当方小五ロリ   作:真暇 日間

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26 私はこうして天狗の秘密を知る

 

 さて、花の異変と呼ばれる異変の内容もあらかた聞いたわけだし、次の異変の話に移りましょう。

 次の異変と言えば……妖怪の山に突然神社が現れ、博麗神社から信仰を奪おうと戦いを挑んできたと言うところから始まったのでしたか。

 その時の話を聞くならば……やはり向かうべきは妖怪の山。それも、当時に博麗の巫女と戦った烏天狗……射命丸文、と言いましたか。彼女が適任でしょう。

 その次は……恐らくガンキャナコさんと守矢の風祝、そして土着の神の頂点がいいでしょう。何しろ外から神社ごとやってきたご本人方ですからね。正確には人ではありませんが。

 

 と言う訳で、妖怪の山に向かいましょう。小町さんへこの写真を渡すのは……また今度にしましょう。時間もあまりありませんし。

 

 地霊殿を出て空を飛び、多くの存在の心を読みながら地上に上がる。今度は妖怪の山のすぐそばにある大穴から地上に出たので向かう先が見えている。あちらは……どうやら私にはまだ気付いていないようなので、第三の目を薄目にして行きましょう。こいしとやっていることは似ているけれど、これは結構有用。びっくりね。

 そのまま妖怪の山を登り、やや読みにくくはあるけれど読めなくはない天狗達の心から情報だけもらっていく。

 まずは、射命丸文の居場所。家の場所だけでなく、新聞を作るために使う作業場やよくいる場所を探し、そのうちのどこかにいるのかを確認する。天狗達の朝は早いし、新聞記者は朝遅くまで起きて原稿を書いていたり、取材のために数日開けると言うのもよくあること。だからこそ、そのフットワークの軽さを生かして幻想郷の新聞記者なんてものをやれているんでしょうが、私のように尋ねに行くものからすればなかなか捕まらない相手と言うのは面倒なものだ。

 それから現在の射命丸文の状態。眠っているなら起きるまで待てばいいし、近くに誰かいるなら取り次いでもらってもいい。移動中でさえなければその場に行けば出会える可能性が高い。そのくらいでいいのだ。

 幸い、今の時間はまだ自宅にいるようで、私はそれに惹かれるように妖怪の山を登っていく。ある程度時間が遅くなると彼女はネタを集めに移動を始めてしまうので、あまり遅くなるわけにもいかない。

 ちなみに今回のお土産は、地底のお菓子。鬼の皆さんもなかなかおいしいと言ってくれたものです。まあ、鬼の皆さんの『美味しい』は『酒に合う』と言う意訳で間違ってないと言うあたり本当にもうあれですが。

 

 白狼天狗の警戒網をすり抜け、一部の烏天狗の張った風の結界を通り抜け、私は進む。まだ時間はあるけれど、いくらでもあるわけではないから少々急ぐ。

 そうして到着したのは、彼女が今居る自宅の前。さて、ここからが本番とも言える今回の異変収集だけれど、いったいどんな話を聞かせてくれるのでしょう。

 トントン、と軽く入口の戸を叩けば、中に居る射命丸文はもそもそと布団の中で面倒くさそうに身をよじる。『こんな時間に誰よ。はたて? さっさと入ればいいじゃない』という言葉を口から出そうとしてもにゃもにゃと解読不能の言語が聞こえてきた。

 まあ、私は覚妖怪らしく意思をくみ取って普通に入らせてもらう。ついでにぬらりひょんのように中で適当な料理でも作っておこう。まだまだ時間はあるようだし、このくらいなら問題はないはずだ。

 

「ぁ~……はぁへ? ゃんか、ひゅくっへ……」                   ●REC

 

 本人からも要請を受けたことだし、これを代金代わりと言うことにしておこう。代金全額前払いとは、依頼人としてはなかなか太っ腹なんじゃないかと自分でも思う。内容はただの料理なのだが。

 

 さて、昨日はいろいろあってお疲れのようですし、精の付くものでも食べてもらいましょうか。と言っても彼女の食糧庫にはあまり物はない。多くが妖怪の山で採ることのできる山菜や獣の肉。まずいわけではないけれどお世辞にもおいしいとは言えないようなものの集まり。これをどう料理していくかが私の今回のお題になってくるわけだ。

