不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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さらば奥州

完勝で終わった合戦だったが、その後が俺にとって本番と言っても過言ではない程の混沌と化していた。

 

「この一日でいったい何が起きたのだ?我は混乱しておるぞ」

 

 

合戦が終わったその日の夕食。仲良くいつもの位置について料理に舌鼓を打とうと考えていたのだが、混沌の元凶とも言える二人が俺の隣をガッチリマークして座ったのである。

 

 

「ん~~俺も知りたいんだよね」

 

半ば検討がついているんだが口に出すとの自分の首を締めることになりそうなので秘密にするしかない。にしても……。

 

 

「小十郎離れて。灯が苦しそう」

 

「いくら成実様の頼みでも聞けません。それなら成実様が離れたらいいんじゃないんですか?」

 

「うぅ~~!!」

 

「むぅ~~!!」

 

 

絶賛目の前で火花を散らしあっている政宗ちゃんが混乱している元凶の二人。片倉小十郎と伊達成実である。

 

修羅場すぎて辛い。ついでに言えばお互い腕を組む力が強すぎて骨が軋んでいて辛い。

 

 

「さすが灯様、男よりも虫好きの成実様だけでならず、片倉様をも手篭めにするとは恐れ入ります!!」

 

 

もう忍ぶことさえしなくなった蔵人ちゃんはキラキラした尊敬の眼差しを天井からぶら下がりながら向けていた。呼び方も様になってしまったし。

 

 

いつの間にかすごい懐かれてしまっていた。帰り際の本人曰く『戦場で初っ端から爆弾を使う極悪非道な忍なんて初めて見ましたよ!!!一人の忍として一生ついて行きます!!』と俺の爆弾を使ったという罪悪感を引きちぎりながら褒めちぎられた。

 

 

「分かりました。そこまで言うのなら戦いましょう」

 

「受けて立つ」

 

闘志丸出しで立ち上がる二人を止めようとするが、怖くて声が出せないよぉぉ~~。

由々しき事態ではないと察した政宗ちゃんはピリピリとした空気の中、意を決して立ち上がる。

 

 

「こ、こら!!お主らいい加減に「黙って(ください)!!………ひっく、えぐっ、も、もう我は知らない!!大嫌いっだ!!うえぇ~~ん!!」

 

 

結果ガチ泣きである。

 

「お~よしよし怖かったねぇ~俺は政宗ちゃんの味方だからねぇ~」

 

「あ、あ、あ"か"り"ぃ"~~!!」

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を着流しに顔を埋めてくる。高かったのになぁ~これ。でもまぁ、幼女から出る液体のすべてはご褒美って言うしね。

 

「で、何で勝負するの?剣術?武術?」

 

腕を組み、おっぱいをその上に置いている……だと!?こ、これは微乳小十郎ちゃんへの挑発なのか!!

 

「いえ、そんな殺伐とした勝負ではありません。勝負内容は簡単………灯どのの《───》をどちらが先に昇天させるかです」

 

小十郎ちゃんの心の自制心なのか色々なモノが外れてしまったらしい。今まで抑えていた欲望をすべてぶちまけている。

 

「どうしたのだ灯?耳など抑えて、何も聞こえないであろう」

 

政宗ちゃんには卑猥な言葉を聞いて欲しくないの!!純粋な中二病でいて欲しいの!

 

「乗った」

 

「乗らないでくださいお願いします。成実ちゃん」

 

バトル形式で俺の日本刀を昇天させるってさ、必ずへし折れるフラグが建ってるもんきっと。

 

「さすが灯どのですね。上の口ではなく下の口ではないとダメ、ということですね」

 

辛うじて発言の恥ずかしさに頬が紅くなっているが、脳内はピンクを通り越して深紅に染まっている。

 

「灯。小十郎には口が二つあるのか?」

 

「ハハハッそんなわけないよ。小十郎ちゃんのちょっとした冗談だよ」

 

クッ、これ以上政宗ちゃんのいる前でそんなこと言わせない!

