当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 連続投稿二話目。なお、この前書きは後々気が向いたら消します。


06 私はこうして宴を開く

 

 さとり様、とじゃれついてくるお燐。

 さとり様ー!と元気よく飛び付いてくるお空。

 お姉ちゃん、と抱き着いてくるこいし。

 よう、と軽く挨拶をしてくる勇儀さん。

 そして、喋ることはできなくともお互いに通じ合うことはできるペットの動物たち。

 私にある程度好意的に接してくる相手なんて、精々こんなものだ。

 私の能力は妖怪の天敵とも言える能力である。そんな能力を持つ私が、多くの妖怪に好かれることは無い。精々が動物から妖怪に『成った』者くらいで、しかも元々私とある程度好意的に接していなければならない。つまり、私のペットだ。

 

 そう考えると勇儀さんはかなりの例外で、そう言ったことは早々起きることはない。同じ鬼である萃香さんも私の事を苦手としているし、そもそも私は地霊殿の外に出ることは殆どない。新しい出会いが無ければ誰かと新しく仲良くなる事もないため、増えない。

 ……まあ、ペット達の数は十分だし、わざわざ私から新しく拾いに行こうとは思わない。地霊殿での家庭栽培によってお米や小麦と言った主食やそれから作ったお酒もあるし、果物や野菜も文字通りに売るほどある。

 ……地底の住人の多くは知らない。地底の商店に並ぶいくつかの野菜が、この地霊殿で作られていることを。それどころか米や小麦も多くは地霊殿で作られているし、外の世界では日の本の国より遥か南にしか生らないような果実も、コーヒー豆だって作られている。

 それもこれも旧灼熱地獄の未だに燃える炎があるためだ。

 灼熱地獄の炎の明かりは太陽と同じように植物を育み、その熱は常に周囲の温度を夏と思わせるほどに高いまま保つ。故にこの場所では十分すぎるほどの作物が実る。多くの鬼は甘いものを好まないのか、どうも果実の売れ行きはいまいちだけれど……結局のところこの商売は趣味だ。売れなくても腐っていない限り損ではないし、腐る前にペット達に渡してしまったり、私が食べてしまえば簡単に消費できる量でしかない。

 ……さて、それで何故、そんな話をしているのかと言えば……この地霊殿に、珍しくお客さんが複数人来ているからだ。

 理由は、異変解決後の宴会。毎度行われるこういった宴会はその異変を起こした本人が主催となって開かれる事が多いそうなんだけれど、今回は異変を起こしたのが私のペットであると言う事を鑑みて、かわりに私が主催となって酒宴を開いている。

 

 今回の異変に巻き込まれた多くの妖怪は、私を怖がりやっては来ない。やって来た複数名……病を操る土蜘蛛や釣瓶落とし、嫉妬から鬼に変じた橋姫達は勇儀さんに連れられて来ているようだし、解決した本人である博麗の巫女、そして博麗の巫女の助言者として見ていた萃香さんもあまり乗り気ではないように見える。

 ……まあ、それも仕方のないことだろう。私のような嫌われ者の開いた宴会に参加したいと思う者なんて、人妖合わせてもそうはいない。むしろ全力で逃げようとする事の方が多いだろう。

 私が勇儀さんと戦って引き分けたと言う話は地底中に広まっているし、地底の妖怪はこの場以外に行く場所がない事が多い。割と危険な思想を持っている妖怪も地上に比べれば遥かに多いけれど、私に出会うと大体が声を潜めてしまう。

 勿論声を潜められたところで心の声まで聞こえないようにはできないのだけれど、私は本当の意味で相手が敵対してこない限りは放置する方向にしている。

 それに、地底全体のことならともかく、町のことならば勇儀さんの方がずっと詳しいし顔も効く。私が出張る意味なんて殆ど無い。

 ……ともかく、宴会と言うには大分粛々とした空気のまま、静かに宴は続いていく。実際の音はあまり無いが、心の声は多く聞こえてくる。

 私やお空への不満の声もあるし、私が怖いと思う声。今回の異変の内容や博麗の巫女との弾幕ごっこを思い出して楽しむ声。それこそ無数に声が聞こえる。

 けれどまあ、そんなものはいつものことだ。私を嫌う声はどこからでも聞こえてくるし、地霊殿の外では私に好意的な声……どころか、私に否定的でないだけの声を探すだけでも一苦労。今までは心の声を聞ける範囲ではなく心の声の深度を上げて行く方向に成長させていた能力だけれど、遂に深度の方への成長が止まり範囲が広がり始めてしまっている以上、慣れていかなければ眠ることすらままならなくなってしまう。

