文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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六話 闇に紛れ

「二度と教会に近づいちゃ駄目よ」

 

俺は部室で部長に強く強く念を押されていた。

今までにない程に部長の表情は険しい。

念を押されているというより、はっきりと怒られていると言ったほうがいいかもしれない。

 

「教会は悪魔にとって敵地、踏み込めばそれだけで問題になるし、常に監視している天使から光の槍が飛んできてもおかしくない危険な場所なの。今回は、シスターを送り届けてあげた貴方の厚意を素直に受け止めてくれたみたいだけど、本来なら……」

 

ここまで真剣に俺の事を心配してくれている、という事に感動すると同時に、何か申し訳ない気分になってくる。

部長の説明によれば、教会もシスターも、聖なるものは全て悪魔にとって危険な存在であるらしい。

下級悪魔ともなればそういった聖なるものへの耐性は無いに等しく、聖書を朗読されれば耳と頭が痛くなり、十字架を見れば酷い忌避感と拒絶反応を起こし、教会に近づこうものなら、体中が震え上がる。

これは聖なるものが致命的な弱点になる悪魔の体が起こす防衛本能というものらしいんだけど……。

俺は、そういう悪魔としての本能が薄いのか、どうしてもそういう危機感を抱けなかった。

十字架を見ても少し『嫌だな』としか思えなかったし、教会に近づいても少し空気が悪くなったな、程度にしか感じられなかった。

 

強い悪魔なら聖なるものにもある程度の耐性ができて、これくらいはおかしくないらしいんだけど、今の俺は駆け出しの下っ端悪魔。

しかも魔力不足で召喚陣も使えない様な味噌っかすだ。

耐性がある訳じゃなく、悪魔としての本能、防衛本能まで弱すぎる、という事なんだろう。

我ながら情けなくて涙が出そうだ。

 

「人間としての死は悪魔への転生で免れる事もあるわ。でもね、エクソシストや天使に悪魔祓いを受けた悪魔に、そんなチャンスは絶対に遺されない。どれだけの寿命が残されていようと、跡形もなく、魂の一欠まで消え失せる。……絶対の無、何も考えられず、何も出来ない。それがどれほどの事か、わかる?」

 

正直、解らない。

何故、『あんなものにそこまでの危機感を得なければならないのか』が、俺には理解できない。

だけど、それが悪いんだろう。

危険なものに、危機感を抱けないという危うさ。

きっと部長は、俺のこういった未熟で不出来な部分を見越して心配してくれているんだ。

それがわかるのに、実感できない自分が悔しい。

沈み込んで反応も出来ずにいる俺を見て、部長はハッと気付いたように首を振った。

 

「ゴメンなさい、熱くなりすぎたわ。ともかく、今後は気をつけてちょうだい」

 

「はい」

 

はっきりと返事をしたつもりが、少し声が沈んでいるのがわかる。

 

「そう落ち込まないで。次から気をつければいいんだから。……でも、はぁ……ダメね、私。熱くなると言い過ぎる、いえ、行き過ぎるところがあるから」

 

いつもの、超然としていたずらな、自信に満ち溢れた部長らしくない少し悲しそうな顔。

たぶん、俺を眷属にする前に勧誘しようとした相手と、小猫ちゃんの事だろう。

部長は恥として、そして終わった話として詳しく話してくれなかったけど、部活の合間に朱乃さんや木場の野郎から事情は聞いていた。

 

余り人に興味を持たない小猫ちゃんの数少ない友達。

俺と同じように何かしらの神器を持っているかもしれない、という事で、友達である小猫ちゃんに連れてくる様に頼んだけど、大失敗に終わった。

以前と同じようにクラスでは振舞っているけど、その友達とは何処か余所余所しくなってしまったのだとか。

それ以来小猫ちゃんは何処か塞ぎこんでしまっている。

俺は以前の小猫ちゃんを知らないからどれくらい塞ぎこんでしまっているのかは知らないけど、それなりに長い付き合いになる眷属のみんなからすれば一目瞭然。

みんなに愛される学園のマスコットの様な小猫ちゃんを悲しませるなんて、と、俺なんかは思った訳だけど、どうも一方的にあっちが悪い、なんて話でも無いらしい。

 

