文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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ロックスターノッブ狙いで回したら何故か術ギルとエルキドゥが出たんじゃが
時間差七章ピックアップかな?(白目)
もう残りの石は大人しく満足エレナママンまで取っときます……


六十一話 年頃の男子高校生はエロ本をみんなで囲んで騒いだりするのです

寡聞にして、人々の間に流れる噂の全てを把握出来ているとは言えない此方にも、聞こえてくる噂というものがある。

例えば街で夜な夜な廃工場に引き寄せられていく『人とは思えない化物』の目撃証言。

もう少し平和な所で言えば、学園で人気のお姉様の『悪ノリし過ぎた写真』の掲載報告。

似たようなもので言えば、学園女子の間で人気の金髪美形の『気合入りすぎたコスプレ』との遭遇事例。

 

人の口に戸は立てられぬ。

如何に闇の世界の住人が自らの痕跡を消して回ったとして、その存在は少なからぬ残影を残してしまうものだ。

 

今回の噂もその一つだろう。

決して表に出回るはずのない、闇の、裏の世界の住人の中ですら影すら踏めない幻じみた噂。

まるで隠密に専念した手練の忍が如く。

影に生まれ影に消えていく。

そんな、本来知るものの限られている筈の情報が、表の世界でまことしやかに噂として囁かれている。

 

嘘か真か。

皆その真偽など気にするでもなく、その存在を歌い上げる。

 

────ねぇ、知ってる?

────幻のエロ本の噂……。

────『20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~』っていうんだけど……。

 

―――――――――――――――――――

 

ぼす、と、発泡スチロールに包丁を勢い良く突き刺した様な音が響く。

様な、という言葉は言い得て妙で、音の出処はやはり刃物。

しいて包丁と異なる点を挙げるとすれば、それはやはり三メートル半はあろうかという長大さか。

サイズもさることながら、そのデザインもまた包丁離れしている。

十徳ナイフの機能を全て刃物として再現でもしているかの様に工夫が成された複雑な形状の刃。

とても尋常の具材を切り刻む包丁とは比べられまい。

 

「あの……読手?」

 

「なんです、先輩」

 

ぞり、ぞり。

髭をカミソリで剃るかの如き音は、書主が首を傾げる動きに合わせて引かれた巨大な刃物が鳴らすものだ。

校舎裏の地面に対して深々と突き立てられた刃物は、地面の土も表面の雑草も、或いは深くにある粘土や岩などを含む層すら抵抗なく引き斬り、無造作にその軌道を刻む。

刃が発する僅かな虹色の光に言いようのない怖気を感じながら、宥めるように両手を広げ書主に向けているイッセーが口を開く。

 

「それ、ナニ」

 

「現代式対竜霊装です。名前は……まぁ、どうでもいいでしょう。兇器に銘など無用なので」

 

「へ、へぇ、アスカロンみたいなもんか?」

 

「ええ、巨大な竜でも、これ一本あれば、素材単位でバラバラにできます」

 

土を巻き上げること無く、まるで水から引き上げるが如き抵抗の無さで、地面を切り裂きながら刃物、規格外の大剣型霊装が引き抜かれる。

 

「ここで、鱗を剥がして、ここで、皮膚を切り裂いて、ここで、肉をかき分けて、ここで、健を断ち切って、ここで、骨を砕いて、ここで、腸をえぐり出して……優れものでしょう?」

 

書主の言葉と共に、霊装の説明に対応する箇所が虹色の輝きを強める。

説明を受け、今にも与えられた役割を果たさんと力を放つ様はまるで意志を持つようですらある。

或いは、持ち主の、担い手の意志を反映してのことか。

 

「お、おう、それで、そんな剣取り出して、何に使うつもりなんだ?」

 

「それはですね──ふふ、悪い竜が、この辺に出没するそうで。ええ、個人的に楽しむだけにして、と、そう託された貴重品を、人に自慢して見せびらかす。……約束を忘れるなど、なんと愉快に間抜けなドラゴンでしょう。そうは思いませんか、先輩」

 

「へ、へぇぇぇ? それって、そ、そこまで悪いヤツなのかなー? ついつい見せびらかしちゃうとか、友達にも楽しませてやろう、とか、そんな、ほら、出来心なだけで、ホントは良いドラゴンだったり、なぁ? ……なぁ?!」

 

冷や汗をダラダラと流しながら、対竜霊装を向けられるであろうドラゴンの弁護を始めたイッセーに、書主はニコリと微笑みを向ける。

完璧な笑顔だ。

親愛の情から作られた笑みであるとすれば、あまりにも無機質かつ低温過ぎる彫像の笑み。

 

「先輩」

 

「はいぃ!」

 

反射的に背筋を伸ばしたイッセーに、書主は笑みを深める。

亀裂の笑みだ。

 

「────ここに、良いドラゴンは、居ません」

 

「ひぇっ……」

 

ちょろ、という音を掻き消すように、イッセーの身体が光に包まれ、次の瞬間には紅白の全身鎧を貸していた。

無論イッセーの意志から来る変身ではない。

 

「ドライグ?!」

 

『落ち着け。……というのも無理な話だし、悪いのも基本的に貴様で自業自得の因果応報だが、無抵抗であるよりは抗う方が未来はある。なあに安心しろ、相棒も幾度となく戦いを乗り越えて力を付けてきたんだ。今更ドラゴンキラーを持った程度の忍者に遅れを取る筈がないだろう。どうせ元から聖剣だけなら腐るほど出せる相手だ、何を恐れる必要がある。フッ、相棒の成長著しい今、丁度白いのと戦う前に力試しをさせておきたかったのだ。俺達の力で軽く捻り潰してしまえ!』

 

「フラグぅッ!」

 

―――――――――――――――――――

 

……そんな訳で、赤龍帝の鎧亜種の中身及びコアパーツ抜きを手に入れたのであった。

引っぺがす過程で手に入れただけなので後で塗り潰して処理するけど。

 

「い、いたい……」

 

「大げさですよ先輩。鱗を剥がされたドラゴンじゃあるまいに」

 