 

「待ってくれ小十郎ちゃん、成実ちゃん!!」

 

「灯、何で先に小十郎の名前を出したの?なんで……?」

 

ふえぇぇ~~ヤンデレてるよぉ~。

助けを求めるため蔵人ちゃんの方を見ると……親指を立てていた。

 

「グッ!じゃねぇよ!!」

 

クナイに怒りを込めて投げつけるが余裕な表情で掴まれてしまう。ぐぬぬ、ムカつく。

 

「待ってくれ!二人とも」

 

とりあえずやり直してみる。

 

「止めないでください。これは僕にとって人生がかかってるんです!」

 

「灯と結ばれるのは私」

 

俺の意志はないと……。

 

「気を取り直して奉仕勝負!始めっ!!」

 

獣のような鋭い目で迫ってくる。強姦ってこんな気持ちなのね。

 

「待て待て待て待て待て!!!来ないでぇ~」

 

のそりのそりと重い空気を纏いながら一歩また一歩と、ついには目の前にやってきた。

 

必死に手で着流しを抑えるが奥州を代表する姫武将二人がリミッターが外れた状態で奉仕をしにくるため呆気なく着流しは奪われてしまった。

 

「拒絶してますけど灯どののココは違うみたいですよ」

 

「これが灯の……ゴクリ」

 

息を荒らげながら俺の息子を見る二人。

 

「ごめん二人とも!!」

 

こんな機会滅多にないけど、政宗ちゃんの目の前でこんなことする訳にはいかない!!

咄嗟に睡眠薬を液体状にした秘薬を二人にかける。

 

「ひゃっ!なんですかこれは」

 

「ベチョベチョ……」

 

全身に白い液体を纏わせてしまったせいで、ますますエロいことになってしまった始末。だが、これで大丈夫。

 

「うっ、急に眠気が……」

 

「すぅ~すぅ~」

 

ふぅ~一安心。政宗ちゃんの方を見ると蔵人ちゃんが目と耳を塞いでいてくれていた。よかったぁ~蔵人ちゃんは空気が読めるんだね。

 

「蔵人が我の目と耳を塞いでいた間にいったい何が起きたのだ?」

 

「ううん何でもないよ。二人とも疲れてたんだよきっと」

 

「そうであったか!そうかそうか、今日はゆっくりと休むがいい!!」

 

穢したくない……この笑顔。

 

小十郎ちゃんと成実ちゃん、政宗ちゃんを寝床に連れていき終わる。

 

さっきまでの賑やかさが嘘のように静まり返る。これも今日で最後か……寂しいねぇ~。

 

「でもまぁ、やるべき事をやろうかな」

 

いつもの黒装束に着替え、腰に小太刀を二本。体の至るところに暗器を忍ばせる。

「さて、行きますかね」

 

屋敷の扉を開けると夜の冷たい風が吹き抜ける。

 

「お供しますよ灯様」

 

月明かりに照らされている箇所に黒き葉を周囲に纏わせ参上したくの一。

 

「蔵人ちゃんは伊達家の忍でしょ?いいのかな、俺と来ても?」

 

「そこは問題ありません。政宗様からの許可は得てますから」

 

抜け目ないなぁ~と関心する。

 

「んじゃ、行こっか。蔵人ちゃんが来れば百人力だしね」

 

たった一人の姫武将のために命をかける。悪くは無いな俺らしくって……。

今宵は満月、黒き二人は闇に紛れることをせず、淡々と目的地まで駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら~凄い警備ですねぇ」

 

出羽国を国とする最上義光の城、山形城。本丸、二の丸、三の丸が円心円状に輪郭する構造。

 

「だね。まるで俺たちがこの数日の間に来るのを見越したような感じだよ」

 

普通の警備ではありえないほどの兵士、松明の数。そして、微かにだけど城周辺には忍がいるな。

 

「最上義光に何をするつもりで?暗殺ですか?」

 

「違う違う、ただの話し合いだよ。ま、あっちの対応次第でそうなるかもしれないけど」

「悪い顔してますよ」

 

おっと、ついつい顔に出ちゃったか。

朝になる前にサクサク行くかな。これといって注意すべき箇所がないため本番は天守閣に登ってからだろう。大した緊迫感を覚えず、澄み切った頭で片手に爆弾を持つ。

 

「準備はいい?」

 

「いつでも大丈夫です!」

 

勢いよく攻め込む反対側へ爆弾を全身全霊全力で投げつける。携帯サイズの大筒が欲しいこの頃。

そう思っているうちに城外はざわつき、敵襲だのなんだの爆弾を投げた方に集まっていく。

 

監視が消えたことを確認した後、蔵人ちゃんとアイコンタクトをし、茂みから足音と気配を殺し城壁を登る。

 

真近で城を見るのは久々で改めてこの時代の建築技術に感嘆する。この一番上で見る景色はさぞや絶景だろうな。

 

 

天守への道筋は頭に叩き込んでいるため最短ルートを突っ切る。途中何人もの兵士と遭遇したが、声を挙げさせる前に殺す。

 

