文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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六十話 壊れたお守りはこうするので

なんやかんやと改造プランについて長々話をしていた訳だが、どの案を採用するにしても一朝一夕で出来るものではない。

ゼノヴィアさんの要望は後半無視してしまうにしても、改造元であるデュランダルは剣と言うよりも聖なるオーラを放つ無数の金属片としか言いようのない状態になってしまっている。

最新の科学や魔術を取り入れた錬金術で作り直す訳だから、通常の刀剣を打つよりは余程早いにしても一週間は見て貰いたいのだ。

 

「逆に、早ければ一週間で聖なる鉄くずから聖剣作れるんですよね」

 

「そらね」

 

実際、デュランダルの破片組み立てでなく、聖剣の材料を集めて新たな聖剣を作るならもう少し掛かるだろうが、それでも年単位が必要ということにはならない。

技術の進歩は日進月歩、遺失技術は遺失しているからこそ現代のそれを上回っているのであるからして。

現代までその技術が真っ当な形で残っているのであれば、人類の進歩と共にその技術も進歩して然るべきなのだ。

例えば聖書勢力の天使側の下の方……教会とかでも聖剣の新造は不可能ではない。

彼等が聖剣を新造できないのは思想的な、或いは権威的な問題なのだ。

失われた、或いは意図的に抹消された技術はあれど、残された技術は古い時代を上回る筈だ。

しかも今回の件では、破片と化したデュランダルは元の形に戻りたがっている。

自己修復能力を持たないとしても、こういう少なからぬ意志を持つ器物の修理には修理される側の心構えが多少反映される。

直しやすい形で壊れ、直る意志があり、直せる技術を持つ技師が揃うのだから、適切な時間で直るのは自明である。

 

「まぁ、もっと早く直してくれ、と言われればそれもできないではないけど……」

 

「けど?」

 

此処までに説明した聖剣の修復プランは、科学混じりとはいえ純正の真っ当な錬金術でしかない。

因みに此処で言う真っ当というのは人道や道徳面での話でなく、技術体系として脇に逸れたり他所と合流したりしていない事を指す。

科学混じりでも純正の真っ当な、というのは、オカルトと科学がほぼ分割されてしまった現代においても、双方が比較的短いスパンで互いの技術を交換し続けているからだ。

が、此方は錬金術と忍術で言えば、どちらかと言えば忍術の方に適性があり、そちらで習得した忍者業界で独自に発達した技術を組み込めば、デュランダルは数日と待たずに近代化改装を終えることができるだろう。

ただし、一つ問題がある。

 

「形がね、大型のスリケンとかクナイ・ダートとか、鎖鎌とか、まきびしとか、そういうのになっちゃうかもしれない。というか、なる」

 

何しろほら、忍者系技術なので。

ギリギリで大槌とかそういう方向性に持っていけるかもしれないけれど。

そしてパツキンもやしマスクさんの事は気にしなくていい。アレは黒い剣士とか生体兵器のプロトタイプとかの親戚なのだ。たぶん。

 

「スリケンか……クナイ・ダートというのは、少し剣に似た形ではあったな」

 

「普通に直しましょう、普通に」

 

「それが妥当でしょうね。そう長くは掛かりませんから」

 

こういうパワーアップは急いで行っても碌な事に成らないのだ。

かといってじっくりと作り直しても盗難されて敵に使われてしまったりするので加減が難しい。

 

「では、修理が終わるまで、ゼノヴィアさんにはこれをお貸しします」

 

と、月衣(小型忍結界)に収納していた大剣を一振り取り出し、ゼノヴィアさんに渡す。

懐からずるりと生えてきた大剣に驚いたのか、ゼノヴィアさんは手渡された大剣を前に何のリアクションも返さない。

武器を亜空間から取り出せるのは最早選ばれし聖剣使いにのみ許された格好いい演出ではないのだ。

夏休みに異なる宇宙法則を持つ世界の地球で得た技術は、忍業界における結界事情を大きく揺るがしたと言って良い。

一般忍者に出回るには多少の時間が必要になるが、恐らくはこれから頑健の術を複数搭載した忍者が大量の兵糧丸を貪りながら持久戦を挑むのがスタンダードになる時代が来るかもしれない……。