『引き剥がしたのは貴様だろうが……』

 

何を言うか。

鎧を引き剥がした時にベリベリブチブチ音が鳴っていたけど、その下にちゃんと制服を着ていた以上は唯の装備品扱いの筈だ。

ホントに生きたまま鱗を全剥がしされたドラゴンは『痛い』なんて口走る事も無い。

もっとぐわーとかごがーとか、或いは声も出ない感じで痙攣したりだろう。

 

「エロ本の一冊でここまでやるかぁ? 普通……」

 

「でもそのエロ本、推定で世界に十冊現存するか怪しい代物ですよ?」

 

「う」

 

「因みに、売り払うツテがあれば……豪邸、とまではいきませんが、高級な外車くらいなら買える値段で売れますね」

 

「そんなに」

 

「そして所在がバレたが最後、戦闘力だけならオカ研くらい半壊させかねない対魔忍の偉い人と仲間達が全力で抹消しに来ます」

 

「待て」

 

「はい」

 

兵藤先輩がぷるぷると震える手で件のエロ本を開いたまま此方に視線を向けている。

確認する必要もないが、顔面蒼白だろう。

 

「おま、お前、そんな危険物を何の説明もなしに……?」

 

「聞かれませんでしたし。そもエロ本の所在なんて一人で楽しむ分にはバレようがありませんよ。態々説明する必要なんて無いでしょう。アメリカでもあるまいに」

 

まぁ、別にそれでオカ研が吹っ飛ぶとか兵藤先輩が吹っ飛ぶ程度なら問題ないのだ。

周囲が裏で悪魔が支配してるだけで基本的には一般人の通う学園なので、恐らく物理的被害は出ても旧校舎のみ、パット見の印象で小猫さんとギャスパーは攻撃対象から外れる。

何が問題と言えば、此方がそれの提供元だ、という話が兵藤先輩越しに漏れたりすると大変なので、こうして釘を指している訳だ。

 

兵藤先輩に提供する前に本や付録の記述に『この本の所持者は自分以外の何者にもこの本の存在を伝える事ができない』とでも追記しておけばよかったのだろうが……。

……まさか、一般レーベルのエロ本と同じように学校に持ち込んで友人に見せびらかすとは思いもよらなかったのだから仕方がない。

普通に考えて、そこいらの違法ショップで買えるガチレイプとかガチ調教のAVが御飯事に見える、エロイを通り越して一般人ならドン引きしかねない対魔忍を奴隷娼婦に『加工』する過程と結果を克明にしかし時にリリックに記録したあの本を、まず人に見せるという発想が凄い。

流石に引く。

 

「そんな訳で、それを使う時には人目に付かない場所でお願いしますね」

 

普通は言われるまでもない事なのだけど。

 

「人目につかない場所か……」

 

「何か問題でも?」

 

此方の忠告をオウム返しにした兵藤先輩の声は苦々しい。

 

「いや、家には大体アーシアと部長と朱乃さんとが居るし、朝はトレーニング、放課後は大体部活でな……」

 

「あー」

 

一般的な思春期の男子として考えるとかなりキツイ生活ではないだろうか。

唯でさえ兵藤先輩は種族的な問題すら超越して常人を上回る性欲を抱えているというのに。

 

「誰かに手を出しちゃえばいいじゃないですか」

 

「いや、据え膳だし、俺も行くぞー!って感じではあるんだけど。全員がかち合うと、どうしてもな……」

 

「4Pすれば?」

 

「そういう雰囲気じゃないっていうか……」

 

めんどくせぇ連中ですな。

いやまぁ、別にそこらは此方には関係ないのだが。

 

「まぁ、探せばこういう施設も無いでは無いですし……。あとは、場末のレンタルショップとか行くと個室借りれたりするらしいですよ」

 

「なんで彼女持ちなのにそんなに詳しいんだよ」

 

「色々あるので」

 

忍者同士の情報交換で使ったりする事が稀にあるのだ。

が、どちらかと言えばこういう施設……というか、子供が作る秘密基地のような場所の方が使い易いのではないだろうか。

特にほら、部長さんとかはともかく、アルジェントさんやらお茶淹れてくれる人がこっそりついてきて、兵藤先輩が『いたしている』場面に出くわした時、スムーズに野外プレイに移行し易いし。

実際そういう用途で作られたと思しき秘密基地も多いし。

弱小淫魔が浮浪者や初な学生を捕まえて害のない程度に精を吸うのに使われる事があったりもするようで、そういう雰囲気がこべりついているのかもしれない。

 

「どっちにしろ、学校でも無いと読むのも難しいんだよ。空いた時間は基本的に悪魔の仕事の時間になるしな」

 

疲れたような溜息。

なるほど、下っ端というのはどこの業界でも貧乏暇なしを地で行かされてしまうわけか。

今の兵藤先輩は忍者で言えば中忍でなく下忍なのだろう。

生憎と此方は下忍すっ飛ばして中忍スタートだし、中忍としても下忍を使うまでもなく人足も事足りてしまうので余り馴染みはないのだが。

しかし、年頃の男子がスッキリする為の時間すら無い、というのは同情の余地がある。

 

「では、その本の中で『良いな』と思う人の個人本を何冊かお譲りしましょうか?」

 

「……いいのか? っていうか、そっちは表に出ても大丈夫なヤツなのか? 刺客とか来ない?」

 

「あくまでその本の実在がバレるのが問題なだけですから。忍者業界の流通に乗ってるものなら大した問題にはなりませんよ」

 

大体、検索の仕方次第で普通に対魔忍の調教風景の動画くらいなら見つかっちゃうし。

要は対魔忍を堕とす方法がしっかりと描かれているのが問題な訳で。

完全に奴隷娼婦になった後に撮影されたものなら何の問題にもならないのだ。

勿論、『20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~』に載ってるけど、一般忍者業界では他に露出のない対魔忍とかも居るには居るが。

