文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
なんだかんだで、オカ研+ゲストによるプール開きは終わった。
色々と思う所もあるイベントだったけれど、無事に終わって良かったと思う。
……で、暑さで脳が茹だったような発言をしたゼノヴィア先輩が地蔵を抱かされたのか、という話だけれど。
「~~♪」
ご覧の通り、全くの無事でした。
この炎天下では耳が蒸れそうな、やや大型のヘッドフォンをしながら、機嫌よさ気に頭を振りながら歩いている。
無罪放免、いや、別に読手さんには裁く権利もなにも無いのだけど、とにかく、読手さんからゼノヴィア先輩に送られたのは聖別された地蔵ではなく、適当な音楽が詰めあわされたMP3プレイヤーとヘッドフォン。
……まぁ、ゼノヴィア先輩のあの発言はともかく、そこに至るまでの葛藤に関しては少しわからないでもない。
縋る対象、道標が無くなった時の不安は、私だって覚えがある。
勿論、そこで『女の悦びを知る為に子供を産み育てたい』という結論に至る感性は間違いなく相容れないけれど。
「悪いわね、私の下僕なのに」
私の前を行くのは、珍しく読手さんに素直に謝る部長。
下僕が悪魔としての方針を決めかねた挙句に他所に迷惑を掛けたが故の謝罪ということなのでしょうか。
これが身内の間で収まっていれば謝る必要もなかったんですが、如何せん、読手さんはどこまで行ってもオカ研やグレモリー眷属にとっては外部の人で、しかも恋人が居る。
悪魔的に略奪愛は全然問題ないと普段から何故か私の方をちら見しながら公言している部長だけど、愛も恋も無く、とりあえず子供を作りたい、という短絡的な思考は悪魔でなく乙女()としての部長的には駄目らしい。
これは部長的には略奪愛ではなく、無知ゆえの暴走に含まれるので、下僕の状況を把握しきれなかったが故の監督不行き届きから迷惑を掛けてしまった事に申し訳無さを感じているのだ。
……と、こんな情熱的な日差しの中でも一際陰影が薄くぼやけている副部長(ええと……そうそう、朱乃先輩)が密かに解説してくれた。
「んー、別にいいですよ。エクソシストから悪魔になったんだから、ああいう迷走もありでしょう」
で、読手さん的には、そういう暴走は許容できる範囲内らしい。
しかもとりあえずの娯楽として、種々様々な音楽をプレイヤーごと提供してくれる大サービス付きだ。
これまでもオカ研の部室に遊びに来るときに多めにお菓子を買って振る舞う程度の事はしていたけれど、個人に対するプレゼントでは私が知る限り一番高いものになるのではないだろうか。
いや、別に、それで何か不満があるのかと言われると、別に、そう、別に不満なんて無いのですが。
どうせ恋人の日影さんにはそれより凄いものをプレゼントしているんでしょうし。
「でも意外です。ゼノヴィアさん、あんなに音楽に夢中になれる人なんですね」
ふと思いついた疑問を口にしてみる。
教会で生きてきたというのなら、日常的に聞くことの出来る音楽と言えば聖歌を始めとした昔ながらの宗教音楽ばかりだと思うんですが。
現代音楽にそんなに早く馴染めるものなんでしょうか。
「…………まぁ、これまでこういう文化には触れていなかったでしょうからね。どんな文化でもきちんと向きあえば面白味はあるものですよ」
「何、何なのその沈黙、何かしたの?」
「大丈夫ですよ些細な事です。ゼノヴィアさんの今後の指標になればなー、くらいのあれですから……」
「目を見て喋りなさいとは言わないからせめて顔だけでもこっちを見ながら言いなさいそういうセリフは!」
「なんや、あんたのとこの王様は面倒なお人やなぁ」
「いいところもあるんですよ、ええ、もちろん、嘘じゃないです」
ちょっと解り難いし回りくどいし面倒なところもある方だけど、それでもその他大勢の悪魔と比べれば善良と言っていいと思う。
自然に反応できたけど、今日一日で日影さんともそれなりに話せるようになった。
勿論、私が自分から話を振れるタイプじゃないから相性が良いとは言えないけれど。
でも、こういう小さな交流を重ねていく事が友好関係を広げていく上で重要になってくるんじゃないでしょうか。
読手さんの恋人というだけあって、接触の機会も少なくはないし、できれば友好的でありたい。
……読手さん絡み以外での接触、結構非友好的な場面だったりしましたし……。
思い出すのは廃屋での遭遇戦、あれ、思い返すと腕が変な方向に曲がっていた気がするけど気のせいだったんだろうか。
そんな事を考えていると、視界の隅、学校の正門に、不審な人影が見えた。
濃い灰色、ダークグレーに近い銀髪の男だった。
同世代、と見えるけれど、その立ち姿には違和感がある。
学校で見る同世代とは明らかに体重のバランスが異なる、戦いに慣れているタイプの自然体。
こんな場所には似つかわしくない、という思いと、最近はああいうのと遭遇する機会が多いな、という思いが浮かび、その思考を遮るように視界を背中で遮られた。
読手さんがさり気なく横に動いたのだ。