 まあ、とりあえず灰汁抜きから始めておこう。地底には山菜など無いため調理は初めての経験となるが、どうすれば美味しくできるか、どうすれば不味くなるかは多くの天狗達の記憶の中の出来事で知っている。私はそれに沿って美味しくなるように進めればいいだけのこと。何も問題はない。

 鹿肉を細く切って山菜と一緒に焼き、味噌を絡める。行者大蒜を……ああ、そういえば天狗は犬生まれだったりするから大蒜はまずいのかしら。彼女は烏天狗だし大丈夫だとは思うけれど……あ、用意がある。なら大丈夫でしょう。自分が食べられない食材をわざわざ用意しておくとも思えないし。

 

 そんなわけであとは適当に炒めるだけ。ご飯については前日の残りらしい分があったのでそれを使う。汁物も……まあ、いいでしょう。適当にそれらしく作っておきましょう。

 さあ、起きてもらいましょうか。

 

 

 

 ■

 

 

 

「あややややや、これはこれはお見苦しいところをお見せいたしまして……」

「別に構いませんよ。料理は趣味の一環のようなところがありますし、貴女の寝顔も見れましたし」

「!?」

「なかなか可愛らしかったと思いますよ。写真に残していればいい値段で売れるんじゃないかと思えるくらいには」

「それは勘弁してもらいたいものですねぇ……それで、今回はどのようなお話ですか? 地底の支配者、古明地さとりさん?」

「最近地底に引きこもりっぱなしだったから、少し外の情報も集めようかと思いましてね。異変の内容について首謀者たちに聞いて回ってきたのだけれど、今回はそういったものを外から見ていた貴女達が、それらの異変をどのように受け止め、どのように解釈していたのかを知りたくて来たのですよ」

「ほぅ……それで、お代は?」

 

 にやりと笑う彼女に対して、私もにやりと笑って懐からICレコーダー(河童印)を取り出して、中の音を再生させた。

 

『んぅ……はたてぇ……? ごはん~』

『私は姫海棠さんではないのですが……その前に着替えていらっしゃい』

『きがえさせて』

『……はい?』

『き~が~え~さ~せ~て~』

『……はぁ……はい、それでは両手を上げて』

『ん~』

 

「わかりました、わかりましたからもうほんと勘弁してくださいナマ言いましたごめんなさい私が悪かったです」

「別に悪いとは思っていませんよ……そう言えば、ここの白狼天狗達は噂好きでしたねぇ……一日でどこまでうわさが広がるか試してみたくないですか?」

「いやあのホントすみませんお願いですから勘弁してください」

「ふふふ……さて。『私は異変の情報が知りたくて来たんですが、何か教えてもらえませんか?』」

「はい喜んで!」

 

 しゅばっ!と風切り音が出るほど素早く頭を上げた彼女は、すぐさま自分が集めた情報を開示してくれた。心も読めないのにこれだけの情報を集めるのにはいったいどれだけの時間を費やし、どれだけ空を駆け回ったのだろうか。そう考え始めると、少しだけこの烏天狗が可愛らしく思えてきた。『姫海棠はたて』や『犬走椛』が彼女にからかわれても離れようとしないのは、こういった可愛らしいとことがあるからだろうか。

 ……そう言えば、この烏天狗は中途半端に『子供っぽい』。いくら精神の成長速度が人間と比べてはるかに遅い妖怪だからと言っても、ここまで奇妙に大人の部分と子供の部分が混じりあっているのは中々見られない光景だと思う。

 その原因はわからない。本人の記憶の中には何もないし、いつ産まれたのかもわからない。けれど、なんとなくだが彼女の中にある存在の影が見える。

 

 この烏天狗、愛宕山太郎坊の血族の可能性が高い。それも、太郎坊の性質……正確には太郎坊と同一視されながらもまた別の存在とされる『火之迦具土神』の性質である『死ぬその時まで子供である』と言う特性を中途半端にではあるが受け継ぐことができる程度に近い血縁として。

 しかし彼女の得意とするは風。妖怪の気質は遺伝から来るものも多いが、本人の気質によって決まることもそう珍しくない。

 

 ……これはこれで面白い。本人も知らないようだし、聞かれるまでは黙っていよう。

 

 射命丸の必死な説明を聞きながら、私はそんなことを考えていた。

 


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