居るが……期待の新人()とかでも無い腕利きの対魔忍ともなると、一度二度捕まって調教を受けた事があるというのも珍しい話ではない。

むしろ最新捕縛者目録に載せられる様な腕利きであれば、間違いなく以前の調教時や調教後の映像記録、或いは画像記録を纏めた書籍が販売されている。

 

オススメは某五車学園にて若くして校長を務めるアサギ某だ。

彼女は歴戦の戦士であり、当然宿命のライバル的な相手も多く、比例するように捕縛されて辱めを受けた回数は数え切れない程に多い。

クローンも存在している関係からか、各所から関連書籍が多く発売され、中古市場でも在庫がダブついている為に安価で手に入れる事が可能だ。

彼女が若かりし頃のものから近年の作まで幅広い種類が選べるので、時代を追うように使うのも乙であると言われている。

見目も整っているので、グラマラスな女性が苦手、というのでも無ければ、まずは彼女のエロ本か動画から検索してみるが無難ではないだろうか。

 

ただ……、ちょっと此方の視点だと、アヘ顔多めである点を差し引いても挿絵状態でも顔が濃いのが難点かな、と。

馴染み深い両親のそれぞれの画風とも、何故か忍者業界だと割りと見かける日影さん寄りの画風とも、高校進学してから増えたオカ研とか悪魔天使堕天使周りの画風とも違う濃さというか。

更に言えば肌が妙にテカテカしているのにも少し首を傾げてしまう。

いや、肌がテカテカなのは個人的知り合いのユキカゼ某に顕著な特徴で、その他の対魔忍のテカテカは大体の場合ボディスーツか体液かローションなのだけど。

同じ年齢制限付きでも、ペルデュラ某が居た世界ともまた分類が違う。

あっちは妙に肉感強いけど、テカリは少なめだった気がするし。印象の問題だろうか。

 

「この中の、個人物か……。つまり、掘り下げもより深いって事だよな」

 

何時になく真剣な声色で考え込み初めてしまった。

鼻息の荒さと頁をめくる音からして、目録をじっくりと読み込んで誰のものを選ぶか吟味しているのだろう。

実際、対魔忍の女性は何故か美女、美少女が多いし、体型にしてもグラマラスからスレンダーまでよりどりみどり、年齢に至ってもうっかりお縄レベルのものまで揃っているので、好みにしっかり合致する相手を選ぶのは難しい。

 

「……むむ、むむむむ……」

 

もわもわと部屋の中の湿度が上がってきた。

薄目を開ければ目を血走らせた兵藤先輩が写真集を見ながら頭から湯気をもくもくと吹き出している。

考え過ぎで体温が通常人類では有り得ないレベルにまで高まってしまっているのだ。

別に『今選べ』だなんて一言も言っていないのに、やはり愉快な人だ。

 

「だ、ダメだ! 俺には、俺にはこの中から選ぶ事なんて……! ……いや、待てよ? お前、この手の本には詳しいんだよな」

 

「誤解を招く言い方ですが、間違いではないですよ」

 

精通しているとは言い難いが、少なくとも何の前情報も無いモータルに比べれば間違いなく情報通に数えられる。不名誉な話ではあるが。

そもそも普段は写真多めの本とか写真集なんてまともに読めないので、本そのものに詳しい訳ではない。

が、忍者業界である程度活動していると対魔忍やその対立組織の噂話くらいは耳に入ってくる。

 

某五車学園の校長が捕縛されて調教、陵辱を受けている、だの、どこそこで校長に対する竿役を大量に募集している、なんて、天気の話の如きありふれた話題でも、恐らくモータルにとっては得難い情報なのだろう。

それらの一般忍者レベルの情報網から得られるデータで良ければ提供するのもやぶさかではない。

これは一種の情報提供であり、決して対魔忍の見事な奴隷市場娼婦市場卸売業者な実情を面白おかしい笑い話として広く喧伝して笑いものにして辱めてやろう、なんていう気があるわけではないのだ。

 

「お前の一押しを……、いや、実用性が高いものを……いやいや! レア度が高くて実用性が高いやつを、頼む」

 

「レア度」

 

偶に場末の個人経営古書店に流れてる某校長のものでも無ければ一般的にはレア物しか無いのだが。

そもそも実用性にしても、抜きドコロなんかは同じ本でも人によって違うし……まぁこの人の場合はおっぱい出てれば実用性もクリアーって事でいいか。

忍務でかっ剥いできたその手の本はそれなりにあるし、寝かせても値段が釣り上がらなさそうなところから適当に渡して……。

 

「……じゃあ、そうですね、一般的な忍者流通の中にも中々流れていないレア物をお譲りしましょうか」

 

ふと、悪魔的な閃きが俺の頭に舞い降りた。

これ、前に実験できなかった『あの現象』を検証する良い機会なのでは?

元手はタダ、レア物ではあるし、実用性も抜群、そも報酬と引き換えという訳でもないのでチョイスは基本的に此方の自由だ。

途中で良心の呵責に苛まれたなら、真実を告げない、という形で実験を中断する事も容易い。

 

「いや、なんか悪いな」

 

「確かに悪いのは先輩ですけど、気にしなくていいですよ。……覚悟決めて手ぇ出せるようになれば必要のない話ではあるんですけどね!」

 

一度手を出してるんだから、そこら辺をきっちり公言すれば楽になれるだろうに。

が、そこら辺の先輩の下半身事情には此方は関係ないので、二兎を追うもの虻蜂取らずにならない様に祈りつつ、解消用のエロ本を善意で提供してあげるに留めておく事にしよう。

 

―――――――――――――――――――

 

更に後日。

学園内での受け渡しは森先輩やらお茶淹れてくれる人とかアルジェント先輩やらに情報が漏れてしまうという危険性があり、更に言えば受け渡した直後にその場で開封して読み始めて此方にまで悪評が広まる可能性がある。

そんな理由もあって、以前にも利用した学園からわりと離れた場所に位置する山の中にひっそりと佇む秘密基地(いわゆる放置された廃屋である)に訪れる事になった。

連れ立って行くと噂されそうで嫌なので、各自少し時間を空けてこの場に集まる手はずだったのだが……。

 

