文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
恥ずかしいので余り口にする事はないのだが、此方は学校という場所が好きだ。
知らない知識を学べる場所だから……という訳ではない。
一応前世の記憶を持っている身としては、授業で教えてもらえる知識というのは既に一度習ったところでもあるし、それほど学習意欲が高い訳でもない。
勿論、前世で習った知識を全て忘れること無く覚えているから今世で学ぶ意味は無いぜ! などと馬鹿げた考えも抱いていない。
記憶力は『良くしてある』が、生まれ変わる過程で抜け落ちたか、前世の内に完全に抜け落ちた知識だってある以上、授業で学び直せるのは良いことだ。
一度社会に出た事もある身としては、知識を身に付けるのに一日八時間も九時間もかける事が出来るというのは贅沢な時間の使い方だと思う。
まぁ、だからと言ってウキウキしながら勉強する程の意欲はない。
では何故好きか、と言えば、うん、まぁ、あれだ。
友達作れたり、遊んだり、下らない話したり、できるじゃない?
仕事の合間にそういう事すると怒られるけど、学校なら一時限ごとに自由にできる休み時間もあるし、社会人ほど放課後の帰宅を急いだりもしない。
学校に集まる学生というのは、大半が実家暮らしであり、自分が自由に過ごすことのできる時間を多く持っている訳で。
例えばそう、授業の合間のちょっとした会話も好きだし。
開いた窓から聞こえてくるグラウンドで体育やってる連中の掛け声だって好きだし。
昼休みに弁当を広げて誰かと一緒に食べたり、偶に学食に行ったり、購買でパンを吟味したりも好きだし。
放課後に教室に少し残って駄弁るのだって好きだし。
帰り道が途中まで同じ奴と一緒に帰ったりするのも好きだ。
なんというか……そう、学校に行かない理由とかあるの? と聞きたくなる程度には学校が好きだ。
何かしらの理由で登校拒否になっている方々からすれば嫌味に聞こえるかもしれないが、これが偽らざる本音なのだから仕方がない。
学生時代をやり直している今の状況は、この視覚その他の異常を抜きにして考えればかなり嬉しい。
だから実際、塔城さんが悪魔系のコミュニティに此方を誘った時はキツイ言い方をして断りもしたけど、それ以外では普通に友人として付き合って行きたいな、と思っている。
勿論、彼女の主であるグレモリー某の眷属になったり、悪魔関係のコミュニティに所属するつもりは欠片もないというか、普通に嫌だ。
だけど、そういった異常な部分を抜きにして、共に普通に学生生活を送るという点では塔城さんとの付き合いには何一つ問題ない、と思っている。
悪魔……というか、人間以外というか、世界の裏側の勢力図というのは、基本的に面倒くさいしがらみばかりが溢れている。
基本的に横にも縦にも何処かしらに繋がりがあり、完全に孤立した『後腐れ無く塗り潰せる』相手が少ない以上、そんな連中に関わりあうメリットは無い。
別に隔意があるわけではないが……特殊な力と見れば追求せずには居られない、使えるなら取り込んでこき使わずにはいられない、というような連中の寄り合いだ。
レアな神器や能力持ちを見つけたら手元に引き入れてラベル貼って説明書き作って他の悪魔に見せびらかしたがる品性やら知性やら慎みに欠ける連中が年中ふんぞり返りながら自慢話と嫌味を言い合うような世界。
基本的に人が嫌がってもあれこれ口八丁手八丁で秘密を暴こうとするデリカシーの欠片もない糞文字列……じゃない、人外や超人など、相手をするどころか同じ空間に居る事すら憚られる。
要は、彼女の所属する悪魔の隠れ蓑として機能しているであろうオカルト研究部とやらに関わらなければいいのだ。
あの日にはっきり断ったからか、塔城さんから再び誘いを受ける事はないし、他のオカルト研究部員からの誘いも無い。
なんだか塔城さんと話していて、稀に何かを言いかけて途切れさせる場面が増えもしたが些細なことだ。
言いかけて止める、という事は、彼女の側に何かしら言わずにおこうと思いとどまるだけの材料があるという事だろう。
最終的に、多少ぎこちなさはありつつもコミュニケーションがとれているのだから、さしたる問題はない。
……無かった、筈なんだが、人生とはままならないもので。
自分で問題を起こさなかったとしても、周りで起きた問題が巡り巡って此方で問題になる、という状況はいつでも発生し得るのだ。
例えばそう、今回の様に。
今日は日影さんが登校日数を加算する日だったので一緒に登校したのだが、何時も塔城さんと合流する地点の直前で立ち止まり、
