文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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今更スパロボオメガはじめました
SSR確定チケが嫌がらせの如くMSを押し付けてくるのは何なのか


五十四話 背徳者の聖域

「それじゃ、此方はこれで。小猫さんも皆さんもまた明日」

 

掴んでいた指からするりと抜け出し、書主さんは止める間もなく部室の外で待っている日影さんの元へ。

 

「あ、ちょっと」

 

咄嗟に声を掛けるも、聞こえているのか聞こえていないのか、伸ばした手の先、出入り口の戸は閉められてしまった。

少しの間を置いて、廊下の方から楽しげな話し声が聞こえてくる。

感じるのは少しの寂しさと申し訳無さ。

別に、私も書主さんとああいう楽しい会話ができない訳でもない。

むしろ、今は別のことを気にするべきなのに。

当て所無く伸ばされていた手を下ろす。

溜息も出ない。

満ち足りた日々に、取り戻した幸せに流されて、ちゃんとしたお礼もできない自分が嫌になる。

 

家に帰れば姉様が待っていてくれて。

学校では眷属仲間に、書主さんという大事な友人と一緒に過ごせて。

今までにない程に充実している。

だから、そうしてくれた、そうできるようにしてくれた書主さんに、お礼の一つもしなければならないのに。

どうするか、何を返せば、何を以って感謝を表せば釣り合うのか。

考えているうちに、また、日々の暖かさに埋没してしまう。

 

「そう焦らないで」

 

そっと、肩に手を乗せられた。

副部長……姫、姫じ……姫路……? ええと、あ、あけ、あけ……アーケロン?……いや、そう、副部長だ。

 

「明日もまた会えるし、直ぐにお礼をしないといけない、っていうものでもないでしょう? ゆっくり、小猫ちゃんがどうしたいか考えていけばいいの」

 

優しく微笑み、誂うでも無く、きっちりと励ましてくれる辺りが部長と一味違う頼れる女王。

名札とか……、いや、部員名簿が、そうだ、携帯の登録……は副部長だし……。

ともかく、私の心情を察してくれているらしい。

でも、でも、だ。

 

「だって……」

 

「だって?」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

焦るな、という方が難しい。

出会ってもう半年ほどか。

思い返せば、私は書主さんに貰ってばかり、助けられてばかりだ。

彼は、私と踏み込んだ友人でいてくれているけれど。

これじゃあ、対等な友人だなんて、とても言えたものじゃない。

 

…………私は今、間違いなく、満ち足りている。

でも、私の満ち足りた人生の中から、彼に返せるものは?

私は、胸を張って、彼の友人である、と、名乗れるほどに対等になれるのだろうか。

 

―――――――――――――――――――

 

「まぁ、な。色々考える事も多いだろうさ。お前らも学生で、この社会じゃまだガキだ」

 

アザゼル先生の言葉に頷く。

小猫ちゃんの、傍から見てもわかる読手への引け目、みたいなのは、たぶん俺達みたいな年頃には有りがちなものなのかもしれない。

誰かに相談して解決するのかもしれないし、解決しないかもしれない。

自分の中から答えを見つけ出せるかもしれないし、見つけられないかもしれない。

どんな可能性だってあるし、悩み続ければ何処かにはたどり着くかもしれない。

かもしれない、なんていうあやふやな予測でない答えは、これからゆっくりと見つければ良いんだろう。

と、そう考えることが出来るのは、傍から見ているからこそ言えるのだろうけど。

少なくとも、俺はもし相談されたら全力で手伝う積りだ。

小猫ちゃんみたいな美少女の頼みを、しかも大事な後輩で友人で眷属仲間の頼みを断るほど俺も落ちぶれてはいない。

……まぁ、小猫ちゃんが直に俺に相談する、という事は無いだろうけども。

あっても部長とか副部長とか、アーシア経由で間接的に、かなぁ。

 