「事情はわかったよ。でも、それで僕を呼ばれても、困るなあ」

 

「あ、あの、それって僕も呼ばれて良いものなんですか?」

 

「いいっていいって、遠慮すんなよ二人共! こういうのは仲間の結束を高めるのに大事な事なんだから!」

 

悪魔は命を預け合う仲間の結束もエロ本で作るのだろうか。

尾行が無いか確認しながら小屋の近くまで来てみれば、此方の部外者を寄せ付けない為の努力も虚しく、明らかに兵藤先輩が連れてきたと思しき知人と友人の声が聞こえてきた。

知人の方は、ギリギリの所でホモではない程度のホモっぽいイケメンから、復讐の楔から解き放たれる事でちょっと女性関係にトラウマがあるコスプレ趣味のイケメンへとこの梅雨にイメチェンを果たした木場先輩。

友人の方は、ちょっと女装が趣味でやや引きこもりがちかつ魂にすげーものが混じってるだけのごくごく平凡かつ控えめながらも友人を気遣う思いやりに長けた優しい此方の友人にして同級生のギャスパー。

 

個人的な付き合いが少なからずある二人だからこそ言えるが、此方の知る限りではレア物のエロ本を求めるタイプではないし、友人との間でエロ本を回し読みするタイプでもない。

というか、この二人が居る状態で兵藤先輩にエロ本を渡すのか……。

いや、譲ると言ったのは此方だし、別に此方が一定以上のレベルのスケべである事は理解してくれている筈だ。

それに、この二人なら口も硬い。

此方が兵藤先輩にエロ本を融通した事も、実験に使う今回のエロ本の事も、実験結果も、無闇矢鱈と言いふらす事はないだろう。

 

「はいはい、兵藤先輩は無闇に自分の趣味を押し付けない」

 

「おお、来たか! それでそれで!? 話にあったブツは?!」

 

戸が外れて開け放たれたままになっている入り口から入ると、兵藤先輩はまるで此方の言葉など聞こえていないかの様に興奮気味に駆け寄ってきた。

普通なら呆れるところだが、兵藤先輩が命に関わるシリアスな話か、困ってる誰かを助ける時か、悪魔としての立身出世に関わる話でもない限りこうなのはいつも通りなので諦めるしかない。

これがホントのホントに平時であれば多少の落ち着きはあるのだけど、今回はエロス絡みの話であるからして。

 

……逆に、この浮かれに浮かれきった、まるで誕生日のプレゼントを前にワクワクしている幼子の如き無邪気な現状が、今回の実験でどんな事になってしまうかと考えれば、呆れや苛立ちどころか、逆に雀の涙程度ながら申し訳無さすら感じてしまうのだ。

 

―――――――――――――――――――

 

廃屋の中、ズボン(或いはスカート)を汚さない程度に砂を払って四名は円座を組んだ。

円座の中の一人、書主が一冊の本を静かに差し出す。

仰々しい、格式張った布表紙のハードカバー。

存在感のある佇まいに相応しく、表紙負けしない程度に分厚いそれは、一見して卒業アルバムの様にも見える。

 

「これが……」

 

その佇まいに気圧されてか、或いは伝え聞く内容への期待からか、円座の中の一人、イッセーが唾を飲む音が廃屋の中にやけに大きく響く。

一見してその手の本に見えない装丁の珍しさからか、円座の中の残り二人、祐斗とギャスパーも興味深げに見つめている。

三つの視線の突き刺さるハードカバーを、イッセーが慎重な手つきで捲る。

手に取らず、砂と汚れが除かれた床に本を置いたまま開かれた最初の頁は、どの視線の主も見たことのない文字。

 

「あれ、読めない……?」

 

多くの言語に通ずるという悪魔としての基礎的な力が通じない。

 

「忍者文字ですからね。言語でなく暗号の一種ですよ」

 

悪魔に限らず、深い知識や特殊な暗号解読技術を持つ渡来人への情報流出を防ぐ、忍者業界で広く普及する暗号術の一種である。

無論、時間をかけて専門の知識を持つ者が解読を試みれば読めない事もないのだが。

 

「うん、まぁ、文字はいいんだよ文字は。あればあるでいいけど、無くてもいい」

 

「そういうものなのかい?」

 

「人に寄りますね。個人的にはJUN文学も悪いものではないと思いますが」

 

文字なんてどうでもいい、とばかりに気を取り直して次の頁を捲るイッセーを尻目に祐斗が書主に問い、書主はその問に曖昧に返した。

趣味は人それぞれ、セリフ付きの方が捗るという勢力は常に一定数存在するのだ。

 

「純文学?」

 

ギャスパーが首をかしげる。

ギャスパーの知識の中にある純文学はこういった下半身文化とは繋がらない。

勿論、JUN文学は純文学ではないのでギャスパーの誤解なのだが。

 

「今度参考文献を貸すよ」

 

穢れなき友人を悪意なく穢の満ちた世界へと導く書主に構わず、イッセーが次の頁を開いた。

 

「お、可愛いな。ちょっと幼いけど」

 

「ローティーンですからね」

 

「……犯罪?」

 

「忍者には忍者の法があるという事ですよ」

 

開かれた頁には、一人の少女の写真が数点掲載されていた。

それこそ卒業文集の様に、忍者文字による頁の下半分を締めるような長文とバストアップの一枚。

隣の頁には少女の日常風景を写したものだろうか、制服やジャージ、私服と思しき姿のものまで。

 

「ハーフかな」

 

「白人系……じゃないですね。でも肌綺麗……」

 

「おっ、ギャスパー、この子気に入ったのか?」

 

「ち、違いますよぅ……」

 

肩甲骨辺りまで伸びた紫の髪を後で編み込んだ少女は、ローティーンであるにも関わらず、いや、近年ではそれなりに見かける程度にはメリハリの有る肉付きをしている様にも見える。

