文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

27 / 65
後書きに対するあれこれ系の注意はもうトップに書きました
ので、次回からは後書きに関する警告は乗せませんので、ご注意を
それでは第四巻、停止教室のヴァンパイア、開演です


停止教室のヴァンパイア
二十六話 世は緩やかに動き出し


~二十五,五話のあらすじ~

 

「それじゃあゼノヴィアさん、ちょっと購買寄ってからお話を聞きましょう」

 

「む、なんだ? 別にそこまで長話には」

 

「……仲間に遠慮は駄目、ジャムパン奢ってあげますからいきましょう。目指すは中庭です」

 

連れ立って教室を出て行く三人。

その姿が廊下の向こう、階段を降りていくのを確認して、教室内はざわざわと本来あるべき喧騒を取り戻した。

反射的に机の影にしゃがみ込み息を殺して気配を絶っていた数名の暇人が、『ぷは』と二酸化炭素濃度の上がった空気を吐き出しながら立ち上がる。

 

「……一つ、言っていいかな」

 

腕を組み瞼を閉じ、再び開いて女子生徒が重々しく口を開く

 

「いや待て俺が先に言わせて貰おう」

 

それを掌を突き出し男子生徒が静止する。

そんな二人に視線をやらず、三人の消えていった入り口のドアを見ている一人がやおら椅子に座り、机に肘を突き、持っていた缶ジュースを口元にやり、呟く。

 

「人が恋に落ちる瞬間を、はじめてみてしまった。まいったな」

 

言いつつ、その頬は僅かに紅く染まっている。

そんな男に更にすかさずツッコミを入れる一人。

 

「お前が照れてどーする」

 

「あーくそお前ら! それ誰が最初に言うか決める流れだったろ抜け駆けだぞ抜け駆け! しかもお前小道具まで用意しやがって!」

 

「でもさでもさ! あれでしょ見たよね! 凄い攻めてたよね小猫ちゃん!」

 

「これまでにない流れだった。直接的、っていうの? アプローチの方向性が違った感じ」

 

「まぁカウンターの強烈なフックをジョーに食らって逆にぐらって来てたけどな」

 

「ばっかおめ、あの読手があの場でああいうカウンターしたのだって初めてだろ」

 

「……わりと好反応だよね、あれ。彼女と上手く行ってないのかな」

 

「昼休みに明らかに手作りっぽいお弁当をおかず交換しながら一緒に食べるカップルが上手く行ってないならこの世にカップルなんて居ないよ」

 

「ブティックで熱心に彼女の服選んでくれる彼氏と、それ更衣室で着てみて恥ずかしそうに見せてくれる彼女。これで上手く行ってないなら俺はなんだ……?」

 

「え、じゃあそういうの一切なしであの反応とあの行動とあの態度なの?」

 

「鈍感系……じゃないよね。でも二股掛けるタイプでも無いし」

 

教室に居残っていた暇人たちが集まりわちゃわちゃと好き勝手推論を交わし合う。

今、学校でまことしやかに流れている『塔城小猫が略奪愛に走っている』という噂の発信源。

それは言うまでもなくクラスメートの彼等彼女等に他ならない。

 

「だって、私、塔城さんに別れの挨拶したし、返事も貰ったよ。周りに人が居る事はわかってたって、絶対」

 

「……これまでにない直接的な攻めに加えて、衆人環視を恐れない度胸、いや、それすら計算済みだとしたら?」

 

「どういうことだ、説明しろ苗木!」

 

「……仮に、仮にだよ。『周りの目が在るからこそやってみせた』のなら……」

 

「言い触らされる事を前提としている……。つまり、遠隔地からの、彼女さんへの宣戦布告……?!」

 

ヒートアップする議論、飛躍する理論、斜め上を行く結論。

部活に行くでもなく、帰宅する訳でもない、時間を持て余した思春期の少年少女の群れ。

そんな彼等にとって、マスコットである塔城小猫の恋バナ、しかも、彼女一筋な相手に対する略奪愛などという話題は、絶好のゴシップの的、良い餌にしかならない。

ちょっかいは出さず、成り行きに任せるという基本方針故に、小猫も書主も気付けない。

しかし、その手の話が大好きな思春期の学生、噂話が学園中に広がるのは、そう時間がかかる話ではない

こうして、風化し始めていた塔城小猫略奪愛の行方の噂は、新たな燃料を投下され、再び静かに熱く一部学生の世間話を盛り上げるのであった。

 

