不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~ 作:騎士見習い
「やっと着いたぁぁ!!」
さすが奥州!見事なまでに何もない。だがそんなところだからこそ、美少女がより美しく見えるに決まってる。まぁ現実としては、今の奥州は伊達政宗が突然奥州平定をしようと、各地を攻め込んでるらしいし、それを食い止めようと最上家が対抗してるのだが……ぶっちゃけ関係ない!
道中は大した感想を抱かないまま伊達政宗がいるであろう不気味で怪しげな屋敷につく。
十字架が逆さまに刺さってるぞ。か、かっちょえぇ~!神への冒涜を恐れない心、俺の好感度がグイングイン上がってる。
だがまぁ、伊達政宗が住んでいる屋敷を探すまでに、不思議な噂を聞いた。南蛮人のような風貌だの、あんち・くらいすとや黙示録と痛い中二病用語が並んでいた。驚きビックリな噂の中でも一際、際立ったのが……。
──邪気眼龍政宗──
えっ?あの奥州の独眼竜ってイジメられてんの?と思ってしまった。クラスにいる中二病への陰口のような二つ名をお持ちのようです。それと、伊達政宗は幼女ちゃんらしいです。
「ま、会ってみなきゃ分からないか」
怪しげな屋敷へ入るのは、一種のホラーゲームの主人公気分である。バイオでハザードなことが起こらないことを願うしかない。
「侵入者発見」
言葉が聞こえた瞬間に、右足で思いっきり踏み込み、前方に体から突っ込むように飛び退く。恐る恐る後ろを振り返ると、露出したおっぱいが見えていた。真面目に語るとあと一瞬遅かったら彼女が切っていたのは空ではなく俺の首だった。
「今のを避けるなんてすごい」
「いやいやそんなことありますよ。いきなり切りつけてきた君は誰かな?」
「……伊達成実」
ああ確か伊達政宗の従兄弟だっけ。正確には従姉妹というわけか。つまりは伊達政宗と年齢がほぼ一緒なのだが、胸にある豊満なおっぱいに将来を期待せざるを得ない。
「なんで俺襲われなきゃいけないの?悪いことした記憶ないんだけど……」
「姫の屋敷の前で怪しげな行動をしていた。それと名前を知らない人は敵と姫は言ってた」
簡潔に言うと、不審者ってことなのか。失礼だなあんなマナーを弁えてない連中と一緒にされては困るな。こっちは紳士的に行動しているぞ。
少しピンチっていうのは感じ取れるんだけど、成実ちゃんからはおバカな匂いがぷんぷんするんだよね。
「それもそうだね。俺は不知火 灯よろしく。ほら、これで敵じゃないでしょ?オレハキミノ、テキジャナイ。ナカーマ」
「うん。もう敵じゃない、名前覚えたから仲間。」
そう言うと刀を鞘に戻す。
あら♡本当におバカだったわ。もう、それこそ不審者に何をされるか分からないわね。
「成実ちゃん、その肩にぶら下げてる虫かごは何?」
「ん?ああこれ?虫を採るため。私、虫が好きだから今日も虫を採るついでに姫のところに行ってきたんだ」
そうだ、と成実ちゃんはガサゴソと小さな巾着袋を漁ると茶色の物体を出してきた。長い脚に触覚、グロテスクな目……イナゴの佃煮である。
「栄養満点、食べれば健康間違いなし。仲間だからあげる」
ふっ、いくらこの時代の人でも虫を食べるというのは抵抗があるだろう。けれど俺は地獄のような修行の一環に《放送禁止》の姿煮や《自主規制》の活き造りと思い出すだけでゲロりそうになる。
「いただきます。………ん!うまいな」
「灯とは仲良くなれそう」
とっても満足気な成実ちゃんの表情に少しばかりの幸福を感じる。
「んじゃ、お礼に虫が溢れんばかりに群がる蜜の作り方を伝授させてやろう」
「ほんとか!?」
「ほんとだとも!」
今度は俺が荷物を漁る。そして、必要なものを取り出し地面に置く。
酢に酒、砂糖にすりおろしたリンゴ。夏休みの自由研究がこんなとこで役に立つとは……。
「それをどうするだ?」
「なんと……混ぜて巾着袋の中に入れる!」
「な、なにィィ~~!?」
「そして虫がいそうな所の木にくっつける!」
「おおッッ~~!!」
あまりにも良い反応をしてくれるから熱烈に説明してしまった。やれやれ、困ったもんだよ。
「早速仕掛けに行こう!灯」
虫が絡むとハイテンションになる辺り年相応で可愛らしいな。
ん?何か忘れてる気がするが大丈夫だろう。たぶん。
「朝から我の屋敷の前で騒いでるのは誰だ!!」
不気味なあの屋敷から金髪左目眼帯ロリっ子もとい伊達政宗が現れた。
不知火 灯はどうする……?