二の丸を超え、そろそろ爆弾による陽動も気づかれている頃合だと思いつつ、目前に迫る天守を目指す。

 

「順調ですね」

「ここまではなっ!」

 

突然の飛来物を小太刀で弾く。

 

「面倒臭いのと遭遇しましたね」

 

「ああまったくだよ。最悪な登場だ……」

ここへ忍び込むのにおいて一番会いたくない者が一人だけいた。

 

「義姫どの」

 

角のような髪飾りに活発さを漂わせる凛々しい顔立ち。まったく、政宗ちゃんの母親には見えないよ。

 

「あたしの名前を知ってるんだね。名を名乗りな」

 

「初めまして不知火 灯と申します。最上義光に用がありここに来ました」

 

「ふ~ん、さっきの騒動はあんたらの仕業ってことかい。あたしとしては通してあげたいんだけど、正規の手順じゃないから追い返させてもらうよ」

 

さすがに一人での登場ではなく義姫の背後に最上義光の直属であろう四人の忍が現れる。

 

「ど、どうしますか灯どの?いくら私でも四人相手は嫌なんですけど」

 

「無理じゃなくって嫌なんだ……。それじゃあ時間稼ぎよろしく」

 

「えっ……?ちょ!待ってくださいよ!!」

 

俺が動き出すのと同時に義姫たちも動き出す。義姫との距離が5メートル未満になった瞬間、義姫が地面への踏み込みを強め、土に割れ目がでながら一気に零距離となる。

 

「チッ……!!」

 

右手から放たれる掌打を小太刀で受け止めながら、勢いを殺すため真後ろに重心を置き、吹き飛ばされるように装う。

 

「なんて威力なんですか、ッ!」

 

受け止めた小太刀は折れていた。

 

「灯って言ったけ?良い腕前だね」

 

こんな鬼みたいに強いのに妹属性持ってるとか信じられないんだけど。

 

「鍛えてますから」

 

もう一回と言わんばかりに、狼のような速さで迫ってくる。迎え撃つのは危険だと考えるが、敢えてカウンターを狙いに行く。

 

またもや踏み込みを強め一気に距離を縮め、空中での回し蹴りがくる。タイミングを合わせ右脚を掴み力の方向に逆らうことをせず、そのまま投げ飛ばす。

 

投げ飛ばしただけで威力はないが、それで十分。

着地地点を見極め、数歩手前に止まるが義姫は重心を真下に置き、俺が立っている真上から落ちてくる勢いを利用した踵落としを繰り広げる。

 

「アグッ!!」

 

人間離れした運動能力に驚愕しつつ、腕を頭の上で交差し防ぐ。落石してくる強大な岩に当たったような衝撃で骨の髄まで痛みがくる。

 

押し切ろうとする義姫は脚に力をさっき以上に込めてくることによって、俺の足場が凹んでいく。

 

「いい加減にしろぉ!!」

 

交差していた腕を思いっきり広げ、義姫を遠ざける。

 

「戦線を退いたとはいえ、まだなまってないもんだね」

 

楽しんでいるらしく笑顔が見られる。戦で咲く花もあるって言うけど、きっとこの人のことを言うんだろうな。

 

あんまり使いたくなかったけど、使わなきゃ倒させるのは俺だし、出し惜しみしてる場合じゃないか!

 

「ふぅーー!!!!」

 

肺の中の空気を入れ替えるように深い深呼吸をする。精神を研ぎ澄まし、視界を広げる。

 

先程までなかった風が吹き始める。

 

「風魔流忍術──影縫いの術」

 

満月ということで義姫の影が濃くしっかりと地面に写っている。その影をクナイで刺す。他の流派も使える影縫いの術だけど、風魔の術は一線を画している。

 

おっと、某忍者漫画のマネじゃないぜ。ちゃんと存在してるからね!!

 

「か、体が動かない……!!」

 

詳しいことはよく分かんないけど、とりあえず相手の動きを止めるとしか言えない忍術なんだよね。それでも精神と神経を容赦なく削っていくため、使うのはあまり気が進まない。

 

「遠慮なく気絶してもらいます」

 

鳩尾に拳を突き立てようとした瞬間……義姫の右拳が顔のすぐ横を通り過ぎた。掠った頬は切れており、血が流れる。

 

「化け物か何かですか?義姫どのは?」

 

「ははっ、それはお互い様だろ。だけど、あたしの降参だよ。あの一撃にかけたんだけどね~。もう動けやしないよ」

 

