当方小五ロリ   作:真暇 日間

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45 私はこうして神子をいじる

 

 聖徳太子との会話を続けながら、私は首を飛ばしたと言う情報を叩き付けられて気絶した彼女の意識を引きずり込んで閉じ込める。精神的にいくら強くても、死んだ瞬間にまで意識を保ち続けることができる存在というのは希少ですからね。それが不意に訪れた即死ならば尚更に。

 そして閉じ込めた意識の中で、彼女の記憶を解体していく。彼女に残されていたらしい僅かな意識が必死になって止めようとしていたようだったが、私は気にせず止めようとした彼女ごと奇麗に分解した。

 

 ……そこにあったのは、邪仙らしい妙に歪んだ記憶。ただの少女だった存在が父の後を追い、仙人になり、しかしその性格から邪仙に堕ちて、それからはひたすらに気ままに過ごしてきた彼女。求めるものがあれば手に入れ、飽きれば捨てる。必要なものならば手に入れ、不要になれば捨てる。

 その在り方は仙人というよりは低俗な人間のそれと何も変わらず、一部においてはむしろそれよりも酷い。

 だが、彼女には才能があったようで、彼女の父親が残した本からの独学に近い状態で仙道に到達し、既に何度も死神の手を退けている。

 ちなみにだが、死神はおよそ百年ごとにやってくると言われているが、実際には百年ではなくその存在が仙人ではなく生きることができたはずの時間によって長くなったり短くなったりする。栄養失調などで短くなれば五十年周期で来たりもするし、しっかりと長生きできていたならば百十年や百二十年ほどの周期で来るようになることもある。

 ちなみにだが、一番楽な方法は人間から仙人になる前に他の妖怪などに成っておくことだ。寿命は凄まじく伸びるし、寿命によって来るまでの期間が決まっている死神との争いで非常に有利になることは間違いない。例えば―――

 

          『鬼』

 

 ―――から仙人になれば、恐らく初めて死神が命を奪いに来るまでに数千年や下手をすれば数万年もかかることになる可能性がある。それだけの時間があるならば大体のことはできるだろうし、準備も万全に整えることができるだろう。なお、別に私は茨華仙を煽っているわけではない。例え話をしただけだ。

 

 それはともかく、霍青娥と言う邪仙はとかく惚れっぽい。熱しやすく冷めやすい性格といえば良いのか、色々な意味での力を持つ存在に惹かれているらしい。

 例えば、聖徳太子ならばその才と権力に。とある仙人はその巫力に。ある妖怪はその暴力と妖力に。ある人間は財力に。霍青娥は惹かれていたようだ。大きな力に惹かれる感覚はわからないでもない。私自身もかつては記憶に存在する無数の神格に近付くためにいくつかの魔導書から引用した呪文を唱えたこともあったし、その中に書かれていた魔術を使ったこともある。

 ……そう言えば、動物に好かれるという効果の魔術もあった。代償も非常に少なく済むその魔術はそれなりに使い勝手がよく、心を読む能力と合わせれば意外なほどに役に立った。

 例えば犬に守られている邸宅に無断で侵入する時などにはその犬を私に懐かせ、撫で倒して行ったこともある。その邸宅に何があったわけではない……と言うことにさせてもらおう。知らないほうが幸せなことというものも確かに存在するのだから。

 そんな風に力に惹かれて自由に行動していた邪仙は、好奇心のままに動く子供とあまり変わらない。年齢的に見ても私の半分も生きていないようだし、子供といっても何ら問題はないだろう。そのことに気付いているのかいないのか、聖徳太子も彼女については細かな制御を諦めているといってもいい。彼女に惹かれていると言うこともあってか、見捨てるという選択肢はどうやら殆ど無いようだが、それならそれでいい。見捨てるつもりがあろうがなかろうが、私のやることは何も変わらない。

 邪仙の身体と記憶、そして知識と技術を使い、彼女が残そうとした術を丸ごと破棄していく。一部は記憶を改竄してまで隠そうとしたようだけれど、それも彼女と繋がりのある死体人形に隠していてはその繋がりから逆探知されて内容を持っていかれてしまうでしょうに。

 まあ、そうした失敗のおかげで私はこうして彼女の秘密の内容をいろいろと知ることができてしまうわけなのですが。

 

 術自体は彼女がどこに仕掛けていたのかを全て覚えていたから解くことは簡単だった。意識がなくてもかけた本人であるし、ついでに言えば術の内容も全てわかるのだから当たり前といえば当たり前。彼女がそれなりに注意して仕掛けていた術は、ものの数分で殆どが解除されてしまった。