①抱きつく
②ハグする
③モフモフする
クソっ!なんだこの究極の選択肢は!俺にこんな試練を与えるなんて仏様はドSだぜ!こうなったら……。
①抱きつく ←
②ハグする ←
③モフモフする ←
①、②、③に決定!!!
「可ァァ愛いィィよォォ!!!うりうり~」
「うにゃぁぁ!!誰だお前はやめろ離せ~!!おい成実見てないで助けろ!!」
あ~いい匂いするし柔らかいし幼女って国の宝なのかもしれない。どさくさに紛れて胸に手を伸ばす。
「ふみゃ!?」
南蛮合羽を着ているおかげでおっぱいの感触が分かりやすい。発達してないにしても柔らかさがあり、突起を軽く指の腹で擦ると硬さがましていた。小さくても女なのか……なるほど。
「にゃんか変な感じがする~」
「姫の嫌がることしちゃダメ」
まるで、優しく注意するかのように鞘から抜き放たれた刀を上段から一気に振りおろしてきた。
「手加減してちょうだい!!」
政宗ちゃんを離し片足だけ膝立ちのまま白羽取りをする。刀身を挟んでる両手は手汗で大変な事になってしまっている。ぬるっと滑り落ちそう……。
軽く振りおろしてるつもりなのだろうが、天性の才能故か速度と力は鋭く強い。そこらの侍を二回り以上も凌雅している。
「し、しししし成実、我ごと切る気か!死んでもおかしくにゃかったぞ!!」
「大丈夫、このくらいなら灯が何とかしてくれるから」
「成実ちゃん、実力を買ってくれるのはありがたいけど、次からは実力行使じゃなくて口頭注意を先にしてくれると助かるよ」
こんなことを毎度毎度されたら精神的にもたない。
「姫、注意したなら早く帰ってきてくだ……って!?何があったんですか!?」
政宗ちゃんが現れたところからまたしても人が現れる。おお、もしや奥州一美男子と名高い片倉小十郎、本人なのかな。
片倉小十郎が絶句し壮大なリアクションをするのは当たり前だろう。だって、目の前には大事な主である政宗ちゃんが成実ちゃんに切られそうなのを俺が守ってるんだから。驚かない方がすごい。
*
「もう、成実どのももう少し平和的に注意できないんですか」
「申し訳ない」
ご立腹な小十郎くんに目に見えて落ち込んでいる成実ちゃん。
小十郎くんのおかげて場が丸く収まり、あらためて俺は不気味な屋敷の中に入った。
「姫ももう少し落ち着いてればこんなことにならなかったんですからね」
「にゃんで我が怒られなきゃにゃらんのだ!元を辿れば、いきなり抱きついてきた、こ奴が元凶だ!」
クゥ~!正論すぎて何も言い返せないぜ!
「ほう……姫に抱きついたと」
目の色素が消えゆらりゆらりと近寄ってくる。怖い怖い、ヤンデレってこんな感じなん!?
そして射程圏内に入ってからのベアクローをくらう。頭蓋骨が軋み、嫌な音が屋敷内に響く。やはり政宗ちゃんのお傍付きだけあって力量はまずまずだな。うむ。
「って痛い痛い!!ごめんさないもう二度としませんから!!許してください!!」
ふっ、と頭蓋骨の圧迫が消え、手が放される。
「ハァ……分かりました。今後は変な気を起こさないようにお願いしますよ」
小十郎くんマジ天使!
無事にお許しがでたのだが、ここで気になることが一つ!
