不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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謙信ちゃんマジ神ちゃま!!《前編》

 

 

 

今朝方、私のところに早急に届いた一報を謙信様へ伝えるべく寝室へ赴く。

毘沙門堂が燃え尽きた今、謙信様は城の中にある一室で過ごされてる。本来なら天守を自室にするのが普通なのだが、生まれ持った真珠のような白い肌のせいで日光が天敵であり、そのため日光が当たらない城の中心部を毘沙門堂の修復が終わるまで使用する形となっている。

 

 

「失礼します。早急の報せを伝えにきました」

 

「ご苦労ね。どんな内容なのかしら」

 

掛けてある日の本の地図を見ていた視線が私の方に注がれる。何度見ても神聖な美貌の前に私は飲まれたくなる。だが、そんな時間もなく必死に思考を戻す。

 

 

「はっ。昨夜、依然逃走中の不知火灯の手によって加藤段蔵が敗れました」

 

灯先輩の力を信じてなかった訳ではないが、まさか段蔵を倒すほどの実力を持っていたことに驚きを隠せなかった。

 

「あの段蔵が負けたのね。…ふふっ、毘沙門堂を燃やすだけの実力はあったってことかしら」

 

 

私と同じ驚きの気持ちを持ってるのだが、それ以上に強敵が目と鼻の先に現れたことに喜びを隠しきれてない謙信様。私利私欲のために血を流すことを嫌う人なのだが、姫武将としての相なのか自分の実力を存分に出し切ることに少しばかりの快感がある。

 

 

「兼続、戦の準備を整えなさい。灯の行動によって民は皆、怒りによって暴れかねない。だから、収めるためにも彼の首が必要だわ」

 

「分かりました。至急準備します」

 

「それと毘沙門天として私が直々に先陣に立ち灯を討つ。彼の居場所が分かりしだい出陣をする」

 

謙信様の言う通り、今の民は血眼になって灯先輩を探している。手柄を取るためでない、自分の信仰している神が侮辱を受けた仕返しと言うのだろうか。温厚な越後の民は武器を取り団結している。

 

 

「では、分かりしだいお伝えします」

 

 

部屋から出て私は戦の準備を片手間に夜を待った。

覚悟はしたが未だに消えない主君を裏切ったという罪悪感。彼は言った。

 

君は正しいと。

 

なら、答えは戦いのその先にあるのだろう。私は強く決意し、約束の場所へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

情報の交換のため灯先輩とは毎日、丘の上にある杉の巨木を待ち合わせ場所として用いている。

 

「待ったかな?兼続ちゃん」

 

何も無いところから突撃現れた忍が二名。不知火灯と世瀬蔵人。この二人に私は元の越後に戻すために依頼を申し出たのだ。

 

「大丈夫です。あまり時間がないため打ち合わせをしましょう。謙信様も信玄公との戦みたいに本気ですから」

 

「そりゃあ嫌だなぁ。謝ったら許してくれるかな」

 

「私も嫌なんですけど、帰っていいですか?奥州が恋しいです」

 

 

本気か冗談なのか判断できないんですけど。この人たちはまったく……。よく段蔵に勝てたものです。

 

 

「戦の準備はもうできています。後は灯先輩がどこで戦うかを決めてくれれば舞台は揃います」

 

 

どこを選んでも灯先輩の不利ということに変わりない。例え越後以外を選んだとしても、謙信様は毘沙門天の加護の元、天候をも味方につける。桶狭間の戦いの織田信奈のように。

 

 

「どこで、か。う~ん」

 

「奥州がいいと思いますよ!」

 

「却下」

 

 

なんと言うか。この二人は本当に仲が良いですね。出会ってまだ一月も経ってないと言うし……。不思議です。

 

灯先輩の考えも纏まったようで口が開く。そして、発された言葉に私と蔵人どのは声がでなかった。

 

「あれ?聞こえなかった?ではもう一度。川中島で戦うことにするよ!」

 

 

「聞こえてましたよ!!川中島ぁ!?馬鹿ですか先輩は!川中島は信玄公との合戦をするための場所であり、両者からすれば運命の地と言っても過言ではないのですよ!!」

 

 

本当に本当に馬鹿な人かここにいる。すべて灯先輩に任せると言ったのは私ですけど、まさかここまで酷い考えに至る人だなんて……。

 

 

「ほら蔵人どのも灯先輩に文句を言ったらどうですか?溜まってますよね」

 

「灯様、あなたという人は……最っ高です!!ココ最近思ってたんです。私も忍として何かしら名が轟くことをしたい、と。川中島で戦うなんて偉業を成し遂げられれば私もきっと!!」

 

 

ダメですねこの人も。明後日の方向を見ながら目を輝かせてしまっている。やっぱり類は友を呼ぶと。はぁ……。

 

 

「どうせ言っても無駄ですね。分かりました。私も覚悟を決めます。本当に川中島でよろしいですね?」

 

「「もち!!」」

 

 

こうして越後の未来を左右する合戦が幕を開ける。

 

 

 

 

ううあぁぁ!!馬鹿馬鹿!!灯先輩の考え無し!よくよく考えれば信玄公にも喧嘩を売ってるってことになるじゃないですかぁーー!!もしも万が一の時があれば灯先輩に責任を取ってもらいますからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はてさて蔵人ちゃん準備は整ったかな?」

 

夜明けが迫り、川中島へ移動するべく身支度を整える。

 

「もちろん。ありとあらゆる暗器を忍ばせてますよ」

 

 

ものすっごいテンションが上がってるけど後々自分の無謀さに絶望しなきゃいいけど。まっその時はその時だね。

 

「じゃ!出発進行!」

 

「おーー!!」

 

 

小一時間かけて川中島に着く頃には陽が昇っていた。陽射しを全身に浴び気持ち良く伸びる。

 

