文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
「大失態ですな」
少し離れた所で、堕天使の偉い人が何やら文句を言っている。
言われている側である偉い方々も言われるがままという訳ではないが、どちらかと言えば聞く側に回ってしまっている。
それも仕方のない事だろう。
魔王様主催のパーティーの警備の隙を突いて、指名手配犯であるSS級はぐれ悪魔の姉様が使い魔を忍び込ませて、挙句パーティー会場付近の森をその仲間である禍の団の美猴なる猿の妖怪が一部更地にしてしまったのだ。
これだけの好き勝手をされたとあっては、流石に何か言い訳をするにも苦しい。
特に付近の森が消し飛んだのもかなりの割合で問題らしい。
──おのれ禍の団の美猴、罪もないパーティー会場付近の森を戦闘の余波で吹き飛ばすとは。
きっとドラゴン波的なあれがそれな感じの凄い仙術ビームとか撃ったに違いないですよ!
猿系だからって調子乗りすぎてるんじゃないですかね!
きっと脳味噌も猿だから次遭遇した時は森を吹き飛ばした事すら忘れてますよ!
挙句その罪を他人になすりつけたり……とんでもない悪党! 悪い!
……ええ、ざっくり纏めると、参考人として同行してくれた書主さんがこういう結論で纏めてくれました。
細かい所まで覚えてないけど、ここまで言葉巧みだと逆に引くレベルでこの結論を信じさせてましたね……。
私も事情を知らなければ信じてしまっていたでしょう。ありがたいんですが、恐ろしい話です。
「ねえ小猫、本当に大丈夫?」
と、考え事をしていると、私の隣で付き添いをしてくれていた部長が顔を覗き込んできた。
「具合が悪いならきちんと言いなさい? 別に、こんなパーティー無理して出る程のモノじゃないんだから」
「それ、問題発言じゃないですか?」
「私の下僕の健康に比べたら瑣末な事よ」
誰ですかねこの部下思いのカリスマ部長(戦慄)。
とはいえ、部長が普段のおちゃらけた態度を格納して王の器及び母性全開な聖人系悪魔になるのも仕方がない。
何せ、結界が解けた後の私の状態は、明らかに何かしらの大ダメージを負ったであろうと予測できるものだったのだ。
書主さんが偶然持っていたという回復系のアイテムのお陰で肉体的には完全に無傷だったのだけれど、爆発に巻き込まれて襤褸切れ同然になったドレスや、爆風で土埃やなにやでグシャグシャになった髪まではその場で誤魔化す事ができなかった。
「大丈夫ですよ。書主さんが治してくれましたから」
「その本人からも言われてるでしょう? 過信はしないようにって」
「……はい」
言われ、思い出すのは、メディカルチェックを受けた後に念押ししてきた書主さんの言葉。
瀕死からでも完全回復できる薬……のようなものだけど、人間の為の薬ではないから、悪魔の体にどういう左様があるかわからない。
たぶん問題はおきないだろうけど、しばらくは誰かに付き添って貰って、何かあったら直ぐにチェックし直すこと。
そんな内容だったけれど。
「……ちょっと、心配し過ぎでは」
悪魔の体というのは総じて人間の肉体よりも頑丈にできている。
聖なるもの全般に弱いという人間には無い弱点こそあるものの、少し薬を取り違えた程度で危険な状態になるほどやわではない。
だから、書主さんの心配はほぼ杞憂になるのだけれど。
「その割に、嬉しそうじゃない」
拳を上げようとして、流石に殴るほどでも無いかと思い直し、ゆっくり、考えなおす。
私が、嬉しそうにしているとしたら、何故だろうか。
今回の件は嬉しい出来事がいっぱいあった。
姉様が暴走して主を殺して逃げた、というのが、なんとなく嘘なのだと解った事。
姉様が、私が死にかけの時に必死に助けようとするのだと解った事。
姉様が、一緒に暮らすようにと誘ってくれた事もだ。断ったし、今あらためて言われても断るけれど。
だから、その、なんですかね。
別に、書主さんが助けてくれた事とか、呼び声に応えてくれた事とか、そういう狙ったようなタイミングのあれこれが嬉しいってばかりじゃないというか。
「部長」
「なあに?」
「その笑顔、気持ち悪いです」
先程までの王としてのカリスマが全て剥がれ落ちて、下に控えていた下世話な話に夢中になる歳相応の何時もの部長の顔。
その笑みと来たら、向けられる方としては溜まったものじゃない。
「ふふっ! 小猫最近セメント過ぎない? 私、王よ?」
「不思議です」
「そこまで!?」
「あ、いえ、別に部長が王である事が不思議という訳では……訳では……。…………ところで話は変わるんですが」
「そこで?!」
最近、部長のリアクションが激しい。
何が原因だろう、と、これが今とっさに思いついた話の逸らす先なのだけど、言ったらまた騒ぎ出しそうな気がするのでやめておくとして。
「まったく、小猫も少し前に比べてだいぶ言うようになったわね。あの子の影響かしら?」
「そうですね。……そうだと思います」