俺は死にかけのところを悪魔に転生させてもらう事で助かったけど、勧誘された誰もが悪魔になることを望む訳じゃない。

むしろ世間にはレアな神器持ちの人間を無理矢理転生悪魔として自らの下僕にするような悪魔の方が圧倒的に多く居る。

神器の力をある程度意識して使いこなしていて、今の今まで人間のままでいるという事は、悪魔に対して悪い印象を持っている可能性が高く、そして、その印象は決して間違いじゃないんだとか。

むしろ、多少余所余所しくなっただけで殆ど前と同じように接しているだけ、まだ悪くない対応じゃないか、なんて言ったのは木場だ。

 

あいつはイケメンだけど、同じように神器持ちなだけあって説得力がある。

あいつもあいつで過去に何かしら神器のせいで嫌な目にあったのかもしれない。

俺の神器もドラゴン波のものまねに役立つだけで使い道が無いし、そもそも持ってたせいで堕天使に殺されるし、生き返ってからも狙われるし。

本当に、神器っていうのは持ち主にも周りにも碌な影響を与えない。

正直不本意だけど、逆に、友人だと思っていた相手から悪魔の巣窟に連れて行かれそうになったそいつは同情されてもいいのかもしれない。

だけど。

オカルト研究部に初めてきた時に見た、小猫ちゃんの姿が思い浮かぶ。

俯いて、もそもそと美味しく無さそうにお菓子を頬張る小猫ちゃん。

余りにも暗いその雰囲気に、可愛らしさよりも先に空気の重さを感じる程だった。

 

(もうちょっと、どうにかならないもんなのか?)

 

どうにか、でも、どうすればいいのか。

勧誘された相手がどうにかするのか。

小猫ちゃんがどうにかするのか。

俺や部長、朱乃さんや木場がどうにかするのか。

全く関係ない誰かや何かが現れて、よくわからない方法でどうにか解決してくれるのか。

俺がそれを考える意味はあるのか。

 

「あらあら、お説教が終わったら次は自己嫌悪の時間ですか?」

 

「おわっ」

 

いつの間にか背後に朱乃さんが立っていた。

いつものニコニコ顔だけど、あの状態の部長にああいう事を言う辺り、意外とこの人も悪魔っぽい部分があるのかもしれない。

 

「そんなんじゃないわ……。それで朱乃、どうかしたの?」

 

部長の問いに、朱乃さんは少し表情を曇らせて答えた。

 

「大公から討伐の依頼ですわ」

 

―――――――――――――――――――

 

何故、と思う私が居ました。

何故そんな目を向けるのか、と、平坦で温度のない声を聞きながら、悲しく思った私が。

でも同時に、やってしまった、と、何処かでああなる可能性を予感していた私も居ました。

同じ立場で、ああいう態度を取らないで居られるか。

悪魔や堕天使の事情を知っている相手を悪魔の巣窟に連れ込もうとしたら、どんな感情を抱かれてしまうのか。

少し考えればわかる話、と、そう考えるのは、今になったから思う事ですけど。

 

私は不幸だったけど、運命のイタズラか幸運か、部長のお兄さんに救われて今ココに居ます。

待遇もしっかりしていて、頼れる仲間も居て、学校にも通えて、……友達も出来て。

……不幸だったけど、ひどい目にも遭ったけど、たぶん私は、幸福である事が当たり前になっていたのかもしれません。

 

私が悪魔である事はバレていました。

これはあの日に聞いただけじゃなく、後日、読手さんに改めて聞いた話です。

……不思議な話ですが、あんな事があった次の日、読手さんはいつもの様に学校で挨拶を交わし、いつもの様に少しだけお菓子や勉強について話をしました。

人の耳が無くなるのを見計らって、私は聞きました。いつから私が悪魔だと気付いていたのか、と。

……最初から、初めて入学式の日に出会ったあの時から、私が悪魔である事は知られていたそうです。

 

『そんなの、見ればわかりますよ。当たり前じゃないですか』

 

普段通り、感情豊かとまではいかなくても、自分の心を隠さない普通の声。

でもそれを口にした時、何処か忌々しげで。

その話が嫌だったのか、すぐに読手さんは別の話題に切り替えました。

だから、私は、本当に聞きたかった事を聞けていません。

 

