文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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二十三話 胸は無くとも明日はある

遂に探し人、いやさ、探し黒幕を見つける事ができた。

実に気分が良い。

ここ数日、放課後の自由時間を削って行っていた探索がまるきり無駄になった、なんてのは最早些細な事だ。

 

「部外者だと? ……なるほど、この場に居合わせるだけの力はあるか」

 

空でわさわさと無駄に多い翼状の文字列を蠢かせた黒幕が一人で何かを納得している。

 

「此方は只のジツとカラテが使えるだけの一学生なのですが、ええ、この場に限り、そちらの印象通りという事でいいですよ」

 

兎にも角にも、今日のこの日、この文字数多めの文章に出会えた事に感謝したい。

感謝の後、引き出せる物を全て引き出させた後に塗りつぶすのだとしても、今は感謝するばかりだ。

ちら、と、辺りを見渡す。

メンツは予想通り、オカルト研究部に、頑丈で愉快な方の聖剣使いゼノヴィアさん。

話の解るメンツだ。

 

「木場先輩、無事に目的は果たせましたね?」

 

「あ、うん、僕は、僕達は、勝った」

 

呆然と、グラウンドと同じ文字列で出来た大きな無数の人型の隙間から、普段先輩と定義している文字列が頷く。

手の中の獲物の文字列を確認する。

 

エクスカリバー・カラムッド(勝利導く絆の剣)

【ランク:A】

【種別:対城宝具】

【レンジ:1〜70】

【最大捕捉:600人】

【この世とは異なるルーツを持つ異世界のエクスカリバー】

【その鞘から逆算された構造を、純化されきっていない聖剣因子の残留思念を材料に魔剣創造の禁手亜種が組み上げた異端聖剣】

【構成物質の関係で劣化複製と化しているが、その強度だけは残留思念と担い手の絆の強さに比例しオリジナルに匹敵する】

【因子及び残留思念の魂魄構造は以下──】

 

成る程。

なんだか、見ていない所で凄くドラマチックな話が始まって終わっていたらしい。

少し話の流れを聞いてみたくもあるが、彼の過去に関わる話なら部外者の此方が聞くのも野暮というものだ。

何はともあれ、彼が一番果たしたかったという目的は達成した、という事で良いのだろう。

 

「それじゃあゼノ」

 

この騒動に関わりのあるもう一人の方に顔を向け名を呼ぼうとすると、黒幕の方から光の槍が飛んできた。

まぁまぁ速い。

速いが、空気を無理矢理に引き裂いてこの速度を生み出すのは無駄が多いのではないだろうか。

予兆が丸わかりで迎撃が容易い。

 

手に刀を呼びだそうとして、腕の中に塔城さんを抱えているのを思い出す。

軽いから忘れていた。

まだ表に出していた『海』の一滴を膜として広げる。

光の槍は膜に触れると溶けて消えた。

危ない真似をする黒幕だ。

当たったら痛いかもしれないじゃないか。

 

「ゼノヴィアさんの目的もクリアでいいですか?」

 

「そうだな。エクスカリバーは砕けた、後は……」

 

意味ありげな沈黙と共に僅かに文字列が蠢く。

 

【睨みつけるような視線を空へと向ける】

【確かに第一に果たす使命は達成した。悪魔の手によるものとはいえ、結果が伴っている以上は大丈夫だ、言わなければ誰がやったかなんて些細なことでしか無い】

【しかし、元凶である堕天使のコカビエルがまだ残っている以上、ここで逃げ出しても何時か同じことを繰り返すだろう】

【それに、バルパーの残した街を破壊する術というのも問題だ】

【悪魔が影から支配する街とはいえ、この街には多くの無辜の民が居るのだ】

【彼等はその多くが異教徒ではあるが、信仰を同じくする愛すべき隣人も居れば、何時か改宗し愛すべき隣人になるかもしれない者も多く居るだろう】

【彼等を見捨てて、しかも、この場を悪魔に任せて逃げ出すなどという事ができるだろうか】

 

大体わかったけど、この人異教徒が異教徒のまま死ぬならオッケーなのか。

愉快な言語チョイスのセンスに騙されそうになるが、これでも一端の狂信者という事なんだろう。

地面を凝視する。

街を破壊する為の術式……成る程、土の地面ではなく、地殻に施されているのか?