 

「あの」

 

小猫さんの細い指にくいくいと袖を引っ張られる。

 

「はい?」

 

「あの大剣は?」

 

「ああ、デュランダルですよ」

 

修復及び改修が終わるまでの代車……代聖剣として貸し出すにはうってつけだろう。

何しろこの世界のデュランダルを元に描かれたデュランダルである。

しかもこのデュランダル、柄はデュランダル、刀身はデュランダル、合わせて見ると総合的にデュランダルなのである。

唯のデュランダルではないか、という浅はかなツッコミはこの実物を見れば直ぐさま撤回されるだろう。

このデュランダルはデュランダルの柄とデュランダルの刀身を持つデュランダルである、という説明以外では説明できないのだ。

 

「……デュランダルの破片、そこにありますよね」

 

「デュランダルがこの世に一本しかないとでも?」

 

実際、ここ数ヶ月は日に一本くらいの頻度で新たなデュランダルが生成されてはいるのだ。早朝に。

まあその時に出来たデュランダルは砕けたり斬られたり腐ったり塵になったりして消滅するのでカウントする必要はないのだが。

 

大体、ただの悪魔に対して威力が上がる凄い威力のある剣、くらいのものでしかないので、恐らく効果が重複するアーティファクトは地球上に数ある神話を探せば割りとゴロゴロ転がっているのではないだろうか。

たぶん間違いなくメソポタミア神話系列を探せば原型となる剣とかありそうだし。

全てを切り裂くという触れ込みの能力にしても、使いこなすのにはかなりの修練が必要になるし、間違いなく断ち切れない盾だの鎧だの垂れ流しの霊圧だのが存在するのであてにはできない。

そもそも器物に込められた機能よりも極められたカラテがモノを言うので、最終的にどんな刀剣でも全てを断ち切れる技量を手に入れる方が堅実ではなかろうか。

 

「そういうところですよ、本当に、どうにかした方が良いんじゃないですか?」

 

声のトーンだけでわかるが、ジト目を向けられているのだろう。

小猫さんに限らないが、聖剣だとか神器の話になるとみんな神経質でいけない。

壊れた武器は直る、直るまでは代わりの武器が貸し出される。

それだけの話をややこしくしても仕方がないというのに。

 

「そんなことより、小猫さんも何か用事があるんじゃなかった?」

 

―――――――――――――――――――

 

う。と、痛いところを突かれて思わず呻いてしまう。

……今日のこの場は、デュランダルをこっそり直したいゼノヴィア先輩が書主さんに頼み込んでセッティングされた場所だ。

割りと下僕の要望に寛容なところのある部長が快く貸してくれた一室に、書主さんが持ち込んだいかにも専門的な雰囲気の器具類が並べられている。

部屋の中には私、ゼノヴィア先輩、そして書主さんの三人だけ。

部長他、オカ研のみんなはゼノヴィア先輩のプライベートな問題になるからと同席していない。

そんな席に、何故か私が居るのは、ナニもゼノヴィア先輩が密室で二人きりなのを良いことに性的な意味で書主さんを襲いかねないから、その監視を兼ねて……という訳ではない。

改めて考えるにそういう危険性がないでもないけれど、本題は別にある。

 

「……これを」

 

書主さんに手首を差し出す。

そこには、すっかり馴染んだ、黒い靭やかな革のような素材の細いベルトが巻かれている。

書主さんから貰ったお守り、でも、一つ、貰った時と異なる部分があった。

ベルトの中央に嵌め込まれていた石が、大きく欠けてしまっている。

 

「あー、また派手にやっちゃったねぇ」

 

のんびりと、呑気な口調で壊れたお守りの巻かれた私の手首を手に取る。

そのままベルトをいじり、お守りは私の手首を離れて書主さんの手の中に収まった。

 

