文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
巨大な岩が砕け散る衝撃と共に、数瞬消失していた意識が復帰する。
全身に走る激痛、あちこち骨が折れて、たぶん感触的には筋肉と皮膚を引き裂き外気に晒されているのだろう。
痛い、と、口に出そうとして喉が潰れている事に気が付いた。
喉に手を突っ込んでとりあえずの形を整えて無理矢理発声しようにも手が動かない。
脊椎をやられたのか、だが痛みが残っているから完全に麻痺している訳じゃない。
「良いザマだな」
聞き覚えのある、もう聞く筈の無かった声が聴こえる。
何か言い返してやろうと、取り敢えず神経と喉を治す。
赤や金に成る時間も余裕も無く喉が潰れては魔法も使えない。
故に使うのは、昔々にこの地球の
記述を自分に移植するに辺り、いくつか文言を書き換え書き足したお陰でオリジナルと比べて格段に融通が効く。
治癒速度も段違いに早い。
……忍者の全力戦闘の中で使うには少々遅めだが。
瞬き一回分よりも速い、しかし戦闘中の回復手段としては遅すぎる速度で喉とへし折れた背骨、中を走る神経を元通りに修復。
発声、の前に、潰れた喉に溜まっていた血溜まりを吐き出す。
べしゃり、と地面に肉と歯の破片が混じった血を吐き捨てながら、襲撃者の姿を確認する。
「……あー、キャラ変わりました? 格下にアンブッシュなんて」
当然と言えば当然だが、片方が見えなくなった視界には、おどろおどろしい挿絵が広がっていた。
山という異界の中に現れた更なる異界。
山々の中に唐突に現れた『海に囲まれた巨大な島』の空は、今にも泣き出しそうな真っ黒な雲で覆い尽くされ。
その曇天を背景に、一匹の熊、忍者が存在していた。
「俺は、俺を一度は倒してみせた男を、格下と思うほどに自惚れてはいない」
「そりゃ、光栄なお話で」
元念雅流後継者、ギオ。
物理法則を無視して宙に浮かびながら此方を見下ろす視線から、一切の油断も感じ取れない。
残念な事に、この、此方が知る限り忍者の中で1、2を争う程に才能に恵まれ、その才能を十二分以上に引き出すための努力を惜しまなかった熊は、こと此処に至って、一切の慢心を捨て去ったようだ。
念雅流を極めた忍者は、ある意味では星の力を自在に駆使する、神にも等しい存在だと言える。
それだけでもこの敵は厄介だというのに……。
「その赤、お似合いですよ」
「ああ、前にお前がやっていたのを見てな、『やってみよう』と思ったので『出来るようにしてみた』のだ」
全身の毛をオレンジ混じりの炎の様な赤に染めたギオ。
岩をぶちぬいた程度では砕けない筈の骨格が砕けた、この不可思議な物理法則。
「写したか、秘伝忍法『紅』を」
「おおとも。『俺の念雅流』での名は、後に改めて考えるとしよう」
ギオが此方に手を向ける。
追記した第六感が、『紅』で使用する、第六世代型恒星間航行決戦兵器のセンサー類が一斉に悲鳴のような警告を伝えてきた。
反射的に封印が一段解け、視覚以外の感覚が次々に開けていく。
ギオの物理法則改竄と此方の物理法則改竄が打ち消し合う。
抜き打ちで勝てるのは当然、と言いたいが……。
「なるほど、『そう』するのだな」
対応が早い。
次々に変化していく殺意と害意に満ちた物理法則の変化を、どうにかこうにか打ち消してく。
その速度たるや決して此方のそれに劣っていない。
今、さっきと同じ状況になったならどうなることか。
これでギオが単純にフィジカルリアクターを搭載したというのなら演算力の差で此方が確実に押し勝てる。
だがギオはフィジカルリアクターの能力を真似しているのではない。
彼は異なる世界の異なる物語を知っている訳ではない。
この力が信じられないほどに高い科学技術によって齎されたものをモデルとしていると知らない。
彼が意念を持って再現しているのはあくまでも、此方が表向きに口にした『秘伝忍法・紅』だ。
純粋数学による物理法則の書き換えでなく、物理法則を自在に操る忍術であるとして使っているのだ。
単純な性能比較はできない。
「だが、うむ、なるほど。前はまんまと騙されたが、これは念雅流ではないな」
現神の術ではこうはいくまい。
そう呟くギオの声には余裕が滲んでいる。
悪態を吐きたくなるが、それで状況が良くなる訳ではないので考える。
あとは、『金』しか無い、無いが……。
「む」
降り注ぐナイフ大の魔力の群れ。
一本一本が龍破斬の数倍の精神破壊効果を持った広範囲攻撃。
ギオはそれを危うげ無く避けていく。
ギリギリ避けられる範囲だからこその回避。
これで密度が更に上がっていたらギオは力技でこの難を逃れただろう。
故にこの密度の薄い弾幕はブラフだ。
回避に時間を割かせ追撃を弱くするための。
「逃げるで」
案の定、此方に気付いて駆けつけたっぽい日影さんが現れた。