―――――――――――――――――――

 

最近、妙に視線を感じる。

害がない視線だからあまり気にはしていないのだけれど、こうまで視線を感じるのは変装術で日影さんの昔の友人になりすまして忍務の為に街を歩いている時以外では中々感じる事が無かったので新鮮な感覚だ。

いや、まぁ、クラスメイトとかからの視線は解るのだ。

塔城さんの態度がこの間の羽虫駆除から妙におかしくなっているから、それを見て何やら勘ぐっているのだろう。

 

だがそれは別にいい。

塔城さんの態度がおかしくなったのは吊橋効果とかその辺のせいだと、自宅自室で模写した本人に香術でマタタビ嗅がせて縄術で拘束して日影さんと二人がかりであちこち撫でくりまわして心の扉開いて貰って聞き出している。

わりとR元服な状態になるまでやっても『吊橋ぃ吊橋にゃんだからぁ』とか言っていたし、ほぼ間違いなく好感、好意でなく吊り橋効果による錯覚だろうから、放っておいても塔城さんの態度は元に戻る。

そうなれば、話題には事欠かないこの学園の事だから、一ヶ月もしない内に噂は沈静化するだろう。

……授業参観日が近いから、可能ならそれまでに噂が沈静化してくれると嬉しいのだが、それは高望みをし過ぎだろう。

 

問題がある視線は二種。

一つは、悪魔系の、親しくない連中からの視線だ。

なんというか、こう、ゴジラを見詰める一般人の目というか、なんというか、明らかに後を引きそうな予感がする。

彼等にとって脅威に成り得る、というのは確かだけど、ここまで警戒される謂れはない。

どういう相手を選んで害するかは決めているし、事実として学園に居る悪魔に害を及ぼしたことは一度たりともない。

 

というか、グレ森先輩まで此方を警戒するのは納得行かない。

彼女の眷属である木場先輩が本懐を成し遂げる事ができたのはかなりの割合で此方のおかげなんだから、感謝されてもいいのではないか。

やっぱり常日頃から戦争を警戒している連中はいけない。

疑っている間は敵を見つけられるが、信じてみなければ仲間は見つけられないという名言を知らないらしい。

勿論此方は彼等の味方でもないし仲間になる理由も動機も無いが、都合よく此方が日常生活を不便なく送れる程度には、適度に信じて、それでいて距離感を間違わないようなジャストな信用とか油断を持って貰いたいものだ。

 

まぁ、此方はある程度放置でいい。

同じ学内に居る訳だから、本格的に何か文句があるならあちらの方から呼びつけてくるだろうし、此方から何かをする程ではない。

人間に限らず、知性を持つ生物はある程度自分の精神の都合に合わせて忘れていくものだ。

あいつ下手に刺激したらヤバイんじゃね? という意見が薄れた頃にでも声を掛けてくるだろう。

 

大きな問題があるのは、もう一つ。

あれ以来、帰宅時に感じるようになった気配と、その気配から感じる探るような感覚だ。

正確には視線ではないが、帰宅ルート付近に度々現れる不快な気配に此方のストレスは増し増し。

最近では早朝に山まで出かけての運動も中々出来ず、自宅地下のトレーニングルームに結界を張って、出す相手の数も処理時間を考えて控えめにしなければならない(できれば運動の結果生まれた死体は母さんに見せたくない)ので、どうにも身体が鈍りそうでいけない。

 

「……ちっ」

 

舌打ち。

考え事をしている最中であろうとも、あの不快な気配はどうにも解りやすく気になってしまう。

あくまでも気配が一つだけで、全ての帰宅ルートが封じられる訳ではないし、家に押しかけてくる訳でもないから、気にしなければする話ではあるのだが。

ああ、嫌だ嫌だ。

この気配、しかも、濃い気配を出してる奴には期待を裏切られる予感しかしない。

薄めたカルピスみたいな下級の連中の方がまだ此方の欲求を満たせる用意をしていてくれた。

正直、この気配を出す連中の偉くて強いやつには関わりたくもない。

また手間暇掛けた挙句に肩透かしを食らう事を考えると不愉快でならない。

 