「ただまぁ、悩んで悩んで、足りない脳味噌を時間かけて捏ね繰り回せるのも手前らガキの特権だ。お前らガキはは時間だけはあるからな。あっちはそっとしとけ」

 

「はい。……それで、先生、結局面談ってのは?」

 

今はオカ研の部室以外は殆ど使われていない旧校舎の一室を使っての、アザゼル先生との面談。

予定ではオカ研メンバーは全員受ける事に成っているらしい。

が、今の時期にオカ研、ひいては部長とその眷属という纏まりではなく個人への面談を全員に行うというのは、ちょっと怪しい。

アザゼル先生はちょっと俺みたいな凡人とは頭の作りが違うから、もしかしたら俺では思い当たらない凄く真っ当な理由からかもしれないけど。

 

「ああ、別にそんな堅苦しい話じゃねえよ。ちょっとしたインタビューだ。お前らの、共通の知り合いに関する、な」

 

そう言うと、アザゼル先生は机の上に置かれたレコーダーの録音スイッチを入れた。

 

「それじゃあ一誠。お前の知る、読手書主に関する話を聞かせてくれ。最初に会った頃から、今に至るまでの、な」

 

―――――――――――――――――――

 

【赤龍帝・兵藤一誠の証言記録】

【質問者・アザゼル】

 

読手、読手……。

まぁ、良い奴、ではあると思いますよ、ええ。

友達は少ない、とか言ってますけど、話してみれば普通に自然体で話せますし。

たぶん、あいつが知り合い認定してる連中の中にも、読手を友達だと思ってる連中は多いんじゃないですか?

俺から見ても話しやすい、気安い相手ですよ。

あんまり先輩を敬うやつじゃないですけど、それはそれで気安くて楽ですし。

 

……え? いやいや、写真集は関係ないですって。

大体、持ってるのバレたら部長達が怒るじゃないですか。

………………そうですよ、さっきメールで、隠行の術掛けておくからバレないって。

でもいいじゃないですか! 普段の生活で寸止め食らってるんだからこのくらい!

 

……す、すんません、興奮しすぎました。

で、読手の話ですよね。

最初から、っていうと……まぁ、他の連中と変わりませんよ。

小猫ちゃんだけは入学式の朝に会った、って言ってましたけど。

それ以外のみんなは、大体あの夕摩ちゃん……レイナーレの事件の時じゃないですか?

その中だと、俺は早い方っすね。

 

……はい、そうっす。

レイナーレにアーシアが攫われて、カッとなってそのまま追いかけようとしたら、あいつが声を掛けてきて。

力になれるかもしれない、とか言ってきて。

俺と対して年齢も変わらない様な、そこいらに居る普通の、少し前の自分と同じ普通の学生にしか見えなかったんすけど、不思議と信じられる様な気がして。

 

……あー、そうですね、信じられる、っていうか、話してみても大丈夫なんじゃないか、って。

いや、何か根拠があったわけじゃないんですけど。

でもほら、とにかく誰かに相談したい、みたいなのがあったんじゃないかなって。

当時にどう考えてたかまでは詳しく覚えてないですけど、もしかしたら、神器の影響で少し強気になってたのかもしれないっすね。

……まあ、実際は、とても強気に出れる相手じゃかったんですけど。

 

レイナーレの時は、そうでも無かったんですよ。

俺も必死で、前見て走るしかしてませんでしたし。

大惨事になってた、って言われても、そこいらじゅうインクでびたびたになってるのしかわからなかったから。

刀を振るのが見えないって言っても、当時の俺じゃ木場の剣も小猫ちゃんの拳もまともに見えませんでしたからね。

で、まぁ、そこから少し、小猫ちゃん経由で少し話すようになって。

本格的に『あ、こいつヤバイ』って思ったのが、修行の時すかね。

いや、最近受けてる龍をけしかけられたりのもきついっちゃきついですよ?