あそこまで眷属に誘われるのを嫌って、悪魔の事情に巻き込まれたくない、と言っていたのに。

なんで私が悪魔と知って、それでも他のクラスメートの皆と同じく接していたのか。

 

……一線を引かれた、と思っていたのに。

私の方も、読手さんを避けている様に思います。

学校で話していても、何処か会話は不自然に途切れがちで。

肝心の話は聞くに聞けない。

あの日の別れを思い出す度に、問を発する口が閉じてしまうから。

 

「ここが、依頼にあったはぐれが出る廃墟らしいんですが……」

 

副部長の言葉に、物思いに耽っていた思考を現実に引き戻す。

部長、つまり、リアス・グレモリーの活動領域に逃げ込んだはぐれ悪魔を討伐し、撃滅する。

それが今回私達に与えられた依頼。

ここからはアンニュイな気分で居られる時間ではありません。

 

時刻は深夜、暗黒に満ち、はぐれにとっても私達にとっても力溢れる時間帯。

背の高い草木が生い茂る中、その廃墟はありました。

夜目の効く悪魔の視覚だからか、その廃墟は嫌にはっきりとその姿を見せています。

悪魔の私が言うのもなんですが、何処か不気味な建物。

まるで絵に描いたような郊外の廃墟。

 

逃げ込んだはぐれは、主を殺してはぐれになった後は各地を転々としながら人を誘い出しては食い殺して生活をしているらしい。

典型的な、欲望に負けた悪魔の末路。誰かを思い出し更に気分が重くなる。

でも、少し不思議なのは、匂い。

そういった人喰いのはぐれは、大概『食べ残し』に対しては無頓着で、パッと見の破片は片付けても、匂いを念入りに消したりはしない。

 

「おかしいです……血の匂いがしません。」

 

簡単に言えば、はぐれが根城兼食事場にしている場所には、普通なら鼻が潰れる様な濃い血の匂いが満ちている筈。

なのに、ここからはそういった匂いが殆どしない。

代わりに鼻に付くのは……学校の美術の授業で良く嗅ぐ匂い。

インクの乾いた匂いだ。

 

「せっかくだし、イッセーに悪魔の戦い方を教えてあげようかと思っていたのだけれど」

 

部長はそう言いながら、躊躇なく廃墟の中に足を踏み入れていきます。

風で草木が揺れる音だけが静かに響く、無音。

はぐれが居るならある筈の無差別な敵意と悪意、それすらも感じられません。

警戒を保ったまま、全員が廃墟の中に足を踏み入れます。

 

「なん、だ、これ?」

 

兵藤先輩の戸惑うような声。

部長も、副部長も、祐斗先輩も、もちろん、私も、その問に答える事は出来ませんでした。

 

色、色、色、色、色……。

郊外に放置されている廃墟には似つかわしくない、鮮烈な色彩。

規則性も無く、何かの法則がある訳でもなく、ただただ乱雑にぶちまけられた色。

夜の闇に包まれてなお存在感のある廃墟の内装を、更に強い存在感で文字通り上塗りしている。

インク? ペンキ?

何ともつかない多量の塗料が、油絵の様に厚みを持つ程にぶち撒けられ、塗りたくられて。

床、内装、柱、壁は言うに及ばず、天井にまで荒々しく塗料が走っていました。

撒き散らされ、混ざらず、極彩色に染め上げられた廃墟の光景は、異様としか言いようがありません。

 

はぐれ悪魔討伐の依頼は、これまでに何度かこなした事がありした。

その中には特殊な嗜好から奇妙な棲家を作ろうとしたはぐれも居ましたが……。

これは、常軌を逸しています。

 

「……魔力の残滓。少なくとも、ここにはぐれ悪魔……バイサーが居た事は間違いないみたいね」

 

「それにこの傷……、刀傷ですよ。戦闘が行われている」

 

空間の魔力の残り香を感じた部長、そして塗料の厚みが薄い部分を剥がし、壁に手を当てた祐斗先輩がそんな事を言いました。

はぐれ悪魔は居た。

そして、はぐれ悪魔が持っていなかった刀剣による傷が壁に刻まれていて、はぐれ悪魔は居なくなっている。

 

「エクソシストでも来たのかしら」

 

「でも、そんな気配無いです。嫌な感じは、全然……」

 