庇ってくれている? でも、読手さんに警戒の色は見えない。
でもそれは何時もの事で、私には危険度の有無よりも先に、厄介事の匂いだけが感じられた。
「やぁ、いい学校だね」
「そうですか?」
「ああ。……赤龍帝や、君のような存在も居るんだ。実に面白い場所だよ」
……一難去って、また一難。
梅雨を越え、プールでの水遊びも心地よい夏の日。
授業参観というイベントを目前に控えた今日このごろもまた、穏やかではない時間への準備期間にしか過ぎないみたいです。
―――――――――――――――――――
初対面の人間に対して、爽やかな笑顔で『いい学校だね』と問われて、どう返すのが正答なのだろうか。
というか、どういう答えを期待しての言葉なのかがさっぱりわからないし、答えても恐らく速攻で本題に入ってしまい流される可能性が高いだけに考えるだけ無駄というのが答えなのだろう。
だがあえて言いたい。
この学校は割と危険な場所である。
何故なら、休日の学校でプール遊びをした帰りに、堕天使子飼いの神器使いが校門でおしゃれ立ちをして待ち構えている可能性があるからだ。
ついでに悪魔が支配していたりする。
しかも貴族で、最近は戦場として使用されたりする場面もしばしば見られる。
安全面で考えれば『いい学校だね』と言われたら『それはどうかな』と返すのが適切かもしれない。
だがそれを言っても仕方があるまい。
物事の善し悪しは安全さだけで決まる訳でもない。
そしてそれよりも一つ注意喚起しておかねばならない事もある。
「ホモはイカンですよホモは。非生産的な」
バトルジャンキーという輩はナンパの文句みたいなセリフを、強者とあれば男も女も関係なく口にするから困る。
そして、此方がこのようにボケても尚苦笑一つでスルーしてしまうのもまたジャンキーの厄介な所なのだ。
「なるほど、何も考えていないのか、考える必要もないと思っているのか……アザゼルの言うとおり、食えない男だ」
くつくつと笑いながらそんな事を言う男を、神器を展開した兵藤先輩と木場先輩が挟み込む。
アザゼルの、という辺りに反応したのだろう。少なくとも現状悪魔にとってアザゼルは味方に数えられる相手ではない。警戒も当然だ。
……しかし、何気なく此方を含めて三方向から男を取り囲む様な位置に立つのは止めて欲しい。
なし崩し的に此方を悪魔側にカウントしよう、などという知恵が働く二人ではないので悪意はないのだろうが。
まぁ、いざとなればあらゆる状況をガン無視して日影さんと帰るだけなので気にしないでおこう。
「そういう貴方もアザゼルさんに聞いた通りの面倒くさい男ですね。今まで見たドラゴン入った連中の中でも一番に面倒臭い。赤い方を見習ったらどうですか」
赤い方、赤龍帝である兵藤先輩は実際扱いが凄く楽だ。
とりあえず自分に好意的なおっぱい美人が近くに居れば余計な面倒臭い挙動や発言は一切無くなる。
黒い方は知らない。だってまともに話したことも無いし……。
しいて言うなら、彼を真っ先に殺して挑発すると残ったメンバーがかなり冷静さを失うので仲間内で慕われているのかもしれない。
あ、神器は地味だけど便利だと思います、地味に。
「生憎と性分でね、変えるつもりもないんだ。それに、今日は君の言う面倒な事はやらないよ。アザゼルの付添で来日した序、ただの退屈しのぎの散策さ」
「じゃあ気色悪いのでそのねっとりとした視線を止めて下さい。兵藤先輩と木場先輩だけで十分でしょう、そういう視線を向ける先は」
今現在、神器が禁手に至らない機能拡張状態で足踏みしている兵藤先輩はともかく、木場先輩ならこの男相手でもいい勝負ができる筈だ。
本人の技量は肉弾系の中忍並でしか無いが、何より彼の肉体には適合したアヴァロンが組み込まれている。
爆発的に火力を上げるスタイルの赤龍帝には時間経過で打ち負けるだろうが、相手を弱体化させていくスタイルの白龍皇相手なら普段のペースを保って戦えるだろう。
……まぁ、あくまでも半減が効かない、防御と回復が凄いというだけで聖剣ビームは連射できないので結局はジリ貧か千日手がいいところだろうが。
「仕方がないだろう。君は実に興味深い存在だ。コカビエルを圧倒するだけの力を持ち、関わった者に不思議な力を与え、しかし、こうして相対しても、どうしてもそうは見えない。……見事な擬態なのか、本当に君自身はどうってことの無いヤツなのか」
口の中で小さく舌打ち。
あの羽虫を殺した事が想定以上に厄介な状況を招いている。
どこか、そう、兵藤先輩辺りを使って、此方に注目している連中の興味を逸らす必要が出てくるかもしれない。
丁度ネームバリューだけはある神器らしいから丁度いい。
「あの、何者なんですか」
背後に居た塔城さんが、くい、と、服の裾を引っ張りながら問うてきた。
正直此方も詳しくは知らない、というか、寿司を奢らせた相手から聞いた程度の情報しか無いのだけど、勝手に言っていいのだろうか。
いくら相手が、とりあえず他人を見たら全身を舐め回すように視姦してどれくらい強いか測るバトルフェチの変質者であったとしても個人情報は勝手に広めていいものでもない。
