられてから大分年数が経過しているようだった。古さではなく、重さを感じる。元々建設されていたものを流用したのだろう。無駄がないといえば、無駄がない。
リアスとしては、自分の家ならば、自分で作りたいところであるが。そういった思考が出来るのは、恵まれた悪魔だからであろう。領地経営に失敗すれば、慎ましく生きていかなければならない。グレモリーはエリートだからして、そんなものとは無縁だが。ここの主も、そういう理由ではなく、ただ合理的に動いたのだろうということは予想がついた。
ちらちらと辺りを見回すリアスに、セバスチャンは背を向けながら、うっすらと口元に笑みを浮かべていた
リアスには勿論気取られていない。
(中々、面白い方のようですよ、坊っちゃん。貴方の婚約者というのは)
柔らかな物腰の彼であるが、結局は悪魔。その内は底意地が悪かった。
己の主以外には、リアス・グレモリーの来訪を告げているのである。
主にだけは、告げていないのだ。
素敵面白空間が出来上がれば、よし。ラブコメ調があっても、よし。従者から送る、ちょっとしたサプライズである。
一癖も二癖もある従者であった。
「……っ! なにかしら、急に寒気が」
「おや、御召し物をご用意いたしましょうか」
「いえ、大丈夫よ。気にしないで」
そう、気にすることでもないだろうと、リアスは判じた。身体健康的にも、精神衛生的にも正解である。
自室にいるという、彼を見定める為に、リアスは歩を進める。
赤い絨毯を敷き詰めた廊下に足を沈め、リアスは(本人としては)抜け目なく観察を続けていたから、彼女に気付けた。
「セバスチャン。そちらは?」
廊下の角から現れたのは、またしても悪魔だった。
ここは悪魔の居城なのだから、それはそうなのだが。
「リアス・グレモリー様です。坊っちゃんにお逢いしたいと」
「ふむ、彼女が……なるほど、面影はある、か」
女性は、リアスを見て何かに納得したようであったが、肝心のリアスはそれどころではなかった。
(な……なんて戦闘力……!)
といっても、それは、力のことではない。
彼女の肉体の一部分、バストだった。
巨……否、ここまで来れば、もはや爆。胸という名の暴力。バストレボリューション!
最近膨らみを持ってきた胸を思わず抱える。リアスはそれなりに発育のよい方だと思っていたが、それを粉砕された。
化物である。
もっと、ウェーブのかかった金髪であるとか、頭からメリノ種の角が生えているとか、いやにエロティックな衣装であるとか、セバスチャン以上の魔力を秘めているとか、色々とあるはずなのだが。
リアスの意識はそこにだけ行っていた。
「初めまして、リアス・グレモリー嬢。アシュタロスといいます。クラスは僧侶(ビショップ)です」
「え、ええ。よろしく。リアス・グレモリーよ」
手を出されたので、握手で応じる。
「アシュタロス……? アスタロトと関係が……?」
「ある、とだけ言っておきましょうか。しかし、あまり深入りするのは、淑女らしくないとも思いますが」
「ええ。も、勿論よ」
迂闊にも、質問を重ねようとしておたリアスは密かに冷や汗をかいた。
悪魔の従者には何かと一物あったりするので、時には探りすぎは御法度なのである。
「それにしても、リアス様は運がいい」
「運が?」
妖艶な笑みを浮かべるアシュタロスに、リアスは首を傾げる。
「ええ。我が主の配下には癖の強い、狂乱の存在が多い。私やセバスチャンはまだまともな部類。理性が大きく欠如した連中は丁度、この邸を離れていますから」
「狂乱……?」
狂乱の存在。端的に言われた言葉だが、そこには、リアスを怯ませるだけの言霊があった。
それを、治めている男がいる。
「『理性の欠如した連中』とは。言ってくれるな、ディアボロス。その中に私は入っているのかね?」
「……!」
アシュタロスにからかい混じりの苦言を呈しながら、壁から現れた存在がいた。
それは、少女である。真っ白な毛糸の帽子を被り、白いコートから何から、白で埋め尽くした衣装。切り揃えられた、真っ黒な髪。
見目麗しい少女だが。しかし。
(声ふと……! 女の子よね……! おじさまみたいな声してるわよ……!)