「さて、どうするか」

 

分岐路で立ち止まり、考える。

無視を続けるのは、恐らく得策ではない。

今は帰り道で待ち伏せる程度で済んでいるが、このまま回避し続けたなら、家や学校に押しかけてくる可能性だってある。

なるだけ家に面倒事は持ち帰りたくないのだ。

 

「……嫌だなぁ」

 

首をがっくりと項垂れさせながら歩き出す。

安全策を考えれば、早々に待ち伏せてる不審な気配に会ってどうにかするのがベストだ。

最初から押しかけたり、帰宅ルートに大量に人員を配置したりしない以上、相手は現状それほど強引な手を使おうと思わない程度には理性的だと推測できる。

一番早々に害になりそうで、それでいてこの相手が此方からの干渉でいち早く対処できる唯一の相手、というのも、皮肉な話である。

 

……人の気配が消えた。

帰宅時、まだ夕方というには早いこの時間帯は、この辺はまばらながらもそれなりに人が通りかかる筈だというのに、まるで映画の書割の中に紛れ込んでしまったかのように人の気配が一つもない。

露骨過ぎて溜息が出る。

ちょうど近くに在った手摺に凭れ掛かり、もう一度溜息。

 

「どうした少年、冴えない顔して。女に振られでもしたか?」

 

待ってましたとばかりに声が掛けられる。

声は手摺の斜め下──橋の下の辺りで、不自然な程に自然体で釣り竿を垂らしている不愉快な気配。

ハグロトンボ男と同じ、堕天使の男だ。

 

「まさか。相性バッチリですから、そんな心配は欠片も必要ない」

 

「そりゃ羨ましい。じゃあ、なんでそんな湿気た面してんだ?」

 

「どうにも、ストーカーに遭ってましてね。ここんとこ毎日毎日、帰り道に待ち伏せられて、溜まったものじゃありません」

 

おもいっきり皮肉を飛ばしてみるも、釣り針を濁った川に垂らした男は呵々と笑い。

 

「幸せに生きてるヤツってのは、他から妬まれるもんさ。なんならお兄さんが相談に乗ってやろうか?」

 

「生憎、親には知らないおじさんには付いていかない様にと言われてるんですよ」

 

「ガキかって」

 

「ガキですよ? 見ての通り、何処にでも居る幼気な少年ですから」

 

「何処にでも居る、幼気な少年ねぇ……」

 

橋の下の男が、釣り針を川から引き上げ、釣り竿を仕舞う。

ばさ、と、羽音と共に風が舞い上がり、橋の上へと飛び上がった。

そのまましばしの滞空時間を経て、隣に着地。

少し距離が開いているのは、多少の警戒心の現れだろうか。

 

「幼気な、『堕天使幹部を捻り潰せるだけの力を持っている』只の少年が消せないってぇ悩み、ちょっと聞かせて貰いたいもんだが、どうだ?」

 

ああ、嫌だ、嫌だ。

堕天使というのは、どいつもこいつも思わせぶりな態度が好きらしい。

それでいて、過剰演出に結果が伴わないのは恥ずかしい事だとイマイチ理解していないようだ。

 

「……思わせぶりな発言より、先に言うべき事があるでしょう。背中に翼生えるとその分脳味噌に栄養行かなくなるんですか? え、どうです? 名前も名乗らない怪しいおじさん?」

 

翼の枚数が少ない方は弱いなりに手下を揃える程度の脳が在った辺り、この皮肉もあながち的外れではないのかもしれない。

此方の不躾な発言に、怪しげな男はくく、と呻くように苦笑し答えた。

 

「参ったな、あながち間違いとも言い切れねぇ。……俺の名はアザゼル。どいつもこいつも変な場所に栄養行き過ぎて堕天した連中の、頭ぁ張らせて貰ってる。よろしくな、自称一般人の聖剣使い、読手書主」

 

ああ、今、そういう扱いなのか。

なんとなく接触してきた理由を察しながら、目の前の男の無駄に期待と好奇心と警戒を混じらせた不敵な視線を、適当に受け流した。

 