とりあえず本人の意志を確認する意味も込めて、瞼を閉じたまま、顔の動きだけで視線を向ける素振りをする。
すると、視線を送るジェスチャの意図を読み取ったのか、あちらにも塔城さんの声が聞こえていたのか、改めて名を名乗った。
「すまない、名乗るのを忘れていた。──俺はヴァーリ。白龍皇、『
うん、知ってた。
だが、塔城さんを始めとした他の面々は当然知らなかったのか、此方と日影さん以外は例外なく驚愕と共に警戒レベルを引き上げたのがわかる。
特に顕著なのが兵藤先輩だ。
特におっぱいが出ている訳でもないし、現状仲間の誰かが危機に陥った訳でもないのに、人化が解けかけて半竜になりかけている。
警戒心、いや、生命の危機を感じての事だろうか。
それでも神器を変化させていないのは、恐らくは内部にある龍の魂が止めているからか。
戦えば、今の不完全な兵藤先輩では勝ち目がない事を理解しているのだろう。
「噂に聞くのと実際に見るのとでは大違いだ。……実力差が解る程度には力もあるか」
「何を」
「ああ、恥じなくてもいい。力量差がわかるのも、わかった上で誰かの為に立ち向かえるのも美徳だ。尊敬に値するよ」
兵藤先輩の声が、そして身体が震えているのがわかる。
それでも立ち向かえるのは、あの羽虫との戦いで鉄火場の空気を肌で感じた経験や、生来の気性からくる勇敢さもある。
正直なところを言えば、此方も兵藤先輩のああいう何かの為に勇敢になれるところは少しだけ気に入っている。
主人公気質とでもいうか、流石はこの
「それで、ライバルの様子は確認できたから、用事は終わりですか?」
無視して此方と日影さんだけ帰っても良かったのだけど、帰りにグレモリー先輩が塔城さんに水泳を教えたお礼にかき氷を奢ってくれる手筈になっているので少し迷う。
何しろ本格的な和スイーツの店で出る値段四桁に到達するリッチなかき氷だ。
こういう気になるけど自分で金を出して試すのはどうかなぁ、と思うものを食べる時は
一応、この間の羽根わさわさしてる堕天使からいきなり襲い掛かってくる狂犬ではないと聞かされているし、面倒な事にはならないと思いたいが。
「ああ、見たいものは見れた。赤龍帝も思っていたよりは『良い』とわかったし、そこの騎士も中々のものだ。……君に関しては、また改めて」
「お断りします。そして、お断りします」
「楽しみにしているよ」
「聞けよ」
こいつホント人の話聞かないな。
脅威度が高くないのがせめてもの救いか。
「白龍皇、堕天使と繋がりがあるのなら、私達に過度の接触は──」
「……二天龍に関わった連中は碌な生き方ができないと聞くが、君は、君たちは、どうなるんだろうな」
警戒しつつも特に射線を確保するでもなく声を掛けたグレモリー先輩の言葉を、捨て台詞の様な不吉なセリフでぶった斬り、そのまま踵を返して去っていく。
他の連中も武器を収め、兵藤先輩も徐々に人型に戻りつつあるが、場の空気は最悪だ。
どうせかき氷を食べるなら、もっとこう、和気あいあいとした雰囲気で食べたかったのだが。
「……」
此方の服の裾を掴んだまま、口の中で呪文を唱えて準備していた塔城さんの表情も暗い。
というか、ファイティングポーズも取らずに人の背後に回って小声で詠唱を始める辺り、塔城さんは本格的に種族値全捨てで後衛への道を歩み始めている気がする。
いやまぁ、相手の神器の特性を考えれば、他所から力を借りて放つ塔城さんの魔法は相性が良いのだけど、それでいいのか元妖怪。
「じゃ、改めてかき氷食いに行きましょうか」
「君は……ぶれないなぁ」
少しだけ緊張を解き、呆れるように言う木場先輩。
だが待って欲しい、この場で一番ぶれないのは、ヘッドフォンを使って目を瞑って大音量で音楽を堪能していた為に白龍皇の出現に気付かず未だヘッドバンキングしているゼノヴィア先輩ではないだろうか。
彼女には後々グレモリー先輩からお仕置きが与えられるかもしれないが……実際、彼女ぐらいのリアクションが正しい。
二天龍と関わると碌な人生が送れないなどと言うが、転生悪魔になんてなっている時点で碌な人生ではない。
そもそも、この世界自体がろくなものではないのだから、悲観するだけ無駄なのだ。
悪いことが起こるのも、碌な人生にならないのも見越して、少しでも良い人生にしようと努力する。
それがより良い人生を送る秘訣だ。
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そんなこんなで月日は過ぎて、一足早いプール開きから数日。
あれ以来、特に胃に来る衝撃的な事件が起こる事も無く、平穏な日々が続いている。
あえて何か起こりそうな要素があるとすれば、今日の授業参観でしょうか。
私は……見に来てくれるような身内が居ないからあれですが、なにせこの学校には上位悪魔で貴族の親を持つ方々が居るわけで。
というか、そもそも魔王様自体が妹である部長の授業参観を見に来られているわけで、それだけで十分な事件と言っても良い気がします。