なぜか声がテノールだった。
「私に姿形など、大概意味がないのだよ、メスガキ」
「メ……! メス……!」
「アーカード。彼女は客人です」
「知ったことではないな。何分、私は理性が大きく欠如しているものでね」
セバスチャンに、くっくっく、と含み笑いを向ける彼女は、その幼い顔に反して、狂気が滲み出ていた。
「……閣下の顔に泥を塗るつもりか、血吸い蝙蝠」
「ハッ、閣下(パパ)、閣下(パパ)と。だっこされていなければ泣きわめくのかね? 大悪魔サマ」
「……貴様」
空間に魔力と殺意が充満し始めた。
「二人とも。お客様の眼前です」
パンパンと手を叩き、セバスチャンがその場を納める……いや、圧迫感は変わらない。
ただ、注意を向けただけだ。
(なんて魔力なの……! それに、こんな魔力に平然と割って入るなんて……! 普通は無理よ!)
リアスは、どこか相手を嘗めていた のだろう。従者や護衛の一人も付けず、ここに来た。だが、ここは悪魔の巣窟、パンディモニウム。
折れぬように、リアスは気をしっかり持つ。
「……申し訳ございません。リアス嬢。私には少々やることが出来ましたので、退出させていただきます」
「素直にヤキ入れるといったらどうかね? アシュタロス」
「……貴様。今十回は殺せたぞ」
「あー、やだね、これだからババ……BBAは。沸点が低くて仕方がない。小皺が増えたのではないかね?」
「……ざっと四百万も殺せばご破算か? 兵士(ポーン)」
「出来るものならばな、僧侶(ビショップ)」
アシュタロスは姿を消し、アーカードは影に沈んでいった。
瞬間、世界に温度が戻る。
冷えきっていた空気が、息づいたのだ。
「お目苦しいところをお見せいたしました、グレモリー様。皆、我の強いものばかりでして」
「いえ、気にしていないわ。大丈夫。あれくらいの方が、むしろ有用なんじゃないかしら」
「そういって頂けると、ありがたいです」
リアス自身、自分が優秀であると思っている。それは、傲りでもなんでもなく、事実だ。しかし。彼らは、また、格が違った。彼らとは、まだ、格が違った。彼らには、才能だけではない。積み重ねてきたものがある。
その歴史。その重さ。リアスにはまだ手に入っていないものであった。
では。それを束ねる存在とは何であるのか。
齢はさして変わらぬと言われた。
だというのに、あそこまでの曲者を率いているのだ。
『王』とは。ただ支配すればいいのではない。押し付ければ、必ず軋轢が生じる。
事実、配下に殺されるという失態を犯す悪魔がいるのも事実。だが、そういう連中と、未だ見ぬ『彼』は、根底から違うことを、リアスは感じ取っていた。グレモリー家のリアスがではない。リアス・グレモリーという少女のその本能がけたたましく鳴いているのである。
それは、紅い髪の少女を引き締めるのには充分であった。こちらになりますと、セバスチャンが言った扉の前に、リアスは立った。
見定める。その目的に変わりはない。しかし、同時に挑んでやると思ってもいる。
グレモリー家に、リアス・グレモリーに真に釣り合えることが出来るのか。
セバスチャンがノックをする。
獅子の金細工が施されたドアノックハンドル。それを四回叩く、それだけの動作が、リアスにはやけに長く感じた。
「入れ」
第一声。
リアスが初めて聞いた、声。
ドア越しの上、そう大きくもない声だが、確かにリアスの鼓膜を震わせる。
「失礼します、坊っちゃん。お客様です」
「客?」
セバスチャンが、扉を開けた。両開きの扉が開けられ、部屋の中へと視線を招く。
広い部屋であった。寝室でもあるらしく、ベッドが隅に置いてあった。天蓋付きの、豪奢でありながら、落ち着きのあるベッドだ。その上に、彼は座っている。
片手に西洋芸術の画集を持ち、片手にワイングラスを持ち。月光の下に、彼はいた。
「リアス・グレモリーだな。初めまして、婚約者。俺がお前の婚約者であるライザー・フェニックスだ」
紅い髪。それは、リアスの髪だが。今こうして相対した男もまた、赤い髪であった。燃え盛り、天を衝く焱のような、髪。瞳も、光の少ない夜の中で炯炯とその存在を一際輝かせていた。
眼光。その言葉をそのままの意味で痛感する日が来ようとは思いもよらなかった。
男、ライザーは自然体だ。リラックスしていると言ってもいい。睨んだわけではない。目が合ったのだ。
それだけで、リアスは目を離せなくなった。
美しい。その煌めきは、リアスの見てきたどんな宝玉よりも美しかった。
「どうかしたか」
「いえ、なんでもないわ。フェニックス伯爵」