首根っこを掴まれ、ぶらぶらと揺れる破損した手足等を直しながら日影さんに尋ねる。
「他の皆は」
「あの雅とかいう吸血鬼相手に時間稼ぎや」
「なるほど」
首を跳ねても駄目。
白木の杭で心臓を貫いても駄目。
聖剣で浄化しても駄目。
燃やして灰にしても駄目。
次は燃やした灰を混ぜて10分割して別々の場所に封印する、とか言ってたし、時間もかかるのだろう。
「あの吸血鬼のしぶとさはなんなんだろね」
中身が漏れる心配を考えればトラペゾは早々使いたくない、というか作りたくない。
不死の相手に肉玉の呪いが効くかも怪しい。
まぁあっちは此方が『海』を使えばどうにでもなる筈だが。
「後でちゃんと考えなあかんな」
恐らく、ギオの復活や変貌もあれが関わっている筈だ。
避けては通れまい。
逃げ出すなんて選択肢は既に無い。
あの力を得た、しかもあのわけわからん吸血鬼に力を貸しているギオを放置はできない。
「次は殺す。必ず殺す」
殺し合いの場で次を歌うのは恥、などという輩も居るが気にしない。
現に逃げる事が可能で、相手にどんな思惑があれ生き残って仕切り直せるなら、厳然と次は存在するのだ。
故に殺す。
「楽しみにしているぞ。外の忍者よ」
此方の捨て台詞に、僅かに声に嗤いを混じらせながら脚を止めるギオ。
そんな様子に僅かな違和を覚えながら、日影さんに引きずられる様にして、アストラルサイドへと滑りこむようにして逃げ出した。
―――――――――――――――――――
「そうだな。そのメニューを熟しておけば、特に問題なく活躍できるだろ」
「気付いてると思うが、そのメニューは今お前さんが使っている技術を効率的に運用する。それだけを目指したものだ」
「実際、それで特に害があるわけじゃない。聞いた話じゃかなりしっかりした技術だからな。『戦車』としての能力との相性も悪く無い」
「……だけど、言っちまえば、その力は誰しもが使える可能性がある。技術なんてどれだけ隠しても何処かで流出しちまうもんだ」
「お前さんの素養は、その技術と相性も悪く無い。そう、悪くない。良い訳じゃない」
「しいて言うなら朱乃か。まぁ、あのガキが教えるとは思えないが……」
「今はそれでいい。今は、な。だから、頭の片隅においておくだけでいい」
「お前には、お前だけの真の力がある。向き合おうと思えた頃にでも思い出しゃいいいさ」
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今朝、嫌な、地味に嫌な夢と共に目が覚めた。
修行開始直前にアザゼル先生に言われた言葉。
お陰で寝覚めの気分は最悪だ。
嫌悪感のお陰で目ははっきりと覚めたけれど、朝からする思考でも朝から得たい感情でもない。
遠回しな忠告、催促。
そのどれもが間違っていないだけに、余計に私の心をかき乱す。
「ふっ!」
全身の捻りを活かしての、型通りの正拳、テレフォンパンチ。
申し分ない条件の元に繰り出された一撃は、トレーニングに使用している森の木を一撃でへし折った。
拳が当たった場所は、綺麗に粉砕されて繰り抜かれたかの様に爆散して飛び散って行った。
迷いやストレスがあろうがどうだろうが、正しい型と共に突き出された拳は全身の力を対象に破壊力として伝達させる。
「すぅ……はぁ……」
立ち止まり、意識して深呼吸。
訓練メニューには無い動き。
だけど、今は訓練は関係ない。
どうせ、試合までにパワーアップできるタイプの修行ではない。
メニューを頭の外に放り出し、口元を隠しながら小さな声で詠唱を開始。
「
突き出した手のひらの前に現れた青い光球が、弾丸の如き速度で目標の木目掛けて飛んで行く。
着弾地点を中心に大きめの木が一本丸々凍り漬けになった。
これも特に問題なし。
……生理とかは影響するみたいだけれど、この程度の嫌悪感なら術の発動にも威力にも影響は無い。
これが、今の私の力だ。
物理的に単純で純粋な格闘術。
術式的に複雑で精密な魔術。
どちらも、感情にそう簡単に左右されないし、感情や心に深く作用する事はない。
言ってしまえばどちらも技術だ。
感情や本能で振るわれる訳ではない、理性の力。
……だけど、これは私だけの力じゃない。
格闘術は地道に学べば誰しもがある程度の精度で身につける事ができる。
私は戦車の馬力と頑丈さを追加しているけれど、それは相手が戦車の駒の力を持っていれば、あるいは単純に頑丈で力が強ければメリット足り得ない。
言ってしまえば、部長とか副部長だって時間をかければ手に入れられる力。
魔術だってそうだ。
格闘術みたいに五体があればできる、というほど間口が広い訳でもない。
発動できる術にだって素養でかなりの差が出てくるし、格闘術なんかよりよっぽど習得に時間が掛かる。
一般的に、素人からギリギリ魔術師を名乗れるように成るまでには数年の時を必要とするらしい。
数年。
人間にとって見れば長い時間だ。
でも悪魔にとっては?