ただ、それよりも不安を駆り立てる存在が、一人。
「~♪」
この朝の通学路を、鼻歌を奏でながら露骨な上機嫌で歩いている読手さん。
そりゃ、これまでだって機嫌が良さそうな日くらいはあったけれど、ここまで上機嫌なのは初めてなんじゃないでしょうか。
「──ああ、塔城さん! おはようございます! 良い朝ですね!」
「ア、 ハイ。おはようございます」
上機嫌ぶりが不気味さに変わりそうで変わらないギリギリのラインに不安を覚えて少し距離を置いていたら向こうから距離を詰められてしまった。
まぁよく考えたら普段から目を閉じて超感覚的なアレで生活している人相手に距離とっただけで隠れられるわけ無いですよね。
観念して、普段通りに並んで歩く。
歩幅はあちらが明らかに大きいけれど、こうして並んで歩く時は自然と速度を合わせてくれる。
……のだけど、今日はなんだか速度がおかしい。
早い訳でもないし、置いて行かれるわけでもないのに、妙に足取りが軽やかだ。
スキップになっていないのが一種の奇跡か何かなんじゃないかと思えてしまう。
「……なんだか、ご機嫌ですね。何かキメてます?」
「塔城さんは今日も辛辣だなぁ! でも、そういうとこもカワイイですよ☆」
「お、おう……」
両目を閉じたまま、片方の瞼を少しキツ目に閉じてウインクの様なジェスチャーすら見せて来た。
古典漫画の様な『バチコーン!』という効果音と共に星が舞いそうな雰囲気すら感じる。
カワイイとか、このテンションでなければ言われて素直に嬉しいと思えたのに、今は戸惑いしか感じられない。
「っと、確かにちょっとテンション上げすぎてましたね。セルフコントロールセルフコントロール」
そう言いながら、徐々に何時もどおりのテンションに戻していく読手さん。
発する空気や足取りが目に見えて何時もどおりの落ち着いたものに変わっていく。
しかし、完全には戻りきらず、何処か浮ついた雰囲気が感じられる。
「……本当に、何かいいことでもあったんですか?」
「えー? ん、んー……。……あれ、これ言っていいんですかね。ちょっと迷いますよ?」
聞きたい? ねぇ聞きたい? みたいな雰囲気を一瞬だけ漂わせた後、ふと真顔に戻り悩み始める読手さん。
普段はここまで浮き沈み激しくないだけに、このジェットコースターみたいなテンションの変化は見ていて不安だ。
「いいから言ってみて下さい。言っちゃなんですけど今日明らかにおかしいです」
「いや、ね? 今日、あれあるじゃないですか、授業参観」
「ありますね」
「母さんが来るんですよ」
「マザコンですか」
「何言ってるんですか。此方はマザコンでファザコンですよ」
自慢にならないんですがそれは。
……と、言いたい所ですが、マザコンファザコンになれる位に家族の仲がいい、少なくとも読手さんが両親を慕っている、というのはいいことだと思う。
気兼ねなく仲良く出来る、一緒に居られる家族が居る、というのは、それだけで価値があります。
「ちょっと、羨ましいです」
「……すみません」
「いいですよ。こっちが聞いたんですから」
少なくとも、読手さんはそこら辺に気付いて一度言うのを躊躇った。
だから彼は別に無神経な訳でもないし、私だってそこら辺の話をする度に落ち込むほど軟な積りはない。
今の私にとって、たぶん、眷属仲間が家族のようなもの。
血のつながった家族は何にも代えがたいけれど、私の持つ繋がりはそれだけじゃない。
友達だって居る。
こうして私の事情を慮って気を使おうとしてくれる優しみを持つ友達にも恵まれている
だから、私に関する話は別にいい。
「でも、そうですよね。お母さんが居るんですよね」
想像もしていなかった。
いや、いくら人間離れした強さを持っているとしても人間である訳だし、両親が居るのは普通の事なのだけど。
……あ、いけない、考え始めたら気になってきました。
「どんな人なんですか?」
「優しくも厳しい人。真面目そうに見えるけど、結構茶目っ気もあったりします。あとは……」
何かを言おうとして、腕を組んで天を仰ぎ、ううん、と唸る。
「あ、言い難い事なら別に」
「いえ、別に言い難くは……無い、んですかね? 親の事を誰かに話した事ってあんま無いので、ちょっと判断しかねるというか」
「……私は参考になるような意見も言えませんが、わからないなら後回し、でいいんじゃないですか? 言い難い部分も含めて、良いお母さんなんでしょう?」
今教えてもらっているのだって結局はただの好奇心なんだから、そこまで思い悩まれても困る。
「そう、ですね。ちょっと色々あるけど、素敵な親です」
笑顔でそう言い切った。
凄く自然な柔らかい笑顔だ。
きっと、本心から両親のことを慕っているんだろうと思える。
……しかし、ここまで絶賛される親となると、実際はどうなのだろう、と考えてしまうのは自然な事だろう。
読手さんの不思議な力の事を考えれば、子供が不思議な力を持っている程度では動じない程度に器の大きさはあるんじゃないかな、と想像できる。