つり目がちな細目で快活に笑う姿は、全体的な印象としては勝ち気な性格に映るだろう。

私服と思しき服は、露出こそ少ないものの肉体の凹凸を隠すようなものでなく、それもまた明るい印象を与えているのかもしれない。

 

「小猫さんよりはあるでしょう?」

 

「小猫ちゃんと比べればそりゃね」

 

「小猫さんはあれで総合的な凹凸はそれなりに……どうしました木場先輩」

 

「いや、こういう時に名前を出すと、偶然通りがかったりするって聞いたからね」

 

「ひえっ、あの、僕ナニも、小猫ちゃんと比べてなんかいいなーなんて言ってないからぁ!」

 

「しかし今言った」

 

「そういう時は弁明をせずにとりあえず謝っておくのが無難だよ」

 

「なんか木場、慣れてるように聞こえるけど」

 

「ハハッ」

 

「止めましょう先輩、恐らくそこはアンタッチャブルな部分なので」

 

少々の戯れ合いを挟みながら、再び頁を捲る。

頁の大部分を占めるのはやはり少女の日常を写した写真だ。

最も、その半数程が忍者としての修行の光景も写している為、完全に日常の光景という訳ではないのだが。

しかし、この少女が忍者としての修行を積んでいる最中の学生であるとするのなら、それもまた少女の日常なのだろう。

 

「飛ばさないんだね」

 

「ああ、多分これ、徐々にエロに移行するタイプだろ。普段を知るからこそエロが輝くってやつ」

 

「わかりますか」

 

「匂いでな」

 

「へ、変態だぁ……」

 

頁を捲る。

ここで、掲載されている写真に変化が訪れる。

先までが明るい日差しの中の、あるいはありふれた教室の中のもの。

しかし、この頁に載せられている写真はそうではない。

少女は薄暗い部屋の中、軽い拘束を施された上で、腕に注射をされている。

少女の表情も、先までの明るいものや勝ち気なものから、真剣な、そして緊張からか強張っている様にも見えるぎこちなさが伺える。

 

「来たな……」

 

「ギャスパー、この子が気に入ったなら、ここからは……」

 

「だ、大丈夫……。僕も、男だから」

 

ゴクリと唾を飲み込み、真剣に鼻の下を伸展させていくイッセーを尻目に、書主はギャスパーを気遣い、ギャスパーはその気遣いをやんわりと、しかしはっきりと退ける。

無言の祐斗の表情は硬い。

そういう本である、という事実はあれど、拘束具と薬物という組み合わせは、否応なく振り切った筈の聖剣の因子保有者としての過去を想起させる。

期待、そして緊張と覚悟、様々な感情を向けられながら、また一枚、頁が捲られた。

 

だが、誤解してはいけない。

どれだけ様々な感情がこの場に渦巻いていたとしても。

薄暗い廃墟の中、一冊のエロ本を四人の男子高校生が輪になって鑑賞しているのだ、という事を……。

 

―――――――――――――――――――

 

「…………ふぅ。ごちそうさま」

 

「その挨拶要ります?」

 

兵藤先輩の予想通り、日常生活をある程度写した後にエロシーンを見せるタイプであった為、妙に神妙な雰囲気はその後数分も持たなかった。

木場先輩なんかは写真の中の少女が受けている責めを見て興奮よりは軽い嫌悪感を抱いていたようだけれど、それは彼の実験体時代の経験と割りと真っ当な道徳観が原因であろう。

最初から忍者業界特有のキツさを持ったエロ本であると割り切って読み始めていた兵藤先輩は大興奮。

全ての頁を全員で見終わった後、本を持ったまま廃墟の奥、何故か置いてある仕切りの向こうにティッシュ箱とアルコールティッシュ、スプレータイプの消臭剤にビニール袋を持って意気揚々と消えていき、数十分の後に満足げな雰囲気で手を拭きながら戻ってきた。

持っていったビニール袋がスーパーの白い袋で無く透明なものであったなら、ビジュアル的に最悪な事になっていただろう。此方は見ないが。

衝立の向こうから時折聞こえてきた「うっ!」という声も『びゅるるるっ!』という発射音も最悪だったが、普段そういう事ができない環境であるようだから許してあげようと思う。

 

少し意外だと思ったのはギャスパーの反応だろうか。

ギャスパーはその幼少期の経験からか、同年代の女性に対する免疫がそう強くない代わりに、性的興奮をあまり覚えないようなのだ。

なのだが、そのギャスパーが妙に反応していたのである。

本人も何故反応してしまっているのか分からない戸惑いの中、スカートの生地が青臭い匂いを微かに漂わせながら押し上がるのを必死で隠そうとしつつ、視線は決して本から、そして本に載せられた写真の中で性的調教を受ける少女から目を離せないでいた。

少女が複数の青筋だった肉塊に蹂躙される場面や、奇怪な生物に半ば取り込まれながら貫かれる場面、或いは赤らんだ窪地を裂けるほどに広げながら怪物の卵を排出する場面。

それらの頁では興奮しながらも何処か絶望しているような雰囲気で、ビクリと身体を跳ねさせながら青臭い匂いを強くしていた辺り、何か特殊な性癖が芽生えてしまったのかもしれない。

なんだか悪いことをしてしまった気がするが、この本が原因ではなく、恐らくは切っ掛けに過ぎなかったと考えればそう悪いことではない。

特殊性癖は早めに気づいてどう付き合っていくかの折り合いを付けることこそが重要なのだ。

 

「でも、スッキリできたようで何よりです」

 

「おう! これでまた部長からの誘惑に耐える事ができるぜ!」

 

耐えずに手を出せば解決するのにね!

あとお茶の人とアルジェントさんの誘惑には耐える必要がないんだね! ふしぎ!