……私が教えてもらった魔術は広まると危険だからと誰かに伝授することは禁止された。
だけど、戦っている場面から得られる情報だけで盗めないのか、と言われると、わからない。
もしかしたら、本格的な解析チームなんかが結成されたら、私の戦う姿から魔術の理論を解析されてしまうかもしれない。
挙句、この魔術は私が苦労して習得した訳ではない。
読手さんから借りた魔剣の機能で植えつけたインスタントな力でしかない。
私がこの力を受け取ったのだって、読手さんの友達だからという浅い理由だ。
純粋に魔術の素養で言えば、副部長や、或いはギャー君だって私を上回っているだろう。
「ふぅ……」
溜息と共に、大岩に座り込む。
動くのを止め、静かに呼吸を整えれば、小さな生き物たちのざわめきが聞こえてくる。
周囲には誰も居ない。
私の修行は特に誰かが見ていなければならないような物でもないし、指導者が必要な内容でもない。
いや、指導できるだろう相手は居るけれど、その人は悪魔ですらなく、この場所には居ない。
だから今、私は一人だ。
「一人、独りですね」
何時か見たドラマで、こんな台詞があった。
『孤独は山の中でなく、街の中にある』
私は、孤独ではない。
街の中、人の群れの中、学園生活の中で、私は多くの隣人と関わりながら生きている。
誰かと誰かに囲まれて、その中で誰とも繋がれない事を孤独というのなら、街の中の私は孤独じゃない。
なら、今、この誰もいない森の中でも、私は孤独ではない筈だ。
仮に誰かを呼ぶとして、私が呼べる相手は、私を孤独にするタイプの相手ではありえない。
そう、あり得ない。
こうして、誰も話し相手の居ない森の中に居ると、なんとなくわかる。
私は無意識の内に、付き合いを許容する相手を選ぶ時、距離感を図りつつもしっかりと私とコミュニケーションを取ってくれる相手を選んでいる。
孤独である事を恐れているから。
人の群れの中で、孤独とは言えない生活を送りながら、私はどうしようもなく孤独を恐れている。
今もそうだ。
誰もいない、孤独という概念のない筈の無人の森の中で、私は孤独を感じている。
手を伸ばせば、そこに誰かが居ると思ってしまう。
遠い昔に無くしてしまった誰か、私を置いて、何処かに消えてしまった誰かが居ると。
何時も傍にいてくれた誰か。
姉様。
私を背負う背中の温もりを覚えているから。
繋いだ手の感触を覚えているから。
何時も一緒に居た姉様の事を忘れきれていないから。
私は、誰もいないこの森の中で、街の中に居るかの様に、孤独を感じている。
ふと、視線を下ろす。
自分でそうしていたつもりも無いのに、私の手は、手首に付けたお守りを、素っ気なく飾り付けられた石を撫でていた。
貰ってまだ一ヶ月も経っていないのに、すっかり癖になってしまった。
「読手、さん」
名を呟く。
きっと、こうして色々考えるようになったのは、彼のせいだ。
彼のお陰、というか、彼のせい、というか、実に迷う。
でも、そのどちらも私の本音なのだろう。
何の変哲もない人間だと思っていた彼。
堕天使も悪魔も物ともしない力を持って、でも、決して悪魔側に与する訳でなく、人間という枠から出ようとしない。
私達、グレモリー眷属の大半のメンバーの様に不幸な過去があるわけでなく、両親も健在で。
彼は、私にとって、どうしようもなく違う人種なのだと、そう思う。
思うのに、何でか馬が合う。
互いに、深く踏み込まないようにと一線を引いて。
それでも友達付き合いが続いている。
一緒にいて楽で、楽しくて、心地良い。
彼のスタンスは、色々と考えさせられる。
日常と非日常のオンオフがしっかりしていて。
たぶん、眷属のみんなよりも普段一緒に居る時間が長いのに、身内という訳ではなくて。
……でも、最近、少しだけ、前よりも近付いてきて。
身内ではない、他所の、悪魔でない、人間。
彼は、どうしようもなく、『孤独かどうかを分ける他人』の位置に居る。
一緒に居るのが自然に感じて、でも、一緒で居られる保証もない。
何時か別れる時が、必ず来る。
それも、悪魔で眷属仲間である他の皆よりも、余程早くに。
しかも、そのタイミングだって何時に成るかという保証も無い。
早ければ高校卒業で、なんて考えだって、目一杯甘く勘定した結果でしかない。
唐突な別れが来る可能性は決して否定できない。
それがどうしても、何時か居なくなった姉様と重なってしまう。
……今、そう感じてしまうのは、冥界に来る直前の、祭りの後の帰り道が原因だろう。
彼は、自分から私の線の内側に踏み込もうとしてきた。
思えば、目が『見えすぎる』なんて話だって、出会った直後じゃあして貰えなかった。
付き合いが長くなるにつれて、彼は少しずつ、壁を薄くしてくれていたのだ。
それが無意識か、意識的かはさておき。
「ああ」
そうか。
秘密は、自分の中に抱えたまま、外に出すつもりが少しも無いのなら、それほど辛いものじゃない。
絶対に誰にも教えない、と決めてあるのなら、後ろめたさも何もない。
自分の中で完結するなら、どんな秘密も心を動かさない。
だけど、誰かに知っていて貰いたいと思ったのなら。
彼のようになるし、私のようになる。
教えたくて、教えたくなくて、苦しくなる。
目を背けていた秘密と向き合う必要が出てくるから。
どう話そう、何時話そう。
上手く話せるだろうか、誤解をさせないだろうか。
そんな葛藤が、上手く話す為に、誤解をさせない為にと、心の目を抱えていた秘密に向けてしまう。
「私は、語りたいんだ」
誰でもない。
他ならぬ読手さんに。
私の秘密を話したい。
姉様の罪を、それでも優しかった頃もある姉様を。
知って貰いたいんだ。
人間で、忍者で、部外者で、でも、友人の、大切な友達の読手さんに、語りたい。
「お話、したいです。読手さん」
今、この場に居ない友人に、この場に居ないからこそ素直に願う。
「………………え?」
願うと同時に、森の静寂を切り裂き、場違いな電子音が鳴り響く。
出処は、言うまでもない、私の携帯だ。
鳴る筈のない着信音。
そもそも電波の通っていないこの冥界で、何故?
