当方小五ロリ   作:真暇 日間

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書けたので投稿。最近筆がやや進んでますね。


星蓮船
07 私はこうして地上に昇る


 

 地上はあらゆる力に満ちている。空からは光が降り注ぎ、光と共に魔力が供給される。数多の天体から与えられる強大なエネルギーは、地上に多くの益と僅かばかりの害を与える。その害を特に大きく受けるのは吸血鬼であるが、妖怪であれば誰しも何らかの影響は受けている。霊的な自然の影響を受けにくい人間ですら満月の光に含まれる魔力を浴び続けることで人狼や魚人に変異する事すらあるのだから、霊的な物、精神的な物のみで出来ている神や妖怪と言った存在はより大きな影響を受ける。

 人間であれば気にもしないような小さな星の一つにすら自らの在り方を左右されることもある妖怪と言う存在は、現在のこの世界で生き延びることが難しいと言うのも理解できる話だ。

 地上ではそんな天体などの影響が大きいが、この地底では天体の影響は殆ど無いと言ってもいい。なにしろ地底だ。星の光どころか月や太陽の光すらも届かない。大地をすり抜ける光が存在すると言う話を聞いたことがあるが、大地をすり抜けると同時に魔力や光に乗った概念なども薄れて無くなってしまう。

 その代わりに、地底では地脈と呼ばれる大地に流れる霊脈がそこに住む妖怪達に大きな影響を与えている。地上よりも地脈に近く、より大きな影響を受けることになるのだが、そもそもこの大地とは全く違うものである他の天体からの影響と違って害になることはほとんどない。精々が力を溜め込みすぎて太ってしまうくらいなもので、そうなってしまった場合も適当に溜め込みすぎた力を発散させればすぐに元に戻る。地底における地脈の扱いは、どこにでもあるしそれなりの味はするけれどあまりにも取りすぎると太る泉の水のようなものだ。水だけでは生きていけないと言う点でも地脈の力と水は似ている。

 ……体内に無理矢理入れすぎると内側から破裂したり、上あるいは下の口から吐き出してしまうことも……まあ、たまにあることらしい。誰がそうなったかは言うつもりはありませんが、一説には病を操る土蜘蛛が地脈の流れ込む泉の水を樽で一気しようとして容量オーバーしたとか、粗密を操る鬼が酔い潰れた時に同じ泉に放り込まれて腹を膨らませたまま浮いてきたとかいう話がある。

 なお、事実かどうかは保証しない。なにしろ酔っぱらいの記憶から読んだものだし、覚え違いをしている可能性も十分にある。なにしろ酔っぱらいの記憶だ。信用できるわけもない。何しろ酔っぱらいの(ry

 

 さて、そんな話をしていったいなんなのかと言うと……そろそろ私の能力の効果範囲が多少どころでない範囲にまで広がり始めてマズイ、と言う話です。その原因として、私がこの地霊殿に引きこもって千年以上、地霊殿ではなく地底にと言うならさらに数百年。それだけの時を同じ場所で過ごしてきたせいか、私の身体が地底の地脈に完全に慣れて流れてくる地脈から溢れる気を使ってどんどんと進化し続けていると言うのがあるのだけれど……流石にどうしようもない。

 いつもなら抑えようとすれば勝手に抑えられるし、見ようとしなければ精々私の私室くらいにしか能力は届かない程度だったのだけれど……今では抑えようとしなければ効果範囲はどんどんと広がり、抑える意思を持って抑えなければあっという間に地底全土を覆い隠すほどに広がってしまいそうになる。

 実際、一部は地底どころか旧地獄で苦しむ怨霊の記憶や感情を常に受け取り続けるようになってしまっているため夜も眠れない。読書に集中することもできないし、本当に厄介な状態になってしまった。

 

 そこで私は考えた。この力を何とかする方法だが、私は今まで能力を強く使うことを意識したことはあっても、弱くすることを意識して使っていたことは殆どない。故に勝手にどんどんと大きくなってしまう状態に、短時間で何とかできるとは思えないのだ。

 だから、地霊殿を建てる時に見つけた金や宝石で作った簡単な装飾品をいくつか見繕って、博麗の巫女に依頼をすることにした。私のこの能力を抑える札か何かを作ってほしい、と。