―――――――――――――――――――

 

魔王様……私の命の恩人でもある、サーゼクス・ルシファー様が、人間界にやってきた。

何でも、三すくみのトップ会談にかこつけてリアス部長の授業参観に駆けつける為に先に駒王町の観光……視察に訪れたらしい。

理由と建前が逆? 別にそんなのはどっちでも構わないと思う。

この人は為政者としてはありえない程に情に厚い人物だから、妹である部長の授業参観に兄として駆けつけたい、というのも間違いなく本心の筈だからだ。

少なくとも三すくみの会談が終わるまではこの町に滞在するらしいので、少し気を引き締め直した方がいいだろう。

 

……と、前置きしては見たものの、どうしたって気は緩む。

何しろ文字通り神話の時代から生きている古強者の堕天使との死闘を乗り越えて訪れた日常だ。

あの張り詰めるような緊張感と、今の平穏な空気を比べたなら、いくらトップが来ているからといって気を引き締めきる事は難しい。

 

堕天使の親玉がイッセー先輩の上客だった、なんてハプニングもあったりしたけれど、相手が何かするつもりだったならもう既にイッセー先輩は何かされて手遅れな状況になっている。

今のイッセー先輩が無事なら、それはつまり、現状相手からは何もされていないと考えていい。

部長はイッセー先輩に露骨に気があるから過剰に心配していたけれど、少なくとも命がけの戦場に比べれば、現状は、緩い。

 

「…………」

 

一人暮らしのアパート、リビングのソファに寝そべり、携帯を眺める。

基本的に、連絡は電話かメールだ。

呟くのも線のも、なんだか馴染めない。

連絡を取る相手もそれほど多くないし、誰かに呟きを聞いて欲しいという欲求もそれほど無い。

だから、誰かとのやり取りは、着信履歴を見ればだいたいわかる。

 

「……読手さんばっかり」

 

友だちがいない訳ではない。

少なからず、他の履歴だってある。

でも、たぶん、一番の友だちが誰か、と言われれば、読手さんと答えるのが正解になると思う。

少し前、エクスカリバー騒ぎが始まる少し前の、彼からのメールを開く。

 

『これこれ、これをですね、纏めてご飯にザバーってやっちゃったんですよ』

 

写メ付きで送られてきた、何気ないやり取り。

どうでもいいやり取りで、でも、何故だろう、なんと返したかも直ぐに思い出せてしまう。

別に、おかしくはない、と、思う。いや、ザバーはおかしいけれど。

偶然、このメールの内容が印象深かったから覚えていただけなのだから。

……そう、だと、思う。

 

「……」

 

メールの内容を確認していく。

何気ない話だけど、どれも楽しく、気楽にやり取りを楽しんでいる。

読んでいる内に、頬が緩んでいるのがわかってしまう。

最後の一通、教会事件の後、メアドを交換した直後のメールまで読み終えて、メールを閉じ、天井を見上げる。

電気も点けていない夕方の部屋は、薄暗い。

ついつい物思いに耽ってしまいそうで、嫌になる。

 

……たぶん、気は合うと思う。

互いに敬語が抜けないけれど、それでも、会話をする頻度で言えば多い方だし、その会話だって嫌にならない。

何故かって、気楽だからだ。

彼は、私の踏み込まれたくない秘密を知っている。

私は、彼が踏み込んで欲しくないラインを知っている。

条件は平等じゃないけど、それでも、互いに踏んではいけない部分を知っていて。

互いに踏み込まない様に、距離を置いた、浅い付き合いを心がけている。

それは、とても気楽で、心地良い。

緊張感も不快感も薄く、真夏の日陰のような居心地の良さがある。

 

「よみて、さん」

 

自分の手で、髪を梳く。

短くて、白くて、癖のない細い猫っ毛の髪。

指通りは良い方だと思うし、櫛で梳いても引っかからない程には気をつけている。

……どうだったろうか。

 

「どう、って」

 