でもあの当時だと、まだ赤龍帝の籠手の事も何もわからない状態でしたから。

そんな時に山ほどでかいドラゴンをけしかけられて『倒せばパワーアップできますよ。たぶん』なんて言われて、こいつ絶対頭おかしいなって──

 

あ、いや、正確にはドラゴンじゃなくて、ドラゴン型のゴーレムです。

あいつがちょっと呪文を唱えたら山が崩れて、その崩れた山がほぼ丸々ドラゴンの形のゴーレムに組み変わったんですよ。

……あー、たぶん、その時は結界張ってた、みたいな事言ってましたから、それじゃないですか?

部長も吹聴しないようにしてるって言ってましたし。

あれでたぶん、結構恩には感じてるんじゃないですかね、部長。

 

で、まぁ、そこからはもう地獄というか、いや、九死に一生?

結界のせいであんま遠くに逃げれないわ、ドラゴンはゴーレムなのにブレス吐くわ。

途中から小猫ちゃんが魔法で援護してくれたんですけど、結局いっぺんヤバイの喰らいまして。

で、死にかけてたらこいつの声が聞こえて(腕に神器を発現させ)、そっからはもう、こう、どかんと。

いや、変に相性がいいらしいんですよ、俺とこいつ。

それでなんかこう、治癒力とかを倍加して、逃げながら溜めて、最後はもうやぶれかぶれ。

 

……あー、そうですね、結果的には。

なんかあいつ、妙にドライグについて、っていうか、赤龍帝の籠手について的確にアドバイスするときがあるんですよ。

そうそう、白龍皇の欠片を取り込んだ時もそれでした。

思い返すと、アドバイスなんだか焚き付けられて乗せられてるんだかわかんない様なアドバイスでしたけど。

 

他に?

えーっ、と。

(対象、腕を組み、暫く考え込み)

……実際、思い返してみると、そこまであいつの戦ってる場面は見たこと無いんですよね……。

普段の生活での付き合いがある分、なんでかそっちにイメージが引っ張られるっていうか。

どう考えても普通じゃない強さだとは思うんですけど。

こう、戦ってない時はとてもそうは思えないっていうか。

あれ、絶対ヤバイと思うんですよ、コカビエルの時の。

何百本で済んだんですかねあの聖剣。

で、いっぺんその事を本人に言ってみたら、鏡向けられて。

『此方は完全に制御できる力しか使いません。危険度だけで考えれば制御効かない兵藤先輩のが危ないじゃないですか』

って。

 

……いや、俺も知りませんよ? あいつが何をどれくらいできるのかなんて。

小猫ちゃんの魔法だって元を正せばあいつから教えてもらったもので。

そうなると、小猫ちゃんの使う魔法はほぼ間違いなく全部使えますよね?

たぶん、木場もなんか貰ってますし。

逆に言えば、その程度なら無償で提供できるだけの引き出しがあるってことじゃないですか。

しかもゼノヴィアと正面から足止めて剣で切り合って暫く互角で持ちこたえられてますし。

……言ってませんでしたっけ?

あいつに関しては何を出してきても不思議じゃないって思ってます。

そりゃ驚きはしますけど。

 

怖くないかって?

まぁ、あいつと戦えって言われたらそりゃ怖いですけど。

大丈夫じゃないですか?

自分勝手なとこは間違いなく人一倍ありますけど。

ギャスパーに対する態度見てれば悪いヤツだとは思えませんよ。

小猫ちゃんとも友達……うん、友達ですし。

巨乳彼女とイチャツイてるの見るのはムカつきますけどね!

そこら辺はほら、俺も余裕が出てきたって言いますかね?

えー? やだなぁ、そんな事聞かないで下さいよぉ!

 

え、ギャスパーとの関係?

う、うーん……、あいつ、少なくともホモではないんですよ。

巨乳の話とかは気が合いますし、意外と普通に異性に興味はあるみたいで。

だから、ギャスパーが性転換でも出来れば、道はあるんじゃないですか?