首を傾げながらの副部長の言葉を否定する。

エクソシストが主に悪魔祓いで使う武器は、加護の力で起動する光の剣や退魔の力を射出する銃。

悪魔に対して致命的な毒になり得るそれらを使って倒したというのなら、少なからず今この場にも何かしら残っている筈です。

ここは、ただ傷つき塗料で塗られているだけで、浄化された感じでもありません。

何より、この大量の塗料が何のためにここにぶち撒けられたのか、それを誰も説明することが出来ないのです。

 

「なんや、こんな夜更けに揃いも揃って」

 

気怠げな声。

廃墟の入り口から聞こえたその声に慌てて振り向く。

脇目で見れば他の皆も同じように驚きながら振り向いていました。

時間は夜、悪魔にとって、最も力を発揮できる時間で、感覚も鋭敏になる時間で。

そんな時間に、薄い月明かりしか無い廃墟の中に居る私達を見つける事ができ、なおかつ、私達の誰も接近を察知できなかった。

明らかに堅気の人間ではありません。

 

「……ウチの学校の連中か。なんやあんたら、こんな時間に、肝試しかなんか?」

 

駒王学園指定のジャージに身を包んだ、緑髪の女性。

手に下げたバケツの中には、新品未開封の市指定ごみ袋と、スコップ、ブラシ。

そこに居たのは、私にとっても印象深い、見覚えのある人。

 

「で、でかい……!」

 

他の人よりも遅れて振り向いた兵藤先輩がありえない程鼻の下を伸ばし、さっきまでの緊張感を捨て去った嫌らしい顔を晒しました。

そう、でかい。何がなんていうのは、兵藤先輩が反応しているという時点で説明する必要もありません。

 

「なんてな、冗談や。あんたらが廃墟で肝試しぃ、なんて、まるであべこべやしのう」

 

表情一つ変えずに言い放つその言葉の内容に、私と兵藤先輩を除く皆の警戒心が膨れ上がります。

 

「あべこべ、っていうのは、どういう事かしら」

 

声と表情からは警戒心を消して、余裕たっぷりといった風を装った部長。

その言葉に、女性は──日影さんは、何でもない事のように答えます。

 

「悪魔が夜中に廃墟で肝試しなんぞ、人間が昼間のコンビニで怪談話するようなもんと違うか?」

 

「あらあら、じゃあそんな夜中の廃墟にそんな格好で来た貴方は何者で、何を目的にしているの? ……肝試しには、丁度いいかもしれないわよ?」

 

笑顔のままの副部長。無言で魔剣を構える祐斗先輩。

動かない私と、未だ状況を把握しきれずに鼻の下を伸ばしている兵藤先輩を置き去りに、日影さんを取り囲み、逃げ道を塞ぐ皆。

明らかに不審者、という意味では他人から見た私達も似たようなものですが、私達の側から見た日影さんはそれ以上に不審です。

戦闘が起こり、結果として塗料まみれになったと思しき廃墟に、ひと目のない夜更けに掃除用具を持って汚れてもいい格好で現れた、悪魔の存在を知る、同じ学園の生徒。

しかも、相手の事を此方は把握していない、となれば、警戒せざるを得ません。

 

「ツレがちょっとはしゃいで散らかしたのが、お義母さんにバレてなぁ。片付けてきなさいて言われとったから、付き添いで来ただけ……なんて、これじゃわかるわけ無いわな」

 

「そうね、それじゃあ、わかりやすく話せる様に、ちょっと一緒に付いてきてくれない?」

 

「遠慮しとく。……ああ、ツレも帰ったみたいやし、そこ通してくれんか」

 

やる気なさげに携帯を弄り何かをチェックした日影さんは、三方に散って出入口になる部分を全て塞いでいる私達に、顎をしゃくって道を開けるように促してくる。

悪魔の群れに、光もない夜に襲われて、助けを呼んでも来ない様な廃墟なのに、焦りの色は一切無い。

気が狂っている?

そうじゃない、彼女は、この状況に脅威を感じていない。

そして気付く。

彼女の言うツレ、という言葉の意味。

日影さんは、誰の何だ。

読手さんの何だ? なら日影さんにとっての読手さんは?