心の浮かんだ疑問に、声を出して問い返す。

助けた礼代わりと、髪を触られた。

ドサクサで、耳も割と触られたと思う。

……普通に考えて、ただの友達に、そこまで許すものだろうか。

平気だった訳でも、気にならなかった訳でもない。

気の迷いもあった。きっと吊り橋効果だって凄くあった。

でも。

少し、少しだけ、思ったのだ。

『私の髪は、どうだったんだろう』

と、そんな益体もない事を。

 

「…………日影さんと、比べて、どうなんだろう」

 

口に出して、どうしようもない事を口に出して。

少しだけ、胸がチクリと傷んだ気がした。

勿論、幻痛で、痛む理由なんて一つも無い。

日影さんは、彼の恋人だ。

広義の意味での恋人だとか言っていたけど、少なくとも世間一般の恋人がやっているような事は普通にしていると聞いた覚えがある。

なら、髪を触られた事もあるだろうし、耳を触られたことだってあるだろう。

その後、可愛いと言われる事だってたくさんあるし、それ以上の事だって、普通にしている筈だ。

そういう話も、少しだけ、聞いた。

惚気話はそんなにしない人だけれど、それでも、その話を聞いた。

私は、あの時、どう、返しただろうか。

呆れた表情で流して、ちょっとだけ茶化して。

 

「そういう話は、お腹、一杯です、って」

 

笑った。

笑えた筈だ。間違いなく。

こう、口の端が少しつり上がって、目尻も下がって。

あの時の私は、自然に笑えていた筈なのに。

……揺れている。

グラグラと、私の心が、揺れる吊橋の上から降りれずに居る。

高いところは、苦手じゃないのに。

降りた先が前と同じか、不安で橋から降りれない。

 

―――――――――――――――――――

 

「……ん」

 

少し、寝落ちしていたようだ。

時計の長針が半周くらい進んでいるのを確認し、目覚めた原因に目を向ける。

テーブルの上に置いた携帯電話が鳴り響いている。

アラームじゃない、電話の着信。

発信者を見て、少し取るかを迷い、取る。

 

「……もしもし、どうしました」

 

『あ、塔城さん? もう夕飯食べちゃいました?』

 

……電話の相手は、こちらの気も知らずにのんきにそんな事を言い出してきた。

正直、ここ最近の私の帰宅後の精神状態はそれどころではない感じになっているのだけど、こうして話している間は元通りに振る舞えるのだから、割と現金にできていると思う。

 

「いや、ちょっと寝てたので」

 

問いの内容を頭の中で転がすと、迷い惑う私の頭脳を無視して、胃袋が『きゅう』と切なげな鳴き声を上げた。

……冷蔵庫の中、何が入っていたかな。

 

『じゃあ丁度いいですね。ちょっとこれから飯食いに行きませんか。奢りますよ』

 

「……………………いいんですか? 知ってると思いますけど、結構食べますよ」

 

誘われる事も、一緒に夕飯を食べるという何気に初めてのイベントも何処か心を揺らす何かがあった気がするけれど、今は無視。

正直、部屋に一人で篭っているよりは、誰かと一緒に居た方が精神衛生上良い。

あと、奢りだし。

 

『それ了承って事でいいですよね。じゃあ──』

 

彼が口にした集合場所は、前に小耳に挟んだお店。

知る人ぞ知る名店、という感じで、値段も学生向けでは無かったから、行ったことはないけれど、密かに行ってみたいと思っていた。

……何しろ回らない寿司屋だ。

なんというか、種族的には狙い目というか、憧れなければ嘘という話になる。

 

「わかりました。じゃあ、ちょっと待ってて下さい。直ぐ行きます」

 

『ええ、それじゃ、待ってますんで』

 

通話を終え、ソファから跳ねるように立ち上がる。

お出かけ、外食。

グレモリー眷属にはそれなり以上の給料が出ているけれども、私はそれほど頻繁に外食はしない。

だから、なんというか、外食は特別なもの、という印象がある。

この間のライザー戦での祝勝会なんかもそれ。

しかもサイゼとかじゃなく、ちゃんとした店。

だから、そう、だからこそ、少し服装とかに気合を入れるのは、何もおかしいところがない普通の話だという事を、こう、覚えておいてもらいたいのだ。

決して他意はなく、疚しい気持ちから来るおめかしなどではない、という、こう、ね?