と、そんな些事は置いておくとして。

ここからが本題。

 

「良いエロ本だったでしょう」

 

「ああ! ……しかし、改めて見るに不思議なエロ本だな。バーコードも無い」

 

なるほど、兵藤先輩の言うとおり、この本は一見して明らかに市場で販売されているものと異なりバーコードのたぐいが存在しない。

勿論忍者業界でのみ流通するものであればISBNを使う必要がないので必ずしもバーコードなどが付随する訳ではないのだが、それでも流通に流す場合は忍者図書コードのようなものが付随する。

 

「同人誌みたいなものですからね」

 

「同人……個人の自費出版って事?」

 

「そうですけど、なんで木場先輩が知ってるんですかねぇ……」

 

「僕も、交友関係は剣道部とオカ研だけじゃない、って事さ」

 

得意げに笑っているのであろう、少しだけ声が弾んでいる。

ああ、衣装を都合して貰った代わりに売り子として手伝ったり……。

友達の輪が広がったようでなにより。

 

「自費出版かぁ。……こういう本って、どういう経緯で作られるんだ?」

 

────食い付いた。

口元がニヤけるのを完全な身体操作技術により押さえ込む。

溜まりに溜まっていたモノを抜いたお陰で賢者モードに入っているのだろう。

感慨深そうな、感嘆するような、そして少しだけ悲しそうな声で兵藤先輩は此方が尋ねて欲しかった疑問を口にする。

 

「昔通ってた忍術学園で。卒業の際にこういう本を作って投げつけ……押し付け……送り合うんですよ。卒アルの個人版みたいなもんですね」

 

「良く学校側が許すなぁそれ」

 

「そもそこに載ってるエロ場面は学校での授業の一幕ですからね。公式行事でなく生徒の間に伝わる風習ですけど、卒業前のお祭り的なイベントなだけあって、結構盛り上がるんですよ?」

 

「お祭り? 卒アル作りが?」

 

「授業の一風景とはいえ、学生が自由にアクセスできるデータじゃありませんから。それを手に入れる為に、学んできた忍術を駆使して職員室に忍び込んだりするんです」

 

因みに、最初の方に堅苦しいバストアップ写真と共に載せられる作文もこの時に取得する。

学園での授業風景を写した写真なんかは外には持ち出せないので隠し場所の捜索は省かれ、職員室に対する闇討ち、襲撃、電撃作戦により警備や教師をボコして写真(プライズ)をゲットする形になるのだ。

基本的には襲撃側が複数人数でチームを組んで突撃するため、忍者としての基礎能力の他、複数人数でチームを組んだ時にどれほど連携が取れるか、また、教師という格上の忍者に対してどういう手で勝ちに行くかの判断力と発想力という点の確認にもなるらしい。

まぁ教師側も容赦しないので、襲撃に失敗して捕縛された場合はそれなりに厳しい沙汰が下されたりするのだが、そんな未熟者の事を気にする必要はない。

 

「そっかー…………なぁ、これ、本当に俺が貰っていいもんなのか?」

 

エロ本の譲渡の是非を、兵藤先輩は此方の予定通りに(・・・・・・・・)神妙な声で問うてきた。

 

「なんでまたそんな事をお聞きに?」

 

「いや、だってよ。これ、卒業の時に送り合う、って事は、これをお前に送ってきた相手が居るって事だろ? こういうのを送ってくるって事は……」

 

「……ああ! そうかそうか、そういう解釈も出来ますね、はい!」

 

「解釈……?」

 

首を傾げるギャスパーに、少し大仰にジェスチャを付けながら説明してあげる。

 

「ほら、自分のアルバムを作って友人とかに送る、或いは交換する、みたいな?」

 

そういう風に取れるように説明したしね!

 

「違うのか? ああでも、友人でも送るには抵抗がある内容だしなぁ……告白代わりにって事も無いか」

 

「普通に考えて、自分がエロ調教受けてる場面集めて送りつけるヤツなんて居ませんて!……あんまり」

 

「あんまり」

 

例外なので木場先輩は反応しなくていいです。

だが、さあ、ここまで話が膨らめば、準備は完了だ。

可能な限り朗らかに、何でも無い世間話ではなく、ちょっとした笑い話を披露する様に。

ネタバラシを開始しよう。

 

「このアルバムはですねぇ。忍術学園の男子生徒が(・・・・・)互いに送り合って笑い合う(殴り合う)為のものなんですよ。──お前、こんなアヘ顔晒してたのによく卒業できたよな! ってね」

 

―――――――――――――――――――

 

決定的な説明を口にし、瞼を開く。

 

「────────────うん。うん……うん?」

 

「それは……」

 

「え、え?」

 

思考に長い空白を作った後、反射的に数度頷き、受け入れがたい真実を頭が許容できないのか、首を捻る兵藤先輩。

何かを察したかの様に驚愕に顔を歪ませる木場先輩。

どういう事なのか、訳が分からないとばかりに此方と兵藤先輩を交互に見つめるギャスパー。

良いリアクションだ。

このリアクションが出るだろうと見越しての場のセッティングだったし、当然のごとく挿絵になるほどの精神的衝撃を得たのだろう三人の顔は面白い。

この画が見れた、この時点で予定外の二人を連れてきた事はチャラにしてあげてもいいだろう。

 

「え、あれ、でも、男子生徒? あれ、でもあれ、女の子……だよな?」

 

震える声で此方とエロ本……個人卒アルを交互に見ながら混乱する兵藤先輩。

 

「はっはっは! ──不思議には、常に種と仕掛けがあるものですよ」

 

言いながら、懐から取り出した特殊な処理の施された巻物を口に咥え、宣言する。

 

「忍、転・身!」

 

────説明せねばなるまい!

忍転身とは本来、現代式の忍者が戦闘、潜入などの際に適した装束へと早着替えを行うための忍術の一種である!

だが、忍者が古くから伝えてきた変装術、そこに、大戦時に旧日本陸軍と行われた密かな技術交流の中で培われた肉体改造技術が混ざり合い、派生型とも言える忍転身が生まれた!

肉体を本来のものとは異なる形へと作り変える、言わば遺伝子レベルでの衣装変化術!

それは狐や狸や一部猫などが用いる分子、原子レベルでの変化に匹敵するとすら言われている!