「もしかして……」
お守りを見る。
よくよく目を凝らして見れば、お守りの石が僅かに輝いている、ような気がする。
微か過ぎてよくわからないのか、それとも気のせいなのか。
いや、このタイミングで光っているのが気のせい、という事はないだろう。
お守りの効果?
そういえば、どんな効果のあるお守りかは聞いていない。
友達からのプレゼント、というだけで、なんだか浮かれてしまって、聞けなかったけれど。
でも。
それも、今から聞ける。
懐、内ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。
掛けてきているのは、予想通り、期待通りの相手。
何故だろう、画面に浮かぶその名前を見るだけで、ほんの少し心が軽くなった気がする。
何を話そう、どう話そう。
考えはまとまり切っていない。
だから、いつも通りに話そう。
とりとめのない話をするように、何気なく。
少し重い話になるけれど、それくらいなら、普通の友達でも相談するらしいから。
「……もしもし」
携帯を顔の横に当て、恐る恐る、弾みそうに成る声を抑えて、久しぶりに話す友達に、いつも通りに声をかけた。
―――――――――――――――――――
「あー、ようやく繋がりましたね。お久しぶりです、塔城さん。元気にやってます?」
人里の跡地の様な場所から離れ、季節感を一切無視してしんしんと雪が振る山、岩山に出来た横穴を使って作った即席のアジトの中。
既にやるべき事を終えた此方は、何故か塔城さんに電話を掛けていた。
『……それなり、ですかね。これでも色々、考える事があるもので』
「あら、里帰りの付き添いで気軽なバカンスとは行きませんでしたか」
『最近、そんな流ればっかりな気がしますから、今更ですけどね』
「ですねぇ」
思えば、塔城さんは巻き込まれる必要のない争いごとに、立場の関係からどうしても巻き込まれる場面が多い気がする。
なんだか猫っ気のある(猫だから仕方ないのかもしれないけれど)性格で素っ気無さそうに見えるけれど、根っこの部分で人がいいからかもしれない。
『読手さんはどうです? 楽しい夏休みって感じですか?』
「あー、どうでしょね。途中まではのんびり満喫って気分だったんですけど……、色々トラブルに巻き込まれちゃって」
だいたい、この場所自体がおかしい。
山と山で構成された異界であるこの動物忍者の山の中は、他の大規模な空間干渉能力を受け付けにくい筈だ。
それを無理矢理に塗り替えるこの巨大な異界。
外見では小さめの孤島に見えたのに、内部で動くと明らかに外見と比べて広すぎる。
自分で作ったわけでもない異界の中に、更に異なる異界を詰め込んだ大きな異界をねじ込んだ?
「せっかく水着まで用意したのに……外は雪ですよ」
『どんなトラブルに巻き込まれればそうなるんですか……』
呆れるような声。
どんな、と言われても困る。
そもあの雅とかいう粘着系の吸血鬼は此方にも忍の山にも興味があるようでは無かったから、此方をターゲッティングしてきたのはギオなのだろう。
だがそのギオが居る理由も分からない。
ギオは、天容の笛の後継者から外され不死性を失い、空の彼方に飛んで行こうとした所を、ダメ押しで殺しておいた筈だ。
確実に死ぬであろう環境にフェードアウト、というのは、忍者にとって生存フラグ足りえてしまう。
だからこそ、確実に命を絶った。
……もしかしたら、それがいけなかったのかもしれない。
此方が、空に落ちていくギオを追いかけ、地球から脱出する前に殺した。
それを恨んでのことか?
生き残ったとしても、やはり最大のターゲットは後継者争いの相手であるネンガ様であった筈だ。
ギオが不死性を失い、ネンガ様が後継者としての不死性を持っているのであれば、いくら狙われても問題は無かった。
つまり、ギオが何故か此方を執拗に狙ってくるのは、あの頃の判断ミスが後を引いている、とも考えられる。
「なんていうか、過去が追いかけてきた、ってヤツですかねぇ……」
『過去が、追いかけてきた、ですか』
「まぁ、忍者として未熟だった頃の話ですよ」
今、あの時の判断ミスを後悔する意味は無い。
時を遡って過去を変えたとして、此方の記憶には失敗したという記憶が残るし、此方が歩んできた人生はその判断ミスを犯した場合の人生なのだ。
いきなり世界線がずれたり、過去が書き換わったりなんてしたら、それこそしょうもない。
失敗も含めて、この人生は大事に生きる。
だから、追いかけてきた過去は現在で止める。殺す。
はっきり言って殺すのは自信がある。
父さんが一流だったのは当然として、此方だって一応は夜顔としての顔だって持っているのだ。
『……読手さん。私も、少し、昔の話とか、しても良いですか?』
「勿論」
言葉のキャッチボール、会話のキャッチボールだ。
塔城さんの夏休みは変な潰れ方をして、此方の夏休みも似たようなものだった。
此方は過去のネタがトラブルになって現れた。
次は塔城さんの番だ。
携帯越しに聞こえる、常に無く神妙な声から、どんな話をするかは予想が付く。
でも、それに『面倒だ』という思いは沸かない。
彼女が抱える荷物を、話を聞くだけでほんの少しだけでも軽くできるなら、それは、とても喜ばしい事だ。
そして、そう思える程に彼女に心を許せた、というのも、同じくらいに喜ばしい。
「聞かせて下さいな。此方の知らない、塔城さんの昔の話」
互いに一線を引いてから、此方に踏み込む事も無く。
一線の前で、此方から一歩踏み込みたくなるまで、しっかり距離を置いて付き合いを続けてくれた、稀有な友人。
その一線の先の話を、塔城さんは深い深呼吸と共に、ゆっくりと語り始めた。
―――――――――――――――――――
……なるほど。
猫魈としての力を目覚めさせたがゆえに、力に飲み込まれて暴走した姉。
罪を被せられそうになった所を助けられ、今に至る。
しかし、何時かは必ず向き合わなければならない、姉と同じ、猫魈の持つ種族本来の力。か。
面倒な、いや、難しい問題だ。
『私、私は、使いたく、無い、です。もし、使ってしまったら、姉さまと、同じに……、あんなのは、もう……いや、です……』
声だけでわかる。
塔城さんが泣いている。
いや、複製を泣かせたことはあるけれど、それとは違う。
塔城さん本人は、此方と接する中で、泣いたことなんて一度も無い。
それだけ、彼女は追い詰められているんだ。
何に?