「……もしかして小十郎くんって女?」
「なななななな!!??なんでそんなことを!?!?」
「なんでって言われても、ん~匂いと手の柔らかさ、後は……胸かな」
いくら男装しても女の子特有の匂いと柔らかさって消せないもんだよね。それにサラシを巻いてるんだろうけど俺の目は誤魔化せないだなぁ~。
んまぁ、否定しない辺り当たってたか。
「こ、小十郎。こ奴は以前話した相良良晴をも超える変態なのかもしれん。ククク……これも世界の終末が近づいてるというわけか」
「さすが灯、小十郎の男装を見抜くなんてすごい。理由は最低だけど」
ここまで俺の理由が不評だとはな。かっこよく言った方がよかったのか。『君のおっぱいが囁いてきたんだよ』あ、ますます変態っぽくなっちゃった。
「おホン!ま、まぁ理由はどうであれボクの男装を見抜いたのは評価します。だけど、この事実はここだけの話にしてくれませんか?ボクも訳あって男装をしてるんで……」
「うん別にいいよ。女の子を脅すのは趣きがないからね」
「本当にいいんですか?こう、何か要求とかしないんですか?」
「逆に小十郎ちゃんはどんな要求を想像してたのかな~?」
「あ、いや、それは……」
頬を紅潮させ頭から湯気が出そうなほどあたふたしてしまった。小十郎ちゃんは多分、恥ずかしながらも精一杯ご奉仕するタイプだと思います。
「我の予想だと、小十郎は口では嫌がるが、体は正直だなと言われて恥辱を味わうと考えたぞ」
「だ、だから姫はなんでそう親父っぽいことを言うんですか!幼女らしくしてください!」
誰が幼女だ~!と文句を垂れているが無視する小十郎ちゃん。政宗ちゃんもなかなか、やるじゃないか。
「変なことを考えたら容赦無く切りますからね」
これは警告ではなく脅しだ、と小十郎ちゃん。の目は語っていた。
「ん、ところで我はお主の名を知らん。この天下覆滅のあんち・くらいすと、邪気眼龍政宗に名を名乗ることを許そう」
素晴らしいほどに痛い、中二ネーミングを偉そうに名乗っているところがギザ可愛ゆす!どうやら、邪気眼龍政宗は陰口ではなく本人が自ら名乗ってました。
「あらためて、不知火 灯。不滅を知る火の灯りで不知火 灯って言うんだ。よろしくね政宗ちゃん、小十郎ちゃん。」
「ええよろしくお願いします灯どの」
政宗ちゃんの返しが聞こえず見てみたら震えていた。
「か…かっ……かっこよいではないか灯!!なぜ今までそんな、いかした名を隠していたのだ、不滅を知る火の灯り、我の心をガッシリ掴んだぞ!」
お気に召したようでなにより。今さっき思いついたのが好評価でよかった。これで閑古鳥が鳴くことになったら奥州から出ていったね。
「ククク不知火 灯。我は貴様を気に入ったぞ!」
「はっ!身に余るありがたき言葉、感謝の言葉もありません」
名前だけで好感度がグインと急上昇である。今日ほど名前に感謝した日はないだろう。
どうやら、内容秘密である俺の野望の話や越後から来た、かねたん?とかいう真面目な子の話で結構な時間話していたらしく陽が暮れていた。窓からは夕陽の光が差し込んでいる。
この時代の自然は現代と比べ物にならないほどに神秘的で幻想的である。
「それじゃあ私は帰る」
「気をつけるのだぞ成実」
「成実どのまたいつでもいらしてくださいね」
「じゃあね成実ちゃん」
扉を開ける寸前に動きを止めた成実ちゃん。忘れ物かなにかかな?
「そうだ灯。教えてくれた蜜を帰るついでに塗るから早朝に一緒に見に行かないか?」
どこか期待したような目で俺を見る。
「もちろん喜んで行くよ」
「そうか。じゃあまた」
ホッと安堵したあと無邪気に喜んだ顔を見せ屋敷から出ていった。
「灯どのは今夜の下宿先はどうなってるんですか?」
夕陽のせいなのか分からないが顔が赤い小十郎ちゃん。
「参ったことに下宿とかまったく決めないまま、奥州に来ちゃったから困ってるんだよね」
「それならそうと早く言えばよいものを。今夜だけとは言わん、灯の野望とやらが済むまで泊ってよい。この我が認める」
「姫の言う通りですよ。どうぞ好きなだけいてください」
この二人の優しさにそれこそ感謝の言葉もなかった。それと、俺の野望のゲスさに罪悪感が芽生えてしまう。
「よろしく頼むよ。二人とも」
奥州民としての優しさなのかそれともこの二人だからこその優しさなのか、ともあれ宿ゲット!
どうも騎士見習いです。
灯くんは政宗ちゃんに成実ちゃん、小十郎ちゃんと攻略していくつもりです。まだ出てませんが愛姫は確定として義姫をどうするかはめんどくさかったら書かないかもしれません。
読んでくださってありがとうございます。では、また!