 

「はわ……」

 

ギャスパーがあんぐりと口を空け、此方を震える指で指差している。

さもありなん。

肉体、見目の変化という意味で言えば、悪魔にとってはそう難しい技術でもない。

肉体を別の生物の群体にすら変化させられる吸血鬼からしても驚くべき事ではない。

では、なぜ、何故! 何故にそこまで驚かせる事が可能であるか!

それは!

 

「もっと驚いても構いませんよ……何しろほら、ご覧の通り」

 

見よ! このボディ!

ここ数年分成長し(・・・・・・・・)、メリハリのあるボディラインは日影さんにすら匹敵!

無駄なく靭やかに鍛え上げたマッスルは、詠さんすら凌駕する出力を誇りながら薄く備えた脂肪により完全に隠蔽され、いっそ文系の少女にすら見えるだろう!

そして、極め付きは顔、頭部!

当時から更に伸び(・・・・・・・・)、背の半ばまである太く編み込んだ髪は、母さん譲りの美しい紫!

 

「この形態の此方は、とてもカワイイですからね!」

 

こんなにカワイイ此方のTS(トランス・セクシャル)形態をいきなり目の当たりにしたのなら、驚きから声が出なくなっても仕方がないのだからして!

……クールダウンクールダウン。

いかんな、この形態だと妙にテンションが高くなってしまっていかん。

女性版の此方を遺伝子レベルで再現しているが故のものながら、このテンションだけは少し恥ずかしさを感じてしまう。

 

「おお、神よ、魔王よ……」

 

木場先輩が顔を両手で覆い、死んでるのと複数居るのとに、届くはずもない嘆きを訴えている。

何が起きたか、何故このエロ本なのか、全てを察してしまったのかもしれない。

此方を止めようとしないのは、最早手遅れであると理解しているからか。

 

「センパイ!」

 

花開くような、という表現が十分に相応しい晴れやかさで、兵藤先輩に、無駄打ちの詰め込まれたビニール袋を未だに手に下げている先輩に、満面の笑顔を向ける。

親指を立てる代わりに、握りこぶしの人差し指と中指の間から親指を突き出す。

このジェスチャは古代ローマカラテの使い手達が、獲物を満足の行く方法で仕留められた時にのみ使うことが許された由緒正しいジェスチャなのだ。

 

「喜んで貰えたようで何よりです! ────此方のプライベートエロ写真集!」

 

―――――――――――――――――――

 

「あ」

 

「あ、あ……」

 

ばぎん、と。

分厚いガラス細工が割れる様な、取り返しの付かない音が響く。

不可逆の破壊。

肉体的な、精神的な、神器との接合、パーとカー、ワカンタンカとの大いなる繋がり。

幼き日の思い出、無残に裏切られた恋、仲間との絆、親子の情、友との日々……。

イッセーを構成するありとあらゆるものが、欠けてはいけないものが。

 

「良いおっぱいだったでしょう?」

 

跡形もなく、砕け散った。

 

―――――――――――――――――――

 

「おぉ……」

 

凄い、この人、拒絶反応だけで神滅具でも成せないレベルの完全な死を……。

これはフェニックスの涙とか聖母の微笑とか、そういうちゃちな玩具ではどうにもならないな。

 

「おぉじゃない」

 

「あいた!」

 

後頭部を激しく引っ叩かれた。

木場先輩だ。

その表情は怒りというよりは困惑と焦りに満ちている。

 

「狙ってやったみたいだけどやり過ぎだよ。……まぁ、イッセー君のリアクションも過剰だけど」

 

「いやぁ、まさかここまでなるとは……照れますね!」

 

最近読んだ兵藤先輩の記述の中に『女装した男の偽乳を触ると拒絶反応で七孔噴血する』みたいな事が書いてあったけど、まさかなぁ。

女装して揉ませるのもあれかと思い、男がTSした状態で犯されまくるエロ本を見せる程度に留めたが、まさかTSだと気付かずに使いまくった挙句、ネタバレした瞬間に事故車のフロントガラスの如く粉々にひび割れるとは。

この完膚なきまでの死にっぷり以外はほぼほぼ計算通りだが、兎角死にっぷりが凄い。

余程陵辱の限りを尽くされる此方の姿がエロチックに写ったのだろう。

まぁ日影さんが居ない時とか、稀に分身して片方TS転身してひとりエッチに励む程度に魅力的である自覚はあったけれど。

 

「……アーシアさんを呼ぶべきかな?」

 

「いや、大丈夫大丈夫、まだ慌てるような時間じゃないですよ。ほら」

 

ヒビ割れた兵藤先輩の胸の中に手を差し込む。

驚くほど抵抗なく、乾いた砂にも似た感触と共に中に手が沈み込んでいき、中から小さな何かを取り出す。

手の中に残ったのは、ぐったりと力なく手足を投げ出している小さなトカゲだ。

 

「死ん……無事な部分がありますでしょう? ここを起点にすれば簡単に直せますよ。ほら先輩、ご挨拶」

 

「俺はパセリ……」

 

一応、兵藤先輩の声だ。

必要な部分が全て抜け落ちた後のどうでもいい残骸の様な存在なのだが……。

忍者的にはまだセーフだ。兵糧丸でなんとかなる。忍者なら。

 

「本当に大丈夫なのかい?!」

 

落ち着いてきた最近の木場先輩にしてはリアクションが大きい。

これはあれだな、死んだ兵藤先輩の肉体の残骸に残された砕け散ったチェスの駒とかの話はしない方がいいな。

確かあれも重要パーツだった筈だし。

 

「あ、あの、書主、さん」

 

「うん?」

 

「これ……」

 

ギャスパーがエロアルバムを手に此方を見上げている。

青ざめているような、恐れているような、それでいて息が僅かに荒いような。

……ふむ、なるほど。

TSして若干性能が変化しているとはいえ、此方の頭脳と女性体としての美しさは母さん譲り、当然言葉が足りないギャスパーが何を訴えているかなど手に取るように解る。

不安そうな、怯えているようにも見えるギャスパーの頭に手を載せ、微笑みかけながら撫ぜる。

 

「大丈夫、無残に調教されてしまった可哀想な少女なんて居なかったんだよ。何せほら、こうして元気にやっているから、ね?」

 