「律儀な敬称を付けなくてもいい。どうせ、すぐ別のものになるものだ。名字もだ。名前で呼びたまえよ、グレモリー嬢」
「……貴方自身がそう呼んでいるのに、私が親しげに呼ぶはずもないでしょう」
「それもそうか」
完全に、プライベートだったらしい。ライザーは上半身に服を着ていなかった。
大気に晒される素肌には、無駄というものが著しく欠如していた。磨き上げられたような肉体は、彫刻家の作品と言われても、違和感を持たないだろう。大理石ではなく、肉で出来ているだけが唯一の違いだ。
その均整な体躯、貎からか、男とも女とも言えない、匂い立つような色気が立ち上っていた。
「それで? なにか用かな、リアス嬢。見ての通り、俺は夜の楽しみを粛々と行っていたところなんだが」
「……邪魔したことについては謝罪するわ。それと、いきなり来たことも」
「ァー、そうか。なるほど、イメージ通りだ」
「……!」
リアスが口を開いたその時だった。
「次にお前が言う台詞は、『なぜ私のことを知っているのかしら、ライザー』、だ」
「なぜ私のことを知っているのかしら、ライザー……はッ!」
「更に続けて言う台詞は、『貴方心が読めると言うの』、だ。それに対し、俺はNO、と答える」
「貴方心が読めると言うの……!」
「NO、だ。リアス嬢。俺はお前の心を読めたりはしない。だが、この程度ならば、展開を読める。ああ、今言おうとしているのは、未来が視えるのかと言ったところか。それにもNOと答えておこう。俺にはただ、前知識があったにすぎん」
手玉に取られている。ほんのわずかなやりとりで、嫌が応にでも理解させられたのだ。だが、ここで退いてしまうことは、リアスの矜持が許さない。
「前知識? 私のことを調べていたのかしら?」
「なに、妹のことを喋りだすと止まらない奴がいるだけだ」
「お兄様と知り合い、というわけね。また迷惑をかけているのかしら」
リアスの兄はいい兄ではあるのだが、如何せん、その溺愛振りは妹の目からしても、悩みの種だった。
「知り合い、どころか、殺し合いすら演じた仲だ。サーゼクスの奴とは」
「殺し合い……!?」
悪魔同士の殺し合いは、禁止されている。
先の、大戦。悪魔、天使、堕天使の三つ巴で行われた大戦争。人間界をも巻き込んで地獄は繰り広げられ、その果てに、悪魔の数は激減。名家のものも例外なく消えていき、悪魔同士の私闘は、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を用いるレーディングゲームという代理戦争で片付けるはずだが。
そのルールを破ったことを平然という。しかも、リアスの兄、サーゼクスは、魔王。それとの殺し合い。どれだけのものなのか、分かっているのだろうか。
「お前は天使なのか? リアス嬢。悪魔だというのなら、契約の裏をかくことくらいしてみたらどうだ」
「悪魔は契約を違えないわ。天使よりもよっぽど職務に忠実ではなくて?」
「騙り、騙しこそが悪魔の真骨頂、華というものではないのかね?」
「それは下級で、低級な、三流悪魔がやることだわ。私は違うもの」
「誇り高く、結構」
「そんなことはどうでもいいわ。お兄様との殺し合い? あなたが? どういうことか説明して頂戴!」
リアスは兄の実力を良く知っている。魔王の地位に着いた彼と戦うという行為自体が馬鹿げているし、上下関係や身分の差がはっきりとしている悪魔ならば、それはどんなデメリットを呼び込むかなど、考える間でもないはず。
なぜ、今こうして、この男はここに生きているのか。そんな男と、なぜ自分が婚約者になったのか。
「聞きたがりの、知りたがりだな、お姫様」
「茶化さないで!」
「もう少し会話というものを楽しんではどうかね? フロイライン」
まあ、いいか。とライザーは呟き、指を弾いた。パチン、と乾いた音が響き渡る。
「セバスチャン。レディーに飲み物を用意して差し上げろ」
「既にご用意してあります。坊っちゃん」
「よろしい」
いつの間にか。いつの間にかの出来事だった。ライザーのすぐ側に、バトラーが一人、立っていた。
リアスを案内してきた執事。その手にはワインの置かれた銀の盆。グラスに注がれたそれを、リアスは渡された。
リアスが受け取ると、セバスチャンは影のように消えた。
そうして、また二人だけの空間になる。
(わざわざワインを用意させたのは、話す気があるということ――けれどそれとは他に、『落ち着け』という意味も含まれているわ。私は、嘗められている)
未熟であるということは、認めよう。兄や両親のようには成れていない。それは事実だ。けれど、こうして挑発染みた真似をされるのとはまた別だ。