見てみても読めないという事はそういう事なのだろう。

エクスカリバーを砕いたにも関わらず無駄に戦っているのはそういう理由か。

 

「ご安心下さい」

 

西瓜ほどの体積の『海』を引きずり出し、地面に落とす。

落着と同時に弾ける事もなく染み込んでいく。

薄く広がりながら地面の中を探り、それらしい物を発見。

そのまま飲み込ませ、裏側に戻す。

間違った解釈とはいえ『海』の知識を持つ塔城さんが起きていたらこうは行かなかった。

 

「ほう、面白い真似をするな」

 

「それほどでも。……皆さん! 街を破壊する術式は解除しました! 結界の外に逃げて下さい!」

 

黒幕に聞かれて困る話でもないので大声で全員に伝達する。

後は腕の中の塔城さんをどうするか。

……ふと思うのだが、こうしてオリジナルの塔城さんと広範囲の肉体的接触をするのはこれが初か。

模写した塔城さんの首とか頭とか眼下の中とか内臓なら何度も触ったり曲げたり貫いた事があるが、こういう何でもない害のない接触となると感じ方が変わってくる。

膝裏と背の下に通した腕から伝わる感触は如何にも女の子女の子している。

 

見た目が文字列だとしても、触った感触はこの腕の中の文字列の塊が、紛れも無く此方の友人であるという事を教えてくれる。

だから、機会が無いのでカミングアウトする事も無いが、肉体的接触は嫌いではない。

膝裏の汗ばみしっとりとした感触、ふくらはぎと太腿がしっかりと柔らかく、筋肉で過剰に硬くなっていないのが好印象。

背中から通し脇腹上辺りを押さえた手が……sorry、ちょっと胸だという認識が遅れた。

悲しい。なんと、なんと分かり難い膨らみだろうか。

哀れに思う。

 

でも大丈夫、前押し当てられた時も思ったけど、僅かなだけで決して無い訳じゃない。

塔城さんには未来がある。

それも悪魔ともなれば、肉体の一部を強化する不思議な道具の一つ二つあってもおかしくはない。

悲嘆にくれる必要はないのだ。本人に言うと間違いなくセクハラなので言わないけれど。

何より、触って確かに生き物の感触がしている。

腿や臀部には確かにしっかりと肉が付いているし、胸が小さくて何が悪い。

 

「馬鹿言うなよ、こんなヤツ放置してたらろくな事にならないだろ! 協力してぶっ倒すぞ!」

 

「君の力は知ってるけど、ここでは協力して確実に倒すべきだ」

 

「え? ああ……」

 

数少ない友人の肉体的未熟を弁護していると、無駄に体積が広くなり、全身に広がる肉体的不整合とそれを補佐する神器の機能解説が長々と繰り広げられている兵藤先輩と、所々にアヴァロンにより修正入った半ば騎士王みたいな感じの文字列になった木場先輩が此方の近くに寄りながら余計な事を言い出した。

なんというか、邪魔だ。

でもそんな空気の読めない彼等が、やっぱり仲間を大事に思っている事を此方は知っている訳で。

 

「ハッキリ言うと邪魔だしこれから始まるお楽しみの邪魔をされると邪魔で仕方ないけど、邪魔であるという本音を脇に一先ず置いてあえて邪魔なそちらも納得できる言い方するとですね」

 

「つまり邪魔って事でしょ!?」

 

外野からグレ森先輩が何か叫んでいるけれど命中低い火力の無い固定砲台は無視だ。

 

「主力二人に唯一まともに援護できる塔城さんがこの様な訳ですけど、それでも戦えるおつもりですか?」

 

一応、赤眼になった日影さんなら余裕で塔城さんを超える援護ができるけれど、援護する義理は無いし。

 

「三人がかりなら────」

 

「やらないんだよね」

 

「もちろんやりませんよ。あれは此方の獲物と決めてます。ここからは此方一人の時間です」

 

至極面倒な上に此方に欠片もメリットのない案をあげようとした兵藤先輩を木場先輩が遮る。

木場先輩は何気に人との距離感を掴むのが上手く、空気を読む事にも長けているように思う。

決して兵藤先輩が空気読めないという訳ではないのだ。

たぶん、此方を警戒できなくしているのも影響しているのだと思うから余りそこらへんを強く指摘できない。

 

対して、木場先輩は肉体的に聖剣の鞘を組み込むという雑な改造を施しているとはいえ、精神面では一文字も書き込んでいない。

教会で見せた此方の動き方とスタンスはわかっている筈だ。

態々文字列を余計に読むつもりは無いので二人の文字列を確認するつもりは無いけれど、だいたいそんな感じだろう。

 