決まっている。
「愛、ですか」
『っぐ、なんで、そこで、愛……』
泣きながら、途切れ途切れに此方の言葉に返す塔城さん。
だが、何故、などと、おかしな事を言う。
今の塔城さんの苦しみは、正しく愛故の苦しみなのだ。
違っている可能性もあるだろう。
だけど、此方が塔城さんの話を解釈するのなら、確実にそうなってしまう。
「だって、塔城さんは猫魈の力を捨てたくないんでしょう?」
『……そんな、事は』
「あるんです。あっていいんですよ。……数少ない、お姉さんとの絆じゃないですか」
極論だけれど、塔城さんはこの問題に今すぐ向き合う必要なんて欠片もない。
塔城さんだけの力が必要になるとしても、それには少なくとも数年の猶予はある。
それだけの時間があれば、此方が刷り込んだ魔術の知識を駆使して独自の自己強化を図る事も難しくない。
猫魈の力を使うか使わないか、そんな事は、これから時間を掛けて、自己強化の研究と平行して考えていけばいい。
……つまり、それが、泣きたく成るほど、涙がこぼれてしまう程に、悲しいのだ。
「猫魈の力が、お姉さんとの、数少ない共通点が、繋がりが、必要なくなってしまうかもしれない。そう考えるのが、悲しいんでしょう」
『…………』
話を聞く限り、確かに塔城さんはお姉さんに裏切られたのかもしれない。
お姉さんは力に飲まれて変貌し、唯一の肉親を切り捨ててしまったのかもしれない。
かもしれない、かもしれない、かもしれない。
そんな悲しくて辛い仮定の前に、決して揺るがない真実がある。
塔城さんは、裏切られ置いて行かれた今でも、お姉さんが大好きなんだ。
「優しかったお姉さん、守ってくれていたお姉さん、大好きだったお姉さん。そんなお姉さんと同じ、共有できる力を捨ててしまうのは、思い出も、絆も一緒に捨ててしまうようで、怖いんでしょう」
当時の姉の様になってしまう恐怖、周囲に危害を与えてしまう恐怖もあるだろう。
だけど、そこにはやっぱり姉とお揃いの力を捨ててしまう悲しみがある。
本当に、姉に対する情が完全に消え、今の仲間の心配だけをしているなら、更に強くなる為の力を捨てる迷いはあっても、悲しみを感じる事は無い筈だ。
力を諦める、捨てる事で、今度こそ本当に、姉との繋がりが完全に消えてしまうかもしれない。
そんな可能性が、塔城さんの心を曇らせている。
『そんな、知ったふうなこと、どうして言えるんですか』
えづきながら、しかし、少しだけ聞き取りやすくなった塔城さんの言葉に、即座に返す。
「此方が忍者になった理由だって、似たようなものだから」
『……?』
忍者でない、忍者の育成プロセスを知らない塔城さんには理解し難いのかもしれない。
が、冷静に、忍者ではない一般人としての記憶を持っていた此方からすると、忍者なんて職業は進んでなるものじゃない。
仮に順調に忍者になったとして、政府に仕えれば使い勝手の良い鉄砲玉、給料も安いし、死ねば屍を拾っても貰えない。任務に失敗すれば良くて重い懲罰、悪ければ始末される。
此方や父さんの様に大組織のお抱えになれれば話は違うが、政府から離れてハグレモノになったとしても扱いの悪さは大差ない。
最低限未満程度にはあった社会保障も無く、社会道徳がヘリウムよりも軽い世界で金勘定も保身も全て自分で行っていかなければならない。
「
だから、頑張った。
身体が別の何かに変わっていく様な感覚も、辛い修行も、対拷問の訓練だって、残らず熟した。
それもこれも、父さんを父さんだと、自分が父さんの子なんだと、胸を張って心から言える様に成るためだった。
だけど、普通は自分から望んでなるものじゃない。
訓練は辛い、成長途中で様々な薬物で肉体を造り変えるのは気持ち悪い。
挙句、男だろうが女だろうが、貞操全部一つ残らずドブに捨てないと一人前になれない、糞の様な職で、大体の忍者の卵がそれに疑問一つ覚えられない。
忍者になるのは素晴らしい事であると教えられるらしいし、他の道に行こうと考えられるような真っ当な教育は望めない。
万が一、一般的な価値観を手に入れてしまえば……余計にひどい。
思い出すのは、少し前のこと。
昔の友人に、『抱いてくれ』と懇願され、事情も感情も理解できるが故に、抱いてしまった。
……夏休みが開けたら、拷問耐性訓練が始まるらしい。
そう言われて察する事ができないほど間抜けじゃあない。
他ならぬ此方も、同じ訓練を熟したのだ。
男として女に、男として男に。
女として女に、女として男に。
動物に、虫に、化生に、機械に。
徹底的に嬲られ、貶められ、辱められ、傷めつけられ、詰られ、蹂躙される。
そこから無理矢理に精神を立て直し、またはじめからやり直し。
完全に心が砕けた状態からでも、即座に心を立て直せる様になるまで、延々と繰り返し。
処女を失う、童貞を失う、なんて、そんな軽いものじゃない。