駒王に入学する前の私なら部長にこんな態度も取らなかっただろうし、こんな軽口だって気安く口には出来なかっただろう。
こういう態度と言葉が気軽に出せるように成ったのは、対等な立場で気軽に話せる相手が出来たからで。
その相手に影響されていないと言えばそれは間違いなく嘘になるし。
影響を受けたことを悪いだなんて思っていないのだから、否定する訳がない。
私は、今の私を、彼との出会いで生まれた私を、嫌いじゃあ無いのだから。
「所で、件の彼は?」
「一回元の世界に戻るとか言ってました」
禍の団襲撃に関する証言を終えたと思いきや、直ぐに姿を晦ませてしまった。
鬼畜眼鏡の聖剣使いと同じように空間に孔を開けて消えていったけれど、聖剣使いの間ではあの移動方法が流行っているのでしょうか。
そして聞いてきた部長はといえば、私の返答に大きくため息を吐き、力なく頭を振った。
「本当は、気軽に行き来出来るものじゃないのだけど……。一応、此方の法律というものもあるのだから、友人として注意してあげなさい」
「わかりました」
そういえば領地問題とかがあるから地球に戻った事は言わないで欲しい、みたいに言われてましたね。
忘れてうっかり全部言っちゃいましたけど、別に問題は無いですよね。
話を聞く限りでは事故の様なものですし、冥界側だって書主さんを無理矢理に罰する事も無いでしょう。
迂闊に敵対するには、書主さんの戦力は未知数過ぎますし。
たぶん、彼が冥界に現れた、という事実も、一部の間で内々に処理されて広まらない。
せいぜいが口頭での注意くらいでしょうか。
「ところで……名前で呼ぶ事にしたのね」
ニマニマと笑みを浮かべる部長。
部長のこの態度も書主さんへの処罰が行われないだろうという確信を抱かせる。
普通に考えて、悪魔の側に付いている訳でもない聖剣使い、しかも堕天使幹部を鏖殺できる様なレベルの聖剣使いが冥界の貴族の土地に不法に侵入したとなれば、付き合いのある私にだってもう少しキツ目に忠告しておくように言う筈だ。
なんだかんだで、部長も書主さんへの警戒心を緩めつつあるのかもしれない。
「……まぁ、友達ですから、名前呼びくらいしますよ。部長は、イッセー先輩に名前で呼んで貰わないんですか?」
ふとした疑問を口にしただけで、部長は笑みを凍りつかせて楽しげな雰囲気を急速に沈め始めてしまった。
いい感じの友人である私と書主さんと違って、部長とイッセー先輩の関係は複雑で面倒くさそうだ。
何やら自分で自分の体を抱きしめながら、私の耳でも聞き取れない小声でブツブツと呟き始めた部長を見ると、恋愛というのは実に難しいものなのだな、と、そう思う。
ホテルの窓から見える冥界の空を見上げる。
この怪しい色の空の下に居ない彼なら、こういう恋愛事にも、何か実のあるアドバイスができたのかもしれない。
「でも」
なんとなく。
今、彼の口から、惚気話を聞きたくないな、と、本当になんとなく、そんな考えが頭の片隅に浮かんだ気がした。
―――――――――――――――――――
結局、日影さんが安心して此方を離してくれるまで、数日の時間を要した。
此方が外の世界で結構な年月を過ごしたという事はなんとなく察してくれたようで、そこら辺のケアも含めて、ということなのかもしれない。
……外の世界で起きたこと、やったことなどを寝物語で話す内に、何度か機嫌を損ねる場面もあったけれど、最終的に日影さんは寛大な心で許してくれた。
何だかんだで色々な人と出会い付き合いを重ねた長い長い夏休みだったけれど、この無限に等しい包容力はやはり日影さん特有のものだろう。
輪ゴムちゃんこと安心院ちゃんは、こう、包容力を発揮するタイプと見せかけて少し違うというか……いや、此方が心の弱った所で手を差し伸べたからこその反応だったのかもしれないが。
タヌ太郎ツネ次郎まん丸、そして深里ちゃんに九魅ちゃんにも心配をかけてしまった。
……と言いたいところだが、全員此方が無事に帰ってくる事を半ば以上確信していたらしく、それほど激しく心配はされなかった。
信頼されているのは良いことだし、特に九魅ちゃんのリアクションが然程激しくなかったのも嬉しい。
此方の体感ではかなりの間が開いているとはいえ、あんな事をした後にそれらしいリアクションをされてしまえば、なんとなく意識してギクシャクした関係になってしまいかねない。
貴重な気兼ねない友人を、成立したとして継続できるか怪しい感情で失ってしまうのは此方の求める所ではないのだ。
みんなとは復活のギオ、吸血ニンジャ熊丸太祭りのせいで夏休みを一緒に満喫出来なかったので、全員のスケジュールとかを確認しあって、改めて遊びに行けたらなと思う。
だが、その前に片付けておくべき問題を片付けて置いたほうがいいのかもしれない。
あの雅なる奇妙な程に不死性の高い吸血鬼。
ギオを回収し復活させたあの吸血鬼の出処は知れている。
生体改造を行える神器、聖杯。