川中島はその名の通り、いくつもの川によって土地が分断され島のようになっている。簡単に言えば扇状地みたいなものである。

 

この地で雌雄を決する戦いが何度も繰り広げられたのかと思うと吸っている空気が重く硬く感じてしまう。

 

──嫌いじゃないなこの空気は。

 

兼続ちゃんもちゃんと仕事をしてくれたようで、俺たちの反対岸には続々と越後の兵を率いて先陣に立つ謙信ちゃんがいた。

 

 

「痛たたっ、お腹が苦しいよぉ~」

 

「そうか。なら肘じゃなくてお腹を抑えようね」

 

「くっ、私としたことが混乱の余り肘を抑えるなんて……」

 

こんなしょうもない仮病を使い始めた蔵人ちゃんを子供に言い聞かせるように指摘する。

さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら……。

 

「もうどこへ行ったんだい?今朝のやる気は?」

 

「奥州へ行きましたので取りに帰ります。では!グベッ」

 

往生際が悪く、何とも自然に退散しようとする。とりあえず装束の襟を掴んで止める。顔をのぞき込むと今にも泣きそうな蔵人ちゃんに申し訳ないと思いつつゾクゾクしている。

 

「だってぇ~一部隊だけかな、って考えてたのに見てくださいよ!あの数!大まかに数えるのすら嫌になりますよ」

 

 

それはごもっともな意見である。正直、三千はくだらない兵の数に内心、気が滅入っている。士気も高く、ガシャンガシャンと互いの武具が当たる音が雷鳴のように鳴り響く。

 

 

「よりにもよってここを選ぶなん──「元は毘沙門堂を焼かなきゃこんなこんとになんなかったんですよ!」

 

謙信ちゃんが何か言った気がするけど、被って聞こえないや。

 

「よりにもよってここを選ぶなん──「蔵人ちゃんだって焼きましょ!焼きましょ!って盛り上がってたじゃん。手のひら返しもいいところだね」

 

次は俺がやってしまった。ごめんちゃい謙信ちゃん。

 

 

「よりに──「今度という今度は怒りましたよ!」

 

「上等!かかってこいや!」

 

温厚な俺でもこの理不尽さに腸が煮えたぎってるよ。川中島で戦う?んなもん今はどうでもいい!

 

「ふっ、ふふふふふっ。そう……ここまで私を苔にするなんて怒りを通り越えて笑えてきたわ。はははっ!」

 

「け、謙信様落ち着いてください!!冷静に行きましょう」

 

「──全軍、突撃ぃ!!!」

 

 

謙信ちゃんが発した命令によって突撃してくる上杉軍。んなまさかぁ、と思いつつ蔵人ちゃんと一緒に上杉軍を見ると……突撃していた。互いに顔を見合わせ、

 

 

「ゆ、夢ですよね……?灯様」

 

青ざめた表情で同意を求めてくるが、残念ながら夢でも何でもない。それを分からせるために両頬を引っ張る。

 

 

「にゃにしゅるんれすか!?」

 

「ね、痛いから夢じゃないでしょ」

 

「!?……ま、分かってましたけどね。グスン」

 

とまぁ、いちゃこらしている間に距離がみるみるうちに狭まる。ついにこちらの岸に地を踏みしめようとした瞬間。

 

 

「ったく世話のかかる弟子だな」

 

 

口元を歪めながら颯爽と現れたのは、我らが頼れるくの一。段蔵姉さん!!

 

「きゃーー!!段蔵様ぁ!!」

 

ぶんぶんと興奮のあまり左右の腕を振り回す蔵人ちゃん。痛い痛い!当たってるよ!君!

 

「なんでここにいるんですか段蔵姉さん?」

 

「協力しに来たんだよ。どこぞの愛の武将に話を聞いてな」

 

 

兼続ちゃんの有能具合に感服してしまう。これは事が終わったら撫で撫でしてあげよう。と死亡フラグを建築する。

 

 

「ありがとうございます。早速ですが、雑兵の相手任せました」

 

段蔵姉さんの登場により兵は怯み止まったが、謙信ちゃんは緩めることなく単騎で俺に突っ込んでくる。段蔵姉さんが来たのは想定外だったけど、それはそれで助かった。

 

術の範囲に謙信ちゃんが入り、精神統一、心頭滅却!煩悩だけは残しとく。

 

「不知火忍法──炎禍」

 

 

周りを囲うようにして一陣の炎が奔る。いくら能力が優れても多勢に無勢である。なら、段蔵姉さんの時と同じように一対一に持ち込めば勝機は必ずやってくる。

 

 

「消えない炎。初めて見るわね」

 

兵たちと切り離されたこの状況でも余裕の表情を浮かべ、紅葉を見るかのように見渡す。

 

 

「でも、灯が死ぬと見れなくなるのが残念だわ。降伏すれば許すわ。どうかしら?」

 

「お断りするよ。降伏なんてしたら俺を信じてくれる人に示すがつかない。それに、やられたらやり返すのが流儀だからね」

 

「なら仕方が無い。あなたを滅する」

 

 

殺気はやはり感じない。だが、闘争心に駆られているその瞳と闘気を肌と目で受け止め、両手に小太刀を携える。

 

「いざ!」

 

「尋常に!」

 

「「勝負!!」」

 

 

 

語られなかったもう一つの川中島の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ見守ることしかできませんが灯先輩、どうか謙信様をお願いします。

 

 

 

 




ラストは無理矢理感があるのはしゅみましぇん!!!!
このくらいで切らなきゃ8000はこえると思うので、つい。


そしてお気に入り100突破しました。ありがとうございます。これからも読者さんの応援を胸に切磋琢磨していきますのでよろしくお願いいたします。

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