結構な人格者で、読手さんが夜中に出歩くのを赦す寛容さもある。
柔軟な人だ。若いころ色々経験したのかもしれない。
が、それ以外の部分が謎だ。
何しろ読手さんの情報なものだから、外見的な特徴なんて一つも出てこない。
実際人格面も読手さんの申告だから身内贔屓がどれくらいかわかったものじゃない。
しかし、それで変なモヤモヤが残る心配は無い。
何しろ、今日は授業参観日。
私には誰が来るという訳でもないけれど、目下最も気になる相手である読手さんのお母さんの姿は確認できるのだ。
厳しくも優しい、とか、茶目っ気があるとか、そういう部分を見れるとは思えないけれど。
姿を表してくれるというのなら、一目見てみたいと思うのは人情というもの。
「……楽しみですね」
「ええ、楽しみです」
―――――――――――――――――――
しかし、実際授業参観が始まってみると、これが中々、見られているだけあって何時もの授業には無い緊張感を感じる。
これで普段の教室での授業ともなれば、背後にはクラスメートの父兄の気配を感じつつ、しかし視線は前を向いて授業を受けなければならない。
まるで眉間の前に指を近づけられている様な気持ち悪さに似た感覚の中で行う授業は実にやりにくそうだと思う。
だから、今日の授業参観が美術で本当に良かった。
少なくとも視線と気配の主である父兄の皆さんの姿を脇目に捉える事ができる。
普通の数学とか英語とかの授業と違って張り切りようのない内容だから、読手さんの様に今日という日を楽しみにしていた人には物足りないかもしれないけど、そこは我慢して欲しい。
「はい、では、全員二人組になりましたね?」
唐突に行われるトラウマチェック。
しかしこのクラスは全員出席していれば人数が偶数なので一人余る事もない。
普段の教室では感じられない、絵の具や粘土、木材の匂いなどが漂う教室の中で、クラスのほぼ全員がスムーズに二人組を作る事に成功している。
……ほぼ、というからには、苦戦した末に最後の最後で組み合わされる余りのペアも存在する訳で。
屈辱的な事に、クラスでペアを作ってくれそうな相手に尽く先を越されてしまい、私は見事に最後の二人に残ってしまった。
しかも最後に残ったもう一人の人選からして、クラスで一致団結してハブられていた可能性もある。
「今日という日ほど塔城さんと友達で良かったと思う日はありませんでした」
「……大げさに言い過ぎですよ」
同じく、クラスメートの陰謀によって残されたと思しき読手さんが私のペア。
……いやとは言いませんが、ここまで露骨なのは、ちょっと。
でも、ペアを求めて不安そうにしていた読手さんの姿を見れたのは少しラッキーかもしれない。
珍しくオロオロとしている姿は少し可愛かった。
これが最近巷の一部で密かなブームになっているギャップ萌えというものかもしれない。
「今日は皆さん、これまでこの授業で地味ぃぃに学んできた技術を駆使して、ペア組んだ相手を題材に何か一つ作品を作って下さい。まぁ授業参観なんでね、ご家族の方にこれまでの集大成を見てもらおう、って事でぇ。材料は好きに使っていいからね」
と、教壇に山と積まれていた粘土や絵の道具一式を取りに来るように言う先生の言葉に従い、各ペア思い思いの素材を持っていく。
じゃんけんでどちらが取りに行くか決め、スムーズに負ける。
取りに行くのは良いけど、何を取ってこよう。
「何やります?」
「此方は、そうですね、絵でも描きますか。塔城さんは?」
「ちょっと、粘土細工でやってみようかと」
授業参観とは関わりなしに、少し粘土細工には興味があったりする。
読手さんから貰った魔術の知識の中に、鉱物を使った護符の作り方があったりするのだ。
ああいうものを作る技能がある以上、多少こういう立体系の美術センスを磨いておきたいと思っていた。
……というか、実は密かに護符を作る練習ついでに粘土をこねたりしていたので、少しだけ自信がある。
持ってきた針金と粘土、読手さんの画材をそれぞれ置いて、少しだけ気合を入れる。
「針金も使うとか、結構本格派ですね」
「集大成、って言われちゃいましたし。―やるからには本気です」
本気とはいえ、さぁ、いざ作るとして、どういう形で作ろうか。
ポージングは立像を作る上でかなり重要になってくるし、その格好だって疎かにはできない。
学生服か、ジャージか、前に少しだけ見た私服か。
刀持たせようかな。でも、学校では当然刀なんて使ってないし。
躍動感のあるポーズ、突撃前の、でも刀が無いと締まらないし。
「刀持たせちゃっていいですか」
「いいと思いますよ。どうせ美術で自由課題って時点でネタ枠は増えるでしょうし、刀の一本や二本ありでしょう」
「普段何本使ってます?」
「そこはほら、アレンジャーの腕でどうにか」
しょうがないにゃあ……ちょっと本気出しちゃうしか無いにゃあ……。
……こう、いっそ回天剣舞・六連的なあれにしちゃう感じで。
……あ、でもコートは似合わないし、ニンジャ装束にしましょう。
あれ、でもニンジャ装束って着て無い?