『ちょっと今日一緒にサボってくれんか? 今行くと、少し面倒になるかもしれん』
と、割と真面目な表情で提案してきたので、気配を消しつつ通学路から逸れ、忍び転身で適当な私服に着替えて街のファーストフード店に移動したのだが……。
「グレモリー眷属を、ふっ飛ばした? な、なんで?」
「ちょっと押して退かそ思たら、こう……飛んでてなぁ」
あそこまで軽いとは思わんかったわ。
低価格でお馴染みなバーガー店の中、長めのポテトを人差し指と中指で挟んでぷらぷらと弄びながらそんな事を曰う日影さんだが、本当に悪気は無かったのだろう。
だが逆に反省も無いのがよく分かるので困る。
いや、反省するべきかどうかで言えば、今回に限って言えば仕方がなかったんじゃないかな、と思わないでもない。
思わないでもないが、せめてそういう事をしたならその次の日とかに言って欲しいものだとも思う。
こんな、数日経過してから注意した方がいい、とか言われると凄く困る。
此方、学校行って普通に塔城さんと挨拶しちゃったんだけど。
なんか最近挨拶に返事を返す前に一瞬肩をビクッと跳ねさせておかしいなとは思っていたが、それが原因だったのか。
「……やっぱり、此方も行って対応するのがよかったかな」
「せやな」
もそもそとパサついたポテトを口に運びながら頷く日影さん。
あの日、日影さんを先に向かわせて、少しコンビニのトイレで用を足している間に避けたい連中の気配がしたから、今日は中止して帰ろう、と伝えたのだが。
どうにもすんなり帰して貰えそうに無かったのだとか。
日影さんなら例え連中が巧みな連携で逃走を妨害しても余裕で抜けて逃走できるのだが、一度ターゲッティングされた以上、単純に逃げるのでは意味が無い。
それこそ学校でなんやかや難癖付けて呼び出される可能性だってあるし、連中を無視しても生徒会の方にも悪魔の群れは存在する。
生徒会、学校という枠組みの中における公権力だ。一生徒を呼びつけるくらいは訳ない。
健全な学園生活を送ろうと考えれば、生徒会という権力に真っ向から歯向かう、というのはよろしくない。
こちとら、将来は表側の悪魔とか天使とか関係ない真っ当な仕事に就いて、余暇の隙間で塗り潰してもいいはぐれなどを塗り潰しつつ、健全に一生を終えるつもりなのだ。
生徒会の権力を利用して『来ないと内申下がるような申告を教師にするぞ』とかやられたら地味に嫌だ。
……日影さんはその辺、いざとなれば日雇いで仕事しつつ洞窟で暮らしてけばいい、位に考えているので、今回の対応は、ベストと言えないまでもベターな対応だと思う。
逃げよう、追求を逃れよう、と考えるならば、相手に『自分達ではどうにも出来ない』と教えなければならない。
つまり、罪に問われたり、相手が勝手に貸しとか負い目とかにカウントしたりしない程度に殴りつけて追ってこない様にするのは、たぶん悪手ではない。
数日経過した今になっても呼び出しとか食らってないのは、少なからず効果があったという事だろうし。
「でもまぁ、うん、あれでしょ? おっきな怪我とかはさせなかったわけだし」
「……あー、結果的には、ほぼ無傷やな。飛んだあと、ちょう首とか手足が曲がらん方に曲がっとったり千切れかけたりしとったけど、すぐ治しといたから」
「うううんんんん…………」
「腹抱えて、どないしたん。腹痛か、さするか?」
「いや、ちょっと、こう、判定ギリギリかなー、って」
治癒に関しては、日影さんが大丈夫だ、と言うなら、間違いなく完璧に治してある筈だ。
だから、連中の主観的には吹き飛ばされて記憶が一瞬飛んで、後には少し全身に痛みが残る程度。
日影さんは、知覚できない速度で自分達に怪我をさせないように手加減しつつ行動不能にするだけの能力がある、と認識されている筈だ。
使い魔とか、そういうので客観的に自分達がやられている姿を見ていなければ、うん、大丈夫だろう。
一息吐き、トレイの上に乗っていたけち臭いアップルパイを口に運ぶ。
安いなりにざくりとした食感が心地よいパイをコーラで流し込み、ふと思いつく。
「塔城さんには、なんか、補填しとこうかな。お菓子で」
他の連中は付き合い無いからいいけど、登校日には毎日と言っていいほど顔を合わせる相手だ。
こっちの都合で首やら手足やらクシャっとしてしまった友人相手に、何の負い目もなく付き合える程器用ではない、と、思う。
もしかしたら意外と此方が薄情で、次に会っても何の負い目とか引け目とか感じないかもしれないけど、あの日にきつい言い方してしまった事に関しては何も謝ってなかったし。