女性の言葉を信じるがもっとうの俺は蔵人ちゃんの方を見る。

飽くまで逃げに徹していたらしく、目に見える外傷はなくあるとすれば装束が軽く切れて、マスクが外れているぐらいだった。

 

「あれ?もしかして政宗のところの忍じゃない」

 

「気づかれちゃいましたか~~あちゃ~」

 

 

まったく残念がってる仕草を見せない。

 

「ってことは、またあの人が何かしたんだね。通りな、そしてちょっとお灸を据えてくれない?」

 

義姫どのの術を解き、お安いごようと、一言告げてから天守を登る。

蔵人ちゃんを連れていて正解だと思いながらも月明かりで黒光りする瓦を蹴る。

 

天守の中にはたった一人だけいた。

 

「お初にお目にかかります。最上義光どの」

 

「ハッハッハ!!噂程度なら貴様のことを知っているぞ。政宗たちが気づかなかったのは無理はないがな」

 

盃に酒を注ぎ、飲み干す。その一連の動作だけで大名の品格を感じさせる。

 

「噂……ですか」

 

「風魔に伊賀、霧隠と名のある流派を極めたっていう化物みたいな忍がいるってな。んまぁ、俺は単なる作り話と思っていたんだが、まさか実在するとはな……感動するべきか後悔するべきか……

 

「俺のわけないじゃないですか。俺はしがないただの忍ですよ。そんな大それた者じゃありません」

 

「ほう、否定するか。だが意味は無いぞ。そこにいる世良蔵人がたった二人で城に踏み込むという自殺行為に手を貸したのが何よりの証拠だ」

 

俺は後ろにいる蔵人ちゃんに目で問いかける。

 

「その忍の噂は忍の中でも有名な話です。ただ、世間に広まってる噂の中で一つだけ広まっていない噂があります」

 

「初耳だな、それは」

 

「ええ、それもそのはずです。風魔小太郎、服部半蔵、霧隠才蔵、百地三太夫、猿飛佐助など他にも数名いますが、といった戦国の世に名を轟かせている忍たちによって秘匿にされていたことがあります」

 

自分のことなのに不思議な気持ちとなる。とぼけていたが、戦国の世に広まっている噂のほとんどが真実である。

 

「姫武将というこの国の文化を壊そうとしている、と」

 

「つまりは、この戦国の世を終わらせようとしているのか。そんな奴に会えたなんて、今日は良い日だ」

 

どんどん話が違う方向に傾いている気がするから、ここらで軌道を併せる。

 

「最上義光どの。豪族を焚きつけて攻めさせたのはあなたですよね?」

 

正直に名乗り出るはずがないのは分かっている。証拠を出さないまま、犯人はお前だ!、なんて言って、はいそうですっていうような犯人はいないだろう。

 

「まったくもってその通りだ」

 

「証拠ですか……って認めちゃうんですか!?」

 

義姫の兄だけあって性格が似ている。

 

「まぁその方がありがたいんですけどね」

 

いつの間にか夜が明けてきている。残された時間はあと僅か。

 

「捲し立てるようで申し訳ないですけど、俺から一つ忠告を……次、俺の大切なものにちょっかいを出したら問答無用で殺しにいきますね」

そう言い残し、蔵人ちゃんとともに天守から立ち去る。

この程度でやめるような人じゃないだろうけど、それでもほんの僅かでも抑止力となるのなら本望。後は政宗ちゃん次第。

 

「俺も恐ろしいものに目をつけられたもんだな。ハッハッハ!!」

 

そんな高らかな陽気な笑い声が聞こえてきていた。

 

 

 

 

城から離れるべく駆ける。

 

 

「灯様はこれからどうするんですか?」

 

「とりあえず近場の越後かな。蔵人ちゃんはどうするの?」

 

「灯様についていきますよ。あっ、政宗様からの許可はもらっていますので気にせず」

 

「抜かりないことで……」

 

夜明けの陽の光を全身で浴びながら、奥州へ別れを告げる。

 

さらば!奥州

 

 

 

 

 

「やっぱり行っちゃいましたか」

 

「寂しい」

 

「そうへこたれるでない。またすぐ会えるに決まっておる。その前にだ!我をハメようとした最上義光を打ち取るぞ!」

 

 

二人の姫武将の凍りついた心は春の訪れを感じたのかのように溶けきっていた。

 

 

そして、ここに一人。奥州の支配者として名乗りを上げるのもまた、時間の問題である。

 

 

 

 

 




どうも騎士見習いです。多少無理矢理感がありますが気にせずに。
次は越後ということでよろしくお願いいたします

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