「ニンジャ装束って着ます?」
ざっ、ざっ、と、スケッチブックに荒々しく筆を走らせる読手さんに小声で訪ねてみる。
今まで見たことがなくても本人が着たことがあるならセーフの筈。
「忍者は着ないらしいですけど、此方はあくまでもニンジャですからね」
やっぱりニンジャって凄い。
じゃあ遠慮無く着せよう。
メンポは……つけるとペア相手だってわからなくなりますね。
後付にしましょうか。
……迫力が足りない。
吹き出しを別パーツで『WASSHOI!』と。
「でも実はあんまり着たこと無いんですよ。ほら、素性隠すなら変装で別人になる方が早いし確実なので」
「……言ってくださいよ先に。これじゃ只のニンジャ像じゃないですか」
「じゃあ、その内着ますからそれで」
ならよし。
知ってる人が見れば読手さんと解る良い出来です。
まぁ、何故か逆手にポン刀二本構えてWASSHOI!とか言ってますけど、別に問題はないでしょう。
回りを見ると、チラホラと、パワードスーツを作って中にペアの人の像を載せてる人とか、狼人間を作ってペアの人の変身後の姿と言い張る人とかも居るし、十分許容範囲内。
……いい、いいですね、傑作ですよこれ。
護符要素が完全に消えたけど、別にいいんです。そんなのは、重要なことじゃない。
「やるじゃないですか。塔城さんがネタ枠作るのは意外でしたけど」
「日々進歩していますから」
「……うん、塔城さんが納得してるなら、別にいいですよ」
奥歯に物が挟まった様な物言い。
むう、読手さんは私作の傑作になにやら不満があるようで。
それでいて『仕方ないなぁ』的な雰囲気も出してる辺り、こう、上から目線な感じがして少し嫌だ。
「そう言う読手さんはどうなんですか。描けてるんですか似顔絵」
普段から目を瞑って生活しているのが読手さんだ。
それどころか今も瞼を閉じたまスケッチブックに筆を走らせている。
そして数ヶ月の付き合いの中でも未だ視覚がどうなっているのかという点には触れていないから、読手さんが似顔絵に出来るほどに私の外見を正確に認識できているかがわからない。
……今、私はどんな奇妙な状態で描写されているのだろうか。
考えるだに不安になってきた。
抽象画的な姿で見えていたりしたなら、出来上がるのも当然そういうものになる。
……手塚先生の作品でそういうのがありましたね。
「あー……、いや、まぁ、ええ。大丈夫ですよ?」
目線(というか、顔の向き)を私から逸しながら、描きかけの絵を庇う様に両手で縁を持つ。
怪しい。
ここまで来ると一度何が描かれているか確かめてみたくなる。
が、実力行使でどうにかできる相手でもないし、そもそも今は授業中だから暴れる訳にもいかない。
「…………」
勿論、嘘じゃない。
授業中に、しかも相手の製作中の作品が気になるから実力行使なんて蛮人のやること。
私にはどうすることもできない。
「……………………」
どうすることもできない(迫真)
「あの」
「なんですか」
「…………描きかけですけど、見ます?」
「わぁ、いいんですか、なんだかわるいですね」
誠意が通じました(断言)。
勿論、私は何も出来なかったので絵を描いている読手さんをじっと見つめていただけなので、特に疚しかったりはしない。
これはあくまでも読手さんが善意とか誠意で絵を見せようとしてくれただけなのです。
読手さんはいい人ですね。いいことだと思います。
「言っときますけど描きかけですから、笑わないでくださいよ」
「だいじょうぶ、内容によります」
何処が大丈夫なんですか! という小さな叫びを聞きながら、差し出されたスケッチブックを受け取る。
……実際、好奇心と不安で半々で笑う余裕なんて無いんですけど。
せめて人型、百歩譲って猫型なら……。
そう願いつつ、受け取ったスケッチブックの絵を────
「な……!」
―――――――――――――――――――
渡した絵を見て、塔城さんが短く、しかし授業中に出してはいけない音量の声を発し、硬直する。
声はそれだけで途切れるが、ぱくぱくと口を閉じたり空けたりする音が聞こえる辺り、予想通りのリアクションが行われているらしい。
……こうなるんじゃないかなって思ってたから、見せたくなかったんだよなぁ。
絵を描く事自体には何も問題はないのだが、目の前にモデルを置いてのスケッチ、というのは難しい。
目を開いた時に挿絵になっている可能性は低い、というか、何もない場面ならほぼありえないし、仮に挿絵になっていたとしても常人がスケッチを完了するまでの時間それが保たれる事は更にありえない。
となると、此方は記述にある外見的特徴の部分を参考に想像で描くか、さもなければ過去に見たことの在る挿絵を思い出しながら描くしか無い。
が、基本的に挿絵というのは見せ場で現れるものであり、日常、椅子に座って特に何の表情を見せるでもなく絵のモデルになっているような状態とはかけ離れている。
更に言えば、此方が見た覚えの在る塔城さんの挿絵、となると……。
「な、なん、よみ、よみてさん、これ」
チラ、と瞼を開けると、そこにはやはり文字列から挿絵に変わった塔城さん。
漫画的な絵であるせいか、顔を真赤に染め、口を波線の様にしてあうあうと言葉にまで纏まらない声を吐き出している。
事ここに至って声を抑える、という機微は塔城さんの頭から抜け出してしまっている為、塔城さんの動揺がありありと滲み出している声は美術室中に響く。
今の塔城さんは(ついでに此方も)クラス中+その父兄の視線を釘付けにしていると言っても良い。
瞼を閉じ、溜息。
このリアクションは見たかったけど、もう少し周囲の注目を浴びない、作品提出の段階の授業終盤でやりたかったのに……。
「……おお、読手。お前前から思ってたが絵ぇ上手いじゃないか」
動揺する塔城さんの手の中から、美術の先生がひょいとスケッチブックを取り上げてそんな事を言う。
「美術部には入らんのか?」