 ……しかし、この邪仙の持つこの鑿は便利ですね。壁に一時的に穴を開け、そして通り終えれば穴は閉じる。開けたままにしておくこともできるようだけれど、こっそりと入ってこっそりと何かをするなら今やっていたように一々閉じて行動するのが理に適っている、と言ったところか。

 また、この鑿は頑丈なものであれば頑丈なものであるほどに穴を開けやすくなるらしい。

 

 ―――ならば、この鑿で博麗大結界にも穴を開け、幻想郷と外界を行き来することも可能なのではないだろうか。それを感知されたくなかったのか彼女の記憶の中にはそれを実行したことはないようだけれど、結界の位置を知り、そして十分な力が残っていれば通り抜けることも可能なのではないかという考察があったことからも可能性はあるということを示している。

 博麗大結界は硬い。非常に硬い。固く、硬く、堅く、難い。まともな妖怪なら害意をもって干渉しようとすれば消し飛びそうなほどに硬い。もちろん博麗大結界にはそんな機能は存在しないので触れる妖怪が何を考えていようが実際に消し飛んだりはしないけれど、それでもとにかく硬い。

 故に、硬ければ硬いほどに効果を持つこの鑿ならば博麗大結界も抜けられないわけではなさそうだ。

 ……没収してしまってもいいのだけれど、それをしたら間違いなくこの面倒臭い性癖の邪仙は私達に興味を持つだろう。ここには力だけなら凄まじいほど持っている太陽の化身を取り込んだお空がいるし、あらゆる存在の無意識の結晶であるこいしもいる。あの子たちがこの邪仙の毒牙にかかるのは却下したい。だから残念ではあるこれどこの鑿はまだ本人に持っていてもらおう。私が持っていても基本的には邪魔にしかならないし。

 

「ところで、聖徳太子さんは元は男性だったようですが……」

「……私から?」

「先ほども申し上げました通り、雰囲気くらいは読み取れます。それに行動が男性的ですし、かまをかけてみたら見事に、という感じですね。……それで、男性だったようですが、霍青娥の身体の味はいかがでしたか?」

 

 聖徳太子は凄まじい勢いで噴き出した。その瞬間に思考防御の術が乱れたが、それは文字通りに瞬きの時間。瞬時に術は締めなおされて、元通りになってしまったようだ。

 だが、まだ耳が僅かに赤いことから見ても少し恥ずかしいと思っているらしい。あれだけ色々な女性に堂々と手を出しているというのに、こう言う所でいきなり見ず知らずの相手からそういう話を振られて噴き出したのは恥ずかしいらしい。

 

「女性の身体になってから彼女と褥を共にしたことは?」

 

 噴き出し二回目。今度は僅かに耐性というか、心の準備ができていたようで術が緩みはしなかったが、顔の赤みはわずかに増した。

 

「……ふむ」

「さ、先ほどからいったい何を……」

「ああ、成程。彼女ではなく別の方と褥を共にして感覚の違いに戸惑っているというところですか」

「実はあなた私の思考を読み取れていたりしませんか? 術で防御できていると思って色々と考え事をしている私を嘲笑っていたりしてません?」

「まさか」

 

 嘲笑ってはいませんよ。推測から面白がってはいますが。

 ……ちなみにですが、私は『雰囲気なら読み取れる』とは言いましたが、『心が読めない』とは一度も言っていません。雰囲気も読めますから嘘は言っていませんよ? 雰囲気以上のものも読めると断言はしませんけれど。

 いやぁ、流石は天才と言うべきか、中々面白い思考でしたよ。口にはしませんけどね。

 

「聖徳太子さん? 顔に出さないようにしているようですが、顔以外の場所に出ていますよ?」

「何?」

「顔以外の場所に出ています。耳とか、姿勢とか、精神的な勢いなどに。まだまだお若いですね……ところで昨夜は何回ほど?」

「『若い』とはそっちの意味ではないでしょう!? もう本当に止めてもらえませんか!? いやまあそっちのほうでも普通に若いですが!」                    ●REC

「そうですか。まあ、私は夫婦の関係に口を出したりはしませんけれどね。貴女のような方は色々と面白いものがありますし、のんびりと傍から眺めて楽しむか完全に流すかさせていただきますよ」

 

 ……どうやら私に対する苦手意識は植え付けられたようですね。嫌悪感でなく苦手意識を植え付けるのは調整が面倒なのですが、できない訳ではありません。普段は面倒だからやろうと思わないだけで。

 

 では、聖人様にはそろそろお帰り願いましょうか。

 


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