 無論完全に封印するわけにはいかない。この能力は私の生命線だし、眠る時には封印するとしても起きている時にはこれを抑えるようにしなければならない。

 ……今の私が『想起』を使うと、どれだけ手加減しても相手が廃人になる危険性がついて回る。現在のスペルカードルールがある幻想郷で戦う度に相手を廃人にしていては、八雲紫に目をつけられて面倒な事になりかねない。博麗の巫女と八雲の主従との連戦など御免被る。

 あくまでも力を『抑える』札。それを使って力を抑えている感覚を覚えてしまえば、その感覚を身体に覚えさせて手加減が容易になる筈だ。

 さて、それでは出発しよう。賽銭と言う名前の前金と、依頼料としてちょっとした装飾品を持って、私は地霊殿を後にした。

 時間がどれくらいかかるのかはわからないけれど、少なくとも飛べば一日以内に到着するはず。あの巫女の速さで一日以内に到着していたようだし、私でもそのくらいで行けるだろう。記憶から探ってみた限り、博麗神社はそう遠くはないようだし。

 

 ……しかし、空を飛ぶのは久し振り。博麗の巫女が来た時以来で、その前は……数ヵ月は飛んでいない気がする。移動は基本徒歩だし、余程急いでいる時でもなければ飛んだりはしない。地底から出るなら飛ぶのだけれど、地底の外にはもう何百年も出ていない。

 地底で行動が完結していると言うことはある意味でこの場所が一つの世界として完成していると言うことでもあるけれど、完成している世界と言うのは後は徐々に衰退していくだけだと世界の歴史が語っている。

 ……ああ、まずい。ついに世界の知識にまで能力の手が届いてしまった。世界相手に私の頭がそう長く持つ訳もない。急がないと。

 

 私は地底の空を飛ぶ。地霊殿を留守にすると言うメモは残しておいたし、心配をかける事は無い。お燐やお空は最近は大人しくなっているし、お空の中にいる八咫烏も大人しいまま。数日私がいなくなったとしても暴れ出すようなことがしないだろうし、八咫烏はあんな状態で大きな力を振るえば間違いなく残滓を残して消滅してしまう。

 ……そもそも無意識にリミッターをかけているので大きな出力は出せないはずなのだけれど、相手は日本神話における最高神、太陽神の眷属であり、同時に中国における太陽の化身。西洋のどこかにいる主神の肩に停まり、神と人との懸け橋となっていた時期もあると言う、神格持ちの中でも非常に高位な存在。油断からお空を失うようなことになってしまえば、私はとりあえず数週間は泣ける自信がある。お空は馬鹿だが、それでも可愛い私のペットなのだ。

 そんな嫌な予想を振り払い、飛ぶ。勇儀さんに捉まると色々と時間が取られてしまうので、最近とてつもなく範囲の広がった読心によって位置を把握して回避する。残念なことに今はあまり余裕がない。頭痛などはまだしていないが、世界の記録にアクセスし続けているのだ。いずれ限界が来るだろう。

 死ぬのは嫌だ、と言う思いは確かにある。けれど、今は特に死んではならないのだ。

 なぜなら、まだお空の身体が体内にいる八咫烏のそれに適応しきれていないし、八咫烏の意識もすり切れていない。どちらかが起こっていれば私が死んだところでお空が死ぬと言う事は無いのだけれど、今私が死んでしまえば間違いなくお空は死ぬ。それはよくない。とてもよくない。

 

「……急がないと、間に合わなくなるかもしれない」

 

 正直なところ、いつ限界が来るかもわからないのだ。今平気だからと言って五分後も平気であるとは言い切れないし、五分後に平気だったとしてもその五分後は平気かどうかわからない。むしろ、未だに私の身体に変調が起きていないことがあり得ないくらいの出来事なのだ。はっきり言って、絶体絶命と言うやつだ。

 

 ……とにかく、急がなければならない。手遅れになる前に。

 

 

 

 ■

 

 

 

 星熊勇儀は感じ取っていた。地霊殿から飛翔し、高速で地底の空を飛ぶ古明地さとりの妖力を。

 だが、いつもなら挨拶の一つでもしに行くところだが、今だけはそれをしようとは思わなかった。それどころか、決してそうしてはならないと鬼として長く生きていた勘が告げていた。

 

「……何があったかは知らないが、がんばりな、さとり」

 

 遥かに離れた場所から、妖力に鈍い鬼ですらわかる特徴的な妖力を使って飛行するさとりに向けて、星熊勇儀はそう呟いた。

 

 


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