「コンスタントにそういう絵が描けるわけでは無いですから」
実体化対策で目を開けたまま描けないから、自分の描いた絵も普段は見れないし。
それに、観賞用でない絵なら、毎朝の運動の時に何枚も描いているのだ。
わざわざ放課後の自由な時間を消費してまで描こうとは思わない。
「だろうな。こういう絵は、描く相手に思い入れが無きゃ描けん」
なんだか、声色が嫌らしい。
第六感でしか感じられないが間違いなく気色の悪いニヤけ顔であることだろう。
そういう事でもないんですが、それで納得してくれるならいいや。
「これ、いいか?」
スケブを持ったまま教壇の方を親指で指差す先生。
嫌らしい表情と邪推が好きそうな嫌らしい雰囲気の先生だけど、こういう時に生徒に一言断りを入れる辺りは割と好感が持てる。
少しだけ、他の人に見せるのは惜しいかな、と思いつつ、目を閉じて大雑把に描いた絵にそこまで拘るのもおかしいか、と思い、頷く。
「あ、ちょ」
塔城さんが先生の持って行ったスケブに慌てて手を伸ばしかけ、言葉と動きを途切れさせた。
別に、美術の授業中にできの良い生徒の作品を例として他の生徒に見せるのはおかしなことではないし、そも持って行ったのは塔城さんの作品ではなく此方の作品だ。
冷静に考えれば描かれている側の意見も聞くべきではないかとも思うけれど、そこまで思い至らないなら此方が何かフォローを入れる必要もないだろう。
……というか、此方だって人間だ。手を抜いているとはいえ、自作を褒められて嬉しくない訳がない。
「はい、一旦手ぇ止めて注目ー」
先生の声と共に小声の犇めき合っていた美術室が静かになり、先生の持つスケブの中の此方の描いた絵が開示されると、『おぉ……』という感嘆の声が低く教室に響く。
あくまでもこれまで学んだ技術を駆使しての作品作りである事から、先生の言及は描かれた対象や状況でなく、描くのに使用された技法という部分に向けられている。
が、他のクラスメートたちの関心は間違いなく描かれている塔城さんの表情とポーズに向いているだろう。
「読手さん、読手さん……!」
向かい合う此方に助けを求めているのか抗議しているのか、ばしばしとうるさくなり過ぎないように間にある机を叩く塔城さん。
「塔城さん、授業中ですよ」
短く告げると、塔城さんは声にならない音にも出せない悲鳴を上げ、イカを食べたネコの如くその場にぐったりと項垂れてしまった。
六感を使うまでもなく、塔城さんの頭が熱を持ち湯気を出しているのが解る。
……そこまで恥ずかしいものかな。
別に、本心確かめるために模写した塔城さんのあられもない姿という訳でもない、普通の絵だ。
それこそ、日常の中の一枚を切り出したかのような。
頭を撫でていたら撫でていた相手がいきなり頭を上げたから驚いて胸元に手を引っ込めて、驚きと慌ての入り混じった少し紅潮した顔の塔城さんだ。
珍しいショットだけど、これでここまで恥ずかしがる、というのは、ううむ。
女心というものはわからないものだ。
―――――――――――――――――――
終わった、私終わりました。
いや何が終わったかと言われると返答に困るし、本当に終わったのかと聞かれれば何も始まってすらいないんですが。
でも気分的には終わった。
あの絵自体はともかく、私と読手さんの関係を邪推している人には格好の餌になりそうな絵。
あんなものが晒し物になるだなんて……。
しかも、これが、いや、悪い訳ではないんですが。
……凄く、美人に描かれている気がする。
写真を絵に落とし込んだようなものではない、もっと、こう、描き手の主観が入り混じった美化要素というか。
何処がどう修正されているか、と聞かれると上手く説明できないんですが、オーラがあるというか。
あの絵を見た後に実物を見たら『ん?』と首を捻られそうなレベルで、雰囲気がプラスされているような。
……つまり、そう、見えてる、って事で、いいんでしょうか。
……かわいい、とか、言ってましたよね、そういえば。
「……っ」
ぶんぶんと頭を振り、おかしな考えを振り払う。
別に、いいじゃないか。
恋人が居るからって他の女性が美人に見えない、なんてことはないんだし、決しておかしなことじゃない。
……つまり、日影さんはこの際置いておくとして、他に比べれば美人に見えるって事で……。
「──!──!」
壊れない程度に机をバンバンと叩き気を鎮める。
だめだ、なぜだか思考が堂々巡りに陥っている。
落ち着かなければ、せめて午後の授業までに……。
「わっ」
「こあぁっ!」
背後から、というか、耳元でいきなり声が聞こえ、自分でもよくわからない叫び声が出た。
振り返る、が、誰もいない。
もしやと思い前を見ると、いつの間にか読手さんが前の席に座っていた。
「……その叫びは、悪魔なだけに?」
「違います小悪魔じゃないです……」
意地悪そうに笑う読手さんから顔を背けながら小さく否定する。
私の懊悩も知らずに忍術まで使って誂ってくるその無神経さが少し頭に来ているというのもあるけれど、今は顔を真正面から見るのに少し心の準備が要る。
別に、読手さんの事をどうこう思っている訳ではないけれど、あそこまで美人に見られている、と思うと、乙女心的なアレが複雑に反応してしまうのだ。
「ところで塔城さん、ご飯まだですよね。一緒に学食行きません?」
そういった葛藤を知ってか知らずか、何時もの調子であまりしない提案をしてきた。
無神経な、と思いつつ、こっちが勝手に反応しているだけだから仕方ないか、と諦め、考える。
確かに、昼休みに入ってから授業参観の事で悩んでいたからまだ食事を取っていない。
ご飯も購買で買って食べる予定だったから、その提案を断る理由も特にないのだけれど。
「珍しいですね、学食なんて」
普段は弁当持込みだったり購買で買って済ませたりなのに。
「いやぁ、授業参観で浮かれてて、弁当持ってくるの忘れちゃって……」