 

―――――――――――――――――――

 

外の光も差し込まない、薄暗い地下牢。

安っぽい電灯だけが薄暗く照らす石壁と石床の部屋。

如何にも後ろ暗い事が行われていそうな部屋の中には、露出の多いファンタジックな衣装を身に纏った青い髪の女が繋がれている。

手足には金属の輝きを放つ拘束具、目元には幾重にも重ねられた素材が厳重に光を遮断する目隠し、口には小さな空気穴が幾つか空いた球形の物体に塞がれる口枷。

拘束された状態からの身動ぎでは抜去出来ないように差し込まれた点滴の針は、一般的な医療の現場では見ることも出来ないような悍ましい色の液体を、白い肌の中にゆっくりと流し込んでいる。

 

「いい眺めだ」

 

試験的に狩場や自室と同じタイプの加工を施している、というのもあるが、やはり完全ではない。

動きのない状態でも時折、ちらつくように、重なるように文字列の塊に入れ替わるはずのこの光景。

それが今此方の視界の中でしっかりと挿絵として機能しているのは、この光景がある種の見どころとしてしっかりと成立しているからだろう。

 

この女の出自や種族と関係なく、やはりこういう場面というのは比較的挿絵として成立し易い。

誰かが、あるいは多くの『目』が見たがるような光景だからだろう。

見目麗しい(今は顔は殆ど見えないが)女性が肌を露出して、こういう法の手が届かない場所で拘束されている、というのは、やはり見る側の興奮を煽る。

これが仮にこの状態のままで何の変化も無いのならそう何度も挿絵の状態にはならないだろう。

だが、最初に拘束したまま特に変更していないこの部屋の機能は、この女への責めを日を増す毎に強いものに変え続けている。

 

すん、と、部屋の匂いを意識して嗅げばそれは明らかだ。

鼻の奥を刺激する匂いは、この女が描かれこの世界に文字列の塊として実像を結んだ当時からここに拘束しているからか。

いや、代謝はそれほど無い為、その皮膚が垢じみている訳でもない。

そして重なるように香る栗の花に似た匂い。

それは女の股間、正常な女の陰部には存在しない長大なモノから発せられている。

特殊な分厚い皮膜によって先端から根本までを覆われ、付け根をきつく縛られているソレは、はちきれんばかりに張り詰め、行き場のない欲を溜め込んでいる。

怒張とは異なり、何の覆いも無く地下室の空気に曝されている女性としての部分からは、とても点滴からのみ水分を得ているとは思えない程に体液が流れ出していた。

中々にエロい。

この手の誘惑に対する訓練を受けたとはいえ、エロいと思うものはエロいと思えるのだ。

 

此方のそんな感想にリンクし、怒張を覆う被膜が激しく震え、生物の内臓の如く蠕動した。

張り詰めているそれを、一切の容赦もなく、暴力的なまでに扱き上げる。

限界まで、いや、限界を超えた状態で維持されているそれが欲を吐き出さんと脈動するも、皮膜の蠕動に合わせるようにきつく根本の拘束が締め上げられた。

口枷の空気穴を通して、獣の咆哮と変わらない嬌声が、絶叫が、悲鳴が上がる。

拘束された体を激しく痙攣させ、塞がれていない穴から炭酸のボトルを開けたような音と共に、甘ったるい内蔵の様な匂いの液体を撒き散らす。

痙攣が治まった頃に響くのは、何かを哀願するようなうめき声だけだ。

 