ああ、でも明らかに警戒していたな……。距離が少し離れたというか、対応に困っているようにも見えた。
「なんや、あれやな」
「ん?」
見れば、日影さんは備え付けの椅子に凭れ掛かり、シェイクに刺さっていたストローを口に咥えたまま、やや目を細めて此方を見つめている。
「書主さん、あのちっこいの、気にし過ぎと違うか?」
「数少ない友人だし、多少はね」
「さよか」
ぷっ、と、口からストローを勢い良く離してそれを手でキャッチし、それきり黙り込んでしまう日影さん。
椅子の形に纏まった文字列に座り、テーブルの形の文字列の上に肘をつき頬杖をついて、もう片方の手の中で細長いストローの文字列をくるくると回しながら、ぼうっと焦点の合いきっていない瞳を此方に向ける。
自室でなく文字列飛び交う外の店であるため、此方の視線も文字列を避けながら日影さんの姿だけを追う。
さて、此方からすれば、日影さんの姿は何時間だって見ていられるのだが、日影さんがどうかは解らないのでそろそろ移動しよう。
移動しようとは思うのだが、その前に確認してみたい事がある。
日影さんは特別製なので、何処をどうしたって外から文字列を読み込んで思考を読むことができない。
なので、こうして眺められていても『日影さんの半眼は相変わらず可愛いなぁ』くらいの事しか普段は思いつかないのだが、今回は少し違う。
「もしかして、と思うんだけど」
「?」
文字通り頭の上にクエスチョンマークを飛ばし、ぱっと見では解らない程に小さく首を傾げた日影さんに、少しだけ期待を込めて確認する。
「…………嫉妬してる? あんまり塔城さんの事気にしすぎるから」
「……………………おお、嫉妬しとるんか、これ」
僅かに目を見開き、掌に拳を落として遅いテンポで驚く日影さん。
「でも嫉妬って感情とちゃうんか。わし感情無いで」
無いんだろうか。
でも感情あるんじゃない? って言うと『あんましつこいと怒るで』と言われてしまうので、少し言い回しを考えてみよう。
……ふと思い出すが、感情は無いがこころはあると主張していた気がする。
「嫉妬は感情でなく『こころ』の一部だって誰かが言ってたよ」
「あぁ、そんならしとるなぁ」
あっさり納得。
ちょろい訳ではない、彼女は素直なのだ。
「なんや、最近書主さんあの猫の話ばっかで、ずっこい」
ぷい、とそっぽを向いて、声にも僅かに不機嫌そうな色が見える。
あぁ~、いい、日影さん可愛い。そして可愛い。
「別にそれほど話題には上がってないと思うけどね。でも、日影さんが嫉妬してくれるなら、もうちょっと塔城さんのネタ仕込んでみるかなぁ」
「別にええけど、ちょい、こっち来てみぃ」
「何々?」
隣の座席をポンポンと掌で叩く日影さん。
促されるまま隣の席に座る。
体がくっつく程に近くはない絶妙な距離。
そしてそのまま流れるように倒れこみ此方の太ももに頭を乗せる日影さん。
「よし。ほんじゃ猫の話しよか」
「これ、普通は逆じゃない?」
「逆やと書主さん、顔埋めたまま寝てまうやろ。胸が邪魔で顔も見えんし」
「あれは寝てるんじゃなくて匂いと感触を堪能してるだけ」
「変態」
「日影さんにだけだから大丈夫」
「なら、ええわ」
少しだけ重力に逆らう緩いウェーブがかった髪に指を通し、そのまま特に会話も無く時間が過ぎる。
既に注文したメニューに関しては食べ終えているのだが、まぁ、そんな客は結構居るし、平日の昼前、微妙な時間帯であるためか人も少なく、席を独占していても問題は無さそうだ。
あー、もう今更学校行くのもあれだな。
流石に衝撃の真実を知った直後では顔合わせづらいし、今日は日影さんとゆっくり一緒に時間を潰そう。
「日影さん、今日、何処行きたい?」
「何処でもええよ。書主さんは?」
「んー、別にノープランでぶらついても、適当に昼寝して過ごしてもいいけど」
視線を日影さんから外さず、幾つかの感覚を店内のある一点に向ける。
覚えのある気配、神器の波動。
「お、おいしいです! ハンバーガーっておいしいんですね!」
今日びこんな低価格が売りのバーガーショップでは聞けないような、喜びも顕なバーガー賛美。
バーガーを食べたことが無いにしても、ここまでこの味に感動するとかこれまで本気でどんな生活をしていたのか。
やはり日本は平和で生き易い国なのだな、と再認識させてくれる幸薄そうなシスター。
「ハンバーガー食べたこと無いの?」
余りのシスターの健気さと穢れ無さから、普段のエロスマスターっぷりを欠片も発揮できないまま、この後死ぬ使い捨てヒロインと順調に交流を深める少年誌主人公の如き無垢な親切心を発揮している高校生と思しき男子。