男として、女として、人間として、生命としての尊厳全てを打ち砕かれるのだ。
だから、抱いてくれ、と言われて、涙で潤んだ瞳でみつめられて、断れる筈が無かった。
昔に好きだったかもしれない。今も好きなのかもしれない。
そんな曖昧な好意で、それでも、知らない誰かに、なんとも思っていない誰かに、嫌悪するような誰かに犯され失うのであれば、と、制限時間に背中を押される様に、震えながら懇願し、貞操を捨てなければならない。
そうでなければ、恋も愛も憧れすらも知らず、ただシステマチックに苦痛に快楽に屈辱に悦楽に擦り切れるまで慣れさせられる悲惨で酷薄な製造工程の果てに作り上げられるのが忍者だ。
抱いて、貫いて、背中に立てられた爪の痛みを感じて、泣き笑いの様に顔を歪める彼女の顔を見て、思った。
忍者なんて、進んでなるものじゃない。
だけど、此方は、忍者になった事に少しも後悔していない。
錬金術の素養が同じくらいあったらそっちを選んだかもしれないけれど。
この道のお陰で、此方は、父さんの子なんだと、心から断言できる。
父さんの血を引いた、才能も受け継いだ、間違い無い、父さんの子なんだと。
殺すのに慣れて、辱めるのにも慣れて、何をされても何をしても、直ぐに『いつも通り』になれる、そんな人でなしになってしまったけれど。
この力は、拠り所で、道標だ。
だから────
―――――――――――――――――――
『使ってみてもいいんじゃないかな。猫魈の力』
「そんな、簡単じゃないですよ」
そう言葉にして、でも、もう心の中に、猫魈の力を強く否定する感情が無くなってしまったのに気付く。
言われてようやく自覚できた自分の間抜けさに、少し笑いすら浮かんでくる。
私は、まだ、姉様が好きなんだ。
だから、この力を『使うべきか』と考えた時、とても悲しくなった。
使うべきか、という事は、『使わない=無視する』という事で。
使わなくてもやっていける、無視しても何とかなる事実が、酷く寂しかった。
それは、私と姉様の絆の否定だ。
私が猫魈の力を否定してしまえば、私と姉様の間にある絆は、幼い頃の朧気な記憶だけになってしまう。
それじゃ駄目だ。
いや、駄目かどうかは置いておくとして、私が、嫌だ。
でも、嫌だ嫌だと思っても、どうしようもない部分はあるわけで。
「それでも、姉様みたいに、暴走するのは、皆に迷惑を掛けるのも、嫌」
『じゃあ、此方に掛けてよ、その迷惑』
「……その台詞、すっっごくクッサイの、解って言ってます?」
『塔城さん、これ、真剣な話ね?』
……真剣な話で、そんなストレートな台詞を吐かれる、こっちの身にもなって欲しい。
顔が熱い。
電話越しで良かったと心底思うし、電話越しで無ければ照れ隠しに一発殴っているところだ。
「本当に、ひどいことになるかもしれないのに? 今、私は冥界で、別々の場所に居るのに? ……元に戻れないくらい、変わってしまうかもしれないのに?」
『本気で塔城さんが求めるのなら。……此方は何処からでも駆けつけて、貴女の名を呼び、貴女の手を掴み、何度だって、引き戻すよ』
……そうしないと、ほら、学校でつるめる相手、居なくなっちゃうし。
と、続くとぼけた言葉に、照れが滲んでいるのを感じて、吹き出す。
『……そんな露骨に笑わなくても』
「じゃあ、っふふ、照れて誤魔化す様なこと、言わなければいいのに。台無しじゃないですか」
『言いたいこと言っただけだし』
いじけるような声。
それを少し可愛らしいな、と思い、気付く。
「……敬語じゃないと、そういう風に喋るんですね」
クラスの男子と喋っている時とか、日影さんと喋っている時に脇から聞いたりはするのだけれど。
こうして、自分との会話で使われると、また違った印象を受ける。
『……あ。あー、ごめ、すみません』
「いいですよ。……友達なら、そっちの口調の方が自然じゃないですか」
これが多分、彼の本当にプライベートな距離感なんだ。
少し緩い口調に感じた親しみは心地よく、今更距離を置かれるのは寂しい。
だから、私から、もう一歩。
「……冥界から帰ったら、お互い、呼び方も変えましょうか。せっかく、前より少しだけ仲良くなれたんですし」
一歩だけ、彼の側に踏み出しながら、考える。
帰るまでに、名前を呼ぶ練習をしよう。
照れる友達を誂えるように、彼の名を呼ぶだけで照れてしまわないように。
名前を呼ばれて、照れてしまわないかが、少しだけ心配だけれど。
―――――――――――――――――――
「うん、それじゃ、また、学校で」
少しばかり恥ずかしい会話を繰り広げた後も、説明し忘れていたお守りの機能を説明したり、他愛のない話をし、別れの挨拶と共に通話を終えた。
時間にして数十分は話していただろうか。
……即席のアジトの中は狭くは無いが、十分に広いとも言いがたい
「プロポーズやな」
「冗談」
茶化してくる日影さんに軽く返す。