 

「何処に言い訳してるんですかね、私」

 

まだ橋は揺れている。

でも、今は、こうしている時だけは、この揺れを心地よく思える。

私は揺れる心に合わせるように、軽やかな足取りでクローゼットのある自室へと向かった。

 

―――――――――――――――――――

 

「………………………………読手さん」

 

「はいはいなんでしょ。──あ、大将! とりあえず何時ものお願いしますね!」

 

「あ、じゃあ私も同じ物を……って、そうじゃなくて」

 

私は隣に座る読手さん『だけ』を意図的に視界に収めて、ジト目を向ける。

当然読手さんは気にした風もなく何時もどおりの気楽な返事だ。

……長くない付き合いでも、ハッキリと分かっている、わかっていた筈なのに、思考の外に外れていた事を思い出した。

彼は、揺れる吊橋の上で震える人が居たら、橋を降りた地点から全力で応援するふりをして煽るタイプだったのだ、敬語で。

 

「なるほど、これが日本の寿司屋というものなのだね。ああ、店主、私と彼女も彼と同じものを」

 

「なんだお前、妹がこの町治めてるのに寿司屋も来たこと無いのかよ。まぁ俺もこの店は初めてだけどな。大将こっちもそれで!」

 

視界から意図的に外して、絶対見ないように心がけたとしても、どうしたって声は聞こえて来る。

認めたくない、ミトメタクナーイ!

……でも、認めざるをえない現実が、今、巷のプチ食通の間で静かな噂になっているこの寿司屋の中に存在している……!

 

「しかしお前さん、最初の態度もあれだったけどよ、まさか話聞く代わりに奢らせといて、女まで同伴するとか、心臓に毛でも生えてんのか? あいや、聖剣でも生えてるのか? 割とマジで。挙句こいつまで相席させるとか、なぁ?」

 

「そこで此方に振られても困るな。でも、会談も近いからね。前もってこうして、騒ぎの種になっている彼に話を聞けるのはいい機会だ。できれば、先に私達だけで話をしてみたかった、というのはあるが」

 

「今更抜け駆けも無いだろ。ああ、序だ、後でどうこう言われるのもあれだし、ミカエルの野郎も呼ぶか」

 

やめてくださいしんでしまいます。

ハートが揺れている。橋がどうとかではなく単純に前の死闘とも比べられないレベルの生命の危機に。

隣の席で楽しそうに待っている読手さんの袖をカウンターの下で必死で引っ張り、彼にだけ聞こえるように静かに叫ぶ。

 

「読手さん、読手さん……! いいんですかこれ、私ここに居ていいんですか、っていうか何で呼んだんですかほんとに大丈夫なんですかこれ……!」

 

「それはですねぇ、『話してやるから飯奢れ』ってそこのはむ……堕天使さんに言ってみたら快諾されてムカついたんで、じゃあもっと人数増やしてやろうかなー、って」

 

「私しか居ないのは……?!」

 

「いやぁ、この時間で夕飯食ってないの塔城さんしか捕まらなくて……、マジで塔城さんの生活リズムには感謝ですけど、よく考えたら一人増えた程度でそこまで財布に負担掛けられないんですよねぇ、いや失敗失敗」

 

てへぺろ、と舌を出して笑う。

あ、駄目だ。怒りで金色に輝きそう。

でも光ったらその瞬間人生終わりそう。

 

「じゃあ、魔王様が居るのは……?」

 

「ここに来る途中で出くわして、平和に自己紹介を終えたんですけど……前にレーティングゲーム観戦の招待をブッチした事でどうしたのかー、みたいな事を聞かれましてね。別に時間取るのも嫌だから、じゃあ一緒に飯でも食いながら話しませんかーって」

 

「……わたし、まおうさまに、だいおんが、あるんですけど」

 

「あ、じゃあ心象的に塔城さん居ると有利ですね。いやぁ、流石塔城さんタイミングいいなぁ」

 

私的には最悪のタイミングですがそこんとこどうですか考慮の外ですねそうですね。

 

「ああ、そういえば、リアスの部下とは既に友人なんだったね。どうだい、暫く付き合ってみて、悪魔に興味が出てきたりは」

 

「おうなんだ小僧、もう悪魔の方にゃ手ぇ出してんのか、やっぱ若い内はそれくらいで無きゃな」

 

「生憎、塔城さんは悪魔がどうとか関係ない部分での友達ですから。あ、一応言っておきますけど、手は出してませんよ。ねぇ塔城さん?」

 

それ少し前ならまともに反応できたけど間違ってもこの場面でこっちに話振らないでくださいよ……!