言わずもがなの聖女アーシア・アルジェントと赤龍帝兵藤一誠である。
シスターはともかく、今日は平日なのに何を私服でバーガーショップに居るんだろうか、という疑問は置いておくとして。
「なんや、おもろいもんでもあった?」
「うん」
此方の返事に、日影さんは僅かに起き上がり、座っている椅子から顔の上半分を出して少し離れた位置に居る二人に視線を向ける。
「ああ……あれか」
「そうそう、あれ」
神器の波動が二つ。
そして、シスターの気配には違和感が混じっている。
普通の生物からは発せられない波動、チャクラ、気、ヴリル、オルゴンなどと呼ばれる生体エネルギーのどれにも似て、紛れ込むように差し込まれた違和感。
発信機、首輪、マーカー。
言い方は何でもいいが、要するに見失わないように、『無くさないように』と付けられた目印だろう。
目印を付けた相手以外に発見されないように微弱で、知らなければ余程勘に優れていなければ気づけないような代物。
シスター・アーシアは異端の癒し手として教会を追い出された悲劇の聖女、いや、教会に取ってみれば破門して、あとは勝手に野垂れ死んでくれればいい、とさえ思われている様な少女だ。
悪魔を癒やす、教会にとって奇妙で悍ましい力を持つ神器は、とても利用しようとは思えない様な力である筈。
そんな相手に、首輪?
下手な相手に神器が渡らないように、死なないように監視している、とは考えにくい。
そんな回りくどい真似をするくらいなら、大々的に魔女や悪魔憑きとして公表し、大義名分を作った上で何処か教会関連の施設の地下牢にでも寿命を迎えるまで閉じ込めておくのが安牌だ。
そこまで原始的な処置でなくとも、殺さず、封印しておく程度の技術は教会にだってあるだろう。
わざわざ手元から離した上で監視するのは余りにも効率が悪い。
「気になる、気になりますね。なんとも不思議な話じゃあないですか」
気分が高揚する。
視界に映る日影さん以外の場所、ざわざわと蠢く文字列が目につく。
頭の中でちりちりと何かが弾け始める。
ストレスと開放の予感。
先程まで日影さんと話していて得ていた幸福感、満足感が霧散していく。
目を逸らしていたものに目が釣られ、無いふりをしていた気持ちが、ずるりと這い出してくる。
わざわざ、わざわざ、だ。
教会から見捨てられた、貴重な回復系神器の持ち主に、首輪を付けて飼っている相手が居る。
純粋な善意からか?
それならそれでいい、だけど、だが、でも。
きっと、そうじゃない。
不幸と悲しみ、いや、不幸と悲しみを生み出す、手前勝手で、『孤立した臭い』を感じる。
社会との繋がりを失いかけ、今まさに失おうとしている臭いだ。
「面白い、つまらない、良い、良くない影を感じますよ。碌でもない事情も。ねぇ、日影さん。一日連中を覗き見して損は無いと思いませんか」
根拠はない。勘だ。
だが、間違い無いと確信している。
此方の中の七感その他が、そう教えている。
自然に口の端が吊り上がる。
「そないなこと言われても、わしには感情があらへんからな、ようわからん。でも、まぁ、それで書主さんが楽しいなら、ええよ」
わしへの口調が戻るまで、あんたの事を見張っといたるわ。
日影さんの言葉を耳に受け入れながら、苦々しく甘く楽しい時間へと思いを馳せ、一方的に知るだけの二人の追跡を始めるのであった。
ドラゴンボールがドラグ・ソボールなら、マクドナルドらしきバーガー屋はなんて名前なのか
ヤクドナルド? マグロナルド?
まだ読んでない巻に出てきてるかな
ともかくバーガーショップから一歩も踏み出さずに駄弁ってじゃれるだけの七話でした
日影さんキャラ崩壊への苦情とアドバイスは超受け付けます
なんなら後々原作から日影さんの台詞とモノローグを全部抜粋してテキストに起こして研究しなおします
今更ですが、原作と変わりない部分、原作で説明している部分に関してはテンポの問題で省く場合がありますので注意
警告タグに入れておくべきですかね
そして日影さん回だった今回、当然次回は小猫さん回の予定です
夜の教会、初めて見る友達の知らない一面、戸惑い、決意と共に、みたいな予定が未定
二巻目に辿りつけたら今より原作寄りになれるかも
あと、祝お気に入り100件突破
何かしら祝いたいけどとりあえず一巻をまとめてきます
これからもよろしくです
因みに感想批評募集中です
どれくらい募集中かというと、度々マイページ確認して新規感想があると晴れやかな効果音付きで三コマくらい使って段階的に笑顔になれるくらい募集中です