可哀想に。

今、あの皮膜の下のモノはうっ血して恐ろしい色へと変色しているのではないか。

それでもなお壊死する事無く機能し続けているのは、神の血の力か、それとも巨人の血の力か。

その小ささから描いた当初は見えなかった袋も、今では中で生成された子供の元で張り詰めて水風船のように成っている。

他の個体の同パーツを切開して採取したそれは、人間のそれと較べて遥かに寿命が長く、死滅して老廃物になることもなくあの中を元気に動き回っているのだろう。

溜め込んだ量から考えて、もう中で泳ぐそれらの動きすら本人にははっきりと感じられるかもしれない。

頑健な肉体は与え続けられる責め苦に耐えられるが故に、絶え続けなければならない。

先日、口枷を外してお話と交渉をした時はギリギリで絶えきれていたが、それは此方が会話の内容を選んで絶えきれるようにしていたが故だ。

そろそろ手折り時だろう。

 

……思うに、壊れにくい肉体というのは、折れやすい心を育んでしまうのではないだろうか。

他にも並行して用意した同個体は、これと似た方法で限りなく従順になった。

期待するだけの性能と精神状態に届かなかった個体は他の実験で消費してしまったが、その犠牲も報われるだろう。

恐らく、この個体が此方と先方の要求を満たす個体になる。

納品の時期は近い。

完成したらおでんさんに連絡を入れるべきなのだろうが……。

 

「たぶん、そろそろこの世界のロキさんが動き出す頃かな」

 

別に、この世界の悪神と面識があるわけでもない。

が、まぁ、ここが文字列──文字媒体の創作物の世界であるとすれば、出てこない訳がない。

主神だけ出して、トリックスター枠であるロキを出さないなんて有り得ないだろう。

アメコミヒーローだけを出して、ヴィランが存在しない、というレベルで有り得ない。

おでんさん自身も疑いの目を向けていると記述にあったし。

仮に動かなければ動くように仕向けるだけだが。

兎にも角にも、一度見ない事にはこの個体──『戦乙女ヴァルキリー2仕様ロキ試作14号』に、この世界のロキの能力を追記する事もできない。

写真の一枚でも先に送ってもらえれば早いのだけど……。

何に使うのか、とかを追求されるかもしれない。

ああいう、自分の行為が悪いものであったとしても知ったことかと動き続けるタイプの輩に追求の隙を与えるのも癪だ。

 

「まぁ、貴方を送り出した時点で色々疑いの目は入るでしょうが」

 

近寄り、ぺんぺん、と、皮膜に包まれたブツを叩く。

記述で、あちらさんの望むような仕事をし続けること、その上で、此方の都合よく動くことを追記はしてあるが、こんなものは究極的には抜け道を作れないでもない。

結局、あらゆる方法を尽くして此方に逆らえない都合のいい傀儡にしておいた方が何かと融通がきく。

 

「精々がんばってください。その為に、こんなに手間かけてるんですから。もしもヘマしたり、裏切ったりしたら……」

 

目隠しを取りながら、耳元に囁きかける。

エーテライトを水風船の根本に巻きつけ、

 

「わかってますよね?」

 

ガクガクと首を縦に振る14号。

点滅するように、透けるように文字列の塊と入れ替わっていた姿が、その表情を中心にはっきりとした像を結ぶ。

怯え、媚び、絶望、恐怖、艶。

だがその奥に、まだまだ北欧神話のトリックスターとしての意地や好奇が見て取れる……ような気がする。

顔が挿絵となっているのは目に優しいから良いのだが、挿絵となっている間は感情を文字列で読み取れないから確実性が低い。

出自から考えればもっともっと底意地悪く責め苦に強くても良い筈だ。

いや、こいつの原作ではなく原作のモチーフとなった北欧神話での話だが。

疑わしきは圧し折り磨り潰すのが忍者式調教術の基礎。

納品の為に連絡を取ろうと思ったけれど、これは暫く延期かもしれない。

 

「よしよし、それじゃ、この点滴もそろそろ終わりだし、ここいらで見事死なず狂わず絶えきったご褒美に点滴を追加してあげましょうか。今度はもっと強い薬ですよ」

 