「じゃ、お二人は向こうで棒立ちしてる女性陣でも守ってて下さい。でもできれば邪魔なので結界の外に出てて下さい。あ、あと」

 

腕に抱えた塔城さんを、なるべく二人を見ないように差し出す。

半竜と化した兵藤先輩が手を伸ばし、腕の長さが足りず、木場先輩が受け取る。

 

「怪我は無いけど魔力が枯渇してます。処置は必要ないけど、安静にさせておいて下さい」

 

腕から離れた塔城さんの姿が、文字列から挿絵に切り替わる。

言った通りほとんど怪我はない。

が、身にまとう制服はあちこちが飛礫か何かでほつれ、全身土埃に塗れている。

走り回りながら魔法を連打し続けた、と言ったところだろうか。

怪我は無くとも、挿絵になるほどに見て解るレベルで健闘したという事か。

頬と髪の毛にわかりやすく付いた土埃を指先で払う。

 

「……危なくなったら手を出すけど、いいよね?」

 

挿絵状態の塔城さんを抱えたまま、人型の文字列の頭が横に傾く。

【冗談めかした口調だが、その視線は真剣な眼差しを向けている】

実に、実に下らない問いだ。

空が落ちてきたらどうするか、なんて、心配するだけ無駄だろうに。

振り返り、天を仰ぐ。

 

「お喋りは終わったか」

 

外界との繋がりを遮断する術式の構成解説に阻まれた、夜空の星よりも遥かに読みやすい文字の敷き詰められた見難い醜い星空の文字列。

炎と気化した化学物質を表す温度や化学式を解説した文を吹き出す、半ば砕けたコンクリや鉄骨の組成や製造年月日がはみ出した、築何年か、総生徒数や総卒業生数や校風、校歌までが記された校舎の文字列。

それらを背景に空に浮かぶは黒幕、今回の獲物。

 

「律儀に待って頂かなくても、纏めて吹き飛ばすくらいでも良かったんですよ?」

 

文字列の中には喜悦や期待を表す長々とした文章、戦歴もちょっとした戦記小説くらいありそうだ。

種族は堕天使、だけど、そこはどうでもいい。

黒幕だ、事件の黒幕、どうにも、戦いとか戦乱とか、戦争が大好きだとか、そんな文章ばかりが目立つ。

戦いを避ける腑抜けた上司に対する装飾過多な愚痴で構成された腕が、光の力で編まれた剣の形をした文字列を生み出した。

 

「それも悪くはないなぁ。魔王の妹はともかく、その眷属は中々良かった。だが、そんな連中が、お前に道を譲った。明らかに只の人間であるお前に。わかるか?」

 

【極上の料理を前にしたかの様に、舌舐めずりと共に口角を上げる】

文字列を読む。読み続ける。

彼は戦いを求めている。

彼の所属する組織において、それは今の時代にそぐわない考えだと思われている。

時代遅れだ。時代錯誤だ。

空気が読めていない。現代文化に馴染めていない。

彼は孤立している。

必要とされていない。

生きていればいい、とは思われているが、何かを求められている訳ではない。

死んだとしても、心から誰かに惜しまれるという事はない。

尤も、孤立していないと断言できるほどの繋がりがあるのなら、戦なんてものに狂いはしないだろうけれど。

 

「貴方が面倒なタイプだという事は」

 

だからこそ、此方の事を見抜いてきた。

初見の印象では何処にでも居る一般人にしか見えない、言ってしまえば、誰しもが油断せざるを得ない認識を潜り抜けてみせた。

これが、仮に殺してはいけないタイプの、誰かに大事に思われているタイプであれば面倒だったかもしれない。

幸運だと思う。

塗り潰しても良い相手が、同時に塗りつぶさなければ面倒になる相手なのだから。

 

「ははは! 面倒か! だが俺は嬉しいよ! お前の様な者を見つけられた!」

 

「奇遇ですね。此方も嬉しく思っているんですよ。貴方の様な輩が来てくれて!」

 

表に出していた『海』を全て引っ込め、両の手に六刀を展開する。

この身は只の忍者、人の延長線上にある、何の変哲もない忍者。

手にある獲物は何の変哲もない、折れないだけの刀。

一撃で殺すには明らかに不足。

だがこれでいい。これがいい。

即座に殺して塗りつぶすのでは意味が無い。

持つもの全て、隠しているもの全て、出さねばと思わせる様に、高揚させる。

お楽しみの時間は、もうすぐそこだ。

 

 




モジスウフエタカラブンカツシテワスウカセギ=ジツ!
イヤー!

時間差投稿の次話へドーゾ

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