当方小五ロリ   作:真暇 日間

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53 私はこうして治療を施す

 

 面霊気、秦こころを手に入れた私は、早速地霊殿へと戻っていった。こころはぱたぱたと手足を振って暴れていたけれど、お姫様だっこくらい皆やるから大丈夫。……そう伝えたが、周囲からの視線に恥じらいを覚えるようでまた手足をぱたぱたさせていた。

 そして一度客間に通して、こころの探していたと言う『希望の面』について詳しい内容を聞き、さも今知ったと言うように自分の部屋に行ってから懐から取り出し、客間に戻ってこころに手渡す。それだけで好感度は一度に上がっていった。

 ただ、どうしてここにあるのかを不思議に思っていたようだけれど、ここはあえて本当のことを伝える。つまり、妹であるこいしが地割れで落ちてきたものを拾って、私にプレゼントだと言って渡してくれたものだ、と。

 そしてさらにここでこいしが誰か(・・)に火をかけられ、左半身を大火傷していることも追加で伝えることでこころから協力を得ることもできた。

 

「と、言う訳で」

「こいし様復活&こころさんようこそ記念!」

「れっつぱーりー!」

 

 私が指揮をしつつ料理を作り、お燐が会場の現場監督をして、お空が今回のことでいろいろと迷惑をかけてしまったり関係した方、そして私の友と呼べる方を呼んで、みんなで集まって宴会をしている。

 こころの協力のおかげで一時的に感情と自我を取り戻したこいしも参加し、やや引っ込み思案なところのあるこころをフランと一緒に引っ張っている。こころも悪い気はしていないようで、自分の手を引く二人に大人しく引っ張られている。

 

「いやしかし、お前の妹がそんなことになってるなんて全く知らなかったな。なんで私らに言わなかったんだ?」

「鬼の薬はほとんど気休め程度か劇薬一歩手前かまごうことなく劇薬の三択でしょう。私たち覚妖怪は鬼と違って身体は強くないんですから、鬼の薬なんて使ったらその副作用で死んでしまいますよ」

「んなことないぞ?」

「人間が傷を負ったときにそれ使うとどうなりますか?」

「治ったところが鬼になる。んで人間の部分が少しずつ鬼のそれに代わってく」

「アウトです。OK?」

「OK!」

 

 こうして話せばわかってくれる勇儀さんは本当にいい話し相手だ。ただ、時々私との戦いを思い出して身体が火照って眠れない時の声などが五月蠅い日もありますけどね。流石に原因の一端が私にもありますし、そのことについては一度も触れてませんしこれからも触れるつもりはありません。はい。

 からからと明るく笑いながら、『かっ食らう』という表現が一番適切に思えるような勢いでお酒も料理も楽しんでいる勇儀さん。今回の戦いでは本気を出せなかったかもしれませんが、鬼の本能として本当は参加したかったんでしょうね。ルール上、勝負中に相手を殺めるのは禁止ですから恐らく参加は難しかったと思いますけれど。

 そんな彼女との話し合いに、するりと滑り込んでくる影が一つ。

 

「なら、私の作る薬でもよかったんじゃないの? わざわざ河童の作る薬じゃなくても」

「幽香さんですか。今回の宴に参加していただき、ありがとうございます。……草花は幽香さんの友ですから。幽香さんに自分の手で友の命を奪わせるようなことはしたくなかったんですよ」

「……全くこの子は」

 

 くしゃくしゃと髪を撫でられる。あまり慣れない感覚だけれど、これはこれで悪くはない。私はどちらかというと撫でる側だし、撫でることは多くあるけれど撫でられる機会は少ない。だからこそこうして撫でられているという得難い経験は堪能しておくべきだろう。

 ……けれど、そうされているのをニヤニヤと見られるのは少し嫌だ。

 

「なんですか?」

「いやなに、お前さんがそうして大人しく撫でられているところなんざなかなか見れないと思ってな」

「私の頭を撫でようとする方はそんなに多くないですからね。幽香さんを除けば無意識のうちにこいしがするくらいです」

「それじゃあひとつ私も」

「構いませんが、力の加減はしてくださいね。恐らく治せるとは言っても首をもがれたらかなり痛いですから」

「わかってるって」

 

 おや、なぜかこいしが瞳孔の開ききった目で勇儀さんのことを見つめている。まあ、そのことについて私は心を読んで知ることができないのだけれど、少し気にかけておくことにした。