 今回の宴会は周囲への謝罪の意と、ついでに私が成長を続ける能力に慣れようとする場でもある。無論後半は他人に伝えるようなことはしないが、わざわざ隠すようなことでもないだろう。

 問われなければ話すつもりはないが、問われれば隠すつもりもない。相手は私に隠し事ができないと言うのに、私ばかり隠し事をするのは不公平と言うものだろう。命がかかっていれば話は別だが、かかっていないのならこんなものだ。

 

 元々私は争いが嫌いだ。争わないようにするために色々と勘違いを助長させるような言動や行動を繰り返してきたし、最悪戦わなければならなくなった時に失うものを減らすために禁忌の知識を武器にする方法を使えるようになった。

 力がなかったから技を磨き、身体が弱かったから身体以外の部分で強くなった。

 そんなことを繰り返していって、今がある。後悔はしていないし、もしも過去に戻れたとしても私は同じような道を進んでいくだろうと言う確信もある。

 

 ……けれど、どうせなら戦いや自己防衛のことばかりではなく、もっと別の事にも力を入れていればよかったと思わない事もないわけで。

 私は周りに居る人妖の意識の隙間をすり抜けるようにして歩く。片手にはお酒の瓶を。片手には大小二つの升を持ち、まず向かうは博麗の巫女の隣。どうも彼女は一人で飲む方が好みらしいが、それも気にならない程度。私も気にせず彼女の元へ向かう。

 

「よく来てくれましたね、博麗の巫女」

「呼ばれた理由もわかるしね。ついでに美味しい物も食べられるし、お酒も美味しいし」

 

 彼女は心を偽らない。自分の思ったことを真っ正面から表現し、それでいて差別意識も無い。これは彼女の記憶の中に居る幼い吸血鬼が慣れるわけだと納得した。

 とりあえず、飲んでいた酒を飲み干した巫女に酒を注いだ升を手渡す。巫女は訝しげな顔をしたが、構わずその酒に口をつけた。

 

「……ふぅん」

 

 色々なものが込められた一言。その裏にある感情を読み、とりあえず納得しておく。

 

「……それでは、またいつか。できれば戦場では出会わないことを祈っていますよ」

「私もあんたとは戦いたくないし、その方が嬉しいわ」

 

 戦わなくちゃならないなら戦うけどね……ですか。まあ、それでこそ『博麗の巫女』と言えるんでしょうけど……少なくとも私は彼女とだけは戦うのは嫌だし、暴れるのは自粛しておきますよ。

 

 ……必要なら暴れますけどね。できれば必要の無いまま時が流れてほしいものです。

 

 

 

 ■

 

 

 

 古明地さとりは気付かない。人の身には遥かに遠く、妖怪にとっても巨大に過ぎる、『世界』と言う名の怪物に目をつけられてしまったことに。

 古明地さとりは気付かない。それは自身の能力が、世界にすら畏れを抱かれるようになった証であると。

 古明地さとりは気付かない。未だに狭い範囲でしか能力を発現できない小さな小さな妖怪でしかない彼女が、大きな流れに飲み込まれてしまったと言うことに。

 古明地さとりは気付けない。平凡であり続けようとする彼女は、そう言った大きな事に気付けない。

 

 それに気付くことができたのは、今はまだ二人だけ。

 一人は人間、博麗霊夢。驚異的な直感により、彼女は古明地さとりが幾度となく表に出てくることになると直感する。

 

 そしてもう一人は───無意識に潜み無為に生きる、怪物と成った妖怪少女だけであった。

 

 


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