あれくらいでプロポーズに聞こえるならそいつにはロマンが足りない。
「学校の友達と雑談して、また今度ねって、それだけの話だよ」
「でも、それが大事なんやろ?」
「そういう事」
流石日影さん、解ってらっしゃる。
たぶん、此方がなんとなく理由もわからず塔城さんに電話を掛けた時点で、日影さんは理由を察していたんじゃないかとすら感じる。
塔城さんは、駒王学園に入学してから、たぶん、一番長時間付き合っている友人だ。
彼女と話していると、連鎖的に学校の空気を思い出す。
多少、悪魔とかが居たりするし、堕天使が攻めてきたりもするけれど、それでも、大半が平和で穏やかに過ぎていく、日常の場所。
平和で、殺し合いも無い世界。
塔城さんは、悪魔で、学校で起きた事件に完全に関わっているのに、平和な学校を連想させてくれる。
彼女は、たぶんもう、此方の日常の象徴になっているんだ。
ただの学生をしている時の此方にとっての、日常の象徴に。
「……倒そうか。ギオ」
「せやな」
金の力は、できれば使いたくない。
あの状態のギオを倒せるレベルで解放したら、反動がどうなるかわからない。
だけど、必要になったのなら……、ためらわない様に。
「書主さーん! できた! できたよ! 飛影の修理!」
「でかした!」
折り紙の術でジャンク状態だった機体を修復していたまん丸が叫んだ。
未熟な念雅流忍者が三匹、半妖忍者が二人、此方、日影さん。
それに、忍者伝説の五機が揃う。
ネンガ様に上手いこと連絡が取れれば更に追加だ。
「これで勝てなきゃ、軍師失格ね」
する、と、アジトの奥から出てきた深里ちゃんが呟く。
そのまま此方に滑るように近づいてきて、耳元で囁く。
「人の友達抱いておいて直後に別の女口説くなんて、なかなかやるじゃない。……後で話聞かせなさいよ」
ぽん、と肩を叩き、そのまま離れていく。
向かう先には、いつの間にか服装を整えて出てきていたらしい九魅ちゃん。
瞼を開けて視線を向ければ、挿絵になった九魅ちゃんははにかむようにして此方に小さく手を振ってきた。
同じように手を振り返す。
なんと、まぁ、やり辛い。
だけど、これで一応の役者は揃った。
「熊狩りだな」
ばしっ、と、拳? を打ち付けるタヌ太郎。
背後には鳥っぽい意匠の赤い忍者ロボが付き従い。
「いやぁ、たぶん吸血鬼もまた居るだろ」
達観した様にそんな事を言うツネ次郎。
背後には虎っぽい雰囲気の黄色い忍者ロボが侍り。
「どっちにしても、やるしかないよ」
覚悟を決めた静かな言葉を呟くまん丸。
背後には青い、龍の様なデザインの忍者ロボが追従している。
それぞれ、数年ぶりでも見事に使いこなしているようだ。
白と黒の忍者ロボも、九魅ちゃんと深里ちゃんの近くで隠形を行いガードしている。
ここに、安全な範囲で本気の此方と日影さん。
「行こう。勝ちに」
勝って、殺して、過去の因縁に決着を付けて。
のんびりとした夏休みを、楽しい楽しい余暇の時間を。
平和な時間を取り戻そう。
―――――――――――――――――――
通話を終えて、暫く、電話を眺めていた。
会話の内容が幾つか頭の中でリフレインして、その度に首を振って頭の中から追い出して平静を保つ。
……臭い台詞を言われてしまった。
それを誂う余裕こそあったけれど、茶化す相手が居ない今、思い返してその言葉がどうにも擽ったい。
何が擽ったいって、あんな臭い台詞を言われて、嬉しいと思ってしまう自分のチョロさが擽ったい。
私は何時そんな乙女乙女した女になったんだろうか。
いや、勿論私は乙女なんですが。
「……まぁ、私、ギャー君ほどちょろくないですし」
たぶん、同じような語りでギャー君を篭絡したのだろう。
だけど、私はこの世アレルギーでも起こしたかのように引きこもりっぱなしのギャー君ほど世間知らずじゃない。
読手さんには日影さんという恋人が居る、私の周囲では激レアと言っていいスーパーリア充人だ。
そりゃあ、まるで口説いているんじゃないか、っていう激励の言葉がなめらかに口からうっかり滑り出してしまう事もあるだろうというのは重々理解できる。
まったく、困った人だ。
「…………」
そして、困った人をもう一人見つけた。
木の影から顔を出し、私の方を見てニヤァ……と悪魔的な笑顔を浮かべた赤髪の女性。
不思議だ。
私の王と凄く似ている気がする。
本人かどうかと言えば本人だろう。
困った人だ、と思いつつ。
屈んで、足元を這っていた小さな虫を拾う。
「部長」
「あら、どうしたの小猫。訓練は休憩中?」
すすす、と、滑るように、声を弾ませながら近づいてきた部長に、指先で摘んだ小さな虫を見せる。
「最近知ったんですけど、これ、毒を持った虫らしいんですよ」
「そうみたいね。私も正式名称は知らないけれど、お母様に注意された事があるわ」