まぁ少なくとも同窓生、同級生の中の女性らは同じような調教……エロ拷問訓練を受けているので厳密には沢山居るのだけど。

彼女らも今では元気に忍んだり忍ぶどころか暴れたりしているだろうからノーカンなのだ。

 

「は、はいぃぃ……」

 

顔を赤らめながら頷くギャスパーの表情には何処か影が残っている。

ギャスパーは少し臆病なところがあるだけで、頭は回る方だ。

故に此方の気休めの言葉の裏を察して、しかし此方の慰めようという意を汲んで頷いてくれているのだ。

素晴らしい気遣いのできる友人に恵まれて、此方は実に幸運である。

 

「さて、じゃあ、オカ研の部活が始まる前に兵藤先輩の修復作業を終わらせるとしますか!」

 

「俺はパセリ……」

 

挿絵だった小さな死にかけのトカゲがその輪郭を崩し、文字列へと入れ替わる。

『兵藤一誠の残骸』

『本体をディナープレートセットと仮定した場合、付け合せのパセリ程度にしか原型をとどめていない』

『この世の如何なる奇跡を持ってしても修復は不可能だろう』

などという実に絶望的な記述を目を閉じてガン無視。

 

「治るのかなぁ」

 

「直りますからそう不安がらないでくださいな。何せほら、カワイイ此方は錬金術においても優秀ですからね!」

 

「そのキャラ付けは止めた方がいいと思うけどね……」

 

不思議だ。TSした時は毎回この台詞を言われている気がする。

此方も同意見ながら、この口調がデフォになってしまうのでどうしようもない。

昔の忍たま同級生達の様に腹パンしてこない木場先輩の優しさにほっこりしながら、兵藤先輩の修復作業に取り掛かるのであった。

 

……その後、どうにかエロ本を見る直前くらいまで巻き戻せた兵藤先輩に、最近新たに出版されたユキカゼ某の奴隷娼婦個別写真集を渡し、その場は解散となった。

此方が持ち込んだアルバムに関しては、ギャスパーが何故か欲しがったので譲ってあげる事に。

浮いた話どころかPCの中にエロ画像フォルダがあるかも怪しいギャスパーが女性のエロスに興味を示せたのは良い傾向だと思う。

その興味の対象がTSした此方なのは多少複雑な心境ではあるのだけれど、ギャスパーが年頃の男子らしく女性に興味を示す切っ掛けになるのなら、特に問題はないだろう。

 

 

 

 

 




以前出たエロ本とイッセーの偽乳拒絶反応ネタのリサイクル話でした。
多分本編にはそれほど影響はない。
ほぼ男子のみで色気のない話でしたが偶にはそういうのもありという事で

☆エロ個人卒業アルバム
本文中でもあった通り、男子学生のお巫山戯で作られる
日常っぽいシーンは、エロ調教に先駆けて行われるTS忍転身の授業ではしゃいでいる姿や、応用編であるTSした状態での草としての訓練風景などをかき集めて作られるらしい
一冊のみ刷って渡す場合もあれば、複数冊刷ってばらまきながら『TSFでこのアヘ顔晒してたのに卒業できたなおめでとう!』という、自分含む忍者男子学生全員に突き刺さるブーメランを投げつけてくる猛者も
因みに忍者女子学生に対してのエロアルバム作成配布は互いの同意の元に行わないと後がコワイぞ!

☆TS体
アトラス院元院長候補譲りの豊富な知識!
豊満なバスト、靭やかなくびれ、安産型の尻!
完全調教済みでどんなプレイでも大体スムーズにアヘる!
だが本来は男だ
母親譲りの美貌は腹パンしたくなるようなドヤ顔に移行しやすい
アルバムの中で薄目を空けていたりするシーンは記述を見て効率よく授業を受けているシーンを厳選している

☆兵藤一誠(パセリ)
ドライグごと粉々に砕け散った
この世の技術で治らないのでこの世ではない技術で直された
治らなかった場合は他二人を廃墟の外に追い出した上で複製と入れ替わる可能性もあった
エロアルバムに関しては一切覚えておらず、ギャスパーが抱えているそれを見ても知覚できなかった
結果的にはレアエロ本手に入ったので本人的には問題ない筈

☆ギャスパーくん
なんだか嫌に興奮すると思ったら気になる友達がTSした姿だったよ!
知らない場所で友達がいろんなエロい目にあってたよ!
興奮してしまった事に自己嫌悪したけど、本人から優しくされてなんか有耶無耶にされたよ!
そんな複雑な気分にさせてくれた友人主演のエロ本は本人から譲られて手元にあるよ!
読んでると微笑みながら頭を撫でてくれた感触とか、TSしてない時の諸々の友人としての触れ合いがフラッシュバックするよ!
性癖が歪むよ! やったねたえちゃん!
本編に影響はない、たぶん

☆木場先輩
かつての仲間達との絆の剣も、戦士としての技量も、MKTもコスプレ趣味も、こういう場では役に立たないのだ……


書き終わってから思うけどこの話は特殊性癖無いと無理な話だなって思う
ただ、ギャスパーくんがネトラレ物の主人公みたいな状態に落ち着く話を書きたかっただけなんや……
嘘、最初は対魔忍の能力とかエロ周りの通常忍者との違いを書きつつ主人公とイッセーがエロ品評会をする話でした
でも思いついちゃったから……
絶望的な表情で息を荒げながらスカートの下のポークビッツ激しく弄るギャスパーくん見たい……見たくない?
陵辱されてるのは原作キャラじゃなくて主人公だし、誰の懐も痛まない疑似寝取られ話としては丸く収まった形だと思うのです


多分次に小猫さんと黒歌さんの番外編を書いてから本編に移ります
本格的にラブコメが始まる……予定です!
つまり未定
まぁ修学旅行編で京都側と並列で描写するからまだ本格的に始まる訳ではないけど、準備期間としてややラブコメる筈

感想や諸々の指摘、感想など募集しております
それではまた次回更新で

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