「……怒らないんですか?」

 

「怒るようなことでも無いでしょう」

 

「まぁ」

 

例えば、一般的なお守りにも有効期限がある、なんて話がある。

一年で交換だ、お守りの効果が自覚できる形で現れたら交換だ、などと諸説紛々で確かな話とは言えないけれど。

それを置いておくとしても、魔術師が魔術行使の為に利用するタリスマンなら、荒事や魔術の研究中の事故などで破壊されてしまう可能性は考慮されて当然だから、壊れたところで怒られたりする事が無いのは理解できている。

だから、怒っているのか、と、一応聞きはしたけれど、本気で怒っているとは私も思っていなかった。

実際、壊れたお守りを手の中で弄ぶ書主さんは何でも無い様にしている。

それどころか、少しだけ嬉しそうですらあった。

 

「大体、これがあったから小猫さんが無事に戻ってこれたんでしょ? なら、怒るよりも喜ぶべきじゃないか」

 

よくやったぞ、と、子供を褒める親の様に、お守りの欠けた石を指先で撫でる書主さん。

嬉しげに、或いは誇らしげに見える薄い笑み。

こういうセリフを、友人相手でもさらっと言ってしまうところは直して欲しいような、でも、やっぱり嬉しくも感じてしまう。

嬉しくも感じるけれど、どうしても気分は落ち込んだまま。

書主さんが納得していて、私も理屈の上では仕方のない事だと理解した上で、なんで私が自分からお守りの修復をお願いできなかったか、といえば。

 

「せっかくのプレゼントなのに……」

 

どこかのタイミングで壊れてしまうことが想定されていたとしても、やっぱり、申し訳ない、いや、違う。

悔しいし、悲しい。

誰がと言えば、勿論、私が。

あのお守りは個人として、悪魔とか妖怪とか姉様の妹であるとか、そういうところと一切関係ない、駒王学園1年の塔城小猫が、大切な友人から送られた初めてのプレゼント。

覚えている限りで、私が友人から個人的に送られた初めてのプレゼントだ。

あの時は、ああいう使い方をしなければ生き残れなかったとしても、どうしても『壊してしまった』という後悔が頭に浮かんできてしまう。

 

「大切にしてくれるのは嬉しいけど、壊れる度にそんな顔をされるのもね」

 

「う」

 

そんなに酷い顔をしていたのだろうか。

手で顔をぺたぺたと触ってもいまいちわからない。

 

「それにほら、これはそう簡単に壊れないように作ったものだけど、使い方次第では壊れるって事がわかったのはそう悪いことじゃないよ」

 

「それは、次は壊れないように作るために?」

 

「それは多少改善するけど、そうじゃなくて……これ、直せるのは現状此方だけだからさ」

 

頬を掻き、照れたようにはにかんで。

 

「卒業した後とか、進路が別になっても、これを直すのを口実に、偶に会えるかもしれないじゃない?」

 

「……………………」

 

…………………………………………………。

…………………………………………………。

…………………………………………………。

 

 

「……ちょっと、気が早すぎませんか?」

 

別の進路に進むのは確定なのか、とか。

口実が無ければ会いに行けないのか、とか。

まだ1年の秋なのに気が早い、とか。

そういう感想が頭の中をからからと高速で駆け回っているのか、脳細胞が熱を溜め込んでいく。

そう、ちょっとばっかり、ツッコミどころがありすぎて、どうリアクションをとればいいのかで頭が酷使されたせいで。

 

少しばかり、顔が熱い。

やっぱり、書主さんは恥ずかしい台詞の天才だ。

何の役に立つのかは、知らないけれど。

 

―――――――――――――――――――

 

「もう相談は終わった?」

 

やけに張りのある溌剌とした声。

森先輩がノックもせずに仮の作業場に入ってきた。

一々瞼を明けて顔の表情の文章を読み解くまでもなく、声色から恐ろしく上機嫌である事がわかる。

あの短いフレーズにリズムと音階すらあるのではと思う程に声が弾んでいるのだ。

 

「とりあえず」

 

カッ!