死んだり激痛が走ったりというような強い毒ではないけれど、刺されると蚊に刺された痕のように赤く腫れ上がるらしい。
「たぶん、部長の頭にこの虫が付いてる気がするので、緊急性を考慮して叩いて潰そうと思うんです」
グッ、と拳を握る。
特殊繊維で編まれた指ぬきグローブがギチギチギチと音を立てた。
学園のお姉さま()と呼ばれる程の美貌を持つ王に、虫一匹近寄らせないという、忠臣である私らしい素晴らしい提案だと思う。
流石私、こんな良い下僕を持った部長は王冥利に尽きるんじゃないでしょうか。
「ふ、ふふ、流石私の戦車ね小猫、いつまでも誂われてばかりじゃない、と。……でも私も誇り高きグレモリーの娘。容易く下げる頭は持っていないわ」
不敵に笑いながら、その場にハンケチを引いて膝を付く部長。
「容易く下げる頭は無い……、それを考慮した上で、私の土下座は貴女の目にどう映るのかしら……!」
「頭に付いた虫を叩きやすくしてくれる私の王は素晴らしい王だなって映ります」
「凄いわ小猫、躊躇わないのね!」
なんなんですかねこの部長のテンション。
叩いたら治るんでしょうか。
割れないように手加減するのは難しいんですが。
「まぁ冗談は置いておいて。……迷いは晴れたみたいね」
よっこいしょー、と、間違ってもイッセー先輩に聞かせられないおばさん臭い掛け声と共に立ち上がった部長。
……この人、恋愛脳のスチャラカスイーツと見せかけて、眷属のコンディション管理はしっかりしてるんですよね……。
隠してるつもりも無かったけれど、このタイミングで通話を見られたという事は、心配して様子を見に来ていたんでしょうし。
まぁ、だから、この人の下でなら安心して戦えるんですけど。
「いえ、まだ、晴れてはいないです」
「あら、そうなの?」
「はい。でも、それでも進もうと、そう決めたので」
「そう……。良い友達を持ったわね」
心底安心したのだと判る部長の優しげな声。
慈愛に満ちた瞳を向ける部長に改めて向き直り、
「友達だけじゃなくて、部長にも、眷属の皆にも、迷惑を掛ける事が増えるかもしれませんけど。……よろしくおねがいします」
頭を下げる。
……姉様。
私は、やっぱり姉様が好きです。
だけど、姉様と同じにはなりたくありません。
周りに迷惑を掛ける事になるかもしれないけれど。
王と、仲間と、大事な友達に寄りかかりながら。
私は、私なりに、姉様と同じ力を、ゆっくり育てて行きます。
この力が、姉様と私の間に残った、数少ない姉妹の絆だから。
おかしい、これヒロインっていうより、成長ものの主人公じゃないだろうか小猫さん
しかもじっくり成長していくタイプの正統派
でもまぁそれはそれで。
最悪、発情期入って反応して、それで初めて自分の好意に気付くという『私って……最低です……』ルートでも問題なく進行できるし
★雅様
出番無いけど、忍者相手ではしぶといだけの的
ただししぶとさは原作の比じゃない
今回の事件の元凶
もっと雅様の雑様な部分を出したかった
★ギオ
念雅流元後継者
後継者だけど念雅流の真の奥義を知らなかったけど、たぶん現神の術が便利すぎたせい
基本的に何をやらかしても現神の術の応用で説明できてしまう
詳しくは原作を読むべし
このまま放置して逃げ帰ると、地球上で無軌道に暴れまわるバスターマシン7号相当の災害に成り得る
何やら発言に違和感があるらしいが……?
★九魅
エロ拷問訓練が始まる前に、嘗ての想い人と初体験を済ませたい、という、スイーツだけど思春期的に割と重要と思われる秘密を抱えていた
秘密達成なので、このままクリアすれば功績点追加です
まあネタバレするけど本編にかかわらないサブシナリオだから生き残るます
★念雅流の三匹
キンクリ連打したせいでそれほど目立たせられなかったのが悔い
タヌ太郎の秘密は深里と同じく生き別れの兄弟を守る事なので、双方死なせずにクリアーすれば自動的に成功
ツネ次郎とまん丸はまだ非公開
ちなみにラブがサバイバーな忍者メカの配分は
まん丸→爆龍→海ユニットなので
ツネ次郎→黒獅子→色合いとたぶん狐とライオンが遠縁の親戚なので
タヌ太郎→鳳雷鷹→平成狸合戦を見るに狸のオスは飛行ユニットなので
飛影&零影→九魅と深里→人数的に
★小猫さん
原作とは泣いてる理由が違う?
でもここの小猫さん、たぶん原作と同じ理由では泣きようが無いし……
お陰でなんか変な成長フラグが立った
ヒロインムーブの予定が崩れてきたかも
★部長
部長というかBUTYOUな部長
出歯亀していたように見えるけど、最近しょぼくれてた小猫の様子を案じて様子を見に来ていた
話は全部聞いていたけど、姉関連の話は色々ヤバイので胸の留めておく王の鏡
次回はついにみんな大好き黒歌さんの登場です
登場って打とうとすると真っ先に塔城が出てきてやりにくいったらありゃしませんよ
あ、あとついでに主人公が合流して、運が良ければ色々と予定が早まるかも