この神器を用いて何事かしようと企んでいる組織は、此方の精神的な余裕が切れた頃にでも、きっちりと借りを返す為に使わせて貰う事にしよう。
「さて」
微妙に残っていた夏休みの宿題も片付け終えた。
あと数日で、応援に行くと約束した小猫さんの試合の日だ。
無許可での敷地内への転移は向こうでは違法とのことだが、今度は不法侵入にならない様に領地の外に出るように行けば問題ない。
長期滞在にならないどころか、ほぼ日帰りなので荷物に関しては考える必要もないだろう。
一つ問題があるとすれば……。
「これかな」
机の上に転がしてあるモンスターボールに目をやる。
此方が手を加えるまでもなく文字列に変化しないこの外の世界の素敵グッズは此方のお気に入りだ。
裏にある文字列……つまり、この絵に込められた設定を読もうと意識すれば読む事はできるが、この世界の道具の様に文字の塊にしか見えないという事も無い。
スーパーボールやハイパーボール、その他様々なバリエーションがあるのだが、やはり此方としてはこのシンプルな紅白のモンスターボールをおすすめしたい。
「できれば、レギュラーだけでも持ってきたいけど」
こないだ捕まえた一匹をそのまま放置しておくのは危険だ。
多彩な技術を習得しているようだし、自力で脱出して来かねない。
最終的にリリースするとしても、せめて指名手配のきっかけになった件だけでも物的証拠込で説明できるようにして、減刑の準備をしてからで無ければ。
それまでは此方のポケモンとして手元に置いておきたいけれど、もしも持ち歩いている時に自力で脱出されても困る。
この部屋から出れない様に細工はしたけれど、騒がれても困るし、母さんに迷惑をかけてしまう。
監視を置いておくとしても、そういう器用な真似が出来るのは臨時メンバーには当然居ないし、レギュラーメンバーでも一匹しかいない。
「……こうやって、ポケモンを持たないで歩き回る日常に戻っていくんだなぁ」
モンスターをけしかけられて、襲い掛かってきたモンスターを素手で引き裂くと怒られる文化はこの世界には存在しない。
調教したモンスター同士を道端で戦わせる奇妙な文化が無い以上、これから此方の意識はポケモンたちからどんどん離れていくだろう。
勿論、彼等も貴重な文字列でない仲間ではあるのだけれど。
これから意識を向ける頻度が少なくなる事がわかっている相手をこき使う、というのは、心情的に複雑なところだ。
「一応、簡単な説明だけでもしておこう。ボウイ」
呼び声にモンスターボールが独りでに開き、一匹のポケモンが静かに姿を現す。
全身血のような赤とそれにまだらに混ざった薄い黄金の金属結晶質、ぱきぱきと音を立てながら体の材質と同じ枝をあちこちから生やし、背の羽根すら動かす事無く地面から少し浮いている、色違いのハッサムだ。
「此方の後ろで控えて。逃げようとしたら『優しく』『止めて』な」
こくりと頷きながら、脳の底を爪でひっかくような不快な金属の擦過音に似た鳴き声で答えるボウイ。
なつき度及び忠義マックスなだけあって実に頼もしい。
そして、件のボールを手にして、中身を解放する。
ソフトボール大に膨らんだボールが紅白の上下で分かれ、赤光と共に一つの影が躍り出た。
正しく獣そのものといった動きだが、如何せん遅い。
破壊的な威力の込められたオーラを纏った一撃はボウイが視線を向けるだけで掻き消え、素早く窓から逃げようとしたその影はボウイが積層構造の鋏を向けるだけでびたり、と、空中に縫い付けられる様にして動きを止めてしまった。
驚愕の表情、視線は恨みがましく此方に向けられているが……。
「いや、お見事。ここで逃げの一手が打てるのは素直に良い判断力だと思いますよ。無駄ですが」
椅子に座ったままぱちぱちと手を打ち鳴らして賞賛の声を送る。
基本的に、モンスターボールの中というのは居心地が良く出来ている。
だから、傷めつけた上で捕らえられたポケモンも何だかんだで言うことを聞いてくれるように成るわけだけれど、それを乗り越えて、ボールから出された直後に捕獲者に牽制の攻撃を放ち即座に逃げ出そうと考える事が出来るのは、高いポテンシャル以上に多くの経験則が絡んでいるのだろう。
「そう警戒なさらず。しても意味はありませんし、どうせしばらくしたら解放させて頂きますから。だから、少し、『お話』をしませんか? ────サバミソ」
「誰がサバミソよ!! 私にはサバミソっていう立派な……あれ?」
忍者特有の完全で幸福な身体制御能力によって組み上げられた教科書通りの温和そうに見える笑顔を向け、元の名前を思い出せず首を傾げるサバミソに対話を求める。
夏休みも残り少なくなってきた夏のある一夜。
友人の試合を後顧の憂い無く応援しに行くために、此方は無駄とわかりつつ、挿絵から徐々に文字列になりつつある自由気ままな頑固者の説得を試みるのであった。
短めな上に不穏な締めの五巻エピローグをお届けしました
六巻はもうちょいシンプル?