恥ずかしそうに笑う読手さん。
それはちょっと浮かれすぎじゃないですかね、と思いつつ、そう思う程に家族が好きなんだろうと思えば微笑ましくもある。
「いいですよ。せっかくある学食ですし、偶には使いましょうか」
―――――――――――――――――――
学食に向かう廊下は、普段とは少し違う賑わいがあるように思えた。
授業参観自体は終わったけれど、まだ学校に残っている父兄の方々が居るから、それに釣られて、ということでしょうか。
誰の親がどうとかこうとか、そういう話に紛れてなにやら魔女っ子がどうこう、という噂話がちらほら聞こえるけれど、こちとら魔法には一家言ある。
……でも何故でしょうか、魔法少女と呼ばれるよりは天才美少女魔術師の方が響きが良いと、頭の奥で何かに囁かれているような……。
気のせいだろうと思うのでささやきを無視し、お昼ごはんに想いをはせます。
「学食ってどんなのがありましたっけ」
「此方もあんまり使わないからそれほど把握してないですけど、普通の定食屋程度のメニューはあったと思いますよ」
「デザートは?」
「学食ですからね、あるでしょう。日替わりデザートとかあると面白いんですけどね」
「そこまでいかなくても、季節毎にデザートが入れ替わるとか……」
余り使うことのない学食に関してあれこれ話しながら歩く。
見慣れた学校の廊下、見慣れた制服の学生の群れ、それに紛れてちらほらと見える、スーツやお洒落着に身を包んだ父兄の方々。
母親率が高いのは、父親の方は仕事で来れないという場合が多いからか。
そういえば、ふと思いつく。
「お母さん、来てました?」
「来てました来てました。……なんか、授業の様子見て溜息吐かれましたけど……」
溜息を吐いていた女性は……駄目だ、授業中はあれこれありすぎて父兄の方をよく見ていなかった。
「結局、どんな人なのか見れませんでした」
「あー、ちょっと父兄の中でも後ろに居ましたから」
「……しかもモデル見ながら作品作る授業でしたしね」
少し残念だ。
「授業参観は此方が貴方達を見るものですから、そちらから見る必要はありませんよ?」
「そうなんですけど……、って」
身構える。
凄く自然に会話に割り込んできたから普通に反応してしまったけれど、気配もなく一人の女性が読手さんを挟んで反対側に並んで歩いている。
……美人だ。
ぱっと見では日本人のように見えるけれど、身にまとう雰囲気は何処かエキゾチックで、よくよく見ると顔立ちは少し白人寄りにも見える。
日本語上手いけど何処の人だろう。
同い年くらいに見えるけど、駒王の制服は着てないから、少なくともこの学校の生徒では無い筈だ。
ネクタイに白いワイシャツ、学生服のようで、何処か神職を思わせる金糸の細工が入った緑のスカートスーツに緑色の帽子。
薄い紫色の髪を後ろで編んで纏めていて、絵に描いたような『できる女』といった風だ。
よくよく交友関係を見なおしてみても、こういうクールビューティーな人は知り合いに居ないので新鮮に映る。
「あ、母さん」
「……………………………………は?」
かあさん、って、母さん。
母さん?!
「どうしたの、なんでまだ学校に?」
「お弁当を忘れていったでしょう。そういうそそっかしいところは誰に似たのか……」
「わ、やった。ありがとう母さん! ……あ、でもどうしよ、学食……」
「心配いりません。こうなることは予測済みなので、そこのお嬢さんの分も用意しています」
「…………え、あ、私ですか?」
思考を停止して目の前の光景をただただ眺めていたら矛先が此方に向いてきました。
どう見ても同年代にしか見えない、でも言われてみれば落ち着いた雰囲気がそこはかとなく大人びている、読手さんのお母さんであるらしい人。
その人が今、お弁当の包みを手に、こちらにうっすらと笑みを向けている。
「書主から話は聞いています。……一緒にご飯でも食べながら、お話を聞かせてもらえませんか。普段、うちの息子がどんな迷惑をかけているのかとか、ね」
母性を感じる優しげな笑み。
だというのに感じる妙に強い強制力に、私は笑みという物が本来どんな意味を持つ表情であるかを、ぼんやりと思い出すのであった。
話進まねぇなぁ……
あ、たぶん次の話では時間進んでるので主人公母との語らいとかは無しです
★主人公の母親
エジプト系の人らしいが、顔立ちは(絵柄の問題で)ほぼ日本人
現在は元いた研究所の研究を自宅から内職のような形で手伝いつつ家事をする兼業主婦のような生活をしている
路地裏生活時代はエーテライトを悪用して小金を稼いで出来合いの食事で済ませていたが、流石に十数年に渡り主婦をしている為に人並みには食事も作れる
因みに授業参観に出て来た時の服装はアクトカデンツァEDでのアトラス院の緑の制服からケープを外したもの、詳しい構造はわからないから映像から推察できた部分のみで描写している
年齢相応の落ち着いた服装を心がけているが、若かりし頃に掛かった病の後遺症で老化が極端に遅く、ミニスカニーソも余裕で着こなせる
★主人公の絵
目を開けて全身像を絵にすると実体化するが、目を閉じた状態で描いても、挿絵を上書きしまくった部屋の内装程度の存在感がある
ラノベの挿絵を描くのと同じ要領なので、主人公はこの世界においては恐ろしく写実的な癖にオーラが強い絵を描けてしまう
つまり、何気なく描いた小猫さんがびっくりしている絵だが、物凄い思い入れで描いた渾身の一作の様に周りには見えているらしい
まわりから見たらこの主人公どんだけ小猫好きなんだよ、みたいにうつるかも
★魔王少女
居たらしい
でも主人公たち学年違うから……
★白龍皇
バトルマニアの発言はホモ臭いらしい
が、女のケツが好きらしいのでその心配は無いだろう
本格的な出番はも少し先
★ゼノさん
音楽に夢中らしい
当然音楽とかプレイヤーに細工を施した結果である
思い出したように当て馬になる可能性もある