 勇儀さんの手はしっかりと、しかし痛みは与えないように絶妙に加減されて私の髪を撫でる。なるほど、この手で橋姫を落として見せたのか。いわゆるナデポと言うやつですね。

 しかしそうだとすると、簡単に落とされてしまった橋姫はチョロインと言うことに……いや、どうやらそうでもないらしい。

 勇儀さんの記憶を見てみれば、橋姫は初めは触れられることも嫌がったらしい。しかし、何度も何度もそうされているうちに少しずつ慣れ、諦めが入り、いつしかそうされていても嫌だと感じることはなくなった。そしてそこから一歩進み、そうされることが好きになった、と。

 ……勇儀さんが橋姫を調教した、ということでいいんですかね、これは。恐らくそれで合ってると思いますけれど。

 

「あ、いたいた。おーい」

「ああ、河童さん」

「河童さんて……ああ、そう言えば自己紹介してなかったっけ。私は河城にとり。にとりって呼んでくれよ。お値段以上とかお値段異常とか呼ぶんじゃないぞ」

「呼ぶなと言うなら呼びませんが……なぜそんな呼称が?」

「外来人に呼ばれたことがあってね。理由は知らないけど周りの奴にも聞かれてさ。定着した」

 

 ……あらまあ。それはそれは不幸な事件でしたね。

 しかし、にとりさんはやはり凄まじくイケメンですね。鬼のことを知り、種族的には問題はなくともその実力はよく知っているはずなのに決してその感情を表に出すことはなく、それどころかやや好意的ですらある。種族で誰かを見ずに、自分で見たものを個人として扱おうとするその姿には賞賛の言葉を禁じ得ない。

 生きとし生けるものたちが、自らの命を脅かしかねない者を信じて何事もないように振舞う。これほどに勇気ある行動というものはそうはないし、それを実行できる存在はさらに希少だ。

 その在り方を見込まれて勇儀さんに気にいられたようだし、そうなってもにとりさんは何も変わらない。いや本当に凄いと思う。

 

「……」パルッ

「……」パルルッ

「……」パルルルッ

 

 おや? 嫉妬の感情が三つ。一つはフラン。一つはこころ。そして最後の一つは一時的にではあるが感情を得ているこいしのもの。どうやら私が色々な人達に囲まれているのを見て、私が取られてしまったと感じているらしい。付き合いの短いこころまでそう思ってくれるというのは嬉しいと思う。

 特に嬉しいのはこいしだ。無意識でありながらも感情が生まれたことで、私の能力で僅かにだが何を感じているのかがわかるようになった。完全に何を考えているのかはまだ分からないが、一部……感情の部分だけはわかるようになった。

 だからこそ、私は妹分達を放っておくことはできない。無意識を操り、感情を支配し、あらゆるものを破壊することのできる妹分達。放置なんてしたらどうなってしまうのか分かったものではない。

 危険かもしれない。けれど、だからと言ってそれがあの子たちを否定する理由にはならない。ほかのだれがあの子たちを否定したとしても、私はしっかりと構ってあげなければ。それができてこその姉だと、私はそう思っている。

 にとりさんたちに軽くそんな感じのことを告げて、私は妹分たちの所に向かう。嫉妬の念は未だに彼女達の中で燻り続けてはいるものの、しかし早々爆発するようなことにはならないだろう。

 こいしを撫で、フランを抱きしめ、こころに言葉をかける。もちろんそれだけで終わらせたりはしないけれど、こんなことで嫉妬の感情が消えてしまうような可愛い精神構造の妹と妹分たち。こんなに純粋だといつか悪い妖怪に騙されてしまったりするんじゃないかと思ってしまうけれど、そうなったらそうなったで仕方のないこと。私がまた出張って何とかして見せよう。

 

「お姉ちゃーん♪」

「さとりお姉さまー♪」

「……」

 

 

 こいしとフランは堂々と。こころは恥ずかしそうにしながらも私に抱き着いてくる。まったく、なんとも可愛らしい妹たちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会が終わり、誰もがたくさん騒ぎ、そして眠りについた後。私は再び動き始める。

 宴会の終わった後の会場の片付けと、もうひとつ。

 

 ゴミを見つけて、キレイにする作業だ。

 そして、ようやく私は掃除するべきゴミを見つけることができた。一度落ち着いてから、今なら反射的に壊すようなこともないと自己判断していたのだけれど、どうやらそれは正しかったようだ。

 

 では、掃除を始めよう。

 

 




 
 この内容だとむしろ『施した』ですけど、」気にしない方向で一つ。
 さて次回、ゴミは掃除されます(断言)

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