と、学園指定の靴と旧校舎の床で出すには気合が要りそうな足音で更に一歩。

身体が空を切る音は身振りの大きさにおおよそ比例する。

まるでファッションショーのモデルが如し。

 

「有意義な結果が出たのはわかったわ!」

 

カッツーン!

そのまま踏み出した脚に重心を載せた、大ゴマを貰った荒木飛呂彦作品キャラの様な決めポーズを取ったであろうことを良く知らせてくれる激しい音。

法的に認められていないタイプの薬か、さもなければ遠隔地から何らかの手段で脳髄に直接電撃を流し込みでもしたかのような奇矯な振る舞い。

別段目を開けてまで見ようとは思わないけれど、恐らくこの学園の表側ではレアーな方の映像かと思われるので携帯で最後のカットのみ撮影し各種SNSへ放流。

勿論端末の方を改造して撮影時に音は出ない様にしてある。

忍者の嗜みの一つだ。

 

「ごめんなさいね、ちょっと……こう…………ほら、脳に何かが起きたらしくて」

 

オカ研に遊びに行くと偶に紅茶を入れてくれる三年の人が困ったようにフォローを入れてくれた。

まぁ、悪魔の脳の生理的な作用なんかはそれほど詳しく研究したこともないので、そういう事もあるのだろう。

春に限らず、暑さ寒さの緩やかな季節というのは心が緩みやすいものだし。

教室内のあちこちに埋め込まれていた監視カメラと盗聴器が彼女の脳に与えた影響は、少なくとも此方が憂慮する様な結果は生み出さない筈だ。

 

「朱乃! あんまりそういう物言いをすると、私の心が痛くてとても悲しいから控えめにしておいて! あと、読手君には色々言っておかないといけない事があったんだけど……」

 

「けど?」

 

「気分がいいから! 後回しで!」

 

DAISUKE!

みたいなポーズを取ってそうなスタッカートに、此方とゼノヴィアさんは困惑し、小猫さんは小さく溜息を吐いていた。

まぁ、悪魔業界では売り出し中なのかもしれないけれど、学校でおちゃらけている間はこんなものなのだろう。

友人でなく、知り合いとして偶に話す程度なら楽しい先輩だな、と、手の中の壊れたお守りを弄びながら、そんな事を考えた。

 







前回のと合体させるべきかどうか迷ったお守り側の修復依頼回
前回のゼノヴィアさんのオチと同じ話の中で並べるのは躊躇われたので短めでもこんな具合に

☆代剣デュランダル
デュランダル修復中にゼノヴィアさんに貸し出されるデュランダル
デュランダルの刀身、デュランダルの柄、デュランダルの機能を併せ持つ

☆石の砕けたお守り(タリスマン)
実は放っておけば時間経過で修復される
が、それなりに時間が掛かるし重破斬in神滅斬とかいう離れ業に耐えきれないので修復ついでに微調整
本命である隠し機能とか本編でその内出せたら嬉しい

☆小猫さん
友達からの大切な贈物ぶっ壊れて悲しいし申し訳ない、という気持ち
まぁここまでくれば並の友人ではないのでそんな気持ちもひとしお
実際双方共に友好度高めだぞ!

暮森(ぐれもり)部長
「んんんんんんんんんん!(室内でのやり取りを隠しカメラと盗聴器で堪能しながら大きく仰け反る)」

☆主人公がオカ研に遊びに行くと偶に紅茶を入れてくれる三年の人
親友なので部長さんを見捨てる事はないのである
見捨てないだけで呆れてはいる

☆ゼノヴィアさん
なんか青春なやりとりを羨ましげに見ているけど、空気を読んで鼻息あらく見守るだけで済ます


次回は、多分、男子回
いわくつきのエロ本を巡るお話になると思う
成らなくても不都合はない

感想とか諸々の指摘などがあると作者の荒んだ心にスーッと効いて……

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