必死で私を挟んで読手さんとは反対側に座る魔王様とグレイフィア様や、読手さんの向こうでニヤついている明らかにコカビエルよりも格上な雰囲気を漂わせてるのが気のせいだと思いたいチョイ悪の視線からの視線から逃れる為に身を小さく縮めて居ると、大将の調理が終わった事に気付く。

臨死に近い状況が生み出した超感覚の成せる技か、それに気付いたのは私が最初だったようだ。

助かった……。

とりあえず、ご飯に極限まで神経を集中していれば、危機が去ることはないにしても、ストレスから目を背ける事はできる。

何はともあれ、全てを無視して、今話題の寿司屋の寿司を……!

 

「へい、ミラノ風ドリア五人前お待ち!」

 

「サイゼですか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……目立たないよう、気配を消して、食事に集中して、話を振られたら曖昧に相槌を打って。

そんな消極的解決法は、ストレスと共に爆裂したツッコミと共に、外の歓楽街の中へと、あっけなく紛れて消えてしまったのでした。

 

 

 

 

 





主人公がこれまでのシッチャカメッチャカの付けを払うシリアス回に見せかけて小猫さんのシリアスなラブコメ回と見せかけて小猫さんの受難回でした

そんなこんなで四巻開幕です
まぁ四巻のストーリーまともに進んでないけれど
書いてて思うんだけど、小猫さんの内心書くの結構楽しい
やっぱりストーリー上のヒロインは心揺れ動かないと駄目ですね
因みに日影さんは主人公のヒロインというよりも嫁なので、ヒロイン成分は少なめでも機能するのです
良妻だしね、仕方ないね

因みに日影さんも同じクラスの友人とカラオケに行っているので欠席
母親? スカイプで父親とイチャツイてるんじゃないですか?
子供に見せてる分かり難い感じじゃない、夫婦間だけで共有される真のイチャつき
子供が見てしまった場合なんだかいたたまれなくなる事うけあい!

★クラスメイト
他人の恋ほど面白く、懐の傷まない見世物はない
触れてしまえば、関わってしまえば、人事でなくなれば、痛みも哀しみも伝播してしまう
その事を本能で知っているが故に、彼、彼女等は決して手を出さず観察と議論に務める
悪意は無いし、善良でない訳でもないのだ
少なくともオカルト研究会全員肉奴隷説の噂を流した連中よりはものを考えて喋る
実は客観的事実に反した噂は一切流していない
流れていく間に尾びれと背びれと電探と酸素魚雷が生えてくるのだ

★アザゼルさん
呼んでないけど来た
デフォルメされる方ではないが堕天使相応にエロい
強気な態度だけど、報告通りに一般人にしか見えない主人公に対処を図りかねてる
今回財布役
だがドリアには舌鼓を打った
次は酒も頼みたい

★サーゼクスさんとグレイフィアさん
招待状に召喚陣仕込んでたよね?
無効化したからには知ってるよね?
どうやって解除したのかなぁ、教えてほしいなぁ……
そんな感じ
なお主人公の瞼とか目に関する地雷は妹から聞いてるので回避可能
寿司屋で出てきた予想外のドリアに驚くものの、その旨さに度肝を抜かれる
店主を悪魔に引き入れられないか真剣に検討中

★小猫さん
揺れる心の猫魈魔術師
誰かと一緒に居ると普段通りに振る舞えるけど、最近は一人で居るといろいろ考えちゃうらしい
お食事デートかと思った?
残念! 堕天使と悪魔のトップ同伴でした!
想定外のストレスにキラキラバシューンと胃割れ覚醒しそう
おめかし頑張ったけどさりげなく感想聞くどころじゃなかったね!
なおおめかししても見てもらえない事には浮かれてて気づかなかった模様
おめかし見てもらいたいなら幸運ロール、あと主人公側のアイデアロールでそれぞれ挿絵判定と挿絵察知判定な
スカートにするかどうかで十分ほど深く悩んだ
どんなオシャンティな格好になったかは読む人の想像力に寄る
だがおしゃれであればあるほど今回不憫になる
次水着だからそこで頑張ればいいんじゃね?(耳ほじー)
凄く美味しいのに味がしないドリアを食べたのはこれが初めて
今度はちゃんとおいしく食べたい