(怒ってはダメ……怒ってはダメよ……リアス……! 怒ってしまえば、負けだわ)
度量を見せつけるのだと、リアスは言い聞かせる。
「サーゼクスと俺は本気で殺しあったが、同時に、友である」
「嘘でしょう!?」
叫んでしまった。
「嘘ではない。そも、フェニックスとグレモリーは家ぐるみでの付き合いだ。俺とサーゼクスに親交があってもおかしくはないだろう」
「友なら、殺し合いなんてするわけがないでしょう! おかしいわ! そんなもの!」
「若い! 若いな、リアス嬢! そして純情可憐! よくもまあ、ここまでの純粋培養が出来たものだ。いいか、友人であるからといって、殺す殺さないの関係にならないと思わないことだ。いや、むしろ、繋がりがある分、余計に殺し合いに発展しかねない。少なくとも、俺の生はそうだった。心からの友を一人、死に追いやったぞ。しかしそれは別段、珍しいことでもなァい。肉親同士の殺し合い、愛し合うものたちのグランギニョルなど、掃いて捨てるほどにはありふれたケースだろう」
友を殺した。それを平然と男は言う。その口振りには、憎悪も、悲哀も、なんの感傷もない。
ただ、あるがままの事実を伝え、そこにあることだけを言っている。
「なぜ、そんなことが言えるの……! なぜ、そんなことをできるの……! 悪魔だからといって、そんなことをするなんて、正気の沙汰ではないわ……!」
「そうかね? あいつは中々に楽しんでいたようだが」
力を持つものの中には、使いたがりがいる。全力を出したいと言うのは、当然の欲求であるわけだが、その全力というのが桁違いだと、おちおち全力も出していられない。
彼らは飢えていると言った方がいいのかも知れない。傍迷惑な欲求不満がバトルジャンキーを生み出すのは、よくある話でもあった。
「君が学ぶべきは、だ。リアス嬢。友情と殺意は同居出来るということだ」
「なら……今、私を殺せるのかしら? ここで、手にかけられるのかしら?」
「NO、だ。リアス嬢。俺はシリアルキラーじゃない。誰に彼構わず殺したがるような危険人物じゃあない。我が友の時も、サーゼクスの時も、それだけの理由があったからだ」
「理由?」
殺意には理由はあるものだ。
殺意なき殺人はないように。
「俺は俺の道を通した。それだけだ」
それ以上も、それ以下もない。
正義も悪もなく。
己として。
詳しい説明も何もない。
それは、悪魔の矜持ではないが、目を逸らせなくなるほどの誇り高かった。目映いと、そう思ってしまうほどの、気高さ。
輝かしい、生の煌めき。
カリスマ、という単語が脳裏を過るが、そんなものではないはずだ。その程度のものではない。
「まあ、あれとはいい友だ。プライベートでも交流がある……正直、俺とお前が今まで会わなかったというのが不思議なくらいだがな」
「いえ……そういえば、聞いたことがあるわ。名前は聞いたことないけど、お兄様が懇意にしている悪魔の話」
「それが俺だという証拠はないがな」
「いいえ。よ。私は確信しているわ。貴方とはこうして今日初めて会ったけれど、貴方の魂の端を掴まえたわ」
「それはそれは。骨抜きになる前に、魂を抜かれることになりそうとは。コインや人形にはしないでくれよ」
ワインの香りを煽りながら、ライザーは笑う。
「ここに足を踏み入れた時には直ぐにでも帰りたかったけど、気が変わったわ。ライザー。私を泊まらせなさい」
「……ァ?」
ここに来て、初めての出来事だ。ライザーの表情が明らかに変わった。
「リアス嬢。俺たちはあくまで婚約者という関係のはずだが」
「婚約者を歓待することもできないのかしら? フェニックス伯爵」
ライザーの頬が引き吊る。なにかを呟いたようだが、リアスには聞こえなかった。それでいいのだろう。あまり良くない言葉だった。
「よろしいのではないですか? 坊っちゃん。ここで断っては家名に傷が付きますよ?」
「貴様は楽しみたいだけだろうが」
また、影のように現れたセバスチャンが、リアスを援護する。
実に爽やかな笑顔を浮かべていた。
溜め息を一つ吐き、ライザーは頭を掻く。
「わかったわかった。ヤーヤー。歓迎してやろう、リアス・グレモリー。兄が兄なら妹も妹だよ」
「お邪魔しますわ、ライザー」
翌日、娘の朝帰りに子煩悩(リアス父)が騒いだりするのだが、それはまた別の話。
開示出来る情報(という名の元ネタ)
セバスチャン(黒執事)
アシュタロス(BASTARD!)
アーカード(HELLSING)
基本悪魔かそれに準じるメンツが眷属になります。元のライザーの眷属は、皆メイドに。セバスチャン監督の下頑張っている模様