この廃墟の有り様は、彼女の『ツレ』が創りだした。

頭の中でパズルのピースが組み合わさり、一つの結論へと到達する。

 

「読手さんが、やったんですか?」

 

口にしてはいけないかもしれない。

部長には彼を誘うように言われた。

それは延期になっただけで、未だに部長は私が彼を連れてくるのを待っているのかもしれない。

悪魔の事情に関わるのを嫌がっていた彼からすれば、自分の印象は薄ければ薄いほどいいのかもしれない。

だけど、聞いてしまった。

恐らく真相を全て知っている人を目の前にして抑えを効かせるのは難しく、私には無理だった。

否定が欲しかったのかもしれない。否定されると思って、願って、聞いたのかもしれない。

だって、この廃墟の中の有り様は、異様で異常で、正常でなくて────激情で染め上げられている。

この光景は、どうしても私の中の読手さんに繋がらない。

何が起こったか、何をどうしてこうなったかはわからないけど、そうであって欲しくない。

 

「そこも含めて、聞かせてくれないかしら。……そのお連れさんも、来てもらっても構わないわよ?」

 

「せやなぁ……わしはそれでもええけど……」

 

その言葉に、部長が、副部長が、祐斗先輩が、そして私も、少しだけ、警戒を解く。

少なくとも日影さんは悪魔に対してそれほど隔意があるわけではないのかもしれない。

そう考え、

 

天井が、目の前に迫っていた。

 

「……え」

 

わけがわからない。

体も何故かあちこちに小さな痛みが走り、首もまともに回らない。

目だけを動かし周りを見れば、私は天井近くに吹き飛ばされていた。

部長も、副部長も、祐斗先輩も同じく、仰け反りながら吹き飛ばされて滞空している。

兵藤先輩が天井にめり込んで人型のくぼみを作っているのは胸元を凝視していたからか。

僅かな浮遊感と共に落下、地面に受け身も取れずに墜落すると、頭上から聞こえてくる日影さんの声。

 

「けどまぁ、書主さんは嫌がるやろ。やめとくわ」

 

それとな、と、日影さんは部長の制服のポケットに手を差し込み、あるものを取り出します。

悪魔との契約のチラシ。

部長のポケットから抜き取ったそれを地面に敷き、持ってきたバケツをその上に置き、

 

「契約。願いはここの掃除。対価も入れといた、バケツとブラシとスコップもおまけや。しっかり頼むな」

 

そう言ったきり振り向きもせず、倒れ伏す私達の間をすり抜け、悠々と去っていく。

私達はそんな日影さんに声をかける事すら出来ず、痛みに呻きながら、後ろ姿を見送るしかありません。

 

 

……数十分後、皆が起き上がれるようになり、バケツの中を覗いたら、掃除用具以外にはスポーツドリンクが二本入っているだけで。

しかし、何故かそれで対価が足りてしまったようで、その日は全員で廃墟の清掃を行って帰る事に。

部長は何かを考えながら黙々と清掃を熟していましたが……。

 

「……何なんでしょう」

 

学校から取ってきたスコップで塗料を剥がしながら思う。

廃墟の有り様も。

日影さんの力も。

読手さんの思惑も。

私には何一つわかりません。

何がどうなっているのか、私が知る材料ではどうにも理解できない。

だけど、いや、だから。

 

「…………」

 

空を見上げる。

天井に空いた穴から、半端に欠けた月が見える。

明るすぎない月に、暗く、僅かに星が散った夜空。

誰かの瞳を思い出す色の空。

 

何がどうなっているのかは、わかりません。

でも、どうしたいかは、なんとなく、わかってきた気がします。

 




イッセーの美少女センサーから外れる程に落ち込んでいた小猫さん
巨乳に破れ決意を新たにするの巻

なお本作日影さんは主人公及び原作主人公勢力抜き無所属後ろ盾なしの状態で原作ストーリーをポンポン進められる程度には強化済み。
高い忍タリティと鍛えぬかれたカラテと優れたジツのおかげ。
しかも主人公が行使している六爪流含むカラテのメンターでもある。
強いぞ日影さん可愛いぞ日影さん。
ただし行動基準は主人公に寄っているので、主人公のストッパーにはならない。
悪人とか外道とか障害物は死ぬ。慈悲はない。

もろもろの尊厳を守る役目は、小猫さんが密かにヒロイン力を貯めつつ頑張ります。

あ、そろそろ話の大筋が決まってきたので近いうちにあらすじも変えます。

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