14号の瞳に込められていた色が絶望と恐怖と怯えに偏る。

そして、それらを押し上げている根本の感情は情欲か。

ぶんぶんと首を横に振り始めているが、別にこいつの意志は関係ない。

むしろここで拒否できる程度に心が頑丈ならまだまだ折らなければなるまい。

笑顔で頭を撫でながら、万が一もっと心が折れていなかった時の為に用意していた強い薬液の入った点滴に付け替える。

 

「そう遠慮しないで下さいな。せっかく貴女のために用意したんですから。……ええ、とりあえず、用意してある分は全部入れちゃいましょうね?」

 

なに、念には念を入れるつもりでまだまだ用意してある。

足りなければ新しく作ればいいのだし、このまま神と巨人のハーフがどれだけこの手の薬品に耐性があるかを確認する実験を並行して行っていると考えれば、かかる時間も決して無駄ではない。

一応、魔王さんの女王の複製で上級悪魔に投与した場合の実験は済ませているが、強い悪魔と比較しても神の血が流れているというのは生命としてのアドバンテージ足り得るから耐性も強い筈。

万が一調整を間違えて死んでしまったとしても、現時点での14号の姿は今見て覚えたから直ぐに直前の状態から別の方法での改造を試す事もできる。

薬品投与と体液管理だけでは足りないとなれば、忍者式拷問調教術も積極的に組み合わせていこう。

捕らえられて目隠しされた上で薬物と術で諸々の感覚を狂わされた対魔忍の知人を使い潰す積りで使って卒業時よりも更に習熟した技術を見せてやろうじゃないか。

 

「さて、じゃあここらでまずは片玉を」

 

ペンチに似た特殊な器具を片手にしゃがもうとすると、胸元で携帯が震えた。

メールの着信、危惧を机の上に置いて確認。

アザゼルさんからだ。

ちらりと視線を14号に写すと、感情が限界値にまで振り切れて変化が少なくなってしまったからか、はっきりと見えていた挿絵が、挿絵がうっすらと後ろに見える文字列の塊に変化してしまった。

拍子抜けだが仕方がない。どうせこの処置で挿絵の割合を増やしても時間制限もある。

この程度の手間ならこのくらいが妥当なところだろう。

どうせ手元に置いておくものではないのだし。

 

メールを開いて確認すると、珍しく此方に対する苦言が記されていた。

面倒だからと説明の手間を省くな、との事だ。

別に、勝手に人間の土地を縄張りと主張してる連中の顔を立てる必要はないだろう、とは思う。

実際あれで怒ってたのって森先輩だけだし。

でも、アザゼルさんがフォロー入れてくれたっぽいしなぁ。

今度お礼言っておかないと。

菓子折り……を渡す程の事でもないか。

 

「なんか、気が削がれちゃいましたね。続きはまた今度にしましょうか」

 

器具類を纏め、文字列に戻った14号に目隠しを付け直し、特殊な音声を延々流し続けるベルト固定式の頑丈なヘッドホンを付け、地下室の明かりを消す。

点滴は残量的に明日の朝に新しいものに交換すればいい。

振り返り、手を振る。

 

「それじゃ、また明日ね」

 

14号は文字列に戻り、口枷目隠しで顔は殆ど見えないしこの挨拶も聞こえていないが。

挨拶は大事だ。

友であれ知り合いであれ実験体であれ。

礼と手間を惜しまずに付き合っていれば、何かしらの形で返ってくる。

良きにつけ、悪きにつけ。

 

「フミ」

 

「あえ、母さん? どしたの?」

 

地下室から出て洗面所で手を洗っていると、母さんが声を掛けてきた。

僅かにかさりと鳴った音は、手に大きめの紙袋を下げている?