七感はポケモンバトル(意味深)
★事件の被害
それも禍の団の美猴ってやつの仕業なんだ
なんて恐ろしいやつなんだ禍の団の美猴……
きっと大猿モードとかありますよ!
みたいな事になった
★部長王
って書くとなんだか学園バトル物の中ボスっぽい
カリスマ出してる時と仕舞ってる時の落差が酷い
扱いの違いも酷い
イッセー争奪戦での戦績も酷い
どうしてこんなことになったかは薄々わかってるけどもう軌道修正は効かない
別にアンチじゃないから最終的にはくっつけると思う
★雅様を改造した勢力
このSSは無理矢理にでも話の基本的な流れを原作に添わせて行くというルールがあったり無かったりします
なので、主人公の精神的非常食として原作登場巻までおあずけです
聖杯は……ほら、型月的聖剣出してる時点でFGOの聖杯くらいは普通に出せるから然程意味が無いっていうか
★ポケモン
レギュラー三匹中虫ポケモン()が二匹、一匹はポケモン世界以外で作って捕まえた
残り三匹は放流する予定だったけど、そもそもこの世界はポケモン居ないから放流するタイミングが無い
ペット枠だがポケモン世界でない為出番は少ない
稀に餌を上げる描写が出るかもなーという程度
★サバミソさん
ゲットだぜ
今日からお前の名前は千だよ、的なニックネーム法
どうにかして元の名前を覚えておくと吉、無理なら諦めろ
ちなみに使用されたボールは捕獲制限を解除した違法改造品である
改造メタモンを入れてあり、入れ替わるようにして捕まえたポケモンに変身してリリースされる事でゲットされた事を悟らせない完璧な構造だった
本来は相手トレーナーのポケモンをどうにか奪えないか、という邪悪な意志の元に錬金術の秘奥を無駄に駆使して作られた一品
しかし基本的に相手のポケモンに投げるとトレーナーが弾く為、相手ポケモンでなく相手トレーナーを捕獲してしまうという欠陥品だった
足の付く人身販売は捕まる恐れがあるから、エリートトレーナーを捕まえる時は洞窟の中とか、場所にも気を使おう!
現在のサバミソのなつき度→0
★ハッサムのボウイ
メタルコートが手元にないけどハッサムが欲しい!
という主人公の欲望が生み出した悲劇のポケモン
メタルコートの代わりに進化前ストライクと同体積の金神片が使用された
トライバーニングとかスペースゴジラ的なクリスタルパーツが至る所に見える
積層構造の鋏に浮かんだ波紋は実にダマスカスで切れ味ばつ牛ン
当たると武者すら爪のさきっちょ程も残らないラスターカノン他、様々な
名前の由来はクリスタルボーイ
好物はポロック及び肉
現在のボウイのなつき度→MAX
★レーティングゲーム
結果を書く必要があるのだろうか
だが、この残酷な結果を知りたいのであれば、次の話とかにちらっと出るかもしれないのでそこで
たぶん多少話題に登る可能性がある
★猫砂
最近は匂いごと吸着するタイプが多いため室内にあってもそれほど匂わない
★毛玉
猫なら吐くだろうと思われる
毛づくろいで飲み込んだ毛が元であるらしい為、猫形態が無い場合はたぶん吐かない
こうしてギリギリのところで小猫さんの尊厳は守られたのであった
そんな訳で五巻は何事も無く無事に終了
次の巻、ほのぼの展開になるんじゃないかなって思います
敵は死ぬけどそれは別にほのぼのの邪魔にはならないですし
変なキャラ立ちしてしまったせいでヒロインムーブをしきれない小猫さんとか、素直にヒロインをデレさせるムーブのできない面倒な主人公ですが、次回以降もお付き合い頂ければ幸いです