★主人公
揺れる橋にガンガン蹴り入れる
タイミングが合えば揺れが収まるだろうと考えた
でも小猫さんそれどころじゃない大きさのショックだった為効果は薄い模様
別に好かれる分には良いと思ってる
小猫さんの弱点を小猫さんの知らぬところで本人以上に把握済み
とりあえず好きか嫌いかで言えば手触りと声は好き、日影さんには数段劣るが
寿司屋で少し話した後はドリア食ってパスタ食ってエスカルゴ食ってデザート食って帰った
次は日影さんと、あと父さんと母さんを連れて来たい

★模写された小猫さん
気がついたら主人公の部屋で主人公に後ろから抱きしめられてて、顔真っ赤にして慌てて問い詰めようとしたら香術で粉末マタタビを思いっきり吸い込まされた
混乱の中、優しくあれこれされて執拗に好意の有無を確かめられた
「こんな、無理矢理……でも……!」
みたいな心の葛藤の後、最後に口に出来たのは好意を否定する言葉だった
実際、好きかな? と思った相手に、その恋人と二人がかりで無理矢理寸止めで色々されたら現状どうあれそう答えるんじゃないかなって
全身手指の届く範囲をくまなく撫でくりまわされただけで本格的にエロいことされた訳ではない辺りが弄ばれる感じで否定的感情を増加させた可能性は高い
なお行為後、何時もどおり結末を迎えたのでもう居ない
結末は痛みを知らず安らかな感じでそれまでの寸止め回数分昇天からの魂魄含む完全消滅コンボだったらしい

★母親
何時も聞こえる息子と義娘のギシアン音が違うのには気付いていたけれど、まぁ日常生活を普通に送れているなら、ばれない様に何か仕出かす分には多めに見ようと思っている
人間として、秩序側として犯してはならない最後の一線を越えない限りは口出しだけに留めて置く放任主義
ホームレス時代、同盟時代、夫の前職などが在るため、最後の一線のラインは裁定甘め

★話題の寿司屋
巷で噂の『黄金寿司』
寿司以外(隠しメニュー各種)はだいたい一流レストランを凌駕するレベルで美味しい
中でもドリアは鉄板メニューと評判だが、図書館ロールか知識ロールを二度成功させないと隠しメニューの存在に気付けない
寿司は普通だが、寿司以外の隠しメニューだけで精算が余裕で取れるので、店主の心情以外は何も問題なし
店主は海外で寿司文化を広めていたが、数年前に日本に帰国、紆余曲折の後めでたく駒王町の繁華街に店を持つに至るらしい
店の入口には世にも珍しい喋る提灯が吊るされており女性客からマスコットとして密かに人気を集めている
店主が心を許した客にのみ出すと言われる、幻のカレーが存在すると言われているが、その真偽は不明

★三途の川
暫くあふれる事は無いだろう
川の増水は無いが、船頭が忙しくなる予定はある







この巻は割と書きやすい気がする
導入パート書いて、水着回書いて、授業参観書いて、ヒッキーは、どうしよ、書く理由が無いか、現場に居ないだろうし
で、神社もどうしよ、省く? でも聖剣ネタで絡められるかも。朱乃さんの堕天使告白はイッセーさんの出番だから省略一択、あでもイッセー視点で少し書けるかも
次は会談、出席するのか?この主人公。あ、出席する理由思いついたから出席できるわ
んで、お待ちかねの絵の具製造タイム
オマケで殺すと面倒な事になりそうな尻ドラゴンも付いて来るよ!
……案外ややこしい、誰だ四巻は書きやすいとか言ったの

そんな訳で、次回水着回
立ち位置グラグラなあの人も遂に動き出す

次回
『燦然登場! ヒッティング・ホース・イン・ザ・プール』
熱き闘志を、チャージ・イン!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。