中身は……なんだろう、あんまり馴染みのない重量バランス。

 

(たかし)からのお土産です。みんなで食べましょう」

 

「ええ!? 父さん帰ってるの?」

 

「いいえ、もう仕事に戻りましたよ」

 

「帰ってきてたなら呼んでよー! 授業参観にも体育祭にも来てくんなかったんだから、こんなんじゃそろそろ顔忘れちゃうよ!」

 

「その程度で父の顔を忘れる様な子ではないでしょう」

 

はぁ、と、母さんが溜息を吐いた。

響きから、こめかみに指を当てているのが解る。

母さんは大体、と、前置きし。

 

「貴方が部屋に篭って遊んでいるからです。それに私はあの部屋は好きではありません。呼ばれたいならインターホンくらいは付けなさい」

 

「だって部屋のレイアウトが崩れちゃうし……」

 

本当なら部屋の電灯だって松明とかにしたいのを、防災の為に電灯に変えているのだ。

上との電話なんて付けたら石牢感が崩れてしまう。

それに、電話を始めとする通信機器はその概念を起点に魔術やなにやによって外部への交信の足がかりにできてしまう可能性もある。

あの14号のモデルにそんな知識は無いが、投薬の影響でふとそんな術を思いつく可能性だって否定できない。

 

「機能的ではありませんし、それに、フミ。貴方は遊びを入れすぎです。……大体、あんなことをしてると知れたら、友達にも距離を置かれるのでは?」

 

「知られないようにしてるし」

 

「そういうところは誰に似たのか……。まぁいいでしょう。ほら、早く手を拭いて居間に来なさい。日影も待っています」

 

「はぁい。それで、父さん何買ってきたの?」

 

「大きいミミズの様なハードグミと、ナッツをキャラメルで雑に固めた燃料棒の様なファットフードです」

 

「わぁ! すごく嬉しくない!」

 

何買ってきてるんだ父さん。

おみやげもいいけど、どうせなら顔見せてくれればよかったのに。

見れたかどうかわかんないけど。

 

 

 

 

 

 





話が進まない54話!
あと、キャラに主人公の話させるの意外と難しい
まぁ全員分書くわけじゃないからいいけど
これで水増ししてたぶん普段通りの話数になると思います七巻のエピソード
なんかエロ描写があった気がするけど直接的な単語を避けたのでもちろんウッドスピリッツ、グリーンスピリットにすると防御に素連れ回復もできるけど火属性食らうと燃えて死ぬ


☆戦乙女ヴァルキリー2仕様ロキ試作14号
ふたなり僕っ子だが台詞があるかは今後も不明
この世界におけるロキと入れ替わった暁にはヴァルキリーとかつまみ食いしていいよ、みたいな事も言われているが、この話の翌日にペンチっぽい何かで
既に諸々の記述により、主人公に敵対的な行動が出来ないようにされている
……が、北欧神話のトリックスターにそれがどれほど通用するか不明であり、最終的に自分の手元から離れて他所で活動する事を考えて念入りに調整中
これまでの試作体は薬物による調整の失敗、脳外科手術中のくしゃみなどにより使用不能に陥り全て抹消済み
納品は近いと言われているが、別にこの個体が無事に納品されるとは言っていない
非人道的な扱いを受けているようではあるが、そもそも主人公の描いたこの世界に存在しないロキである為に他所との繋がりもなく人権も無い為特に問題はない
友人や知り合いに多少親切にしたからと言って、それ以外の全てにまで親切さや優しさが保証されるわけではないのである

原作は古めのエロゲ
なお、画像検索ではお隣の国のサイトで恐らくプロフィールかなにかに使われている画像が一枚だけ出てくる
18歳以上なら公式サイトをチェック!
……しても、登場人物のページはなんだか死んでる為に立ち絵もプロフも見れない
イベントCGで一応確認はできるが、出来れば原作を買おう
中古ならだいぶ安い
でも確かウィンドウズ8では動かなかったのでそこら辺はどうにかしよう


次の話ではたぶんロキさん出す前にイッセーの寿命の話とか、今回アザゼルさんがメールしてきた説明のとことかを書きたい

毎度誤字修正知らせてくれるかたありがとうございます
あと、感想とかあったら書いてくれるととても喜びます

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